説明

ラマン分光装置およびそれを用いた識別装置

【課題】プラスチックからのラマン信号に対する蛍光信号を低減または除去するラマン分光装置およびそれを用いた識別装置を得る。
【解決手段】ラマン分光装置は、照射したレーザ光がラマン散乱された散乱光を分光するラマン分光装置において、前記レーザ光の照射に先立って蛍光除去用レーザ光を照射する蛍光除去用レーザを、または、前記レーザ光の照射に先立って紫外線を照射する紫外線照射手段を備える。また、識別装置は、このラマン分光装置を用いてプラスチックを識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラスチックにレーザ光を照射することにより生起するラマン信号を分光するラマン分光装置およびそれを用いたプラスチックの種類を識別する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のラマン分光装置を用いた識別装置は、試料にはファイバヘッドを介して640nmから950nmの範囲の波長のレーザ光が照射される。ファイバヘッドは、光ファイバによりレーザに結合されている。試料から反射された光は、0.6より大きい開口数を有するファイバヘッド対物レンズによって集光され、光ファイバを介して分光写真器に送られる。分光写真器におけるラマン分光法による分析により、重合体の種類及び一定の添加物の存在を同定するための分光データが与えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−356595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の識別装置においては、移動する測定対象物をラマン分光するとき、同時に生起する蛍光信号がラマン測定信号に対するノイズとなるという問題がある。
従来の蛍光除去用レーザを用いない構成とした場合には、散乱光中に蛍光も含まれるため、蛍光信号もラマン信号と同時に検出される。そのため、識別制度が低下したり、識別できなかったりという問題が発生する。
【0005】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、プラスチックからのラマン信号に対する蛍光信号を低減または除去するラマン分光装置およびそれを用いた識別装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るラマン分光装置は、照射したレーザ光がラマン散乱された散乱光を分光するラマン分光装置において、前記レーザ光の照射に先立って蛍光除去用レーザ光を照射する蛍光除去用レーザを備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るラマン分光装置は、ラマン信号測定のレーザ照射部及び散乱光検出部と、その前段に蛍光除去用のレーザ照射部を備えた構成である。前段でのレーザ照射により蛍光発光強度を低減した後、ラマン散乱測定を行うことにより、蛍光の妨害を低減してS/N比の良好なラマン信号を得ることができるため、プラスチックの識別精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係るラマン分光装置を用いた識別装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る識別装置で事前のレーザ照射による蛍光発光強度低減効果を示す図である。
【図3】蛍光除去用レーザ光の照射時間と発光する蛍光の強度の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態2に係るラマン分光装置を用いた識別装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のラマン分光装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るラマン分光装置を用いた識別装置の構成を示す図である。
この発明の実施の形態1に係る識別装置は、図1に示すように、測定対象物4を第1ステージから第2ステージに順次搬送する試料台20、第1ステージの直上に配置され入射された蛍光除去用レーザ光を第1ステージに向けて光路を変える除去用レーザ反射ミラー3、除去用レーザ反射ミラー3に蛍光除去用レーザ光を集光する除去用レーザ集光レンズ2、蛍光除去用レーザ光を発光する蛍光除去用レーザ1を備える。
【0010】
また、識別装置は、第2ステージの直上に配置され入射された測定用レーザ光を第2ステージに向けて光路を変える測定用レーザ反射ミラー8、測定用レーザ反射ミラー8に測定用レーザ光を集光する測定用レーザ集光レンズ9、測定用レーザ光を発光する測定用レーザ5、測定用レーザ光の照射により発生する散乱光を集光する第1集光レンズ6及び第2集光レンズ7、入射された散乱光を分光してラマン信号を出力する分光器10を備える。
【0011】
蛍光除去用レーザ1は、発光するレーザの波長に制限は特になく、例えば、514.5nm、488.0nm(いずれもArレーザ)、632.8nm(He−Neレーザ)、647.1nm(Krレーザ)、785nm(半導体レーザ)などを使用することができる。
また、蛍光除去用レーザ1と測定用レーザ5とを同一のものを用いても構わない。
なお、蛍光除去用レーザ1のパワーとしては、1〜5mW程度のものが使用可能であるが、測定対象物4の移動速度、測定対象物4までの距離によりパワーを変える必要があることは自明であり、特にこの値にとらわれない。装置構成により適切な値とする。
【0012】
また、識別装置は、試料台20、蛍光除去用レーザ1、測定用レーザ5及び分光器10を制御する制御装置21を備える。
【0013】
次に、この識別装置の動作について説明する。
試料台20に測定対象物4を載せ、照射箇所が第1ステージに位置するように試料台20を移動する。次に、蛍光除去用レーザ1から所定の時間、例えば20秒間に亘って蛍光除去用レーザ光を発光する。これにより照射箇所に20秒間蛍光除去用レーザ光が照射される。
【0014】
次に、照射箇所が第2ステージに位置するように試料台20を移動する。次に、測定用レーザ5から所定の時間、例えば5秒間に亘って測定用レーザ光を発光する。これにより照射箇所からラマン散乱光が発光する。このラマン散乱光が第1集光レンズ6及び第2集光レンズ7により分光器10に集光される。
このように集光されて入射されたラマン散乱光は分光器10により分光されて、プラスチックの素材や添加物に特有なラマン信号が得られる。
【0015】
図2は、蛍光除去用レーザ光を測定対象物4に照射した場合と照射しない場合での蛍光の発光強度を示すグラフである。
蛍光除去用レーザ光を照射しない場合のスペクトルでは、波数500cm−1付近をピークとするブロードな蛍光信号であるが、事前に20秒間蛍光除去用レーザ光を照射した場合のスペクトルでは、蛍光信号の強度が大きく低下している。
また、図3に示すように、蛍光信号は蛍光除去用レーザ光の照射時間とともに発光強度が低減する特徴を有している。これは発光に寄与する準位がキャリアで埋められていくための現象であるが、この特徴に着目して蛍光を低減するという本発明に至った。
尚、蛍光除去用レーザ光のパワーを強くした場合、プラスチック片が溶ける恐れがあるため、装置にあわせ適宜設計する必要があることはいうまでもない。
【0016】
この発明の実施の形態1に係るラマン分光装置では、蛍光除去用レーザ光の照射をラマン測定前に行われ、これにより蛍光の強度が低減される。従って、信号としてのラマン信号とノイズとしての蛍光との比が蛍光の強度が減少することにより改善されてラマン信号を確実に検出することができる。
また、このラマン分光装置を用いてプラスチックを識別して分けることにより、単一の種類のプラスチックだけ分けられるので、リサイクルを容易にする。
なお、蛍光除去用レーザ光に関してはレンズ、ミラーのいずれか、あるいは両方を無くして照射してもよい。
【0017】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2によるラマン分光装置を用いた識別装置の構成を示す図である。
この発明の実施の形態1に係るラマン分光装置では、蛍光を減少するためにレーザ光をラマン分光に先だって照射させていたが、この発明の実施の形態2に係るラマン分光装置では、蛍光を減少するために紫外線をラマン分光に先立って照射させている。
この発明の実施の形態2に係る識別装置では、図4に示すように、紫外線照射部22で測定対象物4に紫外線が照射される。この紫外線照射はラマン測定前に行われ、これにより蛍光の強度が低減される。これに続いて測定用レーザ5から照射された光がレンズ8、ミラー9を介して測定対象物4に照射される。
【0018】
このレーザ照射により発生する散乱光は第1集光レンズ6と第2集光レンズ7により集光され、分光器に導かれ、ラマン信号が得られる。散乱光には蛍光も含まれるため、蛍光信号もラマン信号と同時に検出される。
なお、紫外線の照射時間、照射距離等は識別装置の構成により適宜設計すればよい。
移動に通常用いられるベルトコンベアライン全体に用いても構わないし、一部分に用いても構わない。
但し、あまり照射時間を長くしたり、照射距離を短くしたりすれば、プラスチック片の変質等を起こす恐れがあるため、変質等が起こらない適切照射量を調整する必要がある。
【符号の説明】
【0019】
1 蛍光除去用レーザ、2、9 レンズ、3、8 ミラー、4 測定対象物、5 測定用レーザ、6 第1集光レンズ、7 第2集光レンズ、10 分光器、20 試料台、21 制御装置、22 紫外線照射部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射したレーザ光がラマン散乱された散乱光を分光するラマン分光装置において、
前記レーザ光の照射に先立って蛍光除去用レーザ光を照射する蛍光除去用レーザを備えることを特徴とするラマン分光装置。
【請求項2】
照射したレーザ光がラマン散乱された散乱光を分光するラマン分光装置において、
前記レーザ光の照射に先立って紫外線を照射する紫外線照射手段を備えることを特徴とするラマン分光装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラマン分光装置を用いてプラスチックを識別することを特徴とする識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207935(P2012−207935A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71675(P2011−71675)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、産業技術研究開発委託費(プラスチック高度素材別分別技術開発)、委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】