説明

リアクトル

【課題】 漏洩磁束による渦電流損を大幅に低減し、また工数が少なく容易に製造可能な低製造コストの鉄心を使用するリアクトルを提供すること。
【解決手段】 磁性薄帯を巻成形した巻鉄心からなる継鉄心と、磁性薄帯を打ち抜き積層加工した積鉄心からなる脚鉄心と、コイルとからなるリアクトルにおいて、前記脚鉄心の積層面が前記継鉄心の積層面と直交する配置を有することを特徴とするリアクトル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関する。さらに詳しくは、本発明は、巻鉄心に隔離体すなわちギャップを配置して構成され、ノイズを除去するために、インバータ回路またはコンバータ回路等に用いられるリアクトルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギャップ付き巻鉄心を使用したリアクトルにおいて、近年、スイッチング回路の高周波数化ならびに高調波成分の増加にともない、巻鉄心のギャップを大きくする傾向にある。ところが、ギャップが増大することによって、ギャップからの漏洩磁束も増え、ギャップとその近傍にある巻線との間で発生する銅渦電流損の増大を招いている。
【0003】
この場合、ギャップ分割数を増やして、ギャップ1箇所当たりの間隔を小さくしたり、ギャップと周囲のコイルとの距離を大きくして、漏洩磁束を低減させたり、銅線材として銅箔またはリッツ線などを利用することによって、銅渦電流損の増加に対処している。
【0004】
しかし、このような対策を行っても、鉄損が予想値よりも大きくなることが確認されており、これに対する対策として、磁性薄帯の板厚をさらに薄くしたり、または別の低鉄損磁性薄帯に変えたりすることで対処することができるが、ともに鉄心の価格上昇につながっている。
【0005】
従来技術の例として、以下のものが提案されている。
特許文献1に開示されたものであって、方向性けい素鋼板を放射状に積層して形成される断面円形の複数個のブロック鉄心を磁気的ギャップを介して積み重ねてギャップ付き鉄心脚を構成し、このギャップ付き鉄心脚の周囲に巻線を巻装し、且つギャップ付き鉄心脚の上下に、けい素鋼板を積層して形成した断面矩形のヨーク鉄心を配置し、締付けスタッドによりヨーク鉄心及びギャップ付き鉄心脚を一体的に締付けるようにしたギャップ付き鉄心形リアクトルにおいて、ブロック鉄心の最外側及び最内側の抜板の方向性を主磁束の流れる方向と直角にした、すなわち抜板放射状に積層した円形断面構造としたギャップ付き鉄心形リアクトルが提案されている。
【0006】
特許文献2には、I型のシートコアを積層してなる4ブロックの積層コア4個と、ギャップ、コイルから成るリアクトルにおいて、コイル内側に位置する2個の積層コアとこれと直交して配置される外側に位置する2個の積層コアを構成する各シートコアはそれぞれ異なる板厚にしたリアクトルが開示されている。
【0007】
特許文献3には、配電盤などに用いられる電源用トランスにおいて、4脚磁芯、あるいは5脚磁芯の並列する内部2本あるいは3本の磁芯脚のそれぞれに、複数の巻線素子を貫通させて配線接続して1次巻線と2次巻線を形成して、単相用あるいは3相用電源トランスを構成が提案されている。これは、1次巻線と2次巻線間の静電容量が小さく、また巻線の巻線長が短縮された、高周波雑音の遮断特性が良く、損失が小さく効率が良い。
【0008】
特許文献4には、キャップ付き鉄心リアクトルにおいて、コアユニットを巻鉄心で形成し、この巻鉄心の内周側及び外周側の少なくとも一方に、ギャップ長の2倍以下の幅を有する短冊上鉄板を放射状に配列した構成を開示している。
【0009】
特許文献5には、リアクトルコイル内に配設される主脚鉄心が、磁束の通過方向に介在される空隙を隔てて配設される積層され接着された複数個の部分鉄心から構成されるリアクトル鉄心であって、該部分鉄心が同一幅の薄鋼板を長方形断面に積層した鉄心塊をその積層方向が互いに直交するように配置されるとともに、該鉄心塊は部分鉄心の所定の外輪郭線内に配置され、かつその積層方向の鋼板面が前記外輪郭線の対する法泉と45度以下の角度をなすように配置される構成が開示されている。
【0010】
特許文献6には、磁気回路を形成するための鉄心であって、環状の巻き鉄心部材を分断してなる一対のC字状分割鉄心片の切断面の間に、直方体状の積層鉄心片を介在させて、ループ状の磁路を形成した鉄心が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平4−116812号
【特許文献2】特開平11−238630号
【特許文献3】特開2003−197437号
【特許文献4】実開昭57−83723号
【特許文献5】実開昭59−11430号
【特許文献6】特開2004−87668号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された構成においては、フリンジング磁束の流れが鉄心の最外側及び最内側でけい素鋼板の方向性と一致するので、磁束が流れ易くなり、よってその部分の鉄損を低減することができる。一方、抜板を放射状に積層して鉄心を製作するのに手間がかかり工数が増大して、製造コストが高い問題がある。
【0013】
特許文献2に開示された構成においては、リアクトルの磁路を形成するコアのうち磁束密度の低い部分に、コストの安い材料を使用することにより、リアクトルの特性をあまり損なうことなく、すなわち損失や温度上昇をあまり大きくすることなしにローコストなリアクトルを製作することができる。一方、積層コアの構成により形成されるギャップは4箇所しか得られず、ギャップの分散化を図ることができない問題があり、またギャップがコイルの外部に配置されるために、漏洩磁束が大きく、コア及びコイルの渦損失が大きい問題がある。
【0014】
特許文献3に開示された構成においては、1次巻線と2次巻線間の静電容量が小さく、また巻線の巻線長が短縮された、高周波雑音の遮断特性が良く、損失が小さく効率の良い。しかし、この電源用トランスは、商用周波数の通電条件から、漏洩磁束による渦電流損は小さく、直交配置の効果はない。一方、高周波雑音の遮断性能については、巻線素子の1次、2次間のシールドにより効果を得ており、積層面の直交によるものではない。
【0015】
特許文献4に開示された構成においては、抜板を放射状に積層して鉄心を製作するのに、手間がかかり工数が大きくなる問題がある。
【0016】
特許文献5に開示された構成においては、各種寸法の異なる抜板を積層するため、手間がかかり、工数が多くなる問題がある。
【0017】
特許文献6に開示された構成においては、継鉄心と脚鉄心の積層面が、それぞれ直交していないので、ギャップからの漏洩磁束による渦電流鉄損が大きい問題がある。
【0018】
(発明の目的)
本発明は、従来のリアクトル等に関する上述した問題点に鑑みてなされたものであって、漏洩磁束による渦電流損を大幅に低減したリアクトルを提供することを目的とする。
本発明はまた、工数が少なく容易に製造可能な低製造コストの鉄心を使用するリアクトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、磁性薄帯を巻成形した巻鉄心からなる継鉄心と、磁性薄帯を打ち抜き積層加工した積鉄心からなる脚鉄心と、コイルとからなるリアクトルにおいて、前記脚鉄心の積層面が前記継鉄心の積層面と直交する配置を有することを特徴とするリアクトルである。
【0020】
本発明の実施態様は以下のとおりである。
前記脚鉄心が、隔離体を具備した樹脂ケースの中に打ち抜き短冊加工された磁性薄帯を積層した構造であることを特徴とする。
前記脚鉄心が、打ち抜き短冊加工された磁性薄帯を積層したものをインサートモールドによって一体成形したことを特徴とする。
前記脚鉄心が、隔離体を具備していることを特徴とする。
前記リアクトルが、鉄心を締め付け固定用の非金属性バンドを有していることを特徴とする。
【0021】
従来の巻鉄心構造の場合、薄帯表面がギャップ近傍の鉄心脚の内側面ならびに外側面に位置するため、その部分から漏れ出す磁束による渦電流損を防ぐことが困難であった。そこで、本発明は、薄帯の積層面が鉄心脚の内側面および外側面に位置するように、すなわち、継鉄心の積層面と直交する構造にすることによって、鉄心脚の内側面または外側面を貫く漏洩磁束が生じても、渦電流損の増加を大幅に低減させることができる。具体的に、磁性薄帯を積層構造に形成した積鉄心構成とし、継鉄心は、従来どおり磁性薄帯を巻成形して得られる巻鉄心であり、脚鉄心の積層面は、継鉄心の積層面と直交するように配置する。
【0022】
本発明にかかる脚鉄心は、板厚の薄い短冊形状のものを積層配置しなければならないため、容易に積層形成できることが望ましい。この方法として、隔離体を具備した樹脂製ケースを作製し、その中に打ち抜き短冊加工された磁性薄帯を積層配置した後、テーピング等により固定し、さらに、ワニス樹脂等により真空含浸・硬化する。または、打ち抜き短冊加工された磁性薄帯の積層したものを、インサートモールドによって隔離体も具備した一体成形によっても形成することができる。
【0023】
従来の隔離体付き巻鉄心の固定方法については、鉄心外周をステンレスなどの非磁性の金属製バンドで締め付け固定している。そのため、この従来の隔離体付き巻鉄心を本発明に使用する場合、脚鉄心の外側積層面上にバンドの金属表面が位置することになり、鉄心脚の外側表面を貫いて漏れ出す漏洩磁束の影響を考慮すると、このバンドによる渦電流損の発生も無視できないと考えられる。従来の金属製バンドでなく、非金属性の絶縁物からなるバンドにすることにより、より効率的に上記目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリアクトルは、漏洩磁束による渦電流損を大幅に低減したリアクトルを構成できる効果を有する。
本発明のリアクトルによればまた、工数が少なく容易に製造可能な低製造コストの鉄心を使用するリアクトルを構成できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態のリアクトルを以下の図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態のリアクトル1は、図1に示すように、板厚0.1mmの方向性電磁鋼板を積層した一対の継鉄心(巻鉄心)10、12と、板厚0.1mmの方向性電磁鋼板を積層したニ対の脚鉄心(積鉄心)14、16、18、20と、エポキシガラスを積層した厚さ2.0mmで一対の第1隔離体22、24と、エポキシ樹脂含浸テープで厚さ0.08mmの4枚の第2隔離体30、32、34、36とを有する。第1隔離体22、24は、脚鉄心(積鉄心)14、16、18、20の間に隙間なく挟み込まれている。第2隔離体30、32、34、36は、継鉄心(巻鉄心)10、12と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20との間に隙間なく挟み込まれている。継鉄心(巻鉄心)10、12の積層面と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20の積層面とは、直交している。
【0026】
継鉄心(巻鉄心)10、12と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20の脚部は、両者を相互に位置決めするための、エポキシガラス積層板からなる一対の樹脂ケース40によって覆われている。組み立てられた継鉄心(巻鉄心)10、12と、脚鉄心(積鉄心)14、16、18、20と、第1隔離体22、24と、第2隔離体30、32、34、36は、周囲をSUS304ステンレス製のベルト38によって締め付けられている。各樹脂ケース40の外側には、リッツ線を巻いたコイル44が配置されている。図1に、mm単位の概略寸法を示す。
【0027】
リアクトルの損失は、12KHzの正弦波電圧115Vをリアクトルのコイル間に印加し、接続した電力計から測定している。なお、測定精度向上のために、コンデンサを接続し、力率が1となるように調整している。第1実施形態の損失は、11.3Wであった。
【0028】
(第2実施形態)
第2実施形態のリアクトル100は、図2に示されるが、第1実施形態のリアクトル1と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。組み立てられた継鉄心(巻鉄心)10、12と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20と、第1隔離体22、24と、第2隔離体30、32、34、36は、周囲を樹脂製バンド138によって締め付けられている。図2に、mm単位の概略寸法を示す。第2実施形態のリアクトルの損失は、10.5Wであった。
【0029】
(第1比較例)
第1実施形態に対応する第1比較例のリアクトル200は、第1実施形態のリアクトル1と比較するためのものであって、図3に示されるが、第1実施形態のリアクトル1と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。継鉄心(巻鉄心)10、12の積層面と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20の積層面とは、平行である。継鉄心(巻鉄心)10、12と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20の脚部を覆う樹脂ケース等は設けてない。図3に、mm単位の概略寸法を示す。第1比較例のリアクトルの損失は、12.4Wであった。
【0030】
(第2比較例)
第2実施形態に対応する第2比較例のリアクトル300は、第2実施形態のリアクトル100と比較するためのものであって、図4に示されるが、第2実施形態のリアクトル100と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。継鉄心(巻鉄心)10、12の積層面と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20の積層面とは、平行である。継鉄心(巻鉄心)10、12と、脚鉄心(積鉄心)14,16、18、20の脚部を覆う樹脂ケース等は設けてない。図4に、mm単位の概略寸法を示す。第2比較例のリアクトルの損失は、12.8Wであった。
【0031】
本発明のリアクトルの性能を従来例の性能と比較するために、本発明の前記実施形態に対応した従来技術のリアクトルを作成して、測定した。
(従来技術)
従来技術のリアクトル400は、図5に示されるが、継鉄心(巻鉄心)が一分割である。
【0032】
従来技術のリアクトル400は、板厚0.1mmの方向性電磁鋼板を積層した一対の巻鉄心410、412と、エポキシガラスを積層した厚さ2.5mmで一対の第3隔離体422、424とを有する。第3隔離体422、424は、巻鉄心410、412の間に隙間なく挟み込まれている。巻鉄心410、412の積層面は、互いに平行である。
【0033】
巻鉄心410、412の脚部は、樹脂ケース等によって覆われていない。組み立てられた一対の巻鉄心410、412は、周囲をSUS304ステンレス製のベルト438によって締め付けられている。巻鉄心410、412の脚部の周囲には、リッツ線を巻いたコイル444が配置されている。図5に、mm単位の概略寸法を示す。従来技術のリアクトルの損失は、15.9Wであった。
【0034】
本発明の実施形態において、第1隔離体を2ヶ所に設けたが、合計の隔離距離を変えずに第1隔離体を2ヶ所以上、例えば4ヶ所にした場合は、損失が更に低下する。従って、本発明は、第1隔離体を2ヶ所に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態のリアクトルの平面説明図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施形態のリアクトルの平面説明図である。
【図3】図3は、本発明の第1比較例のリアクトルの平面説明図である。
【図4】図4は、本発明の第2比較例のリアクトルの平面説明図である。
【図5】図5は、本発明の従来技術のリアクトルの平面説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 リアクトル
10、12 継鉄心(巻鉄心)
14、16、18、20 脚鉄心(積鉄心)
22、24 第1隔離体
30、32、34、36 第2隔離体
38 バンド
40 樹脂ケース
44 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性薄帯を巻成形した巻鉄心からなる継鉄心と、磁性薄帯を打ち抜き積層加工した積鉄心からなる脚鉄心と、コイルとからなるリアクトルにおいて、前記脚鉄心の積層面が前記継鉄心の積層面と直交する配置を有することを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記脚鉄心が、隔離体を具備した樹脂ケースの中に打ち抜き短冊加工された磁性薄帯を積層した構造であることを特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項3】
前記脚鉄心が、打ち抜き短冊加工された磁性薄帯を積層したものをインサートモールドによって一体成形したことを特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項4】
前記脚鉄心が、隔離体を具備していることを特徴とする請求項3記載のリアクトル。
【請求項5】
前記リアクトルが、鉄心を締め付け固定用の非金属性バンドを有していることを特徴とする請求項1記載のリアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−100513(P2006−100513A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283804(P2004−283804)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(501398709)神戸電機産業株式会社 (1)
【出願人】(597005587)株式会社エス・エッチ・ティ (26)
【出願人】(000230869)日本金属株式会社 (29)