説明

ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット

【課題】押圧ブロック21aの軸方向寸法を短くし、しかもこの押圧ブロック21aの外周面とシリンダ部20aの内周面とが、高い面圧で勢い良く衝突する事を防止できて、小型・軽量化を進め易く、車両への搭載性及び耐久性を良好にできる構造を実現する。
【解決手段】弾性リング26aを、前記シリンダ部20aの内周面に設けた係止凹溝25aに係止して、この弾性リング26aの内周縁部を、前記押圧ブロック21aの外周面に当接させる。又、これら弾性リング26aの内周縁と押圧ブロック21aの外周面との当接部を、この押圧ブロック21aの外端部に位置させる。そして、この押圧ブロック21aの揺動変位に拘らず、この押圧ブロック21aの外周面の外端部を前記シリンダ部20aの内周面に衝突しにくくする。更に、この押圧ブロック21a側に係止凹溝を設けない分、この押圧ブロック21aの軸方向寸法を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の操舵輪に舵角を付与する為のステアリング装置を構成するラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの改良に関する。具体的には、ピニオン軸装着部のシール性確保を図りつつ、製造コストの低減を図れる構造の実現を意図したものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールから入力された回転運動を舵角付与の為の直線運動に変換する為の機構としてラックアンドピニオンを使用する、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置が、例えば特許文献1〜5に記載される等により、従来から広く知られている。又、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットは、小型且つ軽量に構成でき、しかも剛性が高く良好な操舵感を得られる為、実際に広く使用されている。図4〜6は、この様なラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを組み込んだステアリング装置の1例として、特許文献4に記載された構造を示している。このステアリング装置では、ステアリングホイール1の操作に伴って回転するステアリングシャフト2の動きを、自在継手3、3及び中間シャフト4を介して、ステアリングギヤユニット5の入力軸である、ピニオン軸6に伝達する。尚、前記図5〜6の上下方向は、必ずしも使用状態での上下方向とは一致しない。上下方向は、車両への組み付け状態で適宜選択し、一般的には、前記ピニオン軸6を、傾斜した状態で設置する。
【0003】
何れにしても、前記ステアリングギヤユニット5は、前記ピニオン軸6の軸方向の一部に設けたピニオン歯7と、ラック軸8の前面に設けたラック歯9とを噛合させて成る。尚、このうちのラック歯9は、図7に略示する様な、捩れ角θを有するものを使用し、これに合わせて前記ピニオン歯7に関しても、同様の捩れ角を有するヘリカルギヤを使用している。前記ピニオン軸6及びラック軸8は、それぞれの一部を、ケーシング10内に収納している。このケーシング10は、それぞれが筒状である、主収納部11及び副収納部12を備える。このうちの主収納部11は、両端が開口している。又、この副収納部12は、この主収納部11の一部側方に設けられていて、一端が開口している。これら主収納部11の中心軸と副収納部12の中心軸とは、互いに捩れの位置関係にある。前記ラック軸8は、このうちの主収納部11に軸方向の変位を可能に挿通しており、両端部をこの主収納部11から突出させている。又、前記主収納部11の内周面の両端寄り部分に支持した1対のラックガイド(滑り軸受)13、13を、前記ラック軸8の外周面に摺接させて、前記ラック軸8が前記主収納部11に対し、がたつきなく、軸方向に変位できる様にしている。そして、このラック軸8の両端部に、それぞれ球面継手14、14を介して、タイロッド15、15の基端部を結合している。これら両タイロッド15、15の先端部は、それぞれ図示しないナックルアームの先端部に、枢軸により結合している。尚、前記ラック軸8は、前記ピニオン歯7と前記ラック歯9との噛合により、自身の中心軸回りで回転する事はない。
【0004】
又、前記ピニオン軸6は、前記ピニオン歯7を形成した先半部を前記副収納部12内に、回転のみ可能に支持している。この為に、前記ピニオン軸6の先端部をこの副収納部12の奥端部に、ラジアルニードル軸受16により支持している。又、前記ピニオン軸6の中間部を前記副収納部12の開口寄り部分に、深溝型、3点接触型若しくは4点接触型等の単列の玉軸受17により、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承可能に(軸方向の変位を阻止して回転可能に)支持している。前記玉軸受17を前記ケーシング10の所定位置に支持する為、このケーシング10に抑えねじ筒18を螺着しており、この抑えねじ筒18の内周面と前記ピニオン軸6の外周面との間の隙間を、シールリング19により塞いでいる。
【0005】
又、前記主収納部11の直径方向に関して、前記副収納部12と反対側部分にシリンダ部20を設け、このシリンダ部20内に、押圧ブロック21を嵌装している。そして、このシリンダ部20の開口部に螺着した蓋体22とこの押圧ブロック21との間にばね23等の弾性部材を設けて、この押圧ブロック21を前記ラック軸8に向け押圧している。これにより、このラック軸8を前記ピニオン軸6に向け弾性的に押圧して、前記ピニオン歯7と前記ラック歯9との噛合部のバックラッシを解消している。更には、これら両歯7、9同士の噛合部での動力伝達に伴って前記ラック軸8に加わる、前記ピニオン軸6から離れる方向の力に拘らず、前記噛合部の噛合状態を適正に維持できる様にしている。尚、前記押圧ブロック21の軸方向両端面のうち、前記ラック軸8を押圧する側の内端面は、このラック軸8の背面の形状に合わせて部分円筒状凹面としている。これに対して、前記押圧ブロック21の外端面は、中央部に凹部24を形成して、前記ばね23の一端部を当接させる為のばね座とすると共に、前記押圧ブロック21の軽量化を図っている。
【0006】
更に、前記押圧ブロック21の外周面の外端寄り部分(前記ラック軸8と反対寄り部分)に係止凹溝25を、全周に亙って形成し、この係止凹溝25に弾性リング26を係止している。この弾性リング26は、Oリングの如く、断面形状が円形のもので、断面形状に関する外径は、自由状態で、前記係止凹溝25の深さよりも大きい。この様な弾性リング26は、この係止凹溝25の底面と前記シリンダ部20の内周面との間で弾性的に圧縮される。そして、このシリンダ部20内で前記押圧ブロック21ががたつくのを防止すると共に、これらシリンダ部20の内周面と押圧ブロック21の外周面との間の隙間を通じて、前記ケーシング10内に、泥水等の異物が入り込む事を防止する。尚、前記押圧ブロック21の外周面と前記シリンダ部20の内周面との間には微小隙間を介在させて、この押圧ブロック21の、軸方向の変位を可能にしている。
【0007】
上述の様なステアリングギヤユニット5を組み込んだステアリング装置により、左右の前輪に舵角を付与する際には、前記ステアリングホイール1の操作により前記ピニオン軸6を回転させる。すると、前記ピニオン歯7と前記ラック歯9との噛合に基づいて、前記ラック軸8が軸方向に変位する。そして、このラック軸8の両端部に結合した、前記両タイロッド14、14を押し引きして、前記両前輪に所望の舵角を付与する。
【0008】
上述の様な従前のステアリングギヤユニット5の場合には、前記ピニオン歯7及び前記ラック歯9にねじり角θを設けた事と、前記押圧ブロック21のがたつき防止の為の弾性リング26をこの押圧ブロック21の側に係止した事とで、次の(A)〜(C)の様な問題を生じる。
(A) 前記押圧ブロック21の軸方向寸法の短縮化が難しく、前記ステアリングギヤユニット5の小型・軽量化の妨げとなり、このステアリングギヤユニット5の車両への搭載性を向上させる面からも不利になる。
(B) 前記弾性リング26の設置位置が限られて、前記ステアリングギヤユニット5の設計の自由度が限られる。
(C) 前記ピニオン軸6の回転方向が逆転する際に、前記押圧ブロック21の外周面の外端部と前記シリンダ部20の内周面とが勢い良く衝突し、不快な振動や騒音が発生したり、これら両周面の摩耗が著しくなる可能性がある。
これら(A)〜(C)の様な問題を生じる理由に就いて、図6〜7に図8〜9を加えて説明する。
【0009】
前記ピニオン歯7及び前記ラック歯9にねじり角θを設けた事に伴って、前記ピニオン軸6の回転時に前記ラック軸8に、図6に矢印αで示す様に、このピニオン軸6の軸方向の力が加わる。この力の作用方向は、このピニオン軸6の回転方向が逆転すると逆転する。前記ラック軸8は、全長が400〜800mm程度と長く、両端部近傍のみを前記ラックガイド13、13により支えられている為、前記ピニオン軸7の軸方向の力により、多少なりとも弾性的に撓み、場合によっては、僅かとは言え、捻れる事もある。この様な、前記ラック軸8の弾性変形は、前記ラック歯9のうちで前記ピニオン歯7と噛合している部分の変位に結び付き、更にこの変位は、前記ラック軸8を押圧している、前記押圧ブロック21の変位に結び付く。即ち、この変位に伴ってこの押圧ブロック21が、図8に誇張して示す様に、このラック軸8の変位方向に対応して揺動変位する。又、この揺動変位の支点は、前記弾性リング26の外周面と前記シリンダ部20の内周面との当接部となる。
【0010】
従って、前記揺動変位に伴って、前記押圧ブロック21の外周面の外端部と前記シリンダ部20の内周面とが勢い良く衝突し、前記不快な振動や騒音、摩耗の原因となる。この様にして発生する振動や騒音、摩耗を抑えるべく、前記ラック軸8の変位に基づく力が、増幅された状態で、前記両周面同士の衝突部に加わらない様にする為には、前記弾性リング26の設置位置を、できるだけ前記ラック軸8から離れた部分に設ける事が好ましい。即ち、前記弾性リング26の設置位置が、前記押圧ブロック21の外周面のうち、中間部外端寄り部分であると、前記両周面同士の衝突を防止できず、しかも、前記変位に基づく力が、梃子の原理により増幅された状態で、前記両周面同士の衝突部に加わる。これに対して、前記弾性リング26を、前記押圧ブロック21の外周面のうちの極く外端縁に近い部分に設ければ、前記揺動変位に拘らず、この押圧ブロック21の外周面の外端部と、前記シリンダ部20の内周面とが衝突する事を防止できて、前記不快な振動や騒音、摩耗の発生を防止できる。
【0011】
但し、前記弾性リング26を係止する為の係止凹溝25と前記押圧ブロック21の外端面との間には、この係止凹溝25の片側部分を仕切る為の駄肉部27が必要になる。そして、前記押圧ブロック21の軸方向に関する、この駄肉部27の幅寸法は、耐久性確保に結び付く強度を考慮すれば、余り小さくできない。又、前記押圧ブロック21の外端面には、前記凹部24が存在する為、前記係止凹溝25の底面とこの凹部24との間部分の強度確保を考慮する必要もある。これらの事を考慮すると、前記駄肉部27の幅寸法を或る程度確保する必要がある。この駄肉部27の幅寸法が或る程度大きくなると、前記押圧ブロック21の外周面の外端部と、前記シリンダ部20の内周面とが衝突し易く、衝突した場合には、上述した様な理由で、当接部の面圧が高くなる為、前記不快な振動や騒音、摩耗が発生し易くなる。又、前記駄肉部27の存在に基づいて、前記押圧ブロック21の軸方向寸法の短縮化が難しくなり、前述した様に、前記ステアリングギヤユニット5の小型・軽量化を進めにくくなり、このステアリングギヤユニット5の車両への搭載性が悪化する可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭55−68472号公報
【特許文献2】特開平10−217985号公報
【特許文献3】特開2007−186185号公報
【特許文献4】特開2009−184591号公報
【特許文献5】特開2009−190426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、押圧ブロックの軸方向寸法を短くし、しかもこの押圧ブロックの外周面の外端部とシリンダ部の内周面とが、高い面圧で勢い良く衝突する事を防止できて、小型・軽量化を進め易く、車両への搭載性及び耐久性を良好にできるステアリングギヤユニットの構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットは、前述した従来から知られているラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットと同様に、ケーシングと、ラック軸と、ピニオン軸と、押圧ブロックと、弾性部材と、弾性リングとを備える。
このうちのケーシングは、両端が開口した筒状の主収納部、及び、この主収納部に対し捩れの位置で設けられて一端が開口した筒状の副収納部、及び、この主収納部の内外を連通させる状態でこの主収納部に対し直交する方向に設けられたシリンダ部を有する。
又、前記ラック軸は、前面にラック歯を設けており、前記ケーシングの主収納部内に、軸方向の変位を可能に設置されている。
又、前記ピニオン軸は、軸方向の先半部に形成したピニオン歯を前記ラック歯と噛合させると共に、軸方向の基半部を前記ケーシングの副収納部の開口部から外に突出させた状態でこの副収納部内に、回転可能に配置されている。
又、前記押圧ブロックは、前記シリンダ部内に、前記ラック軸に対する遠近動を可能に嵌装されている。
又、前記弾性部材は、例えば圧縮コイルばねであり、前記押圧ブロックと、前記シリンダ部の外端開口部に固設された蓋体との間に設けられている。そして、この押圧ブロックを前記ラック軸の背面に向けて押圧する。
更に、前記弾性リングは、前記押圧ブロックの外周面と前記シリンダ部の内周面との間に、全周に亙って設けられている。
【0015】
特に、本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットに於いては、前記弾性リングを、前記シリンダ部の内周面に設けられた係止凹溝に係止している。そして、この弾性リングのうちで、この内周面から径方向内方に突出した内周縁部を、前記押圧ブロックの外周面に当接させている。
【0016】
この様な本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記弾性リングの断面形状を円形とする。この為に、この弾性リングとしてOリングを使用する。又、前記押圧ブロックの軸方向に関して、この押圧ブロックの両端面のうちの前記ラック軸と反対側の端面である外端面を、前記係止凹溝の両側縁のうちのこのラック軸と反対側の側縁と、前記弾性リングの最小内径部との間に存在させる。
【0017】
又、上述の様な本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記シリンダ部の内周面に、前記係止凹溝に加えて第二の係止凹溝を、このシリンダ部の軸方向に離隔した部分に形成する。そして、この第二の係止凹溝に係止した第二の弾性リングを、この第二の係止凹溝の底面と前記押圧ブロックの外周面との間で弾性的に圧縮する。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットによれば、押圧ブロックの軸方向寸法を短くし、しかもこの押圧ブロックの外周面とシリンダ部の内周面とが、高い面圧で勢い良く衝突する事を防止できて、小型・軽量化を進め易く、車両への搭載性及び耐久性を良好にできる。
【0019】
即ち、Oリングの如き弾性リングを係止する為の係止凹溝をシリンダ部の内周面に設けている為、この係止凹溝の設置部分の強度を考慮しても、この係止凹溝を、前記押圧ブロックの外周面のうちで、ラック軸から遠い側部分である外端部に対向させる事ができる。この為、前記係止凹溝に係止した前記弾性リングの内周縁を、前記押圧ブロックの外周面のうちの外端部に当接させる事ができる。この結果、この押圧ブロックの外端部で、前記弾性リングにより抑えられた部分よりも、前記ラック軸と反対側に突出した部分の軸方向長さを僅少にできる。この結果、前記押圧ブロックが前記弾性リングの内周縁により抑え付けられた部分を中心として揺動変位しても、この押圧ブロックの外周面の外端部と前記シリンダ部の内周面とが衝突する事はなくなる。この為、これら両周面の摩耗を抑えられて、耐久性の向上を図れる。
【0020】
又、前記押圧ブロックに係止凹溝を形成する必要がない為、前述した従来構造の場合に必要であった駄肉部が不要になり、その分、前記押圧ブロック、及び、この押圧ブロックを収納する、前記シリンダ部の軸方向寸法を短縮できる。この結果、このシリンダ部を含むケーシングの外形寸法を小さくできて、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの小型・軽量化、並びに車両への搭載性向上を図り易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図6の左部に相当する部分断面図。
【図2】同第2例を、押圧ブロックの中立状態(A)と揺動変位した状態(B)とで示す、図1のa部に相当する略断面図。
【図3】本発明の実施の形態の第3例を示す、図1と同様の図。
【図4】ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを組み込んだ自動車用操舵装置の1例を示す部分切断側面図。
【図5】図4のb−b断面図。
【図6】図5の拡大c−c断面図。
【図7】ラック軸を取り出して図5の上方から見た状態で示す略図。
【図8】ラック歯とピニオン歯との間での動力伝達に伴って押圧ブロックが揺動変位する状態を示す模式図。
【図9】押圧ブロックを取り出して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1にのみ対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、シリンダ部20aの内周面と押圧ブロック21aの外周面との間に弾性リング26aを装着する部分の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図6に示した従来構造と同様であるから、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0023】
本例のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットに於いては、ケーシング10aのシリンダ部20aの内周面に係止凹溝25aを、全周に亙って形成している。そして、この係止凹溝25a内に、Oリングの如き弾性リング26aを装着している。この係止凹溝25aを設ける部分は、前記押圧ブロック21aの外周面のうち、ラック軸8から遠い側の端部である、外端部に対向する部分としている。又、前記係止凹溝25a内にこの弾性リング26aを装着し、未だ前記シリンダ部20a内に押圧ブロック21aを挿入していない状態で、この弾性リング26aの内径は、この押圧ブロック21aのうちで、ラック軸8から遠い側である、外半部の外径よりも小さい。従って、前記係止凹溝25aに装着した、前記弾性リング26aの内周縁は、前記押圧ブロック21aの外端部外周面に、全周に亙って弾性的に当接する。この押圧ブロック21aの外端部で前記弾性リング26aの内周縁との当接部よりも、前記ラック軸8と反対側に突出した部分の軸方向長さは僅少である。
【0024】
尚、前記押圧ブロック21aは、鉄系合金若しくはアルミニウム系合金等の金属製、或はポリアミド樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂等の合成樹脂製である。金属製の場合には、前記ラック軸8の背面と摺接する面に、合成樹脂、含油メタル等の低摩擦材を添着する。何れにしても、前記押圧ブロック21aの外周面のうち、前記ラック軸8側の端部である内端部には、内端面に向かう程外形が小さくなる方向に傾斜した傾斜面28を形成している。この傾斜面28の先端部(内端部)の外径は、前記係止凹溝25aに装着した状態での前記弾性リング26aの内径よりも小さくして、この弾性リング26a内に前記押圧ブロック21aを、この弾性リング26aを損傷せずに挿入できる様にしている。
【0025】
上述の様に本例のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの場合には、前記弾性リング26aを係止する為の前記係止凹溝25aをシリンダ部20aの内周面に設けている。従って、この係止凹溝25aを前記押圧ブロック21aの外端部外周面に対向させる事を考慮しても、前記シリンダ部20aの内周面のうちで前記係止凹溝25aを設ける部分は、このシリンダ部20aの軸方向中間部で良い。即ち、特にこの係止凹溝25aの設置部分の強度を考慮する必要なく、この係止凹溝25aに係止した前記弾性リング26aの内周縁を、前記押圧ブロック21aの外端部外周面に当接させられる。そして、この押圧ブロック21aの外端部で前記弾性リング26aの内周縁との当接部よりも前記ラック軸8と反対側に突出した部分の軸方向長さを僅少に抑えられる。この為、ピニオン軸6と前記ラック軸8との間の動力伝達に伴って、前記押圧ブロック21aが、前記弾性リング26aの内周縁により抑え付けられた部分を中心として揺動変位しても、前記押圧ブロック21aの外端部外周面と前記シリンダ部20aの内周面とが衝突する事はなくなる。この結果、前記動力伝達に伴う、前記押圧ブロック21aの揺動変位に拘らず、前述した様な、不快な振動や騒音、或は著しい摩耗が生じる事を防止できる。
【0026】
又、前記押圧ブロック21aに、前述の図6、9に示した従来構造の様な係止凹溝25を形成する必要がない為、この従来構造の場合に必要であった駄肉部27が不要になる。この為、この駄肉部27に対応する部分を省略できる分、前記押圧ブロック21a、及び、この押圧ブロック21aを収納する、前記シリンダ部20aの軸方向寸法を短縮できる。この結果、このシリンダ部20aを含む、前記ケーシング10aの外形寸法を小さくできて、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの小型・軽量化、並びに車両への搭載性向上を図り易くなる。
【0027】
[実施の形態の第2例]
図2は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、弾性リング26aの内周縁が押圧ブロック21aの外周面を抑え付ける部分を、上述した実施の形態の第1例よりも、更に(より極限に近く迄)前記押圧ブロック21aの外端面に近付けている。この為に本例の場合には、この押圧ブロック21aの外端面を、この押圧ブロック21aの軸方向に関して、係止凹溝25aの両側縁のうちのラック軸と反対側の側縁29と、前記弾性リング26aの最小内径部との間に存在させている。即ち、この弾性リング26aの最小内径部の軸方向位置が図2の(A)の鎖線イ位置、前記側縁29の軸方向位置が同じく鎖線ロ位置である場合に、前記押圧ブロック21aの外端面を、これら両鎖線イ、ロ同士の間の鎖線ハ位置に設定している。
【0028】
この様に本例の構造の場合には、弾性リング26aの内周縁が押圧ブロック26aの外周面を抑え付ける部分を、極限に近く迄、前記押圧ブロック21aの外端面に近付けている。従って、図2の(B)に誇張して示す様に、この押圧ブロック21aがシリンダ部20a内で、前記弾性リング26aにより抑え付けられた部分を中心として揺動変位した場合に、前記押圧ブロック21aの外端部が前記シリンダ部20aの内周面に、より衝突しにくくできる。この為、これら押圧ブロック21aの外周面とシリンダ部20aの内周面との間に存在する隙間をより小さくできて、このシリンダ部20a内での前記押圧ブロック21aの姿勢の安定化を図り易くなる。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【0029】
[実施の形態の第3例]
図3は、請求項1、3に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、シリンダ部20aの内周面に、係止凹溝25aに加えて第二の係止凹溝30を、このシリンダ部20aの軸方向に離隔した部分である、ラック軸8に寄った部分に形成している。そして、前記第二の係止凹溝30に係止した第二の弾性リング31を、この第二の係止凹溝30の底面と押圧ブロック21aの外周面との間で弾性的に圧縮している。
【0030】
この様な本例の構造によれば、ピニオン軸6と前記ラック軸8との間の動力伝達に伴って作用する力に基づく、前記押圧ブロック21aの揺動方向に関する剛性を高くできる。従って、この押圧ブロック21aの外周面と前記シリンダ孔20aの内周面とが勢い良く衝突する事を、より効果的に抑えられる。尚、本例の構造と、上述した実施の形態の第2例の構造とを組み合わせる事もできる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【符号の説明】
【0031】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 中間シャフト
5 ステアリングギヤユニット
6 ピニオン軸
7 ピニオン歯
8 ラック軸
9 ラック歯
10、10a ケーシング
11 主収納部
12 副収納部
13 ラックガイド
14 球面継手
15 タイロッド
16 ラジアルニードル軸受
17 玉軸受
18 抑えねじ筒
19 シールリング
20、20a シリンダ部
21、21a 押圧ブロック
22 蓋体
23 ばね
24 凹部
25、25a 係止凹溝
26、26a 弾性リング
27 駄肉部
28 傾斜面
29 側縁
30 第二の係止凹溝
31 第二の弾性リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した筒状の主収納部、及び、この主収納部に対し捩れの位置で設けられて一端が開口した筒状の副収納部、及び、この主収納部の内外を連通させる状態でこの主収納部に対し直交する方向に設けられたシリンダ部を有するケーシングと、前面にラック歯を設け、このケーシングの主収納部内に軸方向の変位を可能に設置されたラック軸と、軸方向の先半部に形成したピニオン歯を前記ラック歯と噛合させると共に軸方向の基半部を前記ケーシングの副収納部の開口部から外に突出させた状態でこの副収納部内に、回転可能に配置されたピニオン軸と、前記シリンダ部内に、前記ラック軸に対する遠近動を可能に嵌装された押圧ブロックと、この押圧ブロックと前記シリンダ部の外端開口部に固設された蓋体との間に設けられ、この押圧ブロックを前記ラック軸の背面に向けて押圧する弾性部材と、この押圧ブロックの外周面と前記シリンダ部の内周面との間に全周に亙って設けられた弾性リングとを備えたラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットに於いて、この弾性リングが、前記シリンダ部の内周面に設けられた係止凹溝に係止されて、この内周面から径方向内方に突出した内周縁部を前記押圧ブロックの外周面に当接させている事を特徴とするラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項2】
前記弾性リングの断面形状が円形であり、前記押圧ブロックの軸方向に関して、この押圧ブロックの両端面のうちの前記ラック軸と反対側の端面が、前記係止凹溝の両側縁のうちのこのラック軸と反対側の側縁と、前記弾性リングの最小内径部との間に存在する、請求項1に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項3】
前記シリンダ部の内周面に、前記係止凹溝に加えて第二の係止凹溝が、このシリンダ部の軸方向に離隔した部分に形成されており、この第二の係止凹溝に係止された第二の弾性リングが、この第二の係止凹溝の底面と前記押圧ブロックの外周面との間で弾性的に圧縮されている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76667(P2012−76667A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225478(P2010−225478)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)