説明

ランキンサイクル用複合流体機械

【課題】ポンプ部出口から膨張機部入口までの領域の圧力を低下させることで耐圧設計に掛かるコストを抑えつつ機械的エネルギーの出力効率の低下を防止することができるランキンサイクル用複合流体機械を提供すること。
【解決手段】ランキンサイクル用複合流体機械11は、ギヤポンプ30とスクロール式の膨張機部40とが、駆動軸21の回転に伴い固定された回転数比で駆動されるように構成されている。ランキンサイクル用複合流体機械11は、膨張機部40における吸入室48の圧力が所定圧を越えると、吸入室48に対し、高圧側膨張室47aだけでなく低圧側膨張室47bも連通させる連通機構Rを膨張機部40に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ部と、熱交換器と、スクロール式の膨張機部と、を有するランキンサイクル用複合流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のランキンサイクル用複合流体機械としては、例えば、特許文献1が挙げられる。スクロール式の膨張機部は、駆動軸の回転によって旋回する可動スクロールと、ハウジングに固定された固定スクロールとを備える。可動スクロールの可動側端板には可動側渦巻壁が立設されるとともに、固定スクロールの固定側端板には固定側渦巻壁が立設されている。そして、可動渦巻壁と固定渦巻壁との間には可動スクロールの旋回に伴い容積変更する膨張室が区画形成される。また、固定側端板には、膨張前の膨張室に連通する吸入口が形成されている。
【0003】
そして、ポンプ部によって熱交換器に向けて吐出された作動流体は、熱交換器で熱エネルギーを得て高温高圧になった後、吸入口を介して膨張機部の膨張室に導入されて膨張する。作動流体は、膨張室での膨張によって可動スクロールを旋回させながら外周側へと移送され、膨張機部から吐出される。この可動スクロールの旋回に伴い機械的エネルギー(駆動力)が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−30386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のランキンサイクル用複合流体機械のように、ポンプ部と膨張機部が駆動軸によって直結され、ポンプ部と膨張機部とが固定された回転数比で駆動されると、構造上はポンプ部の流量と膨張機部の流量が固定値になり、ポンプ部の体積効率と膨張機部の体積効率も固定値になる。そして、ランキンサイクル装置において、ポンプ部出口から膨張機部入口までの高圧領域の圧力はポンプ部の体積効率と膨張機部の体積効率によって決定されることから、ポンプ部と膨張機部の体積効率が固定値であれば、高圧領域の圧力も一定値となる。しかし、実際には、ポンプ部に作動流体の漏れが生じており、ポンプ部の体積効率は、この漏れ量に依存して変動する。そして、駆動軸の高回転時においては、漏れ量がポンプ部による作動流体の輸送量に対し相対的に減少することから体積効率が上昇し、高圧領域の圧力が上昇してしまう。
【0006】
よって、高圧領域の作動流体が導入される膨張機部においては、取り得る圧力の中でも最も高い圧力に合わせて耐圧設計をする必要があり、ランキンサイクル用複合流体機械の製造コストが嵩んでしまう。また、高圧の作動流体による影響を抑えるため、作動流体が膨張機部に吸入されたとき、膨張機部に吸入された作動流体を吐出室のような低圧領域に逃がすことが考えられる。しかし、この場合は、膨張機部での作動流体の流量が減ってしまい、ランキンサイクル装置における機械的エネルギーの出力効率が低下してしまう。特に、駆動軸の高回転時は、排熱源からの排熱量も多くあり、その熱エネルギーを無駄に捨ててしまうことになり出力効率が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ポンプ部出口から膨張機部入口までの領域の圧力を低下させることで耐圧設計に掛かるコストを抑えつつ機械的エネルギーの出力効率の低下を防止することができるランキンサイクル用複合流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、駆動軸の回転に伴い作動流体を吸入及び吐出するポンプ部と、前記ポンプ部から吐出された作動流体と排熱源からの流体との間で熱交換させる熱交換器と、前記熱交換器で熱交換された作動流体の吸入室を備え、固定側端板に固定側渦巻壁が立設されてなる固定スクロール、及び可動側端板に可動側渦巻壁が立設されてなり、前記駆動軸の回転に伴い前記固定スクロールに対して噛み合いながら旋回する可動スクロールを備えるとともに、前記固定スクロールと可動スクロールの間に、前記吸入室に連通する高圧側膨張室、及び前記固定側渦巻壁を挟んで前記高圧側膨張室に隣り合う低圧側膨張室が区画されるスクロール式の膨張機部と、を有するランキンサイクル装置用複合流体機械に関する。そして、ランキンサイクル装置用複合流体機械は、前記吸入室の圧力が所定圧を越えると、前記吸入室に対し、前記高圧側膨張室だけでなく前記低圧側膨張室も連通させる連通機構を前記膨張機部に備える。
【0009】
これによれば、駆動軸の高回転時に、ポンプ部出口から膨張機部入口までの領域の圧力が上昇し、高圧側膨張室の圧力が上昇すると、連通機構により、吸入室に対し高圧側膨張室だけでなく低圧側膨張室も連通させるようにした。このため、吸入室に連通する膨張室の容積が増大し、駆動軸の一回転あたりの膨張機部での作動流体の輸送量を増加させることができ、ポンプ部出口から膨張機部入口までの領域の圧力を低下させることができる。したがって、ランキンサイクル用複合流体機械において、高圧に耐え得るように耐圧設計をする必要が無くなり、ランキンサイクル用複合流体機械の製造コストを抑えることができる。また、連通機構により、ポンプ部出口から膨張機部入口までの領域の圧力が、吸入室を介して高圧側膨張室及び低圧側膨張室に逃がすことになるため、熱交換器通過後の作動流体を、吸入室に連通する膨張室以外に逃がさないため、熱交換器で得た熱エネルギーを無駄に捨てることなく、機械的エネルギーへの変換に利用することができる。
【0010】
また、前記連通機構は、前記高圧側膨張室と低圧側膨張室とを連通させるものであってもよい。
これによれば、高圧側膨張室が低圧側膨張室に連通することで、高圧側膨張室を介して低圧側膨張室が吸入室に連通する。このため、高圧側膨張室と低圧側膨張室を速やかに同圧にすることができ、容積の増大した膨張室を速やかに形成することができる。
【0011】
また、前記連通機構は、前記固定スクロールに形成された弁室と、該弁室内に設けられる弁体と、該弁体を付勢する付勢部材と、から構成され、前記弁室は、前記高圧側膨張室及び前記低圧側膨張室に連通する第1感圧室と、前記低圧側膨張室よりも低圧の領域に連通する第2感圧室とに前記弁体によって仕切られ、前記付勢部材は前記第1感圧室側へ前記弁体を付勢するように前記弁室内に設けられていてもよい。
【0012】
これによれば、簡単な構成で、吸入室に連通する膨張室の容積を増大させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポンプ部出口から膨張機部入口までの領域の圧力を低下させることで耐圧設計に掛かるコストを抑えつつ機械的エネルギーの出力効率の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態のランキンサイクル用複合流体機械及びランキンサイクル装置を示す図。
【図2】スクロール式の膨張機部を示す断面図。
【図3】(a)は連通機構を示す部分拡大断面図、(b)は連通機構が作動した状態を示す部分拡大断面図。
【図4】連通機構の別例を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
図1に示すように、ランキンサイクル用複合流体機械(以下、単に複合流体機械と記載する)11のハウジング12は、筒状をなすセンタハウジング13と、このセンタハウジング13の一端(図1では左端)に接合されたフロントハウジング14と、センタハウジング13の他端(図1では右端)に接合されたリヤハウジング15と、から形成されている。センタハウジング13の内周面には、センタハウジング13内に向けて延びる仕切壁13aが形成されるとともに、この仕切壁13aによってハウジング12内が2つの空間に仕切られている。また、仕切壁13aとリヤハウジング15との間の空間において、センタハウジング13の内周面には支持ブロック25が固設されている。
【0016】
フロントハウジング14、及び仕切壁13aには、駆動軸21が軸受16を介して回転可能に支持されている。駆動軸21には、モータロータ20aが駆動軸21と一体回転可能に固定されている。また、センタハウジング13の内周面には、ステータ20bがモータロータ20aを取り囲むように固定されている。そして、仕切壁13aよりフロントハウジング14側には、モータロータ20aとステータ20bとからなるモータ・ジェネレータ20が設けられている。
【0017】
モータ・ジェネレータ20は、ステータ20bのコイル20cへの通電によりモータロータ20aを回転させる電動機としての機能と、モータロータ20aが回転されることでステータ20bのコイル20cに電力を生じさせる発電機としての機能とを併せ持つ。なお、モータ・ジェネレータ20にはインバータ22を介してバッテリ23が接続されるとともに、モータ・ジェネレータ20で生じた電力はインバータ22を介してバッテリ23に蓄電されるようになっている。
【0018】
仕切壁13aのリヤハウジング15側(図1では右側)の面には、駆動軸21を取り囲むように長円状の凹部13cが形成されている。そして、仕切壁13aのリヤハウジング15側の面にサイドプレート17が固着されることにより、凹部13cが閉鎖されて仕切壁13aとサイドプレート17との間にポンプ室18が区画されている。また、ポンプ室18には従動ギヤ(図示せず)が回転可能に支持されている。ポンプ室18内には、駆動軸21に取着された主動ギヤ21aが収容されている。そして、ポンプ室18では、従動ギヤと主動ギヤ21aとが互いに噛み合わされた状態で配設されるとともに、ポンプ室18と、従動ギヤと、主動ギヤ21aとからポンプ部としてのギヤポンプ30が形成されている。
【0019】
仕切壁13aには、吸入通路13dが形成されている。この吸入通路13dは、一端がセンタハウジング13の外面(下面)に開口するとともに、他端がポンプ室18に連通するように形成されている。また、仕切壁13aには、吐出通路13eが形成されている。この吐出通路13eは、一端がポンプ室18に連通するとともに、他端がセンタハウジング13の外面(上面)に開口している。そして、ギヤポンプ30の駆動により、作動流体が吸入通路13dを介してポンプ室18に吸入されるとともに、ポンプ室18の作動流体は吐出通路13eを介してギヤポンプ30外へ吐出されるようになっている。
【0020】
仕切壁13aとリヤハウジング15との間の空間において、センタハウジング13の内周面には、筒状の支持ブロック25が固設されるとともに、支持ブロック25とリヤハウジング15の間にスクロール式の膨張機部40が設けられている。駆動軸21は支持ブロック25を貫通するとともに、支持ブロック25の内周面には軸シール28が装着されている。この軸シール28により、駆動軸21の周面と支持ブロック25の内周面との間がシールされている。
【0021】
支持ブロック25を貫通した駆動軸21の先端には、駆動軸21の中心軸Lに対して偏心した位置に偏心軸41が設けられるとともに、偏心軸41は駆動軸21の回転により中心軸Lの周りを公転するようになっている。偏心軸41にはブッシュ42が固定されるとともに、ブッシュ42は偏心軸41と共に中心軸Lの周りを公転するようになっている。このブッシュ42には軸受43を介して可動スクロール44が旋回可能に支持されるとともに、カウンタウェイト45が固定されている。可動スクロール44は、軸受43に支持された円盤状をなす可動側端板44aと、この可動側端板44aから突設された渦巻状の可動側渦巻壁44bとからなる。
【0022】
また、支持ブロック25よりリヤハウジング15側において、センタハウジング13の内周面には、固定スクロール46が可動スクロール44と対向するように固設されるとともに、支持ブロック25と固定スクロール46の対向する端面の間には、環状をなすプレート49が介装されている。固定スクロール46は、円盤状をなす固定側端板46aと、この固定側端板46aから可動スクロール44に向けて突設された渦巻状の固定側渦巻壁46bとを一体に備えている。
【0023】
ハウジング12内において、固定側端板46aとリヤハウジング15との間には、吸入室48が区画されるとともに、リヤハウジング15には、吸入室48に連通する吸入ポート15aが形成されている。さらに、固定スクロール46の内周面と、可動スクロール44における可動側渦巻壁44bの最外周面との間、及び吸入室48の外周側には、低圧領域としての吐出室50が区画形成されている。また、センタハウジング13には吐出室50に連通する吐出ポート13gが形成されている。
【0024】
図2に示すように、可動スクロール44の可動側渦巻壁44bと、固定スクロール46の固定側渦巻壁46bとは互いに噛み合わされ、可動スクロール44と固定スクロール46の間に容積変更可能な膨張室47が区画される。また、固定スクロール46における固定側端板46aの中央部には吸入口46cが形成されている。この吸入室48には吸入口46cを介して、膨張機部40の径方向中央に形成された膨張前の膨張室47に連通している。径方向中央の膨張室47に対し、1つの吸入口46cのみが連通するため、膨張室47に作動流体が吸入される際、その吸入容積は固定値になっている。
【0025】
膨張室47に作動流体が吸入された直後において、その膨張室47より径方向外側には、より低圧の膨張室47が区画されている。なお、以下の説明において、説明を容易にするため、吸入口46cに連通する径方向中央の膨張室47を高圧側膨張室47aとし、この高圧側膨張室47aに対し、固定側渦巻壁46bを挟んで径方向外側に隣り合う膨張室47を、高圧側膨張室47aより低圧の低圧側膨張室47bとする。
【0026】
そして、高圧側膨張室47aで作動流体が膨張すると、可動スクロール44が旋回し、高圧側膨張室47aの容積が増大するとともに、駆動軸21も回転する。駆動軸21が一回転し終わると、上記の作動流体は低圧側膨張室47bに移動している。その後、可動スクロール44が旋回する度に上記の作動流体は同じように圧力を下げながら径方向外側へ移動していき、最終的には吐出室50と連通し、膨張した作動流体が吐出室50に流入するようになっている。
【0027】
図1に示すように、上記膨張機部40の固定スクロール46において、固定側端板46aにおける吸入口46cの近傍には、弁室46dが固定側端板46aを厚み方向に貫通して形成されている。この弁室46dは、吸入口46cに近い固定側渦巻壁46bの基端側に形成されるとともに、その固定側渦巻壁46bを跨いでいる。図3(a)及び図3(b)に示すように、弁室46dは、固定側渦巻壁46bを挟んで隣り合う高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを連通させるように形成されている。
【0028】
弁室46dにおいて、吸入室48側の開口部には蓋部材51が固定されるとともに、この蓋部材51により弁室46dと吸入室48との間が気密にシールされている。弁室46d内において、蓋部材51には、圧縮状態のコイルバネよりなる付勢部材52の一端が固着支持されるとともに、この付勢部材52の他端には、弁体としてのスプール53が固着支持されている。スプール53は、弁室46dの内面に沿って摺動するように、弁室46dの内面にガイドされる。また、スプール53は、付勢部材52の付勢力によって固定側渦巻壁46bの基端に向けて押圧されている。
【0029】
図3(a)に示すように、スプール53が、固定側渦巻壁46bの基端に当接した状態では、スプール53により、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bの連通が遮断されている。また、固定スクロール46の固定側端板46aには、吐出室50と弁室46dとを連通させる導入通路46eが形成されている。よって、弁室46d内は、吐出室50と同じ圧力になっており、高圧側膨張室47aよりも低圧になっている。
【0030】
付勢部材52は、膨張機部40に作用する所定の高圧力よりも低い圧力(所定圧)で押し縮められるようになっている。すなわち、高圧側膨張室47aの圧力が、上記所定の高圧力に達する前、高圧側膨張室47aの圧力と吐出室50との圧力の差(差圧)が予め設定された値を越えると、付勢部材52は収縮するように設定されている。
【0031】
図3(b)に示すように、付勢部材52が収縮すると、弁室46dは、高圧側膨張室47a及び低圧側膨張室47bに連通する第1感圧室Faと、吐出室50に連通する第2感圧室Fbとにスプール53によって区画されるようになっている。一方、高圧側膨張室47aの圧力が低下し、高圧側膨張室47aの圧力と吐出室50との圧力の差(差圧)が予め設定された値より低くなると付勢部材52は、押し縮められる前の状態に復帰し、付勢部材52は、スプール53を第1感圧室Fa側へ付勢する。
【0032】
したがって、本実施形態では、スプール53と、付勢部材52と、弁室46dと、から、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを連通させる連通機構Rが構成されている。
【0033】
次に、上記複合流体機械11が組み込まれたランキンサイクル装置60について説明する。図1に示すように、ギヤポンプ30に連通する吐出通路13eには第1流路60aを介して熱交換器62の吸熱器62aが接続されている。熱交換器62は、吸熱器62aに加え放熱器62bを備える。この放熱器62bは、排熱源としてのエンジン64に接続された冷却水循環経路65上に設けられている。冷却水循環経路65上にはラジエータ65aが設けられるとともに、冷却水循環経路65には、排熱源(エンジン64)からの流体としての冷却水が循環するようになっている。
【0034】
熱交換器62における吸熱器62aの吐出側には、第2流路60cを介して膨張機部40における吸入ポート15aが接続されている。膨張機部40の吐出ポート13gには、第3流路60dを介して凝縮器61が接続されている。凝縮器61の吐出側には第4流路60eを介してギヤポンプ30の吸入通路13dが接続されている。そして、ランキンサイクル装置60は、ギヤポンプ30、熱交換器62、膨張機部40、及び凝縮器61をこの順序で接続してなる回路を備える。
【0035】
上記ランキンサイクル装置60において、バッテリ23からの電力がインバータ22を介してモータ・ジェネレータ20に供給されるとモータ・ジェネレータ20が電動機として駆動され、ギヤポンプ30が駆動される。このギヤポンプ30から吐出された作動流体は、吐出通路13eを経由して、第1流路60aから熱交換器62に導出される。
【0036】
そして、熱交換器62において、吸熱器62aと放熱器62bとの間での熱交換により、作動流体がエンジン64からの排熱によって加熱されるとともに、熱エネルギーを受け取る。加熱後の作動流体は、第2流路60cを介して吸入ポート15aから膨張機部40の高圧側膨張室47a(膨張室47)に導入されて膨張し、この膨張により膨張機部40が機械的エネルギー(駆動力)を出力する。そして、この駆動力によって可動スクロール44が旋回し、駆動軸21が回転されるとともにギヤポンプ30が駆動される。そして、本実施形態では、ギヤポンプ30と膨張機部40が、駆動軸21によって直結されており、ギヤポンプ30と膨張機部40とが固定された回転数比で駆動されるようになっている。また、ランキンサイクル装置60において、ギヤポンプ30出口から膨張機部40入口(吸入ポート15a)までが、高圧領域となっている。
【0037】
エンジン64からの排熱量が大きく、膨張機部40からの出力により、駆動軸21が予め設定された所定回転数を越えて回転する場合には、モータ・ジェネレータ20を発電機として機能させて駆動軸21の回転数を抑えるようにする。そして、所定回転数を越える出力は電力に変換され、インバータ22を介してバッテリ23に充電される。
【0038】
膨張を終えて圧力が低下した作動流体は、吐出室50に吐出された後、吐出ポート13gを介して第3流路60dへ吐出される。第3流路60dへ吐出された作動流体は、凝縮器61を通過して液化し、第4流路60eを介して吸入通路13dからポンプ室18に吸入される。そして、膨張機部40からの出力により駆動されるギヤポンプ30により、ポンプ室18に吸入された作動流体は、吐出通路13eを経由して、第1流路60aを介して熱交換器62へ吐出される。以後、上述したように、作動流体は、膨張機部40、凝縮器61、及びギヤポンプ30を流れて、エンジン64が駆動されている間はランキンサイクル装置60の回路を循環する。
【0039】
次に、複合流体機械11の作用について説明する。
さて、駆動軸21が高回転で回転すると、ギヤポンプ30による作動流体の輸送量に対し作動流体の漏れ量が相対的に減少することから、ギヤポンプ30の体積効率が高くなり、ギヤポンプ30出口から膨張機部40入口までの高圧領域の圧力が上昇する。すると、膨張機部40に吸入される作動流体の圧力、すなわち、高圧側膨張室47aの圧力も上昇する。そして、高圧側膨張室47aの圧力が予め設定された所定圧を越え、吐出室50との差圧が予め設定された値より高くなると、高圧側膨張室47aの圧力が付勢部材52の付勢力を上回り、付勢部材52がスプール53を介して押し縮められる。すると、図3(b)に示すように、スプール53が固定側渦巻壁46bの基端から離間して、弁室46d内に第1感圧室Faと第2感圧室Fbが区画されるとともに、第1感圧室Faを介して高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとが連通する。
【0040】
すると、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとから、吸入室48に連通する1つの拡大膨張室47cが形成され、この拡大膨張室47cの容積は、高圧側膨張室47aよりも大きくなり、吸入室48から吸入される作動流体の流量が増加する。すなわち、駆動軸21の一回転あたりにおける膨張機部40での作動流体の輸送量が増加し、ギヤポンプ30出口から膨張機部40入口までの高圧領域の圧力が減少しはじめる。
【0041】
そして、しばらくすると、高圧側膨張室47aの圧力が予め設定された値を下回り、吐出室50との差圧が予め設定された値より低くなると、付勢部材52が押し縮められる前の状態に復帰する。すると、図3(a)に示すように、スプール53が固定側渦巻壁46bの基端に当接して、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとの連通が遮断されるとともに、第1感圧室Faが消失する。
【0042】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ギヤポンプ30と膨張機部40が、駆動軸21によって直結された複合流体機械11において、固定スクロール46に連通機構Rを設けた。そして、駆動軸21の高回転時に高圧領域(ギヤポンプ30出口から膨張機部40入口までの領域)の圧力が上昇し、高圧側膨張室47aの圧力が上昇すると、連通機構Rにより高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを連通させ、吸入室48に連通する拡大膨張室47cを形成するようにした。その結果、吸入室48に連通する膨張室の容積を増大させ、膨張機部40での作動流体の輸送量を高めることで、高圧領域の圧力を低下させ、複合流体機械11に高圧が作用することを防止することができる。したがって、複合流体機械11において、高圧に耐え得るように耐圧設計をする必要が無くなり、複合流体機械11の製造コストを抑えることができる。
【0043】
(2)複合流体機械11において、駆動軸21の高回転時に高圧領域の圧力が上昇し、高圧側膨張室47aの圧力が上昇すると、連通機構Rにより高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを吸入室48に連通させるようにした。よって、高圧側膨張室47aに吸入された作動流体を、吸入室48に連通する膨張室47以外に逃がさないため、熱交換器62で得た熱エネルギーを無駄に捨てることなく、機械的エネルギーへの変換に利用することができる。
【0044】
(3)連通機構Rにより、高圧側膨張室47aを低圧側膨張室47bに連通させ、高圧側膨張室47aを介して低圧側膨張室47bを吸入室48に連通させるようにした。このため、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bを速やかに同圧にすることができ、容積の増大した拡大膨張室47cを速やかに形成することができる。よって、膨張機部40での作動流体の輸送能力を速やかに向上させ、高圧領域の圧力を速やかに低下させることができる。
【0045】
(4)連通機構Rは、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを連通する弁室46d(連通通路)と、弁室46d内に収容されて弁室46fを開閉するスプール53と、スプール53を付勢する付勢部材52と、から構成されている。そして、高圧側膨張室47aと吐出室50の差圧に基づきスプール53を移動させて、弁室46dを開閉することができ、簡単な構成で、吸入室48に連通する膨張室の容積を増大させることができる。
【0046】
(5)弁室46dの第1感圧室Faを高圧側膨張室47a及び低圧側膨張室47bと連通させ、第2感圧室Fbを膨張機部40の吐出室50と連通させた。吐出室50は、膨張機部40で膨張し、圧力が低下した作動流体が最終的に吐出される部屋であり、高圧側膨張室47a及び低圧側膨張室47bとの圧力差が大きい部屋である。よって、第1感圧室Faと第2感圧室Fbとで差圧を生じさせやすくすることができ、高圧側膨張室47aの圧力が所定値に達すると、スプール53を速やかに作動させることができる。
【0047】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、連通機構Rにおいて、スプール53を付勢部材52の伸縮によって作動させ、連通通路(弁室46d)を開閉させたが、これに限らない。図4に示すように、固定スクロール46には、固定側端板46aから固定側渦巻壁46b内まで延びる弁室46fが形成されている。この弁室46fは、蓋部材51によって吸入室48との間が気密にシールされるとともに、弁室46fにおける蓋部材51側には、導入通路46eによって吐出室50の圧力が導入されている。また、弁室46fが形成された固定側渦巻壁46bには、弁室46fと高圧側膨張室47aとを連通させる第1連通流路46hが形成されている。この第1連通流路46hの一端は、弁室46fの最奥に位置する内端面から弁室46fに開口しており、第1連通流路46hの周囲に弁座46kが形成されている。そして、高圧側膨張室47aの圧力が弁室46fに導入されるようになっている。
【0048】
また、固定側渦巻壁46bには、弁室46fと低圧側膨張室47bとを連通させる第2連通流路46mが形成されるとともに、この第2連通流路46mは弁座46kの外周側で弁室46fに開口している。そして、この実施形態では、第1連通流路46hと第2連通流路46mとから、連通通路が形成されている。
【0049】
弁室46f内には、弁体及び付勢部材としてのベローズ66が伸縮可能に固設されている。ベローズ66内には、導入通路46eを介して吐出室50の圧力が導入されるとともに、ベローズ66の外周側には、第1連通流路46hを介して高圧側膨張室47aの圧力が導入されている。また、ベローズ66の先端には弁体としての機能する弁体部66aが設けられ、この弁体部66aはベローズ66の収縮に伴い弁座46kに対し接離可能になっている。
【0050】
ベローズ66は、高圧側膨張室47aに作用する最高の圧力よりも低い圧力(所定圧)で押し縮められるようになっている。すなわち、高圧側膨張室47aの圧力が上記の所定の高圧力に達する前、高圧側膨張室47aの圧力と吐出室50との圧力の差(差圧)が予め設定された値を超えると、ベローズ66は収縮するように設定されている。
【0051】
ベローズ66が収縮すると、弁体部66aが弁座46kから離間するとともに、弁室46fは、高圧側膨張室47a及び低圧側膨張室47bに連通する第1感圧室と、吐出室50に連通する第2感圧室とにベローズ66によって区画されるようになっている。一方、高圧側膨張室47aの圧力が低下し、高圧側膨張室47aの圧力と吐出室50との圧力の差(差圧)が予め設定された値より低くなるとベローズ66は、押し縮められる前の状態に復帰し、弁体部66aを第1感圧室Fa側へ付勢するとともに、弁体部66aを弁座46kに着座させる。したがって、ベローズ66と、弁室46fとから、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを連通させる連通機構Rが構成されている。
【0052】
○ 実施形態において、ポンプ部はギヤポンプ30の他の形態のポンプとしてもよい。
○ 実施形態では、複合流体機械11をランキンサイクル装置60のみに用いたが、複合流体機械11に圧縮部及びクラッチ機構を一体に設けて、冷凍サイクルを並設してもよい。
【0053】
○ 実施形態では、連通機構Rにより、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bとを連通させることで、吸入室48に対し、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bを連通させたが、高圧側膨張室47aと低圧側膨張室47bのそれぞれを吸入室48に同時に連通させ、吸入室48に連通する膨張室47の容積を増大させてもよい。
【0054】
○ 連通機構Rを可動スクロール44に設けてもよい。
○ 排熱源からの流体として、エンジン64の冷却水だけでなく、エンジン64からの排ガスを利用してもよい。
【0055】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記第1感圧室は、前記固定側渦巻壁を厚み方向に挟んで前記高圧側膨張室と低圧側膨張室に跨がるように前記固定側端板に形成されている請求項3に記載の複合流体機械。
【0056】
(ロ)請求項1〜請求項3、及び技術的思想(イ)のうちいずれか一項に記載のランキンサイクル用複合流体機械を備えるランキンサイクル装置。
【符号の説明】
【0057】
Fa…第1感圧室、Fb…第2感圧室、R…連通機構、11…ランキンサイクル用複合流体機械、21…駆動軸、30…ポンプ部としてのギヤポンプ、40…膨張機部、44…可動スクロール、44a…可動側端板、44b…可動側渦巻壁、46…固定スクロール、46a…固定側端板、46b…固定側渦巻壁、46d,46f…弁室、47a…高圧側膨張室、47b…低圧側膨張室、48…吸入室、52…付勢部材、53…弁体としてのスプール、60…ランキンサイクル装置、62…熱交換器、64…排熱源としてのエンジン、66a…弁体としての機能する弁体部、66…付勢部材として機能するベローズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の回転に伴い作動流体を吸入及び吐出するポンプ部と、
前記ポンプ部から吐出された作動流体と排熱源からの流体との間で熱交換させる熱交換器と、
前記熱交換器で熱交換された作動流体の吸入室を備え、固定側端板に固定側渦巻壁が立設されてなる固定スクロール、及び可動側端板に可動側渦巻壁が立設されてなり、前記駆動軸の回転に伴い前記固定スクロールに対して噛み合いながら旋回する可動スクロールを備えるとともに、前記固定スクロールと可動スクロールの間に、前記吸入室に連通する高圧側膨張室、及び前記固定側渦巻壁を挟んで前記高圧側膨張室に隣り合う低圧側膨張室が区画されるスクロール式の膨張機部と、
を有するランキンサイクル装置用複合流体機械であって、
前記吸入室の圧力が所定圧を越えると、前記吸入室に対し、前記高圧側膨張室だけでなく前記低圧側膨張室も連通させる連通機構を前記膨張機部に備えることを特徴とするランキンサイクル用複合流体機械。
【請求項2】
前記連通機構は、前記高圧側膨張室と低圧側膨張室とを連通させる請求項1に記載のランキンサイクル用複合流体機械。
【請求項3】
前記連通機構は、
前記固定スクロールに形成された弁室と、該弁室内に設けられる弁体と、該弁体を付勢する付勢部材と、から構成され、
前記弁室は、前記高圧側膨張室及び前記低圧側膨張室に連通する第1感圧室と、前記低圧側膨張室よりも低圧の領域に連通する第2感圧室とに前記弁体によって仕切られ、前記付勢部材は前記第1感圧室側へ前記弁体を付勢するように前記弁室内に設けられる請求項2に記載のランキンサイクル用複合流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−193639(P2012−193639A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56846(P2011−56846)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)