説明

ラビング処理装置、ラビング処理方法、及び液晶表示素子の製造方法

【課題】垂直配向液晶表示素子の視角特性を変えることなく、ラビングスジの発生を抑えることが可能なラビング処理装置、ラビング処理方法及び該ラビング処理方法を用いた液晶表示素子の製造方法を提供する。
【解決手段】ラビング処理装置1は、表面に配向膜が形成された基板30が載置されたステージ10と、配向膜に接触可能に配置されたラビングロール20とを備える。ラビングロール20は回転しながら、基板30の表面と平行に移動する。基板30表面と平行な平面において、ラビングロール20の進行方向に垂直な方向に対する基板30の傾き角度θと、ラビングロール20の進行方向とラビングロール20の回転軸に垂直な方向との成す角度θとが、θ=θであって、且つθ≠0°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子の基板に形成された配向膜に対してラビング処理を行うラビング処理装置、ラビング処理方法、及び該ラビング処理方法を用いた液晶表示素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子の配向膜に沿って液晶分子を特定の方向に配向させるために、円筒状のロールにレーヨン、コットンなどの布が巻かれたラビングロールを回転させながら、電極と配向膜が形成された基板上を進行させながら一方向に擦るラビング処理が行われる。また、垂直配向液晶表示素子のラビング処理では、一方の基板側の配向膜界面の液晶分子と他方の基板側の配向膜界面の液晶分子とが互いに平行になるような方向にラビング処理を行う。そのため、基板の水平方向と基板進行軸とが平行で、かつラビングロールの進行方向とラビングロールの回転軸と垂直な方向(ラビング方向)とが同一方向となるようにラビング処理を行うことが一般的である。
【0003】
しかし、上記のラビング処理は、垂直配向液晶表示素子を製造するにあたり十数μmの径の繊維でできた織物で擦るという特徴から、基板上の擦った場所(例えばガラス、電極、配向膜)により繊維に異なる癖が付く。そして、その癖の付き方の違いに加えてラビングロールのラビング方向と進行方向が同一方向になることにより、ラビング方向のスジが場所により大きく(長く)目立ち、液晶表示素子の表示品位を著しく悪化させ、欠陥となる。この問題に対して、特許文献1に記載のラビング方法では、ラビングロールの進行方向をラビングロールの回転軸と垂直な方向から傾けることにより、故意にラビングスジをミクロに分断することでラビングスジの発生を抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−6322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のラビング方法では、ラビングロールの進行方向をラビングロールの回転軸と垂直な方向からずらすことにより、視角方向もずらした分だけずれてしまい、液晶表示素子の視角特性が変化してしまう。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、垂直配向液晶表示素子の視角特性を変えることなく、ラビングスジの発生を抑えることが可能なラビング処理装置、ラビング処理方法、及び該ラビング処理方法を用いた液晶表示素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るラビング処理装置は、
配向膜を表面に有する基板を該表面と平行に移動させる基板搬送手段と、
前記配向膜と接触可能に配置されるラビングロールと、
前記ラビングロールを前記基板の表面と平行に移動させるラビングロール移動手段と、
前記ラビングロールを回転させるラビングロール回転手段と、を備え、
前記基板の表面と平行な平面において、前記ラビングロールの進行方向に垂直な方向に対する前記基板の傾き角度θと、前記ラビングロールの進行方向と前記ラビングロールの回転軸に垂直な方向との成す角度θとが、θ=θであって、且つθ≠0°であることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係るラビング処理方法は、
配向膜を表面に有する基板に対し、前記配向膜に回転するラビングロールを接触させてラビング処理を行うラビング処理方法であって、
前記基板の表面と平行な平面において、前記ラビングロールの進行方向に垂直な方向に対する前記基板の傾き角度θと、前記ラビングロールの進行方向と前記ラビングロールの回転軸に垂直な方向との成す角度θとが、θ=θであって、且つθ≠0°であることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係る液晶表示素子の製造方法は、
基板の表面に形成された配向膜に対して、上述したようなラビング処理方法によりラビング処理を行うステップと、
ラビング処理が行われた前記配向膜を有する2枚の基板を、ラビング方向が互いに平行かつ逆向きとなるように前記配向膜を内側にして対向させ、前記2枚の基板の間に液晶を封入するステップと、
前記2枚の基板の前記配向膜が形成された表面と反対側の表面に偏光板を貼付するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、垂直配向液晶表示素子の視角特性を変えることなく、ラビングスジの発生を抑えることが可能なラビング処理装置、ラビング処理方法、及び該ラビング処理方法を用いた液晶表示素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係るラビング処理装置の概略構成を示す斜視図、(b)は本発明の実施形態に係る基板とラビングロールの配置を示す図である。
【図2】(a)〜(c)は、所定のθ、θにおける基板とラビングロールの配置を示す図である。
【図3】図2(a)〜(c)の各配置における偏光板の光の吸収方向、液晶分子の倒れる方向、及びラビング方向を示す図である。
【図4】図2(a)〜(c)の各配置における垂直液晶表示素子の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】図2(a)〜(c)の各配置における垂直液晶表示素子のコントラスト視角特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を図を参照して説明する。図1(a)は、本実施形態に係るラビング処理装置1の概略構成を示す図である。本実施形態に係るラビング処理装置1は、図1(a)に示すように、基板30が載置されたステージ10と、ラビングロール20とから構成される。なお、図1(b)に示すように、ステージ10の載置面内において、基板30の進行方向をX軸の正方向、ラビングロール20の進行方向をX軸と直交するY軸の正方向として、X−Y座標系を規定する。
【0013】
ステージ10は、載置面に載置された基板30を図1(b)のX軸正方向に基板30の表面と平行に移動させるものである。ステージ10は、例えばモータ等が駆動することにより、X軸の正方向または負方向に移動する。ステージ10の載置面には基板30がX軸正方向に対してθ回転した状態で載置されている。
【0014】
基板30は、透明電極が形成されたガラス等からなる透明基板の表面にポリイミドから成る配向膜が塗布されて形成されたものである。
【0015】
ラビングロール20は、円筒状のロール本体に、レーヨン、コットン等の布(ラビング布)を巻き付けられて構成される。ラビングロール20は、図1(a)に示すように、ラビングロール回転手段に相当するモータ40によりその回転軸に垂直な方向がY軸正方向に対して所定の角度θ(θ≠0°、例えば15°)傾いた状態で回転する。さらに、ラビングロール20は、例えばモータ等から構成されるラビングロール移動手段が駆動することにより、Y軸の正方向または負方向に移動し、基板30と接触する。
【0016】
次に、このように構成されるラビング処理装置1を用いたラビング処理方法について説明する。
まず、ステージ10上に基板30を配向膜が形成されている側を上面にして載置する。この際、基板30は、ラビングロール20の進行方向に垂直な方向(X軸正方向)に対する傾き角度θが、θと等しく(θ=θ)なるように載置する。
【0017】
次に、基板30がラビングロール20の移動線上に位置するようにステージ10をX軸正方向に移動させ、その後停止させる。さらに、ラビングロール20を回転駆動させながらY軸正方向に移動させる。ラビングロール20は基板30上を通過する際に、基板30表面の配向膜を擦りながら通過するため、ラビングロール20の外周面に設けられたラビング布により配向膜は一定方向にラビングされる。なお、ラビングロール20の移動速度は、ラビングロール20の回転速度に対して、十分に小さいため、ラビング方向は、ラビングロール20の回転軸と垂直な方向とみなすことができる。
【0018】
以上のようにして、基板30表面に形成された配向膜に対してラビング処理が行われる。また、上述のラビング処理が行われた配向膜を有する2枚の基板30を、ラビング方向が互いに平行かつ逆向きとなるように配向膜を内側にして対向させ、その間に液晶を封入し、基板30の外側表面に偏光板を貼付することで、液晶表示素子が製造される。
【0019】
ここで、上述のように構成されたラビング処理装置1を用いてラビング処理が行われた配向膜上のラビングスジの発生の有無について、従来のラビング処理装置を用いた場合と比較して説明する。
【0020】
図2(a)、(b)は従来のラビング処理装置におけるラビングロールと基板の配置関係を表し、(a)はθ1=θ2=0°、(b)は、θ=0°、θ=15°である。図2(c)は、本実施形態に係るラビング処理装置1におけるラビングロール20と基板30の配置関係の一例を表し、θ=θ=15°である。
【0021】
上述の図2(a)〜(c)の配置を有するラビング処理装置を用いてラビング処理が行われた100個の垂直配向液晶表示素子のサンプル群を、それぞれグループA、B、Cとする。ここで、ラビング処理方法は、図2(a)〜(c)のそれぞれの場合について、ラビングロール20と基板30の配置が異なるのみで、ラビングロール20を回転させてY軸方向に移動させることは同じである。
【0022】
なお、各グループにおける垂直配向液晶表示素子の前面及び背面偏光板の光の吸収方向、液晶分子の倒れる方向、及びラビング方向を図3に示す。グループA及びグループCは、ローラと基板の相対的な配置関係が同様であるため、偏光板の光の吸収方向、液晶分子の倒れる方向、及びラビング方向は同様の図で表される。
【0023】
以下の表1に図2(a)〜(c)の場合において、グループA〜Cのラビングスジの発生率を示す。ここで、ラビングスジの発生率は、目視で確認できるラビングスジを有する垂直配向液晶表示素子の数の全体(100個)に対する割合である。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の結果から、グループAのラビングスジ発生率が55%であるのに対し、グループB、Cのラビングスジ発生率は0%である。従って、θ=15°、すなわちラビングロール20の進行方向と、ラビングロール20の回転方向(ラビング方向)を一致させないことが、ラビングスジ発生の防止に有効であると考えられる。
【0026】
次に、グループA〜Cの垂直配向液晶表示素子の顕微鏡写真を示す図を図4に示す。図4(a)〜(c)はそれぞれ、グループA〜Cに対応する。グループAの写真を示す図である図4(a)では、配向膜に一様に配向処理が行われておらず、ラビングスジが発生していることがわかる。これに対し、グループB、Cの写真を示す図である図4(b)、(c)では、配向膜に一様に配向処理が行われており、ラビングスジが発生していないことがわかる。この結果は、表1からもわかることである。
【0027】
また、グループBの図4(b)から、基板30はX軸から傾斜せず(θ=0°)、ラビングロール20のみがY軸から15°傾く(θ=15°)ことにより、ラビングロール20の回転方向も15°傾き、ラビング方向も垂直配向液晶表示素子の水平パターンに対し垂直な軸から15°傾くことがわかる。従って、グループBの垂直配向液晶表示素子は、グループAのものと比較して、ラビング方向が15°傾いている。
【0028】
また、グループCの図4(c)から、ラビングロール20だけでなく、基板30もラビングロール20と同様に15°傾く(θ=θ=15°)ことにより、ラビングロール20と基板30の相対的な位置関係がグループAと同様な配置になる。従って、グループCのラビング方向は、グループAのラビング方向と同様に、垂直配向液晶表示素子の水平パターンに対し垂直な方向である。
【0029】
上記の結果から、ラビング方向は、ラビングロール20と基板30の相対的な位置関係によって決まることがわかる。
【0030】
次に、図5に液晶表示素子の視角特性測定装置(ELDIM製EZ−CONTRAST)を用いて各グループA〜Cの垂直配向液晶表示素子のコントラスト視角特性を測定した結果を示す。図5(a)に示すグループAの視角特性と、図5(b)に示すグループBの視角特性を比較すると、グループBの視角特性は、グループAのものに対し、全体として15°回転していることがわかる。これは、グループBのラビング方向が、グループAのラビング方向に対し、15°傾斜しているためである。
【0031】
また、図5(a)に示すグループAの視角特性と、図5(c)に示すグループCの視角特性を比較すると、グループCの視角特性は、グループAのものと同等であることがわかる。これは、グループCのラビング方向が、グループAのラビング方向と一致しているためである。
【0032】
上述したように、本実施形態に係るラビング処理装置1は、基板30とラビングロール20の進行方向と垂直な方向との成す角度θと、ラビングロール20の回転軸と垂直な方向とラビングロール20の進行方向との成す角度θとがθ=θの関係であり、かつθ≠0°である。これにより、視角特性を変化させることなく、ラビングスジの発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ラビング処理装置
10 ステージ
20 ラビングロール
30 基板
40 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向膜を表面に有する基板を該表面と平行に移動させる基板搬送手段と、
前記配向膜と接触可能に配置されるラビングロールと、
前記ラビングロールを前記基板の表面と平行に移動させるラビングロール移動手段と、
前記ラビングロールを回転させるラビングロール回転手段と、を備え、
前記基板の表面と平行な平面において、前記ラビングロールの進行方向に垂直な方向に対する前記基板の傾き角度θと、前記ラビングロールの進行方向と前記ラビングロールの回転軸に垂直な方向との成す角度θとが、θ=θであって、且つθ≠0°である、
ことを特徴とするラビング処理装置。
【請求項2】
配向膜を表面に有する基板に対し、前記配向膜に回転するラビングロールを接触させてラビング処理を行うラビング処理方法であって、
前記基板の表面と平行な平面において、前記ラビングロールの進行方向に垂直な方向に対する前記基板の傾き角度θと、前記ラビングロールの進行方向と前記ラビングロールの回転軸に垂直な方向との成す角度θとが、θ=θであって、且つθ≠0°である、
ことを特徴とするラビング処理方法。
【請求項3】
基板の表面に形成された配向膜に対して、請求項2に記載のラビング処理方法によりラビング処理を行うステップと、
ラビング処理が行われた前記配向膜を有する2枚の基板を、ラビング方向が互いに平行かつ逆向きとなるように前記配向膜を内側にして対向させ、前記2枚の基板の間に液晶を封入するステップと、
前記2枚の基板の前記配向膜が形成された表面と反対側の表面に偏光板を貼付するステップと、
を備えることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−53250(P2011−53250A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199362(P2009−199362)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】