説明

リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置

【課題】糖化前処理によりリグニンが解離されたバイオマスを短い周期で効率的に得る装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2の処理装置2a,2bは、それぞれ処理槽5a,5b、アンモニア水供給手段6、混合手段8a,8b、加熱手段18a,18b、アンモニア分離手段4a,4b、及び排出手段9a,9bを有する。第1及び第2の処理装置2a,2bは、交互に糖化前処理を行う。アンモニア分離手段4a,4bは、処理槽5a,5bの一方で放散されたアンモニアを処理槽5a,5bの他方に移送する。移送されたアンモニアガスを水供給手段7により供給された水に溶解する。ヒートポンプ手段19が、溶解熱を加熱手段18a,18bに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基質として、稲藁等のリグノセルロース系バイオマスを、微生物が産生する糖化酵素によって糖化し、得られた糖を発酵させることによりエタノールを製造することが知られている。ここで、前記リグノセルロース系バイオマスは、セルロース又はヘミセルロースにリグニンが強固に結合した構成を備えているため、そのままでは該セルロースに対する酵素糖化を行うことが難しい。従って、前記糖化には、前記リグノセルロース系バイオマスを前処理し、該リグノセルロース系バイオマスに含まれるリグニンを解離し、又は該リグノセルロース系バイオマスを膨潤させた糖化前処理物が用いられている。
【0003】
本願では、「解離」との用語は、セルロース若しくはヘミセルロースとリグニンとの結合の少なくとも一部を切断することを意味する。また、「膨潤」との用語は、液体の浸入によって結晶性セルロースを構成するセルロース若しくはヘミセルロースに空隙を生じ、又はセルロース繊維の内部に空隙を生じて、該結晶性セルロースが膨張することを意味する。
【0004】
前記従来のエタノール製造方法を実施するための装置として、前記リグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して得られた混合物を加熱する単一の処理槽を備え、該処理槽によりバッチ式に糖化前処理する処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1記載の装置によれば、前記リグノセルロース系バイオマスを0.8〜15重量%の濃度のアンモニア水に分散し、加熱することにより、該リグノセルロース系バイオマスからリグニンを解離し、又は該リグノセルロース系バイオマスを膨潤させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−535524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを解離する糖化前処理がバッチ方式になるため、連続して糖化前処理することができないという不都合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、糖化前処理によりリグニンが解離されたバイオマスを連続して効率よく得ることができるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基質としてのリグノセルロース系バイオマスを収容する処理槽と、前記処理槽にアンモニア水を供給するアンモニア水供給手段と、前記基質に、前記アンモニア水を添加し、混合することにより基質混合物とする混合手段と、前記基質混合物を加熱して、前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させて糖化前処理物とする加熱手段と、前記糖化前処理物から放散されるアンモニアガスを分離して糖化前処理物とするアンモニア分離手段と、前記処理槽から糖化前処理物を排出する排出手段とをそれぞれ備える第1の処理装置及び第2の処理装置と、前記アンモニア分離手段により分離されたアンモニアガスを水に溶解させてアンモニア水として回収するアンモニア回収手段とを備えるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置であって、前記第1の処理装置と前記第2の処理装置とは、交互にリグノセルロース系バイオマス糖化前処理を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、各処理装置の処理槽内には、基質としてのリグノセルロース系バイオマスが収容されており、さらにアンモニア水供給手段によりアンモニア水が供給される。次に、各処理装置の処理槽では、前記基質は、前記アンモニア水が混合手段により添加され、混合されることにより基質混合物となる。次に、基質混合物は、加熱手段により、アンモニアを大気中に放散させずに加熱処理されて糖化前処理物となる。この結果、前記糖化前処理物は、アンモニア水によりリグニンが解離し、又は該基質が膨潤され、後工程において糖化酵素分子がセルロース又はヘミセルロースに接触しやすくなり、セルロース又はヘミセルロースを容易に糖化することが可能になる。
【0011】
その後、糖化前処理物は、アンモニア分離手段により、加熱されて放散されたアンモニアガスが分離される。そして、糖化前処理物は、排出手段により処理槽から排出されて、後工程に移送される。
【0012】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、第1の処理装置及び第2の処理装置を備えており、各処理装置は、交互にバイオマスの糖化前処理を行う。従って、バイオマスからリグニンを解離させた糖化前処理物を交互に得ることができ、該糖化前処理物を連続的に後工程に供給することにより、効率よく処理することができる。
【0013】
ところで、前記従来のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、糖化前処理を行った糖化前処理物からアンモニア水を分離するアンモニア分離手段を備えている。このアンモニア分離手段は、前記糖化前処理物からアンモニアを放散させた後、得られたアンモニアガスを吸収塔により水に吸収させてアンモニア水とすることにより、アンモニアを回収し、再利用する。
【0014】
しかしながら、このような構成を本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置に適用すると、各処理槽で分離したアンモニアガスを吸収塔において吸収してアンモニア水とした後、再び各処理槽にアンモニア水を分配する必要があり、さらに効率をよくすることが望まれる。
【0015】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、前記アンモニア分離手段は、前記加熱手段により加熱することによって前記糖化前処理物から放散されるアンモニアガスを他方の前記処理装置の処理槽に移送するアンモニアガス移送手段が設けられており、前記アンモニア回収手段は、前記第1の処理装置及び第2の処理装置の処理槽に水を供給する水供給手段が設けられており、前記アンモニアガス移送手段により前記第1の処理装置又は前記第2の処理装置の処理槽に移送されたアンモニアガスを、前記水供給手段により供給された水に溶解して、アンモニア水とすることができる。
【0016】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、第1の処理装置において、上述したように基質混合物が加熱手段により加熱処理されることにより、前記基質からリグニンが解離され、又は該基質が膨潤する。このとき、第2の処理装置の処理槽には、リグノセルロース系バイオマスが収容され、さらに水供給手段により水が供給される。
【0017】
第1の処理装置では、前記加熱処理により、アンモニアガスを大気中に放散させずに前記加熱処理を所定の時間行った後、該加熱を維持することにより、アンモニアを気化して前記糖化前処理物から分離する。そして、分離されたアンモニアをアンモニアガス移送手段により、第2の処理装置の処理槽に移送する。第2の処理装置の処理槽には、水が供給されているため、移送されたアンモニアガスは、該水に溶解される。
【0018】
このとき、第1の処理装置では加熱処理によりアンモニアガス及び水蒸気が放散され、第2の処理装置では該アンモニアガスが水に溶解すると共に、該水蒸気が冷却されることにより凝縮する。従って、アンモニアガス移送手段によれば、アンモニアガス及び水蒸気がヒートパイプの作動液と同様の原理により移動するため、ポンプやコンプレッサーなどの動力機器を用いなくてもよい。
【0019】
アンモニアガス移送手段により、糖化前処理物からアンモニアが十分に分離されると、加熱手段とアンモニアガス移送手段が停止される。そして、第1の処理装置から、リグニンが解離されたバイオマスが排出手段により排出され、後工程に移送される。
【0020】
次に、第1の処理装置では、バイオマスが後工程に移送された処理槽に、新たなリグノセルロース系バイオマスが収容されると共に、水供給手段により水が供給される。また、第2の処理装置では、アンモニア水供給手段により処理槽にアンモニア水が供給されて、第1の処理装置における糖化前処理する前のアンモニア水濃度となるように調整される。
【0021】
このようにすることにより、第1の処理装置と、第2の処理装置とは、それぞれ処理槽に収容されている内容物が互いに入れ替わっていることを除き、糖化前処理する前の状態に復帰する。従って、第1の処理装置と、第2の処理装置とは、上述した工程を交互に繰り返すことができる。
【0022】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、糖化前処理後、糖化前処理物から放散されたアンモニアガスを、他方の処理装置の処理槽に充填されている水に直接溶解させることができる。従って、糖化前処理に用いたアンモニアを効率的に再利用することができる。
【0023】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、前記第1の処理装置及び第2の処理装置は、それぞれ他方の処理装置からアンモニアガス移送手段により移送されたアンモニアガスが該処理装置の前記処理槽に供給されている水に溶解されるときの溶解熱を回収する溶解熱回収手段と、前記溶解熱回収手段により回収された前記溶解熱を熱源として前記加熱手段に供給される熱を生成するヒートポンプ手段とを備えることが好ましい。
【0024】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、溶解熱回収手段によりアンモニアガスが水に溶解される際の溶解熱を回収する。従って、処理槽内の温度の上昇を防止し、前記アンモニアガスを容易に回収することができる。また、ヒートポンプ手段は、余剰の熱である前記溶解熱を熱源として、前記加熱手段に供給する熱を生成することができるため、エネルギー効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置1は、リグノセルロース系バイオマス(以下、バイオマスと略記する)を糖化前処理する第1の処理装置2a及び第2の処理装置2bと、熱交換手段3と、第1のアンモニアガス移送手段4a及び第2のアンモニアガス移送手段4bとを備えている。
【0027】
第1の処理装置2a及び第2の処理装置2bは、それぞれバイオマスを収容する第1処理槽5a及び第2処理槽5bと、第1処理槽5a及び第2処理槽5bにアンモニア水を供給するアンモニア水供給手段6と、第1処理槽5a及び第2処理槽5bに水を供給する水供給手段7と、バイオマスにアンモニア水又は水を添加する混合手段8a,8bと、糖化前処理後のバイオマスを排出する排出手段9a,9bとからなる。
【0028】
第1の処理槽5a及び第2の処理槽5bは、上部に、図示しないバイオマスが投入される投入口を備える圧力容器である。
【0029】
アンモニア水供給手段6は、アンモニア水タンク10と、アンモニア水供給導管11とを備えている。アンモニア水タンク10は、所定の濃度のアンモニア水を収容しており、下部にアンモニア水供給導管11が接続されている。また、アンモニア水供給導管11は、途中で分岐して、第1アンモニア水供給分岐管11aと第2アンモニア水供給分岐管11bとを形成している。アンモニア水供給導管11は、アンモニア水タンク10と前記分岐点との間にアンモニア水用ポンプ12が設けられている。
【0030】
第1アンモニア水供給分岐管11aは、第1処理槽5aの上部に接続されており、途中に第1の弁13aが設けられている。第2アンモニア水供給分岐管11bは、第2処理槽5bの上部に接続されており、途中に第2の弁13bが設けられている。
【0031】
水供給手段7は、水タンク14と、水供給導管15とを備えている。水タンク14は、水を収容しており、下部に水供給導管15が接続されている。また、水供給導管15は、途中で分岐して第1水供給分岐管15a及び第2水供給分岐管15bを形成している。水供給導管15は、水タンク14と前記分岐点との間に水用ポンプ16が設けられている。第1水供給分岐管15aは、第1処理槽5aの上部に接続されており、途中に第3の弁17aが設けられている。第2アンモニア水供給分岐管11bは、第2処理槽5bの上部に接続されており、途中に第4の弁17bが設けられている。
【0032】
熱交換手段3は、第1ジャケット18aと、第2ジャケット18bと、ヒートポンプ19と、第1熱媒体導管20と、第2熱媒体導管21と、第3熱媒体導管22と、第4熱媒体導管23とを備えている。第1ジャケット18aは、第1処理槽5aに設けられており、第2ジャケット18bは、第2処理槽5bに設けられている。
【0033】
ヒートポンプ19は、熱媒体が循環する循環導管24を備え、循環導管24の途中に、膨張弁25、第1熱交換器26、圧縮機27、第2熱交換器28を備えている。
【0034】
第1熱媒体導管20は、一端が第1熱交換器26の二次側に接続されており、他端側は途中で分岐し、一方は第1熱媒体分岐管20aとして第1ジャケット18aの一次側に接続され、他方は第2熱媒体分岐管20bとして第2ジャケット18bの一次側に接続されている。第1熱媒体分岐管20aは、途中に第5の弁29aが設けられており、第2熱媒体分岐管20bは、途中に第6の弁29bが設けられている。
【0035】
第2熱媒体導管21は、一端が第1熱交換器26の一次側に接続されており、他端側は途中で分岐し、一方は第3熱媒体分岐管21aとして第1ジャケット18aの二次側に接続され、他方は第4熱媒体分岐管21bとして第2ジャケット18bの二次側に接続されている。第3熱媒体分岐管21aは、途中に第7の弁30aが設けられており、第4熱媒体分岐管21bは、途中に第8の弁30bが設けられている。また、第2熱媒体導管21は、第1熱交換器26と分岐点との間に、第1循環ポンプ31が設けられている。第1熱媒体導管20、第2熱媒体導管21には、例えば、冷水が流通される。
【0036】
第3熱媒体導管22は、一端が第2熱交換器28の二次側に接続されており、他端側は途中で分岐し、一方は第5熱媒体分岐管22aとして第1ジャケット18aの一次側に接続され、他方は第6熱媒体分岐管22bとして第2ジャケット18bの一次側に接続されている。第5熱媒体分岐管22aは、途中に第9の弁32aが設けられており、第6熱媒体分岐管22bは、途中に第10の弁32bが設けられている。
【0037】
第4熱媒体導管23は、一端が第2熱交換器28の一次側に接続されており、他端側は途中で分岐しており、一方は第7熱媒体分岐管23aとして第1ジャケット18aの二次側に接続され、他方は第8熱媒体分岐管23bとして第2ジャケット18bの二次側に接続されている。第7熱媒体分岐管23aは、途中に第11の弁33aが設けられており、第8熱媒体分岐管23bは、途中に第12の弁33bが設けられている。また、第3熱媒体導管22は、第2熱交換器28と分岐点との間に、第2循環ポンプ34が設けられている。第3熱媒体導管22、第4熱媒体導管23には、例えば、熱水が流通される。
【0038】
第1のアンモニアガス移送手段4aは、第1アンモニアガス移送導管35aと、第1アンモニアガス移送導管35aの途中に設けられた第13の弁36aとからなり、第1アンモニアガス移送導管35aは、一端が第1処理槽5aの上部に接続され、他端が第2処理槽5bの下部に接続されている。
【0039】
第2のアンモニアガス移送手段4bは、一端が第2処理槽5bの上部に接続され、他端が第1処理槽5aの下部に接続されている第2アンモニアガス移送導管35bと、第2アンモニアガス移送導管35bの途中に設けられた第14の弁36bとからなる。
【0040】
次に、図1を参照して、本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1の作動について説明する。
【0041】
本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1では、先ず、図示しない投入口から第1処理槽5aにバイオマスが投入される。前記バイオマスは、図示しないカッターミルにより、例えば、約1mmの長さに粉砕されている。
【0042】
次に、第1の弁13aを開弁し、第2の弁13bを閉弁すると共に、アンモニア水用ポンプ12を駆動することにより、アンモニア水タンク10内のアンモニア水が第1処理槽5a内に所定量供給される。
【0043】
次に、第1処理槽5aに投入されたバイオマスは、混合手段8aにより前記アンモニア水に添加されて基質混合物が形成される。形成された基質混合物は、第1ジャケット18aに熱媒体として、例えば、95℃の温水が供給されることにより加熱され、80℃の温度で、例えば約8時間の間保持される。この結果、前記基質混合物は、糖化前処理物となる。
【0044】
このとき、第2処理槽5bでは、図示しない投入口からバイオマスが投入される。さらに、第3の弁17aを閉弁し、第4の弁17bを開弁すると共に、水用ポンプ16を駆動することにより、水タンク14内の水が第2処理槽5b内に所定量供給される。
【0045】
第1処理槽5aにおいて、糖化前処理として、加熱処理が行われた後、第13の弁36aを徐々に開弁する。第1処理槽5aは、密閉状態で前記加熱処理によりアンモニアガスが気化しているため、内部圧力が高くなっている。そのため、第1処理槽5aと、第2処理槽5bとの内部圧力差により、放散されたアンモニアガスは、第1アンモニアガス移送導管35aを介して第2処理槽5b内に移送される。移送されたアンモニアガスは、第2処理槽5b内の水に溶解されてアンモニア水となる。このとき、移送されるアンモニアガスが第2処理槽5b内の水に溶解することを促進するために、混合手段8bを駆動していることが好ましい。
【0046】
アンモニアガスは、水に溶解する際に、溶解熱を発生する。この結果、第2処理槽5b内の温度が上昇すると、アンモニアガスの水への溶解度が低下すると共に、第2処理槽5bの内部圧力が上昇する。そして、第2処理槽5bの内部圧力が第1処理槽5aの内部圧力と同程度になってしまうと、アンモニアガスの移送が困難になる。そこで、第2ジャケット18bに、例えば、15℃の冷水を供給し、第2処理槽5bの熱を回収することにより、アンモニアガスの移送を効率的に行うことができる。
【0047】
第1処理槽5aから第2処理槽5bへのアンモニアガスの移送を十分に行った後、第13の弁を閉弁することにより、アンモニアの分離を終了する。このとき、第2処理槽5bには、移送されたアンモニアガスが水に溶解されてなるアンモニア水と、バイオマスとが収容されている。
【0048】
一方で、アンモニアの分離が終了した第1処理槽5aには、糖化前処理物が収容されている。この糖化前処理物には、分離しきれていないアンモニアが水分中に約0.1〜0.2質量%残留している。従って、この損失分のアンモニアを補充するように、アンモニア水供給手段6により第2処理槽5b内にアンモニア水を供給する。この結果、第2処理槽5bに収容されているアンモニア水の量が、糖化前処理をする前の第1処理槽5a内に収容されているアンモニア水の量と同じになる。
【0049】
第1処理槽5a内の糖化前処理物は、その後、排出手段9aにより第1処理槽5aから排出され、後工程へ移送される。糖化前処理物の後工程への移送は、糖化前処理物を収容する第1処理槽5a内のpHを調整し、糖化酵素を添加して所定の時間、初期糖化を行った後で行うことができる。このようにすることにより、糖化前処理物が移送に適した粘度に調整される。
【0050】
次に、第1処理槽5aは、内部が洗浄された後、新たなバイオマスと、水供給手段7により前記糖化前処理物に含有されている水分量と略同量の水が供給される。
【0051】
この結果、第1処理槽5aと、第2処理槽5bとは、収容されている内容物が互いに入れ替わっていることを除き、糖化前処理する前の状態に復帰する。従って、第1の処理装置2aと、第2の処理装置2bとは、上述した工程を交互に繰り返すことができる。
【0052】
本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、処理槽5a,5bを洗浄した後、処理槽5a,5bに新たなバイオマスと共に供給される水は、この時点においては一部のみを供給し、その後、他方の処理槽からアンモニアガスが移送されてきた際に、追加して供給してもよい。このようにすることにより、処理槽5a,5bに移送されたアンモニアガスを、効率的に水に溶解させることができる。
【0053】
なお、本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、処理槽5a,5bにバイオマスを投入した後に、図示しない真空ポンプにより、処理槽5a,5b内を真空引きしておくことが好ましい。
【0054】
アンモニアガス移送手段4a,4bによるアンモニアガスの移送は、アンモニア水の気化による体積膨張と、その後、水への吸収や凝集による体積減少とをその駆動原理としている。従って、処理槽5a,5b中から、水への吸収や凝集が生じづらい気体を予め排除しておくことにより、アンモニアガス移送手段4a,4bによるアンモニアガスの移送の停滞を回避することができる。
【0055】
次に、ヒートポンプ19の作動について説明する。
【0056】
ヒートポンプ19は、第5の弁29a〜第12の弁33bの開閉を切り替えることにより、第1ジャケット18aと第2ジャケット18bとのいずれか一方において熱を回収し、該回収した熱を熱源として他方のジャケットを加熱する。
【0057】
先ず、第2処理槽5bから熱を回収し、該回収した熱を熱源として第1処理槽5aを加熱する場合には、第6の弁29b、第8の弁30b、第9の弁32a、第11の弁33aを開弁すると共に、第5の弁29a、第7の弁30a、第10の弁32b、第12の弁33bを閉弁する。この結果、冷水が第2熱媒体分岐管20b、第2ジャケット18b、第4熱媒体分岐管21bを循環し、熱水が、第1熱媒体導管22a、第1ジャケット18a、第3熱媒体導管23aを循環する。
【0058】
このとき、ヒートポンプ19は、循環導管24を循環する熱媒体を、まず膨張弁25で膨張させて第1熱交換器26に供給する。この結果、前記熱媒体は、第1熱媒体導管21を循環し、アンモニアガスの溶解熱を吸収して温められた冷水から、第1熱交換器26において熱を吸収する。
【0059】
次に、第1熱交換器26を通過した前記熱媒体は、次に、圧縮機27に供給されることにより、圧縮されて高温となる。その後、高温の前記熱媒体が、循環導管24に流通されることにより、第4熱媒体導管23から第2熱交換器28に供給された熱水を加熱する。そして、前記熱媒体は、再び膨張弁25に循環される。
【0060】
第1処理槽5aから熱を回収し、該回収した熱を熱源として第2処理槽5bを加熱する場合には、第5の弁29a、第7の弁30a、第10の弁32b、第12の弁33bを開弁すると共に、第6の弁29b、第8の弁30b、第9の弁32a、第11の弁33aを閉弁する。この結果、第1熱媒体である冷水が、第1熱媒体分岐管20ba、第1ジャケット18a、第3熱媒体分岐管21aを循環し、第2熱媒体である熱水が、第2熱媒体導管22b、第2ジャケット18b、第4熱媒体導管23bを循環することを除いて、第2処理槽5bから熱を回収し、該回収した熱を熱源として第1処理槽5aを加熱する場合と全く同一にして行われる。
【0061】
本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、ヒートポンプを1つのみ用いたが、異なる性質を有する熱媒体を用い、低温回路側ヒートポンプと、高温型ヒートポンプを組み合わせてなるカスケード型ヒートポンプを用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置、2a…第1処理装置、2b…第2処理装置、4a,4b…アンモニア分離手段(アンモニアガス移送手段)、5a,5b…処理槽、6…アンモニア水供給手段、7…水供給手段、8a,8b…混合手段、9a,9b…排出手段、…、18a,18b…加熱手段(溶解熱回収手段)、19…ヒートポンプ手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質としてのリグノセルロース系バイオマスを収容する処理槽と、
前記処理槽にアンモニア水を供給するアンモニア水供給手段と、
前記基質に、前記アンモニア水を添加し、混合することにより基質混合物とする混合手段と、
前記基質混合物を加熱して、前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させて糖化前処理物とする加熱手段と、
前記糖化前処理物から放散されるアンモニアガスを分離するアンモニア分離手段と、
前記処理槽からアンモニアを分離した前記糖化前処理物を排出する排出手段とをそれぞれ備える第1の処理装置及び第2の処理装置と、
前記アンモニア分離手段により分離されたアンモニアガスを水に溶解させてアンモニア水として回収するアンモニア回収手段とを備えるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置であって、
前記第1の処理装置と前記第2の処理装置とは、交互にリグノセルロース系バイオマス糖化前処理を行うことを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
前記アンモニア分離手段は、前記加熱手段により加熱することによって前記糖化前処理物から放散されるアンモニアガスを他方の前記処理装置の処理槽に移送するアンモニアガス移送手段を備え、
前記アンモニア回収手段は、前記第1の処理装置及び第2の処理装置の処理槽に水を供給する水供給手段を備え、
前記アンモニアガス移送手段により前記第1の処理装置又は前記第2の処理装置の処理槽に移送されたアンモニアガスを、前記水供給手段により供給された水に溶解して、アンモニア水とすることを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
前記アンモニア回収手段によりアンモニアを水に溶解させるときに生成される溶解熱を回収する溶解熱回収手段と、
前記溶解熱回収手段により回収された前記溶解熱を熱源として前記加熱手段に供給される熱を生成するヒートポンプ手段とを備えることを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。


【図1】
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【公開番号】特開2011−234691(P2011−234691A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110679(P2010−110679)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】