説明

リチウムゼオライトの合成方法

【課題】有効利用法が見出されずにいた石油精製の触媒残渣を用いて、効率よくリチウムゼオライトを合成する方法を提供する。
【解決手段】(1)石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理して得られるSiO-Al系物質を、水酸化リチウム水溶液で処理することを特徴とするリチウムゼオライトの合成方法、(2)水酸化リチウム水溶液での処理温度が、10℃〜80℃であることを特徴とする該リチウムゼオライトの合成方法、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、リチウムゼオライトの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトはアルミノシリケート系の結晶性化合物であり、多種多様である。ゼオライトの工業的な利用方法も多岐に亘り、触媒、調湿材、分子ふるい、吸着材、イオン交換体などの利用方法が挙げられる。ゼオライトの組成や結晶構造が異なれば、用途も異なってくる。
【0003】
リチウムゼオライトはコンクリート用混和材として有用なことも知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
一方、中国やベトナムでは、各業界で工業副産物の有効利用も強く求められている。その一例としては、石油精製の触媒残渣の有効利用が挙げられ、その使途の開発に頭を悩ませている。
【0005】
石油精製の触媒残渣は、水分や有機物を含んだSiO−Al系物質である。石油に由来する有機物を含むため、取り扱いが困難な面や成分上の制限を受けるため、有効利用方法が見出されていない。
【0006】
ところで、ゼオライトはアルミノシリケートの1種であり、SiO−Al系物質でもある。成分の観点からは、石油精製の触媒残渣と類似している。
【0007】
そのため、石油精製の触媒残渣を合成ゼオライトの原料として利用できれば、副産物の有効利用の観点から、また、合成ゼオライトのコストダウンの観点から重要と考える。
【0008】
しかしながら、石油精製の触媒残渣をリチウムゼオライト合成の原料として利用することはできないものであった。
【0009】
我々は、石油精製の触媒残渣の有効利用に鑑み、種々の検討を重ねた結果、特定の温度で熱処理して得られるSiO-Al系物質を水酸化リチウム水溶液で処理することにより、効率よくリチウムゼオライトを合成できることを知見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−297137号公報
【特許文献2】特開2009−12989号公報
【特許文献3】特開2009−78939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
有効利用法が見出されずにいた石油精製の触媒残渣を用いて、効率よくリチウムゼオライトを合成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(1)石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理して得られるSiO-Al系物質を、水酸化リチウム水溶液で処理することを特徴とするリチウムゼオライトの合成方法、(2)水酸化リチウム水溶液での処理温度が、10℃〜80℃であることを特徴とする該リチウムゼオライトの合成方法、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウムゼオライトの製造方法により、石油精製の触媒残渣の有効活用ができるばかりでなく、効率よく、リチウムゼオライトが合成でき、しかも、この方法で得たリチウムゼオライトをセメント混和材として活用することで、セメントコンクリートのひび割れ抑制やアルカリシリカ反応(ASR)抑制に顕著な効果を発揮する、などの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
【0015】
リチウムゼオライトについて説明する。
リチウムゼオライトの中でも、Si/Al原子比が1であるリチウム型ゼオライトが、アルカリシリカ反応の抑制効果が大きいことから好ましい。Si/Al原子比が1であるリチウムゼオライトとしては、EDI型、ABW型及びLTA型が存在する。
【0016】
EDI型ゼオライトとは、エジントン沸石(エディングトナイトEdingtonite)と呼ばれる化合物と類似の構造を持つゼオライトを総称するものである。エジントン沸石は、一般に、BaAlSi20・8HOで示される。リチウム含有EDI型ゼオライトは、上記エジントン沸石のBaがLiに置き換わった化合物に相当する。したがって、一般式LiAlSi20・nHOで示される。式中のnは6〜10である。
【0017】
リチウムを含有するABW型ゼオライトは、BarrerとWhiteによってはじめて報告されたことにちなんで名付けられた(Barrer R.M. and White E.A.D.,J.Chem.Soc.,1951,1267)。つまり、BarrerとWhiteによって見いだされたゼオライトのAという意味で、A(BW)と記されることも、しばしばある。ここで、Aの意味について補足する。Aはアルファベットの最初の文字であり、“一番最初”に見いだされたという意味である(辰巳敬:ゼオライトの命名法と構造、触媒、Vol.40、No.3、pp.185−190、1998)。リチウムを含有するABW型ゼオライトは結晶水を15〜25%程度持つ。SiO含有量とAl含有量はそれぞれ30±5%程度である。
【0018】
本発明のリチウムゼオライトには、リチウムゼオライトを加熱処理したものも含まれる。
加熱処理温度は、ゼオライトにより異なる。例えば、EDI型の場合は、200〜700℃であることが好ましい。リチウム含有EDI型ゼオライトを200〜700℃で加熱処理すると、非晶質物質に変化する。すなわち、200℃まではEDI型ゼオライトの結晶構造を保ち、200℃以上になると結晶から非晶質に変化する。そして、700℃までは非晶質の状態にあるが、700℃を超えると結晶化してユークリプタイトへと変化する。
【0019】
ABW型の場合は、300〜650℃が好ましい。リチウムを含有するABW型ゼオライトを300℃〜650℃で加熱処理すると、無水のABW型ゼオライトに変化する。すなわち、300℃まではABW型ゼオライトの結晶構造を保ち、300℃以上になると、全く異なる結晶構造に変化して無水のABW型ゼオライトになる。そして、650℃までは無水のABW型ゼオライトの状態にあるが、650℃を超えるとγ−ユークリプタイトへと変化する。そして、さらに加熱すると、900〜1000℃でβ−ユークリプタイトへと変化する。
加熱処理条件が上記の温度範囲にないと、十分なアルカリ−シリカ反応による膨張抑制効果や塩害抑制効果が得られない場合がある。
【0020】
本発明で言う加熱処理とは、特に限定されるものではないが、通常、乾燥や焼成などの処理を行うことを意味する。
その具体的方法としては、例えば、石油精製の触媒残渣を350℃から950℃で加熱処理して得られたものを水酸化リチウム水溶液中で反応させてリチウムゼオライトを生成した後、乾燥操作の段階で、所定の加熱処理を行っても良いし、一度、200℃未満の条件で乾燥した後に、再度、所定の条件で加熱処理を行っても良い。
加熱処理の時間は、特に限定されるものではないが、5分から24時間程度が好ましく、10分から12時間がより好ましい。5分未満ではEDI型ゼオライトが非晶質物質に変化する反応や、ABW型ゼオライトが無水ABWに変化する反応が十分に進行しない場合があり、24時間を超えて熱処理してもエネルギーコストの無駄になる場合がある。
【0021】
乾燥装置としては、特に限定されるものではなく、ドラムドライヤー、棚段乾燥機、筒型乾燥機、ロータリーキルン、電気炉などを使用することができる。
【0022】
本発明のリチウムゼオライトのリチウム含有量は、特に限定されるものではないが、通常、LiO換算で5%以上が好ましく、7%以上がより好ましい。リチウム含有量は、Si/Alモル比が1となる理論値から担持できる最大量が13.5%と算出できる。
リチウム含有量が5%未満では、コンクリート混和材として利用する場合、十分なアルカリシリカ反応の抑制効果が得られない場合がある。
【0023】
本発明のリチウムゼオライトのナトリウムやカリウムの含有量は特に限定されるものではないが、通常、NaOとKOの合計量が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下がより好ましい。NaOとKOの合計量が0.5%を超えると、十分なアルカリシリカ反応による膨張の抑制効果が得られない場合がある。
【0024】
本発明のリチウムゼオライトの比表面積は、一義的に決定されるものではなく、特に限定されるものではないが、通常、BET比表面積で2〜200m/gの範囲にある。
【0025】
本発明でいう石油精製の触媒残渣とは、SiO成分とAl成分を主成分とし、水分や有機物を含んでいる。この石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理して得られるSiO-Al系物質がリチウムゼオライトを合成する際の出発物質として有用である。350℃未満であったり、950℃を超える条件での熱処理の場合には、リチウムゼオライトを合成する際の出発物質として有用ではない。
【0026】
石油精製の触媒残渣を350℃以上で加熱処理すると、次第に結晶性が不明瞭になり非晶質化する。そして、950℃以下の温度領域では非晶質状態を保つが、950℃を超えると結晶化し、ムライト(3Al・2SiO)とシリカに変化し安定化する。
【0027】
本発明では、石油精製の触媒残渣を熱処理するが、熱処理方法は特に限定されるものではない。その具体例としては、シャフトキルン、ロータリーキルン、壁炉、トンネル炉、電気炉、マッフル炉などを用いる方法が挙げられる。特に、ロータリーキルンでの熱処理が好適である。熱処理温度は350℃以上、950℃以下で行うことが必要である。
【0028】
石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理したSiO-Al系物質を特定の粒度に調製することでリチウムゼオライトを合成する際の出発物質として利用できる。
この場合の粉末度は、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で3,000〜9,000cm/gが好ましく、4,000〜8,000cm/gがより好ましく、5,000〜7,000cm/gが最も好ましい。3,000cm/g未満ではリチウムゼオライトの生成効率が悪く、9,000cm/gを超える微粉でもさらなる効果の増進が期待できないばかりか、二次凝集の悪影響が出て、リチウムゼオライトの生成効率が改悪傾向になる場合がある。
【0029】
石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理したSiO-Al系物質は、SiO成分が40〜55%、Al成分が40%〜55%、ROが1%以下、強熱減量は1%以下であることが好ましい。
【0030】
SiO成分が40%未満や、Al成分が55%を超えるものは存在しない。これは石油精製で用いられる触媒の組成に依存するためである。SiO成分が55%を超えたり、Al成分が40%未満では、リチウムゼオライトの生成効率が悪くなる場合がある。
【0031】
Oとは、NaOとKOの合計量を意味し、次式で算出される。
O=NaO+0.658K
本発明では、ROが1%以下であることが重要である。ROは0.7%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。ROが1%を超えると、得られたリチウムゼオライトのアルカリシリカ反応抑制効果が十分でない場合がある。
【0032】
石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理して得られるSiO-Al系物質の強熱減量は、1%以下であることが好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下が最も好ましい。強熱減量が1%を超えると、リチウムゼオライトの生成反応を阻害し、反応時間が長くなり、効率が悪くなる場合がある。
【0033】
本発明において、石油精製の触媒残渣を熱処理して得られるSiO-Al系物質を水酸化リチウム水溶液で処理する条件は、特に限定されるものではないが、通常、温度は10℃〜80℃が好ましく、20℃〜70℃がより好ましい。10℃未満では反応時間が長くなり、効率が悪くなる場合があり、80℃を越える高温では、耐圧容器などの特殊な密閉容器が必要となる場合がある。また、反応時間は、30分から24時間が好ましく、1時間〜12時間がより好ましい。30分未満では、反応が十分に進行しない場合があり、24時間を越えてもさらなる効果の増進が期待できない。
水酸化リチウムの濃度は、0.05モル/リットル〜2モル/リットルが好ましく、0.1モル/リットル〜1モル/リットルがより好ましい。0.05モル/リットル未満では、リチウムの担持量が少なくなる場合があり、2モル/リットルを超えても更なる効果の増進が期待できない。
なお、リチウムゼオライトには、Li−LTA型、ABW型、EDI型が存在する。反応温度が高い条件や反応時間が長くなるほど、Li−LTAやABW型が生成しやすい。EDI型は温度が低く、反応時間が短い条件で安定化しやすい。
【0034】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
<リチウムゼオライトの合成>
石油精製の触媒残渣を加熱処理したものと、水酸化リチウムを原料として水中で反応させてリチウムゼオライトを合成した。
この際、LiO/Alモル比を2.0とし、反応温度を60℃または80℃とし、反応時間を12時間とし、攪拌を行いながら反応させた。
得られた合成物を固液分離後、60℃の温水で洗浄し、70℃で乾燥した。
石油精製の触媒残渣を加熱処理したものは10kgを使用し、水酸化リチウムは水に溶解させて使用した。水酸化リチウムの溶液は100kgとした。合成物を粉末X線回折法(XRD)にて同定した結果を表1に示す。
【0036】
<使用材料>
(A)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものA:300℃で加熱処理したもの、
SiO成分%49、Al成分45%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO%0.7%、強熱減量2.5%、その他0.8%。
(B)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものB:350℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO0.7%、強熱減量1.0%、その他0.3%。
(C)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものC:500℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO0.6%、強熱減量0.7%、その他0.7%。
(D)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものD:700℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO0.7%、強熱減量0.6%、その他0.7%。
(E)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものE:900℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO%0.6%、強熱減量0.5%、その他0.9%。
(F)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものF:950℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO0.5%、強熱減量0.5%、その他1.0%。
(G)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものG:1000℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO%0.5、強熱減量0.5%、その他1.0%。
(H)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものH:700℃で加熱処理したもの、
SiO成分50%、Al成分46%、Fe成分1%、CaO成分1%、ROが2%、強熱減量0.5%、その他0.3%。
(I)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものI:700℃で加熱処理したもの、
SiO成分40%、Al成分55%、Fe成分1%、CaO成分1%、RO0.5%、強熱減量0.5%、その他0.1%。
(J)石油精製の触媒残渣を加熱処理したものJ:700℃で加熱処理したもの、
SiO成分55%、Al成分40%、Fe成分%、CaO成分%、RO0.5%、強熱減量0.5%、その他0.1%。
水酸化リチウム:試薬1級。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理したSiO-Al系物質はリチウムゼオライトを合成する際の出発物質として好適であることがわかる。反応温度を60℃とした場合にはEDI型ゼオライトであった。また、反応温度が80℃の場合にはABW型ゼオライトであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のリチウムゼオライトの合成方法により、効率よくリチウムゼオライトが合成でき、しかも、これまで有効利用方法が見出されずにいた、石油精製の触媒残渣の有効活用も合わせて実施できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製の触媒残渣を350℃以上、950℃以下で加熱処理して得られるSiO-Al系物質を、水酸化リチウム水溶液で処理することを特徴とするリチウムゼオライトの合成方法。
【請求項2】
水酸化リチウム水溶液での処理温度が、10℃〜80℃であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムゼオライトの合成方法。

【公開番号】特開2013−43815(P2013−43815A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184398(P2011−184398)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】