説明

リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池

【課題】サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質、炭素系導電助材及びバインダーを含むリチウムイオン二次電池用電極であって、
該炭素系導電助材が、分岐構造を持たない平均繊維径10〜900nmの超極細繊維状炭素であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極、およびそのリチウムイオン二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、非水電解質二次電池の一種で、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う二次電池であり、正極にリチウム金属酸化物を用い、負極にグラファイトなどの炭素材を用いるものが主流の二次電池である。リチウムイオン二次電池は、二次電池の中でもエネルギー密度が高い特徴を持つことから、携帯電話などの小型機器から、電気自動車などの大型機器まで、応用範囲が広がってきている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の課題の一つとして、充放電の繰り返しによる電池容量の低下(劣化)を防止する点が挙げられる(サイクル特性の向上)。サイクル特性の低下の原因としては、電極活物質、電解質、電解液などの変性(劣化)や、電極箔と電極活物質の剥離による電極抵抗の上昇など、様々な要因が複合して生じているが、その改良方法の一つとして、繊維状の炭素材料を電極内に加えることにより、サイクル特性が向上することが提案されている(特許文献1参照)。この提案では、繊維状の炭素材料として気相法炭素繊維を使用しているが、気相法炭素繊維は、分岐構造を有しているため、電極内の分散性を高めることが難しく、繊維状の炭素材料が凝集してしまう問題があり、それに伴いサイクル特性も十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−42620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
1. リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質、炭素系導電助材及びバインダーを含むリチウムイオン二次電池用電極であって、
該炭素系導電助材が、分岐構造を持たない平均繊維径10〜900nmの超極細繊維状炭素であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
2. 上記1.項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を構成要素として含むリチウムイオン二次電池
【発明の効果】
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、優れたサイクル特性を有するので、高性能のリチウムイオン二次電池を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の操作で得られた超極細繊維状炭素の走査型電子顕微鏡像(2,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質、炭素系導電助材及びバインダーを含み、該炭素系導電助材が、分岐構造を持たない平均繊維径10〜900nmの超極細繊維状炭素であることを特徴とする。
以下、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質(正極活物質、負極活物質)について説明する。
【0010】
[正極活物質]
本発明のリチウムイオン二次電池に含まれる正極活物質としては、リチウム系電池において正極活物質として知られている従来公知の材料(リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料)の中から、任意のものを一種又は二種以上適宜選択して用いることができるが、これらの中で、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム含有金属酸化物が好適である。
このリチウム含有金属酸化物としては、リチウムと、Co、Mg、Mn、Ni、Fe、Al、Mo、V、W及びTiなどからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む複合酸化物を挙げることができる。
【0011】
具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1−a、LiCo1−b、LiCoFe1−b、LiMn、LiMnCo2−c、LiMnNi2−c、LiMn2−c、LiMnFe2−c(ここで、x=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.8〜0.98、c=1.6〜1.96、z=2.01〜2.3である。)などからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。好ましいリチウム含有金属酸化物としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1−a、LiMn、LiCo1−b(ここで、x、a、b及びzは上記と同じである。)からなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
【0012】
上記正極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該正極活物質の平均粒子径は、10μm以下とする。平均粒子径が10μmを超えると、大電流下での充放電反応の効率が低下してしまう。平均粒子径は0.05μm(50nm)〜7μmとすることが好ましく、1μm〜7μmとすることがより好ましい。
【0013】
[負極活物質]
本発明のリチウムイオン二次電池に含まれる負極活物質としては、リチウム系電池において、負極活物質として知られている従来公知の材料(リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料)の中から、一種又は二種以上選択して用いることができる。例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料として、炭素材料、SiおよびSnのいずれか、またはこれらの少なくとも一種を含む合金や酸化物などを用いることができる。これらの中でも炭素材料が好ましい。
【0014】
上記炭素材料としては、天然黒鉛、石油系及び石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛、樹脂を炭素化したハードカーボン、メソフェーズピッチ系炭素材料などを代表例として挙げることができる。天然黒鉛や人造黒鉛を用いる場合、電池容量の増大の観点から、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.335〜0.337nmの範囲にあるものが好ましい。
【0015】
天然黒鉛とは、鉱石として天然に産出する黒鉛質材料のことをいう。天然黒鉛は、その外観と性状によって、結晶化度の高い鱗状黒鉛と結晶化度が低い土状黒鉛の二種類に分けられる。鱗状黒鉛はさらに外観が葉状の鱗片状黒鉛と、塊状である鱗状黒鉛とに分けられる。黒鉛質材料となる天然黒鉛は、産地や性状、種類は特に制限されない。また、天然黒鉛または天然黒鉛を原料として製造した粒子に熱処理を施して用いてもよい。
【0016】
また、人造黒鉛とは、広く人工的な手法で作られた黒鉛及び黒鉛の完全結晶に近い黒鉛質材料をいう。代表的な例としては、石炭の乾留、原油の蒸留による残渣などから得られるタールやコークスを原料にして、500〜1000℃程度の焼成工程、2000℃以上の黒鉛化工程を経て得たものが挙げられる。また、溶解鉄から炭素を再析出させることで得られるキッシュグラファイトも人造黒鉛の一種である。
【0017】
負極活物質として炭素材料の他に、SiおよびSnの少なくとも一種を含む合金を使用することは、SiおよびSnのそれぞれを単体で用いる場合やそれぞれの酸化物を用いる場合に比べ、電気容量を小さくすることができる点で有効である。なかでもSi系合金が好ましい。
【0018】
Si系合金としては、B、Mg、Ca、Ti、Fe、Co、Mo、Cr、V、W、Ni、Mn、Zn及びCuなどからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素と、Siとの合金などを挙げることができる。具体的には、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2などからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0019】
本発明においては、負極活物質として、既述の材料を一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該負極活物質の平均粒子径は10μm以下とする。平均粒子径が10μmを超えると、大電流下での充放電反応の効率が低下してしまう。平均粒子径は0.1〜10μmとすることが好ましく、1〜7μmとすることがより好ましい。
【0020】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用電極が、炭素系導電助材として含む分岐構造を持たない平均繊維径10〜900nmの超極細繊維状炭素について詳細に説明する。
【0021】
<超極細繊維状炭素>
・ 易黒鉛化性炭素
本発明における超極細繊維状炭素は易黒鉛化性炭素であることが好ましい。易黒鉛化性炭素とは、2,500℃以上の高温での加熱処理によって三次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成しやすい炭素原料である。軟質炭素、ソフトカーボンなどとも呼ばれる。易黒鉛化性炭素としては、石油コークス、石炭ピッチコークス、ポリ塩化ビニル、3,5−ジメチルフェノールホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。中でも、メソフェ−ズピッチと呼ばれる、溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうる化合物またはその混合物が、高結晶性、高導電性が期待されることから好ましい。メソフェ−ズピッチとしては、石油残渣油を水素添加・熱処理を主体とする方法ないし水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする方法で得られる石油系メソフェ−ズピッチ;コ−ルタ−ルピッチを水素添加・熱処理を主体とする方法ないし水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする方法で得られる石炭系メソフェ−ズピッチ;ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素を原料として超強酸(例えばHF、BF等)の存在下で重縮合させて得られる合成液晶ピッチ等が挙げられる。中でも、合成液晶ピッチが、不純物を含まない点でより好ましい。
【0022】
・ 平均繊維径
本発明における超極細繊維状炭素の平均繊維径は、10〜900nmの範囲にある。この平均繊維径は、電界放射型走査電子顕微鏡によって倍率2,000倍にて撮影した写真図より測定された値である。上記超極細繊維状炭素の平均繊維径は、10〜600nmの範囲にあることが好ましく、50〜500nmの範囲にあることがより好ましく、50〜400nmの範囲にあることがさらに好ましい。この平均繊維径が10nm未満の超極細繊維状炭素は、嵩密度が非常に小さくハンドリング性に劣る上に、これをリチウムイオン二次電池用の電極に用いる超極細繊維状炭素として用いると、電極強度が低下してしまうため好ましくない。また、平均繊維径が900nm超過の超極細繊維状炭素をリチウムイオン二次電池用電極に用いると、太すぎて電極内の隙間が大きくなり、電極密度を高くできないこととなるため好ましくない。
本発明における超極細繊維状炭素は分岐構造を有さない。ここで、分岐構造を有さないとは、超極細繊維状炭素が末端部以外の場所で他の超極細繊維状炭素と結合した粒状部を持たないことをいい、超極細繊維状炭素の主軸が中途で枝分かれしていないこと、および超極細繊維状炭素の主軸が枝状の副軸を有さないことをいう。
【0023】
・ 平均繊維長
本発明における超極細繊維状炭素の平均繊維長は、1〜100μmの範囲にあることが好ましく、1〜50μmの範囲にあることがより好ましい。超極細繊維状炭素の平均繊維長が長いほど、リチウムイオン二次電池用電極内の導電性、電極の強度、電解液保液性が増し好ましいが、長すぎると、電極内の繊維分散性が損なわれるという問題が生じる。そのため、本発明における超極細繊維状炭素の平均繊維長は上記範囲内にあることが好ましい。
【0024】
・ 平均面間距離
本発明における超極細繊維状炭素は、X線回折法により測定した(002)面の平均面間隔d002が0.335〜0.340nmにあることがより好ましい。
【0025】
<超極細繊維状炭素の製造方法>
本発明における超極細繊維状炭素を製造するには、上記の諸条件を満足する超極細炭素繊維が得られる手法であればいずれも採用することができるが、例えば、350℃、600s−1で測定したときの溶融粘度が5〜100Pa・sである熱可塑性樹脂100質量部と、石油系メソフェ−ズピッチ、石炭系メソフェ−ズピッチおよび合成液晶ピッチよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部とからなる樹脂組成物を100〜400℃の温度において成形して前駆体成形体を製造し、次いで前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成し、
さらに安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成し、そして繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気下で炭素化し超極細繊維状炭素を製造する方法を好ましい製造方法として例示することができる。
【0026】
以下に、上記の好ましい製造方法における
(a)熱可塑性樹脂、
(b)熱可塑性炭素前駆体、
(c)熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体から樹脂組成物を製造する方法、
(d)樹脂組成物を成形して前駆体成形体を形成する方法、
(e)前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する方法、
(f)安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する方法
(g)繊維状炭素前駆体から超極細繊維状炭素を製造する方法
(h)粉砕方法
について説明する。
【0027】
(a)熱可塑性樹脂
上記の好ましい製造方法で使用される熱可塑性樹脂は、350℃、600s−1で測定したときの溶融粘度が5〜100Pa・sであるものが好ましい。溶融粘度が5Pa・s未満の熱可塑性樹脂を使用した場合には、熱可塑性炭素前駆体の形成が困難となることから好ましくない。また、溶融粘度が100Pa・sを超過する場合にも、超極細繊維状炭素を製造するための樹脂組成物を成形することが困難となるため、好ましくない。熱可塑性樹脂の溶融粘度は、より好ましくは7〜100Pa・sであり、さらに好ましくは5〜100Pa・sである。
【0028】
上記の好ましい製造方法で使用される熱可塑性樹脂は、熱可塑性炭素前駆体と容易に溶融混練および溶融成形できるものであるとの観点から、熱可塑性樹脂が非晶性である場合にはそのガラス転移点が250℃以下、熱可塑性樹脂が結晶性である場合にはその結晶融点が300℃以下であることが好ましい。
【0029】
上記熱可塑性樹脂は、安定化前駆体成形体の製造後に容易に除去される必要がある。このため、不活性ガス雰囲気下、450℃以上600℃未満の温度で2時間保持することにより、初期質量の10質量%以下、より好ましくは5質量%以下にまで分解するものであることが好ましい。
【0030】
このような熱可塑性樹脂として、例えばポリオレフィンを挙げることができる。かかるポリオレフィンとしては、ホモポリマー、複数の種類のオレフィンのコポリマー、オレフィンと酢酸ビニルまたはメタクリル酸もしくはその誘導体とのコポリマー等からなる群より選ばれる1つ以上を挙げることができるが、ホモポリマーであることが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選ばれる1つ以上であることがより好ましく、特にポリエチレンが好ましい。
【0031】
(b)熱可塑性炭素前駆体
上記の好ましい製造方法で使用される熱可塑性炭素前駆体としては、易黒鉛化性炭素である必要があることが好ましい。
上記熱可塑性炭素前駆体は、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し1〜150質量部使用され、好ましくは5〜100質量部使用される。熱可塑性炭素前駆体の使用割合が150質量部を超える場合には、所望の分散径を有する炭素前駆体が得られず、一方、この値が1質量部未満であると、超極細繊維状炭素を安価に製造することができない等の問題が生じるため好ましくない。
【0032】
(c)熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体から樹脂組成物を製造する方法
熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体から樹脂組成物を製造する方法としては、両者を溶融状態において混練する方法によることが好ましい。熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体の溶融混練には、公知の装置を必要に応じて用いることができ、例えば一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロ−ル、バンバリ−ミキサ−等を用いることができる。これらの中で上記熱可塑性炭素前駆体を熱可塑性樹脂に良好にミクロ分散させるという目的から、同方向二軸押出機が好ましく使用される。溶融混練温度としては100〜400℃で行うことが好ましい。溶融混練温度が100℃未満であると、熱可塑性炭素前駆体が溶融状態にならず、熱可塑性樹脂とのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、400℃を越える場合、熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体の分解が進行する場合があるため、好ましくない。溶融混練温度のより好ましい範囲は150℃〜350℃である。溶融混練の時間としては0.5〜20分間であることが好ましく、より好ましくは1〜15分間である。溶融混練の時間が0.5分間未満である場合、熱可塑性炭素前駆体のミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、20分間を越える場合、超極細繊維状炭素の生産性が著しく低下するため好ましくない。
【0033】
上記の好ましい製造方法においては、熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体を溶融混練して樹脂組成物を製造する際に、酸素含有量10体積%未満のガス雰囲気下で溶融混練することが好ましい。該製造方法において使用する熱可塑性炭素前駆体は、酸素と反応することにより熱変性し、不融化してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害する場合がある。これを避けるため、不活性ガスを流通させて、できるだけ酸素ガス含有量を低減した条件下で溶融混練を行うことが好ましい。より好ましい溶融混練時の酸素ガス含有量は5体積%未満であり、さらに1体積%未満であることが好ましい。
【0034】
上記の方法で得た樹脂組成物は、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmであることが好ましい。樹脂組成物中で熱可塑性炭素前駆体は島相を形成し、球状あるいは回転楕円体状となる。ここでいう分散径とは、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性炭素前駆体の球形の直径または回転楕円体の長軸径を意味する。熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmの範囲から逸脱すると、リチウムイオン二次電池用の電極に用いる超極細繊維状炭素を製造することが困難となる場合がある。熱可塑性炭素前駆体の分散径のより好ましい範囲は0.01〜30μmである。
【0035】
また、熱可塑性樹脂および熱可塑性炭素前駆体からなる樹脂組成物は、これを300℃で3分間保持した後、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中における分散径が0.01〜50μmとなるものであることが好ましい。一般に、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との溶融混練で得た樹脂組成物を、溶融状態のままで保持しておくと時間とともに熱可塑性炭素前駆体が凝集する現象が見られる。この熱可塑性炭素前駆体の凝集により、熱可塑性炭素前駆体の分散径が50μmを超えると、リチウムイオン二次電池用の電極に用いる超極細繊維状炭素を製造することが困難となる場合がある。熱可塑性炭素前駆体の凝集速度の程度は、使用する熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の種類により変動するが、より好ましくは300℃で5分間、さらには300℃で10分間以上、0.01〜50μmの範囲の分散径を維持していることが好ましい。
【0036】
(d)樹脂組成物を成形して前駆体成形体を形成する方法
上記の如くして得た樹脂組成物は、次いで好ましくは100〜400℃の温度において適当な成形体に成形される。この成形体の形状は特に問わないが、ハンドリングの観点から繊維状であることが好ましい。なお、ここで言う繊維状とは繊維径0.5μm〜300μm、繊維軸方向の長さ1mm以上の形態を指す。
【0037】
繊維状の前駆体成形体とする場合には、溶融混練した樹脂組成物を紡糸口金より溶融紡糸することにより、熱可塑性炭素前駆体を含有した複合繊維形態として前駆体成形体を得る方法等によることができる。溶融紡糸する際の紡糸温度としては好ましくは150〜400℃であり、より好ましくは180〜400℃であり、さらに好ましくは230〜400℃である。紡糸引き取り速度としては10〜2,000m/分であることが好ましい。
【0038】
上記範囲を逸脱するとリチウムイオン二次電池用電極に好ましい超極細繊維状炭素を得られないため好ましくない。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とを溶融混練して得た樹脂組成物を、紡糸口金より溶融紡糸する際、溶融状態のままで配管内を送液し紡糸口金より溶融紡糸することが好ましく、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練から紡糸口金までの移送時間は10分間以内であることが好ましい。また、成形体として繊維状とするのに、溶融混練した樹脂組成物をメルトブロ−法によって溶融紡糸する方法も好適に採用することができる。
【0039】
溶融状態または軟化状態にある繊維状の成形体を延伸することにより、前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体をさらに伸長する方法も好ましく採用することができる。この処理は、100℃〜400℃、より好ましくは150℃〜380℃で実施することが好ましい。
【0040】
(e)前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する方法
次いで、上記の如くして得られた前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する。この安定化工程を実施せずに、次工程である熱可塑性樹脂の除去工程を行った場合、該工程において熱可塑性炭素前駆体が熱分解したり融着したりする等の問題が生じる場合があり、好ましくない。安定化は、空気、酸素、オゾン、二酸化窒素、ハロゲン等のガス気流下における不融化処理や、酸性水溶液等の溶液処理等公知の方法により行うことができるが、生産性の面からガス気流下における不融化処理が好ましい。使用するガスとしては取り扱いの容易性から空気もしくは酸素の単独ガスまたはこれらを含む混合ガスであることが好ましい。ガス気流下における不融化の具体的な方法としては、好ましくは50〜350℃、より好ましくは60〜300℃の温度において、好ましくは5時間以下、より好ましくは0.5〜3.5時間程度の時間、所定のガス雰囲気に曝す方法によることが好ましい。
【0041】
上記不融化により、前駆体成形体中に含まれる熱可塑性炭素前駆体の軟化点は著しく上昇する。上昇後の軟化点としては、所望の超極細繊維状炭素を得るという目的から、400℃以上とすることが好ましく、500℃以上とすることが、さらに好ましい。
【0042】
(f)安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する方法
次いで、安定化前駆体成形体から、これに含まれる熱可塑性樹脂を除去し、微細繊維状炭素前駆体のみを分離する。
この工程では、超極細繊維状炭素前駆体の熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解・除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。熱可塑性樹脂を分解・除去する方法としては、例えば適当な溶媒により熱可塑性樹脂を溶融・除去する方法、熱分解により熱可塑性樹脂を分解・除去する方法等を例示することができる。
【0043】
前者の方法に利用できる溶媒としては、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、トルエン、キシレン、デカリン、トリクロロベンゼン等を挙げることができる。溶媒による処理は、好ましくは50〜250℃、より好ましくは60〜210℃において、好ましくは10〜120分、より好ましくは20〜60分浸漬する方法によることができる。
【0044】
後者の方法では、安定化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を熱分解で除去する。具体的には安定化樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂を除去し、安定化された繊維状炭素前駆体のみを分離し、繊維状炭素前駆体を形成する。この工程では、繊維状炭素前駆体の熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。
【0045】
熱可塑性樹脂の除去は、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で行うことにより、熱可塑性樹脂の除去を効率的に行うことができ、続く繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程において、繊維間の融着の少ない炭素繊維を作製することができる。熱可塑性樹脂を除去する際の雰囲気圧力は低いほど好ましいが、完全な真空は達成が困難であり、0.01〜50kPaであることが好ましく、0.01〜30kPaであるとより好ましく、0.01〜10kPaであると更に好ましく、0.01〜5kPaであると特に好ましい。熱可塑性樹脂を除去する際、上記の雰囲気圧力が保たれれば、微量の酸素や不活性ガスが存在しても良く、特に微量の不活性ガスが存在すると、熱可塑性樹脂の熱劣化による融着が抑制される利観点があり好ましい。なお、ここで言う微量の酸素とは、酸素濃度30体積ppm以下の酸素、不活性ガス雰囲気下とは20体積ppm以下の二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスをさす。熱可塑性樹脂の除去には、減圧下で熱処理を行う必要があるが、熱処理の温度としては、350℃以上600℃未満の温度で除去することが好ましい。熱処理時間としては、0.5〜10時間処理するのが好ましい。
【0046】
また、熱可塑性樹脂の除去は、不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。不活性ガス雰囲気下で熱可塑性樹脂を除去する場合には、350℃以上600℃未満の温度で除去することが必要である。なお、ここで言う不活性ガス雰囲気下とは、酸素濃度30ppm以下、より好ましくは20ppm以下の二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスを指す。本工程で使用する不活性ガスとしては、コストの関係から二酸化炭素と窒素が好ましく用いることができ、窒素が特に好ましい。安定化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を除去する温度が350℃未満のとき、繊維状炭素前駆体の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を充分行うことができず好ましくない。一方、600℃以上であると、熱可塑性樹脂の熱分解は充分行うことができるものの、繊維状炭素前駆体の熱分解も起こってしまい、結果として熱可塑性炭素前駆体から得られる炭素繊維の炭素化収率を低下させてしまうことから好ましくない。安定化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を分解する温度としては、不活性ガス雰囲気下380〜550℃とすることが好ましく、0.5〜10時間処理するのが好ましい。
【0047】
(g)繊維状炭素前駆体から超極細繊維状炭素を製造する方法
熱可塑性樹脂を除いた繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気中で炭素化することにより、本発明における繊維状炭素を得ることができる。この処理は、例えば黒鉛ルツボ中における熱処理等により行うことができる。
【0048】
ここで、熱処理前に、黒鉛化度を促進させる働きのある黒鉛化触媒であるホウ素を繊維状炭素前駆体に添加することも有効である。触媒の添加量は特に限定されないが、添加量が少なすぎると効果が発現されず、一方多すぎると得られる超極細繊維状炭素中に不純物として残るため好ましくない。好ましい添加量は、1,000ppm以下であり、100〜1,000ppmであることがより好ましい。
【0049】
炭素化の温度としては、最高到達温度として500〜1,500℃であることが好ましく、500〜1,000℃であることがより好ましく、500〜900℃であることがより好ましく。600〜800℃であることが更に好ましい。この処理を行うことにより、リチウムイオン二次電池用の電極に用いる超極細繊維状炭素として有用な炭素構造を形成することができる。
【0050】
炭素化処理は、温度を連続的に上昇してその到達温度において一定時間保持することにより行ってもよく、温度を段階的に上昇して各到達温度においてそれぞれ一定時間保持する方法によって行ってもよい。
【0051】
炭素化の処理時間としては、0.1〜24時間であることが好ましく、0.2〜10時間であることがより好ましく、さらに0.5〜8時間であることが好ましい。ここで、繊維状炭素前駆体を2,000℃以上、好ましくは2,600℃以上の温度に保持する時間としては、好ましくは0.1〜3時間であり、より好ましくは0.5〜2時間である。
【0052】
上記の繊維状炭素前駆体の炭素化において使用される不活性ガスとしては例えば窒素、アルゴン等を挙げることができるが、安価であるとの観点からは窒素が好ましく、副反応が少ないとの観点からはアルゴンが好ましい。
なお、炭素化する際の不活性ガス中の酸素濃度は20体積ppm以下であることが好ましく、10体積ppm以下であることがより好ましい。
【0053】
(h)粉砕方法
次いで、粉砕方法について説明する。本発明の電極材料を作製するためには、粉砕処理を行っても良い。当該粉砕方法を行う工程としては、特に限定はされないが、「安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する方法」、「繊維状炭素前駆体から超極細繊維状炭素を製造する方法」を行ったの後の何れか、または全てにおいて実施するのが好ましい。
【0054】
粉砕の方法としては、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等の微粉砕機を適用することが好ましく、粉砕後に必要に応じて分級を行う。分散媒体中に活性炭を分散した状態で粉砕を行う湿式粉砕は、短時間で容易に微粉砕活性炭を得ることが可能であるため、好ましい。湿式粉砕の場合、粉砕後に分散媒体を除去するが、この際に、2次凝集が顕著となるとその後の取り扱いが非常に困難となる。このような場合は、乾燥後、ボールミルやジェットミル等を用いて解砕操作を行う方が好ましい。このようにして、本発明のリチウムイオン二次電池用の電極に炭素系導電助材として用いる超極細繊維状炭素を製造することができる。
【0055】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池を製造する方法、並びに当該リチウムイオン二次電池を構成するセパレータおよび非水電解液について説明する。
【0056】
[リチウムイオン二次電池用電極を製造する方法]
リチウムイオン二次電池の電極作製方法としては、以下の二つの手法が一般的である。
一つの方法は、活性炭、導電助剤およびバインダーを混合・混練して、押し出し成形によりフィルム化して、これを圧延、延伸した後、集電体と張り合わせる方法である。もう一つの方法は、活性炭、導電助剤、バインダーおよびバインダーを溶解する溶媒を混合してスラリーを調製し、このスラリーを集電体上へ塗布し溶媒を除去後にプレスを行う方法である。
【0057】
本発明の場合、どちらでも可能であるが、後者の方法が好適であるので、以下後者の方法について詳述する。
上記バインダーとしては、電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有していれば好適に用いることが可能である。かかるバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、合成ブタジエンゴム(SBR)、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等よりなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。
【0058】
バインダーとして用いる際の形状としては特に制限はなく、固体状であっても液体状(例えばエマルジョン状)であってもよく、電極の製造方法(特に乾式混練か湿式混練か)、電解液への溶解性等を考慮のうえ、適宜に選択することができる。
【0059】
バインダーを溶解する上記溶媒としては、バインダーを溶解するものである限り特に制限はない。具体的には、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSO)等よりなる群から選ばれる1種類以上を挙げることができ、特にNMPまたはDMAcが好適である。
【0060】
また、バインダーの添加割合としては、特に限定されるものではないが、正極の場合は、本発明の電極材料に対して、1〜20質量%であることが好ましく。より好ましくは、3〜15質量%である。また、負極の場合は、レドックス容量を有する材料に対して、1〜20質量%であることが好ましく。より好ましくは、5〜15質量%である。
【0061】
電極を作製する際に、スラリー中の分散状態が悪いことから、塗布に適した流動性を確保することが困難であることがある。このような場合には、スラリー化助剤を使用してもよい。スラリー化助剤としては、スラリー化助剤として、例えばポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール等よりなる群から選ばれる1つ以上を挙げることができ、特にポリビニルピロリドンを使用することが好適である。上記の如きスラリー化助剤を添加することにより、比較的に少ない溶媒量であっても十分な流動性を確保することができ、微粉砕活性炭の分散性も格段に向上する。また、溶媒除去後のクラックの発生も低減できる。スラリー化助剤の添加量としては、スラリー中の溶媒以外の成分の合計に対して、10質量%以下であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましく、0.5〜8質量%であることがさらに好ましい。スラリー化助剤の添加量が10質量%より多いと逆にスラリー粘度が急激に低下し、分散不良を生じて好適なスラリー作製が困難となる場合がある。また、この値が0.5質量%より少ないと、スラリー化助剤の効果が現れない。
【0062】
上記スラリーにおける固形分濃度(上記スラリーの溶媒以外の成分の合計重量がスラリーの全質量に占める割合をいう。)は、好ましくは10〜30質量%であり、より好ましくは15〜25質量%である。
【0063】
上記電極層を形成する集電体としては、アルミ箔が好適である。この集電体の厚みは10〜50μm範囲が好適である。
上記の如き集電体上に上記スラリーを塗布するには、例えばドクターブレード等の適宜の塗布方法を採用することができる。塗布後、例えば60〜100℃、好ましくは75〜85℃において、好ましくは60〜180分処理することにより溶媒を除去する。その後、溶媒除去後の塗布物をプレスすることにより、集電体上に電極層を製造することができる。このプレスは、より好ましくは10〜30Paの圧力下、好ましくは1〜5分行われる。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池において、電極層の厚みは5〜300μmの範囲が好適である。電極層厚みが5μm未満であると、任意の容量セルを製造しようとした場合、セパレータや集電体を多量に使用することになり、セル内電極層体積占有率が低下してしまい、エネルギー密度観点から好ましくなく、用途がかなり制限されてしまう。特に出力特性(低温特性も含む)も重要であるが、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう。
【0065】
一方、電極厚みが300μmを超える電極を製造することは、クラック発生や電極剥離の問題から比較的に困難を伴うため、電極厚みは概ね300μm以下とすることが電極の安定的製造の観点から好ましい。より安定な電極製造を行うためには、電極厚みは200μm以下とすることがより好ましく、また、電極の生産性やキャパシタの出力特性を高くする目的から、電極厚みのさらに好適な範囲は10〜100μmである。
【0066】
[セパレータ]
本発明のリチウムイオン二次電池において用いられるセパレータの形状としては、紙状(フィルム状)、多孔膜状等の公知の形状を好適に採用することができ、その材質としては、例えばセルロース、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリイミド、ポリオレフィン、テフロン(登録商標)、ポリフェニレンスルファイド等からなる群より選ばれる1種類以上の材質を好適に用いることができる。これらのうち、耐熱性と薄膜化の観点から、特にセルロース紙、芳香族ポリアミドまたは脂肪族ポリイミド多孔膜が好適である。セパレータの膜厚としては、短絡防止の観点から20〜100μm程度であることが好ましいが、本発明では従来のセパレータに比べ十分薄い5〜20μm程度の厚みあるセパレータの適用も可能である。薄いセパレータを用いた方がセパレータに由来する内部抵抗が低減されることで出力が向上し、セルのエネルギー密度も向上する。
【0067】
[非水電解液]
本発明のリチウムイオン二次電池では、電解液に非水電解液を適用する。一般に非水電解液は、水系の電解液に比べ耐電圧が高く、高いエネルギー密度が得られるという特徴がある。
【0068】
かかる非水溶媒としては公知のものを好適に用いることが可能であり、より具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、アセトニトリル、ニトロメタン、メトキシアセトニトリル、ニトロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、3−メトキシプロピオニトリル、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、3−メチルスルホラン、エチルメチルカーボネート等を挙げることができ、これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いても構わない。電解液に用いる溶媒は、適当な沸点、融点、粘性および比誘電率を有することが重要であり、そのような視点から考えると、上記の中でも特にプロピレンカーボネートまたはγ−ブチロラクトンを主体とするものが好適に用いられる。
【0069】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる電解質としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ホウ酸塩類、イミド塩類などを用いることができる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウムなどが挙げられる。イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CFSONLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)(CSO))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((CSONLi)などが挙げられる。電解質の濃度としては、0.5〜2mol/Lが好ましい。電解質は、上記のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる電解液として、エチルメチルイミダゾリウム塩に代表されるイオン性液体も好適に用いることが可能であり、この場合は必ずしも前述の非水溶媒に溶解したうえで用いる必要はない。
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液の25℃における電気伝導度は、1×10−2S/cm以上であることが好ましい。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液としては、例えば前記4級アンモニウム塩からなる電解質を、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネートおよびスルホランよりなる群から選ばれる少なくとも1種の非水溶媒に溶解したものを好ましいものとして例示することができる。
【0072】
<リチウムイオン二次電池の実施の態様>
本発明のリチウムイオン二次電池の実施の態様について以下に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池のセル形状は、特に限定されず、いかなる形状においても実施することができる。具体的には、例えばボタン型、円筒型、角型等のセル形状を挙げることができる。
【0073】
また、複数対の正負電極とセパレータが積層された内部構成とすることも好ましく、この場合、公知のスタック積層型、捲回型、折り返し積層型等の方式を採用することが可能である。
【0074】
本発明のリチウムイオン二次電池の外装材としては、例えば金属缶、アルミラミネート樹脂フィルム等を挙げることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記いずれの態様においても好適に実施可能である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。
実施例中の各種測定や分析は、それぞれ以下の方法に従って行った。
【0076】
(1)前駆体成形体、超極細繊維状炭素の繊維径、繊維長の測定およびその他の炭素系導電助材の形状確認
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)を用いて観察および写真撮影を行った。超極細繊維状炭素等の平均繊維径は、得られた電子顕微鏡写真から無作為に20箇所を選択して繊維径を測定し、それらのすべての測定結果(n=20)の平均値を平均繊維径とした。平均繊維長についても同様に算出した。
【0077】
(2)超極細繊維状炭素のX線回折測定
X線回折測定はリガク社製RINT−2100を用いてJIS R7651法に準拠し、格子面間隔(d002)および結晶子大きさ(Lc002)を測定した。
【0078】
(3)電池性能評価条件
電池性能は、25℃の温度条件下で、0.2C、4.2V、8時間の定電流・定電圧充電、0.2C、2.75Vカットオフの定電流放電を行った。5サイクル目に得られた放電容量をこのセルの初期容量とした。その後、上記の条件にて充放電を繰り返し、容量維持率を算出し、その値により電池性能を評価した。
【0079】
[実施例1]
<超極細繊維状炭素(炭素系導電助材)の製造>
熱可塑樹脂として高密度ポリエチレン(HI−ZEX(登録商標) 5000SR、(株)プライムポリマ−製;350℃、600s−1の溶融粘度14Pa・s)90質量部および熱可塑性炭素前駆体として合成メソフェ−ズピッチAR・MPH(三菱ガス化学(株)製)10質量部を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM−26SS」、バレル温度310℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を調製した。
【0080】
上記樹脂組成物をシリンダ−式単孔紡糸機により、390℃で紡糸口金より紡糸し、前駆体成形体(熱可塑性炭素前駆体を島成分として含有する海島型複合繊維)を作成した。この前駆体成形体の繊維径は300μmであった。次に、前駆体成形体を熱風乾燥機により、空気中において215℃で3時間保持することにより、安定化前駆体成形体を得た。
【0081】
次に、上記安定化前駆体成形体を、真空ガス置換炉中で、窒素置換を行った後に1kPaまで減圧し、減圧状態下で、5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成した。この繊維状炭素前駆体をイオン交換水中に加え、ミキサーで2分間粉砕することにより、濃度0.1重量%の超極細繊維状炭素前駆体を分散させた予備分散液を作製した。この予備分散液を、湿式ジェットミル(株式会社スギノマシン社製、スターバーストラボHJP−17007、使用チャンバー:シングルノズルチャンバー)を用いて、ノズル径0.17mm、処理圧力100MPaにより、処理を10回繰り返すことによって、繊維状炭素前駆体の分散させた液を作製した。次いで、得られた溶媒液を濾過することによって、繊維状炭素前駆体を分散させた不織布を作製した。
【0082】
この繊維状炭素前駆体を分散させた不織布をアルゴンガス雰囲気下、室温から3時間で2800℃まで昇温することで超極細繊維状炭素を作製した。得られた超極細繊維状炭素の平均繊維径は300nm、平均繊維長は16μmであり、分岐構造は見られなかった。また、X線回折法により測定した(002)面の平均面間隔d002が0.3375nmであった。ここで撮影した電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0083】
<負極の製造>
上記のとおりに製造した超極細繊維状炭素(炭素系導電助材)を2質量部と、負極活物質(鱗状黒鉛;日立化成社製、商品名MAGD)91質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)7質量部、溶液としてN−メチルピロリドンを用いることによりスラリーを作製した。作製したスラリーを塗布、乾燥、ロールプレスを行うことにより、負極を作製した。電極の厚みは、75μm、電極密度は1.5g/cm3であった。
【0084】
<正極の製造>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)89質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン6質量部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名デンカブラック)、溶液としてN−メチルピロリドンを用いることによりスラリーを作製した。作製したスラリーを塗布、乾燥、ロールプレスを行うことにより、正極を作製した。電極の厚みは、82μm、電極密度は3.0g/cmであった。
【0085】
<セルの製造>
上記のように作成した正極、負極、およびセパレータにはポリエチレン多孔膜を用い、1mol/L濃度のLiPF6を含むエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート混合溶液(3/7質量比、キシダ化学社製)からなる電解液をセルに注入して、単層ラミネートセルを作製した。
【0086】
<電池性能の評価>
上記の手順により作製したリチウムイオン二次電池の電池性能の評価を行った結果、50回目の容量維持率は92.2%と良好であった。
【0087】
[比較例1]
実施例1の超極細繊維状炭素の替わりに、気相法炭素繊維(昭和電工製、VGCF)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極およびリチウムイオン二次電池を製造して(負極の厚み(75μm)、および電極密度(1.5g/cm)も実施例1に合わせた)、電池性能の評価も行った。50回目の容量維持率は90.7%と劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極、およびそのリチウムイオン二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池は、各種の携帯機器用の電源、電気自動車用電源等の幅広い分野に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電極活物質、炭素系導電助材及びバインダーを含むリチウムイオン二次電池用電極であって、
該炭素系導電助材が、分岐構造を持たない平均繊維径10〜900nmの超極細繊維状炭素であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極を構成要素として含むリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−3985(P2012−3985A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138478(P2010−138478)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】