説明

リミッタ回路

【課題】定格入力電力を大きくし、浮遊インダクタンスを少なくし、動作速度を高速化する。
【解決手段】主線路を構成するマイクロストリップ線路12とアンチパラレル接続の2個のダイオード11A,11Bとの間をλ/2の線路長のリミッタ用線路を構成するマイクロストリップ線路13Aで接続する。また、マイクロストリップ線路12とアンチパラレル接続の2個のダイオード11C,11Dとの間をλ/2の線路長のリミッタ用線路を構成するマイクロストリップ線路13Bで接続する。マイクロストリップ線路13A,13Bのマイクロストリップ線路12への接続点は共通点とする。マイクロストリップ線路13A,13Bのインピーダンスを、マイクロストリップ線路12の特性インピーダンスより高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部回路保護のためにレーダ装置等に組み込まれるリミッタ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置においては、レーダ送信器から送信されるレーダパルスの漏洩送信信号や近距離の目標から反射される受信信号等の過大なレベルの不要波高周波信号がレーダ受信器の内部回路に印加されないように、リミッタ回路が、レーダアンテナとレーダ受信器との間に組み込まれている。
【0003】
このリミッタ回路としては、PINダイオードやショットキーバリアダイオード等が使用される。図3は従来の表面実装型のリミッタ回路を示す回路図であり、21はPINダイオード、22A,22Bは主線路を構成するマイクロストリップ線路、23はDCリターン線路、24は入力端子、25は出力端子である。マイクロストリップ線路22A,22Bは、裏面全面に接地導体が設けられた誘電体基板(図示せず)の表面に形成されており、PINダイオード21やDCリターン線路23は、一端がこのマイクロストリップ線路22に接続され、他端がビアホール(図示せず)を介して裏面の接地導体に接続されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このリミッタ回路では、PINダイオード21の電圧−電流特性が図4に示す特性の場合には、入力端子24に入力する高周波信号の電圧がVφ未満の場合は、そのPINダイオード21はオフ状態にあり、DCリターン線路23はその高周波信号に対しては高インピーダンスを呈する。よって、入力端子24に入力された高周波信号はほとんど減衰されることなく、マイクロストリップ線路22を伝搬して、出力端子25に現れる。
【0005】
一方、入力端子24に入力する高周波信号の電圧がVφを超える場合は、そのPINダイオード21がオン状態となって、入力電圧による電流がそのPINダイオード21を経由して接地に流れ、出力端子25側に接続されているLNA(低ノイズ増幅器)等の内部回路(図示せず)保護する。
【0006】
このときのメカニズムは、PINダイオード21がオンするとDC電流が流れ出し、さらに時間の経過とともに、DC電流の値が増大し、これに比例してPINダイオード21の内部抵抗Rが低下し、図5に示すように、その後一定値に近づく。このようにPINダイオード21の内部抵抗Rが低下すると、高周波電力はそのPINダイオード21を介して接地導体に分配され、出力端子25には僅かなレベルの高周波信号しか出力されなくなる。つまり、リミットがかかることになる。図6はこのリミット回路の特性図であり、入力する高周波信号のレベルがL1〜の範囲でリミットがかかることになる。L2が高いほど好ましいリミット特性となる。DCリターン線路23は、PINダイオード21にDC電流を流すために接続される。このようにして、PINダイオード21はオン状態を続けてDC電流が流れ、内部抵抗が小さくなる。
【0007】
なお、PINダイオード21は、図7に示すように、アノードをマイクロストリップ線路22側に接続しカソードを接地側に接続したPINダイオード21Aと、アノードを接地側に接続しカソードをマイクロストリップ線路22側に接続したPINダイオード21Bとに置き換えた、アンチパラレル(逆並列)接続構造とすることも行われる(例えば、非特許文献1参照)。この場合は、DCリターン線路23は不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−318264号公報の図6
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「リミッターと送受切り替え器」、Joseph F.White著、鴻巣己之助訳、マイクロ波半導体応用工学、208頁、CQ出版(株)、昭和60年12月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、高周波領域で使用するPINダイオードとしては、その浮遊容量成分を小さくする必要があり、このためには、接合面積を小さくする必要がある。つまり、PINダイオードの小型化が必要となる。しかし、このように小型化すると、反面において、熱的には脆弱となる。PINダイオードでは、順方向電流と内部抵抗により熱が発生するが、小型になるほど放熱が困難になり、定格入力電力を大きくすることができない。
【0011】
また、PINダイオードの小型化には限界があり、必ず浮遊インダクタンスをもつため、その浮遊インダクタンスによって、PINダイオードがオンするまでに動作遅れが生じる。このため、大電力入力直後のエネルギーが、リミッタ回路を通過して内部回路を破壊する恐れがある。
【0012】
本発明の目的は、定格入力電力を大きくでき、浮遊インダクタンスを低減でき、動作速度を高速化したリミッタ回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明のリミッタ回路は、主線路と接地との間にアンチパラレル接続の2個のダイオードを接続したリミッタ回路において、前記主線路と前記2個のダイオードとの間に、λ/2の線路長(λ:リミッタ動作周波数の波長)のリミッタ用線路を介在させ、前記2個のダイオードと前記リミッタ用線路との組を、前記主線路に対して、同一箇所又はλ/2の整数倍離れた箇所で、複数組並列接続したことを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のリミッタ回路において、前記リミッタ用線路のインピーダンスを、前記主線路のインピーダンスよりも高くしたことを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載のリミッタ回路において、前記2個のダイオードと前記リミッタ用線路との組を、前記主線路に対して複数組直列接続したことを特徴とする。
請求項4にかかる発明は、請求項1、2又は3に記載のリミッタ回路において、前記主線路および前記リミッタ用線路が、マイクロスストリップ線路、コプレーナ線路、又はグランドコプレーナ線路からなることを特徴とする。
請求項5にかかる発明は、請求項1、2、3又は4に記載のリミッタ回路において、前記2個のダイオードに、1個以上の別のダイオードを並列接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アンチパラレル接続の2個のダイオードとリミッタ用線路との組を、主線路に対して複数組並列接続するので、ダイオードの数が増大し、定格入力電力を大きくできる。また、同様な理由から浮遊インダクタンスを低減でき、動作速度を高速化できる。さらに、リミッタ用線路のインピーダンスを主線路のインピーダンスより大きくすることにより、インピーダンスマッチングを取りやすく、別途マッチング回路を付加する必要が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施例のリミッタ回路の回路図である。
【図2】本発明の第2の実施例のリミッタ回路の回路図である。
【図3】従来のリミッタ回路の回路図である。
【図4】PINダイオードの電圧−電流特性図である。
【図5】PINダイオードのDC電流に対する内部抵抗の特性図である。
【図6】図3のリミッタ回路の動作特性図である。
【図7】従来の別のリミッタ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施例>
図1に本発明の第1の実施例のリミッタ回路を示す。図1において、11A,11B,11C,11DはPINダイオード、12は主線路を構成する特性インピーダンスが50Ωのマイクロストリップ線路、12A,13Bはリミッタ動作周波数信号の波長をλとすると、λ/2の線路長のリミッタ用線路を構成するマイクロストリップ線路、24は入力端子、25は出力端子である。リミッタ用線路のマイクロストリップ線路12A,12Bは主線路のマイクロストリップ線路12よりも高インピーダンスに設定されている。
【0017】
PINダイオード11A,11Bはマイクロストリップ線路13Aの片端と接地との間にアンチパラレル接続されており、PINダイオード11C,11Dはマイクロストリップ線路13Bの片端と接地との間にアンチパラレル接続されている。そして、マイクロストリップ線路13A,13Bの他端は、マイクロストリップ線路12の同一箇所に接続されている。
【0018】
本実施例のリミッタ回路では、PINダイオード11A,11B,11C,11Dの電圧−電流特性が図4に示す特性の場合には、入力端子14に入力する高周波信号の電圧がVφ未満の場合は、それらのPINダイオード11A,11B,11C,11Dはオフ状態にある。よって、入力端子14から入力された高周波信号はほとんど減衰されることなく、マイクロストリップ線路12を伝搬して、出力端子14に現れる。
【0019】
一方、入力端子14に入力する高周波信号の電圧がVφを超える場合は、それらのPINダイオード11A,11B,11C,11Dがオン状態(正極信号の場合は11B,11Dがオン、負極信号の場合は11A,11Cがオン)となって、入力電圧による電流が接地に流れ、出力端子15側に接続されているLNA(低ノイズ増幅器)等の内部回路(図示せず)保護する。
【0020】
すなわち、マイクロストリップ線路12の点P1と、マイクロストリップ線路13A,13Bの先端の点P2,P3とが同電位となるので、PINダイオード11A,11B,11C,11Dがオン状態となることで、点P1が接地に対して短絡状態となり、リミット動作が行われる。
【0021】
このように、本実施例は、アンチパラレル接続のPINダイオードを2組、つまり4個使用するものである。このため、図7で説明したリミッタ回路に比べて、定格入力電力が2倍に向上する。また、浮遊インダクタンスが1/2に小さくなる。また、マイクロストリップ線路13A,13Bが高インピーダンスに設定されるので、リミット非動作時のインピーダンスマッチングが容易となり、あるいはマッチング回路を付加させる必要がなくなる。また、このマイクロストリップ線路13A,13Bでの信号遅れは、PINダイオードの浮遊インダクタンスによる遅れよも十分小さく、しかも浮遊インダクタンスは小さくなるので、全体的にリミッタの動作速度が向上する。
【0022】
<第2の実施例>
図2に本発明の第2の実施例のリミッタ回路を示す。本実施例は、点P2の側に、高インピーダンスで線路長がλ/2のマイクロストリップ線路13Cとアンチパラレル接続のPINダイオード11E,11Fとを追加接続し、点P3の側に、高インピーダンスで線路長がλ/2のマイクロストリップ線路13Dとアンチパラレル接続のPINダイオード11G,11Hとを追加接続したものである。点P1,P2,P3,P4,P5は同電位となる。本実施例は、マイクロストリップ線路13A〜13Dとアンチパラレル接続の4組のPINダイオード11A〜11Hがリミッタ回路を構成するので、定格入力電力が4倍になり、あるいは1/4に小型化でき、浮遊インダクタンスが1/4となる。また、リミッタ用線路のマイクロストリップ線路の線路長がλに長くなるので、インピーダンスマッチングがより容易となる。
【0023】
<第3の実施例>
なお、以上の実施例ではアンチパラレル接続のPINダイオードは2個のダイオードを逆並列接続して構成したが、3個以上としてもよく、その数が多いほど効果的である。ただ、奇数個の場合は一方の極性のダイオードの数が増す場合がある。また、リミッタ用のマイクロストリップ線路13A,13Bの主線路のマイクロストリップ線路12に接続する箇所は、同一箇所に限られるものではなく、λ/2の整数倍離れた箇所であってもよい。また、PINダイオードはこれに限られず、ショットキーバリアダイオードその他のダイオードであってもよい。また、マイクロストリップ線路はこれに限られることはなく、誘電体基板の片面に信号線路を配置し同じ面のその両側に接地線路を配置したコプレーナ線路、又はコプレーナ線路の裏面全面に接地導体を配置したグランドコプレーナ線路等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、レーダ装置のリミッタ回路として有用である。
【符号の説明】
【0025】
11A〜11H:PINダイオード
12:主線路を構成するマイクロストリップ線路
13A〜13D:リミッタ用線路を構成するマイクロストリップ線路
14:入力端子
15:出力端子
21,21A,21B:PINダイオード
22,22A,22B:主線路のマイクロストリップ線路
23:DCリターン線路
24:入力端子
25:出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主線路と接地との間にアンチパラレル接続の2個のダイオードを接続したリミッタ回路において、
前記主線路と前記2個のダイオードとの間に、λ/2の線路長(λ:リミッタ動作周波数の波長)のリミッタ用線路を介在させ、前記2個のダイオードと前記リミッタ用線路との組を、前記主線路に対して、同一箇所又はλ/2の整数倍離れた箇所で、複数組並列接続したことを特徴とするリミッタ回路。
【請求項2】
請求項1に記載のリミッタ回路において、
前記リミッタ用線路のインピーダンスを、前記主線路のインピーダンスよりも高くしたことを特徴とするリミッタ回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリミッタ回路において、
前記2個のダイオードと前記リミッタ用線路との組を、前記主線路に対して複数組直列接続したことを特徴とするリミッタ回路。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のリミッタ回路において、
前記主線路および前記リミッタ用線路が、マイクロスストリップ線路、コプレーナ線路、又はグランドコプレーナ線路からなることを特徴とするリミッタ回路。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載のリミッタ回路において、
前記2個のダイオードに、1個以上の別のダイオードを並列接続したことを特徴とするリミッタ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−146867(P2011−146867A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5175(P2010−5175)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発における委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】