説明

リチウム二次電池正極活物質用酸化コバルト

【課題】エネルギー密度と放電容量及び容量保持率の優れたリチウム二次電池用コバルト酸リチウム原料である酸化コバルトを提供する。
【解決手段】リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として使用する酸化コバルトであって、該酸化コバルト中に含まれる不純物の珪素(Si)が500ppm以下(但し、0ppmを除く。)で、Feの含有量がl00ppm以下(但し、0ppmを除く。)であり、旦つ平均粒子径が0.1〜10μmであることを特徴とするリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池正極活物質用酸化コバルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭電器においてポータブル化、コードレス化が急速に進むに従い、ラップトップ型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の小型電子機器の電源としてリチウム二次電池が実用されはじめている。
【0003】
このリチウム二次電池については、1980年に水島等によリコバルト酸リチウムがリチウム二次電池の正極活物質として有用であるとの報告〔非特許文献1〕がなされて以来、コバルト酸リチウム系正極活物質に関する研究開発が活発に進められており、これまで多くの提案がなされている。
【0004】
従来、正極活物質の高エネルギー密度化を図る技術としては、例えばコバルト酸リチウムの組成をLiCoO(但し、1.05≦a≦1.3)とすることによりリチウムリッチにしたもの、逆にLiCoO(但し、0<b≦1)とすることによってコバルトリッチにしたもの、その他にコバルト酸リチウムに、Mn、W、Ni、La、Ta、Nb、Zrなどの金属イオンをドープさせたもの、コバルト酸リチウム中の残留LiCOの量を規定するもの、又は残留アルカリを規定するものなどが提案されている。
【0005】
一方、コバルト酸リチウム系正極活物質の物理的特徴、例えば比表面積を要件とする、LiCoOをアモルファスとする、粒子径を規定する、LiCoOの特定のX線回折強度をもつ結晶粒子などが提案されている。
【0006】
また、原料に関して、コバルト源として形状がほば球状又は長円球状で、平均粒子径がlμm以下の、一次粒子が複数個直接連接しているコバルト酸化物を用いて、リチウム塩との混合物を焼成する方法(特許文献1)、平均粒径D(50%)=0.5〜l.5μmの範囲にある酸化コバルトを使用する方法(特許文献2)、アトマイズ法による平均粒子径約0.1、0.2、0.5、1、5、10μmのコバルト酸化物粉末と炭酸リチウムとを混合し焼成する方法(特許文献3)等が提案されている。
【特許文献1】特開平5−54888号公報
【特許文献2】特開平5−94822号公報
【特許文献3】特開平5−290832号公報
【非特許文献1】“マテリアル リサーチブレティン”vo1.15、P783〜789(1980年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リチウム二次電池正極活物質としてのコバルト酸リチウムは、しばしば含まれる不純物の影響を受け、正極としての性能を低下させることがある。
そこで、本発明者らは、反応原料である酸化コバルト中に含まれるシリカや鉄を除去した酸化コバルトを用いて生成したコバルト酸リチウムが、二次電池用正極活物質として極めて優れた特性を有することを知見し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいて開発されたもので、その目的はリチウム二次電池正極組成液の粘度変化率が少なく安定した状態を保つことができるリチウム二次電池正極活物質の原料である酸化コバルトを提供することにある。
【0009】
また、本発明は、エネルギー密度と放電容量及び容量保持率の優れたリチウム二次電池用コバルト酸リチウム原料である酸化コバルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として使用する酸化コバルトであって、該酸化コバルト中に含まれる不純物の珪素(Si)が500ppm以下(但し、0ppmを除く。)で、Feの含有量がl00ppm以下(但し、0ppmを除く。)であり、旦つ平均粒子径が0.1〜10μmであることを特徴とするリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルトに係るものである。
【0011】
前記リチウム二次電池用正極活物質がコバルト酸リチウムであるのが好ましい。
前記酸化コバルトは、酸化コバルトと炭酸リチウムとを混合し、次いで焼成して得られるコバルト酸リチウム用原料の酸化コバルトであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウム二次電池正極組成液の粘度変化率が少なく安定した状態を保つことができるリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルトを得ることができる。
また、本発明のリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルトを用いることにより、エネルギー密度と放電容量及び容量保持率の優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を群細に説明する。
本発明のリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルトは、工業的に入手できるものであれば、特に制限されるものではないが、できるだけ精製されているものが好ましい。
【0014】
即ち、本発明のリチウム二次電池正極活物質用の原料としての酸化コバルトの特徴は、酸化コバルト中に含まれる不純物の珪素(Si)が500ppm以下(但し、0ppmを除く。)、好ましくは200ppm以下である。また、該酸化コバルトの粒子の平均粒子径は、0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmである。
【0015】
また、他の不純物として、Feの量が100ppm以下(但し、0ppmを除く。)、好ましくは50ppm以下であるのが望ましい。
これら、Si及びFe等の不純物の測定は、HC1O、HCl等の酸で溶解させ、その溶液をICP測定装置にて定量を行えばよい。
【0016】
また、平均粒子径の測定法は、特に制限されるものではないが、例えばレーザー法で求めたものである。
本発明において、上記の範囲をはずれた酸化コバルトの原料を用いて、該酸化コバルトと炭酸リチウムを反応させて、コバルト酸リチウムを生成したものは、原料の不純物がそのまま生成物に影響を受けてしまい、リチウム二次電池用正極活物質に使用した場合、初期容量やサイクル特性が低下して好ましくない結果となる。
【0017】
また、かかる酸化コバルトをリチウム二次電池正極活物質原料として使用する場合、コバルト酸リチウムの他に、例えばコバルト酸リチウムのコバルトの―部をニツケルやマンガン、バナジウム、クロム、チタン、アルミニウム、ホウ素等で置換した化合物の原料としても使用することができることは言うまでもない。
【0018】
本発明の酸化コバルトを用いてコバルト酸リチウムを製造する方法は、例えば酸化コバルトと炭酸リチウムを、Li/Coの原子比として1付近、好ましくは0.99〜1.10になる範囲の配合割合で混合し、該混合物を600〜1100℃の温度で焼成処理を行なう。焼成時間は、少なくとも2時間以上であり、焼成後、焼成物を冷却し、かるくほぐす程度に粉砕することにより得ることができる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、これは単に例示であつて、本発明を制限するものではない。
実施例1〜3および比較例1
原料となる酸化コバルトの物性を下記の表1に示す。
【0020】
ただし、以下の実施例において、不純物の珪素(Si)およびFeの含有量がいずれも0ppmである酸化コバルト(原料1)を用いた実施例1は、参考例を示すものである。
【0021】
【表1】

【0022】
(コバルト酸リチウム)
上記原料1〜4の酸化コバルト粉末と炭酸リチウムをLi/Co原子比が1〜1.05となるように秤量し、乳鉢で十分混合して均一な混合物を調製した。次いで、該混合物をアルミナ坩堝に充填し、電気加熱炉に入れて大気雰囲気下で昇温し、700〜1000℃の温度で10時間保持して焼成処理しコバルト酸リチウムの焼成物を得た。得られた焼成物を大気中で冷却した後、粉砕し、レーザー法により平均粒子径を測定し、各Si、Fe等の不純物とアルカリ量をそれぞれ測定した結果を表2に示す。
【0023】
(リチウム二次電池)
リチウム二次電池の作製;
各々のコバルト酸リチウム91重量%、黒鉛粉末6重量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)3重量%を混合して正極材とし、これを2−メチルピロリドンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥し、2000kg/cmの圧力によリプレスして2cm角に打ち抜いて正極板を得た。
【0024】
また、電解液にlM−LiC1O/EC(エチレンカーボネート)+DEC(ジエチレンカーボネート)を使用し、負極にはLi金属を用いて、リチウム二次電池を作製した。
【0025】
(スラリー粘度試験)
Siが原料中に存在するとペースト粘度が大きくなることを以下の様にして評価した。
各物性を有するコバルト酸リチウム5g、グラファイト1.0g、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)0.3g、N−メチル−2−ピロリドン4mlを45mlの容量をもつボールミルに入れ、回転速度2500rpmにて常温下5分間混練を行つた。混練終了後、得られた混合スラリーを30分及び2時間放置後、それぞれの溶液をB型粘度計でロ―夕回転速度1.5rpmで測定時間20秒の条件で測定を行つた。
【0026】
(アルカリ量の測定方法)
試料30gを蒸留水100gに分散させ、30分間撹拌した。撹拌後、ろ過した後ろ液60mlを0.lN−HCIで滴定をして、アルカリ量を測定した。
【0027】
上記の結果を表2に示す。
結合剤及び溶媒、正極活物質を構成物質と混練した場合、該混練物の下記で定義する粘度比(X)を粘性の評価パラメーターとする。
【0028】
X=B/A
[式中、Xは正極組成物の粘度比、Aは正極活物質20℃における均質化30分放置後の粘度(cp)、Bは正極活物質20℃における均質化2時間放置後の粘度(cp)を表わす]
【0029】
【表2】

【0030】
上記の表2の結果に示すように、酸化コバルト中のSi、Fe量が増加して行くに従いペースト粘度が増大していくのが分かる。
また、上記値でSiの量が、500ppmを越えると粘度値が増大し電極塗布時に支障をきたすことが分かる。
【0031】
それに対して、Siが原料中にほとんど含まれていない場合、初期容量サイクル特性共に良好な値を示したが、Si、Feが増加して行くに従い電池性能の劣化が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、リチウム二次電池正極組成液の粘度変化率が少なく安定した状態を保つことができるリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルトを得ることができるので、エネルギー密度と放電容量及び容量保持率の優れたリチウム二次電池用正極活物質の原料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として使用する酸化コバルトであって、該酸化コバルト中に含まれる不純物の珪素(Si)が500ppm以下(但し、0ppmを除く。)で、Feの含有量がl00ppm以下(但し、0ppmを除く。)であり、旦つ平均粒子径が0.1〜10μmであることを特徴とするリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルト。
【請求項2】
前記リチウム二次電池用正極活物質がコバルト酸リチウムである請求項1記載のリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルト。
【請求項3】
酸化コバルトと炭酸リチウムとを混合し、次いで焼成して得られるコバルト酸リチウム用原料の酸化コバルトである請求項1記載のリチウム二次電池正極活物質用酸化コバルト。

【公開番号】特開2008−100910(P2008−100910A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287770(P2007−287770)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【分割の表示】特願平9−341936の分割
【原出願日】平成9年11月28日(1997.11.28)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】