説明

リポ酸誘導体および疾患の治療におけるそれら誘導体の使用

【課題】腫瘍細胞及び特定の他の型の病気に罹患した細胞を選択的に標的化し且つ死滅させる新規種類の治療薬の同定、及びそのような細胞で特異的にピルビン酸デヒドロゲナーゼを破壊するリポ酸誘導体を含む組成物の提供。
【解決手段】リポ酸の誘導体であって、そのリポ酸分子のチオール部分が試薬によって誘導体化されているか、またはパラジウム以外の成分により付加体が形成されているか、もしくは置換されている上記のリポ酸誘導体。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、1998年10月26日出願の米国仮特許出願第60/105,628号に対して優先権を主張するものである。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、変質した代謝酵素と関連付けられる癌、その他の疾患の治療法と診断法に関する。特に、本発明は、腫瘍細胞、および疾患の過程に関係がある、ある種特定の他のタイプの細胞を選択的に標的とし、殺す、新規な部類の治療薬に関する。
【発明の背景】
【0003】
全ての哺乳類の細胞は、生き、そして増殖するためにはエネルギーを必要とする。細胞はこのエネルギーを食物分子を代謝することによって得る。正常細胞の大部分はそれら食物を代謝するのに単一の代謝経路を利用する。この代謝経路の第一工程は、解糖作用または解糖サイクルとして知られる過程におけるグルコース分子のピルベートへの部分的分解である。ピルベートは、ミトコンドリア中において、トリカルボン酸(TCA)サイクルとして知られる過程で水と二酸化炭素とにさらに分解され、その二酸化炭素は次いで排除される。これら二つの過程間における重要な結合は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(“PDH”)錯体(以後“PDC”)として知られる大きなマルチ−サブユニット酵素錯体である。PDCはピルベートを解糖サイクルからTCAサイクルへ通す触媒として機能する。
【0004】
ほとんどの癌はエネルギー代謝の激しい混乱を示す。エネルギー代謝のこの変化が悪性変換の最も強固な、そしてよく証明されている相関現象の一つである。
腫瘍細胞は、グルコースを解糖作用で、即ちTCAサイクルなしで著しく分解するので、大量のピルベートは幾つかの代わりとなる仕方で処分されなければならない。過剰のピルベートの処分に用いられる一つの主要な経路は、2個のピルベート分子を連結して中性化合物であるアセトインを形成することを伴うものである。このアセトインの生成は腫瘍特異性形態のPDCにより触媒される。腫瘍細胞中ではTCAサイクルが依然として機能しているけれども、その腫瘍細胞のTCAサイクルは一つの変形サイクルであって、それは主たるエネルギー源としてのグルタミンに依存する。腫瘍特異性PDCはこの変形TCAサイクルにおいて調節の役割を果たす。かくして、単一酵素、即ちの腫瘍特異性PDCの阻害または不活性化は、腫瘍細胞中でのATPおよび還元電位の大規模発生を妨げることができる。
【0005】
腫瘍細胞の代謝を特徴付ける広範な研究にもかかわらず、腫瘍細胞のエネルギー代謝の系統的変更は、癌の化学療法の標的として利用されないままで残っている。多数の悪性腫瘍疾患が臨床腫瘍学に対して大きな挑戦状を突きつけ続けている。例えば、前立腺癌は男性癌死の第二の最も一般的な原因である。最新の治療プロトコルは、主として、ホルモンを操作する方法に頼っている。しかし、初期応答速度が高いにもかかわらず、患者は、予後が悪く、急速な病態悪化に至るホルモン抗療性腫瘍になることが多い。総合すると、細胞毒性のある化学療法の結果は期待外れに終わったのであって、これは進行癌の予防と治療に対する新しい方法の必要がずっと捜し求められていることを示している。異常な細胞複製の結果生ずる他の疾患、例えば転移性黒色腫、グリア起源の脳腫瘍(例えば、星状細胞腫)および肺腺癌も、予後の悪い、極めて攻撃的な悪性腫瘍である。黒色腫および肺腺癌の発生率は近年著しく高くなってきた。脳腫瘍の外科療法は腫瘍組織を全て取り除くことはできないことが多く、その結果再発が起こる。全身性化学療法は血液関門が妨げとなる。従って、進行性前立腺癌、黒色腫、脳腫瘍、並びに神経芽腫、リンパ腫および神経膠腫のような他の悪性腫瘍を含めてヒトの悪性腫瘍の治療に対する新しい方法に緊急の必要性が存在する。
【0006】
本発明の方法と組成物の開発は、腫瘍を正常細胞から見分ける代謝形質が治療の介入標的となり得ると言う理論によって導かれたものである。例えば、腫瘍細胞は、腫瘍特異性PDCを通じて代謝作用で機能すると思われる。しかして、この酵素錯体の阻害剤は腫瘍細胞の代謝を妨げ、それによって選択的腫瘍細胞死をもたらすのに用いることができる。
【0007】
ある種特定のパラジウム含有リポエート化合物に抗癌活性が提案されているが、この場合抗癌効果をもたらす特定の試剤はパラジウムであると確認された。米国特許第5,463,093号および同第5,679,679号明細書。この従来技術とは違って、本発明は、パラジウムを含まず、しかもなお、驚くべきことに、強い抗癌活性を有している新しい部類のリポエート化合物に関する。これらの化合物はPDCを介して機能し、それによって癌細胞、および異常または病原性細胞であって、それに対応して変化したエネルギー代謝を示すそのような異常または病原性の他の細胞に対する有効な対抗策を提供すると考えられる。
【0008】
かくして、本発明の一般的な目的は、腫瘍細胞を効果的に標的とし、殺す新しい部類の治療剤を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、リポ酸誘導体および製剤上許容できるキャリアーを含んで成る、腫瘍細胞を特異的に標的とし、殺す能力がある医薬組成物を提供することである。
【0009】
本発明の目的は、また、本明細書に記載されるリポ酸誘導体を使用して多様な癌を予防しまたは治療する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、本明細書に記載されるリポ酸誘導体を使用してヒト、その他の動物の細菌、真菌、植物および原虫による感染症のような病状を予防しまたは治療する療法を提供することである。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、新規な部類の化合物、および被験者の多様な病状を治療する方法におけるそれら化合物の使用法を提供するものである。この化合物の部類はリポ酸誘導体およびその製剤上許容できる塩類から成る。一つの好ましい部類の化合物は、式I:
【0011】
【化5】

【0012】
(式中、
xは0〜16であり;
およびRは、独立に、水素;アシル基(CH2)nCO-;アルキル基CnH2n+1;アルケン基CmH2m;アルキン基CmH2m-2;芳香族基;ジスルフィドアルキル基CH3CHt-S-S-;チオ−カルバミン酸エステル基(CH2)nC=NH-;およびセミチオアセタール基CH3CH(OH)-S-であり;
nは1〜10であり;
mは2〜10であり、そして
tは0〜9である。)
の構造から成るものである。
【0013】
もう一つの好ましい部類の化合物は、式II:
【0014】
【化6】

【0015】
(式中、
xは0〜16であり;そして
Rは共有結合、金属キレートまたは他の金属錯体であり、ここでその金属はパラジウムではない。)
の構造から成るものである。
【0016】
このリポ酸組成物のチオール部分の一方または両方は追加の試薬または成分により変えられていてもよいし、或いは錯化されていてもよい(即ち、誘導体化されていてもよい)。治療に好ましいリポ酸誘導体は、標的とされるべき細胞タイプおよび/または疾患に従って変わる。
【0017】
本発明は、また、ある病態になっているヒトを含めて哺乳動物を治療する方法にも関し、その方法は上記哺乳動物に治療上有効な量の少なくとも1種の式I若しくはIIを有する化合物またはその生理的に許容できる塩を投与することから成る。
【0018】
さらに、有効量の少なくとも1種の式I若しくはIIを有する化合物またはその生理的に許容できる塩を投与することから成る、被験者の腫瘍疾患症状を治療または予防する方法が提供される。この方法は、上記化合物を単独でまたは他の試薬と組み合わせて投与する方法を包含する。その組み合わせ治療法は、上記のような病態を治療するに当たって同時使用、逐次使用または個別使用ができるようになっている。
【0019】
本発明による治療は、患者の腫瘍細胞の効果的な阻害を可能にする。或いはまた、本発明の組成物は細胞に直接接触し、また腫瘍細胞を試験管内で阻害または殺すために使用することができる。さらに、他の疾患状態も前記リポ酸誘導体に対して感受性を示すことがある。従って、本発明は、真正細菌、古細菌(archeal)、真菌、植物、藻類または原虫起源の疾患がヒトおよび他の動物に生じたとき、これら疾患に対して有効な試剤としてリポ酸誘導体を使用することを企図するものである。
【0020】
本発明は、また、式I若しくはIIを有する化合物またはその生理的に許容できる塩を1種または2種以上の生理的に許容できるキャリアーまたは賦形剤と共に含んで成る医薬組成物にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の対象である新規な化合物の部類に属する構成員であるビス−ベンゾイルリポエート(120μg/mLまたは120mg/kg)による癌細胞−特異性の細胞死滅が示される。実施例9を参照されたい。左側の欄は癌の原組織を含み、そしてカッコ内は特定の細胞系統名である。上3列は3種の別個の癌細胞タイプ―肺ガン、肝癌および胚性癌を示す。これに対して、一番下の列は正常な(非癌性の)腎上皮細胞系統を示す。中央の欄は処理されていない(対照)試料を示し、一方右端の欄は各細胞タイプ(実験試料)に対する処理効果を示す。3種の癌細胞タイプは各々効率的に殺され、一方正常細胞は検出できるほどには影響を受けないことに注目されたい。これらの画像はビス−ベンゾイルリポエートの投与約48時間後に写真に撮ったものである。この時点までにほとんど全ての癌細胞は死滅したことに気付かれたい。ほんの少数残っている細胞または細胞断片は、細胞死(アポプトシス;実施例11を参照されたい;図2および3も参照されたい)を受けている細胞の形態上の特徴を有している。処理された領域に残っているこれら少数の細胞は次の数時間以内に死ぬだろう。これに対して、正常な非癌性細胞(一番下の列)は処理によって検出できるほどには影響を受けない。
【図2】本発明の対象である新規な化合物の部類に属する構成員であるビス−ベンゾイルリポエート(120μg/mLまたは120mg/kg)による、培養液中のras−形質転換NIH3T3細胞の選択的死滅が示される。実施例9および10を参照されたい。左側の欄は非癌性(非変換)親NIH3T3細胞系統、およびras腫瘍原の活性化形の導入により悪性(癌性)の状態に変換された、そのNIH3T3細胞の誘導体の1種(T24)を説明するものである。中央の欄は処理されていない(対象試料)これら2種の細胞タイプを示し、そして右端の欄はビス−ベンゾイルリポエート処理約24時間後のそれら細胞タイプを示す。第一に、非癌性親細胞はこの処理により影響を受けない。第二に、第一とは対照的に、処理24時間においては、癌性(形質転換)細胞の約50%が死滅し、また残っている細胞は球状になり、細胞死を受けている。この特徴的な細胞の球状化と細胞死の例については、図1および3を参照されたい。処理約48時間までに癌細胞はほとんど完全に根絶(死滅)され、一方対応する非癌性親細胞は影響を受けずにそのままになっている。
【図3】本発明の対象である新規な化合物の部類に属するビス−ベンゾイル系構成員が癌細胞にアポプトシス(プログラムされた細胞死)を誘発することを証明しているツネル(TUNEL)検定法の結果を示す。この実験では、HeLa(子宮頚癌)細胞が、細胞死が進行中であるが、有意数の生存細胞が残るように約24時間処理された。これらの条件下では、約48〜60時間以内に全ての癌細胞が死滅する。実施例11を参照されたい。左端の写真はそれら細胞の位相差光学顕微鏡写真を示す。アポプトシスを受けている細胞の高度に丸まった内部断片化外観を示す細胞は矢印で示されている。中央の写真は、DAPIで染色され、間接蛍光顕微鏡検査法で調べられたこれらの同じ細胞を示す。この検査は、細胞核が存在する場所を示すDNAを明らかにしている。アポプトシス性細胞(矢印)中のDNAの特徴的な一様でない染色にも注目されたい。右端の写真は、間接蛍光顕微鏡検査法で調べられたこれらの同じ細胞についてのツネル検定法の結果を示す。ほとんどの細胞核で染色が非常に低レベルであること―DNAの少数が破断していることを反映している―に注目されたい(実施例11を参照されたい)。これに対して、アポプトシス性細胞(矢印)では蛍光の信号が非常に強いことに注目されたい。これは、プログラムされた細胞死(アポプトシス)を受けている細胞に特徴的なDNA破断数が多いことの診断に役立つ。
【好ましい態様の詳細な説明】
【0022】
リポ酸誘導体の構造上の特徴
本発明の化合物は、その分子のチオール部分において有機基で誘導体化されているリポ酸を包含する。鎖長が炭素原子20個までの、好ましくは炭素原子4〜10個の、より短いまたはより長い炭素鎖を有するリポ酸/ジヒドロリポ酸種が本発明の実施に使用することができる。本発明のリポ酸の変体として、腫瘍細胞特異性PDC機能を妨害することにより腫瘍細胞を特異的に殺すために、そのカルボン酸基が乱されないが、チオール部分および/またはスルフヒドリル部分の一方または両方が誘導体化によって封鎖されているものが挙げられる。
【0023】
本発明はある一定の部類のリポ酸組成物に関する。このような組成物の一つの好ましい部類は、式:
【0024】
【化7】

【0025】
を含んで成るものである:ここで、上記の式において、
xは0〜16であり;そしてRおよびRは、独立に、次のものであることができる:
(1)チオ−エステル結合を介して結合されているアシル基。このアシル基は(CH2)nCO-(式中、nは1〜10である)から成るのが好ましい。アシル基の例としてアセチル基およびブタリル基が挙げられるが、これらに限定されない。アシル誘導体化リポ酸の特定の例は、ビス−アセチルリポエートである(実施例2)。
【0026】
(2)チオ−エステル結合を介して結合されている芳香族基。芳香族基の例としてベンゾイル基またはベンゾイル誘導体基が挙げられるが、これらに限定されない。ベンゾイル誘導体化リポ酸の特定の例はビス−ベンゾイルリポエートである(実施例3)。
【0027】
(3)チオ−エーテル結合を介して結合されているアルキル基。このアルキル基はCnH2n+1(式中、nは1〜10である)から成るのが好ましい。このようなアルキル基は、例えばOH、ClまたはNHのような他の成分で置換されていてもよい。アルキル基の例としてメチル基、エチル基、ブチル基、デカニル基および6,8−ビスカルバモイルメチルリポエートが挙げられるが、これらに限定されない(実施例5)。
【0028】
(4)チオ−エーテル結合を介して結合されているアルケン基。このアルケン基はCnH2n(式中、nは2〜10である)から成るのが好ましいだろう。アルケン基の例としてプロピレン基、2,3−ジメチル−2−ブテン基およびペプテン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
(5)チオ−エーテル結合を介して結合されているアルキン基。このアルキン基はCnH2n-2(式中、nは2〜10である)から成るのが好ましいだろう。アルキン基の例としてアセチレン基、プロピン基およびオクチン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
(6)アルキル基、アルケン基およびアルキン基は、開鎖基または脂環式基のいずれであってもよい。脂環式基はその炭素原子のいずれかにおいて追加の基または置換基を有し、複素環式基を形成していることができる。脂環式基の例としてシクロプロパン基、シクロペンテン基および6,8−メチル−スクシンイミドリポエート基が挙げられるが、これらに限定されない(実施例6)。
【0031】
(7)アルキル基、アルケン基およびアルキン基はそれらの炭素原子のいずれかにおいて追加の基を有していることができる。追加基の例としてヒドロキシル基およびアミン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
(8)チオ−エーテル結合を介して結合されている芳香族基。この芳香族基はベンゼン基またはベンゼン誘導体基であることができる。ベンゼン誘導体基の例としてトルエン基およびアニリン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
(9)ジスルフィド結合を介して結合されているジスルフィド基CH3(CH2)n-S-S-:式中、nは0〜9であることができるが、これらに限定されない)。
(10)チオ−アミド結合を介して結合されているチオ−カルバミン酸エステル基[(CH2)nC=NH-:式中、nは1〜10であることができるが、これらに限定されない];および
(11)セミチオアセタール基CH3CH(OH)-S-:式中、Rは電子を強く引き抜く置換基を持つ化合物に限定される]。例として、トリクロロアセトアルデヒド基およびピルビン酸基が挙げられる。
【0034】
およびRは、また、酸化されるとスルホキシド基またはスルホン基、例えばC-S(O)-RおよびC-S(O)2-Rをそれぞれ生成させることができるチオ−エステル基から成ることができる。RおよびRは、さらに、酸化されるとチオスルフィン酸基またはチオスルホン酸基、例えばC-S(O)-S-RおよびC-S(O)2-S-Rをそれぞれ生成させることができるジスルフィド基から成ることができる。
【0035】
リポ酸組成物の第二の部類は、式:
【0036】
【化8】

【0037】
(式中、
xは0〜16であり;そして
Rは共有結合、金属キレートまたは他の金属錯体であり、ここでその金属はパラジウムではない。)
を含んで成るものである。
【0038】
一つの好ましい態様において、本発明のリポ酸はスルフヒドリル部分の一方または両方に対する封鎖基の付加により誘導体化されている。これらの封鎖基は、スルフヒドリル部分の一方または両方に対して付加された脂肪族または芳香族の有機置換基のような任意の形を取ることができる。この部類のリポエート誘導体の一般構造は上記に示されるものである。一つの特定の例は次のとおりである:
【0039】
【化9】

【0040】
本発明の化合物は、その分子のチオール部分において有機基により誘導体化されているリポ酸を包含する。
チオール基と特異的に反応する、この技術分野で容易に分かる化合物が利用できる。このようなチオール特異性試薬の例として、N−エチルマレイミド(NEM)、5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DNTB)、p−クロロメルクリ安息香酸(p-chloromercuribenzoic acid:PCMB)およびエチルクロロホルメート(ECF)が挙げられる。一般に、チオール反応性試薬は反応用チオール(1個または2個以上)とチオエーテルまたはチオエステルを形成し、従ってこのような化合物が全てこの部類に属する構成員である。
【0041】
本発明を実施するためのリポ酸のさらに他の誘導体は、チオール部分の一方または両方がセレン分子で置換されているもの、硫黄類縁体、またはリポ酸のチオール部分の一方または両方が硫酸基または関連基に酸化されている類縁体である。
【0042】
もう一つの態様においては、金属または金属塩が、金属または金属塩がリポ酸分子のチオール基(1個または複数個)と共有結合、配位結合またはキレート化錯体を形成する結合を介してスルフヒドリル部分の一方または両方に付加されている。このような金属として、白金、ニッケル、銀、ロジウム、カドミウム、金またはコバルトが挙げられる。金属塩としては、例えば臭化白金、塩化白金、ヨウ化白金、ホウ酸ニッケル、ホウ化ニッケル、臭化ニッケル、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル、フッ化ニッケル、臭素酸銀、臭化銀、塩化銀、フッ化銀、ヨウ化銀、塩化ロジウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、フッ化カドミウム、ヨウ化カドミウム、臭化金、塩化金、ヨウ化金、臭素酸コバルト、臭化コバルト、塩化コバルト、フッ化コバルト、ヨウ化コバルトが挙げられる。このような塩類は、例えば塩化白金(II)および塩化白金(IV)のような金属の各種酸化状態を含む。一般に、本明細書に記載されるリポ酸−金属錯体の構造は、多分(金属)(リポ酸)(式中、mおよびnは共に1である)か、または(金属)(リポ酸)(式中、mは1であり、そしてnは2である)である。
【0043】
治療用途のためのリポ酸誘導体の組成物
治療のために、有効量の前記リポ酸誘導体を製剤上許容できるキャリアーと共に含んで成る医薬組成物が患者に直接投与される。これら組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、トローチ、坐剤、再構成可能粉末、または経口もしくは非経口用の滅菌溶液または懸濁液のような液体製剤の形をしていることができる。しかし、投与の整合性のためには、リポ酸誘導体組成物は単位用量の形をしているのが好ましい。経口投与用には、錠剤およびカプセルは、結合剤、錠剤形成用滑剤のような常用の賦形剤、またはラウリル硫酸ナトリウムのような製剤上許容できる湿潤剤を含んでいることができる。
【0044】
固体の経口用組成物はブレンド法、充填法、錠剤化法等の常用の方法で製造することができる。リポ酸誘導体を、充填材を用いるいかなる組成物にも、その全体にくまなく分布させるために反復ブレンド操作を用いることができる。このような操作は、勿論、この技術分野で常用されている。例えば、米国、PA州のMack Pub.社の、ジェナッロ(Gennaro)編・レミントンの薬剤科学Remington's Pharmaceutical Sciences)、第17版、1985年を参照されたい。錠剤は、普通の製剤実務において周知の方法に従って被覆する、特に腸溶コーティングで被覆することができる。経口用液体製剤は、例えばエマルション、シロップまたはエリキシルの形をしていてもよいし、或いは使用前に水または他の適当なビヒクルを用いて再構成するための凍結製品として与えられてもよい。このような液体製剤は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を挙げることができる)のような常用添加剤、そして、所望によっては、常用の芳香剤または着色剤を含んでいることができる。
【0045】
非経口投与には、リポ酸誘導体および滅菌ビヒクルを用いて流体単位剤形が造られるが、この剤形は、使用濃度に依存するが、そのビヒクルに懸濁させることも、或いは溶解させることもいずれも可能である。溶液を調製する際には、リポ酸誘導体を注射用の水に溶解し、そして濾過、滅菌した後適当なバイアルまたはアンプルに充填し、そして密封する。そのビヒクルには局所麻酔剤、防腐剤および緩衝剤のような補助剤を溶解させておくことができる。安定性を高めるために、この組成物をバイアルに詰めた後凍結させ、そして水を真空下で除去することができる。非経口用の懸濁液は、リポ酸誘導体を滅菌ビヒクルに懸濁させること以外は、実質的に同じようにして製造される。この組成物には、リポ酸誘導体の均一な分布を促進するために界面活性剤または湿潤剤を含めることができる。
【0046】
癌を予防または抑制する方法においては、リポ酸誘導体またはリポ酸誘導体を含んで成る医薬組成物は、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、胸膜腔内、子宮内、局所的または腫瘍内投与ルートを含めて幾つかのルートの一つにより投与することができる。
【0047】
当業者は、リポ酸誘導体を投与する方式は癌のタイプまたは治療されるべき症状に依存することは受け入れるだろう。例えば、白血病の治療のためにこのリポ酸を投与する好ましい方式は静脈内投与を伴うだろうが、これに対して皮膚癌を治療するための好ましい方法は、例えば局所または皮内投与を伴うだろう。
【0048】
本発明の医薬組成物は、投与方法に依存するが、リポ酸誘導体を0.1〜99重量%、好ましくは10〜25重量%含んでいることができる。
リポ酸誘導体の使用方法
本発明のリポ酸誘導体は、変化したまたは別個の細胞PDC活性を伴う疾患を予防または抑制する方法において使用することができる。このような疾患は本発明のリポエート組成物に対する感受性によって特徴付けられる。化学療法剤としての本発明のリポ酸誘導体の最も重要な利点の一つはそれらの特異性である。適切に変えられたまたは乱されたエネルギー代謝、即ち変化したPDC活性を持つ細胞が特に標的となり、殺されるが、一方周囲の健康な組織はリポ酸試薬で傷を受けず、そのままである。当業者は変化したPDC活性を持っている疾患を容易に確認することができる。あるいはまた、当業者は関心のあるそれら疾患を本発明の化合物の部類に対する感受性に関して容易に選別することができる。
【0049】
一つの好ましい治療法において、本発明のリポ酸組成物は、一次または転移性の黒色腫、胸腺腫、リンパ腫、肉腫、肺癌、肝癌、非ホジキンス(non-Hodgkin's)リンパ腫、ホジキンスリンパ腫、白血病、子宮癌、子宮頚癌、膀胱癌、腎臓癌、大腸癌、並びに乳癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌等の腺癌のような癌の予防と治療に用いられる。頚管癌腫および乳癌を含めて広範囲の腫瘍タイプがこの新しい化合物の部類に対して感受性がある。癌特異性細胞死滅性を示す細胞結果は、例えば、本明細書中、後記の表1に見ることができる。
【0050】
本発明のリポ酸誘導体またはその医薬組成物の好ましい服用量は、使用される特定の組成物、個人個人の年齢、体重および状態を含めて他の基準に基づいて選ばれる。重要なことであるが、使用されるリポ酸誘導体の量は、正常細胞を実質的に傷つけずに残しつつ、腫瘍細胞を阻害または殺すのに十分な量であるべきである。一般に、少なくとも約10μM、好ましくは少なくとも約100μM、さらに好ましくは少なくとも約400μMのリポ酸誘導体服用量を患者に与えることが望ましいが、一方約10μM〜約1mMの範囲も考えられるし、勿論、本明細書に記載される実施例に示される生体内データにより導かれるが、上記より少ないまたは多い用量を投与することもできる。前記のとおり、上記の好ましい服用量範囲には多様な臨床因子が影響を及ぼす。
【0051】
本発明のもう一つの態様は、リポエート誘導体に対して感受性がある疾患を治療する方法であって、有効量のリポエート化合物および第二試薬を投与してその疾患を治療することから成る上記の方法に関する。この第二試薬はミトコンドリアのエネルギー代謝の阻害剤および/またはアポプトシスを誘発する試薬であるのが好ましい。このような試薬として代謝阻害試剤が挙げられる。多数のそのような試薬がこの技術分野で知られている。一つの特に好ましい試薬はジクロロアセテートである。この第二試薬は上記治療法に対する患者の応答を増強するように、逐次的に、同時にまたは別個に投与することができる。
【0052】
本明細書に記載される治療法を改変することにより、リポ酸誘導体は、疾患を引き起こしている細胞が変化した代謝パターンを示す、癌以外の疾患を治療する方法でも使用できるようになる。例えば、ヒトおよび他の動物の真核性病原体は、一般的には、真核性細胞は細菌の細胞に対するよりも動物細胞にはるかによく似ているので、細菌性病原体よりも治療がはるかに困難である。このような真核性病原体としてマラリアを引き起こすもののような原虫、さらには真菌および藻類系病原体が挙げられる。本発明のリポ酸誘導体は正常なヒト細胞および動物細胞に対して著しく毒性を欠いているので、また多くの真核性病原体は、おそらくは、それらのPDCが本明細書に記載されるリポエート誘導体の新規な部類に属する構成員に対して感受性となる生活周期の諸段階を通り過ぎるので、本明細書に記載されるリポエート誘導体の新規な部類に属するある種の構成員は細菌のPDCを殺し、かくしてそれらは基本的に新しい部類の抗菌剤となる。在来の抗生物質に対する細菌耐性はますます厳しい臨床問題となってきているので、このような関係においてこれらの化合物は治療上重要なものであることが分かる。
【0053】
さらに他の用途において、本発明のリポ酸誘導体は試験管内診断薬として使用される。前記のように、問題にしている特定の腫瘍細胞または細胞タイプに依存するが、種々のリポ酸誘導体が別種の腫瘍群を阻害するのに多かれ少なかれ有効であるだろう。かくして、例えば、診断が、または化学療法上の適切な方策の選択が困難な場合、特定の腫瘍細胞タイプを標的とすることが知られているリポ酸誘導体を用いて腫瘍細胞の培養液を試験管内で試験することが、腫瘍タイプと有効な治療法を確認するための代替法となる。
【実施例】
【0054】
実施例1
金属/リポエート誘導体の製造を可能にする合成条件をここに説明すると、次のとおりである:
PtCl2はアルファ・アエザー社(Alfa Aesar)から、DL−アルファーリポ酸はUSB社から、他の全ての化学薬品はフィッシャー社(Fisher)からそれぞれ入手した。与えられる配合物は、最終容積1mLの白金/リポエート誘導体溶液をもたらす。
【0055】
1.10.64mgのPtCl2を215μLの3.5N・HClに懸濁させる。
2.65℃で15分間加熱する。
3.室温、10,000xgにおいて6分間遠心分離し、そして透明になった上澄液を回収する。
【0056】
4.114mgのNaOHを1.5mLのH2Oに溶解する。
5.工程4からのNaOH溶液に82mgのDL−アルファーリポ酸を加え、溶解させる。
6.工程5からの150μLのリポ酸ナトリウム溶液を新しい試験管に移し、そして工程3からの22μLの透明になった塩化白金上澄液を加える。
【0057】
7.沈殿が全て溶解するまで混合する。
8.65℃で15分間加熱する。
9.蒸留H2Oを用いて1mLの最終容積にする。
【0058】
実施例2
ブロック化及び/または無効化(disabled)リポ酸誘導体からなる大きな、新規種類の抗癌剤の存在を確認するために、多くの新規リポ酸誘導体を合成し、試験した。本実施例及び以下の5つの実施例(2〜7)において、6種類の化合物の合成、構造及び精製について記載する。次いでこれらの化合物を、後の実施例(8〜15)で試験した。
【0059】
6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸(ビス-アセチルリポ酸)の合成
6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸(以後、ビス-アセチルリポ酸という)を、3段階方法を使用して、市販品のリポ酸から製造した。これらの段階は以下のようであった。リポ酸を最初に6,8-ビスメルカプトオクタン酸に還元し、次いでこれをアセチル化して6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸無水酢酸(-octanoic acetic anhydride)を製造した。次いでこの6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸無水酢酸を、選択的に加水分解して6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸を製造した。
【0060】
これらの段階の詳細は以下のようにして実施した。
段階1:6,8-ビスメルカプトオクタン酸:a-リポ酸(5.15g,25.0mmol)を水125mLに懸濁させて、重炭酸ナトリウム(2.10g,25.0mmol)を添加した。この混合物を超音波処理して、ナトリウム塩を生成させた。得られた薄黄色溶液を氷浴中で冷却し、撹拌しながら固体ホウ水素化ナトリウム(1.90g,50.0mmol)を20分かけて少しずつ添加した。この溶液を氷浴温度でさらに30分間、次いで室温で30分間撹拌した。曇った溶液を氷浴中で冷却し、2M塩酸をゆっくりと添加してpHを約1にした。過剰のホウ水素化ナトリウムが分解するに連れて激しく水素が発生し、油性液体が分離した。できる限り以下の操作を窒素下で実施した。この混合物をクロロホルム3×50mLで抽出した。混合したクロロホルム抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、次いで室温で減圧下、溶媒を蒸発させた。残った油性物をさらに真空下で乾燥して、痕跡量の溶媒を除去した。6,8-ビスメルカプトオクタン酸を無色油状物として単離した。5.2g(100%収率)。生成物を窒素下、−20℃で貯蔵した。
【0061】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(CDCl3):2.89(多重線,1H,S-C-H)、2.67(多重線、2H,S-CH2)、2.34(t,J=7.1Hz,2H,CH2C(O))、1.4-1.92(多重線,8H,(CH2)2)、1.33(t,J=8.0Hz,1H,S-H)、1.30(t,J=7.6Hz,1H,S-H)。
【0062】
13C-NMR(CDCl3):180.0、42.7、39.2、38.6、33.8、26.4、24.2、22.2。
段階2:6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸無水酢酸:6,8-ビスメルカプトオクタン酸(5.20g,25mmol)を乾燥窒素下で乾燥塩化メチレン125mL中に溶解し、トリエチルアミン(8.10g,80.0mmol,11.25mL)を添加した。この溶液を氷浴中で冷却し、塩化メチレン25mL中に溶解した塩化アセチル(6.30g,80.0mmol)を撹拌しながら15分で添加した。添加している間に塩化トリエチルアンモニウムが沈澱した。溶液自体は無色のままであった。室温で90分間撹拌を継続した。さらに塩化メチレンを添加して容積を300mLとし(全ての固体が溶解した)、溶液を分液漏斗に移した。直ちに10%クエン酸300mLで抽出した(水性相のpHは抽出後に酸性であるようにチェックした)。クエン酸溶液200mLで2回抽出し、次いで半飽和(half saturated)塩水200mLで洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、塩化メチレンを蒸発させた。殆ど無色油状物8.0gが残った。
【0063】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(CDCl3):3.49(多重線,1H)、2.7-3.0(多重線、2H)、2.36(t,2H,CH2C(O))、2.27(s,3H,CH3)、2.26(s,3H,CH3)、2.15(s,3H,CH3)、1.3-1.9(多重線,8H)。
【0064】
13C-NMR(CDCl3):195.4、195.2、168.9、166.3、43.2、34.8、34.5、34.2、30.6、30.4、26.3、25.7、23.7、22.0。IR(KBrペレット):1821、1749、1691cm-1
段階3:6,8-ビスアセチルメルカプトオクタン酸:段階2からの無水物(8.0g)を水30mL及び2-プロパノール30mLと混合し、40 で4.25時間撹拌した。約2時間後、透明溶液になった。溶媒を真空下(2mm)で25 で蒸発させた。油性残存物を水10mLと一緒に蒸発させて残存する全ての2-プロパノールと酢酸を除去した。殆ど無色の油状物6.8gを単離した。
【0065】
精製:精製例は以下の通りである。段階3からの材料を酢酸エチル-ヘキサン-酢酸(100:100:1,v/v)5mLと混合して、より流体とした。この溶液を、酢酸エチル-ヘキサン-酢酸(100:100:1,v/v)中に充填したシリカゲル60(フラッシュシリカ約300g)の25×6.5cmカラムに適用した。このカラムをこの溶媒で溶離した。5mL/分で75mLの画分を集めた。生成物とやや早く溶離した不純物との約1:1混合物を画分13(0.86g)中に集めた。画分14(1.92g)と画分15(1.61g)はこの不純物がずっと少なかった。無色油状の純粋な物質を画分16〜20(2.36g)に集めた。画分14及び15を(それぞれ)25×4.5cmカラム(シリカゲル150g)のクロマトグラフィーにかけた。それぞれ純粋な生成物1.72g及び1.55gが単離した。純粋な生成物の全収量は5.63g(6,8-ビスメルカプトオクタン酸をベースとして77%収率)であった。
【0066】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(CDCl3):3.50(多重線,1H)、2.7-3.0(多重線、2H)、2.27(t,2H,CH2C(O))、2.27(s,3H,CH3)、2.26(s,3H,CH3)、1.1-1.8(多重線,8H)。
13C-NMR(CDCl3):195.67、195.50、179.59、43.34、34.60、34.30、34.30、33.71、30.68、30.48、26.40、26.01、24.20。
【0067】
IR(ニート液):2935、1736、1691、1423、1355、1134、1118、953、744、630。
TLC Rf=0.40(酢酸エチル-ヘキサン-酢酸、100:100:1、v/v)。
純度:分析ではこの合成(ビス-アセチルリポ酸)の最終生成物は98%を超える純度であった。これらの研究でさらに5回の独立したバッチを製造し、全てのバッチについての生物学的特性(実施例8にまとめた)は、それぞれの試験の詳細に於いて区別できなかった。この化合物の構造を以下に示す。
【0068】
実施例3
6,8-ビスベンゾイルメルカプトオクタン酸(ビスベンゾイルリポ酸)の製造
6,8-ビスベンゾイルメルカプトオクタン酸は、商業的に入手可能なα-リポ酸から3段階方法で製造した。最初にリポ酸を、ややアルカリ性条件下で水中のホウ水素化ナトリウムで6,8-ビスメルカプトオクタン酸に還元した。HCl副生成物を掃去するためにトリエチルアミンの存在下で、生成物を塩化ベンゾイル3当量でベンゾイル化して、6,8-ビスベンゾイルメルカプトオクタン酸無水安息香酸を製造した。この無水物をジオキサン/水で選択的に加水分解して、ベンゾイルチオエステル基の都合の悪い加水分解を全く起こすことなく、6,8-ビスベンゾイルメルカプトオクタン酸を製造した。生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより精製した。精製した酸をメタノールに溶解し、1モル当量の重炭酸ナトリウムを含有する水溶液をゆっくり添加することによりナトリウム塩に転化した。
【0069】
これらの段階を実施した詳細を、以下の例により説明する。
段階1:6,8-ビスメルカプトオクタン酸は、実施例2に記載の通り正確に製造した。
段階2:6,8-ビスベンゾイルメルカプトオクタン酸無水安息香酸:6,8-ビスメルカプトオクタン酸(2.03g,10mmol)を、窒素下、乾燥塩化メチレン50mL中に溶解し、トリエチルアミン(3.24g,32mmol,4.50mL)を添加した。塩化メチレン20mL中に溶解した塩化ベンゾイル(4.50g,32mmol)を撹拌しながら20分で滴下添加した。塩化ベンゾイルを半分ほど添加すると、塩化トリエチルアンモニウムが沈澱した。溶液自体は無色のままであった。撹拌を25〜27゜で9時間継続した。さらに塩化メチレンを添加して容積を100mLとし(全ての固体が溶解した)、溶液を分液漏斗に移した。直ちに10%クエン酸2×50mLで抽出し(抽出後に水性相のpHをチェックして酸性であることを確認した)、次いで飽和塩水50mLで洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、塩化メチレンを蒸発させた。殆ど無色の油状物5.48gが残った。
【0070】
段階3:6,8-ビスベンゾイルメルカプトオクタン酸:粗な無水物(5.48g)をジオキサン20mLに溶解し、水20mLを添加した。これによって物質がオイルアウト(oil out)した。混合物を40〜45゜で21時間撹拌した。溶媒を真空(2mm)下、30゜で蒸発させた。残存した油状物をクロロホルム80mLで取り出し、5%クエン酸水溶液25mLで抽出した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、溶媒を蒸発させた。微かに黄色い油状物5.7gが単離した。NMRスペクトルは、無水物のたった1/3だけが加水分解したことを示した。従って粗な物質をジオキサン20mLに溶解し、水10mLを添加した。混合物を45゜でさらに32時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させた。この処理の後、無水物の加水分解が完了した。
【0071】
精製:生成物を酢酸エチル2mLと混合し、ヘキサン-酢酸エチル-酢酸(100:50:1,v/v)に充填したシリカゲル60(フラッシュシリカ150g)の25×4.5cmのカラムに適用した。カラムをこの溶媒で溶離した。40mLの画分を約5mL/分で集めた。早く溶離する物質を画分10〜12(白色固体1.33g--おそらく安息香酸)に集めた。この早く溶離する画分の少量を生成物と一緒に画分13〜15(0.66g)に集めた。純粋な生成物を画分16〜21(無色油状物1.95g)に集めた。
【0072】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(CDCl3):8.0(多重線,4H,ArH)、7.38-7.60(多重線、6H,ArH)、3.89(多重線,1H,CH-S)、3.0-3.3(多重線,2H,CH2S)、2.34(t,J=7.1Hz,2H,CH2C(O))、1.1-2.2(多重線,8H,-CH2-)。
【0073】
13C-NMR(CDCl3):191.71、191.46、179.72、136.98、136.92、133.29、128.51、127.25、127.14、43.60、34.98、34.59、33.76、26.43、26.19、24.29。
TLC Rf=0.30(ヘキサン-酢酸エチル-酢酸、100:50:1、v/v)。
【0074】
IR(ニート液体):2937、1710、1704、1662、1667、1655、1448、1207、1175、911、773、757、733、648、688cm-1
ナトリウム塩:この誘導体のナトリウム塩はより溶解性で取り扱いやすい。したがって、以下の実施例に説明されている塩形でこの物質を製造するのが好ましい。酸(1.95g,4.7mmol)をメタノール10mLに溶解し、水10mL中の重炭酸ナトリウム(0.39g,4.7mmol)の溶液を激しく撹拌しながら約10分で少量ずつ添加した。最初の物質がオイルアウトし、添加が完了すると、無色均一溶液であった。溶液を室温にさらに10分間放置し、次いで溶媒を真空(2mm)下、20 で除去すると、ガム状固体が残った。この固体をメタノール10mL中に溶解し、溶媒を真空下で蒸発分離させた。これを2回繰り返した。泡状の白色固体が生成した。これを室温でP2O5上で真空下で一晩乾燥した。塩1.60gを単離した。
【0075】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(D2O):7.8-7.9(多重線,4H,ArH)、7.0-7.4(多重線、6H,ArH)、3.57(多重線,1H,-CH-S)、2.9-3.1(多重線,2H,CH2S)、2.06(t,2H,CH2C(O))、1.0-2.1(多重線,8H,-CH2-)。
【0076】
13C-NMR(D2O):193.49、193.11、183.39、137.10、137.00、134.21、129.21、127.70、127.58、44.69、38.15、34.97、27.23、27.00、26.46。
純度:分析から、ビス-ベンゾイルリポ酸が98%を超える純度で製造できたことが判明した。さらに、この薬剤の3種のそれぞれの製剤は、見分けのつかない生物学的特性を示した(実施例8参照)。
【0077】
この化合物の構造を以下に示す。
実施例4
8-アセチルメルカプト-6-メルカプトオクタン酸(モノアセチルリポエート)の製造
8-アセチルメルカプト-6-メルカプトオクタン酸:乾燥塩化メチレン4mL中の塩化アセチル(0.30g,3.8mmol)を、0 で6,8-ビスメルカプトオクタン酸(0.80g,3.8mmol)とトリエチルアミン(1.16g,11.5mmol)の撹拌溶液に窒素雰囲気下で、10分で滴下添加した。この溶液を0 でさらに15分間撹拌し、次いで室温で2時間撹拌した。この溶液を塩化メチレン75mLで希釈し、10%クエン酸水溶液2×50mLで抽出し、次いで飽和塩水30mLで洗浄した。有機相を乾燥(MgSO4)し、濾過し、溶媒を蒸発させた。残存する油状物を2-プロパノール8mLに溶解し、水8mLを添加した。この混合物を窒素下40 で4.5時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、粗な生成混合物を溶離液として最初に酢酸エチル-ヘキサン-酢酸(100:100:1、v/v)を使用するシリカゲルのカラムクロマトグラフィーにより分離し、次いで溶媒としてヘキサン-酢酸エチル-酢酸(150:100:1、v/v)を使用して再びクロマトグラフィーにかけると、無色油状物の純粋な8-アセチルメルカプト-6-メルカプトオクタン酸51mg(5%)が得られた。
【0078】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(CDCl3):3.0(m,2H,-CH2S)、2.78(m,1H,-CHS-)、2.34(t,J=7.1Hz,2H,-CH2COOH)、2.30(s,3H,CH3C(O))、1.4-2.0(m,8H,-CH2-)、1.35(d,J=7.6Hz,1H,SH)。
【0079】
13C-NMR(CDCl3):195.79、179.77、39.79、38.60、38.41、33.81、30.56、26.78、26.34、24.19。
IR(ニート):2935、1707、1692、1414、1354、1283、1257、1232、1135、952、628。
【0080】
TLC Rf=0.41;シリカゲルG:ヘキサン-酢酸エチル-酢酸、150:100:1、(v/v)。
実施例5
6,8-ビスカルバモイルメチルメルカプトオクタン酸の製造
6,8-ビスカルバモイルメチルメルカプトオクタン酸:ヨードアセトアミド(1.11g,6.0mmol)を0 で脱気したメタノール-水(9:1,v/v)30mLに溶解した6,8-ビスメルカプトオクタン酸(0.62g,3.0mmol)の溶液に添加した。抑えた照明のもと、この溶液を窒素下で撹拌し、1.0M水酸化ナトリウム水溶液(9.0mL,9.0mmol)を3分で添加した。透明溶液を0 で10分間、次いで室温で4時間撹拌した。メタノールの嵩を減圧下で蒸発させ、脱気した水で容積を25mLにした。2M塩酸でpHを1に調節した。水を真空下、25 で蒸発させ、残存する黄色油状物を酢酸エチル2×20mLで振盪した。酢酸エチル不溶性物質を、溶離液としてクロロホルム-メタノール-酢酸(120:60:1、v/v)を使用してシリカゲル上でクロマトグラフィーにかけると、茶色がかった黄色固体の6,8-ビスカルバモイルメチル-メルカプトオクタン酸1.0g(100%)が得られた。
【0081】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(D2O):3.44(s,2H,-CH2C(O)NH2)、3.43(s,2H,-CH2C(O)NH2)、3.00(m,1H,-CHS)、2.88(t,J=7.4Hz,2H,CH2S)、2.51(t,J=7.1Hz,2H,-CH2COOH)、1.95(m,2H,-CH2-)、1.5-1.8(m,6H,-CH2-)。
【0082】
13C-NMR(D2O):180.07、175.51、175.24、46.00、35.65、35.09、34.11、34.09、34.03、30.29、26.29、25.13。
TLC Rf=0.35;シリカゲルG:クロロホルム、メタノール酢酸、60:30:1、(v/v)。
【0083】
実施例6
6,8-ビス-[S-(N-メチルスクシンイミド)]メルカプトオクタン酸の製造
6,8-ビス-[S-(N-メチルスクシンイミド)]メルカプトオクタン酸:6,8-ビスメルカプトオクタン酸(0.62g,3.0mmol)を脱気した水25mL中に溶解した重炭酸ナトリウム(0.25g,3.0mmol)と混合し、透明溶液が得られるまで窒素下、室温で撹拌した。N-メチルマレイミド(0.67g,6.0mmol)を添加し、混合物を窒素下、室温で3時間撹拌した。溶液を濾過して不溶性物質の痕跡量を除去し、次いでクロロホルム20mLで洗浄した。水性相のpHを2M塩酸で1.5に調節し、混合物をクロロホルム3×15mLで抽出した。クロロホルム抽出物を乾燥(MgSO4)し、濾過し、溶媒を蒸発させると無色シロップ状物1.30gが残った。TLC[シリカゲル、(クロロホルム-メタノール)、10:1、(v/v)]により、ジアステレオマーの混合物と予想されたようにRf=0.27で多くのスポットが重なったことを示した。
【0084】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(CDCl3):3.72(m,2H)、2.7-3.3(m,5H)、2.93(s,6H,CH3-)、2.25-2.55(m,4H)、2.0-1.35(m,8H)。
13C-NMR(CDCl3):178.73、176.81、176.77、176.65、176.62、176.54、176.50、174.75、174.69、45.22、44.78、44.57、39.11、38.96、38.90、38.77、38.59、38.51、38.00、37.68、36.35、36.30、36.24、35.87、35.85、35.78、34.49、34.34、33.96、33.79、33.67、33.52、29.08、28.70、28.66、28.45、25.92、25.86、25.58、25.45、25.02、24.98、24.21、24.14。
【0085】
実施例7
ナトリウム6,8-ジヒドロキシオクタノエートの製造
ナトリウム6,8-ジヒドロキシオクタノエート:メチル6,8-ジヒドロキシオクタノエート(0.15g,0.80mmol;6,7-異性体を約10%含有)をメタノール3mLに溶解し、メタノール中の1.00M水酸化ナトリウム(0.80mL,0.80mmol)を添加した。溶液を還流下で3時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させると、白色粉末状のナトリウム6,8-ジヒドロキシオクタノエート0.15gが得られた。収率は定量的であった。
【0086】
分析から以下の結果が得られた:1H-NMR(D2O):3.74(m,1H,-CHOH-)、3.70(t,J=6.6Hz,2H,-CH2OH)、2.19(t,J=7.2Hz,2H,-CH2COOH)、1.2-1.9(m,8H,-CH2-)。
13C-NMR(D2O):184.47、69.25、59.42、39.01、38.21、36.77、26.47、25.32。
【0087】
実施例8
実施例9〜12は、本発明の目的であるリポ酸誘導体化合物の特性及び効能について示す培養細胞系からの結果について記載する。以下の表1は、実施例9〜12で知見された全ての結果を略号及び表計算フォームでまとめたものである。
【0088】
組織培養細胞上でリポ酸誘導体を使用する全ての実施例で、このリポ酸誘導体が腫瘍細胞を死滅させる能力をもち、同時に好適な投与範囲内で接触阻止の、正常な、非癌性細胞は無傷なままにすることが示された。
【0089】
第二に、試験した全ての癌細胞型はブロック化リポ酸誘導体のファミリーの1種以上により死滅した。このことは、これらの薬剤が、多くのまたは殆どのヒトの癌を含む、潜在的な臨床用途を広範囲に持つことを示していた。
【0090】
第三に、異なるリポ酸誘導体化合物は、たとえば、極性環境及び非極性環境中での溶解性などで幾らか化学的特徴が異なり、それに対応して種々の誘導体が細胞膜を横切り、細胞に入る。さらに、リポ酸誘導体は、リポ酸自体を利用する細胞酵素によって利用速度が異なる。これらの特性を考えると、異なるリポ酸誘導体は幾らか異なる抗癌効力を持つことが解った。幾つかの誘導体は効力が非常に高いが、他の誘導体の効力はそれよりは低く、それでも有用な効力をもつ。
【0091】
第四に、腫瘍細胞型によって生理学的特性が異なっているので、これらの特性はリポ酸誘導体の接種及び取り込み、並びにこの取り込みの毒性作用の両方に間接的な効果を与える。かくして、癌細胞型によってかなり感受性レベルが異なることが知見された。種々の癌細胞の感受性は、試験した全てのリポ酸誘導体によって死滅した比較的感受性の癌細胞型から、より強力なリポ酸誘導体化合物によってのみ効率的に死滅した比較的耐性の癌細胞型まで及ぶ。
【0092】
これらの効力における違いにもかかわらず、リポ酸誘導体が以下の実施例に記載の共通の特性を共有することは重要である。
【0093】
【表1】

【0094】
表1:本発明の目的であるブロック化リポエート誘導体のファミリーの化合物並びに対照化合物(ジヒドロキシオクタン酸)による死滅化に対する培地中の細胞の応答をまとめたものである。縦には特定の細胞株、その細胞系の由来の組織が示されている。試験した特定の化合物が横に列記されている。それぞれのブロック化リポエート誘導体をその閾値死滅濃度の2〜4倍の濃度で使用した。[これらの濃度は0.15mM(60μg/mlまたは60mg/kg)から2.5mM(800μg/mlまたは800mg/kg)までを変動する。実施例11を参照されたい] ジヒドロキシオクタン酸は、5mM(3200μg/mlまたは3200mg/kg)の濃度以下で試験したが、検出可能な効果は得られなかった。「+」は処理によって細胞が死滅したことを示し、「−」は細胞が死滅しなかったことを示す。「+/−」は、ras腫瘍遺伝子の導入により実験的に形質転換された線維芽細胞の幾つかの特別な場合のみに見られるゆっくりした辺縁応答を示す(実施例10)。
【0095】
実施例9
この実施例は、本発明のリポ酸誘導体が高い特異性で癌細胞を死滅させる証拠を示す。より具体的には、培養細胞系におけるリポ酸誘導体の使用について記載する。この結果は、非癌性の正常(非形質転換)細胞が明らかに影響を受けない条件下で、リポエート誘導体が効率的に癌(形質転換)細胞を死滅させたことを示している。実施例8の表1にまとめられたデータは、以下の方法を使用して作成した。
【0096】
第一に、試験すべきそれぞれの細胞型を、標準6×24ウェル組織培養プレートのウェルに低密度でプレート化した。(それぞれの細胞型に関して複数のウェルにプレート化した。)
第二に、細胞を中程度の密度まで成長させた。形質転換細胞を接触させ、非-形質転換細胞はこれらの条件下で接触阻止した。
【0097】
第三に、試験すべきリポエート誘導体をそれぞれのウェルに添加した。これらの実験において、それぞれの化合物を癌細胞に関して死滅閾値濃度の2〜4倍の濃度で添加した(実施例11)。
【0098】
第四に、次の数日間にわたって細胞をモニターした。
試験した全てのブロック化リポエート誘導体に関して、どの感受性癌細胞型も効率的に死滅したが、試験した四つの異なる正常の、非癌性細胞型のどれにも影響を与えなかった。
【0099】
図1は、多くの腫瘍細胞型を選択的に死滅させるリポ酸誘導体を使用する実験結果を示す。
実施例10
この実施例では、本発明のリポ酸誘導体を試験するために、十分に発現させた培地細胞系、NIH-3T3を使用した。NIH-3T3細胞は比較的正常の、非癌性細胞である。しかし、ras腫瘍遺伝子の活性化対立遺伝子をこれらの細胞に導入すると、幾つかのアッセイにより評価されるようにこれらは非常に悪性(癌性)になった(参照文献)。
【0100】
実施例9に記載の方法を使用して、これらの細胞のras-形質転換T24誘導体及び親NIH3T3細胞のリポ酸誘導体に対する感受性を比較した。より強力なブロック化リポエート誘導体(実施例8、表1参照)は形質転換細胞を非常に効率的に死滅させたが、非-形質転換親細胞は影響を受けないままであったことが知見された。結果を図2に示す。
【0101】
このようにこれらの結果は、ブロック化リポエート誘導体が高い特異性で癌細胞を死滅させるさらなる証拠を提供する。
実施例11
この実施例では、本発明のリポ酸誘導体により共有される特性の幾つかを再考する。
【0102】
第一に、どの化合物も、比較的狭い、特定の濃度範囲以上であって、それ未満ではない前記濃度の培地で癌細胞を死滅させた。以下に示される閾値濃度は、おおよそ2〜3倍に広がるこの範囲のほぼ中央を表す。この死滅プロフィールは、これらの化合物が1つ以上の細胞プロセスまたは標的に染み込んで死滅させることを示していた。これらの浸透範囲未満では、感受性細胞は生存し、生長した。これらを取り出して再プレートすると、これらの条件下で明らかに無限に生長することが知見された。対照的に、リポ酸薬剤のこれらの特定の濃度範囲より上では、細胞生長は抑制され、細胞が死滅した。これは非常に例外的な用量/応答プロフィールであった。死滅閾値濃度(範囲)は個々の化合物で変動した。これらの死滅閾値濃度の例としては以下のものがある:ビス-ベンゾイルリポエート(実施例3)60mg/リットル(60mg/kg);モノアセチルリポエート(実施例4)100mg/リットル(100mg/kg);ビス-アセチルリポエート(実施例2)600mg/リットル(600mg/kg)等である。
【0103】
第二に、試験したそれぞれのリポ酸誘導体は、処理の最初の12〜24時間の間中、感受性標的細胞で特定のモルフォロジー変化を生み出した。これらの変化としては、あるものは丸くなり、並びに抑制されたサイトキネシスの橋様構造により接合された細胞対の形成が多かった。処理を継続すると、これらの変化の後、細胞は最終的に死ぬ。しかしながら、リポエート誘導体をこの初期暴露の間に除去すると、これらのモルフォロジーは逆転し、細胞は回復した。上記段落の用量/応答プロフィールに関しては、モルフォロジー変化の可逆的誘導、その後の細胞死は非常に特異的である。本発明の目的である化合物の試験した全種類によりこの挙動が見られたということは、実際に、これらの化合物が機能的に明晰な種類であるという非常に強力な証拠であった。
【0104】
実施例12
この実施例は、本発明の目的であるリポ酸誘導体がアポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘発することによって癌細胞を死滅させる証拠を提供する。重要なことに、試験した全ての化合物がこの特性をもっていた。このことは、これらの化合物が同様に機能したという強い付加的証拠を示した(実施例8、9及び11も参照されたい)。実際、これらの化合物は明らかに癌細胞に「自殺」を誘発した。さらに、ネクローシスよりもアポトーシスを誘発することは、これらの化合物を臨床的に使用するために都合のよい特性である。アポトーシス条件下では、癌細胞の「自殺」は辺縁の正常細胞のネクローシスよりもそれほど破壊的ではない。
【0105】
この実施例に記載されている実験を理解するには、この実験で使用する特定のアッセイに関する詳細を再考する必要がある。細胞の核DNAは通常、染色体を作る非常に長い分子中に存在する。これらの非常に長い高分子は非常にまれにしか遊離端を持っていない。対照的に、アポトーシスを誘発した後、細胞は自分自身を破壊し始め、その小さなモノマー成分にDNAを分裂させるその過程で、そのDNAを非常に多くの破片にする。好適な酵素-末端トランスフェラーゼはヌクレオチドをDNA分子の遊離端に付加するであろう。さらに、この酵素は、強い蛍光性基を付加する付加反応用のモノマー(ヌクレオチド)を使用するだろう。かくして、殆ど遊離DNA端を持たない正常細胞の核をターミナルトランスフェラーゼ及び蛍光モノマーに暴露すると、これらの核には殆ど蛍光はつかない。対照的に、アポトーシスを受けている細胞核にこれらの化合物を加え、非常に多くの蛍光性モノマーを存在する非常に多くのDNA端に添加すると、大量の蛍光が誘発される。これらの特性に基づく慣用のアッセイは頭文字をとってTUNEL(ツネル)という。
【0106】
本発明の目的であるリポエート誘導体がアポトーシスを誘導することを示す実験例を以下に示す。HeLa癌細胞を組織培地皿の幾つかのウェルにプレートした。幾つかのウェル(実験用)を死滅閾値濃度よりも約2倍高い濃度(実施例11)でビス-ベンゾイルリポエート誘導体(実施例3)で処理し、他のウェル(対照)は未処理のままにした。約20時間後、処理(実験用)細胞は死に始めた。実験細胞及び対照細胞を固定し、浸透させてターミナルトランスフェラーゼと蛍光性モノマー(ヌクレオチド)に暴露した。このアッセイは、アッセイの時に死滅する癌細胞のサブセットがアポトーシスを受ける細胞に関して予想されたTUNEL蛍光シグナルを示すことを実証する。このことは、本発明の目的であるリポ酸化合物の試験した全てのものが癌細胞にアポトーシスを誘発したことを示す。
【0107】
上記実験の結果を図3に示す。
実施例13
このセクションでは、本発明のリポ酸誘導体のマウスにおける毒性について検査する。新規抗癌剤の実際の臨床的有用性を評価するのに重要な点は、使用するヒト及び動物におけるその毒性である。非常に有用であるためには、そのような薬剤は、癌細胞を十分に死滅または抑制するような条件下でヒトまたは動物宿主に対して比較的無害でなければならない。ブロック化リポエート誘導体のファミリーは、以下の知見によって示されるように、この望ましい本質的な特性を示す。
【0108】
十分に高い用量で与えれば、自然発生の生物起源の分子でさえも毒性であることは長年知られていることである。リポ酸も例外ではない。十分量でもマウスを殺すだろう。この死滅作用を非特異的毒性(nonspecific toxicity)ということとする。本出願の新規種類の試験化合物は、通常のリポ酸よりも非特異的毒性が低かった。さらに、細胞培地で腫瘍に対して高い効力を持つこの試験化合物は、最も非特異的毒性が低い。
【0109】
結果として、この種の化合物のより効力のある化合物は、動物に対して認識可能な毒性を与えずに、培地細胞系で腫瘍細胞を死滅させるのに十分であると予想された量よりも何倍も多い量で動物に注射することができる。
【0110】
総合的に、これらの結果は、この種の薬剤は、有意な副作用を与えることなく、腫瘍を治療するのに必要な量以上の用量でマウス及びヒトに投与することが可能なことを示している。
【0111】
これらの研究の詳細は以下の通りである。
第一に、リポ酸自体(D、Lラセミ混合物)のマウスに於けるLD-50は、約100mg/体重kgである。(このセクションで記載する全ての研究は、C57/BLマウスに腹腔内(IP)注射により実施した)
第二に、ビス-アシルリポ酸誘導体における非特異的毒性は、約500mg/kgのLD-50で知見され、最大耐量(maximum well-tolerated dose)は約200mg/kgであった。これは通常のリポエートよりもかなり非特異的毒性が低い。試験したこのリポ酸及び他のリポエート化合物の非特異的毒性は急性であり、IP注射の数分以内に動物は死亡した。かくして、培地で処理した癌細胞で数日内に起きる細胞死とブロック化リポエート誘導体とは関係ないようである(実施例8〜12参照)。
【0112】
第三に、ビス-ベンジルリポ酸誘導体のLD-50は、約1000mg/体重kgであり、最大耐量は約500mg/kgであった。この値は、ビス-アセチルリポエート(上記)の毒性よりもかなり低く、通常のリポエートよりもずっと低かった。
【0113】
第四に、これらの結果を元にして以下の計算を実施した:全動物質量の約70%が水であった。これを以下のように分配した。成人質量の約50%は細胞内の水であり、全質量の約15%が非-血液細胞内体液(通常、「間質性体液」と称される)であり、全質量の約5%が血液であった。これによって以下の投影結果が導かれる。このビス-ベンジル誘導体約500mg/kgをマウス腹腔に注射した。この物質は非常に迅速に血中に摂取される。細胞培地におけるビス-ベンジル誘導体の有効量は60ug/mlまたは60mg/kgであった(実施例8及び11参照)。このIP注射により血液と平衡になって、10,000mg/kgという過度な濃度、即ち血中でこの薬剤の有効濃度の約167倍になると予想された。さらに、この体液中で2500mg/kgの濃度即ち約42倍の有効濃度の間質液と平衡になると予測された。次いでこれは体液全体と平衡になって、体液全体で715mg/kg即ち有効量の約12倍になった。
【0114】
つまり、これらの結果は二つの重要な意味を持っている。第一に、これらの結果から、動物の癌細胞を死滅させるのに十分であり他には影響を与えないと予測された、ビス-ベンゾイルリポエートを含む、より強力種の薬剤によって、有効濃度が得られることを示している。低い非特異的毒性と腫瘍細胞に対する高い特異的毒性の組合せは際立っており、この種の薬剤が臨床的に非常に重要であることを示した。第二に、リポ酸誘導体ファミリーのビス-アセチル及びビス-ベンゾイル種の相対的特性がこの点を例証した。いずれの誘導体も通常のリポエートが持たない特異的な抗-癌活性をもち、同時に低いレベルの非特異的毒性を持っていた。さらに、同様の関係が以下のようにブロック化リポエート誘導体でも見られた。ビス-ベンゾイルリポエートは、ビス-アセチル誘導体よりも低い非特異的毒性と非常に高い抗-癌作用を同時に持っていた。この同様の結果は、抗-癌活性及び非特異的毒性が関係なく変化することをはっきりと示していた。
【0115】
実施例14
上記の発見は、本発明の目的である新規種の化合物を使用して治療するときにヒトまたは動物に悪影響を与えることなく癌細胞を死滅させることができることを示している(特に、実施例8及び13参照)。この実施例では、マウスに於ける研究結果がこの予測を裏付けている。関連する結果は以下の通りである。
【0116】
B-16メラノーマ株を、C57/BL同系マウス株(7)のそれぞれに皮下または腹腔内に導入した。未処理のまま放置すると、マウスには注射したすぐ隣に大きな腫瘍ができ、肝臓及び肺を含む、体内全域に二次転移が見られた。これらの悪性腫瘍により動物は若死にした。さらに悪性腫瘍は黒く色づいた悪性メラニン形成細胞からできており、これらの評価が便利で非常に信頼性があることが判明した。本出願人は以後、これを「B-16系」と呼ぶこととする。
【0117】
「B-16系」を使用し、本出願人はビス-ベンゾイルリポエートとビス-アセチルリポエートを使用して、本発明の目的である新規種化合物が先の実施例で記載した発見に基づいて予測される抗-癌効能をもつことを例証した。関連結果は以下の通りである。
【0118】
第一に、マウスの一群にB-16細胞をIP注射した。注射した群を無作為に二つの等しいサブセットに分割した。一方のサブセット(実験用)には10%エタノール200μl中に本化合物種のビス-ベンゾイルリポエート100mg/kgを1日2回IP注射した。「ビス-ベンゾイルリポエートの記載に関しては実施例3、8及び11を参照されたい」第二のセット(対照)には、10%エタノール200μlのみを注射した。
【0119】
16日後、好適により、解剖することによって動物を調査した。対照動物には多くの、大きなIP腫瘍があった。対照的に、対応する実験動物では実質的に少ない腫瘍数及び大きさであり、対照サンプルよりも30〜50%も小さかった。
【0120】
第二に、動物の一群にB-16細胞を皮下注射した。6〜8日後には、最初に細胞を注射した部位に大きな、丸い触知できる腫瘍(直径約3〜5mm)が知見された。この時点で動物の一群(実験用)には、ビス-アセチルリポエート誘導体(等張塩水100μl中100mg/kg)を一日2回注射し始め、第二の群(対照)には等張塩水溶液のみを注射した。[ビス-アセチルリポエート誘導体の詳細に関しては、実施例2、8及び11を参照されたい]実験動物では、本出願人は、腫瘍の塊が触知できる位柔らかく且つ明らかに一部が液化していて、その後大きさが安定するか小さくなったことを共通して知見したが、対照ではこのことは知見できなかった。このことは、ビス-アセチル誘導体がこれらの条件下で腫瘍に顕著な細胞死をもたらしたことを示している。
【0121】
第三に、上記段落と同様に、数匹の動物で皮下腫瘍を形成させた。腫瘍が可視的な、触知できる大きさに生長した後、これらの動物にビス-ベンゾイルリポエート50mg/kgを1日2回IP(全身)用量並びに腫瘍の塊に直接同一容量の第二の用量を一日2回直接注射を実施した。これらの動物は明らかに強い応答を示し、あるケースにおいては腫瘍の塊が劇的に縮んで、治療するうちに殆どまたは全く消えてしまったものもあった。
【0122】
つまり、これらの結果は、ビス-ベンゾイルリポエート及びビス-アセチルリポエート誘導体が無傷動物(intact animal)において予測された抗-癌効能及び特異性を持つことをはっきりと示している。これらの結果に基づき、当業者は用量及び用量レジメを調節して、これらの動物の腫瘍を一部または完全に制御及び/または除去することができる。
【0123】
実施例15
本発明の目的であるブロック化リポエート誘導体の作用の考えられるメカニズムは、これらが癌細胞のPDC特異性を阻害して、ミトコンドリア膜の分極化を減らし、その結果、癌細胞でアポトーシスを誘発したのだと思われる。ブロック化リポエート誘導体は、ミトコンドリアエネルギー代謝を阻害するか及び/または他の方法でアポトーシスを誘導する他の薬剤と相乗的に作用すると考えられる。
【0124】
これをジクロロアセテート(以後、DCAと略す)を使用して本実施例で試験した(8)。この化合物はピルベート類似体である。その効果の一つとしてはPDCを競合的阻害すると予測される。予想通り、この化合物はブロック化リポエート誘導体と相乗的に作用することが知見された。関連実験の知見は以下の通りである。
【0125】
HeLa細胞を中濃度でプレートし、マルチ-ウェル組織培養プレート中の一連のウェル中に付着させ、約24時間生長させた。第一のサブセット(対照)のそれぞれのウェルには、ビス-アセチルリポエート、モノ-アセチルリポエートまたはビス-ベンゾイルリポエートを、それぞれ死滅閾値用量の約2倍を加えた(実施例11)。同等の(実験用の)サブセットのウェルには、同じ化合物を、5mMの終濃度になるまでDCAを同時に添加して同一用量を加えた。本出願人は、実験用のサブセットの細胞が、対照のサブセットの細胞よりも約2倍早く死滅したことを知見した。
【0126】
これは顕著な効果であった。処理24時間後、実験群では殆ど全部が死滅したが、対照サブセットでは約48時間までは殆ど全く死滅が知見されなかった。
この実験結果に基づいて、本発明のこれらのリポエート誘導体は他の代謝阻害剤及び/または他の化学療法薬と相乗的に作用して、より効率的に癌細胞を死滅させるようである。実際、本発明の目的の新規化合物は他の薬剤と協力して効果的に臨床適用できるだろう。
【0127】
参照文献
(1)Baggetto,L G.1992年.Deviant energetic metabolism of glycolytic cancer cells. Biochemie 74巻:959〜974頁。
【0128】
(2)Garrett,R H及びGrisham,C M.1995年.Biochemistry、New York:Saunders College Publishing。
(3)Dvorak,H F.1986年.Tumors:wounds that do not heal.Similarities between tumor stroma generation and wound healing.New England Journal of Medicine 315巻:1650〜1659頁。
【0129】
(4)Whalen,G F.1990年.Solid tumors and wounds:transformed cells misunderstood as injured tissue? Lancet 136巻:1489〜1492頁。
(5)Patel,M S及びRoche,T E.1990年.Molecular biology and biochemistry of pyruvate dehydrogenase complexes. FASEB Journal 4:3224〜3233頁。
【0130】
(6)Johnson,L Vら.1980年.Proceedings of the National Academy of Sciences,USA 77巻:990〜994頁。
(7)Filder,I.J.,Gersten,D.M.及びBudman,M.B.1976年.Characterization in vivo及びin vitro of tumor cells selected for resistance to syngeneic lymphocyte-mediated toxicity. Cancer Res.36巻:3160〜3165頁。
【0131】
(8)Stacpole,P.W.,Henderson,G.N.,Yan,Z.,Cornett,R.及びJames,M.O.1998年.Pharmacokinetics, metabolism and toxicology of dichloroacetate. Drug Metabolism Reviews.30巻:499〜539頁。
【0132】
(9)Hill,S.A.,Wilson,S.,Chamber,A.F.1988年.Clonal heterogeneity, experimental metastatic ability, and p21 expression in H-ras-transformed NIH 3T3 cells. J.Nat'l Cancer Inst.80巻:484〜90頁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ酸の誘導体であって、そのリポ酸分子のチオール部分が試薬によって誘導体化されているか、またはパラジウム以外の成分により付加体が形成されているか、もしくは置換されている上記のリポ酸誘導体。
【請求項2】
試薬が金属または金属塩である、請求項1に記載のリポ酸誘導体。
【請求項3】
金属が白金、ニッケル、銀、ロジウム、カドミウム、金またはコバルトより成る群から選ばれる、請求項2に記載のリポ酸誘導体。
【請求項4】
リポ酸のチオール部分および/またはスルフヒドリル部分の一方または両方が、N−エチルマレイミド(NEM)、5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DNTB)、p−クロロメルクリ安息香酸(PCMB)およびエチルクロロホルメート(ECF)を含むスルフヒドリル−反応性試薬によって誘導体化されている、請求項1に記載のリポ酸誘導体。
【請求項5】
リポ酸のチオール部分の一方または両方がセレンまたはヒドロキシル基で置換されている、請求項1に記載のリポ酸誘導体。
【請求項6】
リポ酸のチオール部分の一方または両方が硫酸基に酸化されている、請求項1に記載のリポ酸誘導体。
【請求項7】
式:
【化1】

(式中、
xは0〜16であり;
およびRは、独立に、水素;アシル基(CH2)nC-O-;アルキル基CnH2n+1;アルケン基CmH2m;アルキン基CmH2m-2;芳香族基;ジスルフィドアルキル基CH3CHt-S-S-;チオ−カルバミン酸エステル基(CH2)nC=NH-;およびセミチオアセタール基CH3CH(OH)-S-であり;
nは1〜10であり;
mは2〜10であり、そして
tは0〜9である。)
を含む組成物。
【請求項8】
式:
【化2】

(式中、
xは0〜16であり;そして
Rは共有結合、金属キレートまたは他の金属錯体であり、ここで該金属はパラジウムではない。)
を含む組成物。
【請求項9】
およびRがアセチル基である請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
およびRがベンゾイル基である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
アルケン基がプロピレン基、2,3−ジメチル−2−ブテン基およびヘプテン基より成る群から選ばれる、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
アルキン基がアセチレン基、プロピン基およびオクチン基より成る群から選ばれる、請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
芳香族基がベンゼン基またはベンゼン誘導体基である、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
アルキル基がシクロプロパン基である、請求項7に記載の組成物。
【請求項15】
アルケン基がシクロペンテン基である、請求項7に記載の組成物。
【請求項16】
請求項7〜15のいずれかに記載の組成物および薬剤学上許容できるキャリアーを含んで成る医薬組成物。
【請求項17】
第二の試薬をさらに含んでいる、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
第二試薬がジクロロアセテートである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
リポ酸誘導体および薬剤学上許容できるキャリアーを含んで成る医薬組成物。
【請求項20】
リポ酸誘導体がリポ酸−金属錯体であり、ここで金属はパラジウムではない、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
リポ酸−金属錯体が溶液の形で10μM以上の濃度を得るのに十分な治療上有効な量で与えられている、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
金属が白金、ニッケル、銀、ロジウム、カドミウム、金またはコバルトより成る群から選ばれる、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
リポ酸のチオール部分の一方または両方が硫酸基に酸化されている、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項24】
疾患細胞をその中のPDCを特異的に阻害する有効量の試薬と接触させることによる該疾患細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項25】
疾患細胞の増殖抑制が不可逆的である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
試薬がリポ酸誘導体である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
腫瘍細胞を、その腫瘍細胞を殺すのに有効な量のリポ酸誘導体と接触させることをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
疾患細胞中のPDCの機能を特異的に阻害するために、真正細菌、古細菌、真菌、植物、藻類または原虫の寄生体より成る群から選ばれる疾患を含んでいる細胞を接触させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
疾患がリポ酸誘導体に対する感受性によって特徴付けられるものである患者の疾患を治療する方法であって、治療量の式:
【化3】

(式中、
xは0〜16であり;そして
およびRは、独立に、水素;アシル基(CH2)nC-O-;アルキル基CnH2n+1;アルケン基CmH2m;アルキン基CmH2m-2;芳香族基;ジスルフィドアルキル基CH3CHt-S-S-;チオ−カルバミン酸エステル基(CH2)nC=NH-;およびセミチオアセタール基CH3CH(OH)-S-であり;
nは1〜10であり;
mは2〜10であり、そして
tは0〜9である。)
のリポ酸化合物を投与することから成る上記の方法。
【請求項30】
疾患細胞がリポ酸誘導体に対する感受性によって特徴付けられるその疾患を治療する方法であって、治療量の式:
【化4】

(式中、
xは0〜16であり;そして
Rは共有結合、金属キレートまたは金属錯体であり、ここで該金属はパラジウムではない。)
のリポ酸化合物を投与することから成る上記の方法。
【請求項31】
疾患が腫瘍性疾患から成る、請求項29または30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248203(P2010−248203A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−126848(P2010−126848)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2000−578304(P2000−578304)の分割
【原出願日】平成11年10月26日(1999.10.26)
【出願人】(508095256)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】