説明

リチウム電池外装体の熱封緘方法

【課題】 電解液が最後に熱封緘される開口部の熱封緘部となる箇所および/ないし熱封緘部となる箇所の近傍に付着したとしても、熱封緘時にフレキシブル外装材の内層に亀裂や凹みが発生することがないリチウム電池外装体の熱封緘方法を提供することである。
【解決手段】 リチウム電池本体を収納し、一部に開口部を有する、少なくとも基材層、アルミニウム箔、化成処理層、熱接着性樹脂からなる内層が順に積層されたフレキシブル外装材により形成されたリチウム電池外装体の前記開口部を熱封緘する方法であって、前記開口部の熱封緘部となる箇所を加熱乾燥する第1工程と、前記開口部の熱封緘部となる箇所を熱接着手段により熱接着して熱封緘する第2工程とからなることを特徴とするリチウム電池外装体の熱封緘方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、特に電解質(液体や固体電解質)を有するリチウム電池に関し、さらに詳しくは、リチウム電池本体がフレキシブルな包装材からなる外装材で収納されたリチウム電池の外装体の熱封緘方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、電解質として固体高分子、ゲル状高分子、液体などからなり、リチウムイオンの移動で起電する電池であって、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。リチウム二次電池の構成は、正極集電材(アルミニウム)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料)/電解質(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質)/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリルなどの高分子負極材料)/負極集電材(銅)からなるリチウム電池本体およびそれらを包装する外装等からなる。リチウム二次電池は、その高い体積効率、重量効率から電子機器、電子部品、特に携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラなどに広く用いられている。
【0003】
前記リチウム電池の外装としては、円柱状や直方体状の金属缶からなる外装材と、フレキシブルな包装材からなる外装材とに大別されるが、金属端子の取出し易さや密封のし易さ、あるいは、柔軟性を有するために電子機器や電子部品の適当な空間に合わせた形状とすることができ、電子機器や電子部品自体の形状をある程度自由に設計することができるために、さらなる小型化、軽量化を図ることができる等の理由から、プラスチックフィルムやアルミニウム等の金属箔を積層したフレキシブルな包装材からなる外装材(以下、フレキシブル外装材と呼称する)が用いられるようになってきた。
【0004】
フレキシブル外装材としては、リチウム電池用としての必要な物性、すなわち、防湿性、密封性、耐突刺し性、絶縁性、耐熱・耐寒性、耐電解質性(耐電解液性)、耐腐蝕性(電解質の劣化や加水分解により発生するフッ酸に対する耐性)等が必要不可欠なものとして求められると共に加工性や経済性等から一般的には耐突刺し性や外部との通電を阻止するための基材層、防湿性を確保するためのアルミニウム等の金属箔からなるバリアー層、密封性を確保するための熱接着性を有するオレフィン系樹脂からなる内層で構成される。
【0005】
リチウム電池の形態としては、上記したフレキシブル外装材を製袋加工して、図示はしないがリチウム電池本体の正極および負極との各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で収納し、開口部を熱封緘して密封した図5に示す袋タイプ〔図5上はピロータイプの包装袋であるが三方タイプ、四方タイプ等の包装袋であってもよい〕、あるいは、上記したフレキシブル外装材をプレス成形して凹部を形成し、この凹部に図示はしないが前記リチウム電池本体の正極および負極との各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で収納すると共に、図示はしないが別途用意したシート状の前記フレキシブル外装材で前記凹部を被覆すると共に四周縁を熱封緘して密封した図6に示す成形タイプとがある。なお、図5、6に示す袋タイプ、あるいは、成形タイプは本発明のリチウム電池の形態である。また、図5、6上で示す符号1は外装材、符号Dはリチウム電池、符号Sは熱封緘部、Tは金属端子を示す。なお、金属端子としては、強度や加工性等を考慮して選択されるものであり、たとえば、アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀、ステンレス鋼等の中から適宜選択して用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0006】
通常、リチウム電池は電解液としてカーボネート系電解液が用いられ、たとえば、フレキシブル外装材にて上記したいずれかの形態(図5、6参照)等に成形され、リチウム電池本体を収納した後に最後に残された開口部が熱封緘される。この開口部を設ける理由としては、リチウム電池本体を構成する電解液が前記開口部からリチウム電池本体を構成する最後の部材として注入されると共に、リチウム電池の仕上げ処理として行われる充放電処理時に発生するガスを抜くためである。そして、最後に残された前記開口部を熱封緘する時、通常は、真空状態で熱封緘されるものであるが、真空にする際に電解液がフレキシブル外装材の内層(熱接着性を有するオレフィン系樹脂)の熱封緘部となる箇所および/ないし熱封緘部となる箇所の近傍に付着し、熱封緘に必要な温度、具体的には内層の融点以上の温度に加熱したヒートシールバーで熱封緘すると、真空状態の環境下もあって、
電解液が瞬時に蒸発するために、
(1)熱封緘部においてはこの蒸気が内層間を走り、これにより内層に亀裂を生じさせ、また、
(2)熱封緘部近傍においてはこの蒸気が内層に凹みを生じさせ、
この亀裂ないし凹みが充放電の繰返しにより、さらに内層の深層へと進み、電池それ自体の絶縁性の低下や、極端な場合には短絡するという問題がある。この問題は、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ等のモバイル品よりも高容量、高出力が求められるバッテリーにおいては大きな問題となる虞がある。
【0007】
ところで、リチウム電池の外装としてフレキシブル外装材を用い、熱封緘部からの水蒸気透過をできる限り少なくするヒートシール方法(たとえば、特許文献1参照)、あるいは、金属端子を突設させる熱封緘部のヒートシール方法(たとえば、特許文献2参照)等を開示した先行文献は多岐にわたっているが、本発明の特徴に直接関連した内容が開示されている先行技術文献を現段階では認識していない。
【特許文献1】特開2001−199413号公報
【特許文献2】特開2001−229890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、フレキシブル外装材でリチウム電池本体を包装して密封するリチウム電池外装体の熱封緘方法であって、電解液が最後に熱封緘される開口部の熱封緘部となる箇所および/ないし熱封緘部となる箇所の近傍に付着したとしても、熱封緘時にフレキシブル外装材の内層に亀裂や凹みが発生することがないリチウム電池外装体の熱封緘方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために、請求項1記載の発明のリチウム電池外装体の熱封緘方法は、リチウム電池本体を収納し、一部に開口部を有する、少なくとも基材層、アルミニウム箔、化成処理層、熱接着性樹脂からなる内層が順に積層されたフレキシブル外装材により形成されたリチウム電池外装体の前記開口部を熱封緘する方法であって、前記開口部の熱封緘部となる箇所を加熱乾燥する第1工程と、前記開口部の熱封緘部となる箇所を熱接着手段により熱接着して熱封緘する第2工程とからなることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2記載の本発明は、請求項1記載のリチウム電池外装体の熱封緘方法において、前記第1工程の加熱乾燥がヒートシールバーによる加熱加圧であることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項3記載の本発明は、請求項2記載のリチウム電池外装体の熱封緘方法において、前記ヒートシールバーの加熱加圧温度が前記内層を形成する熱接着性樹脂の融点未満の温度であることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4記載の本発明は、請求項1記載のリチウム電池外装体の熱封緘方法において、前記第2工程の熱接着手段がヒートシールバーによる加熱加圧であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の構成とすることにより、第1工程で熱封緘部となる箇所および/ないし熱封緘部となる箇所の近傍の内層に付着した電解液を乾燥させるという効果を奏するために、この工程で電解液が完全に揮散し、第2工程で完全に熱封緘する際に、熱封緘時の熱で蒸発することがなく、結果として、熱封緘部ないし熱封緘部近傍に亀裂や凹みが生じることがなく、絶縁性の低下、さらには、短絡を防止することができるために、電池性能を長期間にわたって安定に維持することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記の本発明について、図面等を用いて以下に説明する。
図1は本発明にかかるリチウム電池外装体の熱封緘方法に用いるフレキシブル外装材の層構成を図解的に示す図、図2はリチウム電池外装体の熱封緘部を説明するために図解的に示す図、図3は熱封緘部に付着した電解液による亀裂を説明するための(a)はフレキシブル外装材の内層側から見た平面図,(b)はフレキシブル外装材の拡大断面図、図4は熱封緘部の近傍に付着した電解液による凹みを説明するための(a)はフレキシブル外装材の内層側から見た平面図,(b)はフレキシブル外装材の拡大断面図、図5はリチウム電池の形態の一実施例を説明する図、図6はリチウム電池の形態の他の実施例を説明する図であり、図中の1はフレキシブル外装材、10は基材層、20は化成処理層、30はアルミニウム、40は熱接着性樹脂からなる内層、Dはリチウム電池、Sは熱封緘部、Tは金属端子をそれぞれ示す。
【0015】
図1は本発明にかかるリチウム電池外装体の熱封緘方法に用いるフレキシブル外装材の層構成を図解的に示す図であって、フレキシブル外装材1は基材層10、アルミニウム箔30、化成処理層20、熱接着性樹脂からなる内層40を少なくとも順に積層したものである。
【0016】
前記フレキシブル外装材1を用いて、たとえば、内部にリチウム電池本体を収納し、図6に示す成形タイプの金属端子Tを設けた熱封緘部Sに対して対向する位置にある熱封緘部Sのみが開口された状態の電池外装体において、この開口を真空チャンバー内で熱接着して熱封緘する際に、図2に示すように、電解液が減圧により熱封緘部Sとなる箇所および/ないし熱封緘部Sとなる箇所の近傍の内層40に付着(符号S1、S2で表示)し、これが内層40の熱接着性樹脂の融点より高い温度で熱接着して熱封緘部Sとすると、熱封緘部Sに付着した電解液S1は、図3に示すように熱と圧により瞬時に蒸発すると共にこの蒸気が熱封緘部Sの任意な方向に走り、その軌跡に従って内層40に亀裂が発生する。また、熱封緘部Sとなる箇所の近傍に付着した電解液S2は、図4に示すように熱により瞬時に蒸発し、その蒸発した箇所の内層40に凹みが発生する。この亀裂や凹みが、充放電の繰返しにより、さらに内層40の深層へと進み、電池それ自体の絶縁性の低下や、極端な場合には短絡し、電池としての性能低下や電池としての機能を果たさなくなる。
【0017】
本発明のリチウム電池外装体の熱封緘方法は、上記した亀裂や凹みを生じさせない方法であって、第1工程の加熱乾燥工程と第2工程の熱封緘工程との2段階で熱封緘部Sとなすものであり、この2段階法を採ることにより、熱封緘部Sや熱封緘部S近傍の内層40に亀裂や凹みが生じることを防止することができる。第1工程の加熱乾燥としては、輻射熱による加熱乾燥も可能であるが、真空チャンバー内ということを考慮すると、ヒートシールバーを用いて加熱加圧することにより加熱乾燥するのが好ましく、加熱加圧する温度としては、内層40を形成する熱接着性樹脂の融点未満である。また、加圧する圧力としては0.01〜0.1MPaが適当であり、加熱加圧時間としては0.1〜5.0秒が適当である。このようにして第1工程で電解液を完全に乾燥させ、その後に第2工程で熱接着手段により熱接着して熱封緘するのであるが、この熱接着手段としては超音波シールやインパルスシール等の周知の熱接着手段を用いることができるが、安定した密封性を得やすく、装置的にも安価であるなどの理由から、ヒートシールバーを用いて熱接着するのが好ましい。この場合、生産性や密封性を考慮して内層40を形成する熱接着性樹脂の融点以上の温度と、加圧する圧力と、加圧する時間とを適宜選定して、熱接着して熱封緘部Sを形成すればよいものである。このような2段階の熱封緘方法を採ることにより、絶縁性の低下、さらには、短絡を防止することができ、電池性能を長期間にわたって安定に維持することができるリチウム電池を提供することができる。なお、第1工程において用いるヒートシールバーは、熱封緘部Sの幅より幅広のものを用いる方が熱封緘部Sとなる箇所と熱封緘部Sとなる箇所の近傍を加熱乾燥することができるので好ましいものである。
【0018】
次に、リチウム電池Dの外装に用いられるフレキシブル外装材1について説明する。まず、基材層10について説明する。前記基材層10としては、外力からアルミニウム箔を保護すると共に、特に外部からの突き刺しに対する耐突き刺し性を向上させる目的で設けるものであり、機械的強度に優れる点から2軸方向に延伸したポリエステルフィルムやポリアミドフィルム、あるいは、これらの積層体を挙げることができる。ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート等からなるフィルムを挙げることができ、また、ポリアミドフィルムとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等からなるフィルムを挙げることができる。前記基材層10の厚さとしては6μm以上が適当である。この理由としては、6μmより厚さが薄いと、それ自体にピンホールが存在する可能性があると共に外力に対するアルミニウム箔の保護効果が減少し、特に成形タイプ(図6参照)の場合にはアルミニウム箔にピンホールや破断が発生し易く成形不良を起こし易いからであり、より好ましくは12μm以上である。また、前記基材層が上記したフィルムの単層であれ、複層であれ、25μmより厚い場合は外力に対するアルミニウム箔の保護という点で顕著な効果が認められず、体積および重量エネルギー密度を低下させると共に、費用対効果の面からも使用しない方が望ましい。また、上記したポリエステルフィルムやポリアミドフィルムは必要な面にコロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の易接着処理を施してもよいものである。
【0019】
また、前記アルミニウム箔30としては、外部から電池内部に特に水蒸気が浸入するのを防止するために設けられるものであって、水蒸気バリアー性の確保と加工時の加工適性を考慮すると、20〜200μmの厚さのものが適当である。20μm未満の厚さの場合は、アルミニウム箔単体のピンホールが危惧され、水蒸気の浸入の危険性が高くなり、200μm超の厚さの場合は、アルミニウム箔のピンホールに顕著な効果が認められず、水蒸気バリアー性の更なる向上が期待できず、加工適性においても劣り、体積および重量エネルギー密度を低下させると共に費用対効果の面からも使用しない方が望ましい。
【0020】
また、前記アルミニウム箔30は鉄分を0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%含有したものが鉄分を含有しないものと比較して延展性に優れると共に折り曲げに対するピンホールの発生が少なく、特にプレス成形時に偏肉のない均一な成形品が得られるために成形タイプ(図6参照)とする場合のフレキシブル外装材に鉄分を含有したアルミニウム箔を用いるのが好ましい。なお、鉄含有量が0.3重量%未満ではピンホール発生の防止や延展性において効果が認められず、鉄含有量が9.0重量%超ではアルミニウム箔としての柔軟性が阻害されるために成形適性が低下する。
【0021】
また、前記アルミニウム箔30は冷間圧延で製造されるが、焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性、腰の強さ、硬さが変化するが、本発明に用いるアルミニウム箔は焼きなましをしていない硬質処理品よりも多少ないし完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウム箔がよい。また、柔軟性、腰の強さ、硬さを決めるアルミニウム箔の焼きなまし条件は、フレキシブル外装材を袋タイプ(図5参照)として用いるのか、成形タイプ(図6参照)として用いるのかにより適宜決めればよいものである。
【0022】
次に、化成処理層20について説明する。前記化成処理層20は前記アルミニウム箔30を電解液や電解液の加水分解により発生するフッ酸による腐蝕を防止すると共に電解液や電解液の加水分解により発生するフッ酸による前記アルミニウム箔30と後述する内層40との間でのデラミネーションを防止するために設けるものである。また、成形タイプの電池にあっては、プレス成形時の上記した層間でのデラミネーションを防止するために設けるものである。前記化成処理層20は、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の非クロム系(塗布型)化成処理等により前記アルミニウム箔30面に形成されるものであるが、連続処理が可能であると共に水洗工程が不要で処理コストを安価にすることができるなどから塗布型化成処理が適当である。処理液としては、従来公知の六価クロム化合物を含有したクロメート処理液で処理してもよいものであるが、環境に優しく、時間経過と共に上記した層間の接着強度の低下を来たし難い処理液、具体的にはアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する処理液を用いて形成するのが好ましい。
【0023】
まず、アミノ化フェノール重合体について説明する。アミノ化フェノール重合体としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、下記式(1)、(2)、(3)、(4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体を挙げることができる。なお、式中のXは水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基ないしベンジル基を示す。また、R1、R2はヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基を示し、同じ基であってもよいし、異なる基であってもよいものである。
【0024】
下記式(1)〜(4)において、X、R1、R2で示されるアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。また、X、R1、R2で示されるヒドロキシアルキル基としては、たとえば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ基が1個置換された炭素数1〜4の直鎖ないし分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。なお、下記式(1)〜(4)におけるXは水素原子、ヒドロキシル基、および、ヒドロキシアルキル基のいずれかであるのが好ましい。
【0025】
また、下記式(1)、(3)で表されるアミノ化フェノール重合体は、繰り返し単位を約80モル%以下、好ましくは繰り返し単位を約25〜約55モル%の割合で含むアミノ化フェノール重合体である。また、アミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、好ましくは約500〜約100万、より好ましくは約1000〜約2万である。アミノ化フェノール重合体は、たとえば、フェノール化合物ないしナフトール化合物とホルムアルデヒドとを重縮合して下記(1)ないし(3)で表される繰り返し単位からなる重合体を製造し、次いで、この重合体にホルムアルデヒドおよびアミン(R12NH)を用いて水溶性官能基(−CH2NR12)を導入することにより製造される。アミノ化フェノール重合体は、1種ないし2種以上混合して用いることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
次に、三価クロム化合物について説明する。三価クロム化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロム等を挙げることができ、好ましくは硝酸クロム、フッ化クロムである。
【0031】
次に、リン化合物について説明する。リン化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、リン酸、ポリリン酸等の縮合リン酸およびこれらの塩等を挙げることができる。ここで、前記塩としては、たとえば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0032】
そして、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する処理液を用いて形成する前記化成処理層としては、1m2当たり、アミノ化フェノール重合体が約1〜約200mg、三価クロム化合物がクロム換算で約0.5〜約50mg、および、リン化合物がリン換算で約0.5〜約50mgの割合で含有されているのが適当であり、アミノ化フェノール重合体が約5.0〜150mg、三価クロム化合物がクロム換算で約1.0〜約40mg、および、リン化合物がリン換算で約1.0〜約40mgの割合で含有されているのがより好ましい。この場合の乾燥温度としては、150〜250℃、好ましくは170〜250℃で、加熱処理(焼付け処理)するのが適当である。
【0033】
また、前記化成処理層20の形成方法としては、前記処理液をバーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等の周知の塗布法を適宜選択して形成すればよいものである。また、前記化成処理層20を形成する前に前記アルミニウム箔30面に、予め、たとえば、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法等の周知の脱脂処理法で処理を施しておく方が、前記化成処理層の機能を最大限に発現させると共に、長期間維持することができる点から好ましい。
【0034】
次に、熱接着性樹脂からなる内層40について説明する。前記内層40を形成する樹脂としては、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封する際に前記熱接着性樹脂層と金属端子との間に金属端子部密封用接着性フィルムを介在させるか否かで樹脂種が異なるものである。金属端子部密封用接着性フィルムを介在させる場合には、低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,線状低密度ポリエチレン,エチレン−ブテン共重合体等のエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂の単体ないし混合物等の一般的なオレフィン系樹脂(炭素と水素とからなる直鎖状あるいは分枝鎖状のオレフィン系樹脂層を意味する)を適宜選択して用いればよいものであり、前記内層40を構成する熱接着性樹脂の態様(シート状、ペレット状)は積層方法により適宜選択されるものである。
【0035】
また、金属端子部密封用接着性フィルムを介在させない場合には、金属端子Tと良好に接着する酸変性ポリオレフィン系樹脂、たとえば、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体等の酸変性ポリオレフィン樹脂、特に好ましくは不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂を用いることができ、前記内層40を構成する熱接着性樹脂の態様は積層方法により適宜選択されるものである。前記内層40の厚さとしては、10〜100μm、好ましくは30〜50μmであり、10μm未満では熱接着した際に十分な接着強度を得ることができずに密封性に問題が生じる虞があり、100μm超では熱接着して密封する際の密封性に顕著な効果が認められず、また、総厚が厚くなることにより逆に体積および重量エネルギー密度を低下させると共に費用対効果の面からも使用しない方が好ましい。なお、金属端子部密封用接着性フィルムとして例示するならば、上記した酸変性ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムである。また、前記内層40は、積層方法に応じて必要な面にコロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の易接着処理を施してもよいものである。
【0036】
前記基材層10と前記アルミニウム箔30、および前記アルミニウム箔30の前記化成処理層20面と前記内層40との積層は、たとえば、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリウレタン系等の周知のドライラミネーション用接着剤を用いて、周知のドライラミネーション法で積層すればよいものであり、その塗布量としては、3.0〜5.0g/m2が適当である。
【0037】
また、前記アルミニウム箔30の前記化成処理層20面と前記内層40との積層は、上記した接着剤に代えて、上記した酸変性ポリオレフィン系樹脂、すなわち、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体等の酸変性ポリオレフィン系樹脂、特に好ましくは不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂を接着層として用いてもよいものである。この場合、前記接着層は上記した樹脂をTダイ押出機を用いて前記アルミニウム箔30の前記化成処理層20面に溶融押出しして、前記内層40を構成する樹脂フィルムを積層する、いわゆるサンドイッチラミネーション法で積層することにより形成してもよいし、前記内層40に酸変性ポリオレフィン系樹脂を用いる場合には、予めフィルム化したものをサーマルラミネーション法で前記アルミニウム箔30の前記化成処理層20面に積層してもよいものである。また、予め酸変性ポリオレフィン系樹脂と上記した一般的なオレフィン系樹脂とを共押出しして共押出しフィルムを作製しておき、これをサーマルラミネーション法で前記アルミニウム箔30の前記化成処理層20面に積層してもよいものである。なお、酸変性ポリオレフィン系樹脂を接着層として用いる場合、接着層の厚さとしては5〜20μm、好ましくは10〜15μmであり、5μm未満では十分なラミネート強度を得ることができず、20μm超では端面からの水分透過が多くなり、電池としての性能を低下させる虞がある。
【0038】
また、フレキシブル外装材1を成型タイプに用いる場合にあっては前記アルミニウム箔30の前記基材層10を積層する側の面にも上記で説明した化成処理層20を設けるのが好ましい。この理由としては、プレス成型時の前記アルミニウム箔30と前記基材層10とのデラミネーションを防止することができるからであり、袋タイプにあっては、敢えて設けなくてもよいものである。
【0039】
また、プレス成形時に金型に対してフレキシブル外装材1が部分的に密着するのを防止して厚みムラ(厚みバラツキ)のない均一なプレス成形品を得る目的(プレス成形時の成形性を向上させる目的)で、フレキシブル外装材1の基材層20の表面に、たとえば、流動パラフィンなどの炭化水素系、ステアリン酸、エルカ酸などの脂肪酸系、ステアリルアミド、エルカ酸アマイドなどの脂肪酸アミド系、金属石鹸、天然ワックス、シリコーンなどの滑剤を適当な溶媒で溶液化するなどの塗布可能な状態にして、たとえば、グラビアコート法、ロールコート法、あるいは、パターン状に形成する場合にはグラビア印刷法等の周知の塗布法で滑剤層を形成してもよいものである。
【0040】
次に、本発明について、以下に実施例を挙げてさらに詳しく説明する。
まず、予め、フェノール樹脂、フッ化クロム(三価)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液で両面を化成処理(リン酸クロメート処理)して両面に化成処理層を有するアルミニウム箔(40μm厚さ)の一方の面と25μm厚さの二軸延伸ナイロンフィルムとを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して積層して中間積層体を作成した。
【0041】
上記で作成した中間積層体の化成処理層面に酸変性ポリプロピレン樹脂〔不飽和カルボン酸でグラフト変性した不飽和カルボン酸グラフト変性ランダムポリプロピレン(以下、PPaと呼称する)〕とポリプロピレン〔ランダムコポリマー(以下、PPと呼称する)〕とを共押出しした2層共押出しフィルム〔PPa15μm/PP30μm〕をPPa面が化成処理層側に位置するようにすると共に化成処理層面が120℃となるように加熱してサーマルラミネーション法で積層すると共にこの積層体を180℃となるように後加熱してフレキシブル外装材を作製した。フレキシブル外装材の構成は、ON25μm/接着剤層/化成処理層/アルミニウム箔40μm/化成処理層/PPa15μm/PP30μmである。前記フレキシブル外装材を裁断して60mm角のテストサンプルを作製した。なお、前記フレキシブル外装材の内層を形成するPPは融点が140℃のものである。
【実施例1】
【0042】
上記で作製したテストサンプルのPP面を混合液〔エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)〕を含浸したガーゼで軽く拭いて混合液を付着させ、このテストサンプルのPP面に60mm角のアルミニウム箔(40μm)を重ね合わせて、真空チャンバー内にて上下10mm幅のヒートシールバーで第1工程として加熱加圧(シール条件:90℃、0.2MPa、1秒)して加熱乾燥し、続いて第2工程として上下7mm幅のヒートシールバーで熱接着(シール条件:190℃、0.2MPa、3秒)したテストピースを5個作製した。
【0043】
[比較例1]
上記で作製したテストサンプルのPP面を混合液〔エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)〕を含浸したガーゼで軽く拭いて混合液を付着させ、このテストサンプルのPP面に60mm角のアルミニウム箔(40μm)を重ね合わせて、真空チャンバー内にて上下7mm幅のヒートシールバーで熱接着(シール条件:190℃、0.2MPa、3秒)したテストピースを5個作製した。
【0044】
上記で作製した実施例1、および、比較例1のテストピースからアルミニウム箔を剥離して、電子顕微鏡でPP面を観察したところ、実施例1のテストピースはいずれにもPP面に亀裂や凹みは見られなかったが、比較例1のテストピースはいずれにもPP面に複数の亀裂や凹みが認められた。
【0045】
テスト結果からも明らかなように、本発明のリチウム電池外装体の熱封緘方法は、熱封緘部となる箇所および/ないし熱封緘部となる箇所の近傍に電解液が付着したとしても、この電解液によりPP面に亀裂や凹みが生じることがないリチウム電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明にかかるリチウム電池外装体の熱封緘方法に用いるフレキシブル外装材の層構成を図解的に示す図である。
【図2】リチウム電池外装体の熱封緘部を説明するために図解的に示す図である。
【図3】熱封緘部に付着した電解液による亀裂を説明するための(a)はフレキシブル外装材の内層側から見た平面図,(b)はフレキシブル外装材の拡大断面図である。
【図4】熱封緘部の近傍に付着した電解液による凹みを説明するための(a)はフレキシブル外装材の内層側から見た平面図,(b)はフレキシブル外装材の拡大断面図である。
【図5】リチウム電池の形態の一実施例を説明する図である。
【図6】リチウム電池の形態の他の実施例を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
1 フレキシブル外装材
10 基材層
20 化成処理層
30 アルミニウム箔
40 熱接着性樹脂からなる内層
D リチウム電池
S 熱封緘部
T 金属端子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池本体を収納し、一部に開口部を有する、少なくとも基材層、アルミニウム箔、化成処理層、熱接着性樹脂からなる内層が順に積層されたフレキシブル外装材により形成されたリチウム電池外装体の前記開口部を熱封緘する方法であって、前記開口部の熱封緘部となる箇所を加熱乾燥する第1工程と、前記開口部の熱封緘部となる箇所を熱接着手段により熱接着して熱封緘する第2工程とからなることを特徴とするリチウム電池外装体の熱封緘方法。
【請求項2】
前記第1工程の加熱乾燥がヒートシールバーによる加熱加圧であることを特徴とする請求項1記載のリチウム電池外装体の熱封緘方法。
【請求項3】
前記ヒートシールバーの加熱加圧温度が前記内層を形成する熱接着性樹脂の融点未満の温度であることを特徴とする請求項2記載のリチウム電池外装体の熱封緘方法。
【請求項4】
前記第2工程の熱接着手段がヒートシールバーによる加熱加圧であることを特徴とする請求項1記載のリチウム電池外装体の熱封緘方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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