説明

リチウム二次電池用正極活物質及びリチウム二次電池

【課題】ホウ酸マンガンリチウム化合物は、理論容量が大きく、酸化還元電位も高いことから、リチウム二次電池用正極活物質として期待されるものの、充分な放電容量が得られないという問題があった。
【解決手段】ホウ酸マンガンリチウム(LiMnBO)のMnの一部がMgで置換された化合物を含むリチウム二次電池用正極活物質を用いる。即ち、本発明の正極活物質は、空間群P6−に属し、一般式LiMn(1−y)MgBO(0.5≦x≦1.5、0<y≦0.5)で表しうる結晶を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質及びリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器類用、電気自動車用などの電源としてエネルギー密度が高く、かつ自己放電が少なくてサイクル特性の良いリチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池が注目されている。現在のリチウム二次電池の主流は、2Ah以下の携帯電話用を中心とした小型民生用である。リチウム二次電池用の正極活物質としては数多くのものが提案されているが、最も一般的に知られているのは、作動電圧が4V付近のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)やリチウムニッケル酸化物(LiNiOあるいはスピネル構造を持つリチウムマンガン酸化物(LiMn)等を基本構成とするリチウム含有遷移金属酸化物である。なかでも、リチウムコバルト酸化物は、充放電特性とエネルギー密度に優れることから、電池容量2Ahまでの小容量リチウム二次電池の正極活物質として広く採用されている。
【0003】
しかしながら、今後の中型・大型、特に大きな需要が見込まれる産業用途への非水電解質電池の展開を考えた場合、安全性が非常に重要視されるため、現在の小型電池向けの仕様では必ずしも充分であるとはいえない。この要因の一つに、正極活物質の熱的不安定性が挙げられ、様々な対策がなされてきたが、未だ十分とはいえない。また、産業用途では小型民生用では使用されないような高温環境において電池が使用されることを想定する必要がある。このような高温環境では、従来の非水電解質二次電池はもとより、ニッケル−カドミウム電池や鉛電池も非常に短寿命であり、ユーザーの要求を満足する従来電池は存在しないのが現状である。また、キャパシターは、唯一この温度領域で使用できるものの、エネルギー密度が小さく、この点においてユーザーの要求を満足するものではなく、高温長寿命でエネルギー密度の高い電池が求められている。
【0004】
そこで最近、熱安定性が優れるポリアニオン型正極活物質であるリン酸鉄リチウム(LiFePO)が注目を集めている。このLiFePOのポリアニオン部分はリンと酸素が共有結合しているため、高温においても酸素を放出することが無く、LiサイトからLiを全て引き抜いた状態においても高い安全性を示すことから、電池用活物質として使用することで電池の安全性を飛躍的に高めることができる。しかし、LiFePOは、理論容量が170mAh/gと小さいことから、4V系正極活物質に比べるとエネルギー密度が低いものとなってしまう。
【0005】
一方、遷移金属部分がFeである場合に比べて高い作動電位が得られるMnを採用し、ポリアニオン部位をリン酸(PO)よりも軽いホウ酸(BO)に代えたポリアニオン正極活物質であるホウ酸マンガンリチウム(LiMnBO)は、LiFePOと同様に安全性が高く、理論容量が220mAh/gとLiFePOよりも大きいことから、今後の高容量活物質として有用な化合物と考えられる。
【0006】
非特許文献1には、LiMnBOの合成とその電気化学的特性がLiFeBOやLiCoBOと共に報告されている。
【0007】
しかしながら、LiMnBOは、非特許文献1のFig.6(a)に約60時間率の低電流充電・放電における可逆容量が分子中のLiに対して0.1モルに遥かに満たないことが記載されているように、殆ど活物質として利用できないという問題点があった。
【0008】
特許文献1には次の記載がある。
「式A
(式中、Aはアルカリ金属であり、
Dは、アルカリ土類金属及び元素周期表の第3族元素(Bを除く)から選択され、
Mは、遷移金属又は遷移金属の混合物であり、
Zは、S、Se、P、As、Si、Ge、Sn及びBから選択される非金属であり、
Oは酸素であり、Nは窒素であり、及びFはフッ素であり、
a、d、m、z、o、n及びfは、0以上の実数であり、且つ電気的中性を保証するように選択される)
の電極活性化合物と、
炭素のような導電性化合物と
を含む複合材料の調製方法であって、
前記電極活性化合物を形成する全ての元素A、D、M、Z、O、N及びFと、また1つ以上の有機化合物及び/又は有機金属化合物とを含有する均質混合された前駆体を短時間で熱分解して前記複合材料を得る方法。」(請求項1)、
「Dが、Mg、Al及びGa、並びにそれらの混合物から選択される請求項1又は2に記載の方法。」(請求項4)、
「Mが、Fe、Ni、Co、Mn、V、Mo、Nb、W及びTi、並びにそれらの混合物から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。」(請求項5)、
「Aが、Li又はNaであり、且つ前記電極活性化合物が、LiFePO、LiFeBO又はNaFeBOのようなリチウム挿入化合物又はナトリウム挿入化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。」(請求項6)、
【0009】
しかしながら、特許文献1には、ホウ酸マンガンリチウムについての具体的記載は皆無であり、特許文献1の請求項6に記載された化合物の中からLiFeBOを選択し、このFeに代えて請求項5に列挙された元素Mの中からMnを選択した場合において、請求項4に列挙された元素Dの中からMgを選択することによってどのような効果が奏されるかについては記載がなく、さらにはその場合にdの値をどのように選択することでどのような効果が奏されるかについても記載がない。
【非特許文献1】Legagneur V. et al., Solid State Ionics, 2001, vol.139, page 37-46.
【特許文献1】特表2007−520038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ホウ酸マンガンリチウム系正極活物質を用い、高率放電性能に優れるリチウム二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成及び作用効果は以下の通りである。但し、本明細書中に記載する作用機構には推定が含まれており、その正否は本発明を何ら制限するものではない。
【0012】
本発明はホウ酸マンガンリチウム(LiMnBO)のMnの一部がMgで置換された化合物を含むリチウム二次電池用正極活物質である。
【0013】
また、本発明は、前記正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質を備えたリチウム二次電池である。
【0014】
LiMnBOで表記される結晶構造は複数種類存在するが、本発明に係るホウ酸マンガンリチウム化合物系正極活物質の結晶構造は、空間群P6−に属するものである。ここで、「P6−」(P6バー)は、本来「6」の上に横棒(バー)を施して表記すべきものであるところ、本願明細書では便宜上「P6−」と表記した。
【0015】
本発明に係る正極活物質は、一般式LiMn(1−y)MgBO(0.5≦x≦1.5、0<y≦0.5)で表しうる結晶を含む。前記結晶は、Mn、Mg以外の遷移金属元素が一部固溶していることを妨げない。また、ポリアニオン構造としてPOあるいはSiOが一部固溶していることを妨げない。
【0016】
一般式LiMn(1−y)MgBOにおけるMg量yが少なすぎると本発明の効果が得られにくくなるので好ましくない。また、LiMgBOはLiの吸蔵・放出を行わないのでMg置換量が多すぎると活物質の理論容量が低下するため好ましくない。よって好ましいMg置換量yは0.001≦y≦0.5であり、より好ましくは0.01≦y≦0.2である。
【0017】
特許文献1の請求項4には、同文献の請求項1記載の式A(式中、Aはアルカリ金属であり、Dは、アルカリ土類金属及び元素周期表の第3族元素(Bを除く)から選択され、Mは、遷移金属又は遷移金属の混合物であり、Zは、S、Se、P、As、Si、Ge、Sn及びBから選択される非金属であり、Oは酸素であり、Nは窒素であり、及びFはフッ素であり、a、d、m、z、o、n及びfは、0以上の実数であり、且つ電気的中性を保証するように選択される)におけるDとして、Mg、Al及びGaが区別なく同列に列挙されているが、ホウ酸マンガンリチウム化合物のMnの一部を置換し、しかも、電気化学的性能を向上されるに好適な元素としてはMgが選択される。その理由は、Mnはホウ酸マンガンリチウム化合物において2価の価数を取る元素であるところ、同文献の請求項4に列挙された元素のうち、Alは3価の価数を取る元素であることから、Mnの一部を置換する元素としては不適である。Gaもまた、主として3価の価数を取る元素であることから、Mnの一部を置換する元素としてはやはり不適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ホウ酸マンガンリチウム化合物系正極活物質を用い、高率放電性能に優れるリチウム二次電池とすることのできる正極活物質を提供することができる。また、本発明によれば、ホウ酸マンガンリチウム化合物系正極活物質を用い、高率放電性能に優れたリチウム二次電池提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る正極活物質の合成過程は、LiMnBOの単一相結晶が合成できるようであれば特に限定されるものではない。具体的には、固相法、液相法、ゾル−ゲル法、水熱法等が挙げられる。また、電子伝導性を補う目的でLiMn(1−y)MgBO粒子表面にカーボンを機械的にあるいは有機物の熱分解等により付着及び被覆させることが好ましい。
【0020】
本発明に係る正極活物質は、平均粒子サイズ100μm以下の粉体としてリチウム二次電池用正極に用いることが好ましい。特に、粒径が小さい方が好ましく、二次粒子の平均粒子径は0.5〜20μmであり、一次粒子の粒径は1〜500nmであることがより好ましい。また、粉体粒子の比表面積は正極のハイレート性能を向上させるために大きい方が良く、1〜100m/gが好ましい。より好ましくは5〜100m/gである。粉体を所定の形状で得る目的で、粉砕機や分級機を用いることができる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等を用いることができる。粉砕時には水、あるいはアルコール、ヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いてもよい。分級方法としては、特に限定はなく、必要に応じて篩や風力分級機などを乾式あるいは湿式にて用いることができる。
【0021】
LiMn(1−y)MgBOには、不可避的に、あるいは、活物質としての性能の向上を目的として、不純物が共存していてもよく、そのような場合にも本発明の効果が失われることはない。
【0022】
導電剤、結着剤については周知のものを周知の処方で用いることができる。
【0023】
本発明の正極活物質を含有する正極中に含まれる水分量は少ない方が好ましく、具体的には500ppm未満であることが好ましい。
【0024】
また、電極合材層の厚みは電池のエネルギー密度との兼ね合いから本発明を適用する電極合材層の厚みは20〜500μmが好ましい。
【0025】
本発明電池の負極は、何ら限定されるものではなく、リチウム金属、リチウム合金(リチウム―アルミニウム、リチウム―鉛、リチウム―錫、リチウム―アルミニウム―錫、リチウム―ガリウム、およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(LiTi12等)、ポリリン酸化合物等が挙げられる。これらの中でもグラファイトは、金属リチウムに極めて近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電を実現できるため負極材料として好ましい。例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が好ましい。特に,負極活物質粒子表面を不定形炭素等で修飾してあるグラファイトは、充電中のガス発生が少ないことから望ましい。
【0026】
一般的に、リチウム二次電池の形態としては、正極、負極、電解質塩が非水溶媒に含有された非水電解質から構成され、一般的には、正極と負極との間に、セパレータとこれらを包装する外装体が設けられる。
【0027】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネ−ト等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエ−テル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
電解質塩としては、例えば、LiBF、LiPF等のイオン性化合物が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有するリチウム二次電池を確実に得るために、0.5mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、1mol/l〜2.5mol/lである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明のリチウム二次電池の製造方法について例示するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
(LiMn0.95Mg0.05BOの作製)
酢酸マンガン四水和物(Mn(CHCO・4HO)、酢酸マグネシウム四水和物(Mg(CHCO・4HO)、ホウ酸(HBO)、酢酸リチウム二水和物(LiCHCO・4HO)及びクエン酸をモル比が0.95:0.05:1:1.02:0.5になるように量り取り、これらを精製水に溶解させた。この溶液を120℃のホットスターラー上で攪拌しながら蒸発乾固させることで前駆体を得た。
【0031】
前記前駆体を自動乳鉢を使用して30分間粉砕した後、アルミナ製の匣鉢(外形寸法90×90×50mm)に入れ、雰囲気置換式焼成炉(デンケン社製卓上真空ガス置換炉KDF−75)を用いて、窒素ガスの流通下(流速1.0リットル/分)で焼成した。焼成温度は600℃とし、焼成時間(前記焼成温度を維持する時間)は2時間とした。この手順にて、正極活物質を合成した。ここで、合成された材料の表面にはカーボンが付着している。これはクエン酸が炭化してなるものである。また、合成された材料の粉末エックス線回折測定を行ったところ、空間群P6−に帰属される単一相のエックス線回折図が得られた。ここで、全てのピーク位置は、LiMnBOに比べて若干高角度側にシフトしていた。このことから、Mgは少なくともLiMnBOの結晶構造のMnサイトの一部に置換されていることがわかった。
【0032】
(正極の作製)
前記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック、及び、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を80:8:12の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。該正極ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上の片面に塗布、乾燥した後、プレス加工を行い、正極とした。該正極にはアルミニウム製の正極端子を超音波溶接により接続した。
【0033】
(負極の作製)
厚さ100μmのリチウム金属箔を厚さ10μmのニッケル箔集電体上に貼り付けたものを負極とした。負極にはニッケル製の負極端子を抵抗溶接により接続した。
【0034】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びメチルエチルカーボネートを体積比6:7:7の割合で混合した混合溶媒に、含フッ素系電解質塩であるLiPFを1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解質を作製した。該非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0035】
(電池の組み立て)
露点−40℃以下の乾燥空気雰囲気下においてリチウム二次電池を組み立てた。正極と負極とを各1枚、厚さ20μmのポリプロピレン製セパレ−タを介して対向させ、外装体として、ポリエチレンテレフタレ−ト(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、この極群を前記正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように注液孔となる部分を除いて気密封止した。前記注液孔から一定量の非水電解質を注液後、減圧状態で前記注液孔部分を熱封口し、電池を組み立てた。
【0036】
(比較例1)
(LiMnBOの作製)
前駆体の調整において、精製水に溶解させる原料として、酢酸マンガン四水和物(Mn(CHCO・4HO)、酢酸マグネシウム四水和物(Mg(CHCO・4HO)、ホウ酸(HBO)、酢酸リチウム二水和物(LiCHCO・4HO)及びクエン酸をモル比が0.95:0.05:1:1.02:0.5になるように量り取ったことを除いては、実施例1と同様にして、LiMnBOを合成し、これを正極活物質として用いてリチウム二次電池を組み立てた。
【0037】
(高率充放電試験)
実施例1及び比較例1のリチウム二次電池に対して、温度20℃にて、5サイクルの高率充放電を行った。ここで、充電条件は、電流0.1ItmA(約10時間率)、電圧4.5V、15時間の定電流定電圧充電とし、放電条件は、電流0.1ItmA(約10時間率)、終止電圧1.5Vの定電流放電とした。
【0038】
ここで、実施例1の電池の5サイクル目の高率放電容量は49mAhであり、比較例1の電池の5サイクル目の高率放電容量は33mAhであった。図1に実施例1の電池の5サイクル目の放電カーブを、図2に比較例1の電池の5サイクル目の放電カーブをそれぞれ示す。
【0039】
(低率放電試験)
続いて、電流0.01ItmA(約100時間率)、電圧4.5V、150時間の定電流定電圧充電を行った後、電流0.01ItmA(約100時間率)、終止電圧1.5Vの定電流放電を行った。
【0040】
その結果、実施例1の電池の低率放電容量は78mAhであり、比較例1の電池の低率放電容量は50mAhであった。
【0041】
以上それぞれの試験結果について、比較例1の電池の性能を1としたときの実施例1の電池の性能の比を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
以上の結果から、LiMnBOに対して置換元素としてMgを適用することで、これを正極活物質として用いた電池は、LiMnBOを正極活物質として用いた電池に比べて、放電性能が向上することがわかった。
【0044】
(比較例2)
(LiFePOの作製)
蓚酸鉄二水和物(FeC・2HO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)及び炭酸リチウム(LiCO)をモル比が1:1:0.51になるように量り取り、2−プロパノールを加えてペースト状とし、ボ−ルミル(FRITSCH社製プラネタリーミル、ボール径1cm)を用いて2時間湿式混合を行った。
【0045】
前記混合物をアルミナ製の匣鉢(外形寸法90×90×50mm)に入れ、雰囲気置換式焼成炉(デンケン社製卓上真空ガス置換炉KDF−75)を用いて、窒素ガスの流通下(流速1.0リットル/分)で焼成した。焼成温度は700℃とし、焼成時間(前記焼成温度を維持する時間)は2時間とした。なお、昇温途中において350℃の恒温期間を2時間設けた。昇温速度は5℃/分、降温は自然放冷とした。得られた焼成粉にポリビニルアルコール(重合度約1500)を質量比が1:1になるように秤量した後、ボールミルで乾式混合し、この混合物をアルミナ製の匣鉢に入れ、雰囲気置換式焼成炉にて窒素流通下(1.0リットル/分)で700℃、1時間焼成することでカーボンコートされたLiFePOを合成した。
【0046】
(比較例3)
(LiFe0.99Mg0.01POの作製)
蓚酸鉄二水和物(FeC・2HO)、蓚酸マグネシウム(MgC・2HO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)及び炭酸リチウム(LiCO)とをモル比が0.99:0.01:1:0.51になるように量り取ったことを除いては比較例2と同様の手法でLiFe0.99Mg0.01POを合成した。
【0047】
(比較例4)
(LiFe0.95Mg0.05POの作製)
蓚酸鉄二水和物(FeC・2HO)、蓚酸マグネシウム(MgC・2HO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)及び炭酸リチウム(LiCO)とをモル比が0.95:0.05:1:0.51になるように量り取ったことを除いては比較例2と同様の手法でLiFe0.95Mg0.05POを合成した。
【0048】
(比較例5)
(LiFe0.9Mg0.1POの作製)
蓚酸鉄二水和物(FeC・2HO)、蓚酸マグネシウム(MgC・2HO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)及び炭酸リチウム(LiCO)とをモル比が0.9:0.1:1:0.51になるように量り取ったことを除いては比較例2と同様の手法でLiFe0.9Mg0.1POを合成した。
【0049】
これらの正極活物質を用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例2〜5のリチウム二次電池を組み立てた。
【0050】
(充放電試験)
比較例2〜5の電池に対して、温度20℃にて、5サイクルの充放電を行った。ここで、充電条件は、電流0.1ItmA(約10時間率)、電圧3.8V、15時間の定電流定電圧充電とし、放電条件は、電流0.1ItmA(約10時間率)、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。
【0051】
(高率放電特性試験)
続いて、電流0.1ItmA(約10時間率)、電圧3.8V、15時間の定電流定電圧充電を行った後、電流5.0ItmA(約0.2時間率)、終止電圧2.0Vの定電流放電を行った。
【0052】
それぞれの試験結果について、比較例2の電池の性能を基準として各電池の性能の比を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から明らかなように、LiFePOに対して置換元素としてMgを適用した場合には、これを正極活物質として用いた電池は、LiFePOを正極活物質として用いた電池に比べて、放電性能が向上することはなく、逆に悪化するか又は同程度であることがわかった。
【0055】
一般に、リチウム二次電池用正極活物質に用いる遷移金属化合物の、遷移金属サイトの一部を他の元素で置換する試みは、正方晶スピネル構造のLiMnなど他の活物質における例を挙げるまでもなく多数検討されている。しかしながら、異種元素置換がもたらす効果については活物質ごとに異なっており、当該技術分野においては、異なる材料において発現した効果が別の材料においても同様に発現するかどうかについては全く予測が困難であることは論を待たない。
【0056】
比較例2〜5に示したように、LiFePOに対してFeの一部をMgで置換した場合には放電性能が全く向上しないか又は悪化したことをみても、LiMnBOに対してMnの一部を置換する元素としてMgを選択することにより、高率放電性能が優れる結果となったことについては、全く予測できない。しかも、Mgは電気化学的酸化還元に伴って価数変化する元素ではないから、比較例2〜5に示すように、放電性能が低下したということであれば予測が可能であるといえるとしても、放電容量が逆に向上することについては到底予測できるものではない。
【0057】
然して、LiMnBOに対して置換元素としてMgを適用することで、LiMnBOに比べて、これを正極活物質として用いた電池の放電性能が向上する作用機構についても、必ずしも明らかではない。
【0058】
しかし、本発明者らは、上記した予測できない驚くべき結果を前にして、本発明の作用機構についていくつかの推察を行うことができる。即ち、ホウ酸マンガンリチウム化合物においてMnは2価の価数を取る元素であるところ、Mgも2価の価数を取り、しかもイオン半径も近い元素であることが放電性能を向上させる結果を導いた原因ではないかと推察している。また、実施例1で合成したLiMn0.95Mg0.05BOの粉末エックス線回折ピークが若干高角度側にピークシフトしていたことから、Mg置換により格子定数が縮小していることが示唆された。このことから、この結晶の微小な変化が、LiMnBOにおけるLiイオンの吸蔵・放出に伴う抵抗を減少させる作用を及ぼした可能性があるのではないかと本発明者らは推察している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、エネルギー密度に優れたホウ酸マンガンリチウム化合物からなるリチウム二次電池用正極活物質とそれを用いたリチウム二次電池を提供できるので、今後の展開が期待される電気自動車等、産業用電池において特に高容量化が求められる分野への応用に適しており、産業上の利用可能性は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例に係るリチウム二次電池の充放電挙動を示す図である。
【図2】比較例に係るリチウム二次電池の充放電挙動を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸マンガンリチウム(LiMnBO)のMnの一部がMgで置換された化合物を含むリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
請求項1記載の正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質を備えたリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−140877(P2010−140877A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318697(P2008−318697)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】