説明

リチウムイオン電池用外装材の製造方法

【課題】充分な耐電解液性、耐フッ酸性及び耐水性を有すると共に、アルミニウム箔層と基材層の密着性が優れたリチウム電池用外装材を製造する方法の提供を目的とする。
【解決手段】アルミニウム箔13aの一方の面に化成処理液14aを塗工し、アルミニウム箔13aにおける塗工面の裏面側から塗工面側に乾燥用空気を送風して化成処理液14aを乾燥して、アルミニウム箔層上に化成処理層を形成する化成処理工程と、前記アルミニウム箔層における前記化成処理層の反対側に基材層を積層する基材層積層工程と、前記アルミニウム箔層の化成処理層を形成した側に、接着層を介してシーラント層を積層するシーラント層積層工程と、を有するリチウムイオン電池用外装材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用外装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星等に用いられる電池として、超薄型化、小型化が可能なリチウムイオン電池が盛んに開発されている。リチウムイオン電池用外装材(以下、単に「外装材」ということがある。)としては、従来は金属製の缶が用いられていたが、軽量で電池の形状を自由に選択できるという利点から、例えば、基材層/アルミニウム箔層/シーラント層の積層構成の外装材を袋状にしたものが用いられるようになってきている。
【0003】
リチウムイオン電池は、電池内容物として、正極材及び負極材と共に、非プロトン性溶媒(炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル等)にリチウム塩を溶解した電解液、若しくは該電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいる。前記非プロトン性溶媒は強浸透性であるためシーラント層を通過し、アルミニウム箔層とシーラント層間のラミネート強度を低下させてデラミネーションを生じさせ、最終的に電解液が漏れ出すおそれがある。特に、モバイルに使用された場合は車内等で60〜70℃という高温下になることもあり、高温環境においても充分な耐電解液性を有していることが求められる。
【0004】
また、電解質であるリチウム塩としてはLiPF、LiBF等が用いられている。しかし、これらの塩は水分との加水分解反応によりフッ酸を発生し、該フッ酸がラミネート強度を低下させることがある。特に、携帯電話に使用された場合等は誤って水中に落とすことで吸湿し、フッ酸の発生量が増加するがある。前述の外装材は、アルミニウム箔層を設けることで優れた耐水性を付与し、基材層側から電池内に水分が侵入することをほぼ遮断している。しかし、外装材を袋状にする際等におけるシーラント層同士のシール部の端面から水分が侵入し、リチウム塩の加水分解が進行するおそれがある。
【0005】
以上のことから、耐電解液性、耐フッ酸性を高めるため、アルミニウム箔層におけるシーラント層側に化成処理層を形成した外装材が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。このような化成処理層を有する外装材の製造方法としては、例えば、下記の工程(i)〜(iii)を有する方法が挙げられる。
(i)アルミニウム箔の一方の面に化成処理液を塗工、乾燥してアルミニウム箔層上に化成処理層を形成する工程。
(ii)前記アルミニウム箔層における前記化成処理層の反対側に基材層を積層する工程。
(iii)前記アルミニウム箔層の化成処理層を形成した側に、接着層を介してシーラント層を積層する工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−243928号公報
【特許文献2】特開2004−42477号公報
【特許文献3】特開2004−142302号公報
【特許文献4】特開2002−187233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述の製造方法で得られた外装材は、アルミニウム箔層と基材層の密着性が充分に得られないことがある。
【0008】
本発明は、充分な耐電解液性、耐フッ酸性及び耐水性を有すると共に、アルミニウム箔層と基材層の密着性が優れたリチウムイオン電池用外装材を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題に取り組み鋭意検討した結果、化成処理液をアルミニウム箔に塗工、乾燥する際における、アルミニウム箔の塗工面の裏面(基材層を積層する側の面)への化成処理成分の付着が基材層とアルミニウム箔層の密着性の低下に影響しており、この化成処理成分の付着を抑制することで密着性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0010】
[1]基材層の一方の面側に、アルミニウム箔層、化成処理層、接着層、シーラント層が順次積層されたリチウムイオン電池用外装材の製造方法であって、
アルミニウム箔の一方の面に化成処理液を塗工し、前記アルミニウム箔における塗工面の裏面側から塗工面側に乾燥用空気を送風して前記化成処理液を乾燥し、アルミニウム箔層上に化成処理層を形成する化成処理工程と、
前記アルミニウム箔層における前記化成処理層の反対側に基材層を積層する基材層積層工程と、
前記アルミニウム箔層の化成処理層を形成した側に、接着層を介してシーラント層を積層するシーラント層積層工程と、
を有するリチウムイオン電池用外装材の製造方法。
[2]前記化成処理工程と前記基材層形成工程をインラインで実施する、[1]に記載のリチウムイオン電池用外装材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウム電池用外装材の製造方法によれば、充分な耐電解液性、耐フッ酸性及び耐水性を有すると共に、アルミニウム箔層と基材層の密着性が優れたリチウム電池用外装材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造工程の一部を示した概略図である。
【図2】本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造工程の一部を示した概略図である。
【図3】本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造工程の一部を示した概略図である。
【図4】本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造工程の一部を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造方法の一例を図1及び図2に基づいて説明する。本実施形態のリチウムイオン電池用外装材1(以下、「外装材1」という。)の製造方法は、下記の化成処理工程、基材層積層工程及びシーラント層積層工程を有する。
化成処理工程:図1及び図2に示すように、アルミニウム箔13aの一方の面に化成処理液14aを塗工し、アルミニウム箔13aにおける塗工面13bの裏面13c(以下、単に「裏面13c」という。)側から塗工面13b側に乾燥用空気を送風して化成処理液14aを乾燥して、図2に示すように、アルミニウム箔層13上に化成処理層14を形成する工程。
基材層積層工程:図3に示すように、アルミニウム箔層13における化成処理層14の反対側に、第1の接着層12を介して基材層11を積層する工程。
シーラント層積層工程:図4に示すように、アルミニウム箔層13の化成処理層14を形成した側に、第2の接着層15を介してシーラント層16を積層する工程。
各工程におけるアルミニウム箔13a及び積層体の搬送は搬送ロール30により行われる。
【0014】
化成処理工程:
図1及び図2に示すように、アルミロール巻き出し部31からアルミニウム箔13aを送り出し、グラビアロール32によってそのアルミニウム箔13aの一方の面に化成処理液14aを塗工した後、アルミニウム箔13a上に塗工した化成処理液14aを乾燥機33で乾燥させることで、アルミニウム箔層13上に化成処理層14を積層する。
【0015】
化成処理液としては、リチウムイオン電池用外装材のアルミニウム箔の表面処理に通常用いられる化成処理液を採用できる。例えば、クロメート処理、ジルコニウム処理、チタニウム処理、バナジウム処理、モリブデン処理、リン酸カルシウム処理、水酸化ストロンチウム処理、セリウム処理、ルテニウム処理、あるいはこれらの混合相からなる各種化成処理等に用いられる化成処理液が挙げられる。
クロメート処理の場合、例えば、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸、水、アルコールからなる処理液が挙げられる。
【0016】
化成処理液の塗工方法は、この例ではグラビアコートであるが、グラビアコートには限定されない。例えば、リバースコート、ロールコート、バーコート等の各種方法を採用できる。
【0017】
アルミニウム箔13aとしては、一般の軟質アルミニウム箔を用いることができる。アルミニウム箔は、軽量で展延性に富み、成型およびラミネート等の加工性に優れると共に、水蒸気その他のバリア性にも優れ、さらに、汎用性金属箔として比較的安価で経済性にも優れている。
アルミニウム箔13aとしては、耐ピンホール性、および成型時の延展性を付与できる点から、アルミニウム−鉄系合金、つまり鉄を含むアルミニウム箔が好ましい。この場合、アルミニウム箔(100質量%)中の鉄の含有量は、0.1〜9.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であれば耐ピンホール性、延展性が向上する。鉄の含有量が9.0質量%以下であれば、柔軟性が向上する。
アルミニウム箔13aの厚みは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から、10〜100μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。
【0018】
アルミニウム箔13aは、耐電解液性の点から、脱脂処理を施したアルミニウム箔が好ましい。脱脂処理としては、大きく区分するとウェットタイプとドライタイプに分けられる。
ウェットタイプの脱脂処理としては、例えば、酸脱脂、アルカリ脱脂等が挙げられる。
酸脱脂に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸等の無機酸が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの無機酸には、アルミニウム箔のエッチング効果が向上する点から、必要に応じてFeイオンやCeイオン等の供給源となる各種金属塩を配合してもよい。
アルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば、エッチング効果が高いものとして水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものが挙げられる。
ウェットタイプの脱脂処理は、浸漬法やスプレー法で行える。
【0019】
ドライタイプの脱脂処理としては、例えば、アルミニウムを焼鈍処理する工程で行う方法等が挙げられる。また、該脱脂処理の他にも、フレーム処理やコロナ処理等が挙げられる。さらには、特定波長の紫外線を照射して発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解して除去する脱脂処理も挙げられる。
外装材1では、アルミニウム箔13aの脱脂処理は、片面のみに行っても両面に行ってもよい。
【0020】
乾燥機33は、下部33aに設けられた吸気口と上部33bに設けられた排気口を有しており、乾燥用空気を下部から供給し上部から排気する構造となっている。また、化成処理液14aを塗工したアルミニウム箔13aは、塗工面13bを上にして乾燥機33内に導入される。つまり、乾燥機33内においては、アルミニウム箔13aの裏面13c側から吸気し、アルミニウム箔13aの塗工面13b側から排気することで、アルミニウム箔13aの裏面13c側から塗工面13b側に乾燥用空気が回り込むように送風して化成処理液14aを乾燥するようになっている。
【0021】
本発明者らは、基材層とアルミニウム箔層の密着性が低下することがあることについて詳細に検討した。その結果、アルミニウム箔を化成処理する際、通常は塗工面に向けて乾燥空気を送風しているため、アルミニウム箔の裏面(基材層を積層する側の面)側に飛散して化成処理成分が付着していることで、基材層とアルミニウム箔層を接着する接着成分の性能が低下していることを見い出した。例えば、クロメート処理を行う場合、乾燥の際は、水、アルコール、フッ素等の揮発しやすい成分のうち、特にアルミニウム箔13aと反応しやすいフッ素が裏面13cに付着するおそれがある。しかし、前述したようにアルミニウム箔13aの裏面13c側から塗工面13b側に乾燥用空気を送風することで、このアルミニウム箔13aの裏面13cへの化成処理成分の付着を抑制できる。
【0022】
乾燥用空気の風速は、乾燥が容易な点から、10m/秒以上が好ましく、12m/秒以上がより好ましい。また、乾燥用空気の風速は、均一な化成処理層14を形成しやすい点から、20m/秒以下が好ましく、18m/秒以下がより好ましい。
乾燥用空気の温度は、乾燥が容易な点から、130℃以上が好ましい。また、乾燥用空気の温度は、均一な化成処理層14を形成しやすい点から、170℃以下が好ましい。
【0023】
基材層積層工程:
図1及び図3に示すように、アルミニウム箔層13における化成処理層14の反対側に、グラビアロール34によって第1の接着剤12aを塗工し、乾燥機35で乾燥させて第1の接着層12を形成し、第1の接着層12上に、基材フィルム巻き出し部36から送り出した基材フィルム11aを加熱ロール37によって貼り合わせ、第1の接着層12を介して基材層11を積層する。
【0024】
基材フィルム11aとしては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン等で形成される延伸又は未延伸フィルムが挙げられる。なかでも、成型性、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性を向上させる点から、延伸ポリアミドフィルム、延伸ポリエステルフィルムが好ましく、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルムがより好ましい。基材フィルム11aとしては、単層フィルムであってもよく、積層フィルムであってもよい。
基材フィルム11aが積層フィルムである場合、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルムが積層された積層フィルムが好ましく、該積層フィルムを、二軸延伸ポリアミドフィルム側がアルミニウム箔層13側に位置するように積層することが好ましい。
【0025】
基材フィルム11aには、スリップ剤(オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド;シリコーン;高分子ワックス等)、アンチブロッキング剤(シリカ等の各種フィラー系等)等の添加剤を配合してもよい。
【0026】
基材フィルム11aの厚みは、6〜40μmが好ましく、10〜25μmがより好ましい。基材層11の厚みが6μm以上であれば、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性が向上する。基材層11の厚みが40μm以下であれば、成型性が向上する。前記厚みは、基材フィルム11aが多層フィルムである場合、その全体の厚みである。
基材フィルム11aの強度物性は特に制限されない。
【0027】
第1の接着剤12aとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール等の主剤に、硬化剤として芳香族系や脂肪族系の2官能以上のイソシアネート化合物、あるいはそのアダクト体、ビューレット体若しくは三量体からなるポリイソシアネート化合物を作用させた二液硬化型のポリウレタン系接着剤が好ましい。
【0028】
第1の接着剤12aの塗工方法は、この例ではグラビアコートであるが、グラビアコートには限定されない。例えば、リバースコート、ロールコート、バーコート等の各種方法を採用できる。
第1の接着剤12aの塗布量は、接着強度、追随性、加工性等の点から、第1の接着層12の乾燥厚みが1〜10μmとなる量が好ましく、3〜7μmとなる量がより好ましい。
【0029】
乾燥機35としては、第1の接着剤12aを乾燥して第1の接着層12を形成できるものであればよく、例えば、乾燥機33と同じものが使用できる。乾燥条件は、特に限定されず、公知の条件を採用できる。
基材フィルム11aを貼り合わせた後は、接着性の促進のため、室温〜80℃の範囲でエージング(養生)処理を行ってもよい。
【0030】
本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造方法は、この例のように、化成処理工程と基材層積層工程をインラインで連続して実施することが好ましい。
化成処理工程を行った後にアルミニウム箔層13と化成処理層14の積層体を一旦巻き取ると、化成処理層14の化成処理成分がアルミニウム箔層13の裏面13cに裏移りするおそれがある。例えば、クロメート処理では形成される化成処理層14に、クロム以外にフェノール樹脂やフッ化物が含まれる。この場合、化成処理工程後に得られた積層体を一旦巻き取ると、化成処理層14に存在するアルミニウムと反応しやすいフッ素がアルミニウム箔層13の裏面13cに裏移りするおそれがある。しかし、化成処理工程と基材層積層工程をインラインで連続して実施することで、基材層積層工程後にその積層体を巻き取っても、アルミニウム箔層13の裏面13cと化成処理層14が接触しないので、アルミニウム箔層13の裏面13cへの化成処理成分の裏移りを防止できる。
【0031】
シーラント層積層工程:
図4に示すように、アルミニウム箔層13の化成処理層14を形成した側に、第2の接着層15を介してシーラント層16を積層する。シーラント層16を積層する方法としては、特に限定されず、例えば、下記方法(α)又は方法(β)が挙げられる。
(α)第2の接着層15を形成する成分として、ポリウレタン系接着剤を用いる方法。
(β)第2の接着層15を形成する成分として、熱可塑性の接着樹脂を用いる方法。
【0032】
方法(α)としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウエットラミネーション等が挙げられる。
方法(α)におけるポリウレタン系接着剤としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール等の主剤に、硬化剤として芳香族系や脂肪族系の2官能以上のイソシアネート化合物、あるいはそのアダクト体、ビューレット体若しくは三量体からなるポリイソシアネート化合物を作用させた二液硬化型のポリウレタン系接着剤が好ましい。
【0033】
方法(β)としては、ドライプロセス又はウエットプロセスを使用できる。
ドライプロセスの場合は、例えば、押出ラミネート機を用いたサンドラミネーションにより、アルミニウム箔層13の化成処理層14側に、シーラント層16を形成するフィルムを、接着樹脂を介して貼り合わせる方法が挙げられる。その後は、化成処理層14と接着樹脂により形成される第2の接着層15の密着性を向上させる目的で、熱処理(エージング処理や熱ラミネーション等)を施してもよい。
また、ウエットプロセスの場合は、例えば、接着樹脂のディスパージョンをアルミニウム箔層13の化成処理層14側に塗工し、焼き付けを行った後、シーラント層16を形成するフィルムを熱ラミネーション等の熱処理により積層させる方法が挙げられる。
【0034】
接着樹脂としては、例えば、不飽和カルボン酸若しくはその酸無水物又はそれらのエステル(以下、これらをまとめて「不飽和カルボン酸等」という。)から導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分であるポリオレフィン樹脂を、有機過酸化物の存在下でグラフト変性することにより得られる変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。
前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、ホモ、ブロック、あるいはランダムポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。
不飽和カルボン酸等としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸の無水物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマール酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロ無水フタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸のエステル等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
接着樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸でグラフト変性した無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0035】
シーラント層16を形成するフィルムとしては、例えば、ポリオレフィン樹脂、又はポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂により形成されるフィルムが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、前記第2の接着層15の項で挙げたものと同じものが挙げられる。
シーラント層16を形成するフィルムは単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。シーラント層16を形成するフィルムとして多層フィルムを用いる場合、例えば、防湿性を付与するために、エチレン−環状オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン等の樹脂を介在させた多層フィルムが挙げられる。
【0036】
シーラント層16を形成するフィルムには、必要に応じて、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加剤を配合してもよい。
シーラント層16を形成するフィルムの厚さは、10〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0037】
以上説明した工程により、図4に例示した、外側から順に、基材層11、第1の接着層12、アルミニウム箔層13、化成処理層14、第2の接着層15及びシーラント層16が積層された外装材1が得られる。
【0038】
以上説明した本発明の製造方法によれば、アルミニウム箔層及び化成処理層により充分な耐電解液性、耐フッ酸性及び耐水性が得られると共に、アルミニウム箔層の基材層側への化成処理成分の付着が抑制されることで、アルミニウム箔層と基材層の密着性が優れたリチウムイオン電池用外装材が得られる。また、化成処理工程と基材層積層工程をインラインで連続して行えば、化成処理成分がアルミニウム箔の塗工面の裏面側に裏移りすることを防止できるため、密着性に優れたリチウムイオン外装材をさらに容易に得ることができる。
なお、本発明のリチウムイオン電池用外装材の製造方法は、前述した外装材1の製造方法には限定されない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例では、基材層とアルミニウム箔層の密着性を評価するために、基材層11、第1の接着層12、アルミニウム箔層13及び化成処理層14からなる試験体(図3)を作成して評価を行った。本実施例に使用した材料は以下の通りである。
[材料]
基材フィルム11a:厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルム(出光化学株式会社製、商品名「G100」)。
第1の接着剤12a:ポリウレタン系接着剤(東洋モートン株式会社製、商品名「TM−K55/Cat10」)。
アルミニウム箔13a:厚さ40μmの軟質アルミニウム箔(8079材、東洋アルミニウム株式会社製、商品名「CE」)の両面をアルカリ脱脂したもの。
化成処理液14a:フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸、水からなる処理液。
【0040】
[実施例1]
図1に示すように、アルミニウム箔13aの一方の面にグラビアロール32により化成処理液14aを塗工し、乾燥機33によって、アルミニウム箔13aの裏面13c側から塗工面13b側に乾燥用空気(風速15m/秒、150℃)を送風することで化成処理液14aを乾燥して、アルミニウム箔層13上に化成処理層14(厚み0.3μm)を形成した。
次いで、アルミニウム箔層13における化成処理層14の反対側に、グラビアロール34により第1の接着剤12aを塗工し、乾燥機35(風速15m/秒、80℃)で乾燥して、基材フィルム巻き出し部36から送り出した基材フィルム11aを貼り合わせることで、第1の接着層12を介して基材層11を積層して試験体を得た。
【0041】
[比較例1]
乾燥機33において、上部33bから乾燥用空気を吸気し、下部33aから排気するようにし、アルミニウム箔13aの塗工面13b側から裏面13c側に乾燥用空気を送風して化成処理液14aを乾燥した以外は、実施例1と同様にして試験体を得た。
【0042】
[比較例2]
比較例1と同様にアルミニウム箔13aの塗工面13b側から裏面13c側に乾燥用空気を送風して化成処理液14aを乾燥した後、一旦巻取ロールに巻き取った以外は、実施例1と同様にして試験体を得た。
【0043】
[評価方法]
各例で得られた試験体を試料幅15mmとし、T型剥離、剥離速度300mm/分の条件でアルミニウム箔層と基材層の剥離強度を測定して密着性の指標とした。結果を表1に示す。なお、表1において剥離強度が20N/15mm以上であるとは、凝集破壊が起きて剥離強度が測定不能であったことを意味する。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、比較例1及び2では剥離強度が小さく、基材層とアルミニウム箔層の密着性が充分でないのに対し、アルミニウム箔13aの裏面13c側から塗工面13b側に乾燥用空気を送風して乾燥し、インラインで連続的に基材層11を積層した実施例1では、剥離強度が高く、基材層11とアルミニウム箔層13の密着性が優れていた。
【符号の説明】
【0046】
1 リチウムイオン電池用外装材
11a 基材フィルム
11 基材層
12a 第1の接着剤
12 第1の接着層
13a アルミニウム箔
13 アルミニウム箔層
14a 化成処理液
14 化成処理層
15 第2の接着層
16 シーラント層
30 搬送ロール
31 アルミロール巻き出し部
32、34 グラビアロール
33、35 乾燥機
36 基材フィルム巻き出し部
37 加熱ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の一方の面側に、アルミニウム箔層、化成処理層、接着層、シーラント層が順次積層されたリチウムイオン電池用外装材の製造方法であって、
アルミニウム箔の一方の面に化成処理液を塗工し、前記アルミニウム箔における塗工面の裏面側から塗工面側に乾燥用空気を送風して前記化成処理液を乾燥し、アルミニウム箔層上に化成処理層を形成する化成処理工程と、
前記アルミニウム箔層における前記化成処理層の反対側に基材層を積層する基材層積層工程と、
前記アルミニウム箔層の化成処理層を形成した側に、接着層を介してシーラント層を積層するシーラント層積層工程と、
を有するリチウムイオン電池用外装材の製造方法。
【請求項2】
前記化成処理工程と前記基材層形成工程をインラインで実施する、請求項1に記載のリチウムイオン電池用外装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−238453(P2012−238453A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106120(P2011−106120)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】