説明

リチウムイオン再充電可能電池セル

本発明はリチウムイオン再充電可能電池セルの電極に係り、前記電極は:集電体、及び接着性媒体(cohesive mass)を含み、前記接着媒体は、活性材料としてシリコン及びポリマー性バインダを含み、前記ポリマー性バインダは、アクリル酸、3−ブテン酸、2−メタクリル酸、2−ペンテン酸、2,3−ジメチルアクリル酸、3,3−ジメチルアクリル酸、トランス−ブテンジオン酸、シス−ブテンジオン酸及びイタコン酸、及び場合によりそれらのアルカリ金属塩を含む群から選択されるひとつ又はそれ以上のモノマーのホモポリマー又はコポリマーであり、前記シリコンは前記活性材料の20から100%であり、前記バインダはシリコンと混合されて接着性媒体を形成し、前記接着性媒体は前記集電体へ接着して前記接着性媒体を前記集電体と接触を維持する、電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン再充電可能電池セル及び特に前記セルに用いるバインダに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン再充電可能電池セルは、現在、カーボン/グラファイト系アノードを用いている。図1に、前記グラファイト系アノード電極を含むリチウムイオン再充電可能電池セルが示される。電池は単一のセルを含んでいてもよいし、また2以上のセルを含んでいてもよい。
【0003】
電池セルは通常、アノードとして銅集電体10及びカソードとしてアルミニウム集電体12を含み、これらは負荷又は適切な充電電源に接続される。留意すべきは、用語「アノード」及び「カソード」は本明細書においては、これらの用語は負荷を横切って設けられる電池の内容において理解されるべきものである。即ち「アノード」は電池の負極であり「カソード」は電池の正極である、ということである。グラファイト系複合アノード層14は集電体10を覆い、リチウム含有金属酸化物系複合カソード層16は集電体12を覆う。多孔性プラスチックスペーサ又はセパレータ20が、前記グラファイト系複合アノード層14及びリチウム含有金属酸化物系複合カソード層16の間に設けられ、液体電解質材料が前記多孔性プラスチックスペーサ又はセパレータ20、複合アノード層14及び複合カソード層16内に分散される。ある場合には、前記多孔性スペーサ又はセパレータ20はポリマー電極材料と置き換えられ、かかる場合前記ポリマー電極材料は、前記複合アノード層14及び前記複合カソード層16内に存在する。
【0004】
電池セルが完全に充電される場合、リチウムはカソードのリチウム含有金属酸化物から、前記電解質を介してグラファイト系アノードへ移動し、そこでリチウムはグラファイトとの反応によりインタカレートされてリチウム炭素化合物、通常LiCを生成する。前記複合アノード層内の電気化学的活性材料である、グラファイトは最大の容量として372mAh/gを有する。
【0005】
グラファイトの代わりにシリコンが活性アノード材料として使用できることが知られている (例えば, Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, M. Winter, J. O. Besenhard, M. E. Spahr, and P.Novak in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10)。一般的に、シリコンは活性アノード材料としてリチウムイオン再充電可能電池セルとして用いられる場合に、現在使用されているグラファイトに比較して非常に高い容量を提供し得る、ということが考えられている。電気化学的セル内でリチウムと反応することで化合物Li21Siへ変換され、理論上は最大容量4200mAh/gを持ち、グラファイトと比較して非常に大きい。従って、リチウムイオン再充電可能電池セルにおいて、グラファイトをシリコンと置き換えると、単位当たりの質量及び単位容積当たりの貯蔵エネルギの非常に大きい増加が達成され得ることとなる。
【0006】
グラファイト系アノードを用いるリチウムイオン再充電可能電池セルにおいて、グラファイトは微粉末形状でありこれらの粉末はバインダで保持されている。グラファイトアノードではポリビニリデンフロリド(PVDF)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)が最も通常に使用されるバインダである。しかしその他のバインダも示唆されている。例えばUS−5660948には、リチウムイオンセルのカーボンアノードでの次のバインダが開示されている:エチレン−プロピレンジエンターモノマー、PVDF、エチレン−アクリル酸コポリマー及びエチレンビニルアセテートコポリマー等である。
【0007】
US−6399246には、ポリ(アクリル酸)は、リチウムイオンセルのグラファイトアノードで十分な接着性を与えないことを教示し、ポリアクリルアミドバインダの使用を請求している。
【0008】
US−6620547には、カーボンアノードを持つリチウムイオン再充電可能セルを開示しており、リチウムがインタカレーションされ、遷移金属から形成されるカソードがポリマーマトリックスで保持されている。前記ポリマーは前記遷移金属に親和性を有し前記ポリマー上に保持される。
かかるポリマーは、ポリアクリレート、ポリ(アクリル酸)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリアクリロニトリル、ポリ(ビニリデンフロリド)及びポリ(ビニルクロリド)などのいくつかの材料から選択され得る。
【0009】
US5260148には、リチウム化合物から形成されるアノードを持つリチウム再充電可能セルを開示しており、前記リチウム化合物はバインダで保持され、前記バインダは、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ジアセチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレングリコール、ポリ(アクリル酸)、ポリテトラフルオロエチレン及びポリ(ビニリデンフロリド)であり得る。
【0010】
リチウムイオンセルのグラファイトアノードで使用される最も普通のバインダ(PVDF及びSBR)は、シリコン系アノードにおいては連続する充電サイクルに対してシリコン電極材料を接着保持しない。この理由は次のように考えられる。即ち、セルの充放電サイクルの際のシリコン材料へのリチウムイオンの挿入及び除去に伴う比較的大きな容積変化による。前記容積変化が対応するグラファイトアノード内で起こるよりもずっと大きいものであり、前記シリコンアノードが放電の際にリチウムイオン除去により縮小する際に、個々のシリコン粒子がお互い粒子間及び集電体との接触を必ずしも再確立されるものではない。
【0011】
シリコンシステムのために提案されている他のバインダはナトリウムカルボキシメチルセルロース(NaCMC)であり、このNaCMCは、高純度シリコン(集積回路(IC)ウェハ製造のために使用されるタイプ)との組み合わせにおいて使用されると適切に機能する。比較的安価な、低級シリコンを用いる場合には、少量の不純物が存在し、これらは前記バインダ溶液と化学的に適合せず、前記シリコン/バインダ混合物の粘度低下を生じる。従って、得られるコーティングは、集電体と十分な接触を維持できず、電荷保持容量を失うまでの放電/充電サイクル数が限定されてしまうこととなる。
【0012】
Journal of Applied Electrochemistry (2006) 36:1099−1104には、Liイオン電池のバインダとしてアクリル系接着剤の使用が開示されている。前記アノード材料はSi/C複合体であり、Siのみのアノードに比較して容積の変化がより小さい。製品LA132を参照する他は前記アクリル系接着剤の性質については開示されていない。前記LA132とは、メチルエチルケトン、エチルアセテート及びトルエン中のアクリロニトリル及びブタジエン混合物であると考えられている。
【0013】
J Power Sources, 161 (2006), 612−616には、リチウムイオン電池のカーボンアノードが記載され、NaCMCがまた増粘剤として、及びSBRがバインダとして含まれる。PAA(ポリ(アクリル酸))が表面分散剤として添加されている。
【0014】
J Power Sources, 173 (2007), 518−521には、プロピレンカーボネート溶媒/電解質を用いる場合にLi−イオンセルのグラファイト電極の問題に言及している。というのは、プロピレンカーボネートは、充放電の際に前記グラファイト電極へインタカレーションされ、溶媒分解及びグラファイト剥離が生じるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、ある範囲の粒子状シリコン材料を共に満足にバインドすることができるバインダを見出すことである。特に前記粒子状シリコン材料は、比較的安価な「低グレード」シリコンの粒子状シリコン材料である。また前記バインダは、電荷保持容量が消失する前の非常に大きい放電/充電サイクル数の再充電可能リチウムイオンセルにおいて、かかるサイクルの際にリチウムイオンのシリコン材料への挿入、除去に伴う大きな容積変化にもかかわらず、粒子状シリコン材料を共に満足にバインドすることができるバインダを見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに次の知見が見出された。即ち、ポリ(アクリル酸)(PAA)は、放電/充電サイクルに伴う大きな容積変化にもかかわらず再充電可能リチウムイオンセルの電極内の粒子状シリコン材料のための良好なバインダであり、高純度(99.90%以上)シリコン及び低純度(99.90%未満)シリコンの両方のシリコンに使用することができる、ということである。
【0017】
本発明の第一の側面はリチウムイオン再充電可能電池セルの電極を提供するものであり、前記電極は:
集電体、及び
接着性媒体(cohesive mass)を含み、前記接着性媒体は、活性材料としてシリコン及びポリマー性バインダを含み、前記ポリマー性バインダは、アクリル酸、3−ブテン酸、2−メタクリル酸、2−ペンテン酸、2,3−ジメチルアクリル酸、3,3−ジメチルアクリル酸、トランス−ブテンジオン酸、シス−ブテンジオン酸及びイタコン酸、及び場合によりそれらのアルカリ金属塩を含む群から選択されるひとつ又はそれ以上のモノマーのホモポリマー又はコポリマーであり、前記シリコンは前記活性材料の20から100%であり、前記バインダはシリコンと混合されて接着性媒体を形成し、前記接着性媒体は前記集電体へ接着して前記接着性媒体を前記集電体と接触を維持する。
【0018】
前記バインダはホモポリマー又はコポリマーの形で適切である。通常コポリマーには、交互コポリマー、ブロックコポリマー、周期的コポリマー及び統計的コポリマーが含まれる。かかるポリマーは、上で示したモノマー単位の異なる組み合わせから形成され、又かかるモノマー単位から形成されるポリマーブロックの反応から形成され得る。
【0019】
これらのポリマーの適切なアルカリ金属塩には、リチウム、ナトリウム及びカリウムが含まれる。ポリアクリル酸のアルカリ金属塩が好ましく、特にナトリウム及びリチウム塩が好ましい。
【0020】
上記説明したように、リチウムイオンセルのグラファイト電極で使用されるより普通に使用されるPVDF及びSBRバインダに代わるバインダとしてポリ(アクリル酸)の使用は知られているが、電極で活性材料としてシリコンを用いる放電/充電サイクルの際に生じる容積変化は、グラファイトを活性材料として使用する際に比較して非常に大きいものである。さらに、US−6399246にはポリ(アクリル酸)は、リチウムイオンセルのグラファイトアノード材料として良好な接着性(バインダ)を与えないことが教示されている。
【0021】
本発明者により見出された知見、ポリ(アクリル酸)は、リチウムイオン電池の電極での活性材料としてのシリコンを効果的にバインドすることができる、ということは従って驚くべきことであり、予期できるものではない。
【0022】
NaCMCと対照的に、本発明のアクリル系バインダは、Liイオン電極での全てのグレードのシリコンと共に使用することができ、安定したサイクル寿命性能を可能にするものである。これはまた、安価な低級グレードシリコンに存在し得る不純物元素に対するNaCMCの潜在的な不安定性を解消する。
【0023】
PAAのほか、表1に挙げられた他のポリマー性アクリル酸誘導体もバインダとして使用され得る。またかかるバインダの混合物も使用され得る。
【0024】
【表1】

ひとつ又はそれ以上の上記ポリマーと、ビニルアセテートなどのビニル基を持つそれぞれの又は他のモノマーとのコポリマーも又使用され得る。例えばポリ(アクリルアミド−co−アクリル酸)が挙げられる。
【0025】
広い範囲の分子量を持つポリ(アクリル酸)又はポリ(メタクリル酸)又はそれらの誘導体が使用され得る。例えばPAAの好ましい分子量は50000を超える(例えば分子量450000など)ものであり、及び1000000を超える(例えば1250000など)ものである。
【0026】
前記電極のシリコンは全ての形であってよい。前記シリコンには、粒子、シート状、ピラー状又はリボン状の粒子(WO2008/139157に記載される)又はピラー化粒子などが挙げられる。ファイバは、WO2007/083152, WO2007/083155及びWO 2009/010758に開示された技術を用いて形成され得る。ピラー化粒子は、WO2009/010758に開示されるように、上記技術を用いて、粒子上にエッチングされたピラーを含むシリコン粒子である。
【0027】
前記照明シリコンは好ましくは、粒子形状、ファイバ形状又はピラー化粒子又はそれらの混合物である。シリコン粒子は通常直径が3から15μmの範囲、好ましくは4.5μmである。シリコンファイバは通常直径が80から500nmの範囲であり、長さが20から300μmの長さである。ピラー化粒子は通常、直径が15から25μmで、ピラー高さが1から4μmの範囲である。活性材料としてのシリコンに加えて、接着性媒体はまた、前記混合物内に、グラファイト又はハードカーボン及び/又は導電性材料(例えばカーボンブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラックなど)を含むことができる。
【0028】
シリコンは好ましくは、安価なシリコンであり、上で説明したNaCMCでは問題を生じるものである。シリコンの表面積もまた電極劣化を生じる不純物のレベルに影響するけれども、かかるシリコンは通常99.800%未満の純度である。しかし、純度は一般的に重量で95.00%を超え、リチウムがインタカーレーションするために十分なシリコンが存在することを保証するものであり、好ましくは98%を超える純度である。シリコンは広い範囲の不純物を含み得る。例えば主に鉄、アルミニウム、カルシウム、チタン、リン、ホウ素及び/又はカーボンなどであり、それぞれが約0.2%までの量である。
【0029】
本発明の電極を製造する際に使用されるシリコンファイバ又はピラー化粒子を調製するためのシリコン顆粒は、結晶性例えば単結晶又は多結晶性である。多結晶性粒子は、例えば2以上の全ての数の結晶を含む。
【0030】
理解されるべきは、本発明の第一の側面の電極は、集電体に加えて、接着性媒体を含むものであり、これは活性材料、バインダ及び場合により導電性材料を含む。ここで「活性材料」とは、電池の充電及び放電の際にリチウムをその構造に導入し及び放出することができる(リチウムイオン電池の)材料を意味する。シリコンは前記接着性媒体中で活性材料の20から100%含む。他の活性材料も添加し得る。適切な活性材料はグラファイト及びカーボンを含む。本発明の第一の側面の電極の第一の実施態様において、活性材料は20から100%シリコンを含み、0から80%のグラファイト及び/又はハードカーボンから選択される活性カーボンを含む。
【0031】
前記接着性媒体は適切に、50から95%の活性材料、好ましくは60から90%、特に好ましくは70から80%の活性材料を含む。
【0032】
表1のバインダは、他のバインダと混合して使用できるが、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%であり、また場合により表1のバインダは電極の全バインダ含有量の少なくとも90重量%含むものである。特に、ポリ(アクリル酸)(PAA)/カルボキシメチルセルロース(CMC)組み合わせ及びPAAとポリビニルジフルオリド(PVDF)組み合わせが留意される。
【0033】
前記接着性媒体は適切に、5から20重量%、好ましくは8から15重量%%、特に8から12重量%のバインダを含み、12%バインダ量が最も好ましい。
【0034】
上で説明したように、接着性媒体は場合により、導電性材料を含み得る。好適な導電性材料の例には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック;カーボンファイバ(カーボンナノファイバを含む)などの導電性ファイバが挙げられる。接着性媒体は好適には、10から30%、好ましくは8から20%、特に12から14%の導電性材料を含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、リチウムイオンセルの模式図である。
【図2】図2は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施例1−電極の製造及びバインダの試験
表2の通り一連のバインダにつき、活性材料としてシリコン粉末、バインダ、カーボンブラック( Strada Industriale, CH−6743 Bodio, Switzerlandから入手のTIMCAL,又は Denka (Denki Kagaku Kogyo Kabushiki Kaisha, Tokyo)から入手のDenka Black又はそれらの混合物) を、80 : 8 : 12 (重量%) 又は76:12:12 (重量%)の比率で用いて、アノードを作成して試験された。ポリマー溶液を、表2に記載のようにポリマー固体を適切な溶媒(水又は有機溶媒)に溶解して調製した。特定の組成混合物を、該当重量%のSi活性材料の分散物を10から15重量%のビーズミルされたカーボンブラック((Super P carbon又は Denka Black)に12時間シェア攪拌することで混合した。該当重量%のポリマー溶液をここに加えて、得られた組成物を20分間二重非対称遠心分散装置(Dual Asymmetric Centrifugation)にかけた。
【0037】
又は、カーボンブラックをシェア攪拌の下、前記ポリマー溶液へ分散させることもできる。
【0038】
得られた混合物を薄い「ウェット」フィルムとして銅ホイル基板上にドローダウンブレードを用いて堆積する。堆積フィルムを乾燥させ(好ましくはホットプレートで50から70℃で)、全ての溶媒(水又は有機溶媒)を除去して前記銅ホイル基板へ接着された乾燥組成物電極とする。これは電池セルにおいて集電体として作用する。
【0039】
バインダ組成物を試験するために使用されたシリコン活性材料は次の一つである。(a)シリコン粉末「J230」(ノルウェーElkemから入手)であり、平均粒子直径4.5μm、又は(b)ピラー化粒子(表2では、「PP」と参照)でありWO2009/010758で開示された方法で作成されたもの、又は(c)ファイバ(表2では「F+」と参照)でありWO 2009/010758に開示されたピラー化粒子のコアから分離されたもの。
バッチ分析からJetmilledSilgrain(R)HQ(WO2009/010758に開示されたピラー化粒子及びファイバの調製での出発材料であり、J230材料が属するブランドでもある)の化学分析は次のように報告されている。

分析値 Si Fe Al Ca Ti
重量% 重量% 重量% 重量% 重量%
最大 99.7 0.05 0.12 0.02 0.003
最小 99.6 0.03 0.09 0.01 0.001
通常 99.6 0.04 0.11 0.02 0.0021

シリコン、ポリマー性バインダ材料及びカーボンを含む複合電極を、リチウム金属を対向電極とし、ミクロポーラスセパレータ及びエチレンカーボネート/エチルメチルケトン混合物中のリチウムヘキサフルオロホスフェート電解質1.2モルdm−3含むセルに導入した。適切な領域15cmの前記乾燥複合電極(シリコン、ポリマー及びカーボンを含む)いくつかのサンプルを、ミクロポーラスセパレータが設けられた同じサイズのリチウム金属と共に乾燥雰囲気下で組み立てられた。前記セル構造を前記電解溶液に漬け、その後アルミニウムラミネートパッケージ材料に入れて加熱シールした。複合電極及び金属リチウム対向電極は、2つの端子を用いて外部的に接続可能の薄膜である。前記セルの第一のサイクル損失(FCL)が、セルの最初の充電/放電サイクルにつき充電及び放電容量(電流掛ける時間)の差を測定することで試験された。
【0040】
前記セルの容量が最初の電荷容量の50%未満になるまで可逆的に実施され得る充電/放電/サイクル数が、コンピュータ制御電池試験装置で記録された。コンピュータは各サイクルの充電及び放電容量を測定し、放電容量が最大放電容量の50%未満となるサイクル数を決定する。試験結果が表2に与えられている。
【0041】
【表2】

表2の略語は表3に与えられる。
【0042】
【表3】

表2から分かるように、PAAバインダは、特にNMP溶媒中で、第一のサイクル損失(FCL)及び寿命(サイクル数で)において他のバインダを超えていた。
【0043】
全てのリチウムイオンセルはいくらかの第一サイクル損失がある。FCL値が20%を超えるということは、前記バインダが前記シリコン粒子が拡張及び縮小する際に、前記シリコン粒子及び銅集電体間の電気的接触を維持していないことを示す。
【0044】
いくつかの試験が、活性材料(Si):バインダ:カーボン比率(重量%で)が74:13:13を用いて実施された。この際、ポリマー系バインダはNaCMC(水系溶媒を用いた)及びPAA(水及び有機溶媒を用いた)であり、かかる複合アノードは第一のサイクル損失が、8から9%FCLの範囲である。
【0045】
実施例2−最初のサイクル損失測定
実施例1と同じセル構造及び製造方法を用いて表2に示される種々のバインダを持つセルが調製され、FCLが測定された。種々のバインダについてFCL試験の結果は図2のバーグラフで示される。留意すべきは、表2は、74:13:13などの異なる組成比率を含むより広い範囲の実験を含むが、図2には標準の80:8:12の結果のみが示される、ことである。
【0046】
実施例3
実施例1と同じセル構造及び製造方法を用いて、表2に示される種々のバインダを持つセルが調製され、サイクル容量へのアノードバインダの効果を見出すために試験された。試験結果は図3のバーグラフで示される。図3は、リチウム金属対向電極を持つシリコン粉末複合電極について全脱リチウム容量を示す。脱リチウム容量とは、実際のLi−イオンセル(即ち、リチウムがシリコン材料から除去される)での放電と等しい電気化学ステップに関与する試験サンプルセルからのリチウム容量をmAhrで表したものである。全脱リチウム容量は、試験セルが破壊されたと思われる時点までの全てのサイクルから積算された容量である。
【0047】
リチウム金属電極は、限定的なサイクル寿命を持つ。というのは、再充電の際にリチウムがアノードに戻り金属化する際にリチウムは多孔性の非均一蓄積となるからである。通常リチウム電極が動作しなくなるまでに標準セル構造を通過することができる全容量は500から600mAhrである。しかし、容量が500mAhr未満であると、シリコン粉末複合電極のために前記セルは動作しなくなる。
【0048】
実施例4
実施例1と同じセル構造及び製造方法を用いて、表2に示される溶媒を用いて種々のバインダを調製し、セルのサイクル容量に対するバインダの効果を見出すために試験された。
【0049】
結果は表4に示される。Silbrain(R)HQJ230シリコン粉末複合電極の脱リチウム容量を、4つの異なるタイプのバインダ;PVDF、SBR、NaCMC及びPPAを用いて試験した。最初の脱リチウム容量は、前記電極のシリコン粉末の重量に基づき、1200mAhrg−1に限定された。続くサイクルの脱リチウムは、荷電及び/又は電圧制限へ制限された。
【0050】
上で説明さらたように、これらのセルのサイクルは、終局的にはリチウム金属対向電極により制限される。しかし、PVDF及びSBRを持つセルは、リチウム金属対向電極が動作しなくなる前に容量を失うことが分かる。
【0051】
実施例5
種々のセルが次の方法で作成された:
実施例1と同様に、活性媒体を銅基板に適用し、アノードを作成し組み立て物を乾燥した。セルで使用されたカソード材料は市販の標準カソード材料であり、アルミニウム集電体と共に使用した。要求されるサイズのアノード及びカソードは切り出され、真空下、120℃で一夜再乾燥された。アノード及びカソードにタグを超音波溶接し、これにより前記セルがアルミニウムラミネートバッグ内にシールされ、かつ前記電極はその間にTonen(TM)多孔性ポリエチレンセパレータのひとつをはさんで組み立て、これをロール形状に巻き取り前記ラミネートバッグ内に配置した。巻かれたセル組み立て物を前記バッグ内にシールする。片側の端は電解質を充填することができるようにシールされていない。
【0052】
前記セルを部分的減圧下で必要量の電解質で満たした。電解質は3:7EC(エチレンカーボネート):EMC(エチルメチルカーボネート)中の1MのLiPF6であった。電解質は1時間電極へ吸い込ませた後、前記バッグを最終的に真空下シールした。
【0053】
セルをArbin(TM)電池サイクルリグ装置へ接続し、連続充電及び放電サイクルの試験を行った。試験手順は、容量制限及び充電上限電圧制限、及び充電下限電圧制限を用いた。セルは1200mAhr/gまで充電した。
【0054】
一連のバインダが、上記の方法を用いて調製して試験された。活性アノード材料はJ230シリコン粉末(ノルウェーElkemから入手のSilgrainHQ市販製品のひとつ)、表4に示されるバインダ及び導電性カーボンブラック(SUperP(R)カーボンブラック)が、表4に示される比率、活性材料(A):バインダ(B):SuperP(R)カーボン(C)で使用された。表4はまた、種々の試験で使用されたカソードも示す。ここで「MNO」は混合金属酸化物(特にLi1+xNi0.15Co0.05Al0.0502であり、ここで0<x<1、好ましくは0.05<x<0.1)カソードであり、「LCO」はリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)カソードであり、これらは共によく知られた市販品である。
【0055】
【表4】

表4の略語は表5に説明される。
【0056】
【表5】

図5は、一定充電/放電サイクルの放電容量に対して異なるバインダの効果を示す。PAAバインダは実質的に他のセルよりも非常に放電容量の維持において優れていることが分かる。
【0057】
実施例6
実施例5と同様の方法を用いてアノードを作成して試験した。ただし、ここではシリコン粒子の代わりにWO 2007/083152又はWO 2007/083155で開示される方法を用いて調製されたシリコンファイバを用いた。かかるファイバは通常直径が80から500nmの範囲であり、長さが20から300μmの範囲である。セルのバインダ及び他の変数は表6に示される。
【0058】
【表6】

表6の略語は表7に説明される。
【0059】
【表7】

図6は一定充電/放電サイクルでの放電容量への異なるバインダの効果を示す
実施例7−シリコン粉末粒子
実施例5と同様の方法を用いてアノードを作成してバインダを試験した。今回はシリコン粒子の代わりに、WO 2009/010758の開示に基づいて調製されたピラー化シリコン粒子(直径が15から25μm、及びピラー高さが1から4μmの範囲)を使用した。バインダ及びその他の変数を表8に示した。
【0060】
【表8】

図7は、一定の充電/放電サイクルでの放電容量に対する異なるバインダの効果を示す。PAAバインダが、他のセルで使用されるバインダと比較して非常に優れた放電容量を維持することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン再充電可能電池セルの電極であり、前記電極は:
集電体、及び
接着性媒体(cohesive mass)を含み、前記接着媒体は、活性材料としてシリコン及びポリマー性バインダを含み、前記ポリマー性バインダは、アクリル酸、3−ブテン酸、2−メタクリル酸、2−ペンテン酸、2,3−ジメチルアクリル酸、3,3−ジメチルアクリル酸、トランス−ブテンジオン酸、シス−ブテンジオン酸及びイタコン酸、及び場合によりそれらのアルカリ金属塩を含む群から選択されるひとつ又はそれ以上のモノマーのホモポリマー又はコポリマーを含み、前記シリコンは95%を超えかつ99.90%未満の純度を持ち、前記活性材料の20から100%であり、前記バインダはシリコンと混合されて接着性媒体を形成し、前記接着性媒体は前記集電体へ接着して前記接着性媒体を前記集電体と接触を維持する、電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極であり、前記シリコン材料が、前記電極中で前記活性材料の少なくとも50%を形成し、かつ前記ポリマー性バインダが、次のひとつ及びそれらのコポリマーから選択され、
【表1】

前記ポリマーが前記モノマーの主要部分であり、前記バインダが前記シリコン材料と混合されて接着性媒体を形成し、前記接着性媒体が前記集電体に接着し、前記媒体を前記集電体との接触を維持する、電極である。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の電極であり、前記シリコン含有材料が、シリコン含有粒子、シリコン含有ファイバ及びシリコン含有ピラー化粒子である、電極。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電極であり、前記シリコン含有材料が、95%を超え、かつ99.8%未満の純度である、電極。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電極であり、前記シリコン含有材料が、98%を超え、かつ99.8%未満の純度である、電極。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電極であり、前記シリコン含有材料が、99.6%の純度である、電極。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電極であり、前記シリコン含有材料が、99.7%の純度である、電極。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電極であり、前記バインダが、ひとつ又はそれ以上の前記ポリマー及び他のバインダの混合物である、電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極であり、前記他のバインダが、カルボキシメチルセルロース(CMC)及び/又はポリビニルジフルオリド又はそれらの混合物から選択される可塑性バインダである、電極。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の電極であり、前記ポリマー性バインダがポリアクリル酸であり、分子量が50000を超える、電極。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の電極であり、前記接着性媒体がさらに、導電性強化材料を含む、電極。
【請求項12】
請求項11に記載の電極であり、導電性強化材料が、カーボンブラック及びアセチレンブラックから選択されるひとつ又はそれ以上の材料である、電極。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の電極であり、前記電極がアノードである、電極。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の電極であり、前記活性材料がさらに、グラファイト及び/又はハードカーボンから選択される活性材料を含む、電極。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の電極を含むリチウムイオンセル。
【請求項16】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の電極又は請求項15に記載のリチウムイオンセルを含む装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−527070(P2012−527070A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510357(P2012−510357)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000923
【国際公開番号】WO2010/130976
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(509040226)ネグゼオン・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】Nexeon Ltd
【住所又は居所原語表記】136 Milton Park,Abingdon,Oxfordshire OX14 3SB,United Kingdom
【Fターム(参考)】