説明

リチウム二次電池

【課題】出力特性およびサイクル耐久性をより高める。
【解決手段】リチウム二次電池10は、正極活物質を含む正極合材層12を集電体11に形成した正極シート13を備えている。この正極合材層12は、リチウム含有酸化物を含む正極活物質と炭素材料とを含有しており、密度が2.0g/cm3以上であり水銀圧入
法で測定した細孔分布において全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上である。また、正極合材層12は、水銀圧入法で測定した細孔分布において0.5μm以上10μm以下の細孔径の体積が全細孔容積に対して40%以上であり、且つ0.5μm以上10μm以下の範囲に最大頻度細孔径があることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池としては、正極が、ニッケルを含有するリチウム複合金属酸化物及びフッ化ビニリデン系フッ素ゴムを含む正極層が集電体に担持された構造を有し、正極層は水銀圧入法による気孔率が20%〜50%で、且つ水銀圧入法による直径0.1μm〜3μmの気孔量が10mm3/g〜150mm3/gであるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このリチウム二次電池は、正極を改良することによりエネルギー密度を高めると共に充放電サイクル特性を高めることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−255763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1のリチウム二次電池では、気孔量が150mm3/g以上となるとサイクル特性が著しく低下することがあった。このため、出力特性およびサイクル耐久性を高める更なる改良が求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、出力特性およびサイクル耐久性をより高めることができるリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、密度が2.0g/cm3以上である正極合材層が、水銀圧入法で測定した細孔分布において全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上であるものとすると、出力特性および高温でのサイクル耐久性を高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウム二次電池は、
リチウム含有酸化物を含む正極活物質と炭素材料とを含有する正極合材層が正極集電体上に形成されており、密度が2.0g/cm3以上であり水銀圧入法で測定した細孔分布において全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上である該正極合材層を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウム二次電池は、出力特性およびサイクル耐久性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、正極においては導電材として用いているカーボンのストラクチャーが重要であり、このカーボンのストラクチャーに起因する細孔は0.3μm以上にあると考えられる。この細孔径以上での細孔容積が比較的多い20%となる電極、即ちこのカーボンストラクチャーが発達した電極においては、正極合材層の密度が2.0mg/cm3以上と比較的密度が高いものとすると、出力性能、特に差が出やすい−30℃などの低温での出力性能と、耐久性能、特に差が出やすい60℃などの高温でのサイクル耐久性に効果があるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のリチウム二次電池10の一例を示す模式図。
【図2】実験例1の水銀圧入法による細孔分布の測定結果。
【図3】実験例2の水銀圧入法による細孔分布の測定結果。
【図4】実験例11の水銀圧入法による細孔分布の測定結果。
【図5】実験例12の水銀圧入法による細孔分布の測定結果。
【図6】実験例13の水銀圧入法による細孔分布の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウム二次電池は、リチウム含有酸化物を含む正極活物質と炭素材料とを含有する正極合材層が正極集電体上に形成された正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0011】
本発明のリチウム二次電池の正極は、密度が2.0g/cm3以上である正極合材層が形成されている。正極合材層の密度が2.0g/cm3以上、より好ましくは、密度が2.1g/cm3以上では、比較的密度が高く、電池容量を高めることができる。なお、この正極合材層の密度は、2.4g/cm3以下であることが、イオン伝導媒体との接触性を考慮すると好ましい。
【0012】
本発明のリチウム二次電池の正極は、水銀圧入法で測定した細孔分布において全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上である正極合材層を有する。全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上では、例えば0℃以下などの低温、特に−30℃以下の低温での出力特性をより高めることができる。この正極合材層は、全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.50μm以上であることが好ましく、0.60μm以上であることがより好ましい。即ち、比較的大きな細孔径を有するものとすると、低温でのリチウムイオンの移動がしやすく好ましい。なお、水銀圧入法は、水銀の接触角が大きいことを利用した測定方法であり、水銀を細孔に押し込む力と細孔径内に働く水銀の表面張力との釣り合いで細孔径を求める測定原理である。このため、水銀圧入法では、細孔の入口の大きさを測定していることになり、電解液やリチウムイオンなどの移動のしやすさの指標とすることができるため、ガス吸着などによる細孔分布測定結果に比してより好ましい細孔の評価方法であるということができる。
【0013】
本発明のリチウム二次電池の正極は、水銀圧入法で測定した細孔分布において0.5μm以上10μm以下の細孔径の体積が全細孔容積に対して10%以上あるのが好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。0.5μm以上10μm以下の細孔径の体積が全細孔容積に対して10%以上あると、例えば、40℃以上の高温、特に60℃以上の高温において、サイクル耐久性をより高めることができる。また、0.25μm以上10μm以下の範囲に最大頻度細孔径がある正極合材層を有することが好ましい。最大頻度細孔径は、0.50μm以上10μm以下にあることがより好ましく、0.55μm以上0.65μm以下にあることがより好ましい。特に、水銀圧入法で測定した細孔分布において0.5μm以上10μm以下の細孔径の体積が全細孔容積に対して40%以上であり、且つ0.5μm以上10μm以下の範囲に最大頻度細孔径があるものとすると、低温特性をより高めると共に、高温耐久性をより高めることができる。
【0014】
本発明のリチウム二次電池の正極は、正極合材層の水銀圧入法で測定した細孔容積が150mm3/g以下であるものとしても構わないが、150mm3/g以上であるものとしてもよい。細孔容積が150mm3/g以上であっても、上記細孔径分布の特徴を有していると低温での出力性能と共に、高温でのサイクル耐久性をより高めることができる。
【0015】
本発明のリチウム二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材層としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、リチウム含有酸化物が挙げられ、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などが好ましい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維などの炭素材料が好ましい。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。乾燥温度は、溶剤の種類に応じて適宜設定することができるが、例えば、50℃以上で行うことができ、100℃以上200℃以下の範囲が好ましく、150℃以上180℃以下の範囲がより好ましい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0016】
本発明のリチウム二次電池の正極は、導電材と結着材とを混練した炭素材料含有ペーストを作製したのち、この炭素材料含有ペーストと正極活物質とを混練し、正極合材ペーストとを作製し、この正極合材ペーストを正極集電体に塗布して作製することが好ましい。炭素材料含有ペーストの混錬時間は、0分以上200分以下であることが好ましく、100分以上180分以下であることがより好ましい。このとき、正極合材ペーストの混錬時間は、100分以上300分以下であることが好ましく、120分以上240分以下であることがより好ましい。このように作製すると、正極合材層の細孔範囲をより好適なものとすることができる。
【0017】
本発明のリチウム二次電池の負極は、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物を負極活物質としてもよい。また、本発明のリチウム二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材層としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマー、Tiを含む複合酸化物などが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり電解質塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0018】
本発明のリチウム二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液やイオン性液体、非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。また、イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミドや1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを用いることができる。
【0019】
本発明のリチウム二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この電解質塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0020】
本発明のリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0021】
本発明のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明のリチウム二次電池10の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池10は、正極活物質を含む正極合材層12を集電体11に形成した正極シート13と、負極活物質を含む負極合材層17を集電体14の表面に形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水電解液20と、を備えたものである。このリチウム二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。この正極合材層12は、リチウム含有酸化物を含む正極活物質と炭素材料とを含有しており、密度が2.0g/cm3以上であり水銀圧入法で測定した細孔分布において全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上である。また、正極合材層12は、水銀圧入法で測定した細孔分布において0.5μm以上10μm以下の細孔径の体積が全細孔容積に対して40%以上であり、且つ0.5μm以上10μm以下の範囲に最大頻度細孔径がある。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0023】
以下には、本発明のリチウム二次電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。
【0024】
[実験例1]
導電材としてのカーボンブラック(東海カーボン(株)製TB5500)を4質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(呉羽化学工業(株)製KFポリマ)を4質量部と、分散剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して180分間混練し、カーボンブラック含有ペーストを作製した。次に、正極活物質としてのニッケル酸リチウム(LiNi0.8Co0.15Al0.052)を90質量部加え、60分間混練し、正極合材ペーストを作製した。この正極合材を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の両面に均一に塗布し、180℃で乾燥させた。その後、ロールプレスで高密度化しシート状の正極を作製した。この正極は、正極集電体と、その表面に形成された正極合材層とからなる。このようにして作製したシート状の正極を、幅54mm×長さ450mmのサイズに切り出し、実験例1の非水電解液リチウム二次電池用の正極とした。次に、人造黒鉛を負極活物質として、負極活物質を95質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデンを5質量部とを混合し、分散剤としてのNMPを適量添加し、分散させてスラリー状の負極合材を作製した。次に、この負極合材を厚さ10μmの銅箔集電体の両面に均一に塗布し乾燥させた。その後、ロールプレスで高密度化し、シート状の負極を作製した。この負極は、負極集電体と、その表面に形成された負極合材層とからなる。このように作製したシート状の負極を、幅56mm×長さ500mmのサイズに切り出し、実験例1の非水電解液リチウム二次電池用の負極とした。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で混合した非水溶媒に1MのLiPF6を溶解した溶液(キシダ薬品製)を用いた。作製した正極シートと負極シートを25μm厚で58mm幅のポリエチレン製セパレータを介してロール状に捲回し、18650型円筒ケースに挿入した。このとき、電池ケースのキャップ側に配置した正極集電タブに正極集電リードを熔接により接続すると共に、電池ケースの底に配置した負極集電タブに負極集電リードを熔接により接続した。この電池ケースに電解液を注入した後、トップキャップをかしめて密閉して円筒型のリチウム二次電池を作製した。このようにして実験例1の電池を得た。なお、実験例1の正極合材の密度は、2.1mg/cm3であった。実験例1の合材比、カーボンブラック含有ペーストの混錬時間、正極合材混錬時間及び正極合材層の密度をまとめて表1に示す。なお、表1には、実験例2〜13の内容も記載した。
【0025】
【表1】

【0026】
[実験例2,3]
正極の作製に際して、正極活物質、導電材及び結着材の配合比を質量比で90:6:4とした以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた電池を実験例2とした。また、正極活物質、導電材及び結着材の配合比を質量比で90:8:4とし、密度を2.0mg/cm3とした以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた電池を実験例3とした。
【0027】
[実験例4〜6]
正極の作製に際して、カーボンブラック含有ペーストの混錬時間を0分間とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られた電池を実験例4とした。また、正極活物質、導電材及び結着材の配合比を質量比で90:6:4とし、密度を2.0mg/cm3とした以外は、実験例4と同様の工程を経て得られた電池を実験例5とした。また、正極活物質、導電材及び結着材の配合比を質量比で90:8:4とした以外は、実験例4と同様の工程を経て得られた電池を実験例6とした。
【0028】
[実験例7〜10]
正極の作製に際して、正極活物質、導電材及び結着材の配合比を質量比で90:5:5とし、カーボンブラック含有ペーストの混錬時間を240分、正極合材の混錬時間を300分間とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られた電池を実験例7とした。また、カーボンブラック含有ペーストの混錬時間を300分、正極合材の混錬時間を360分間とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られた電池を実験例8とした。また、ロールプレス圧を変え、密度を1.9mg/cm3とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られた電池を実験例9とした。また、ロールプレス圧を変え、密度を1.8mg/cm3とした以外は実験例8と同様の工程を経て得られた電池を実験例10とした。
【0029】
[実験例11〜13]
正極の作製に際して、正極の乾燥温度を50℃、100℃、150℃とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られた電池をそれぞれ実験例11〜13とした。
【0030】
(正極合材の細孔径分布・細孔容積の測定)
正極合材の細孔径分布・細孔容積は、水銀圧入装置(シスメックス社製Poremaster)を用いて測定した。サンプルとしては、ロールプレスした電極を短冊状に分割したものを用いた。図2は、実験例1の水銀圧入法による細孔分布の測定結果であり、図3は、実験例2の水銀圧入法による細孔分布の測定結果である。また、図4は、実験例11の水銀圧入法による細孔分布の測定結果であり、図5は、実験例12の水銀圧入法による細孔分布の測定結果であり、図6は、実験例13の水銀圧入法による細孔分布の測定結果である。
【0031】
(低温パワー試験)
得られた実験例1〜13の電池を用いて、低温パワー試験を行った。まず、電池を放電してSOC(State Of Charge)50%の状態に設定し、−30℃の環境下に保持した。続いて、0.5A、1A、2A、3A、5Aの電流を流して10秒後の電池電圧を測定し、パワーを求めた。
【0032】
(充放電試験)
得られた実験例1〜13の電池を用いて、20℃での電池容量を測定した。各電池を20℃とし、まず、電流密度0.5mA/cm2の定電流で充電上限電圧4.1Vまで充電を行い、次いで電流密度0.2mA/cm2の定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル行い、放電容量を求めた。
【0033】
(高温下での充放電サイクル試験(フル充放電))
得られた実験例1〜13の電池を用いて、60℃の温度条件下で充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験は、電池容量の2時間率の電流値で充電上限電圧4.1Vまで充電を行い、次いで電池容量の2時間率の電流値で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを合計500サイクル行うものとした。そして、サイクルごとに、放電容量を測定し、(500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100という式を用いて、高温時容量維持率(高温特性)QH500(%)を計算した。
【0034】
(実験結果)
表2には、実験例1〜13の、正極シートの構成、密度(mg/cm3)、全細孔容積に対する積算容積20%での細孔径(μm)、0.5μm〜10μmの細孔径の細孔容積の占める体積割合(%)、細孔容積(cm3/g)、最大頻度細孔径(μm)、−30℃出力特性、高温特性を示した。表2に示すように、実験例1〜6では、実験例7〜10の電池と比べて、−30℃出力特性や高温特性に優れ、低温から高温にわたる広範な温度域にて、電池特性のバランスが優れていることが分かった。また、0.5μm〜10μmの細孔径の細孔容積の占める体積割合が40%以上であり、且つ0.5μm以上10μm以下の範囲に最大頻度細孔径がある実験例1,2では、特に、−30℃出力特性や高温特性に優れていることが明らかとなった。このように、正極合材層の密度が2.0mg/cm3以上と比較的密度が高く、0.1μm以上3μm以下の細孔径の範囲の細孔容積が90mm3/g〜200mm3/gであるものにおいて、全細孔容積に対する積算容積20%での細孔径が0.3μm以上とすると、−30℃出力特性や高温特性をより高めることができることが明らかとなった。また、乾燥温度は、150℃以上180℃以下の範囲が好ましいことがわかった。
【0035】
【表2】

【符号の説明】
【0036】
10 リチウム二次電池、11 集電体、12 正極合材層、13 正極シート、14 集電体、17 負極合材層、18 負極シート、19 セパレータ、20 非水電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有酸化物を含む正極活物質と炭素材料とを含有する正極合材層が正極集電体上に形成されており、密度が2.0g/cm3以上であり水銀圧入法で測定した細孔分布において全細孔容積に対する積算容積が20%となる細孔径が0.3μm以上である該正極合材層を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極は、水銀圧入法で測定した細孔分布において0.5μm以上10μm以下の細孔径の体積が全細孔容積に対して40%以上であり、且つ0.5μm以上10μm以下の範囲に最大頻度細孔径がある前記正極合材層を有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記正極は、前記炭素材料としてカーボンブラックを含有する、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−216500(P2012−216500A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23146(P2012−23146)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】