説明

リチウムイオン電池用負極

安定化リチウム金属粉末、ポリエチレンオキシドおよびリチウムインターカレーション材料を含む、リチウム電池用負極。二次電池に使用される負極用のバインダーとしてポリエチレンオキシドを使用すると、前記負極にリチウム粉末が吸収されることを可能とし、電池性能の向上につながる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化リチウム粉末を含むリチウムイオン電池用負極および前記負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属負極およびリチウムイオンをインターカレートまたは挿入し得る正極を有する電池を作製することは長年にわたり知られている。そのような電池は、電解質として炭酸プロピレンなどの有機液体中のリチウム塩の溶液を、そして、濾紙またはポリプロピレンなどのセパレータを使用し得る。二次または充電式リチウム電池については、リチウム金属負極の使用は、新たに析出したリチウム上のデンドライト成長および電解質分解から問題が生じるため、満足のいくものではない。今回、非常に低い電圧でリチウムイオンを可逆的にインターカレートし得る材料(例えば黒鉛)を採用し、いわゆる“リチウム-イオン”、“ロッキングチェアー”、または“スウィング”リチウム充電式電池とすることにより、前記問題の解決が可能となった。これらのリチウム電池は、それらがリチウム金属ではなく、サイクルの充電および放電の部分の際に2つのインターカレーション材料の間を往復して揺れ動くリチウムイオンを含むという原理に基づいて作用する。
現在のリチウムイオン電池は、典型的には、炭素系の負極と、LiCoO2 などのリチウム化(lithiated)正極材料を有する。リチウム化正極材料は電池のためのリチウムの供給源であり、従って、電池の性能は正極材料の性質や容量により制限される。Li-イオン電池に使用し得る材料の範囲を広げるために、電池組み立て前に化学的に、あるいは電池組み立て後に電気化学的にのいずれかで電池を予めリチウム化(pre-lithiate)する試みが多くなされてきた。例えば、米国特許第5,759,715号(Barker et al)は、リチウム化炭素電極を製造するための犠牲リチウム電極の使用を説明する。このような方法では、電池製造に相当のコストおよび複雑さが加わる。また別に、リチウムホイルの断片を負極内に導入して反応させることも行われた。これらのリチウムホイルは相当厚くなりがちなため、それらが溶解するにはかなりの時間がかかることがあり、均一な電極を達成するのは困難である。
【0003】
炭素複合負極およびリチウム金属酸化物複合正極を有する従来型のリチウムイオン電池の形成サイクル(初回充電)の際に、固体電解質界面(SEI)層が炭素粒子の表面上に形成される一方で、予めリチウム化した電池については電解質が電池に加えられたときにSEI層が形成される。この層は、電解質のその後のいかなる電気化学的減退をも大幅に減少させ、電池を何百回ものサイクルにわたって作動することを可能とする。しかしながら、SEI層の形成は電池から幾分かのリチウムを消費する。このリチウムはもはや反応には使用することはできず、これは負極の不可逆容量と呼ばれる。
米国特許第5,776,369号は、材料の反応性を低下させる表面層を有し、それを乾燥環境下で使用することを可能とする安定化リチウム金属粉末を開示する。この材料を複合炭素負極に加えることによりリチウム化電極を作製し得る。米国特許第6,706,447号は、電気化学系においてリチウムを吸収および脱離し得るホスト材料(例えば炭素系材料など)から形成された負極、および、前記ホスト材料に分散されたリチウム金属を含むように製造された電池を説明する。しかしながら、安定化リチウム金属粉末は、PVdF-ベースの Li-イオン電極の製造に慣習的に使用されるN-メチルピロリドンやジメチルアセトアミドなどの一部の溶媒と依然として反応性を有する。スチレンブタジエンゴムおよび他の類似のバインダーもまたリチウムイオン電池負極に使用し得る。これらの材料は水性懸濁物として一般に使用される。水性懸濁物として使用される場合、これらのバインダーはさらに、安定化リチウム粉末と融和しない、何故ならば粉末が水と反応するからである。従って、安定化リチウム金属粉末を含むLi-イオン電極を成功裏に製造するためには別の溶媒/バインダー調合物が必要とされる。米国特許出願第2004/0002005号(Gao et al)は、そのような負極を調製する方法、並びに融和性のポリマーバインダーおよび溶媒系を開示する。しかしながら、そのポリマーバインダーおよび溶媒系は、安定化リチウム金属粉末を含む電極混合物と反応しないかもしれないが、それらからは必ずしも良好な性能の電極が製造されない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、安定化リチウム金属粉末、ポリエチレンオキシド、および、電気化学系においてリチウムを吸収および脱離し得るリチウムインターカレーション材料を含む、リチウムイオン電池用負極を提供する。前記負極中に存在するリチウムは、リチウムインターカレーション材料にインターカレートし得、前記材料と合金を形成し得、または前記材料に吸収され得る。
本発明はさらに、リチウムイオン電池用負極を形成するための方法を提供し、前記方法は以下の工程を含む:
i) ポリエチレンオキシド、リチウムインターカレーション材料および安定化リチウム金属粉末のスラリーを溶媒中に形成する工程;
ii) スラリーを撹拌してポリエチレンオキシドを溶解する工程;
iii) スラリーを集電体上にコーティングする工程;
iv) スラリーを乾燥させて溶媒を除く工程。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
リチウムインターカレーション材料とは、電気化学系においてリチウムを吸収および脱離し得る材料であり、その中にリチウムがインターカレートし、リチウムと合金を形成し、またはリチウムが取り込まれ得るいかなる材料(例えば炭素、ケイ素、錫、酸化錫、複合錫合金、遷移金属酸化物またはリチウム金属酸化物など)であってもよい。それは好ましくは炭素であり、より好ましくは黒鉛である。
安定化リチウム金属粉末とは、処理されたリチウム粉末であって、その処理によって、未処理のリチウム粉末と比較して幾分かの安定性を有するに至ったあらゆるリチウム粉末(例えばFMC社により製造された安定化外層を有するものなど)である。安定化リチウム粉末は、典型的には、未処理のリチウム粉末と比較して低い自然発火性(pyrophoricity)を有するように処理される。典型的には、安定化リチウム粉末は大気安定性である。典型的には、安定化リチウム粉末は通常の取り扱い手順の際には空気と反応しないが、長い時間の経過とともに空気中の水分と徐々に反応する。
【0006】
ポリエチレンオキシドは広範な分子量を有し得る。高分子量ポリエチレンオキシドが好ましくあり得る、何故ならば、それはより少ないポリマーを使用して適切な負極を形成することができるからである。
溶媒は、例えばベンゼン、トルエンまたはキシレンなど、安定化リチウム粉末と融和し得る、ポリエチレンオキシドが溶解するあらゆる溶媒である。キシレンが好ましい溶媒である。複数の溶媒の混合物を使用し得る。
典型的には、スラリーを加熱することによりポリエチレンオキシドが溶解される、何故ならば、それは室温では選択された溶媒中に十分に溶解しないからである。スラリーは、溶媒の沸点未満のいかなる温度にまで、例えば40〜7O℃、好ましくは50〜6O℃、例えば55℃にまで加熱してもよい。例えば、約55〜6O℃に加熱された場合にポリエチレンオキシドがキシレン中に溶解する。
【0007】
本発明のある実施態様においては、ポリエチレンオキシドをまず溶媒に、必要より加熱しながら溶解し、その後、リチウムインターカレーション材料と安定化リチウム金属粉末を溶媒に加える。リチウムインターカレーション材料および安定化リチウム金属粉末は、粉末として一緒にまたは別々に加えるか、または、一方もしくは両方を溶媒中に分散させてからポリエチレンオキシド溶液に加えることによってスラリーを形成することができる。
別の実施態様においては、ポリエチレンオキシド、安定化リチウム粉末およびリチウムインターカレーション材料をすべて溶媒に加えてスラリーが形成される。スラリーはその後、必要により加熱されてポリエチレンオキシドが溶解される。
【0008】
集電体はあらゆる導体であり、典型的には銅である。接着性(adhesion)を補助するために、銅は電気伝導性材料(例えば炭素)の層でコーティングされていてもよい。
本発明の負極は、正極およびセパレータと共にリチウムイオン電池を形成し得る。従って、本発明はさらに、本発明の負極を含むリチウムイオン電池、およびリチウムイオン電池における本発明の負極の使用を提供する。
負極に加えられるリチウム粉末の量は変動し得る。例えば、電池のリチウム総必要量を、非リチウム化正極とともに使用される負極に加えることができる。あるいは、電池の不可逆容量を補填するのに適した量のリチウムを、負極、および、正極とともに使用される負極に加えてもよい。従って、本発明はリチウム粉末を電池の不可逆容量の補填に使用し得るという利点を有する。
以下、実施例および同時に提出した図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
実施例1
1.20 g ポリエチレンオキシド (Dow WSR301) を、34.92 g メソカーボンマイクロビーズ 6-28、3.88 g SFG6 黒鉛 (ティムカル社)、3.92 g 安定化リチウム金属粉末および 90 g キシレンと混合した。スラリーを撹拌し、6O℃に温めてポリエチレンオキシドを完全に溶解した。銅ホイル集電体をカーボンダグ層でプレコートした。次いで、ドクターブレード法を用いて、プレコートされた集電体上にスラリーをコーティングし、その後、二相(two-phase)乾燥機(50℃および 55℃の領域を有する)を通過させてキシレンを除去した。
得られた複合電極から3つの電極試験電池を組み立てた。複合電極を直径12.46 mmに切断した。リチウム対極とリチウム参照電極を使用して電池を作り上げた。ガラス繊維セパレータを、炭酸エチレン/炭酸エチルメチル混合物(2:8)中にLiPF6を含む電解質とともに使用した。Macpile II テストリグを使用して、0.2 mA で、0.005V 〜1.500V (参照電極に対する) の間で電池をテストした。
図1は、1つの電池の当初の放電(脱リチウム化(delithiation))およびその後の初回充電および放電の曲線を示す。
図2は、この電池のサイクル特性を示す。
【0010】
比較例1
50 g エチレンプロピレンジエンモノマーを 500 g キシレン中に溶解した。406 g メソカーボンマイクロビーズ 6-28 と 45 g SFG6 黒鉛をポリマー溶液に加え、均一なスラリーが得られるまで混合物を撹拌した。このスラリー100 g をとり、4.34 g 安定化リチウム金属粉末を加えた。得られた混合物を、均一な混合物が得られるまで撹拌した。ドクターブレード法を用いて銅ホイル集電体上にスラリーをコーティングし、乾燥機を通過させてキャスト溶媒を除去した。
複合電極を用いて3つの電極試験電池を組み立てた。リチウム対極および参照電極を使用した。ガラス繊維セパレータを、炭酸エチレン/炭酸エチルメチル混合物(2:8)中にLiPF6を含む電解質とともに使用した。Macpile II テストリグを使用して、0.2 mA で、0.01V〜1.500V (参照電極に対する) の間で電池をテストした。
図3は、比較例1に説明した電極についての、1つの電池の当初の放電(脱リチウム化)およびその後の初回充電および放電の曲線を示す。
図4は、この電池のサイクル特性を示す。
【0011】
実施例2
実施例1に説明した方法(ただし、炭素の不可逆容量をただ補填するために安定化リチウム金属粉末の量を削減した)により複合負極を作製した。1.40 g ポリエチレンオキシド (Dow WSR301) を、34.74 g メソカーボンマイクロビーズ 6-28、3.86 g SFG6 黒鉛、0.76 g 安定化リチウム金属粉末および 105 g キシレンと混合した。スラリーを撹拌し、温めてポリエチレンオキシドを完全に溶解した。銅ホイル集電体をカーボンダグ層でプレコートした。次いで、ドクターブレード法を用いて、プレコートされた集電体上にスラリーをコーティングし、二相乾燥機(50℃および 55℃の領域を有する)を通過させてキシレンを除去した。
複合電極を用いて3つの電極試験電池を組み立てた。LiCoO2 対極およびリチウム参照電極を使用した。ガラス繊維セパレータを、炭酸エチレン/炭酸エチルメチル混合物(2:8)中にLiPF6を含む電解質とともに使用した。Macpile II テストリグを使用して、0.3 mA で、2.70V〜4.20V (電池全体にわたっての電圧) の間で電池をテストした。
図5は、この種類の電池についての初回充電および放電の曲線を示す。この電池の初回サイクル効率は95.4%であった。
【0012】
比較例2
実施例2に説明した方法(ただし、安定化リチウム金属粉末を加えない)により、複合負極を作製した。3つの電極試験電池を組み立て、実施例2に説明した通りに試験した。
図6は、この種類の電池についての初回充電および放電の曲線を示す。この電池の初回サイクル効率は77.9%であった。
図1および2を、図3および4と比較すると、0表記の放電と1表記の放電(実際の最初の放電)との違いにより示されるように、実施例1の電池が、炭素電極の特に完全なリチウム化を達成し、不可逆容量がごく僅かであることが確認できる。実施例1の電池はさらに図2において非常に良好なサイクル特性を示す。対照的に、比較例1の電池は、図3において明確な不可逆容量を、そして、図4において粗悪なサイクル特性を示し、電池容量がわずか9サイクルでかなり下落する。これは、エチレンプロピレンジエンモノマーと比較して、ポリエチレンオキシドをバインダーとして使用することの利点を示す。
図5を図6と比較すると、負極の不可逆容量を補填するための電極への安定化リチウム粉末の添加により、実施例2の電池が、比較例2の電池と比較してはるかに高い初回サイクル効率(放電容量 対 充電容量の比)を有することが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の負極を有する電池についての、当初の放電およびその後の初回充電および放電の曲線を示す。
【図2】図1の電池のサイクル特性を示す。
【図3】比較例1の負極を有する電池についての、当初の放電およびその後の初回充電および放電の曲線を示す。
【図4】図3の電池のサイクル特性を示す。
【図5】実施例2の負極を有する電池についての、当初の放電およびその後の初回充電および放電曲線を示す。
【図6】比較例2の負極を有する電池についての、当初の放電およびその後の初回充電および放電曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化リチウム金属粉末、ポリエチレンオキシドおよびリチウムインターカレーション材料を含む、リチウムイオン電池用負極。
【請求項2】
リチウムインターカレーション材料が炭素である、請求項1記載の負極。
【請求項3】
リチウムインターカレーション材料が黒鉛である、請求項2記載の負極。
【請求項4】
以下の工程を含む、リチウムイオン電池用負極の製造方法:
i) ポリエチレンオキシド、リチウムインターカレーション材料および安定化リチウム金属粉末のスラリーを溶媒中に形成する工程;
ii) スラリーを撹拌してポリエチレンオキシドを溶解する工程;
iii) スラリーを集電体上にコーティングする工程;
iv) スラリーを乾燥させて溶媒を除く工程。
【請求項5】
溶媒がキシレンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
スラリーを加熱してポリエチレンオキシドを溶解する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項記載の負極を含む電池。
【請求項8】
電池における、請求項1から3のいずれか1項記載の負極の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−503865(P2008−503865A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517463(P2007−517463)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050084
【国際公開番号】WO2006/000833
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(506050031)エイビーエスエル パワー ソリューションズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】