説明

リチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法

【課題】
カーボンブラックの導電性を阻害せずに分散安定化を図ることにより、これを用いて作製されるリチウムイオン二次電池の電池性能を向上させるとともに、生産性を向上させること。
【解決手段】
N−メチル−2−ピロリドンが全重量の20重量%〜60重量%、かつ、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量以下で、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練する。特に、混練工程に2本ロールミルを使用することで、電極の低抵抗化および、電極集電体と電極合材もしくは、活物質と導電助剤との密着性の向上に起因すると思われる電池性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池を構成する電極に使用するカーボンブラック分散体の製造方法に関する。また、該分散体を使用して電極合材層が形成された電池用電極、および正極および負極の少なくとも一方が該電極であるリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器が広く用いられるようになってきた。これらの電子機器には、容積を最小限にし、かつ重量を軽くすることが常に求められてきており、搭載される電池においても、小型、軽量かつ大容量の電池の実現が求められている。また、自動車搭載用などの大型二次電池においても、従来の鉛蓄電池に代えて、大型の非水電解質二次電池の実現が望まれている。
【0003】
そのような要求に応えるため、リチウムイオン二次電池の開発が活発に行われている。リチウムイオン二次電池の電極としては、リチウムイオンを含む正極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた正極、及び、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた負極が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらは電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られない。そこで、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)やグラファイト(黒鉛)等の炭素材料を導電助剤として添加することで導電性を改善し、電極の内部抵抗を低減することが試みられている。
【0005】
一方、負極活物質としては、通常黒鉛が用いられている。黒鉛はそれ自身が導電性を有しているものの、黒鉛とともに導電助剤としてアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加すると充放電特性が改善されることが知られている。これは、一般に用いられる黒鉛粒子は大きいために、黒鉛単独で使用すると電極層に充填された時の隙間が多くなってしまうが、導電助剤としてカーボンブラックを併用した場合は、微細なカーボンブラック粒子が黒鉛粒子間の隙間を埋めることで接触面積が増え、抵抗が下がるためではないかと思われる。しかしながら、この場合も導電助剤の分散が不十分であると、導電効果が低減する。
【0006】
電極の内部抵抗を低減することは、大電流での放電を可能とすることや、充放電の効率を向上させる上で非常に重要な要素の一つとなっている。しかしながら、導電性に優れた炭素材料(導電助剤)は、ストラクチャーや比表面積が大きいため凝集力が強く、リチウムイオン二次電池の電極合材形成用スラリー中に均一混合・分散することが困難である。そして、導電助剤である炭素材料の分散性や粒度の制御が不十分な場合、均一な導電ネットワークが形成さないために電極の内部抵抗の低減が図れず、その結果、活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物やグラファイトなどの性能を十分に引き出せないという問題が生じている。また、電極合材中の導電助剤の分散が不十分であると、部分的凝集に起因して電極板上に抵抗分布が生じ、電池として使用した際に電流が集中し、部分的な発熱および劣化が促進される等の不具合が生ずることがある。
【0007】
また、金属箔などの電極集電体上に電極合材層を形成する場合、多数回充放電を繰り返すと、集電体と電極合材層の界面や、電極合材内部における活物質と導電助剤界面の密着性が悪化し、電池性能が低下する問題がある。これは、充放電におけるリチウムイオンのドープ、脱ドープにより活物質および電極合材層が膨張、収縮を繰り返すために、電極合材層と集電体界面および、活物質と導電助剤界面に局部的なせん断応力が発生し界面の密着性が悪化するためと考えられている。そしてこの場合も、導電助剤の分散が不十分であると、密着低下が著しくなる。これは、粗大な凝集粒子が存在すると、応力が緩和されにくくなるためであると思われる。
【0008】
さらに、電極合材層は一般的に、正極活物質または負極活物質、導電助剤、バインダー、および溶剤を含む合材ペーストを集電体上に塗工して形成されるが、塗工方法によって適正粘度があり、溶剤量によって合材ペーストの粘度を調整を行う。この場合も導電助剤の分散が不十分であると、同一組成で粘度が高くなり、溶剤量が多く必要となるため、塗工後の乾燥時間が長くなり、乾燥に要するエネルギーコストが増大したり製造速度が低下するなどして生産性が低下してしまうという問題があった。
【0009】
このように、リチウムイオン二次電池においては導電助剤である炭素材料の分散が重要なポイントの一つである。特許文献1および特許文献2には導電助剤と結着剤と溶剤をあらかじめ分散し、その後活物質を添加する例が記載されている。しかしながら、導電助剤と結着剤の濃度および比率には言及されておらず、導電助剤の最適な分散条件が提示されていない。また、特許文献1の実施例には主としてボールミルなどのメディア型分散機を使用した場合が記載されているが、メディアとして使用するボールやビーズの摩耗粉がコンタミとして問題になる場合がある。特許文献2に記載されている二軸エクストルーダーは連続的に混練物を製造することができる反面、一定量を長時間混練するには複数回の混練工程を経る必要があり、分散に時間のかかるストラクチャーや比表面積が大きい導電助剤の分散には不向きである。
【0010】
また、特許文献3、特許文献4には、カーボンブラックを溶剤に分散する際に、分散剤として界面活性剤を用いる例が記載されている。しかしながら、界面活性剤は炭素材料表面への吸着力が弱いため、良好な分散安定性を得るには界面活性剤の添加量を多くしなければならず、この結果、含有可能な活物質の量が少なくなり、電池容量が低下してしまう。また、界面活性剤の炭素材料への吸着が不十分であると炭素材料が凝集してしまう。一般的に界面活性剤は、水溶液中での分散と比較して有機溶剤中での分散効果が著しく低い。
【0011】
特許文献5および特許文献6には、カーボンブラックを溶剤に分散する際に分散樹脂を添加することでカーボンスラリーの分散状態を改善し、そのカーボンスラリーと、活物質とを混合して、電極用合材を作成する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、カーボンブラックの分散性は向上するものの、比表面積の大きな微細なカーボンブラックの分散を行う場合には大量の分散樹脂が必要となること、および分子量の大きな分散樹脂がカーボンブラック表面を被覆してしまうことなどから、導電ネットワークが阻害され電極の抵抗が増大し、結果的にカーボンブラックの分散向上による効果を相殺してしまう場合がある。
【0012】
一方、特許文献7には、合材ペースト作製時に溶剤を複数回に分けて添加することで溶剤量を減らしつつ適正粘度に調製する方法が開示されている。しかしながら、乾燥工程時間の短縮は確認されているものの、混練に用いる機械の詳細や電池性能評価結果の記載がなく、この方法では導電助剤を十分に分散することができていないと推測される。
【0013】
以上のような問題に鑑み、本発明は、カーボンブラックの導電性を阻害せずに分散安定化を図ることにより、これを用いて作製されるリチウムイオン二次電池の電池性能を向上させるとともに、生産性を向上させることを目的とする。
【特許文献1】特開平10−255844号公報
【特許文献2】特開2004−014206号公報
【特許文献3】特開昭63−236258号公報
【特許文献4】特開平08−190912号公報
【特許文献5】特開2003−157846号公報
【特許文献6】特表2006−516795号公報
【特許文献7】特開平7−161350号公報
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、N−メチル−2−ピロリドンが全重量の20重量%〜60重量%、かつ、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量以下で、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練することにより、分散安定性に優れるリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体を調製できることを見出した。特に、混練工程に2本ロールミルを使用することで、電極の低抵抗化および、電極集電体と電極合材もしくは、活物質と導電助剤との密着性の向上に起因すると思われる電池性能向上効果を見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練してなるリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法であって、N−メチル−2−ピロリドンが該分散体の20重量%〜60重量%、かつ、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量以下で混練することを特徴とする製造方法に関する。
また、本発明は、混練工程に2本ロールミルを使用することを特徴とする、上記のリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法に関する。
また、本発明は、粉末状のフッ化ビニリデン系ポリマーを使用することを特徴とする、上記のリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、上記の製造方法で製造されてなるリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体に関する。
【0017】
さらに、本発明は、上記の分散体と正極活物質または負極活物質とを混合することを特徴とする、リチウムイオン二次電池電極用合材ペーストの製造方法に関する。
さらに、本発明は、上記の分散体と正極活物質または負極活物質とフッ化ビニリデン系ポリマーとを混合することを特徴とする、リチウムイオン二次電池電極用合材ペーストの製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、上記の製造方法で製造されてなるリチウムイオン二次電池電極用合材ペーストに関する。
【0019】
さらに、本発明は、上記の分散体を使用して電極下地層が形成された電池用電極に関する。
さらに、本発明は、上記の合材ペーストを使用して電極合材層が形成された電池用電極に関する。
さらに、本発明は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、上記の電池用電極であるリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の好ましい実施態様によれば、リチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体において、カーボンブラックの導電性を阻害することなく分散安定化が図られているため、これを用いて作製されるリチウムイオン二次電池の電池性能を向上させるとともに、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明におけるリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法は、N−メチル−2−ピロリドンが全重量の20重量%〜60重量%、かつ、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量以下で、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練することを特徴とするが、以下にその詳細を説明する。
【0022】
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボンなども使用できる。
【0023】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0024】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m/g以上、1500m/g以下、好ましくは50m/g以上、1500m/g以下、更に好ましくは100m/g以上、1500m/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0025】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0026】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
<フッ化ビニリデン系ポリマー>
一般的に、リチウムイオン二次電池にはバインダーとしてフッ化ビニリデン系ポリマーが用いられており、本発明においても好適に用いられる。
【0028】
フッ化ビニリデン系ポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(ホモポリマー)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、およびそれらに官能基を導入したもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0029】
フッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量は20万〜110万が好ましく、60万〜110万がさらに好ましい。分子量が20万未満のものは結着性が悪いため、電極合材層内のバインダー比率を増やして結着性を向上させると容量が低下し、比率を変えなければ電極合材層と集電体との密着性が低下する場合がある。分子量が110万を超えると、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度が低くなるため、好適な性状のペーストを得ることが困難な場合がある。
【0030】
フッ化ビニリデン系ポリマーはN−メチル−2−ピロリドン溶液として流通する場合があるが、本発明には粉末状のものを用いる方が好ましい。一般的にフッ化ビニリデン系ポリマーのN−メチル−2−ピロリドン溶液はN−メチル−2−ピロリドンの含有量が多いため、本発明のカーボンブラック分散体における適正濃度、組成比に調製することが困難な場合がある。
【0031】
市販のフッ化ビニリデン系ポリマーとしては、例えば、KFポリマーW#1100、#1300、#1700、#7200、#7300、#9100、#9200、#9300(クレハ社製)、カイナー721、741、761、461、301F、HSV900、カイナーフレックス2851、2801、2821(アルケマ社製)、ソレフ1013、1015、21216、31508、6020(ソルベイソレクシス社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
<N−メチル−2−ピロリドン>
本発明にはN−メチル−2−ピロリドンが好適に用いられる。N−メチル−2−ピロリドンはラクタム構造を含む5員環の構造を持つ有機化合物で、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等と同じく非プロトン性極性溶媒に属する。高い溶解性を持ち、フッ化ビニリデン系ポリマーを溶解することができるため、一般的にリチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。
【0033】
<正極活物質及び負極活物質>
本発明に用いる正極活物質としては特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V、V13、TiO等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0034】
本発明に用いる負極活物質としては特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiFe、LiFe、LiWO等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が用いられる。
【0035】
<カーボンブラック分散体の製造方法>
次に、本発明のカーボンブラック分散体の製造方法について説明する。本発明のカーボンブラック分散体は、N−メチル−2−ピロリドンが該分散体の20重量%〜60重量%、かつ、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量以下で、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練することにより製造する。N−メチル−2−ピロリドンが分散体の20重量%未満、もしくは60重量%より多い場合、混練によるカーボンブラックおよびフッ化ビニリデン系ポリマーの混合、分散の効率が低下する傾向が見られた。また、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量よりも多い場合、混練によるカーボンブラックおよびフッ化ビニリデン系ポリマーの混合、分散の効率が低下するだけでなく、後述する電極用合材ペーストの組成の自由度が狭まる場合がある。
【0036】
カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練するための装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、フェンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、プライミクス社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ニーダー、ローラーミル、石臼式ミル、ハイブリダイザー((株)奈良機械製作所)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所)、クレアSS−5(エム・テクニック社製)、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株))等のメディアレス分散機、エクストルーダー類、ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
中でも、2本ロールミルが特に好適に用いられる。本発明の条件では2本ロールミルで混練した場合が最も効率良くカーボンブラックおよびフッ化ビニリデン系ポリマーを分散安定化できるため、得られたカーボンブラック分散体を使用して後述する電極用合材ペーストを調製した際に、同一組成での粘度が他の装置を使用した場合よりも低くなる傾向が見られた。それにより、塗工適正粘度とするために必要なN−メチル−2−ピロリドンの量が少なくて済むため、塗工後の乾燥時間短縮や、乾燥に要するエネルギーコストを削減することができると考えられる。
【0038】
カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンの2本ロールミルによる混練処理について説明する。本発明における2本ロールミルによる混練処理は、2本ロールミルによるせん断力を利用してカーボンブラックの凝集体を解砕しつつ、フッ化ビニリデン系ポリマーをN−メチル−2−ピロリドンに分散及び/または溶解させるものである。混練処理を行うときには、まずカーボンブラックと、カーボンブラック100重量部に対し5重量部〜100重量部、好ましくは10重量部〜50重量部のフッ化ビニリデン系ポリマーと、全重量の20重量%〜60重量%、好ましくは30重量%〜50重量%のN−メチル−2−ピロリドンとを、常温もしくは加熱下で混合し、均質な混合物を作る。
【0039】
得られたカーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンの混合物を、加熱温度40〜200℃、回転速度を10〜50rpmとした2本ロールにて複数回混練処理し、断片状もしくはシート状の混練物を得る。混練回数は、希望する混練度に応じて任意に設定できる。得られた混練物がシート状の場合は、粉砕して粉状または断片状とした後に、次の工程に使用するのが好ましい。シート状の混練物を粉砕する方法としては、通常の粉砕機を用いればよく、特に限定されないが、金属コンタミ等を考慮し、フッ素樹脂コーティングやセラミック溶射処理などを施された粉砕機を用いるのが好ましい。
【0040】
得られた混練物は、そのまま後述する電極用合材ペーストの調製に用いても良いし、N−メチル−2−ピロリドン中に溶解及び/または分散してから電極用合材ペーストの調製に用いても良い。N−メチル−2−ピロリドン中に溶解及び/または分散するための装置としては特に限定されるものではなく、一般的なミキサー類、ホモジナイザー類などを使用できる。N−メチル−2−ピロリドン中に溶解及び/または分散する場合、金属異物等のコンタミを除く工程を入れることが好ましい。金属異物等を除去することは電池の短絡を防ぐために非常に重要となる。金属異物等を除く方法としては、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる。
【0041】
<電極用合材ペーストの製造方法>
電極用合材ペーストは、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンの混練物、または該混練物をN−メチル−2−ピロリドン中に溶解及び/または分散したものに、正極活物質または負極活物質と、必要に応じてN−メチル−2−ピロリドン、フッ化ビニリデン系ポリマーを添加し、混合及び/または分散することにより製造することができる。N−メチル−2−ピロリドンの添加量は塗工適正粘度、乾燥工程条件などを鑑みて調整する。フッ化ビニリデン系ポリマーの添加量は塗工適正粘度、電極合材層の結着性や電池容量などを鑑みて調整する。また、この工程でフッ化ビニリデン系ポリマーを添加する場合は、N−メチル−2−ピロリドンに溶解したものを使用するのが好ましい。電極用合材ペーストの混合及び/または分散を行うための装置としては、特に限定されるものではなく、カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンの混練に用いる装置として例示したものや、ビーズミルなどが挙げられる。
【0042】
<電池用電極>
電極について、使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属や合金が用いられるが、特に正極材料としてはアルミニウムが、負極材料としては銅の使用が好ましい。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、およびメッシュ状のものも使用できる。
【0043】
集電体上に電極下地層を形成する方法としては、本発明におけるカーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンの混練物をN−メチル−2−ピロリドン中に溶解及び/または分散したものを電極集電体に塗布、乾燥する方法が挙げられる。電極下地層の膜厚としては、導電性および密着性が保たれる範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.05μm以上、20μm以下であり、好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。
【0044】
集電体上に電極合材層を形成する方法としては、集電体上に前述の電極合材ペーストを直接塗布し乾燥する方法、および集電体上に電極下地層を形成した後に電極合材ペーストを塗布し乾燥する方法などが挙げられる。また、電極下地層の上に電極合材層を形成する場合、集電体上に電極下地ペーストを塗布した後、湿潤状態のうちに電極合材ペーストを重ねて塗布し、乾燥を行っても良い。電極合材層の厚みとしては、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0045】
塗布方法については、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、静電塗装法等が挙げられる。また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0046】
<リチウム二次電池>
最後に、本発明の製造方法による分散体または合材ペーストを用いたリチウムイオン二次電池について説明する。リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備する。本発明のリチウムイオン二次電池は、正極および負極の少なくとも一方に、前述の電極を使用して製造することができる。
【0047】
本発明のリチウム二次電池を構成する電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶剤に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、LiBPh等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0048】
非水系の溶剤としては特に限定はされないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−オクタノイックラクトン等のラクトン類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のグライム類、メチルフォルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート等のエステル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、アセトニトリル等のニトリル類、が挙げられる。またこれらの溶剤は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0049】
更に上記電解液を、ポリマーマトリクスに保持しゲル状とした高分子電解質とすることもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
本発明の組成物を用いたリチウム二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型など、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0051】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は重量部を、%は重量%をそれぞれ表す。また、以下N−メチル−2−ピロリドンをNMPと略記する。
【0052】
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック、フッ化ビニリデン系ポリマー及びその溶液、活物質を以下に示す。
【0053】
<カーボンブラック>
・デンカブラックHS−100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、以下HS−100と略記する。
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径35nm、比表面積69m/g、以下粉状品と略記する。
・Super−P Li(TIMCAL社製):ファーネスブラック、一次粒子径40nm、比表面積62m2/g。
・EC−300J(アクゾ社製):ケッチェンブラック、一次粒子径40nm、比表面積800m2/g。
【0054】
<フッ化ビニリデン系ポリマー及びその溶液>
・KFポリマーW#1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン、重量平均分子量約28万、以下W#1100と略記する。
・KFポリマーW#7300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン、重量平均分子量約100万、以下W#7300と略記する。
・KFポリマーW#9300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、重量平均分子量約100万、以下W#9300と略記する。
・KFポリマーL#1120(クレハ社製):W#1100の12重量%NMP溶液、以下L#1120と略記する。
・KFポリマーL#7305(クレハ社製):W#7300の5重量%NMP溶液、以下L#7305と略記する。
・KFポリマーL#9305(クレハ社製):W#9300の5重量%NMP溶液、以下L#9305と略記する。
【0055】
<活物質>
・HLC−22(本荘ケミカル社製):正極用活物質コバルト酸リチウム(LiCoO)、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、以下LCOと略記する。
・MCMB6−28(大阪ガスケミカル社製):負極用活物質メソフェーズカーボン(MFC)、平均粒径5〜7μm、比表面積4m/g、以下MFCと略記する。
【0056】
<カーボンブラック分散体の調製>
[実施例1〜実施例5]
表1に示す組成に従い、各種カーボンブラックと各種フッ化ビニリデン系ポリマーとNMPとを室温下で混合し、均質な湿潤混合物を得た。この湿潤混合物を100℃に加温した2本ロールで繰り返し混練処理し、各種カーボンブラック分散体を得た。その後、カーボンブラック分散体を粉砕し、140℃の熱風オーブンで1時間乾燥したときの乾燥前後の重量差から不揮発分を求めた。さらに、NMPを用いて希釈し、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて分散粒径(D50の値)を測定した。評価結果を表1に示した。
【0057】
[実施例6]
表1に示す組成に従い、HS−100とL#1120とを2軸エクストルーダ(栗本鉄工所社製)用いて混練処理し、カーボンブラック分散体を得た。その後、140℃の熱風オーブンで1時間乾燥したときの乾燥前後の重量差から不揮発分を求めた。さらに、NMPを用いて希釈し、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて分散粒径(D50の値)を測定した。評価結果を表1に示した。
【0058】
[比較例1]
表1に示す組成に従い、粒状品とL#7305とをプラネタリーミキサー(プライミクス社製)を用いて混練処理し、カーボンブラック分散体を得た。その後、140℃の熱風オーブンで1時間乾燥したときの乾燥前後の重量差から不揮発分を求めた。さらに、NMPを用いて希釈し、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて分散粒径(D50の値)を測定した。評価結果を表1に示した。
【0059】
[比較例2]
混練処理に使用する装置をフィルミックス(プライミクス社製)と代える他は比較例1と同様にしてカーボンブラック分散体を得た。評価も同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0060】
[比較例3]
使用するフッ化ビニリデン系ポリマー溶液をL#9305とし、混練処理に使用する装置を2軸エクストルーダ(栗本鉄工所社製)と代える他は比較例1と同様にしてカーボンブラック分散体を得た。評価も同様に行った。評価結果を表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表中、L#1120、L#7305、L#9305に含まれるNMPの量を括弧書きで示した。
【0063】
表1より、実施例の分散体は比較例の分散体に比べて分散粒度が小さいことが分かる。
【0064】
[実施例7、実施例8]
表2に示す組成に従い、実施例2および実施例5のカーボンブラック分散体とNMPとをディスパーで混合し、各種カーボンブラック分散体を得た。得られた分散体の分散粒径は、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて分散粒径(D50の値)を測定した。また、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、25℃、60rpmで粘度の測定を行った。評価結果を表2に示した。
【0065】
[比較例4〜比較例6]
表2に示す組成に従い、比較例1〜比較例3のカーボンブラック分散体とNMPとをディスパーで混合したが、分散体はいずれも著しく凝集していた。得られた分散体の分散粒径は、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて分散粒径(D50の値)を測定した。また、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、25℃、60rpmで粘度の測定を行った。評価結果を表2に示した。
【0066】
【表2】

【0067】
表中、L#7305、L#9305に含まれるNMPの量を含めた、分散体中のNMPの量を括弧書きで示した。
【0068】
表2より、実施例の分散体は比較例の分散体に比べて、同組成で低粘度かつ分散粒度が小さいことが分かる。
【0069】
<電池電極用合材ペーストの調製>
実施例、比較例で得られた電池電極用合材ペーストの評価は、不揮発分、粘度の測定と、PETフィルム上にドクターブレードを用いて塗布した後、乾燥し、塗膜の表面抵抗と外観により行った。不揮発分は140℃の熱風オーブンで1時間乾燥したときの乾燥前後の重量差からを求めた。粘度の測定はB型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、25℃、60rpmでを行った。表面抵抗の測定にはロレスタ−GP(三菱化学アナリテック社製)を用いた(JISK7194に準ず)。塗膜外観は目視で○:問題なし、×:粗粒の筋引きあり、とした。
【0070】
[実施例9〜実施例16、比較例7〜比較例12]
表3に示す組成に従い、LCOまたはMFCと、先に実施例または比較例で調製した各種分散体、および各種フッ化ビニリデン系ポリマー溶液をディスパーにて混合し、各種電池電極用合材ペーストを得た。その際、活物質:カーボンブラック:フッ化ビニリデン系ポリマーの比率が、W#1100およびL#1120を使用した場合、90:5:5となるように、W#7300、W#9300、L#7305、およびL#9305を使用した場合、92:5:3となるようにフッ化ビニリデン系ポリマー溶液を添加した。評価結果を表3に示した。
【0071】
[比較例13、比較例14]
表3に示す組成に従い、LCOまたはMFCと、粒状品と、L#7305またはL#9305と、NMPとをディスパーにて混合し、各種電池電極用合材ペーストを得た。その際、活物質:カーボンブラック:フッ化ビニリデン系ポリマーの比率が92:5:3となるようにフッ化ビニリデン系ポリマー溶液を添加した。評価結果を表3に示した。
【0072】
【表3】

【0073】
表中、L#1120、L#7305、L#9305に含まれるNMPの量を含めた、分散体中およい電極用合材ペースト中のNMPの量を括弧書きで示した。
【0074】
表3より、本発明の分散体を使用した実施例の電池電極用合材ペーストは、比較例に比べて塗膜の表面抵抗が優れていることが分かる。比較例7〜比較例10、比較例13、比較例14の電極用合材ペーストを塗工したPETフィルムは粗粒に起因する筋引きが入ってしまった。また、ほぼ同一組成である実施例15と比較例10および比較例11、実施例16と比較例12を比較すると、実施例の分散体を使用した電池電極用合材ペーストは良好な粘性で塗工に適するのに対し、比較例の分散体を使用した電池電極用合材ペーストは粘度が高く、実際の電池用電極製造ではさらにNMPを添加する必要があると思われる。また、分散体を作成せず、一括で混合した比較例13、比較例14に関しても粘度が高く、実際の電池用電極製造ではさらにNMPを添加する必要があると思われる。
【0075】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例17〜実施例22、比較例13〜比較例17]
先に調製した電池電極用合材(実施例9〜実施例12、実施例14、実施例15、比較例7、比較例8、比較例10、比較例11、比較例13)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0076】
<リチウムイオン二次電池負極評価用セルの組み立て>
[実施例23、実施例24、比較例18〜比較例20]
先に調製した電池電極用合材(実施例13、実施例16、比較例9、比較例12、比較例14)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの負極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0077】
<リチウムイオン二次電池正極特性評価>
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工社製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認し、部分的に合材が集電体より剥がれているのが確認された場合に×とした。評価結果を表4に示した。
【0078】
【表4】

【0079】
表4より、本発明の電極を使用した実施例は、比較例に比べて電池容量、20サイクル容量維持率において良好な結果が得られた。特に、混練工程に2本ロールミルを使用した実施例において、良好な評価結果が得られた。比較例13〜比較例15、比較例17は評価後、集電体から合材が剥落していた。
【0080】
<リチウムイオン二次電池負極特性評価>
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧0.5V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で電圧が1.5Vになるまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜不良の有無を目視にて確認し、部分的に合材が集電体より剥がれているのが確認された場合に×とした。評価結果を表5に示した。
【0081】
【表5】

【0082】
表5より、本発明の電極を使用した実施例は、比較例に比べて電池容量、20サイクル容量維持率において良好な結果が得られた。比較例18、比較例20は評価後、集電体から合材が剥落していた。
【0083】
<リチウムイオン二次電池電極下地層評価>
[実施例25、実施例26、比較例21、比較例22]
先に調製したカーボンブラック分散体(実施例8、比較例6)をを、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥し、厚さ2μmの電極下地層を作製した。次に電極下地層上に比較例8で調整した正極合材ペースト、または比較例9で調製した負極合材ペーストをドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥し、厚さ100μmの電極合材層を作製した。ロールプレス等による圧延処理は行わなかった。
【0084】
電極下地層と正極合材層が形成された集電体(実施例25および比較例21)を直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0085】
電極下地層と負極合材層が形成された集電体(実施例26および比較例22)を直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0086】
作製した電池評価用セル(実施例25および比較例21)を室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、10サイクル後、20サイクル後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認し、部分的に合材が集電体より剥がれているのが確認された場合に×とした。評価結果を表6に示した。
【0087】
作製した電池評価用セル(実施例26および比較例22)を室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、10サイクル後、20サイクル後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認し、部分的に合材が集電体より剥がれているのが確認された場合に×とした。評価結果を表6に示した。
【0088】
【表6】

【0089】
表6より、本発明の電極下地層を設けた電極では密着性の向上が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックとフッ化ビニリデン系ポリマーとN−メチル−2−ピロリドンとを混練してなるリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法であって、N−メチル−2−ピロリドンが該分散体の20重量%〜60重量%、かつ、フッ化ビニリデン系ポリマーの重量がカーボンブラックの重量以下で混練することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
混練工程に2本ロールミルを使用することを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法。
【請求項3】
粉末状のフッ化ビニリデン系ポリマーを使用することを特徴とする、請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の製造方法で製造されてなるリチウムイオン二次電池電極用カーボンブラック分散体。
【請求項5】
請求項4記載の分散体と正極活物質または負極活物質とを混合することを特徴とする、リチウムイオン二次電池電極用合材ペーストの製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の分散体と正極活物質または負極活物質とフッ化ビニリデン系ポリマーとを混合することを特徴とする、リチウムイオン二次電池電極用合材ペーストの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の製造方法で製造されてなるリチウムイオン二次電池電極用合材ペースト。
【請求項8】
請求項4記載の分散体を使用して電極下地層が形成された電池用電極。
【請求項9】
請求項7記載の合材ペーストを使用して電極合材層が形成された電池用電極。
【請求項10】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項8または9記載の電池用電極であるリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2011−192620(P2011−192620A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60147(P2010−60147)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】