説明

リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置

【課題】リグノセルロース系バイオマスの糖化前処理において、アンモニアが分離された糖化前処理物を効率よく製造できるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置を提供する。
【解決手段】リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、基質であるリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合した基質混合物を貯留し、リグニンの解離等がされた糖化前処理物を得る貯留手段3と、糖化前処理物を加熱してアンモニアガスを分離する分離手段4と、アンモニアガスをアンモニア水として回収する回収手段5と、アンモニアガスを水に溶解させるときに生成する溶解熱を回収する第1熱回収手段25と、第1熱回収手段25により回収された溶解熱を、分離手段4に熱を供給する熱供給手段8,9,10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、稲藁等のリグノセルロース系バイオマスを基質として溶媒と混合した基質混合物を、微生物が産生する糖化酵素によって糖化することにより糖化溶液を得て、糖化溶液を発酵させることによりエタノールを製造することが知られている。ここで、リグノセルロース系バイオマスは、セルロース又はヘミセルロースにリグニンが強固に結合した構成を備えている。
【0003】
そのため、リグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合した基質混合物を加熱することにより、リグノセルロース系バイオマスに含まれるリグニンを解離し、又はリグノセルロース系バイオマスを膨潤させ、セルロース又はヘミセルロースを糖化可能にした糖化前処理物を得る。
【0004】
そして、糖化される糖化前処理物のpHを至適pHに調整するpH調整剤の使用量を低減するために、アンモニアを分離した糖化前処理物を得る糖化前処理を行うことが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−535524号公報
【特許文献2】特開2010−115162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の糖化前処理では、0.18〜15質量%の低濃度のアンモニア水が用いられているので、糖化前処理物を加熱して糖化前処理物からアンモニアを分離するための熱エネルギーが増加し、製造コストが増大する。
【0007】
また、特許文献2記載の糖化前処理では、リグノセルロース系バイオマスに対するアンモニア水の供給量が多く使用されている。さらに、糖化前処理物全体を所定温度にまで加熱した後、糖化前処理物からアンモニアを分離する。従って、糖化前処理物からアンモニアを分離するための熱エネルギーが増加し、製造コストが増大するという不都合が生じる。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、リグノセルロース系バイオマスの糖化前処理にアンモニア水を用いるときに、アンモニアが分離された糖化前処理物を効率よく製造することができるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置は、基質であるリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合した基質混合物を得る混合手段と、該混合手段により得られた該基質混合物を貯留して、該基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させた糖化前処理物を得る貯留手段と、該貯留手段から供給される糖化前処理物を加熱して該糖化前処理物からアンモニアガスを連続して分離する分離手段とを備えるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置であって、該分離手段で分離されたアンモニアガスを水に溶解させてアンモニア水として回収するアンモニア回収手段と、該アンモニア回収手段でアンモニアガスを水に溶解させるときに生成する溶解熱を回収する第1の熱回収手段と、該第1の熱回収手段で回収された該溶解熱を熱源として該分離手段に供給される熱を生成し、該熱を該分離手段に供給する熱供給手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、まず、基質であるリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とが、混合手段において混合され、基質混合物となる。
【0011】
次に、基質混合物は貯留手段で貯留されて、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを解離し、又はリグノセルロース系バイオマスを膨潤させた糖化前処理物となる。
【0012】
本願において、解離とは、リグノセルロース系バイオマスのセルロース又はヘミセルロースに結合しているリグニンの結合部位のうち、少なくとも一部の結合を切断することをいう。また、膨潤とは、液体の浸入により結晶性セルロースを構成するセルロース又はヘミセルロースに空隙が生じ、又は、セルロース繊維の内部に空隙が生じて膨張することをいう。
【0013】
次に、糖化前処理物は、貯留手段から分離手段に供給された後、分離手段において加熱されながら、アンモニアガスが連続して分離される。この結果、糖化前処理物からアンモニアガスが分離された糖化前処理物を得ることができる。
【0014】
一方、分離手段で分離されたアンモニアガスは、アンモニア回収手段で水に溶解されることによりアンモニア水として回収されるが、アンモニアガスは水に溶解される際に溶解熱を発生する。このため、アンモニア水の温度が上昇して、アンモニアの溶解度が低下し、アンモニアガスの回収が困難になることが懸念される。
【0015】
そこで、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置では、第1の熱回収手段を設け、溶解熱を回収する。溶解熱は、分離手段への熱供給手段の熱源として用いられ、糖化前処理物からアンモニアガスを分離するために糖化前処理物を加熱する分離手段に供給される。
【0016】
従って、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、溶解熱を熱源として熱供給手段により生成される熱を分離手段に供給することにより、エネルギー効率を高め、アンモニアが分離された糖化前処理物を効率よく製造することができる。
【0017】
さらに、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、分離手段により糖化前処理物から分離されるアンモニアガスを水に溶解し、アンモニア水とするので、安全弁等の付帯設備を備えた圧力容器内に貯留する必要がなくなる。
【0018】
本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置において、前記熱供給手段は、熱伝達手段と、第1のヒートポンプ手段と、第2のヒートポンプ手段とからなり、該熱伝達手段は、前記第1の熱回収手段により回収された溶解熱を熱源として、該熱伝達手段内を循環する第1の熱媒体を加熱し、該第1のヒートポンプ手段に伝達される熱を生成し、該第1のヒートポンプ手段は、該熱伝達手段により伝達された熱を熱源として、該第1のヒートポンプ手段内を循環する第2の熱媒体を加熱し、該第2のヒートポンプ手段に供給される熱を生成し、該第2のヒートポンプ手段は、該第1のヒートポンプ手段により生成された熱を熱源として、該第2のヒートポンプ手段内を循環する第3の熱媒体を加熱し、前記分離手段に供給される熱を生成することが好ましい。
【0019】
熱供給手段では、第1の熱回収手段においてアンモニア水を冷却するための熱媒体の低い温度と、分離手段において糖化前処理物からアンモニアガスを十分に分離するために糖化前処理物を加熱する熱媒体の高い温度とが要求される。
【0020】
単一の熱媒体を用いた熱供給手段では、熱供給手段内を循環する熱媒体の体積比が大きくなり、また循環流量も大きくなる。そのため、圧縮機等の装置が大型化し、設備費用が増加し、製造コストの低減化が困難となる。
【0021】
そのため、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置の熱供給手段は、第2の熱媒体を用いた第1のヒートポンプ手段と、第3の熱媒体を用いた第2のヒートポンプ手段とを備え、さらに、第1のヒートポンプ手段と第2のヒートポンプ手段における熱媒体の圧縮に用いられるエネルギーを効率良く配分するために、第1の熱媒体を用いた熱伝達手段を備える。
【0022】
第1の熱回収手段において回収された溶解熱は、熱伝達手段の熱源として用いられ、第1の熱媒体を加熱する。そして、熱伝達手段により生成された熱は、第1のヒートポンプ手段に伝達される。
【0023】
また、熱伝達手段により伝達された熱は、第1のヒートポンプ手段の熱源として用いられ、第2の熱媒体を加熱する。そして、第1のヒートポンプ手段により生成された熱は、第2のヒートポンプ手段に供給される。
【0024】
さらに、第1のヒートポンプ手段により生成された熱は、第2のヒートポンプ手段の熱源として用いられ、第3の熱媒体を加熱する。そして、第2のヒートポンプ手段により生成された熱は、分離手段に供給される。
【0025】
従って、本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置によれば、熱伝達手段により、第1の熱回収手段においてアンモニアガスが水に溶解する際の溶解熱を回収することができる。溶解熱の回収によりアンモニア水を冷却させるので、アンモニア水の温度の上昇を防止してアンモニアガスを容易に回収することができる。
【0026】
そして、第2のヒートポンプ手段により、生成された熱を分離手段に供給し、糖化前処理物を加熱するので、糖化前処理物からアンモニアガスを十分に分離し、アンモニア回収手段におけるアンモニア水の回収量を増加させることができる。
【0027】
本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置において、前記分離手段で分離されたアンモニアガスから熱を回収する第2の熱回収手段を備え、前記熱伝達手段は、前記第1の熱回収手段により回収された溶解熱と、該第2の熱回収手段により回収された熱とを熱源として、前記第1の熱媒体を加熱し、前記第1のヒートポンプ手段に伝達される熱を生成することが好ましい。
【0028】
本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置は、分離手段で分離されたアンモニアガスから熱を回収する第2の熱回収手段を備えることにより、アンモニアガスの余熱を回収することができ、装置のエネルギー効率をさらに高くすることができる。また、第2の熱回収手段によればアンモニアガスから余熱を回収することにより、アンモニアガスの水への溶解を容易にすることができる。
【0029】
また、本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置において、前記熱伝達手段は、該熱伝達手段内を循環する第1の熱媒体を貯留し、該熱伝達手段内を循環する該第1の熱媒体と前記第2の熱媒体又は前記第3の熱媒体との流量比率を調整する流量調整手段を備えることが好ましい。
【0030】
本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置は、流量調整手段を備えることにより、熱供給手段内を循環する第1の熱媒体と第2の熱媒体又は第3の熱媒体との流量比率を調整し、第1、第2及び第3の熱媒体の温度を調整する。従って、バイオマスやアンモニアガスの負荷変動に対して、第1及び第2のヒートポンプ手段の負荷の変動を抑制することができる。
【0031】
さらに、本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置において、前記分離手段内の前記糖化前処理物の流れと前記第3の熱媒体の流れとが対向流であることが好ましい。
【0032】
分離手段に供給される糖化前処理物は、分離手段内で加熱されることによりアンモニアを放散するので、糖化前処理物が分離手段に供給されてから分離手段から排出されるまでの間、糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が低下する。また、糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が低下すると、アンモニア水の沸点が上昇する。
【0033】
そこで、分離手段は、糖化前処理物が分離手段に供給されてから分離手段から排出されるまでの間、糖化前処理物からアンモニアガスを十分に分離するために、分離手段内を流れる糖化前処理物の温度をアンモニア水の濃度に対応した沸点の温度とする必要がある。
【0034】
従って、分離手段内の糖化前処理物の流れと第3の熱媒体の流れとが対向流であることから、糖化前処理物が分離手段に供給されてから分離手段から排出されるまでの間、糖化前処理物からアンモニアガスを十分に分離するために必要な糖化前処理物と第3の熱媒体との温度差を実現でき、効率の良い熱交換を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置のシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0037】
図1に示すように、本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1は、基質であるリグノセルロース系バイオマス(以下、バイオマスと略記することがある)とアンモニア水とを混合した基質混合物を得るミキサー2と、ミキサー2で得られた基質混合物を所定温度で所定時間貯留することにより、バイオマスからリグニンを解離し、又はバイオマスを膨潤させた糖化前処理物を得る貯留タンク3と、糖化前処理物を加熱して糖化前処理物からアンモニアガスを分離する分離装置4と、分離装置4で分離されたアンモニアガスを水に吸収させてアンモニア水として回収する吸収塔5と、分離装置4でアンモニアガスが分離された糖化前処理物を導出して後工程6に移送する移送導管7とを備えている。
【0038】
また、吸収塔5によりアンモニアガスを水に溶解させる際に発生する溶解熱を回収し、回収した溶解熱を分離装置4に供給する熱を生成するため、第1熱媒体が流れる熱伝達管路8と、第2熱媒体を用いる第1ヒートポンプ9と、第3熱媒体を用いる第2ヒートポンプ10とを備える。
【0039】
ミキサー2上部には、バイオマスが投入される投入口11を備えると共に、アンモニア水を供給するアンモニア水供給導管12が接続されている。アンモニア水供給導管12は、上流側端部がアンモニア水タンク13に接続されており、途中にポンプ14を備えている。また、ミキサー2下部には、ミキサー2からの基質混合物を貯留する貯留タンク3が接続されている。
【0040】
貯留タンク3は、貯留タンク3下部に、基質混合物を所定時間貯留することにより得られる糖化前処理物を分離装置4に移送するパウダーフィーダ15を備えている。
【0041】
分離装置4は、第2ヒートポンプ10から供給された熱により糖化前処理物を加熱し、糖化前処理物からアンモニアガスを連続して分離するように構成されている。例えば、分離装置4は、本体シェル内に設けられた多管式加熱管に熱媒体を流し、多管式加熱管を回転させて、加熱管束と糖化前処理物との接触により糖化前処理物を加熱し、糖化前処理物からアンモニアを放散させてアンモニアガスを分離する。
【0042】
分離装置4は、上部に、糖化前処理物中のバイオマスから分離されたアンモニアガスを導出するアンモニアガス導管16が接続されている。アンモニアガス導管16は、第1熱交換器17(本発明の第2の熱回収手段に相当する)を介して吸収塔5に接続されている。
【0043】
また、アンモニアガス導管16は、第1熱交換器17と吸収塔5との間に、アンモニアガスを吸引して吸収塔5に排出する真空ポンプ18を備える。糖化前処理物は、分離装置4に供給されてから分離装置4から排出されるまで分離装置4内を移動して、加熱されるだけでは、アンモニアを十分に放散させることは困難である。そのため、真空ポンプ18によりアンモニアガスを吸引することで、分離装置4内の糖化前処理物からアンモニアを十分に分離する。
【0044】
第1熱交換器17を用いてアンモニアガスから熱を回収すると、アンモニアガス中の水分が凝縮する。第1熱交換器17は、凝縮した水を回収するために、凝縮水回収導管19が接続されている。凝縮水回収導管19は吸収塔5に接続され、回収された凝縮水はアンモニア水を生成するための水として用いられる。
【0045】
また、分離装置4は、底部に、移送導管7が接続されている。移送導管7は、後工程6に接続されている。
【0046】
吸収塔5は、分離装置4により分離されたアンモニアガスを水に吸収させてアンモニア水とし、アンモニア水を底部に貯留するように構成されている。吸収塔5は、底部にアンモニア水を導出するアンモニア水導出導管21が接続されている。アンモニア水導出導管21は、ポンプ22を介して、アンモニア水タンク13に接続されている。
【0047】
吸収塔5は、吸収塔5上部にシャワリング装置23を備え、吸収塔5底部からアンモニア水を抜き出しシャワリング装置23に供給するアンモニア水循環導管24とが接続されている。
【0048】
アンモニア水循環導管24は、第2熱交換器(本発明の第1の熱回収手段に相当する)25を備え、吸収塔5と第2熱交換器25との間に、吸収塔5底部からアンモニア水を吸引して吸収塔5のシャワリング装置23に供給するポンプ26を備える。
【0049】
アンモニア水タンク13は、貯留されるアンモニア水の濃度を検出するアンモニア濃度センサ27と、アンモニア水タンク13に濃アンモニア水を供給する濃アンモニア水供給導管28とを備える。
【0050】
熱伝達管路8は、例えば水等の第1熱媒体が管路8内を循環する管路であり、管路8の途中に、第1熱交換器17、第2熱交換器25、第3熱交換器29、緩衝タンク30を備えている。
【0051】
熱伝達管路8は、緩衝タンク30内に貯留された第1熱媒体を第1熱交換器17、次いで第3熱交換器29に送液し、第1熱媒体を熱伝達管路8内で循環させるポンプ31を備えている。また、熱伝達管路8は、熱伝達管路8内で循環する第1熱媒体の循環流量を調整する制御弁32を備えている。
【0052】
熱伝達管路8は、アンモニアガスから熱を回収するために第1熱交換器17の一次側と、凝縮熱を回収するために第2熱交換器25の一次側と、第1ヒートポンプ9に熱を供給するために第3熱交換器29の二次側とに接続されている。
【0053】
第1ヒートポンプ9は、例えばR134a(CF3CH2F)等の第2熱媒体が循環する第1循環導管33を備え、第1循環導管33の途中に、第4熱交換器34、膨張弁35、第3熱交換器29、圧縮機36を備えている。
【0054】
第1循環導管33は、第1熱媒体から熱を回収するために第3熱交換器29の一次側と、第2ヒートポンプ10に熱を供給するために第4熱交換器34の二次側とに接続されている。
【0055】
第2ヒートポンプ10は、例えばR245fa(CFCHCHF)等の第3熱媒体が循環する第2循環導管37を備え、第2循環導管37の途中に、分離装置4、膨張弁38、第3熱交換器34、圧縮機39を備えている。
【0056】
第2循環導管37は、第1ヒートポンプ9から熱を回収するために第4熱交換器34の一次側と、糖化前処理物を加熱してアンモニアガスを分離するために分離装置4の二次側とに接続されている。
【0057】
次に、図1を参照して、本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1の作動について説明する。
【0058】
本実施形態のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置1では、まず、投入口11からミキサー2にリグノセルロース系バイオマスが投入される。リグノセルロース系バイオマスは、例えば稲藁であり、図示しないカッターミルにより目開き3mmのメッシュを通過する大きさに粉砕した後、投入口11に供給される。
【0059】
次に、アンモニア水タンク13内のアンモニア水が、ポンプ14により、アンモニア水供給導管12を介してミキサー2内に供給される。このとき、ミキサー2内に供給されるアンモニア水の濃度は、例えば、25質量%とされている。
【0060】
バイオマスとアンモニア水は、バイオマスの乾燥質量と25質量%のアンモニア水が質量比1:1になるようにミキサー2に供給される。
【0061】
次に、バイオマスとアンモニア水とはミキサー2により混合され、バイオマスとアンモニア水とが混合した基質混合物が形成される。ミキサー2内で形成された基質混合物は、ミキサー2下部に設けられた貯留タンク3において、所定温度、例えば25℃で、所定時間、例えば100時間貯留される。貯留タンク3で貯留される間に、バイオマスがアンモニア水により膨潤されると共に、バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースと結合しているリグニンがバイオマスから解離した糖化前処理物が形成される。
【0062】
次に、糖化前処理物は、パウダーフィーダ15を介して分離装置4に供給される。このとき、分離装置4に供給された糖化前処理物は、第2ヒートポンプ10で加熱された第3熱媒体により加熱される。そして、分離装置4内の糖化前処理物からアンモニアが放散され、糖化前処理物からアンモニアガスが分離される。
【0063】
本実施形態の分離手段4は、分離装置4内の糖化前処理物の流れと第3熱媒体の流れとが対向流となるように構成されている。
【0064】
分離装置4内に供給される糖化前処理物は、分離装置4に供給されてから分離装置4から排出されるまで分離装置4内を移動し、また、分離装置4内で加熱されることによりアンモニアが放散するので、次第に糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が低下する。そのため、糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が低下すると、アンモニア水の沸点が上昇する。
【0065】
そこで、分離装置4内の糖化前処理物の流れと第3熱媒体の流れとを対向流とし、かつ、糖化前処理物が分離装置4に供給されてから分離装置4から排出されるまでの間、糖化前処理物からアンモニアガスを十分に分離するために必要な糖化前処理物と第3熱媒体との温度差を確保することにより、効率の良い熱交換を行う。
【0066】
アンモニアガスは、アンモニアガス導管16に設けられた真空ポンプ18により吸引され、アンモニアガス導管16の第1熱交換器17を経由して吸収塔5に供給される。吸収塔5に供給されたアンモニアガスは、シャワリング装置23からシャワリングされるアンモニア水に吸収され、アンモニア水として吸収塔5の底部に貯留される。
【0067】
このとき、アンモニアガスは、第1熱交換器17により余剰の熱が回収されているので、シャワリング装置23からシャワリングされるアンモニア水に吸収されやすくなっている。しかし、アンモニアガスが水に溶解するときには溶解熱が発生するので、溶解熱によりアンモニア水の温度が上昇すると、アンモニアが水に十分に溶解しなくなることが懸念される。
【0068】
そこで、本実施形態では、吸収塔5の底部に貯留されているアンモニア水がアンモニア水循環導管24を介して吸収塔5に還流される際に、アンモニア水循環導管24に設けられた第2熱交換器25により溶解熱を回収するように構成されている。この結果、吸収塔5では、十分な量のアンモニアガスがシャワリング装置23からシャワリングされるアンモニア水に吸収され、アンモニア水として回収される。
【0069】
また、アンモニア水タンク13では、アンモニア濃度センサ27により貯留されているアンモニア水中のアンモニア濃度が検知され、検知されたアンモニア濃度に応じて、濃アンモニア水供給導管28を介して濃アンモニア水が供給される。この結果、アンモニア水タンク13内のアンモニア水は、例えば、25質量%のアンモニア濃度に調整され、アンモニア水供給導管12を介してミキサー2に供給される。
【0070】
一方、分離装置4でアンモニアガスが分離された糖化前処理物は、移送導管7を介して、後工程6に移送される。後工程6は、例えば、アンモニアガスが分離された糖化前処理物に、所定量の水と糖化酵素とを投入することにより、バイオマスに含まれるセルロースを酵素糖化処理する工程である。
【0071】
このとき、アンモニアガスが分離された糖化前処理物中のアンモニアは、分離装置4で加熱されることによりアンモニアガスとなり、また、真空ポンプ18によりアンモニアガスが吸引される。従って、アンモニアガスが糖化前処理物から十分に分離し、極微量のアンモニア、例えば10ppm程度のアンモニアが残留する糖化前処理物が後工程6に移送される。
【0072】
ここで、第1熱交換器17及び第2熱交換器25により回収された熱は、熱伝達管路8内を循環する第1熱媒体を介して、第1ヒートポンプ9に伝達される。
【0073】
熱伝達管路8に用いられる第1熱媒体として、例えば水を熱媒体として用いる場合、緩衝タンク30に貯留された水を、ポンプ31により第1熱交換器17の一次側に供給される。この結果、第1熱交換器17に供給された水は、第1熱交換器17においてアンモニアガスの余熱を回収して温度上昇する。
【0074】
そして、第1熱交換器17においてアンモニアガスの余熱を回収した水は、第3熱交換器29の二次側に送液される。この結果、第3熱交換器29に送液された水は、第1ヒートポンプ9の第2熱媒体に熱を供給して冷却される。
【0075】
第3熱交換器29において冷却された水は、第2熱交換器25の一次側に供給される。この結果、第2熱交換器25の一次側に供給された水は、第2熱交換器25においてアンモニアガスの溶解熱を回収して温度上昇する。第2熱交換器25においてアンモニアガスの溶解熱を回収した水は、緩衝タンク30に供給される。
【0076】
第1ヒートポンプ9は、第2熱媒体として、例えばR134a(CF3CH2F)を用いる場合、第1循環導管33を循環するR134aを、まず膨張弁35で膨張させた後、第3熱交換器29の一次側に供給する。この結果、R134aは、第3熱交換器29において熱伝達管路8の第1熱媒体を介して伝達された熱を吸収して温度上昇する。
【0077】
次に、第3熱交換器29を通過したR134aは圧縮機36に供給されて圧縮される。圧縮機36において圧縮されたR134aは、第4熱交換器34の二次側に供給され、第4熱交換器34の一次側の第3熱媒体を加熱する。そして、第4熱交換器34を通過したR134aは、膨張弁35に供給される。
【0078】
第2ヒートポンプ10は、第3熱媒体として、例えばR245fa(CFCHCHF)を用いる場合、第2循環導管37を循環するR245faを、まず膨張弁38で膨張させた後、第4熱交換器34の一次側に供給する。この結果、R245faは、第4熱交換器34において第1ヒートポンプ9が生成した熱を吸収して温度上昇する。
【0079】
次に、第4熱交換器34を通過したR245faは圧縮機39に供給されて圧縮される。圧縮機39において圧縮されたR245faは、分離装置4の二次側に供給され、分離装置4の一次側の糖化前処理物を加熱し、糖化前処理物からアンモニアを放散させて分離する。そして、分離装置4を通過したR245faは、膨張弁38に供給される。
【0080】
一方、分離装置4に供給された糖化前処理物は加熱されて、糖化前処理物からアンモニアが分離された後、後工程6に移送される。
【0081】
尚、本実施形態では、熱伝達管路8に設けられた制御弁32により、熱伝達管路8を循環する第1熱媒体である水の流量が調整される。
【0082】
第1熱媒体である水の流量を調整することにより、第1ヒートポンプ9の第2熱媒体であるR134a又は第2ヒートポンプ10の熱媒体であるR245faとの流量比率が調整される。そして、第1熱媒体である水と、第1ヒートポンプ9のR134a又は第2ヒートポンプ10のR245faとの流量比率の調整により、第1熱媒体である水、第1ヒートポンプ9の第2熱媒体であるR134a及び第2ヒートポンプ10の第3熱媒体であるR245faの温度が調整され、第2ヒートポンプ10で生成されて分離装置4に供給される熱量が調整される。
【0083】
この結果、バイオマスやアンモニアガス等の負荷変動に対して、第1ヒートポンプ9及び第2ヒートポンプ10の負荷の変動を抑制する。
【符号の説明】
【0084】
1…リグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置、 2…ミキサー、 3…貯留タンク、 4…分離装置、 5…吸収塔、 6…後工程、 7…移送導管、 8…熱伝達管路、 9…第1ヒートポンプ、 10…第2ヒートポンプ、17…第1熱交換器、 25…第2熱交換器、 29…第3熱交換器、 30…緩衝タンク、 33…第1循環導管、 34…第4熱交換器、 37…第2循環導管。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質であるリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合した基質混合物を得る混合手段と、
該混合手段により得られた該基質混合物を貯留して、該基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させた糖化前処理物を得る貯留手段と、
該貯留手段から供給される糖化前処理物を加熱して該糖化前処理物からアンモニアガスを連続して分離する分離手段とを備えるリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置であって、
該分離手段で分離されたアンモニアガスを水に溶解させてアンモニア水として回収するアンモニア回収手段と、
該アンモニア回収手段でアンモニアガスを水に溶解させるときに生成する溶解熱を回収する第1の熱回収手段と、
該第1の熱回収手段で回収された該溶解熱を熱源として該分離手段に供給される熱を生成し、該熱を該分離手段に供給する熱供給手段とを備えることを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
前記熱供給手段は、熱伝達手段と、第1のヒートポンプ手段と、第2のヒートポンプ手段とからなり、
該熱伝達手段は、前記第1の熱回収手段により回収された溶解熱を熱源として、該熱伝達手段内を循環する第1の熱媒体を加熱し、該第1のヒートポンプ手段に伝達される熱を生成し、
該第1のヒートポンプ手段は、該熱伝達手段により伝達された熱を熱源として、該第1のヒートポンプ手段内を循環する第2の熱媒体を加熱し、該第2のヒートポンプ手段に供給される熱を生成し、
該第2のヒートポンプ手段は、該第1のヒートポンプ手段により生成された熱を熱源として、該第2のヒートポンプ手段内を循環する第3の熱媒体を加熱し、前記分離手段に供給される熱を生成することを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項3】
請求項2記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
前記分離手段で分離されたアンモニアガスから熱を回収する第2の熱回収手段を備え、
前記熱伝達手段は、前記第1の熱回収手段により回収された溶解熱と、該第2の熱回収手段により回収された熱とを熱源として、前記第1の熱媒体を加熱し、前記第1のヒートポンプ手段に伝達される熱を生成することを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
前記熱伝達手段は、該熱伝達手段内を循環する第1の熱媒体を貯留し、該熱伝達手段内を循環する該第1の熱媒体と前記第2の熱媒体又は前記第3の熱媒体との流量比率を調整する流量調整手段を備えることを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか一項記載のリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置において、
前記分離手段内の前記糖化前処理物の流れと前記第3の熱媒体の流れとが対向流であることを特徴とするリグノセルロース系バイオマス糖化前処理装置。


【図1】
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