説明

ラジカル化合物及びその製造方法、電極活物質、並びに二次電池

【課題】本実施形態は、エネルギー密度、高温時における容量維持率及び出力特性に優れた電極活物質を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態は、所定式で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物を含む電極活物質である。本実施形態に係る電極活物質は、エネルギー密度、高温時のサイクル特性、及び出力特性に優れる。本実施形態によれば、電極活物質として重金属を含まない軽くて安全な元素から構成される電池を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル化合物に関する。また、該ラジカル化合物の製造方法に関する。また、該ラジカル化合物を含む電極活物質に関する。また、該電極活物質を有する二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコンや携帯電話などの携帯電子機器は、通信システムの発展に伴い急激に普及しており、またそれらの性能も年々向上している。特に、携帯機器は、性能の向上に伴い消費電力も大きくなる傾向にある。そこで、その電源である電池は高エネルギー密度及び高出力を有することが求められている。
【0003】
高エネルギー密度を有する電池としては、リチウムイオン電池が挙げられる。リチウムイオン電池は、1990年代に開発されて以来広く用いられるようになった。リチウムイオン電池は、電極活物質として、例えば、正極にマンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムといったリチウム含有遷移金属酸化物、負極に炭素を用いた構成が知られている。リチウムイオン電池は、これら電極活物質へのリチウムイオンの挿入及び脱離反応を利用して充放電を行っている。リチウムイオン電池はエネルギー密度が大きく、サイクル特性に優れており、携帯電話をはじめとした種々の電子機器に利用されている。しかしながら、電極反応の反応速度が小さいため、大きな電流を取り出すと電池性能は著しく低下する場合がある。そのため、リチウムイオン電池は、大きな出力を取りだすことが難しく、また充電のためにも長時間要するという問題があった。
【0004】
大きな出力をだすことができる蓄電デバイスとして、電気二重層キャパシタが知られている。大電流を一度に放出できるため大きな出力をだすことが可能であり、サイクル特性にも優れている。そのため、電気二重層キャパシタはバックアップ電源としても開発が進められている。しかしながら、エネルギー密度が小さく、小型化が困難であることから、携帯電子機器の電源には適していない場合がある。
【0005】
軽量でエネルギー密度の大きな電極材料を得る目的で、電極活物質に硫黄化合物や有機化合物を用いた電池も開発されてきた。例えば、特許文献1(米国特許第4,833,048号明細書)及び特許文献2(特許第2715778号公報)にはジスルフィド結合を有する有機化合物を正極に用いた電池が開示されている。これはジスルフィド結合の生成、解離を伴う電気化学的酸化還元反応を電池の原理として利用したものである。この電池は硫黄や炭素といった比重の小さな元素を主成分とする電極材料から構成されているため、高エネルギー密度の大容量電池という点において一定の効果を奏している。
【0006】
また、有機化合物を利用した電池として、導電性高分子を電極材料に用いた電池が提案されている。これは導電性高分子に対する電解質イオンのドープ、脱ドープ反応を原理とした電池である。ドープ反応とは、導電性高分子の酸化もしくは還元によって生ずる荷電ラジカルを、対イオンによって安定化させる反応のことである。特許文献3(米国特許第4,442,187号明細書)には、このような導電性高分子を正極もしくは負極の材料とする電池が開示されている。この電池は、炭素や窒素といった比重の小さな元素のみから構成されたものであり、高容量電池として期待された。
【0007】
有機化合物を電池の電極活物質と用いる電池として、ラジカル化合物の酸化還元反応を用いる電池が提案されている。たとえば、特許文献4(特開2002−151084公報)には、ニトロキシドラジカル化合物、アリールオキシラジカル化合物および特定のアミノトリアジン構造を有する高分子化合物などの有機ラジカル化合物が活物質として開示されている。また、特許文献4には、これらの有機ラジカル化合物を正極もしくは負極の材料として用いる電池が開示されている。さらに、特許文献5(特開2002−304996号公報)には、ニトロキシド化合物の中でも、特に環状ニトロキシド構造を有する化合物を電極活物質として用いる蓄電デバイスが開示されている。また、そこで電極活物質として用いられるラジカル化合物は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン メタクリレートを重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルと反応させて重合した後、m−クロロ過安息香酸を用いて酸化することで合成されている。
【0008】
さらに、有機ラジカル化合物として有機ケイ素化合物(シリコーン)を用いる電池も提案されている。たとえば、特許文献6(特開2009−298873号公報)には、ヒドロシリル化反応によってアルキル鎖を介してラジカルが置換した化合物が開示されており、特許文献7(特開2010−163551号公報)には、アルキル鎖を介さずにラジカル化合物が置換した化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,833,048号明細書
【特許文献2】特許第2715778号明細書
【特許文献3】米国特許第4,442,187号明細書
【特許文献4】特開2002−151084号公報
【特許文献5】特開2002−304996号公報
【特許文献6】特開2009−298873号公報
【特許文献7】特開2010−163551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1及び2で記載されるジスルフィド結合を有する有機化合物を用いた場合、解離した結合が再度結合する効率が小さいことや電極活物質の電解液への拡散のため、充放電サイクルを重ねると容量が低下しやすい場合がある。
【0011】
また、特許文献3に記載されるような導電性高分子は、酸化還元によって生じる荷電ラジカルがπ電子共役系の広い範囲に亘って非局在化し、それらが静電反発やラジカルの消失をもたらす相互作用を奏するという特性がある。この特性は発生する荷電ラジカルすなわちドープ濃度に限界をもたらすものであり、電池の容量を制限するものである。例えば、ポリアニリンを正極に用いた電池のドープ率は50%以下であり、またポリアセチレンの場合は7%であると報告されている。導電性高分子を電極材料とする電池では軽量化という点では一定の効果を奏しているものの、高いエネルギー密度をもつ電池は得られ難い。
【0012】
また、特許文献4乃至7に記載されるような有機ラジカル化合物の酸化還元反応を利用する電池では、出力特性には優れるものの、高温時に充放電サイクルさせることで容量が減少してしまうという場合がある。
【0013】
また、特許文献6及び7に記載されるような有機ケイ素化合物は、シリコーンの持つ高い安定性という点では一定の効果を奏している。しかし、シリコーン骨格の側鎖に高い効率でラジカル官能基を導入し難いため、高いエネルギー密度を有する電池が得られない場合がある。これは、シリコーンの末端に充放電に寄与しないトリメチルシリル基が数多く存在するためであると推測される。
【0014】
上記で述べたように、正極に遷移金属酸化物を用いたリチウムイオン電池では、高エネルギー密度化及び高出力化を図ることが困難であった。また、電気二重層キャパシタは大きな出力を有するものの、重量あたりのエネルギー密度が低く、高容量化が困難であった。硫黄化合物や導電性高分子を電極活物質に利用した電池は、エネルギー密度の点で課題があった。また、有機ラジカル化合物を用いる電池では高温時のサイクル劣化が課題であった。
【0015】
そこで、本実施形態は、エネルギー密度、高温時における容量維持率及び出力特性に優れた電極活物質を提供することを目的とする。また、本実施形態は、エネルギー密度が高く、かつ大きな出力を出すことができる電池を提供することを目的とする。また、電極活物質として用いるラジカル化合物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施形態の一は、下記式(1)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物を含む電極活物質である。
【0017】
【化1】

【0018】
(式(1)において、Zは下記式(2)で表される。R5は、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【0019】
【化2】

【0020】
(式(2)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。Xは、単結合、又は置換若しくは無置換のアルキレン基を示す。)
本実施形態の一は、下記式(7)で表されるラジカル化合物と下記式(8)で表される環状シロキサン化合物とを反応させることを特徴とする化合物の製造方法である。
【0021】
【化3】

【0022】
(式(7)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。Yは、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。)
【0023】
【化4】

【0024】
(式(8)において、R5は、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
本実施形態の一は、下記式(13)で表される環状シロキサン構造を有するラジカル化合物である。
【0025】
【化5】

【0026】
(式(13)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する置換基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R5は、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を示す。Xは、単結合、又は炭素数3〜12のアルキレン基を示す。nは、2〜6の整数を示す。)
【発明の効果】
【0027】
本実施形態に係る電極活物質は、エネルギー密度、高温時のサイクル特性、及び出力特性に優れている。本実施形態によれば、電極活物質として重金属を含まない軽くて安全な元素から構成される電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、鋭意検討した結果、今までに電極活物質として利用されなかった特定の有機化合物、すなわち分子内に下記式(1)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物(以下、環状シロキサンラジカル化合物とも称す。)を電極活物質として利用することにより、前記課題を解決できることを見出した。環状構造には末端構造が存在しないため、一般の重合体に存在する充放電に寄与しない置換基を省くことができる。すなわち、本実施形態の電極活物質を用いることにより、高エネルギー密度を有し、大きな電流を放電できる電池を提供することができる。
【0029】
(実施形態1)
本実施形態は、下記式(1)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物を含む電極活物質である。
【0030】
【化6】

【0031】
(式(1)において、Zは下記式(2)で表される。R5は、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【0032】
【化7】

【0033】
(式(2)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。Xは、単結合、又は置換若しくは無置換のアルキレン基を示す。)。
【0034】
また、環状シロキサンラジカル化合物は下記式(3)で表されることが好ましい。
【0035】
【化8】

【0036】
(式(3)において、Qは水素原子又は上記式(2)で表される基であり、Qの少なくとも1つは上記式(2)で表される基である。R5は、式(1)におけるR5と同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
【0037】
さらに、環状シロキサンラジカル化合物は下記式(4)又は式(5)で表されることがより好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
(式(4)において、A、R1〜R4、R5、及びXは、式(1)及び式(2)におけるA、R1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
【0040】
【化10】

【0041】
(式(5)において、R1〜R4、R5、及びXは、式(1)及び式(2)におけるR1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
【0042】
【化11】

【0043】
(式(6)において、R1〜R4、R5、及びXは、式(1)及び式(2)におけるR1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
【0044】
なお、本明細書において、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のものを含む。
【0045】
また、R1〜R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示すことが好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0046】
また、R5は、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示すことが好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0047】
また、Xは単結合又は炭素数1〜12のアルキレン基を示すことが好ましい。また、Xは炭素数3〜12のアルキレン基を示すことがより好ましく、炭素数3〜9のアルキレン基を示すことがさらに好ましく、炭素数3〜6のアルキレン基を示すことがとくに好ましい。アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基等が挙げられる。
【0048】
置換基としては、例えば、ハロゲン原子や炭素数1〜3のアルキル基等が挙げられる。
【0049】
環状シロキサンラジカル化合物は、充放電の過程で、例えば下記スキーム(I)もしくは(II)で表されるような酸化還元反応を行う。スキーム(I)の酸化還元反応では、環状シロキサンラジカル化合物を正極に用いた場合、充電により(A)から(B)の状態になり、電子が放出される。放電により(B)から(A)の状態になり電子を受け取る。また、スキーム(II)の酸化還元反応では、環状シロキサンラジカル化合物を正極に用いた場合、充電により(C)から(D)の状態になり、電子が放出される。放電により(D)から(C)の状態になり電子を受け取る。環状シロキサンラジカル化合物の酸化還元反応の安定性から、スキーム(I)の酸化還元による充放電を行うことが好ましい。
【0050】
【化12】

【0051】
電池において電極活物質は充放電により酸化もしくは還元されるため、電極活物質は出発状態と還元状態の二つの状態を取る。本実施形態において、前記電極活物質は充電または放電された状態の何れかの状態で、上記式のいずれかで表された構造をとる。
【0052】
本実施形態における環状シロキサンラジカル化合物は電極活物質として優れた性質を有する。本実施形態における環状シロキサンラジカル化合物は可逆的に安定して酸化還元反応を起こすことができる。したがって、本実施形態における環状シロキサンラジカル化合物を電極活物質として用いた電池は、充放電を安定して行うことができ、高温時でもサイクル特性に優れている。
【0053】
また、本実施形態におけるラジカル化合物を電極活物質として用いた電池は、従来のリチウムイオン電池などに比べて優れた高出力特性を有する。これは、本実施形態における環状シロキサンラジカル化合物のラジカル構造環が大きな電極反応速度をもつため、大きな電流を一度に放電することができるからである。また、ラジカル構造環は、炭素、窒素、水素、酸素という質量の小さい元素から構成することができるため、電極活物質の質量を小さくすることができる。したがって、本実施形態の環状シロキサンラジカル化合物を用いて製造した電極の単位質量あたりの容量密度は大きくなる。その結果、本実施形態の電極活物質を用いることにより、質量当たりのエネルギー密度が大きな電池を作製することができる。また、特にシロキサン構造を用いた場合、高温サイクル特性の優れた電池が得られる。これは、シロキサン構造の主鎖骨格であるSi-O結合の結合エネルギーが、C-C結合やC-O結合と比較しても大きく、化学的および熱的に安定であるためであると考えられる。さらに、シロキサン構造の中でも環状シロキサン構造を用いた場合、鎖状シロキサンを用いた場合と比較して、大きなエネルギー密度を得ることができると考えられる。これは、鎖状シロキサンには分子の両末端に充放電に寄与しないトリメチルシリル基が存在するのに対し、環状シロキサンには末端構造が存在しないためであると推測される。
【0054】
本実施形態では、正極もしくは負極での電極反応に、環状シロキサンラジカル化合物が寄与していればよく、電極活物質として正極活物質もしくは負極活物質のいずれかに用いられる場合に限定されるものではない。ただし、本実施形態における環状シロキサンラジカル化合物は、エネルギー密度の観点から、正極活物質として用いられることが好ましい。また、本実施形態の二次電池は、高い電圧、大きな容量が得られるという観点から、負極活物質として金属リチウムあるいはリチウムイオンが挿入・脱着可能な炭素を用いることが好ましい。
【0055】
なお、本実施形態における環状シロキサンラジカル化合物は、例えば、以下の方法により製造できる。すなわち、本実施形態は、下記式(7)で表されるラジカル化合物と下記式(8)で表される環状シロキサン化合物を反応させることを特徴とするラジカル化合物の製造方法である。
【0056】
【化13】

【0057】
(式(7)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。Yは、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。)。
【0058】
【化14】

【0059】
(式(8)において、R5は、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)。
【0060】
また、本実施形態の製造方法において、原料として用いるラジカル化合物が下記式(11)で表されることが好ましい。
【0061】
【化15】

【0062】
(式(11)において、Y、及びR1〜R4は、式(7)におけるとY、及びR1〜R4同じ意味を示す。)。
【0063】
また、本実施形態の製造方法において、原料として用いるラジカル化合物が下記式(12)で表されることが好ましい。
【0064】
【化16】

【0065】
(式(12)において、Y、及びR1〜R4は、式(7)と同様の基を示す。)。
【0066】
また、上述のように、R1〜R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示すことが好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。また、R5も、上述のように、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示すことが好ましい。
【0067】
また、Yは、水素原子又は炭素数2〜12のアルケニル基であることが好ましい。また、Yは炭素数3〜12のアルケニル基であることがより好ましく、炭素数3〜9のアルケニル基であることがさらに好ましく、炭素数3〜6のアルケニル基であることがとくに好ましくい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−デセニル基などが挙げられる。また、アルケニル基は、末端に二重結合を有するものが好ましく、炭素数3〜12の末端に二重結合を有するものがより好ましい。
【0068】
また、原料として用いるラジカル化合物の具体例として、例えば、下記式(34)や(35)で表されるラジカル化合物を挙げることができる。
【0069】
【化17】

【0070】
【化18】

【0071】
置換基としては、例えば、ハロゲン原子や炭素数1〜3のアルキル基等が挙げられる。
【0072】
(実施形態2)
図1に本実施形態の電池の構成例を示す。図1に示された電池は、正極5と負極3と電解質を含むセパレータ4を介して対向するように重ね合わせ、さらに正極5上に正極集電体6を重ね合わせた構成を有している。これらは負極側のステンレス外装1と正極側のステンレス外装1とで外装され、その間には、両者の電気的接触を防ぐ目的で、プラスチック樹脂等の絶縁性材料からなる絶縁パッキン2が配置される。なお、電解質として固体電解質やゲル電解質を用いる場合は、セパレータ4に代えてこれら電解質を電極間に介在させる形態にすることもできる。
【0073】
本発明では、このような構成において、負極3もしくは正極5または両電極に用いられる電極活物質が、環状シロキサンラジカル化合物を含有する電極活物質であることを特徴とする。
【0074】
本実施形態の電池は、電池容量の点から、正極活物質として上記の電極活物質を用いたリチウム電池、特にリチウム二次電池とすることが好ましい。
【0075】
[1]電極活物質
電極活物質とは、充電反応および放電反応等の電極反応に寄与する物質のことである。
【0076】
本実施形態の電極活物質は、本実施形態の環状シロキサンラジカル化合物を含有する。
【0077】
本実施形態の電池において、電極活物質は電極集電体に固定された状態が好ましい。
【0078】
式(1)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物において、式(1)で表される部分構造がラジカル化合物に対して、60モル%以上であることが好ましく、70以上モル%であることがより好ましく、80モル%であることがさらに好ましく、90モル%であることが特に好ましい。これは、ラジカル化合物中において式(1)で表される部分構造の割合が高いほど、電池容量が大きくなるためである。
【0079】
本実施形態の環状シロキサンラジカル化合物としては、例えば、下記式(16)〜(31)で表される化合物が挙げられる。
【0080】
【化19】

【0081】
【化20】

【0082】
【化21】

【0083】
【化22】

【0084】
【化23】

【0085】
【化24】

【0086】
【化25】

【0087】
【化26】

【0088】
【化27】

【0089】
【化28】

【0090】
【化29】

【0091】
【化30】

【0092】
【化31】

【0093】
【化32】

【0094】
【化33】

【0095】
【化34】

【0096】
上記式(16)で表される環状シロキサンラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(32)に示すルートで合成することができる。すなわち、遷移金属触媒存在下、環状シロキサンとラジカル化合物を反応させる方法で合成することが出来る。
【0097】
【化35】

【0098】
遷移金属触媒としては、例えば、イリジウム系化合物、ルテニウム系化合物、ロジウム系化合物、白金系化合物、パラジウム系化合物、ニッケル系化合物を用いることができる。ニッケル触媒としては、例えば、Ni(cod)2、NiCl2(PPh32、NiCl2、Ni(OAc)2、Ni(PPh34等が挙げられる。パラジウム触媒としては、例えば、Pd2(dba)3、Pd(PPh34、Pd(OAc)2、PdCl2、PdCl2(PPh32、PdCl2(dppf)、PdCl2(dppb)等が挙げられる。白金触媒としては、例えば、H2PtCl6、K2PtCl6、Na2PtCl6、(Bu4N)PtCl6、[Pt(CH2=CHSiMe22O](Karstedt’s catalyst)等が挙げられる。ロジウム触媒としては、例えば、RhCl3、Rh2(OAc)4、[RhCl(cod)]2、RhCl(PPh33、[RhCl(nbd)]2、[Rh(nbd)2]BF4、[Rh(cod)2]BF4等が挙げられる。ルテニウム触媒としては、例えば、RuCl2(PPh3)3等が挙げられる。
【0099】
環状シロキサンとしては、例えば、トリメチルシクロトリシロキサン(D3H)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(D4H)、ペンタメチルシクロペンタシロキサン(D5H)、ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(D6H)などの分子内にSi−H基を有する化合物を用いることができる。環状シロキサンにおけるSi−H基における水素原子は反応性が高いため、通常全て置換されるが、一部のみに置換反応が起こっていても良い。
【0100】
ラジカル化合物としては、水酸基、ビニル基などの官能基を有する化合物を用いることができる。
【0101】
また、上記式(20)で表される環状シロキサンラジカル化合物は、例えば、下記の合成スキーム(33)に示すルートで合成することができる。すなわち、例えば8〜10族の遷移金属触媒存在下、環状シロキサンとラジカル化合物を反応させる方法(ヒドロシリル化反応)で合成することが出来る。
【0102】
【化36】

【0103】
また、上記式(16)および(20)で表される化合物については、類似の方法で合成することが可能である。その場合、合成スキーム、使用する原料、反応条件等を適宜変更し、また公知の合成技術を組み合わせることで、目的とするラジカル化合物を合成することができる。この反応は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム等の一般的な有機溶媒を用いることができるが、さらに、ラジカル化合物、環状シロキサン、触媒の溶解性の観点から、テトラヒドロフラン溶媒中で行うことが好ましい。
【0104】
また、本実施形態の電極活物質は、本実施形態の環状シロキサンラジカル化合物を1種又は二種類以上を含んでも良い。
【0105】
また、本実施形態の電極活物質は、環状シロキサンラジカル化合物に加え、他の電極活物質を含んでも良い。
【0106】
本実施形態の電極活物質は、本実施形態の環状シロキサンラジカル化合物を10〜90質量%含むことが好ましく、20〜80質量%含むことがより好ましい。
【0107】
環状シロキサンラジカル化合物を正極活物質として用いる場合、他の電極活物質としては、例えば、金属酸化物、ジスルフィド化合物、他の安定ラジカル化合物、および導電性高分子等を挙げることができる。ここで、金属酸化物としては、例えば、LiMnO2、LixMn24(0<x<2)等のマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、MnO2、LiCoO2、LiNiO2、あるいはLiy25(0<y<2)、オリビン系材料LiFePO4、スピネル構造中のMnの一部を他の遷移金属で置換した材料LiNi0.5Mn1.54、LiCr0.5Mn1.54、LiCo0.5Mn1.54、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.33Mn0,33Co0.332、LiNi0.8Co0.22、LiN0.5Mn1.5-zTiz4(0<z<1.5)、等が挙げられる。ジスルフィド化合物としては、例えば、ジチオグリコール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、S−トリアジン−2,4,6−トリチオール等が挙げられる。他の安定ラジカル化合物としては、例えば、ポリ(4−メタクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−アクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−ビニロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)等が挙げられる。また、導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等が挙げられる。これらの中でも、マンガン酸リチウムまたはLiCoO2であることが好ましい。これらの他の電極活物質は、単独もしくは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0108】
環状シロキサンラジカル化合物を負極活物質として用いる場合、他の電極活物質としては、例えば、グラファイトや非晶質カーボン、金属リチウムやリチウム合金、リチウムイオン吸蔵炭素、金属ナトリウム、導電性高分子等を挙げることができる。また、他の安定ラジカル化合物を用いてもよい。他の安定ラジカル化合物としては、ポリ(4−メタクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−アクリロイロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)、ポリ(4−ビニロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)などが挙げられる。これらの形状としては特に限定されず、例えば金属リチウムでは薄膜状のものに限らず、バルク状のもの、粉末を固めたもの、繊維状のもの、フレーク状のもの等であっても良い。これらの中でも特に、金属リチウムまたはグラファイトと組み合わせることが好ましい。また、これらの他の電極活物質を単独、もしくは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0109】
本実施形態の電池は、正極もしくは負極の一方の電極反応、または両方の電極反応における電極活物質として、環状シロキサンラジカル化合物を用いることができる。環状シロキサンラジカル化合物を一方の電極活物質として用いる場合、他方の電極における電極活物質として、従来公知の電極活物質が利用できる。
【0110】
本実施形態の電極活物質は、正極活物質又は負極活物質のいずれかに限定されるものではないが、エネルギー密度の観点から、正極活物質であることが好ましい。
【0111】
また、さらに、本実施形態の電極活物質が正極活物質である場合、負極活物質としては、例えば、金属リチウム、シリコンや酸化シリコンなどのシリコン系化合物、スズや酸化スズなどのスズ系化合物、グラファイト等が挙げられる。
【0112】
[2]導電付与剤(補助導電材)およびイオン伝導補助材
電極活物質には、インピーダンスを低下させ、エネルギー密度、出力特性を向上させる目的で、導電付与剤(補助導電材)やイオン伝導補助材を混合させることもできる。補助導電材としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子等が挙げられる。イオン伝導補助材としては、例えば、高分子ゲル電解質、高分子固体電解質等が挙げられる。これらの中でも、電極活物質には炭素繊維を混合させることが好ましい。炭素繊維を混合させることで電極の引張り強度がより大きくなり、電極におけるひびや剥がれの発生が抑制される。また、電極活物質には気相成長炭素繊維を混合させることがより好ましい。これらの材料は、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。これらの材料の割合としては、例えば、1〜80質量%とすることができ、10〜50質量%が好ましい。
【0113】
[3]結着剤
電極活物質を電極集電体に固定するために、結着剤を用いることもできる。結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、各種ポリウレタン等の樹脂バインダが挙げられる。これらの樹脂バインダは、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。結着剤の含有量は、例えば、活物質100質量部に対して、1〜20質量部であり、2〜10質量部が好ましい。
【0114】
[5]集電体
負極集電体や正極集電体の材料としては、特に制限されるものではなく、例えば、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等を用いることができる。また、負極集電体や正極集電体の形状としては、箔、板状、メッシュ状などの形状を選択することができる。また、集電体に触媒効果を持たせたり、電極活物質と集電体とを化学結合させたりしてもよい。
【0115】
[6]セパレータ
セパレータとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質フィルムや不織布などを用いることができる。
【0116】
[7]電解質
電解質は、負極と正極の両極間の荷電担体輸送を行うものであり、一般には20℃で10-5〜10-1S/cmのイオン伝導性を有していることが好ましい。
【0117】
電解質としては、例えば、電解質塩を溶剤に溶解した電解液を利用することができる。
【0118】
電解質塩として、特に制限されるものではないが、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、Li(C25SO23C等の従来公知の材料を用いることができる。これらの電解質塩は、単独でまたは2種類以上混合して用いることもできる。
【0119】
溶剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;などの非プロトン性有機溶媒が挙げられる。溶剤は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の環状または鎖状カーボネート類が好ましい。また、その他にも、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、又はN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いることができる。これらの溶剤は、一種を単独でもしくは2種類以上混合して用いることもできる。
【0120】
さらに、電解質として固体電解質を用いることもできる。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、これらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体などが挙げられる。固体電解質として、これらの高分子化合物によって電解液をゲル状にしたものを用いてもよい。また、固体電解質として、電解質塩を含有させた高分子化合物をそのまま用いても良い。
【0121】
[8]電池形状
電池の形状は、特に制限されるものではなく、例えば従来公知のものを用いることができる。電池形状としては、電極積層体、あるいは巻回体を金属ケース、樹脂ケース、あるいはアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムからなるラミネートフィルム等によって封止したもの等が挙げられる。また、電池は、例えば、円筒型、角型、コイン型、およびシート型等で作製されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
[9]電池の製造方法
電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、材料に応じて適宜選択した方法を用いることができる。
【0123】
電池の製造方法としては、例えば、以下の工程が例示される。まず、電極活物質、導電付与剤などに溶剤を加えスラリー状にして電極集電体に塗布し、加熱もしくは常温で溶剤を揮発させることにより電極を作製する。次に、作製した正極、負極をセパレータを挟んで積層または巻回して外装体で包む。そして、外装体内に電解液を注入して封止することにより電池を作製する。
【0124】
スラリー化のための溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0125】
また、電極の作製法としては、電極活物質、導電付与剤などを乾式で混練した後、薄膜化し電極集電体上に積層する方法もある。電極の作製において、特に有機物の電極活物質、導電付与剤などに溶剤を加えスラリー状にして電極集電体に塗布し、加熱もしくは常温で溶剤を揮発させる方法の場合、電極の剥がれ、ひび割れ等が発生しやすい。環状シロキサンラジカル化合物を用いた場合、電極活物質の厚さは80〜500μmであることが好ましい。この範囲の厚さであれば、電極に剥がれ、ひび割れ等が発生しにくい傾向がある。
【0126】
電極からのリードの取り出し、外装等のその他の製造条件は従来公知の方法を用いることができる。
【0127】
(実施形態3)
また、本実施形態は、下記式(13)で表される環状シロキサン構造を有するラジカル化合物である。本実施形態の環状シロキサンラジカル化合物は、電極活物質として優れた特性を有する。

【0128】
【化37】

【0129】
(式(13)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R5は、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を示す。Xは、単結合、又は炭素数3〜12のアルキレン基を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
【0130】
また、式(13)で表されるラジカル化合物は、下記式(14)で表されることが好ましい。
【0131】
【化38】

【0132】
(式(14)において、R1〜R4、R5、及びXは、式(13)におけるR1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
【0133】
また、式(13)で表されるラジカル化合物は、下記式(15)で表されることが好ましい。
【0134】
【化39】

【0135】
(式(15)において、R1〜R4、R5、及びXは、式(13)におけるR1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
【実施例】
【0136】
以下、本発明の詳細について合成例、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0137】
(合成例1)
以下に示す合成スキーム(32)に従い、上記式(16)で表される環状シロキサンラジカル化合物(A)の合成を行った。
【0138】
【化40】

【0139】
まず、1Lの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下脱水テトラヒドロフラン300mLへ、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO−OH)31.5g(183mmol)を加えて溶解させる。次に、トリメチルシクロトリシロキサン(D3H)10g(55.4mmol)、触媒として[RhCl(cod)]226mg(0.25mol%)を加える。次に、室温で6時間攪拌した後、エバポレータにより溶媒を留去し、メタノール(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率70%で2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシ)シクロトリシロキサンを得た。
【0140】
(合成例2)
以下に示すスキーム(36)に従い、D3Hの代わりにD4Hを用いて環状シロキサンラジカル化合物(B)の合成を行った。
【0141】
【化41】

【0142】
まず、1Lの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下脱水テトラヒドロフラン300mLへ、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO−OH)31.5g(183mmol)を加えて溶解させる。次に、トリメチルシクロトリシロキサン(D4H)10g(41.6mmol)、触媒量の[RhCl(cod)]225mg(0.25mol%)を加える。次に、室温で6時間攪拌した後、エバポレータにより溶媒を留去し、ヘキサン(300mL×3)、ジエチルエーテル(300mL×3)を加えて室温で攪拌することで化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率70%で、2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシ)シクロテトラシロキサンを得た。
【0143】
(合成例3)
以下に示すスキーム(33)に従い、式(20)で示される環状シロキサンラジカル化合物(C)の合成を行った。
【0144】
【化42】

【0145】
まず、500mLの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下脱水テトラヒドロフラン100mLへ、4−アリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル38.8g(183mmol)を加えて溶解させる。次に、トリメチルシクロトリシロキサン(D3H)10g(55.4mmol)、触媒としてKarstedt’s catalystのキシレン溶液(0.2mol%)を加える。次に、100℃で3時間攪拌した後、エバポレータにより溶媒を留去し、ヘキサン(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで化合物ーを洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率70%で2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシ)プロピルシクロトリシロキサンを得た。
【0146】
(合成例4)
以下に示すスキーム(37)に従い、環状シロキサンラジカル化合物(D)の合成を行った。
【0147】
【化43】

【0148】
まず、500mLの3口フラスコに、アルゴン雰囲気下脱水テトラヒドロフラン100mLへ、4−アリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル38.8g(183mmol)を加えて溶解させる。次に、テトラメチルシクロテトラシロキサン(D4H)10g(41.6mmol)、触媒としてKarstedt’s catalystのキシレン溶液(0.2mol%)を加える。次に、100℃で3時間攪拌した後、エバポレータにより溶媒を留去し、ヘキサン(500mL×3)を加えて室温で攪拌することで化合物を洗浄した。洗浄後、真空乾燥(40℃、6時間)を行うことで、収率70%で2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシ)プロピルシクロテトラシロキサンを得た。
【0149】
(実施例1)
<正極の作製>
合成例1で合成した環状シロキサンラジカル化合物(A)200mg、グラファイト粉末700mg、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂バインダ100mgを測り採り、メノウ乳鉢を用い混練した。10分ほど乾式混合して得られた混合体を、圧力を掛けてローラー延伸することにより、厚さ約150μmの薄膜とした。これを、真空中80℃で一晩乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は15.0mgだった。
【0150】
<セル作製>
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極は、正極集電体上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるリチウム張り合わせ銅箔を積層し、周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのステンレス外装を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質として環状シロキサンラジカル化合物(A)、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型電池を作製した。
【0151】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、電圧は3.5V付近で約3時間10分ほぼ一定となり、その後急激に低下した。電極活物質あたりの放電容量は105mAh/gだった。同様の操作により、4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した。その結果、50回の充放電すべてにおいて、放電時に3.5V付近で電圧が一定になり、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は97%だった。
【0152】
次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。その結果、電圧は3.4V付近で一定となり、その後急激に低下した。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は92%だった。
【0153】
(実施例2)
<正極の作製>
小型ホモジナイザ容器にN−メチルピロリドン20gをはかりとり、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)300mgを加え、30分間撹拌し完全に溶解させた。そこへ、環状シロキサンラジカル化合物(A)を200mg加え、全体が均一なオレンジ色になるまで5分間撹拌した。ここへ気相成長炭素繊維(VGCF)500mgを加え、さらに15分間撹拌することによりスラリーを得た。得られたスラリーをアルミニウム箔上に塗布し、120℃で乾燥させて正極を作製した。正極活物質層の厚みは120μmだった。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は16.0mg(うち、アルミニウム箔は6.0mg)だった。
【0154】
<負極の作製>
グラファイト粉末(粒径6ミクロン)13.5gと、ポリフッ化ビニリデン1.35g、カーボンブラック0.15g、N−メチル−2−ピロリドン溶媒30gを良く混合し、負極スラリーを作製した。カーボン系導電塗料でコートされた厚さ32μmのエキスパンドメタル銅箔片面に負極のスラリーを塗布し、真空乾燥させることにより負極を作製した。集電体を含む負極全体の厚みは90μmであった。
【0155】
<セル作製>
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極は、正極集電体(アルミ箔)上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるグラファイト層を片面に付した銅箔を積層した。さらに、周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのステンレス外装を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質としてラジカル化合物(A)、負極活物質としてグラファイトを用いた密閉型のコイン型電池とした。
【0156】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン電池にコンディショニング充放電を行い、さらに0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近に電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は106mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した。その結果、50回の充放電すべてにおいて、放電時に3.5V付近で電圧が一定になり、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。
【0157】
次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。その結果、電圧は3.4V付近で一定となり、その後急激に低下した。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は91%だった。
【0158】
(実施例3)
<正極の作製>
ホモジナイザのカップに純水(42mL)、カルボキシメチルセルロース(CMC)400mg (4wt%)を加え、ホモジナイザで完全に溶解させた後、PTFEの水分散溶液100mg(1wt%)を加えて攪拌させた。さらに、VGCF2.5g(15wt%)を少しずつ加えて均一になるまで攪拌させる。得られた黒色のスラリーに、環状シロキサンラジカル化合物(A)、7g(70wt%)を加えて、さらに均一になるまで攪拌しスラリーを作製した。さらに、得られたスラリーをアルミ箔(20μm)上に塗布した後、50℃で乾燥させることで正極を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、コイン電池用電極を成型した。なお、この電極の質量は17.0mg(うち、アルミニウム箔は6.0mg)だった。
【0159】
<セル作製>
次に、得られた電極を電解液に浸して、電極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。電解液を含浸させた電極は、正極集電体上に置き、その上に同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムセパレータを積層した。さらに負極となるリチウムディスクを積層した。周囲に絶縁パッキンを配置した状態で正極側及び負極側からそれぞれのステンレス外装を重ね合わせた。これを、かしめ機によって圧力を加えることで、正極活物質として環状シロキサンラジカル化合物(A)、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型電池を作製した。
【0160】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン電池にコンディショニング充放電を行い、さらに0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近で電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は106mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した。その結果、50回の充放電すべてにおいて、放電時に3.5V付近で電圧が一定になり、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。
【0161】
次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0162】
(実施例4)
<セル作製>
環状シロキサンラジカル化合物(A)の代わりに、環状シロキサンラジカル化合物(B)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極の重さは16.6mgであった(うち、アルミニウム箔は6.0mg)。
【0163】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン電池にコンディショニング充放電を行い、さらに0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近で電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は104mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。
【0164】
次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0165】
(実施例5)
<セル作製>
環状シロキサンラジカル化合物(A)の代わりに、環状シロキサンラジカル化合物(C)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてコイン電池を作製した。作製した電極に、剥がれ、ひび割れ等は見られなく、表面は均一であった。このコイン電池の正極重さは17.1mg(うち、アルミニウム箔は6.0mg)であった。
【0166】
<充放電評価>
以上のように作製したコイン電池にコンディショニング充放電を行い、さらにこのコイン電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その結果、3.5V付近で電圧平坦部が観測され、電極活物質あたりの放電容量は90mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。
【0167】
次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は95%だった。
【0168】
(実施例6)
<セル作製>
実施例3で作製した環状シロキサンラジカル化合物(A)を含有する正極と実施例2で作製したグラファイト負極とをセパレータを介して順に重ねあわせ、電極積層体を作製した。積層体の最上部には、リチウム供給源となるリチウム金属張り合わせ銅箔を挿入した。正極集電体アルミ箔および正極リードを超音波溶接し、さらに同様に負極集電体銅箔、リチウム供給源集電体銅箔、および負極リードを溶接した。それらを厚み115ミクロンのアルミラミネートフィルムで覆い、リード部を含む3辺を先に熱融着した。次に、1mol/LのLiPF6を含む、EC/DEC=3/7の混合電解液をセル中に挿入し、電極中に良く含浸させた。最終的に減圧下にて最後の4辺目を熱融着し、蓄電デバイスを作製した。
【0169】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は105mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0170】
(実施例7)
<セル作製>
実施例3で作製した環状シロキサンラジカル化合物(A)を含有する正極の代わりに、実施例4で作製した環状シロキサンラジカル化合物(B)を含有する正極を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法でアルミラミネート電池を作製した。
【0171】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4.0Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は106mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は94%だった。
【0172】
(実施例8)
<セル作製>
実施例3で作製した環状シロキサンラジカル化合物(A)を含有する正極の代わりに、実施例5で作製した環状シロキサンラジカル化合物(C)を含有する正極を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法によりアルミラミネートセルを作製した。
【0173】
<充放電評価>
以上のように作製したアルミラミネートセルにコンディショニング充放電を行い、1mAの電流で4Vまで充電を行った。その後同じく1mAの電流で放電を行い3.0Vまでの容量を測定した。その結果、電圧平坦部が3.5V付近で観測され、電極活物質あたりの放電容量は91mAh/gだった。さらに、50℃の温度において電圧範囲4.0〜3.0Vで充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。次に、コイン電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は95%だった。
【0174】
(比較例1)
環状シロキサンラジカル化合物(A)を用いずに、グラファイト粉末の使用量を900mgに増やした以外は、実施例と同様の方法によりコイン電池を作製した。
【0175】
作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行った。その結果、放電時に電圧平坦部はみられず電圧は急速に低下し、電池として十分に動作しなかった。
【0176】
(比較例2)
環状シロキサンラジカル化合物(A)の代わりにLiCoO2を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。
【0177】
作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、123mAh/gであった。4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は96%だった。しかしながら、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は27%と、放電電流値を大きくすると大幅に容量が低下した。
【0178】
(比較例3)
環状シロキサンラジカル化合物(A)の代わりにポリ[ビニルオキシ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−N−オキシル)]を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。
【0179】
作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、初回の放電容量は123mAh/gであった。しかしながら、4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は50%に低下した。また、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は90%であった。
【0180】
(比較例4)
環状シロキサンラジカル化合物(A)の代わりにポリ[メタクリロイルオキシ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−N−オキシルを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。
【0181】
作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、初回の放電容量は101mAh/gであった。4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は60%だった。また、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は85%であった。
(比較例5)
環状シロキサンラジカル化合物(A)の代わりにポリ[メチル(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−N−オキシルオキシ)シロキサン]を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりコイン電池を作製した。
【0182】
作製した電池に対して、実施例1と同様にして充放電を行い、電極活物質あたりの放電容量を計算したところ、初回の放電容量は78mAh/gであった。4.0〜3.0Vの範囲で充放電を50回繰り返した結果、(50回目の放電容量)/(1回目の放電容量)は95%だった。また、(5.0mA放電における放電容量)/(0.1mA放電における放電容量)は70%であった。

以下の表に、実施例および比較例をまとめる。
【0183】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0184】
本実施形態における電池は、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの駆動用または補助用蓄電源、または各種携帯電子機器の電源、ソーラーエネルギーや風力発電などの各種エネルギーの蓄電装置、あるいは家庭用電気器具の蓄電源などとして用いることができる。
【0185】
(付記1)
下記式(1)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物を含む電極活物質;
【化44】

(式(1)において、Zは下記式(2)で表される。Rは、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【化45】

(式(2)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。Xは、単結合、又は置換若しくは無置換のアルキレン基を示す。)。
[付記2]
前記ラジカル化合物が下記式(3)で表される付記1に記載の電極活物質;
【化46】

(式(3)において、Qは水素原子又は上記式(2)で表される基であり、Qの少なくとも1つは上記式(2)で表される基である。Rは、式(1)におけるRと同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
[付記3]
前記ラジカル化合物が下記式(4)で表される付記1に記載の電極活物質;
【化47】

(式(4)において、A、R〜R、R、及びXは、式(1)及び式(2)におけるA、R〜R、R、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
[付記4]
前記ラジカル化合物が下記式(5)で表される付記3に記載の電極活物質;
【化48】

(式(5)において、R〜R、R、及びXは、式(1)及び式(2)におけるR〜R、R、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
[付記5]
前記ラジカル化合物が下記式(6)で表される付記3に記載の電極活物質;
【化49】

(式(6)において、R〜R、R、及びXは、式(1)及び式(2)におけるR〜R、R、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
[付記6]
前記R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示し、
前記Rは、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示し、
前記Xは、単結合又は炭素数3〜12のアルキレン基を示す付記1乃至5のいずれかに記載の電極活物質。
[付記7]
付記1乃至6のいずれかに記載の電極活物質を有する二次電池。
[付記8]
前記電極活物質が正極活物質である付記7に記載の二次電池。
[付記9]
リチウム電池である付記7又は8に記載の二次電池。
[付記10]
下記式(7)で表されるラジカル化合物と下記式(8)で表される環状シロキサン化合物とを反応させることを特徴とする化合物の製造方法;
【化50】

(式(7)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。Yは、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。)
【化51】

(式(8)において、Rは、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)。
[付記11]
前記ラジカル化合物と前記環状シロキサン化合物とを反応させて、下記式(9)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物を得る付記10に記載の化合物の製造方法;
【化52】

(式(9)において、Zは下記式(10)で表される。Rは、式(8)におけるRと同じ意味を示す。)。
【化53】

(式(10)において、A、及びR〜Rは、式(7)におけるA、及びR〜Rとそれぞれ同じ意味を示す。Xは、単結合、又は置換若しくは無置換のアルキレン基を示す。)。
[付記12]
前記ラジカル化合物が下記式(11)で表される付記10又は11に記載の化合物の製造方法。
【化54】

(式(11)において、Y、及びR〜Rは、式(7)におけるY、及びR〜Rとそれぞれ同じ意味を示す。)。
[付記13]
前記ラジカル化合物が下記式(12)で表される付記10又は11に記載の化合物の製造方法。
【化55】

(式(12)において、Y、及びR〜Rは、式(7)におけるY、及びR〜Rとそれぞれ同じ意味を示す。)。
[付記14]
前記R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示し、
前記Rは、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示し、
前記Yは、水素原子又は炭素数3〜12のアルケニル基を示す付記10乃至13のいずれかに記載の化合物の製造方法。
[付記15]
前記ラジカル化合物と前記環状シロキサン化合物とを遷移金属触媒下で反応させる付記10乃至14のいずれかに記載の化合物の製造方法。
[付記16]
前記遷移金属触媒がイリジウム系化合物、ルテニウム系化合物、ロジウム系化合物、白金系化合物、パラジウム系化合物、又はニッケル系化合物である付記15に記載のラジカル化合物の製造方法。
[付記17]
下記式(13)で表される環状シロキサン構造を有するラジカル化合物;
【化56】

(式(13)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。Rは、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を示す。Xは、単結合、又は炭素数3〜12のアルキレン基を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
[付記18]
下記式(14)で表される付記17に記載のラジカル化合物;
【化57】

(式(14)において、R〜R、R、及びXは、式(13)におけるR〜R、R、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
[付記19]
下記式(15)で表される付記17に記載のラジカル化合物;
【化58】

(式(15)において、R〜R、R、及びXは、式(13)におけるR〜R、R、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】コイン型電池の構成を示す概観図である。
【符号の説明】
【0187】
1 ステンレス外装
2 絶縁パッキン
3 負極
4 セパレータ
5 正極
6 正極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を有する環状シロキサン構造を含むラジカル化合物を含む電極活物質;
【化1】

(式(1)において、Zは下記式(2)で表される。R5は、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
【化2】

(式(2)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。Xは、単結合、又は置換若しくは無置換のアルキレン基を示す。)。
【請求項2】
前記ラジカル化合物が下記式(3)で表される請求項1に記載の電極活物質;
【化3】

(式(3)において、Qは水素原子又は上記式(2)で表される基であり、Qの少なくとも1つは上記式(2)で表される基である。R5は、式(1)におけるR5と同じ意味を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。
【請求項3】
前記ラジカル化合物が下記式(4)で表される請求項1に記載の電極活物質;
【化4】

(式(4)において、A、R1〜R4、R5、及びXは、式(1)及び式(2)におけるA、R1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
【請求項4】
前記ラジカル化合物が下記式(5)で表される請求項3に記載の電極活物質;
【化5】

(式(5)において、R1〜R4、R5、及びXは、式(1)及び式(2)におけるR1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
【請求項5】
前記ラジカル化合物が下記式(6)で表される請求項3に記載の電極活物質;
【化6】

(式(6)において、R1〜R4、R5、及びXは、式(1)及び式(2)におけるR1〜R4、R5、及びXとそれぞれ同じ意味を示す。nは2〜6の整数を示す。)。
【請求項6】
前記R1〜R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示し、
前記R5は、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示し、
前記Xは、単結合又は炭素数3〜12のアルキレン基を示す請求項1乃至5のいずれかに記載の電極活物質。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の電極活物質を有する二次電池。
【請求項8】
前記電極活物質が正極活物質である請求項7に記載の二次電池。
【請求項9】
下記式(7)で表されるラジカル化合物と下記式(8)で表される環状シロキサン化合物とを反応させることを特徴とする化合物の製造方法;
【化7】

(式(7)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。Yは、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。)
【化8】

(式(8)において、R5は、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)。
【請求項10】
下記式(13)で表される環状シロキサン構造を有するラジカル化合物;
【化13】

(式(13)において、Aは、窒素を含む複素環が5〜7員環を形成する連結基を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R5は、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を示す。Xは、単結合、又は炭素数3〜12のアルキレン基を示す。nは、2〜6の整数を示す。)。

【図1】
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【公開番号】特開2012−221574(P2012−221574A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82769(P2011−82769)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】