説明

リチウムイオンキャパシタ

【課題】
量産性に優れ予め負極にリチウムイオンを吸蔵させることが容易なリチウムイオンキャパシタ、またリチウムイオンキャパシタに使用される負極の製造方法を提供すること。
【解決手段】
第1の金属箔に活物質が塗着された正極板と第2の金属箔に活物質が塗着された負極板とをセパレータを介して配置した電極群と、非水電解液と、電極群および非水電解液を収容する容器と、を備えるリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法であって、第2の金属箔の表面に電極材料を塗着する塗着工程と、塗着工程で形成された電極材料の表面にリチウム膜を形成する成膜工程とを含むリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンキャパシタに係り、特に予め負極活物質にリチウムイオンを吸蔵させたリチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン電池の利点と電気二重層キャパシタの利点とを組み合わせたリチウムイオンキャパシタが知られている。
【0003】
このリチウムイオンキャパシタは、一般的に、正極活物質に活性炭、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材が用いられており、正極と負極とを、セパレータを介して配置し、リチウム塩を含む非水電解液で浸潤した構成が採られている。
【0004】
リチウムイオンキャパシタは、予めリチウムイオンが負極に吸蔵ないしドープされていることにより、負極電位が通常の電気二重層キャパシタよりも低く保たれるため、使用電圧範囲を広く取ることができる。また正極充放電機構として、通常の電気二重層キャパシタで利用される陰イオンの吸着に加えて、陽イオンの吸着も利用できるため、容量を原理的に倍取り出すことができる。またリチウムイオン電池に比べ、容量は小さいものの、内部抵抗が小さく出力特性の点で優れるとともに、長寿命である、という利点がある。なお、本発明に関連する技術として、リチウムイオンを吸蔵ないしドープさせるための金属リチウムを電極群内に配置したリチウムイオンキャパシタが特許文献1または2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3485935号公報
【特許文献2】特許第4015993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のリチウムイオン吸蔵方法では、電極群が積層タイプの場合は積層方向の電極群の外側に、電極群が捲回タイプの場合は電極群の捲回方向の延長線上に、金属リチウムが配置されるので、リチウムイオンを通過させるために、正極活物質と負極活物質とが塗工される金属箔に穴を明ける必要がある。また、金属リチウムに隣接する負極活物質と離れた負極活物質とでは、リチウムイオンの吸蔵量に差が出ることがある。また、金属リチウムが溶解した場所は空洞となり、積層電極群、捲回電極群の締め付けが緩むこともある。従って、製造方法を改善する余地はまだある。
【0007】
本発明は、上記事案に鑑み、量産性に優れ予め負極にリチウムイオンを吸蔵させることが容易なリチウムイオンキャパシタ、またリチウムイオンキャパシタに使用される負極の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、次に示すような構成が有効と考えられる。
【0009】
第1の金属箔に活物質が塗着された正極板と第2の金属箔に活物質が塗着された負極板とをセパレータを介して配置した電極群と、非水電解液と、電極群および非水電解液を収容する容器と、を備えるリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法であって、第2の金属箔の表面に電極材料を塗着する塗着工程と、塗着工程で形成された電極材料の表面にリチウム膜を形成する成膜工程とを含むリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明により、構造が簡単で、速く金属リチウムを負極活物質に吸蔵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオンキャパシタの断面図の例である。
【図2】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオンキャパシタの極板の捲回前の平面図である。
【図3】リチウム膜形成装置の一例を示す図である。
【図4】負極活物質粒子表面にリチウム膜が形成されたことを模式的に示す図である。
【図5】捲回装置の中央部を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ(以下、キャパシタ)30は、ニッケルメッキが施されたスチール製有底円筒状の容器(缶)8を有している。容器内には、中空円筒状で縦方向に複数本(本例では3本)のスリットが形成されたポリプロピレン製軸芯1に帯状の正極板2および負極板3がセパレータ4を介して配置された電極群7が収容されている。なお、本例では、容器8の外形は40mm、内径は39mmである。
【0014】
本実施形態においては、後述する正極リード片2aや負極リード片3aを有する構造としているが、正極リード片並びに負極リード片を有していない、いわゆるタブレス構造であってもかまわない(図示せず)。
【0015】
<正極>
図2に示すように、正極板2は、例えば、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)W1の両面に、正極活物質W2として活性炭を含む正極活物質合剤が塗工されている。アルミニウム箔W1は、長手方向に沿う一側が櫛状に切り欠かれており、この切り欠き残部からなる正極リード片2aと、正極リード片2aに隣接した塗工部とで構成されている。この塗工部にその幅方向の長さに満たない長さで上述した正極活物質合剤が塗工されている。
【0016】
本例では、正極板2は次の寸法に設定されている。:長手方向の長さ=2800mm、幅方向の長さa=90mm、塗工部の幅方向の長さb=60mm、塗工部の正極活物質合剤の片面塗工厚=40μm(両面で80μm)、正極活物質合剤W2のかさ密度=0.5g/cm3。
【0017】
<負極>
一方、負極板3も正極板2とほぼ同じ構成を有している。すなわち、負極板3は、たとえば、厚さ16μmの銅箔(負極集電体)W3の両面に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質合剤W4が塗工されている。銅箔W3は、長手方向に沿う一側が櫛状に切り欠かれており、この切り欠き残部からなる負極リード片3aと、負極リード片3aに隣接して配置された塗工部とで構成されている。この塗工部にその幅方向の長さに満たない長さで上述した負極活物質合剤W4が塗工されている。
【0018】
本例では、負極板3は次の寸法に設定されている。:長手方向の長さ=3000mm、幅方向の長さa=92mm、塗工部の幅方向の長さb=62mm、塗工部の負極活物質合剤の片面塗工厚=20μm(両面で40μm)、負極活物質合剤W4のかさ密度=1.0g/cm3。
【0019】
<リチウム膜の形成>
本実施形態では、リチウム膜の厚さは、10nm〜100μmが好ましく、より好ましくは500nm〜50μmである。さらに好ましくは、1μm〜10μmにするとよい。これにより、予備充電後に、予備充電されないリチウムが残存することを防ぐことができる。
【0020】
リチウム膜を形成は、負極活物質塗工部の一部でも全面でもよい。より好ましくは、塗工部の面積の50%以上、さらに好ましくは、全面にリチウム膜を形成するとよい。リチウム膜の形成を塗工部の一部とする場合、膜を形成するリチウム膜の厚さを厚くし、膜を形成するリチウム量を、塗工部全面にリチウム膜を形成する場合と同じにする。
【0021】
本実施形態では、リチウム膜を、減圧雰囲気中にて形成する。図3は成膜工程の実施に好ましく使用可能な成膜装置の一例を示している。この成膜装置10は、減圧室12と、減圧装置14と、処理雰囲気供給部16と、負極供給リール22と、膜形成ロール24と、負極捲取りリール26と、リチウム膜形成部32、34とを備えている。減圧室12は、所望の耐圧性を有する気密な容器で構成されている。減圧装置14は、減圧室12から排気することで減圧室12内を減圧し、減圧雰囲気を形成する。処理雰囲気供給部16は、適宜、アルゴンなどの不活性ガスなど、減圧室12内に成膜形成に適した雰囲気を形成するのに必要な気体を供給する。
【0022】
この実施形態では、負極102は帯状であり、負極供給リール22に巻き取られており、膜形成ロール24の外周に沿わせた後、負極捲取りリール26に巻き取られる。これにより、負極の片面にリチウム膜を形成することができる。この後、同様にしてもう片方の面にもリチウム膜を形成することにより、負極両面にリチウム膜を形成することができる。本実施形態では、リチウム膜を形成する方法として、スパッタリングを採用している。図4に、負極活物質57aの表面にリチウム膜55aが形成された負極活材粒子55を示す。
【0023】
また、成膜装置については、図3に示すものに限定されず、バッチ処理方式または連続処理方式の一般的な市販の真空蒸着装置を使用することで実施される。なお、リチウム膜を形成する方法としては、スパッタリングに限定されない。例えば、真空蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、Chemical Vapor Deposition、プラズマCVD、イオン注入などの方法を用いてもよい。
【0024】
<電極群>
図5に示すように、正極板2と負極板3とは、両極板が直接接触しないように、厚さ50μmの2枚の紙セパレータ4Aおよび4Bを介して、軸芯1を中心として断面渦巻状に捲回され、電極群7が構成されている。上述した正極リード片2aと負極リード片3aとは、それぞれ電極群7の互いに反対側に配置されており、セパレータ4の端から所定長さ(例えば4mm)はみ出している。電極群7は、正極板2、負極板3、セパレータ4等の長さを調整することで、所定の内直径(例えば9mm)および所定の外直径(例えば38±0.1mm)に設定されている。なお、電極群7の捲回終端部は、捲き解けを防止するために、粘着テープを貼り付けることで固定されている。
【0025】
<キャパシタ構造>
電極群7の下側には、電極群7の下端側端面に対向するように、負極板3からの電位を集電するための銅製の負極集電リング6が配置されている。負極集電リング6の内周面には軸芯1の下端部外周面が嵌着されている。負極集電リング6の外周縁には、負極板3から導出された負極リード片3aの先端部が超音波溶接で接合されている。負極集電リング6の下部には電気的導通のための銅製の負極リード板9が配置されており、負極リード板9は負極外部端子を兼ねる容器8の内底部に抵抗溶接で接合されている。負極集電リング6および負極リード板9はエポキシ樹脂等の樹脂製絶縁材11で覆われ、絶縁材11は負極集電リング6の上部から容器8の内底面まで配されている構成を採用することができる。この場合、容器8の底部は絶縁材11により詰め物がなされた状態となっている。
【0026】
一方、電極群7の上側には、電極群7の上端面と対向するように、軸芯1のほぼ延長線上に正極板2からの電位を集電するためのアルミニウム製の正極集電リング5が配置されている。正極集電リング5は軸芯1の上端部に嵌着されている。正極集電リング5の周囲から一体に張り出している鍔部周縁には、正極板2から導出された正極リード片2aの先端部が超音波溶接で接合されている。
【0027】
正極集電リング5の上方には、正極外部端子を兼ねる容器蓋12が配置されている。容器蓋12は、下側に配置された蓋ケース12aと、上側に配置された蓋キャップ12bとで構成されており、これらが積層されて蓋ケース12aの周縁を蓋キャップ12bにかしめることで組み立てられている。なお、蓋ケース12aには、内圧上昇により開裂する開裂溝(図示せず)が形成されている。正極集電リング5の上面には、リボン状のアルミニウム箔を積層した2本の正極リード板10のうち1本の一側が接合されている。正極リード板10のもう1本の一側は、容器蓋12を構成する蓋ケース12aの外底面に接合されている。また、2本の正極リード板10の他端同士も接合されている。
【0028】
容器蓋12は、絶縁性および耐熱性を有する樹脂製ガスケット13を介して容器8の上部にかしめられている。このため、キャパシタの内部は密封されている。また、容器内には、電極群全体を浸潤可能な量の非水電解液が注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比30:50:20の割合で混合した溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットル溶解したものを用いることができる。なお、本例のキャパシタの定格容量は700Fである。
【0029】
<負極活物質へのリチウムの吸蔵>
次に、本実施形態のキャパシタにおいて、蒸着リチウムの負極活物質(非晶質炭素)への吸蔵方法について説明する。
【0030】
本例では、所定温度(例えば、室温)に管理された貯蔵室に所定期間(例えば、2週間〜4週間)、キャパシタを放置することでリチウムイオンを負極活物質に吸蔵させる。蒸着リチウムと負極活物質とが電気的に接触しているため、負極電位とリチウム電位との電位差により、所定期間放置することで、蒸着リチウムは溶解し、負極板の負極活物質(非晶質炭素)に吸蔵される。
(作用等)
次に、本実施形態の蒸着リチウムならびにキャパシタの作用等について説明する。
【0031】
まず、本実施形態の負極によれば、リチウムを負極活物質表面に蒸着する場合、金属リチウムを電極群内の一部に配置する場合に比べ、作業性が大幅に向上する。すなわち、金属リチウムを電極群内の一部に配置しようとすると、金属リチウムを切断して金属箔に張り付け、電極群を捲回するときに挿入するなどの必要がある。金属リチウムの切断を自動化する際、切断刃に直接触れる金属リチウムは切断刃に張り付き、残存しやすく、安定した作業に懸念がある。また、切断刃に金属リチウムが残存したままになると、急激な酸化反応が起こりやすく危険である。リチウムを負極活物質表面に蒸着することにより、前述の懸念を回避でき、生産性が大幅に向上する。
【0032】
また、リチウムを負極活物質表面に蒸着する場合、電極製造工程を簡素化できる。すなわち、金属リチウムを電極群内の一部に配置しようとすると、溶解したリチウムを電極群全体に行きわたらせるために、正極と負極の集電体金属箔に貫通孔を形成する必要がある。貫通孔をプレスにより形成すると金属箔にゆがみが生じやすく、電極群作製時に電極がはみ出す懸念がある。また、貫通孔をエッチングにより形成すると、エッチング液の残存を防ぐために洗浄する必要があり、生産性が低下する。リチウムを負極活物質表面に蒸着することにより、前述の工程を省くことができ、生産性が大幅に向上する。
【0033】
さらに、貫通孔を形成した集電体金属箔に活物質合剤を塗工しようとすると、集電体を略垂直に配置し、活物質合剤を集電体の表裏へ同時に塗工する必要がある。塗工量を少なくすると、活物質合剤で埋まらない貫通孔が発生する懸念がある。活物質合剤で埋まらない貫通孔が発生すると、キャパシタとして充放電した場合に、活物質合剤で埋まった貫通孔との間で負荷に差ができ、キャパシタの特性劣化につながる懸念がある。リチウムを負極活物質表面に蒸着することにより、負極活物質合剤をプレーン箔に塗工することができ、前述の懸念を回避でき、生産性が大幅に向上する。
【0034】
さらに、リチウムを負極活物質表面に蒸着する場合、金属リチウムを電極群内の一部に配置する場合に比べ、負極活物質へリチウムを吸蔵させるのに必要な時間を大幅に短縮できる。金属リチウムを電極群内の一部に配置すると、金属リチウムの近くの負極活物質から遠くの負極活物質へと、徐々にリチウムの吸蔵が進む。そのため、金属リチウムから遠い負極活物質にリチウムを十分に吸蔵させるには時間がかかり、生産性が低下する。リチウムを負極活物質表面に蒸着することにより、リチウムとすべての負極活物質の距離を最短化でき、かつすべての負極活物質に均等にリチウムを吸蔵させることができる。負極活物質へのリチウムの吸蔵量が十分でないと、キャパシタの充放電時に負極電位の変動が大きくなる、充放電に必要なリチウムイオンが不足するなどにより、キャパシタの内部抵抗増加にもつながる。
(実施例)
(実施例1)
(負極1の作製方法)
負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質合剤W4を厚さ18μmの銅プレーン箔W3の両面に片面塗工厚20μm(両面で80μm)程度になるよう塗工し、乾燥、プレス後負極を得た。
【0035】
スパッタリング装置を用いて、負極活物質塗工部全体にリチウムをスパッタリングした。リチウム源には、純度99.9%のリチウムを用いた。形成されたリチウム膜の厚さを10か所計測したところ、平均5.7μm(最小厚さ4.8μm、最大厚さ7.3μm)であった。
【0036】
スパッタリング法は、真空蒸着法と比較し、ターゲット原子の運動エネルギーが大きいため、剥がれにくい膜を作成することができるという利点がある。
(正極1の作製方法)
正極活物質として活性炭を含む正極活物質合剤W2を厚さ20μmのアルミニウムプレーン箔W1の両面に片面塗工厚20μm(両面で80μm)程度になるよう塗工し、乾燥、プレス後正極1を得た。
(正極1の単位重量当たりの静電容量測定方法)
上記正極を2.0×2.0cm2サイズに切り出し、評価用正極とした。正極と対極として2.0×2.0cm2サイズ、厚さ500μmの金属リチウムを用いて、厚さ50μmのセルロースシートをセパレータとして介し模擬セルを組んだ。参照極として金属リチウムを用いた。電解液としては、プロピレンカーボネートに、1モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を用いた。
【0037】
充電電流1mAにて3.8Vまで充電しその後定電圧充電を行い、総充電時間1時間の後、1mAにて2.2Vまで放電を行った。3.8V〜2.2V間の放電時間より正極1の単位重量当たりの容量を求めたところ60mAh/gであった。
【0038】
ここでの放電容量は正極に流れた電流の積算値を正極活物質重量にて割った値である。
(負極1の活物質単位重量当たりの容量測定方法)
上記負極を2.0×2.0cm2サイズに切り出し、評価用負極とした。負極の対極として2.0×2.0cm2サイズ、厚み500μmの金属リチウムを用いて、厚さ50μmのセルロースシートをセパレータとして介し模擬セルを組んだ。参照極として金属リチウムを用いた。電解液としては、プロピレンカーボネートに、1モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を用いた。この模擬セルを、10個作製した。
【0039】
その模擬セルを、40℃に管理された部屋に放置した。放置を開始してから3日後に、1mAにて1.5Vまで放電を行った。
【0040】
放電開始前から1.5Vまでの放電時間より、負極1の単位重量当たりの容量を求めたところ、平均458mAh/g(最小値451mAh、最大値467mAh)であった。
【0041】
ここでの放電容量は負極に流れた電流の積算値を負極活物質重量にて割った値である。
(捲回群1の作製方法)
正極1を幅90×長さ2800mm2にカットし、また負極1を幅92×長さ3000mm2にカットし、2枚の厚さ50mmのセルロースセパレータを介して、軸芯を中心として捲回し、正極側にアルミニウム製の正極集電リングを、負極側に銅製の負極集電リングを超音波溶接した。
(捲回セル1の作製方法)
捲回群1を容器に挿入し、電解液としてプロピレンカーボネートに、1.5モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた後、正極集電リングと容器蓋をリボン状のアルミニウム箔で超音波溶接により接続し、積層樹脂製ガスケットを介して容器蓋をかしめることにより、捲回セル1aを得た。なお、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり500mAh/g相当である。
【0042】
また、捲回セル1aと同様に、捲回セル1bを作製した。
(セルの予備充電方法)
捲回セル1a、1bを、40℃に管理された部屋に放置した。セル組み立て後3日間放置後にセル1bを分解したところ、リチウム金属は完全に無くなっていたことから、負極活物質の単位重量当たりに450mAh/g以上の容量を得るためのリチウムイオンが予備充電した。
【0043】
セル1bに使用した負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。測定用サンプルは、負極の幅方向の中心部、長手方向の端部から500mmごとに採取した。
(セル1aの特性評価方法)
10Aの定電流でセル電圧が3.8Vになるまで充電し、その後3.8Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、10Aの定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電した。この3.8V−2.2V間の充放電サイクルを繰り返し、4回目の放電におけるセル容量と内部抵抗を評価した。
(実施例2)
負極2の作製において、負極活物質塗工部の一部にリチウムをスパッタリングした。負極活物質塗工部の、長手方向の端部から200mm間隔で、長さ200mm、幅60mmの大きさでリチウム膜を形成した。リチウム膜の形成部は、長さ3000mmの負極で15か所にリチウム膜を形成した。形成したリチウム膜の総面積は、負極活物質塗工部全面積の50%であった。リチウム膜の厚さを10か所計測したところ、平均13.8μm(最小厚さ12.3μm、最大厚さ14.7μm)であった。その他は、実施例1と同様にして、セル2a、2bを作製した。
(セル2a、2bの特性評価)
実施例1と同様に、セル2aのセル容量と内部抵抗を評価した。
【0044】
また、実施例1と同様に、セル2bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
(実施例3)
負極3の作製において、負極活物質塗工部の一部にリチウムをスパッタリングした。負極活物質塗工部の、幅方向の中心部に、幅30mm、長さ3000mmのリチウム膜を形成した。形成したリチウム膜の総面積は、負極活物質塗工部全面積の50%であった。リチウム膜の厚さを10か所計測したところ、平均13.2μm(最小厚さ12.0μm、最大厚さ14.2μm)であった。その他は、実施例1と同様にして、セル3を作製した。
【0045】
負極3の活物質単位重量当たりの容量を実施例1と同様に測定したところ、リチウム膜形成部の中心部の容量は平均465mAh/g(最小値457mAh、最大値472mAh)、リチウム膜未形成部の中心部の容量は平均455mAh/g(最小値446mAh、最大値460mAh)であった。
(セル3a、3bの特性評価)
実施例1と同様に、セル3aのセル容量と内部抵抗を評価した。
【0046】
また、実施例1と同様に、セル3bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
(実施例4)
負極3の作製において、負極活物質塗工部全体にリチウムを真空蒸着したこと以外は、実施例1と同様にしてセル4a、4bを得た。実施例1と同様に、セル4aのセル容量と内部抵抗を、セル4bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
【0047】
真空蒸着は装置の構成が簡単なため、制膜コストを抑えられる上、他の制膜法と比較して制膜速度が速いという利点がある。
(実施例5)
負極3の作製において、負極活物質塗工部全体にリチウムを電子ビーム蒸着したこと以外は、実施例1と同様にしてセル5a、5bを得た。実施例1と同様に、セル5aのセル容量と内部抵抗を、セル5bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
【0048】
電子ビーム蒸着法は、加熱源が電子の運動エネルギーのため、効率が良い。また、電子ビームは精度良く制御できるため、蒸発材料に最適な電力密度でビーム照射ができるという利点がある。
(実施例6)
負極3の作製において、負極活物質塗工部全体にリチウムをイオンプレーティングしたこと以外は、実施例1と同様にしてセル6a、6bを得た。実施例1と同様に、セル6aのセル容量と内部抵抗を、セル6bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
【0049】
イオンプレーティング法は、蒸発粒子がイオン化され、高速で衝突し固体化するため、密着力の強い制膜ができるという利点がある。
(実施例7)
負極3の作製において、負極活物質塗工部全体にリチウムをCVD(Chemical Vapor Deposition)したこと以外は、実施例1と同様にしてセル7a、7bを得た。実施例1と同様に、セル7aのセル容量と内部抵抗を、セル7bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
【0050】
CVD法は、高真空を必要としないため、製膜速度や処理面積に比して装置規模が大きくなりにくい。また、物理蒸着法と比較して、凹凸のある表面でも満遍なく製膜できるという利点がある。
(実施例8)
負極3の作製において、負極活物質塗工部全体にリチウムをプラズマCVDしたこと以外は、実施例1と同様にしてセル8a、8bを得た。実施例1と同様に、セル8aのセル容量と内部抵抗を、セル8bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
【0051】
プラズマCVD法は、処理面積も大きくでき、凹凸のある表面でも満遍なく製膜できる。また、低い温度でも、より緻密な薄膜を形成できるという利点がある。
(実施例9)
負極3の作製において、負極活物質塗工部全体にリチウムをイオン注入したこと以外は、実施例1と同様にしてセル9a、9bを得た。実施例1と同様に、セル9aのセル容量と内部抵抗を、セル9bの負極の活物質単位重量当たりの容量を測定した。
【0052】
イオン注入法は、注入する原子をイオン化してビームにし、電気的に制御しながら注入するので、正確に注入量を制御できるという利点がある。
【0053】
セル1a〜9aのセル容量と内部抵抗の測定結果を表1に示す。
【0054】
また、セル1b〜9bの負極の活物質単位重量当たりの容量測定結果を表2に示す。
(表1)

【0055】
(表2)

【0056】
(比較例1)
(負極10の作製方法)
厚さ18μm(気孔率20%)の多数の貫通孔を形成した銅箔の両面に、上記負極1のスラリーを片面塗工厚20μm(両面で80μm)程度になるよう塗工し、乾燥、プレス後負極4を得た。
(正極10の作製方法)
厚さ20μm(気孔率20%)の多数の貫通孔を形成したアルミニウム箔の両面に、上記正極1のスラリーを片面塗工厚20μm(両面で80μm)程度になるよう塗工し、乾燥、プレス後正極を得た。
(電極捲回群10の作製方法)
正極10を幅90×長さ2800mm2にカットし、また負極10を幅92×長さ3150mm2にカットし、負極10の中央部に長さ150mmの未塗工部を設けた。負極10の未塗工部に、リチウム金属を配置した。正極10と負極10を、2枚の厚さ50mmのセルロースセパレータを介して、軸芯を中心として捲回し、正極側にアルミニウム製の正極集電リングを、負極側に銅製の負極集電リングを超音波溶接した。
(捲回セル10a〜10cの作製方法)
捲回群10を容器に挿入し、電解液としてプロピレンカーボネートに、1.5モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた後、正極集電リングと容器蓋をリボン状のアルミニウム箔で超音波溶接により接続し、積層樹脂製ガスケットを介して容器蓋をかしめることにより、捲回セルを得た。なお、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり500mAh/g相当である。上記捲回セルを3本作製し、それぞれ捲回セル10a、10b、10cとした。
(セルの予備充電方法)
捲回セル10a〜10cを、40℃に管理された部屋に放置した。セル組み立て後3日間放置後にセル10aを、20日間放置後にセル10bを、30日間放置後にセル10cを分解し、リチウム残存量を確認した。その結果を表3に示す。30日間放置後のセル10cのリチウム金属が完全に無くなっていたことから、30日間放置により、負極活物質の単位重量当たり450mAh/g以上の容量を得るためのリチウムイオンが予備充電した。また、セル12の捲回群を分解する前に、捲回群の断面を観察したところ、捲回群作製時にリチウムを配置した場所がそのまま空隙となっていた。
(表3)

【0057】
セル10cに使用した負極の活物質単位重量当たりの容量を実施例1と同様に測定した。測定用サンプルは、負極の幅方向の中心部、長手方向の端部から500mmごとに採取した。測定結果を表1に示す。
(セルの特性評価方法)
セル10cと同様に作製したセル10dの特性評価を、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0058】
以上のように、本発明による、リチウム膜を形成した負極は、リチウムイオンキャパシタの予備充電期間を削減させるのみならず、内部抵抗を低減させる効果も認められる。
【0059】
本実施形態では、捲回式のリチウムイオンキャパシタを例示したが、本発明は積層式のリチウムイオンキャパシタに適用可能なことは論を待たない。このような形態では、電極群は正負極板がセパレータを介して積層され、電極群の両外側には負極板が配置される。また、本実施形態では、電極群の中心に軸芯を配置した例を示したが、本発明はこれに限らず、軸芯のない電極群を用いたリチウムイオンキャパシタにも適用可能である。
【0060】
また、本実施形態では、両面に活物質合剤が塗工された極板を例示したが、本発明はこれに限ることなく、片面にのみ活物質合剤が塗工された極板にも適用が可能である。
【0061】
またさらに、本実施形態では、2枚のセパレータを使用する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。すなわち、1枚のセパレータを折り返してしようすれば2枚のセパレータと同じく使用でき、1枚のセパレータに代えて、薄いセパレータを例えば2枚ないし3枚ずつ重ねて使用することができる。従って、本発明者らは、このような態様も本発明の「2枚のセパレータ」と同じ意味であるかまたは均等のものと考えている。
【0062】
さらに、本実施形態では、セパレータの捲回開始端を軸芯に粘着することにより固定する例を示したが、本発明はこれに制約されず、例えば、溶着でセパレータの捲回開始端を軸芯に固定するようにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態では、理解が容易なように、例として種々の数値を挙げて説明したが、特許請求の範囲で定義された数値でない限り、本発明がこれらに制限されるものでないことは云うまでもない。さらに、本実施形態では、リチウムイオンキャパシタを作製するための部材について具体的に例示したが、これらについても、特許請求の範囲で言及のない限り、本発明を制限するものではない。従って、本願出願時点で公知の部材や材料を用いることができる。
【0064】
例えば、負極活物質には、天然黒鉛、人造黒鉛、MCMB(メゾフェーズカーボンマイクロビーズ)、MCF(メゾフェーズカーボンファイバ)、コークス、VGCF(気相成長炭素繊維)、難黒鉛化性炭素、ポリアセチレン系有機半導体、カーボンナノチューブ、これらの混合物、さらにこれらまたはこれらの混合物にホウ素、珪素、窒素などを導入したものを用いることができ、比表面積も例示したものに限られるものではない。また、正極活物質には、材料表面近傍に存在する電気二重層へのリチウムイオンおよび陰イオンの吸脱着を充放電に利用できるものであれば特に制限はなく、代表的な物質として活性炭が選択される。さらに、正負活物質の粒子形状においても、鱗片状、球状、繊維状、塊状等、特に本発明が制限されるものではない。
【0065】
また、負極活物質の結着材には、エチレンアクリル酸系バインダ、ポリアクリル酸系バインダ、SBR系バインダ、NBR系バインダ、PVDF系バインダ、PVA系バインダおよびこれらの混合物等を用いるようにしてもよく、これらの水分散エマルジョンを用いることもできる。バインダに水分散エマルジョンを用いる場合は、好ましくはカルボキシメチルセルロースやPVA等の、高粘度の分散剤を添加する。
【0066】
正極活物質の結着材には、エチレンアクリル酸系バインダ、ポリアクリル酸系バインダ、SBR系バインダ、NBRR系バインダ、PVDF系バインダ、PVA系バインダ、PTFE系バインダおよびこれらの混合物等を用いるようにしてもよく、これらの水分散エマルジョンを用いることもできる。バインダに水分散エマルジョンを用いる場合は、好ましくはカルボキシメチルセルロースやPVA等の、高粘度の分散剤を添加する。正極活物質のバインダが水分散バインダであると、キャパシタの特性上特に好ましい。
【0067】
さらにまた、導電助材には、アセチレンブラックやケッチェンブラック、微粉砕した黒鉛粉末等の導電性炭素粉を用いることもできる。
【0068】
さらに、非水電解液には、一般的なリチウム塩電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液を使用してもよく、リチウム塩や有機溶媒にも特に制限されるものではない。例えば、電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiB(C6H5)4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(C2F5SO2)2NLi、(CF3SO2)2NLi等やこれらの混合物を用いることができる。さらにまた、非水電解液の有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1、3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル等又はこれら2種類以上の混合溶媒を用いるようにしてもよい。
【0069】
さらにまた、セパレータとしては、多孔質基材が用いられ、例えば、クラフト紙等のセルロース系多孔質基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等の多孔質フィルム基材や、ガラス繊維からなる多孔質基材を用いることができる。中でもセルロース系多孔質基材、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、特にセルロース系多孔質基材が更に好ましい。また、これらを重ねて用いるようにしてもよい。
【0070】
本発明は量産性に優れ、予め実施するリチウムイオンの負極への吸蔵が容易なリチウムイオンキャパシタ、該リチウムイオンキャパシタに使用される負極の製造方法を提供するものであるため、リチウムイオンキャパシタおよび負極の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0071】
2…正極板、3…負極板、4…セパレータ、5…正極集電リング(正極集電部材)、6・・・負極集電リング(負極集電部材)、7…電極群、8…容器、W1…アルミニウム箔(正極集電体)、W3…銅箔(負極集電体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属箔に活物質が塗着された正極板と第2の金属箔に活物質が塗着された負極板とをセパレータを介して配置した電極群と、非水電解液と、前記電極群および前記非水電解液を収容する容器と、を備えるリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法であって、前記第2の金属箔の表面に電極材料を塗着する塗着工程と、前記塗着工程で形成された電極材料の表面にリチウム膜を形成する成膜工程とを含むことを特徴とするリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程が、真空蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、プラズマCVD、イオン注入のうち何れかの方法であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の金属箔が、銅箔であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。
【請求項4】
前記第2の金属箔に塗着された活物質が、非晶質炭素であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金属箔および前記第2の金属箔が帯状であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。
【請求項6】
前記容器が、円筒状であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタの負極板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−199460(P2012−199460A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63629(P2011−63629)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】