説明

ラドンフラックスの測定方法

【課題】ラドン含有岩石について当該岩石の単位面積当たりのラドンの放出量を測定することができるラドンフラックスの測定方法を提供する。
【解決手段】ラドンを含有する岩石10を、その表面積が測定できる形状である略直方体形状に加工して単位試料21を形成し、水が充填された気密容器30内に単位試料21を収納して水に浸し、単位試料21から水に放出されたラドンの放出量を測定し、その放出量を、単位試料21を測定して得た表面積で除することで、岩石10の単位面積当たりに放出される単位ラドン量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラドンフラックスの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラドンなどの放射性物質を含有する岩石から放出される放射性物質の量を測定する技術が種々開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。例えば、特許文献1では、岩石を破砕した破砕体について放射能濃度や強度を測定する方法が開示され、特許文献2では、放射性廃棄物から放出された放射性ガスを測定する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの方法では、放射能の量(単位としては例えばBq。)は、元の岩石や放射性廃棄物の形状とは無関係に測定されるものであり、特に、岩石等と空気(流体)との接触面積を考慮して測定されるものではない。すなわち、岩石の流体との接触面積と、その岩石に含まれるラドンが放出される量との関係を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−11063号公報
【特許文献2】特開平6−66948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、ラドン含有岩石について当該岩石の単位面積当たりのラドンの放出量を測定することができるラドンフラックスの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明のラドンフラックスの測定方法は、ラドンを含有する岩石を、その表面積が測定できる形状に加工して単位試料を形成し、前記単位試料を水に浸し、当該単位試料から当該水に放出されたラドンの放出量を測定し、前記放出量を、前記単位試料を測定して得た表面積で除することで、前記岩石の単位面積当たりに放出される単位ラドン量を算出することを特徴とする。
【0007】
請求項1に係る本発明では、岩石の単位面積当たりに放出されるラドン量(単位ラドン量)を簡単に求めることができる。求められた単位ラドン量は、整形される前の岩石の表面積(岩石の外表面に限らず、岩石の間隙の表面積も含む。)の算出に応用できる。
【0008】
そして、請求項2に係る本発明のラドンフラックスの測定方法は、請求項1に記載するラドンフラックスの測定方法において、前記岩石を、略直方体形状に加工して前記単位試料を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る本発明では、単位試料の表面積を容易に測定することが出来る。
【0010】
また、請求項3に係る本発明のラドンフラックスの測定方法は、請求項1又は請求項2に記載するラドンフラックスの測定方法において、前記単位試料を、気密容器に充填された水に浸し、当該単位試料から当該水に放出されたラドンの放出量を測定することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る本発明では、気密容器は、水が充填され、気泡が排除されているので、単位試料から放出されたラドンが気泡に溜まり、この溜まった分のラドンが測定対象から外れてしまうことが防止され、ラドンの放出量を正確に測定できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラドン含有岩石について当該岩石の単位面積当たりのラドンフラックスを測定することができるラドンフラックスの測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るラドンフラックスの測定方法を説明する概念図である。
【図2】本実施形態に係るラドンフラックスの測定方法により得られた単位面積当たりのラドンフラックスを用いる応用例である岩石内部の間隙表面積測定装置の全体構成図である。
【図3】岩石内部の間隙表面積を測定する方法を説明する全体処理図である。
【図4】岩盤の割れ目を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、本発明の実施形態に係るラドンフラックスの測定方法の概念を示してある。図1に基づいて、ラドンフラックスの測定方法を説明する。
【0015】
図に示すように、ラドンを含有する岩石10を整形して略直方体形状の単位試料21とする。単位試料21の各辺の長さを測定し、各辺の長さから表面積(S)を計算する。なお、岩石10の整形は、略直方体形状に限られず、表面積を測定できる形状であればよい。例えば、単位試料21は、円筒状、円錐状、柱状、球状等であってもよい。
【0016】
次に、単位試料21を水が満たされた気密容器30に収容し、所定期間(例えば、1箇月)浸漬する。気密容器30に単位試料21を所定期間浸漬することにより、単位試料21の表面を通過する(放出される)ラドンが安定した状態で気密容器30の内部の水に含まれた状態になる。
【0017】
所定期間経過した気密容器30の内部の水を抽出する。ラドンの放出量を既知の測定装置等を用いて測定する。この測定により得られた浸漬水中のラドンの放出量をRnRとする。
【0018】
なお、気密容器30は、容器本体31と蓋32とから構成されている。容器本体31には、内部空間34が有り、蓋32で気密に封止されている。蓋32にはドーム状に凹部33が形成されている。内部空間34に水を注入する際には、内部空間34から気泡を排除するようにするが、万が一、気泡が残留したとしても、気泡は凹部33の頂点部に集約されるため、気泡を排出しやすい構成となっている。このような構成により、気泡が内部空間34から排除されているので、単位試料21から放出されたラドンが気泡に溜まり、この溜まった分のラドンが測定対象から外れてしまうことが防止され、ラドンの放出量を正確に測定できる。
【0019】
次に、単位試料21の表面から放出される単位ラドン量(ラドンフラックス:RnF)を算出する。単位ラドン量とは、単位面積当たりの、単位試料21の表面から放出されるラドンの放出量である。つまり、浸漬水中のラドン量(RnR)を単位試料21の表面積(S)で除すことにより、ラドンフラックス(RnF)を算出する(RnF=RnR/S)。
【0020】
上述したラドンフラックスの測定方法では、水に満たされた気密容器30に単位試料21を収容して単位面積当たりのラドンの放出量を求めるので、岩石10固有の単位面積当たりに放出されるラドン量を簡単に求めることができる。
【0021】
このようにして求められたラドンフラックスは、岩石10がどのような形状であろうとも、単位面積あたりのラドンの放出量を示すものであるから、略直方体形状に整形される前の岩石10の表面積の算出に応用できる。
【0022】
ここでいう表面積とは、岩石10の外表面に限らず、岩石の間隙の表面積も含む。したがって、ラドンフラックスを測定することは、岩石の間隙の表面積の算出にも応用することが出来る。
【0023】
岩石の間隙の表面積は、放射性廃棄物や二酸化炭素(CO)を地中に隔離する技術において重要な評価項目となる。放射性廃棄物を地中に隔離処理する場合、地盤の岩石の間隙表面積が大きいほど間隙表面への放射性核種の付着量が多くなり、放射性核種の生活環境への影響をなくすことができる。また、二酸化炭素(CO)を地中貯留する場合、COが溶けた酸性水により岩石に及ぼす影響は、岩石の反応面積により左右される。このため、地盤の岩石の間隙表面積を把握することは、放射性廃棄物の地中隔離や、COの地中貯留を実施する際に、安定した処理や貯留が行えるか否かを判断する重要な評価項目となっている。
【0024】
図2に基づいて、本実施形態に係る測定方法により得られたラドンフラックスの応用例について説明する。図2に、岩石の間隙表面積を得るための間隙表面積測定装置の概略構成図を示す。同図に示すように、岩石試料1を収容する流通容器2が備えられ、流通容器2には循環路3が接続されている。流通容器2に収容される岩石試料1は、乾燥重量(W)及び水に漬けられて間隙に水が飽和している状態の重量(飽和重量:W)が予め測定されている。循環路3には循環手段としてのポンプ(例えば、モーノポンプ)4が設けられ、ポンプ4の駆動により流通容器2内の水が循環路3を介して循環される。
【0025】
岩石試料1が収容された流通容器2内の水を循環させることにより、岩石試料1から循環水にラドンが放出され、ラドンを含有した状態の循環水となる。ラドンは約3.8日の半減期であるため、水に含まれる安定したラドン量を測定する際に、放出されたラドンと壊変したラドンとの放射平衡状態を得るため、ポンプ4により水が約1箇月の間循環される。
【0026】
流通容器2の下流側の循環路3には弁部材5を介してラドン量測定手段11が接続され、約1箇月の間循環された循環水がラドン量測定手段11に送られてラドン量が測定された後に排水される。
【0027】
岩石試料1の全間隙量(P)を算出する全間隙量導出手段12が備えられている。全間隙量導出手段12では岩石試料1の全間隙量(流体が流動可能な間隙の表面積に囲まれた範囲の体積)が導出される。全間隙量導出手段12には、予め測定された岩石試料1の乾燥重量(W)及び飽和重量(W)が入力される。全間隙量導出手段12では、飽和重量(W)から乾燥重量(W)を減じることで岩石試料1の全間隙量(P)が算出される(P=W−W)。
【0028】
尚、岩石試料1の全間隙量(P)を全間隙量導出手段12でP=W−Wにより算出する例を説明してあるが、岩石試料1の全間隙量が他の手法により予め把握されていた場合、全間隙量導出手段12を省略することも可能である。
【0029】
全間隙量導出手段12で算出された岩石試料1の全間隙量(P)は、ラドン量測定手段11に送られ、ラドン量測定手段11では全間隙量(P)に対するラドン量、即ち、約1箇月間循環されてラドン量が安定した状態の循環水に含まれるラドンの量(岩石試料1を通水した後のラドン量:Rnp)が測定される。ラドン量測定手段11で測定されたラドン量(Rnp)の情報は表面積導出手段13に送られる。
【0030】
一方、岩石試料1の単位面積当たりのラドン放出量である単位ラドン量(ラドンフラックス:RnF)を求めるラドンフラックス検出手段14が備えられ、ラドンフラックス検出手段14では、岩石試料1と同じもの(図1の岩石10に相当するもの)の単位面積を通過するラドン量、即ち、岩石試料1のラドンフラックス(RnF)が求められる。このラドンフラックス検出手段14として、上述したラドンフラックスの測定方法を適用することが出来る。
【0031】
表面積導出手段13では、岩石試料1を通水した後のラドン量(Rnp)と岩石試料1のラドンフラックス(RnF)に基づいて、岩石試料1の全間隙量(P)の表面積である間隙表面積(S)が算出される。即ち、岩石試料1を通水した後のラドン量(Rnp)を岩石試料1のラドンフラックス(RnF)で除すことにより間隙表面積(S)が算出される(S=Rnp/RnF)。
【0032】
以上に説明したように、岩石試料1から放出されたラドン量を測定できれば、本実施形態に係る測定方法により得られたラドンフラックスに基づいて、岩石試料1の間隙の表面積を得ることが出来る。
【0033】
図3に基づいて上述した間隙表面積測定装置による間隙表面積測定方法を経時的に説明する。
【0034】
ステップS1で岩石試料1の乾燥重量(W)が測定され、ステップS2で岩石試料1の飽和重量(W)が測定される。測定された飽和重量(W)から乾燥重量(W)を減じてステップS3で岩石試料1の全間隙量(P)が算出され、ステップS4で通水を1箇月実施する。尚、実施例では岩石試料1に通水を実施して水にラドンを放出させるようにしているが、岩石試料1に通気を実施して気体(空気)にラドンを放出させることも可能である。
【0035】
ステップS4で通水を1箇月実施した後、ステップS5で通水後のラドン量(Rnp)が測定される。つまり、約1箇月間通水が実施されてラドン量が安定した状態の循環水に含まれるラドンの量が測定され、岩石試料1の間隙の全てから放出されるラドン量が測定される。
【0036】
一方、ステップS6では、岩石試料1と同一の岩石が直方体に整形されて単位試料21とされ、ステップS7で単位試料21の表面積(S)が測定される。ステップS8で気密容器30に単位試料21が1箇月間浸漬され、ステップS9で浸漬水中のラドンが分析されてラドン量(RnR)が測定される。ステップS9でラドン量(RnR)が測定された後、ステップS10で単位試料21の表面から放出されるラドンフラックス(RnF)が算出される。
【0037】
そして、ステップS5で測定されたラドン量(Rnp)をステップS10で算出されたラドンフラックス(RnF)で除す処理をステップS11で行い、ラドン量(Rnp)に応じた(全間隙量(P)応じた)面積、即ち、岩石試料1の全間隙表面の面積である間隙表面積(S)がステップS11で算出される。
【0038】
従って、上述したラドンによる岩石内部の間隙表面積測定装置及び方法は、全間隙量導出手段12により岩石試料1の全間隙量(P)を求め、ポンプ4により水を岩石試料1に循環流通させ、水に含まれるラドン量を、ラドン量測定手段11で測定することにより岩石試料1の全間隙量(P)から放出されたラドン量(Rnp)としている。そして、表面積導出手段13により、ラドン量(Rnp)を、岩石の個体別の単位面積当たりに放出される単位ラドン量(ラドンフラックス:RnF)で除すことで、全間隙量の表面積(間隙表面積:S)を求めている。
【0039】
このため、岩石に通水された水に含まれるラドン量(Rnp)に基づいて間隙表面積(S)を求めることができ、実際の流動間隙に対応した表面積を評価して岩石内部の間隙表面積(S)を測定することが可能になる。
【0040】
また、循環手段としてポンプ4により水を循環させているので、水からのラドンの透過を抑制することができ、岩石の流動間隙に対応した間隙表面積(S)を的確に評価することができる。
【0041】
本実施形態に係る測定方法により得られたラドンフラックスは、上述したように、岩石試料1の間隙の表面積を得ることに応用できる他、岩盤などの割れ目幅の推定にも応用できる。
【0042】
図4は、岩盤の割れ目を示す概念図である。同図に基づいて、岩盤の割れ目幅の推定について説明する。岩盤R1と岩盤R2との間に割れ目Cが存在している。この割れ目Cは、幅がWであり、奥行きがd、開口幅がlであるとする。
【0043】
このような岩盤R1、岩盤R2の表面から割れ目にラドンが放出されるが、放出されたラドンと割れ目の大きさとには次のような関係がある。
【0044】
【数1】

【0045】
は平衡に達したラドン原子の数、Aは時刻tにおけるラドン原子の数、λはラドンの壊変定数、Fは割れ目表面におけるラドンフラックスである。ここで、tが半減期(3.8日)より十分に大きければラドンは平衡に達するので、次式の関係が成り立つ。
【0046】
【数2】

【0047】
したがって、数1と数2とから、割れ目の幅Wは次式のように表せる。
【0048】
【数3】

【0049】
つまり、ラドンフラックスと、岩盤R1、R2から割れ目に放出されたラドンの放出量から割れ目の幅Wが推定できる。なお、ラドンフラックスは、岩盤R1、R2から取得した単位試料に対して上述した測定方法を実施することにより得ることが出来る。また、このラドンの放出量の測定は、例えば、割れ目内のラドンを含むガスを採取し、固体放射線センサ等を用いてラドンの量(放射線のトラック数)を計測することにより行うことができる。このようにして、本発明に係る測定方法により得られたラドンフラックスは、岩盤の割れ目の幅の推定にも応用することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、岩石から放出されるラドンの単位面積当たりの放出量を測定し、分析する産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 岩石試料
2 流通容器
3 循環路
4 ポンプ(モーノポンプ)
5 弁部材
10 岩石
11 ラドン量測定手段
12 全間隙量導出手段
13 表面積導出手段
14 ラドンフラックス検出手段
21 単位試料
30 気密容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラドンを含有する岩石を、その表面積が測定できる形状に加工して単位試料を形成し、
前記単位試料を水に浸し、当該単位試料から当該水に放出されたラドンの放出量を測定し、
前記放出量を、前記単位試料を測定して得た表面積で除することで、前記岩石の単位面積当たりに放出される単位ラドン量を算出する
ことを特徴とするラドンフラックスの測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載するラドンフラックスの測定方法において、
前記岩石を、略直方体形状に加工して前記単位試料を形成する
ことを特徴とするラドンフラックスの測定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するラドンフラックスの測定方法において、
前記単位試料を、気密容器に充填された水に浸し、当該単位試料から当該水に放出されたラドンの放出量を測定する
ことを特徴とするラドンフラックスの測定方法。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−209080(P2011−209080A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76437(P2010−76437)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地層処分技術調査等委託費(地層処分共通技術調査:岩盤中地下水移行評価技術高度化開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】