説明

ラジカル重合性樹脂組成物

【課題】 紫外線による硬化も熱による硬化も可能であり、その硬化物が高い耐熱性と高い靭性(曲げ伸度)を示し、いろいろな成形方法に対応でき高い生産性をもつ成形法に対応でき、紫外線照射後の反応熱ピークの発現が遅く、広いプロセスウインドウをもち紫外線照射しながらのAFP成形やFW成形に対応しうるラジカル重合性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 特定のトリ(メタ)アクリレート化合物(A)、式(2)でされるビニルエステル樹脂(B)、および、ウレタン構造を有するジ(メタ)アクリレート化合物(C)とからなるラジカル重合性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維で強化した繊維強化樹脂(以下、FRPという。)は、比強度、比剛性などにすぐれその軽量性を生かして、航空機用構造材料から、自動車用部品、ラケットやゴルフシャフトなどのスポーツ用途などに広く使用されている。
【0003】
FRPの成形方法としては、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる中間材料を用いて、オートクレーブ成形、真空バック成形、プレス成形により、硬化し、成形する方法が一般的である。
【0004】
プリプレグ用の樹脂としては、常温での安定性と加熱等による硬化性を兼ね備えた樹脂であることが必要で一般にはエポキシ樹脂組成物をはじめとする熱硬化性樹脂が多用されている。
【0005】
しかしながら、熱硬化性樹脂の硬化には一定時間の加熱が必要であり、所定温度までの昇温時間や成形体を取り出せる温度まで冷却するための時間を含めると、樹脂の硬化に必要な時間は長く、生産サイクルの向上によるコストの低減には限界がある。
【0006】
常温で硬化性良好な樹脂は、常温で硬化が進行してしまいプリプレグの保存安定性が低い欠点がある。
【0007】
一方、コーティング材料分野では、ラジカル系紫外線硬化樹脂がよく用いられている。ラジカル系紫外線硬化樹脂は、紫外線を照射し樹脂を硬化できるため、加熱硬化と比較して格段に短時間で成形することができ、生産性を著しく向上させることができる。
【0008】
FRPでもマトリックス樹脂として、ラジカル系紫外線硬化樹脂組成物を用い、成形時間の短縮が試みられている。しかし、強化繊維により紫外線が遮蔽されることによりマトリックス樹脂の硬化が不十分となり、表面は硬化しても内部が未硬化なFRPとなり、未硬化の樹脂がFRP表面に染み出してくるなどの問題が生じる。
【0009】
特許文献1には、紫外線硬化可能なガラス短繊維強化物が開示されている。また、特許文献2には、光ラジカル開始剤と熱ラジカル開始剤とを併用するアクリロイル化合物をマトリックス樹脂とし、ガラス繊維を強化繊維とした、紫外線照射によってマトリックス樹脂を増粘B−ステージ化したプリプレグを作製することが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開昭61−209214号公報
【特許文献2】特開平3−146528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の樹脂組成物では、耐熱性は十分に得られるものの機械物性は低調であった。
特許文献2の樹脂組成物では、比較的紫外線が透過しやすいガラス繊維と使っているにもかかわらず、紫外線照射によりマトリックス樹脂を増粘し、B−ステージ化することはできるが、紫外線照射のみでFRPを成形することは難しかった。
【0012】
さらにオートファイバープレイスメント(AFP)成形やフィラメントワインディング(FW)成形を用い、プレプレグや樹脂を含浸させたファイバートウを積層・巻きつけし、FRP層を形成し、そのFRP層を順次硬化していく成形方法が低コストな成形方法として提案されている。しかし、従来のラジカル重合性樹脂組成物を用いた場合、その重合反応があまりにも速いため、FRP層がそれぞれ別個に硬化してしまい、良好な層間組織を得ることができないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、上記の従来の問題点を克服し、FRPマトリックス樹脂として使用できるラジカル重合性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は、下式(1)で示されるトリ(メタ)アクリレート化合物(A)、下式(2)で示されるビニルエステル樹脂(B)、および、ウレタン構造を有するジ(メタ)アクリレート化合物(C)とからなるラジカル重合性樹脂組成物である。
【0015】
【化3】

【0016】
は、水素またはメチル基である。Rは−C2m−(mは1以上の整数)である。
【0017】
【化4】

【0018】
は水素またはメチル基であり、nは1以上の整数である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、紫外線による硬化も熱による硬化も可能であり、その硬化物は、高い耐熱性と高い靭性(曲げ伸度)を示すので、いろいろな成形方法に対応でき高い生産性をもつ成形法に対応できる。また、紫外線照射後の反応熱ピークの発現が遅いので、広いプロセスウインドウをもち紫外線照射しながらのAFP成形やFW成形に対応しうるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
『トリ(メタ)アクリレート化合物(A)』
本発明では、下式(1)で示されるトリ(メタ)アクリレート化合物(A)を含有することが必要である。ただし、Rは、水素またはメチル基である。Rは−C2m−(mは1以上の整数)である。好ましく用いられる(A)として、東亞合成株式会社製アロニックスM−315、日本化薬株式会社製カヤラッドR−790などが挙げられる。
【0021】
【化5】

【0022】
ラジカル重合性樹脂組成物中の(A)の含有量は、30〜60質量%であることが好ましい。30質量%以上とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の耐熱性が十分なものとなり、60質量%以下とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の靭性を十分なものとすることができる。ラジカル重合性樹脂組成物中のさらに好ましい含有量は、35〜55質量%である。
【0023】
『ビニルエステル樹脂(B)』
本発明では、下式(2)で示されるビニルエステル樹脂(B)を含有することが必要である。式(2)中のRは水素またはメチル基であり、nは1以上の正の数である。好ましく用いられる(B)として、共栄社化学株式会社製エポキシエステル3000A、エポキシエステル3000M、昭和高分子株式会社製リポキシSP1509、リポキシVR77、リポキシSP1507、リポキシVR−60、リポキシVR−90などが挙げられる。
【0024】
【化6】

【0025】
ラジカル重合性樹脂組成物中の(B)の含有量は、30〜60質量%であることが好ましい。30質量%以上とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の靭性を十分なものとすることができ、60質量%以下とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の耐熱性が十分なものとなる。ラジカル重合性樹脂組成物中のさらに好ましい含有量は、45〜55質量%である。
【0026】
本発明のラジカル重合性樹脂組成物では、(B)として、このラジカル重合性樹脂組成物を用いてプレプレグにしたときのハンドリング性や適正な紫外線による硬化速度を得るために、(B)の一部あるいは全部が常温で固形のものであることが好ましい。
【0027】
『ウレタン構造を有するジ(メタ)アクリレート化合物(C)』
本発明では、ウレタン構造を有するジ(メタ)アクリレート化合物(C)を含有することが必要である。好ましく用いられる(C)として、東亞合成株式会社製M1200、M1600、日本化薬株式会社製UX2201、UX2301、UX3301、UX4101、UX6101、UX7101、荒川化学工業株式会社製ビームセット550、ビームセット551、ビームセット505A−6、ビームセット504H、ビームセット502H、サンノプコ株式会社製フォートマー6008、フォートマー6210、日本合成化学株式会社製柴光UV−2250TL、根上工業株式会社製アートレジンUN−9000PEP、アートレジンUN−9200A、アートレジンUN−1255、アートレジンUN−5200、アートレジンUN−330、アートレジンUN−6060P、アートレジンUN−6060PTN、アートレジンSH−500、三菱レイヨン株式会社製ダイヤビームUK6053、ダイヤビームUK6039、ダイヤビームUK6513、ダイヤビームUK6507、ダイヤビームUK6506、ダイヤビームUK6097、ダイヤビームUK6091、ダイヤビームUK6081、ダイヤビームUK6063、ダイセルUBC株式会社製Ebeclryl210、Ebeclryl215、Ebeclryl4827、Ebeclryl4849、Ebeclryl4244、Ebeclryl230、Ebeclryl244、Ebeclryl245、Ebeclryl270、Ebeclryl284、Ebeclryl285、Ebeclryl2000、Ebeclryl4830、Ebeclryl4835、Ebeclryl4858、Ebeclryl4833、Ebeclryl8420、Ebeclryl8804、Ebeclryl880、Ebeclryl8807、Ebeclryl1267などが挙げられる。
【0028】
ラジカル重合性樹脂組成物中の(C)の含有量は、5〜20質量%であることが好ましい。5質量%以上とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の靭性を十分なものとすることができ、20質量%以下とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の耐熱性が十分なものとなる。ラジカル重合性樹脂組成物中のさらに好ましい含有量は、10〜15質量%である。
【0029】
『ラジカル重合開始剤』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物の硬化は、光照射によりラジカルを発生する光開始剤の添加、または、加熱によりラジカルを発生する熱開始剤との併用により行う。
光開始剤では、紫外線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。紫外線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤の中でもα−アミノアセトフェノン系重合光開始剤や、アシルフォスフィノキサイド型光重合開始剤、ο−アシルオキシム型光重合開始剤が比較的低い照射強度の紫外線によっても硬化しやすく、短時間の照射で硬化しやすいために好ましい。
【0030】
好ましく用いられる光重合開始剤としては、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製Irgacure369、Irgacure907、Irgacure1800、Irgacure1870、IrgacureTPO、Irgacure819、Irgacure1300、IrgacureOXE−01、DAROCURE4265、BASFジャパン株式会社LucirinTPO、LucirinTPO−L等が例示できる。また表面硬化性の改善、紫外線感度の改善等を目的としてこれらの光重合開始剤のほかに光重合開始剤や光増感剤を配合してもよい。
【0031】
熱開始剤は、加熱によりラジカルを発生する熱重合開始剤である。熱開始剤は、過酸化物が好ましい。10時間半減期温度が40℃以上130℃以下であることが好ましい。
40℃以上であれば、ラジカル重合開始剤を添加後のラジカル重合性樹脂組成物の常温での可使時間が十分なものとなるので好ましい。130℃以下であれば、光開始剤と併用した場合に光開始剤で硬化したFRPの耐熱性、靭性を向上するためのポストキュア温度を低くできるために好ましい。さらには10時間半減期温度が90℃以上120℃以下であることがより好ましい。
【0032】
熱開始剤としては、ケトンパーオキサイドやパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシカーボネートなどの化合物またはその誘導体が好ましく用いられる。
これらの市販品としては、日本油脂株式会社製パーロイルO、パーロイルL、パーロイルS、パーオクタO、パーロイルSA、パーヘキサ250、パーヘキシルO、ナイパーPMB、パーブチルO、ナイパーBMT、ナイパーBW、パーブチルIB、パーヘキサMC、パーヘキサTMH、パーヘキサHC、パーヘキサC、パーテトラA、パーヘキシルI、パーブチルMA、パーブチル355、パーブチルL、パーヘキサ25MT、パーブチルI、パーブチルE、パーヘキシルZ、パーヘキサV、パーブチルP、パークミルD、パーヘキシルD、パーヘキサ25B、パーブチルD、パーメンタH、パーヘキシン25Bなどが例示できる。
【0033】
ラジカル発生剤は、ラジカル重合性樹脂組成物100質量部に対して、0.05〜10質量部添加することが好ましい。添加量を0.05質量以上とすれば、硬化時間を十分に短くすることができ、10質量部以下とすれば、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物の耐熱性を十分なものとすることができ、また、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化物から残存するラジカル発生剤の溶出がなく好ましい。
【0034】
『ラジカル重合性樹脂組成物の粘度』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、30℃での粘度が5000〜500000ポイズであることが好ましい。30℃での粘度を5000ポイズ以上とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物を用いたプリプレグの形態を保持することができ、30℃での粘度が500000ポイズ以下とすることにより、ラジカル重合性樹脂組成物を用いたプリプレグのタック、ドレープ性が適正範囲にあり、ツールへの貼り付け、プリプレグ同士の貼り付けを容易に行うことができるため好ましい。30℃での粘度が9000〜20000ポイズであることがさらに好ましい。
【0035】
『ラジカル重合性樹脂組成物の硬化特性』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、反応熱ピークを示す時間が紫外線照射後の1秒以上経ってから現れることが好ましい。紫外線照射後の反応熱プロファイルは、紫外線照射可能なDSCで測定することができる。反応熱ピークを示す時間が紫外線照射後の1秒以上経ってから現れるラジカル重合性樹脂組成物では、FRP層がそれぞれ別個に硬化してしまうことがなく、良好な層間組織を得ることができる。
【0036】
『ラジカル重合性樹脂組成物の耐熱性』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、硬化後のG´−Tgが130℃以上あることが好ましい、G´−Tgが130℃以上あれば、航空機の2次構造材やゴルフシャフト、ラケットなどのスポーツ用途などへの使用が可能になる。硬化後のG´−Tgが150℃以上あれば、航空機の1次構造材としての使用も可能となるため、さらに好ましい。
【0037】
『ラジカル重合性樹脂組成物の靭性(曲げ伸度)』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、樹脂板として硬化した際の曲げ伸度が4%以上あることが好ましい。4%以上の曲げ伸度があれば、FRPとした際の機械物性に優れ、特に強い層間せん断強度を示すため好ましい。
【0038】
『その他』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物には、(A)、(B)、(C)以外に、ラジカル重合性樹脂を含んでいてもよく、好ましいものとして、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの各種ビニルモノマーやビニルオリゴマーが挙げられる。
【0039】
また、本発明のラジカル重合性樹脂組成物には、その硬化物の耐熱性、靭性、剛性、難燃性、表面平滑性、ひずみの低減、金型からの剥離性、色調などの諸物性や、未硬化状態での粘着性や粘度などの取り扱い性などの調整を目的として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー、無機フィラーなどのラジカル重合性樹脂以外の成分を含んでもよい。
【0040】
好ましく添加可能な熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、トリアジン樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂などの架橋性樹脂とその硬化剤が挙げられる。好ましく添加可能な熱可塑性樹脂としては、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリビニルフォルマール、ポリアミド、フェノキシ樹脂、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアクリレート、ポリシロキサンなどが挙げられる。エラストマー成分としては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、カボキシル末端変性ブタジエン−アクリロニトリルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムなどが挙げられる。好ましく添加可能な無機フィラーとしては、水酸化アルミ、水酸化マグネシウムなどの水酸化金属類や、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの酸化金属類や、炭酸カルシウム、炭酸アルミニウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸金属類のほか、ガラスバルーン、シリカなどの無機フィラーが挙げられる。
また、脱泡剤、湿潤剤、レベリング剤などの添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0041】
『ラジカル重合性樹脂組成物の調整方法』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、単に(A)〜(C)を軽量し、混合することにより可能である。
【0042】
『プリプレグ』
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、一般にFRPの強化繊維として用いられる強化繊維用いて、プリプレグとすることができる。好ましく用いられる強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、PBO繊維、ガラス繊維等などが挙げられ、これらを単独で、または2種以上を組合して用いてもかまわない。
【0043】
強化繊維は、そのままのトウの形態で、強化繊維トウを一方向に引き揃えた一方向材の形態で、製織した織物の形態で、短く裁断した強化繊維からなる不織布の形態などで使用される。織物の場合は、平織、綾織、朱子織、若しくはノン・クリンプト・ファブリックに代表される、繊維束を一方向に引き揃えたシートや角度を変えて積層したようなシートをほぐれないようにステッチしたステッチングシート、等が例示できる。得られる成形体の機械特性が優れるため一方向材が好ましい。取り扱い性からは織物が好ましい。
【0044】
ラジカル重合性樹脂組成物と強化繊維とからプリプレグを得る方法としては、一般にプリプレグの製造に用いられている方法がそのまま用いられる。例えば、強化繊維補強基材の片側面もしくは両側面から樹脂を供給し、加熱、加圧して樹脂を補強繊維織物に含侵させてプリプレグを製造する方法が好ましく用いられる。
【0045】
強化繊維の目付は、特に制限されるものではないが10〜650g/m2が好ましい。10g/m2以上とすれば、繊維幅のムラや目開きが目立ち、意匠性が不良になることが防げ、650g/m2以下としておけば、強化繊維へのラジカル重合性樹脂組成物の含浸が良好に保て、さらにプリプレグの紫外線硬化性も良好に保つことができ好ましい。強化繊維の目付は、50〜500g/m2がより好ましく300g/m2以下とすることがさらに好ましい。
強化繊維として炭素繊維を用いた場合、プリプレグ中のラジカル重合性樹脂組成物の含有量は、30〜70質量%であることが好ましい。30質量%以上であれば、プリプレグの硬化物表面の光沢を良好に保つことができ、70質量%以下とすれば、十分な機械的特性が発現できる。
(実施例)
【0046】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
(樹脂粘度の測定)
レオメトリクス社製レオメーターDSR200を用い、直径25mmのパラレルプレートを用い、パラレルプレート間のラジカル重合性樹脂組成物の厚みを0.5mmとし、角速度10ラジアン/秒の条件で30℃の粘度測定を行った。
【0047】
(紫外線照射DSC測定)
ラジカル重合性樹脂組成物の紫外線照射時の硬化速度(発熱ピークの発現時間)は、光DSC測定を用い、紫外線照射時の硬化発熱挙動を解析することにより観測した。
使用装置 TAインスツルメント製DSC Q1000
測定温度 25℃とした。
紫外線光源 高圧水銀ランプ
照度 紫外線照度50mW/cm
(ウシオ電機製UNI METER UIT−101使用)
0.6秒の紫外線照射(硬化発熱+輻射熱測定)

残存発熱がなくなるまで紫外線照射

0.6秒の紫外線照射(輻射熱測定)
【0048】
まず、DSC測定をしながら0.6秒間紫外線を照射し、紫外線照射開始から反応熱がなくなるまでの樹脂発熱の時間依存性を観測した。ついで残存発熱がなくなるまで十分な時間の紫外線を試料に照射し、紫外線照射による反応が起こらなくなるまで樹脂を反応させた。再びDSC測定をしながら0.6秒間紫外線を照射し、紫外線の輻射熱による発熱挙動の時間依存性を観測し、ベースラインとした。1度目の発熱挙動からベースラインを差し引いてで紫外線照射による硬化発熱の時間依存性を得た。この測定から得られた発熱ピークを示す時間を硬化速度の指標として用いた。
【0049】
(加熱硬化樹脂板の調製)
樹脂組成物を2mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間に注入、150℃、1時間の硬化条件で加熱硬化し、加熱硬化樹脂板を得た。
【0050】
(紫外線硬化樹脂板の調製)
樹脂組成物を2mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間に注入し、フュージョン株式会社製のベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6中で紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂板得た。このとき、ベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6の運転条件は以下の通りとした。
紫外線光源 Dバルブ、出力100%
光源とベルトの距離 53mm
紫外線照射回数 ベルトスピード7m/分×4回+同1m/分×23回
+同2.3m/分×1回、表裏面に交互に照射
照度 2780mW/cm、光量113J/cm
(ウシオ電機製UNI METER UIT−101使用)
【0051】
(紫外線+加熱硬化樹脂板の特性)
樹脂組成物を2mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間に注入し、フュージョン株式会社製のベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6中で紫外線を照射し、その後、250℃、1時間の条件で硬化し、紫外線+加熱硬化樹脂板得た。このとき、ベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6の運転条件は以下の通りとした。
紫外線光源 Dバルブ、出力52%
光源とベルトの距離 104mm
紫外線照射回数 ベルトスピード2m/分×2回(表裏面に交互に1回照射)
照度 376mW/cm、光量1.8J/cm
(ウシオ電機製UNI METER UIT−101使用)
【0052】
(すだれ織物を用いた加熱硬化FRP板の調製)
三菱レイヨン株式会社製炭素繊維すだれ織物(経糸に用いる炭素繊維として三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR50S−12Lを使用、目付200g/m)を用意した。
このすだれ織物上に樹脂組成物を樹脂含有率が50質量%となるように供給し、薬さじで含浸し、プリプレグを得た。
このプリプレグを、繊維方向を揃えて2枚積層し、0.5mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間に挟み、150℃、1時間の硬化条件で加熱硬化し、すだれ織物を用いた加熱硬化FRP板を得た。
【0053】
(すだれ織物を用いた紫外線硬化FRP板の調製)
上記プリプレグを、繊維方向を揃えて2枚積層し、0.5mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間に挟み、フュージョン株式会社製のベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6中で紫外線を照射し、すだれ織物を用いた紫外線硬化FRP板を得た。このとき、ベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6の運転条件は、紫外線硬化樹脂板の調製の通りとした。
【0054】
(一方向プリプレグの調整)
樹脂組成物をフィルムコーターを用いて離型紙の上に塗布し、樹脂目付けが61g/mの樹脂フィルムを得た。一部の樹脂組成物では樹脂粘度が低いために離型上で樹脂がはじかれて、フィルム形状に加工できなかったため、このような樹脂組成物は樹脂フィルムの作成ができないものと判断した。
【0055】
ドラムワインダー上に得られた樹脂フィルムを巻きまわし、その上に三菱レイヨン株式会社製炭素繊維MR50K−12M一定のピッチで巻き回した。さらにその上に得られた樹脂フィルムを巻きまわした。これをドラムワインダーから取り外し、アサヒ繊維機械製フュージングプレスJR600S(温度55℃、プレス圧0.2MPa、ライン速度1m/分)に5回繰り返し通し、樹脂組成物を炭素繊維に含侵させ一方向プリプレグを得た。得られた一方向プリプレグの繊維目付けは183g/m、樹脂含有率は40質量%であった。
【0056】
(一方向プリプレグを用いた加熱硬化FRP板の調製)
上記一方向プリプレグをその繊維方向を揃えて8枚積層し、オートクレーブにて6気圧、150℃、1時間の硬化条件にて加熱硬化し加熱硬化FRP板を得、ガラス転移点温度測定と層間せん断強度測定用の試験片を得た。
【0057】
上記一方向プリプレグの繊維方向を揃えて4枚積層し、オートクレーブにて6気圧、150℃、1時間の硬化条件にて加熱硬化し、加熱硬化FRP板を得、また、0°引張り試験用の試験片を得た。
【0058】
(一方向プリプレグを用いた紫外線硬化FRP板の調製)
上記一方向プリプレグをその繊維方向を揃えて8枚積層し、2枚のガラス(2mm厚)の間に挟み、フュージョン株式会社製のベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6中で紫外線を照射し、紫外線硬化FRP板を得た。このとき、ベルトコンベア式紫外線照射装置Light Hammer 6の運転条件は、紫外線硬化樹脂板の調製の通りとした。
【0059】
(樹脂板の曲げ物性の測定)
樹脂板を試験片(長さ60mm×幅8mm×厚み2mm)に加工し、3点曲げ冶具(圧子、サポートとも3.2mmR、サポート間距離36mm)を設置したインストロン社製万能試験機を用い、曲げ特性を測定した。試験片の破断時点での伸度を破断伸度として記録した。
【0060】
(ガラス転移温度Tgの測定)
樹脂板を試験片(長さ50mm×幅12mm×厚み2mm)に加工し、レオメトリクス社製レオメーターRDA700を用い、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で、損失弾性率G´´と貯蔵弾性率G´の比であるtanδの温度依存性を測定したtanδを温度に対してプロットとし、tanδの極大を示す温度をtannδ−Tgとして記録した。
また、logG´を温度に対してプロットし、logG´の平坦領域の近似直線と、G´が転移する領域の近似直線との交点から求まる温度をG´−Tgとして記録した。
【0061】
(原料樹脂)
実施例で使用する樹脂原料は、表1の通りである。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例1〜6、比較例1、2)
表2、3に示した成分(R−2,R−3およびR−4を除く)をそれぞれ計量し、株式会社キーエンス製ハイブリッドミキサーHM−500を使用して均一溶解した。
室温まで冷えるのをまって、HM−500で攪拌を再開し、温度上昇に注意しながらR−2,R−3またはR−4を添加し、ラジカル重合性樹脂組成物を得た。評価結果を表2、3に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のラジカル重合性樹脂組成物は、紫外線による硬化も熱による硬化も可能であり、その硬化物は、高い耐熱性と高い靭性(曲げ伸度)を示すので、いろいろな成形方法に対応でき高い生産性をもつ成形法に対応できる。また、紫外線照射後の反応熱ピークの発現が遅いので、広いプロセスウインドウをもち紫外線照射しながらのAFP成形やFW成形に対応しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で示されるトリ(メタ)アクリレート化合物(A)、下式(2)で示されるビニルエステル樹脂(B)、および、ウレタン構造を有するジ(メタ)アクリレート化合物(C)とからなるラジカル重合性樹脂組成物。
【化1】

は、水素またはメチル基である。Rは−C2m−(mは1以上の整数)である。
【化2】

は水素またはメチル基であり、nは1以上の整数である。
【請求項2】
請求項1記載のラジカル重合性樹脂組成物とラジカル発生剤とからなるラジカル重合性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−126639(P2007−126639A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262068(P2006−262068)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は経済産業省「民間航空機基盤技術プログラム」のうち、「次世代構造部材創製・加工技術開発」プログラムの1テーマである「非加熱成形技術開発」の一環として行った発明である。
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】