説明

リガンド漏出防止のための複数の媒体によるアフィニティーカラム

アフィニティー型の精製において、充填層から解離したリガンドは、充填層の下流の多孔性バリアに存在する第2のリガンドによって捕捉される。そうでなければ、解離したリガンドは、精製されている種を含む溶液中に漏出する。第2のリガンドは、液体サンプル由来の種、またはアフィニティーカラムにおける精製が求められている種以外の供給源の液体の、第2のリガンドによる望まれない保持を防ぐために十分な特異性で、解離した第1のリガンドとのアフィニティー型の相互作用を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、アフィニティークロマトグラフィーの分野内に存在し、固定相としての支持体にカップリングしたリガンドの不安定な特性から生じる問題に対処する。
【背景技術】
【0002】
(2.先行技術の説明)
アフィニティークロマトグラフィーは、生物学的サンプル中の成分を分離および検出するため、ならびに、臨床サンプル、細胞増殖培養物、または種が生産されるかもしくは抽出され得る任意の媒質(medium)からの生物学的種または組換えの種の単離または精製のために広く使用されている。アフィニティークロマトグラフィーは、固定相としてのリガンドが結合しているカラムまたは膜に、目的の種を含む液体の媒質を通すことによって一般的に実施され、リガンドは、目的の種がアフィニティー型相互作用によって結合するものである。単離および精製に使用されているアフィニティークロマトグラフィーはまた、「アフィニティー抽出」と呼ばれ、この型の抽出における種−リガンド相互作用は、供給源の液体中の目的の種と他の種との間を区別するために十分な特異性で起こるものである。アフィニティー抽出技術としては、リガンドが抗体である免疫抽出;コムギ胚芽アグルチニン、コンカナバリンA、プロテインA、およびプロテインGなどのリガンドを用いたタンパク質−タンパク質抽出;ならびにヘパリンまたは核酸などの非タンパク質種を含む相互作用が挙げられる。一旦、目的の種が、アフィニティー相互作用の結果として、結合リガンドによって固定化されると、リガンドおよびその支持体は、結合していない種を除去するため洗浄され、その後、結合した種はリガンドから放出させられる。放出は、pHの変化などの条件における適切な変化、または界面活性剤、カオトロープ(chaotrope)、塩、競合的結合種、もしくはリガンドに対する種の結合アフィニティーに打ち勝つか、それを小さくする任意の薬剤の導入によってもたらされる。特定のシステムにおいて結合した種を放出するために効果的である変化の型は、アフィニティークロマトグラフィーの分野で周知である。
【0003】
リガンドは、典型的には、タンパク質、または共有結合によって固体支持体にカップリングして固定相を形成する他のアフィニティー結合種であり、支持体は、しばしば、共有結合を容易にするために活性化されている。活性化は、一般に、支持体表面上での反応基(その一例は、エポキシド基である)の配置を含む。しかし、リガンドと支持体との間の結合は、典型的には不安定であり、このことは、サンプルおよび他の液体が媒体(medium)を通るときに、リガンドが支持体から解離する傾向をもたらす。平衡の単なるシフトによる解離に加えて、解離はまた、リガンドそれ自体の酵素的または化学的分解の結果によっても起こり得る。プロセスストリームにおけるプロテアーゼは、タンパク質アフィニティーリガンドのタンパク質分解を引き起こし得、例えば、エンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼは、核酸リガンドの切断を引き起こし得る。この解離の結果として漏出する(leach)リガンドの量は、支持体上に残存しているリガンドの量と比較して、少量であるかもしれないが、少量の漏出リガンドでさえ、媒体から溶出された、そうでなければ精製された種に深刻な汚染をもたらし得る。生物学的に誘導されたかまたは組換え化学によって生産されたかのいずれかである治療剤が、漏出アフィニティーリガンドで汚染された場合、漏出リガンドは、治療剤と再結合し得、それにより、治療剤の効果を妨げるか、または、膜、細胞壁、もしくは酵素などの患者の身体中の他の種もしくは組織と結合するかもしくはこれらの機能を妨げ、害を引き起こし得る。例えば、コンカナバリン(concavalin)Aは、リソソーム酵素調製物を精製するために使用されているアフィニティーリガンドであるが、アフィニティーカラムから漏出し、酵素調製物を汚染すること、特に酵素調製物が投与される患者においてT細胞を活性化することが公知である。この型の汚染を取り除くためには、漏出リガンドを除去しなければならず、これは、典型的には、アフィニティーカラムまたは膜の下流での分離によって実施される。これは、調製に対する費用および時間を増加させる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(本発明の概要)
本発明は、カラムに液体を通す間に解離した、カラム由来の漏出リガンドまたはリガンドの漏出セグメントによる、媒質中の精製された種の汚染を防止し、それを行うために、アフィニティーカラムの下流での分離を必要としない、アフィニティーカラムおよびその使用のプロセス中にある。カラムは、結合/溶出様式で作動する貫流カラム、および貫流様式で作動する充填層の下流の多孔性バリアであり、両方とも結合リガンドの支持体として機能する。充填層に結合したリガンドは、溶質(すなわち、サンプルから抽出される種)に結合するリガンドであり、多孔性バリアに結合したリガンドは、第1の(溶質結合)リガンドの分子または第1のリガンドのセグメント(これらは、充填層から解離されるようになる)に選択的に結合するリガンドである。両リガンドは、アフィニティー型相互作用によってそれぞれの結合パートナーと結合する。したがって、溶質結合リガンドは、最初は、共有結合によって固定相に固定化されているが、リガンドの漏出した分子は、同じカラム内でアフィニティー結合によって捕捉される。したがって、単一カラムが、目的の種を単離するためと、汚染物質を除去する(そうでなければ、汚染物質は、アフィニティー媒体それ自体の中で生じる)ための両方の機能を果たす。
【0005】
本発明の、これらおよび他の特徴、利点、および目的に関する詳細は、以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図は、本発明に記載のアフィニティーカラムの例の断面である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本発明の詳細な説明および好ましい実施形態)
充填層中に存在し、本発明の実施において抽出が求められている種を捕捉するリガンド(複数可)を、本明細書において「第1のリガンド」と呼び、第1のリガンドの漏出分子を捕捉するリガンド(複数可)を表す「第2のリガンド」から区別する。第1のリガンドとしては、アフィニティークロマトグラフィーにおいて使用される多種多様な任意のリガンドが挙げられ、好ましくは、アフィニティー抽出のための固定相として、文献で開示されているもの、または臨床試験所、研究試験所、もしくは生産施設で使用されているものである。第1のリガンドは、タンパク質リガンド、多糖、またはアフィニティー結合に関与する他の分子であり得る。レクチンは、多糖、糖タンパク質、糖脂質などの炭水化物のある型を抽出するために効果的である第1のリガンドとして有用なリガンドの例である。具体的なレクチンとしては、コンカナバリンA、コムギ胚芽アグルチニン、ジャカリン、ならびに、サヤエンドウ、ピーナッツ、およびダイズに見られるレクチンが挙げられる。免疫グロブリンの多くの型の定常領域への結合において有用なプロテインAおよびプロテインGは、第1のリガンドとして有用なリガンドのさらなる例である。プロテインAおよびプロテインGの両方の結合挙動を示すリガンドは、プロテインA/Gとして公知の組換えタンパク質であり、これも、第1のリガンドとして有用である。上記のように、免疫抽出において、第1のリガンドは、抗体(例えば、モノクローナル抗体)または抗体の断片である。これらのリガンドを用いた免疫抽出によって精製される種の例には、抗イディオタイプ抗体、グルコサッカリド(glucosaccharide)、顆粒球コロニー刺激因子、ヒト血清アルブミン、IgG、IgE、インターフェロン、腫瘍壊死因子、インターロイキン、組換え第VIII因子、およびトランスフェリンがある。第1のリガンドのなおさらなる例には、非タンパク質リガンドがある。これらの例はアプタマーおよびヘパリンである。アプタマーは、抗体型相互作用を示し、アデノシンへのアフィニティー型結合について、およびキラル分離について公知であり、一方、ヘパリンは、あるリポタンパク質の精製について有用である。
【0008】
第1のリガンドの解離した分子を捕捉し、それらの分子が生成物中へ漏出することを防止する第2のリガンドは、第1のリガンドに対するアフィニティー結合特異性で選択され、したがって、その選択は第1のリガンドによって左右されるか、指定される。したがって、第2のリガンドとして使用するのに適した種の例としては、モノクローナル抗体、タンパク質、小ペプチド、アプタマー、ならびにトリアジンおよびボロナートなどの有機種が挙げられる。第2のリガンドは、好ましくは、目的の種を含む液体混合物中の他の種(他の方法で、解離して媒体から漏出する第1のリガンド分子以外)と結合しないものである。
【0009】
第1のリガンドが結合している充填層は、アフィニティークロマトグラフィーにおいて固定相支持体として機能し得る任意の粒子状材料の層である。例としては、ビーズ、ファイバー、および顆粒がある。ビーズ(硬い固体から作られていようとも、ゲルのような半固体から作られていようとも)が、好ましい。粒子サイズは、本発明にとって重要ではなく、広範に変動し得る。多くの場合、最も良い結果は、約20ミクロンから約250ミクロンの直径範囲のビーズを用いて得られる。同様に、多孔性バリアは、アフィニティークロマトグラフィーにおいて固体相についての支持体として機能し得る任意の材料から作られ得るが、カラムの断面全体に広がり得るディスクまたはシートに形成され得るものであり得る。例としては、フリット、グリッドまたはフリットに支持されているフィルム、および膜がある。膜が好ましい。孔サイズは、広範に変動し得、同様に、本発明にとって重要ではなく、その選択は、システムの他の成分およびスループット速度に依存し、このことは当業者には容易に明らかとなる。多くの場合、最も良い結果は、約0.5ミクロンから約20ミクロンの孔サイズ範囲で達成されるようである。同様に、バリアの厚さは、必要であれば選択でき、日常の実験の問題である。バリアの外側の寸法、およびカラム中にバリアを固定する手法は、バリアの周りでの流体のいかなるバイパスも防止するように選択する。したがって、バリアは、ガスケット、o−リング、または同様の従来の成分によって適切な位置に保持され得る。
【0010】
リガンドは、従来のカップリング化学によって、それぞれの支持体にカップリングされ得、典型的には、支持体は、カップリングのために活性化されるか、または官能化(functionalize)される。エポキシド基による官能化は、その一例である。結合の型の例としては、エーテル結合、チオール結合、アミノ結合、カルボキシル結合、およびアルデヒド結合がある。第1のリガンドおよび第2のリガンドの相対量は、第1のリガンドの、既知の解離率または推測される解離率に基づいて選択でき、第1のリガンド、および第1のリガンドを充填層中の粒子へとつなぐ結合の型によって様々であり得る。これらのパラメーターは、当業者に公知であるか、または日常の実験によって容易に決定できる。
【0011】
目的の溶質を含む供給源の液体は、先行技術において使用されるアフィニティー抽出カラムと同様の手法において、上述の説明に合致するアフィニティーカラムに通すことができる。カラム中に供給源の液体を流すことは、溶質が充填層上のリガンドに結合することを可能にする条件下で実施される。そのような条件は、同様に当該分野において公知であり、例えば、pH、イオン強度、接触時間、および、液体相中での他の成分の存在または不存在などのパラメーターが挙げられる。一旦、結合が起こると、結合しなかった種は、溶質の解離を引き起こさずに充填層から結合しなかった種を除去する従来の洗浄媒質を用いて、カラムから洗い出される。一旦、洗浄が完了すると、結合した溶質は、関係している種に最も適している解離条件に充填層を曝露することによって、充填層から解離させられ、収集される。上記のように、解離条件は、pHの変化、または界面活性剤、カオトロープ、塩、もしくは競合的結合種の導入であり得る。結果物は、供給源の液体中の他の溶質と比較して精製されている溶質の溶液である。「〜と比較して精製されている」という表現は、本明細書で使用され、アフィニティー媒体から回収された目的の溶質の濃度は、供給源の溶液中の目的の溶質の濃度と同じであるか、それより高いか、またはそれより低い可能性があるが、供給源の溶液中にもともと存在していた他の溶質は、濃度が顕著に低下しているか、検出レベル未満の濃度まで低下しているか、または完全に取り除かれているかのいずれかであることを意味する。
【0012】
本発明によるアフィニティーカラムの例を添付の図に示す。カラム11は、環状断面を有する管状カラムであり、図は、カラムの軸を含む平面に沿った断面である。カラムを通る流れの方向は、矢印12によって示されている。カラムは、円柱ハウジング13およびビーズの充填層14からなる。溶質結合(第1の)リガンドは、ビーズの表面に共有結合によって結合している。ビーズは、多孔性バリアとして機能する液体透過膜15の上にある。解離した溶質結合リガンドと結合するリガンドは、共有結合で膜と結合している。膜15は、内部リングまたはフランジ16によって支持されており、膜の周囲は、o−リング17によってハウジングの壁に対して密閉されている。
【0013】
添付の特許請求の範囲で用いる場合、用語「1つの(aまたはan)」は、「1つまたは複数の」を意味することを意図する。用語「含む(comprise)」およびその変化型、例えば、「含む(comprisesおよびcomprising)」は、工程または要素の説明の後にある場合、さらなる工程または要素の追加を選択でき、それらが排除されないことを意味することを意図する。本明細書に引用する全ての特許、特許出願、および他の刊行された参照材料は、本明細書によって、その全容が参照によって本明細書に援用される。本明細書に引用された任意の参照材料と、本明細書の明白な教示との間の任意の相違は、本明細書中の教示を選ぶことで解決することを意図する。これは、単語または語句の当該分野で理解されている定義と、同じ単語または語句の本明細書において明白に述べられている定義との間での任意の相違を含む。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプルから溶質を抽出するためのアフィニティーカラムであって、
貫流管状ハウジングであって、該ハウジングを通る流れの方向を規定している、ハウジング、
固体粒子状支持体材料の充填層であって、該固体粒子状支持体材料に固定化された第1のリガンドを有し、該第1のリガンドは、アフィニティー型結合によって該溶質と選択的に結合する、層、および
該流れの方向において該充填層の下流の部位で、該ハウジングに広がっている多孔性バリアであって、該多孔性バリアに固定化された第2のリガンドを有し、該第2のリガンドは、該固体粒子状支持体材料からの該第1のリガンドの分子または該分子のセグメントの放出に際し、該分子またはセグメントにアフィニティー型結合によって選択的に結合する、多孔性バリア
を含む、カラム。
【請求項2】
前記固体粒子状支持体材料がビーズである、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項3】
前記多孔性バリアが膜である、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項4】
前記固体粒子状支持体材料がビーズであり、前記多孔性バリアが膜である、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項5】
前記第1のリガンドおよび前記第2のリガンドが、それぞれ、前記固体粒子状支持体材料および前記多孔性バリア上に、共有結合によって固定化されている、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項6】
前記第1のリガンドが、レクチン、ヘパリン、プロテインA、およびプロテインGからなる群より選択されるメンバーである、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項7】
前記第2のリガンドが、モノクローナル抗体、アプタマー、トリアジン、およびボロナートからなる群より選択されるメンバーである、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項8】
前記第1のリガンドが、レクチン、ヘパリン、プロテインA、およびプロテインGからなる群より選択されるメンバーであり、前記第2のリガンドが、モノクローナル抗体、アプタマー、トリアジン、およびボロナートからなる群より選択されるメンバーである、請求項1に記載のアフィニティーカラム。
【請求項9】
液体サンプルから溶質を抽出するためのプロセスであって、
(a)該溶質の第1のリガンドへの結合を引き起こす条件下で、流れの方向に沿って、請求項1に記載のアフィニティーカラムに該液体サンプルを通す工程、
(b)該アフィニティーカラムに洗浄溶液を通すことによって、充填層を洗浄する工程であって、その間、該溶質は、確かに結合している、工程、および
(c)該液体サンプル中の他の溶質と比較して精製された形態において、アフィニティー媒体から該溶質を解離させる工程
を含む、プロセス。
【請求項10】
前記固体粒子状支持体材料がビーズである、請求項9に記載プロセス。
【請求項11】
前記多孔性バリアが膜である、請求項9に記載プロセス。
【請求項12】
前記固体粒子状支持体材料がビーズであり、前記多孔性バリアが膜である、請求項9に記載プロセス。
【請求項13】
前記第1のリガンドおよび前記第2のリガンドが、それぞれ、前記固体粒子状支持体材料および前記多孔性バリア上に、共有結合によって固定化されている、請求項9に記載プロセス。
【請求項14】
前記第1のリガンドが、レクチン、ヘパリン、プロテインA、およびプロテインGからなる群より選択されるメンバーである、請求項9に記載プロセス。
【請求項15】
前記第2のリガンドが、モノクローナル抗体、アプタマー、トリアジン、およびボロナートからなる群より選択されるメンバーである、請求項9に記載プロセス。
【請求項16】
前記第1のリガンドが、レクチン、ヘパリン、プロテインA、およびプロテインGからなる群より選択されるメンバーであり、前記第2のリガンドが、モノクローナル抗体、アプタマー、トリアジン、およびボロナートからなる群より選択されるメンバーである、請求項9に記載プロセス。

【公表番号】特表2012−528331(P2012−528331A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513103(P2012−513103)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/035197
【国際公開番号】WO2010/138337
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(595154074)バイオ−ラド ラボラトリーズ インコーポレイテッド (12)