説明

リムーバブル記録媒体

【課題】
筐体で生じる静電気を蓄積できる程の金属導体を内部に有する構造のリムーバブル記録媒体において、帯電した静電気を容易に除去可能とするリムーバブル記録媒体を提供する。
【解決手段】
絶縁部材で構成された筐体内部に金属製外装の記録媒体を収納したリムーバブル記録媒体において、前記筐体を構成する絶縁部材の静電気緩和時間が次の条件を満足するように設定する。
0.005秒<τ<1秒

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の筐体内部に記録媒体を内蔵するリムーバブル記録媒体に係わり、特に、リムーバブル記録媒体の筐体に生じる静電気を簡単に除去可能とする筐体技術に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の筐体内部に記録媒体を内蔵して着脱可能にした記録媒体構成体(以下、便宜上「リムーバブル記録媒体」と称する)として、従来、カートリッジタイプの光磁気ディスク,リムーバルHDD(Hard Disk Drive)やメモリカードなどが知られている。
【0003】
近年、リムーバブルHDDの一つとして、著作権保護技術SAFIA(Security Architecture For Intelligent Attachment device)に準拠したカートリッジリタイプのリムーバブルHDDであるiVDR(Information Versatile Disk for Removable usage)が提案され、2007年4月からiVDRおよびこれを用いる記録再生装置(録画再生装置ともいう)が市販されている。カートリッジリタイプのiVDR(以下、単に「iVDR」という)は、樹脂製の筐体(カートリッジ)に金属製外装のHDDが内蔵されたものである。
【0004】
iVDRは、従来のリムーバブル記録媒体(例えばカートリッジタイプの光磁気ディスク,リムーバブルHDDやメモリカードなど)と同様に、静電気を帯びる場合がある。帯電したリムーバブル記録媒体を記録再生装置に挿入すると、リムーバブル記録媒体と記録再生装置との間で静電気の放電が生じ、該放電により、記録再生装置の誤動作や記録再生装置内の半導体やICなどの電子部品の破壊が懸念される。また、リムーバブル記録媒体に収納される記録媒体(電子部品も含む)の損傷も懸念される。
【0005】
静電気による記録再生装置の誤動作などを防止する技術としては、例えば、リムーバブル記録媒体を収納するトレイの開閉蓋にリムーバブル記録媒体の静電気を除去する除電手段を備える技術が知られている(例えば、特許文献1乃至2参照)。
【0006】
また、リムーバブル記録媒体に収納される記録媒体の破壊を防止する技術としては、例えば、記録再生装置との接続に用いるコネクタとは別に放電用金属端子を備える技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
特許文献1乃至2は、カートリッジタイプの光磁気ディスクに係わる静電気除去技術であり、記録再生装置の光磁気ディスクを収納するトレイの開閉蓋に除電手段(例えば、除電ブラシや金属接触片など)を備え、記録再生装置に光磁気ディスクを挿入する際、前記除電手段で光磁気ディスクのカートリッジが有する金属製のカバーを摺動し、金属製カバーに帯電した静電気を除去する技術を開示する。
【0008】
また特許文献3は、リムーバルHDDに係わる静電気除去技術であり、記録再生装置との接続に用いるコネクタとは別に、一方が筐体に接続された放電用金属端子を備え、この放電用金属端子の他方端は、コネクタを構成する電極端子の先端位置に較べ突出していることを開示する。
【0009】
【特許文献1】特開平2−227868号公報
【特許文献2】第2728747号
【特許文献3】特開2003−317873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2に記載の技術では、光磁気ディスク側コネクタが記録再生装置側コネクタに挿入される前に、静電気を放電させることができるので、誤動作や電子部品の破壊を防ぐことができる。この静電気除去技術は、一部に金属製カバーを有する樹脂で被覆されたその他のリムーバブル記録媒体、例えばメモリカードなどにも適用されている。
【0011】
一方、特許文献3に記載の技術では、リムーバルHDDを記録再生装置に挿入する際、リムーバルHDDのコネクタが記録再生装置のコネクタに接続される前に、放電用金属端子が記録再生装置側の接地された放電用の金属端子に接触する。これにより、リムーバルHDDの筐体の静電気が記録再生装置に移動し、コネクタ接続時の記録媒体の破壊を防止することが可能となる。
【0012】
ところで、iVDRは、金属製外装のHDDを絶縁部材の筐体(カートリッジ)で挟持した構成(詳細は実施の形態で後述)である。このため、iVDRにおいては、カートリッジ(筐体)に生じた静電気は、上記した光磁気ディスクやメモリカードとは異なり、iVDRのカートリッジ(筐体)と記録再生装置との間では放電し難いことに、本発明者らは気付いた。すなわち、筐体(カートリッジ)に生じた静電気は、金属製外装に対して静電誘導により逆極性の静電荷を生じさせ、その結果、カートリッジの静電気と同極性の静電荷が、金属製外装に電気的に接続された基板のグランドを介して、iVDRに備えられた記録再生装置と接続するためのコネクタを通して記録再生装置側に印加されることが判明した(詳細は実施の形態で後述)。これにより、記録再生装置の誤動作や半導体やICなどの電子部品の劣化・破壊が懸念される。
【0013】
iVDRにおける上記懸念の改善策として、先ず、特許文献1乃至2に記載の除電手段を用いることが考えられる。しかし、静電気がコネクタを介して記録再生装置に移動するので、その効果が期待できない。
【0014】
次に、iVDRに特許文献3に記載された放電用の金属端子を適用すること、つまり、一方端をHDDの金属外装に接続した放電用の金属端子を用いることが考えられる。しかし、iVDRでは、互換性を持たせるために、規格でカートリッジ(筐体)形状が規定されており、コネクタ以外の端子を持たせることができない。
【0015】
この課題は、iVDRに限定されるものではない。筐体上の静電気によって誘導電荷が生じる程の十分大きな金属導体を内部に有する構造の記録媒体構成体であれば、同じ課題に直面することになる。
【0016】
本発明は上記した課題に鑑みてなされたもので、その目的は、絶縁部材で構成された筐体内部に金属製外装の記録媒体が収納されたリムーバブル記録媒体において、帯電した静電気が容易に除去可能とされるリムーバブル記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題点を解決するために、本発明では、絶縁部材で構成された筐体内部に金属製外装の記録媒体を収納したリムーバブル記録媒体において、前記筐体を構成する絶縁部材の静電気緩和時間が次の条件を満足するように設定する。
【0018】
0.005秒<τ<1秒
前記絶縁部材が前記数を満足すれば、前記絶縁部材は電気的には絶縁性を有しながら、前記筐体に生じる静電気に対しては、前記筐体と前記金属製外装との間で短時間での移動を可能とする。
【0019】
このため、例えば特許文献2に記載の除電ブラシを用いて、前記筐体を摺動すれば、帯電した静電気を除電することが可能となる。すなわち、iVDR規格を満足しながら、良好に、記録再生装置およびiVDR自体の静電気による誤動作や電子部品の信頼性低下を抑制することができる。
【0020】
上記条件を満足するために、本発明では、例えば、上記筐体を構成する絶縁部材に、導電性部材が含有させる。また、上記筐体の体積抵抗率を、例えば約1.9×10+9〜1.9×10+10Ω・mに設定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、帯電した静電気を容易に除去可能とするリムーバブル記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の最良の形態について、図を参照して説明する。なお、全図において、共通な機能を有する要素には同一な符号を付して示し、一度説明したものについては、その重複する説明を省略する。また、本発明は、著作権保護技術に係わるものではなく、本実施形態の説明を容易とするために、その記載を省略するものとする。
【0023】
図1は、本実施形態に係わるiVDRの外観を模式的に示した斜視図である。図2は、筐体としてのカートリッジに収納された金属製外装のHDDの外観を側面から見た模式図である。図2の側面図には、HDDがカートリッジ10によって挟持されていることを示すために、カートリッジの外形が点線で示されている。図3は、本実施形態に係わるHDDのブロック構成を模式的に示した図である。
【0024】
まず、図1,図2を用いてiVDRの外観構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、iVDR100は、例えば2.5インチの場合、幅80×高さ12.7×奥行き110(単位:mm)の挿入方向に長い略カード状の筐体としてのカートリッジ10を有している。そして、カートリッジ10の内部には、図2から明らかなように、HDD20が収納されている。カートリッジ10の部材としては、絶縁性を有する樹脂部材が用いられている。本実施形態では、例えばポリカーボネートであるとする。カートリッジ10の挿入方向端面には開口部11が設けられており、この開口部11からコネクタ26が露呈されるようになっている。また、カートリッジ10の側面には、iVDR100を記録再生装置(図示せず)に差し込む際のガイドとされるガイドレール12や、挿入後のiVDRをロックするためのロック機構用溝13が設けられている。
【0026】
カートリッジ10は、表側カートリッジ10aと、裏側カートリッジ10bとからなる。HDD20は、表側カートリッジ10aと裏側カートリッジ10bとの間に装着された後、例えば、裏側カートリッジ10b側から図示しない複数の金属製のネジが表側カートリッジ10aに差し込まれ、ネジ止めされて、表側カートリッジ10aと裏側カートリッジ10bとで挟持される構造とされている。なお、表側カートリッジ10aのコネクタ26側端部の表面には、iVDRの挿入方向を示す挿入方向マーク14が表示されている。また、符号15はラベルを貼るためのラベルエリアを示している。
【0027】
カートリッジ10内に収納されたHDD20は、図2の側面図に示すように、金属製外装を構成する例えばアルミダイキャスト製のフレーム28と、フレーム28を覆う金属製のカバー29とを有する。カバー29は、例えば金属製のネジ291でフレーム28に固定され、全体としてHDD20を被覆する金属製外装を形成している。そして、金属製外装としてのフレーム28とカバー29とで形成される空間内(図示せず)で、スピンドルモータ,磁気ディスク,磁気ヘッド,ヘッドアーム,ボイスコイルモータ(図3で後述)などがフレーム28に搭載され、後述するディスク駆動機構部が構成されている。また、フレーム28のカバー29とは逆側は、挿入方向側に一段低い形状の低部282となっている(なお、挿入方向とは逆側の高い形状の部分をフレーム28の凸部281と称する)。このフレーム28の低部282に、ディスク駆動機構部を駆動する駆動回路(後述する)や記録再生装置とのインターフェース回路(後述する)などが搭載された基板27が部品未搭載面を外側に向けて例えば金属製のネジ(図示せず)で固定されている。
【0028】
なお、基板27をフレーム28に固定するネジの個所は、非レジスト部のグランド(以下、グランドを「GND」と略記する)パターン部とされる。従って、フレーム28およびカバー29は、基板27のGNDに接続されていることになる。また、基板27の開口部11側端部には、コネクタ26が搭載されている。
【0029】
次に、HDDのブロック構成について、図3を用いて説明する。
【0030】
カートリッジ10に収納されたHDD20は、ディスク駆動機構部23と、ディスク駆動機構部23を駆動する駆動回路24と、インターフェース(以下、「I/F」と省略する)回路25と、コネクタ26とを含んでなる。
【0031】
ディスク駆動機構部23は、スピンドルモータ231,磁気ディスク232,磁気ヘッド233,ヘッドアーム234やボイスコイルモータ235などを含んで構成され、磁気ディスク232を回転させると共に、磁気ヘッド233を移動させる機構を有する。駆動回路24は、1/F回路25を介しての記録再生装置(図示せず)からの制御に基づき、ディスク駆動機構部23を駆動して磁気ディスク232の所望位置をアクセスし、データの書き込みや読み出しを行う。I/F回路25は、コネクタ26を介して、記録再生装置と駆動回路24との間でデータの遣り取りを行うインターフェースである。コネクタ26は、データの遣り取りを行うための複数のポート端子,IDを指定するID端子の他に、電源端子や複数のGND端子26gを含んで構成されている。コネクタ26は、駆動回路24やI/F回路25と共に、基板27上に搭載されており、GND端子26gは基板27のGNDパターン27gに接続されている。
【0032】
なお、基板27のGNDパターン27gは、金属製外装を形成するフレーム28およびカバー29に電気的に接続されているので、コネクタ26のGND端子26gもフレーム28およびカバー29に電気的に接続されていることになる。
【0033】
iVDRは、上記のように構成されており、図示しない記録再生装置の制御の基で、磁気ディスクから読み出したデータの送信や、入力されたデータの磁気ディスクへの書き込みを行うことができる。
【0034】
次に、上述した、静電気が主にiVDRに備えられた記録再生装置と接続するためのコネクタ26を介して記録再生装置に印加される理由について、図4を用いて説明する。
【0035】
図4は、カートリッジに静電気が生じた場合の静電気の電荷分布を説明する図である。ここでは、iVDRの挿入方向に沿う断面における電荷分布を概念的に示している。なお、図4において、フレーム28とカバー29とで構成される金属製外装を符号30で示す。
【0036】
本実施形態に係わるiVDR100のカートリッジ10の部材は、例えば樹脂部材のポリカーボネートである。従って、カートリッジ10を例えば化学繊維などで擦ると摩擦で静電気が生じる。便宜上、カートリッジ10がプラス(+)に帯電したものとする。
【0037】
ところで、カートリッジ10の内部に収納されているHDD20は、表側カートリッジ10aと裏側カートリッジ10bで挟持されているため、HDD20のカバー29は、表側カートリッジ10aに接触し、フレーム28の凸部28bは、裏側カートリッジ10bに接触している状態となっている。
【0038】
従って、HDD20の金属製外装30としてのカバー29およびフレーム28のカートリッジ10に対向する面上には、カートリッジ10上の正電荷(+電荷)によって負電荷(−電荷)が静電誘導で誘起される。金属製外装30(カバー29およびフレーム28)は元々電気的に中性(帯電してない)なので、負電荷の誘起に伴い、逆側の面上には正電荷(+電荷)が生じる。カートリッジ10上の正電荷と対を成す金属製外装30(カバー29,フレーム28)上の負電荷は移動できないが、金属製外装30(カバー29,フレーム28)上の正電荷は自由に移動可能であり、負電荷から極力離れようとする。これにより、金属製外装30(カバー29およびフレーム28)に電気的に接続された基板27のGNDパターン27gやコネクタ26のGND端子26gには正電荷(+電荷)が分布することになる。この様子を示したのが図4である。
【0039】
図4に示すように、カートリッジ10の正電荷は、対向する金属製外装30(カバー29およびフレーム28)の負電荷と引き合っている。従って、図4の状態のiVDR100を記録再生装置に挿入する際、例えば、特許文献2の除電ブラシでカートリッジ10表面を摺動して、カートリッジ10の正電荷を放電させようとしても放電し難い。
【0040】
勿論、特許文献3に記載の放電用金属端子をコネクタ26とは別に備え、特許文献3とは異なり、放電用金属端子の一方端を例えばフレームに接続すれば、カートリッジの帯電電荷(正電荷)によって誘起された金属製外装30(フレーム28,ケース29)や基板,コネクタ上の移動可能な正電荷を、前記放電用金属端子を介して放電させることができる。しかし、iVDRでは、互換性を持たせるために、規格でカートリッジ形状が規定されており、コネクタ以外の端子を持たせることができないことになっている。そのため、特許文献3の技術を適用することは困難である。
【0041】
ところで、一般に、接地した導体上に帯電した絶縁部材を置いた場合、静電誘導により導体の絶縁部材側面に逆極性の電荷が生じることはよく知られていることである。一方、絶縁部材の抵抗は無限大ではなく、実際には非常に大きいが有限の値を取る。この場合、絶縁部材が有する所謂漏洩抵抗を介して導体上の電荷が絶縁部材側に移動し、絶縁部材の静電気が中和されることになる。つまり、絶縁部材上の静電気が減衰することになる。この減衰は、周知の数1で与えられる。但し、数1において、Qは静電荷量、Q0は最初に帯電した静電荷量、tは時間、τは静電気緩和時間(以下、「緩和時間」と省略する)と呼ばれる時定数である。
【0042】
【数1】

緩和時間τは数2で示される。但し、数2において、εは誘電率、ρは体積抵抗率である。
【0043】
【数2】

ここで、カートリッジ10の絶縁部材を例えばポリカーボネートとして、上記数2をiVDRに適用してみる。
【0044】
ポリカーボネートの体積抵抗率ρは約10+14Ω・m(10+16Ω・cm)程度で、誘電率εは約2.66x10-11F/m程度なので、τはほぼ2660秒(約44分)程度となる。つまり、44分程度で静電荷量が約1/3になることが分かる。すなわち、ほぼ1時間程度でiVDRのカートリッジに生じた静電気の大部分がなくなり、iVDR内部の金属導体であるフレーム,カバーや基板のGNDパターン(元々電気的に中性)に、帯電電荷と同極性の電荷(ここでは正電荷)が残ることになる。これは、「カートリッジ10上の静電気が内部の導体に移動」したとも言える。以下、説明を容易とするために、この表現を用いるものとする。なお、このときの移動時間は数2で与えられることは、上記した説明から明らかであろう。この意味で、以下、緩和時間τを移動時間と同じ意味で用いるものとする。
【0045】
従って、帯電後時間が経過し、大部分の静電気が内部の導体に移動した状態のiVDRを記録再生装置に挿入する際、例えば、特許文献2の除電ブラシでカートリッジ表面を摺動して、カートリッジ10の正電荷を放電させようとしても、良好に放電することができない。これも、カートリッジ10を除電ブラシで摺動して除電できない理由の一つである。
【0046】
以上述べた課題の解決を検討するなかで、発明者らは、カートリッジにおける静電気の移動時間(すなわち、緩和時間)をiVDRの記録再生装置への挿入時間以下とすれば、例えば特許文献2に記載の除電手段を用いて除電が可能となることを見出した。
【0047】
何らかの原因により、カートリッジ10に生じた静電荷は、iVDR内部の金属導体に対して静電誘導を引き起こす。しかし、カートリッジと内部の金属導体との間の静電気の移動時間を短くすると、短時間にiVDR内部の金属導体に移動するので、静電誘導状態が短時間になくなることになる。この状態で、カートリッジを例えば除電ブラシで摺動すると、iVDR内部の金属導体上の静電気は短時間でカートリッジに移動するので、除電が可能となる。このことは、カートリッジ10が導体で構成されていると仮定すれば、容易に理解できることである。
【0048】
iVDRを記録再生装置に挿入する際、例えば、特許文献2記載の除電ブラシで帯電電荷を除電しようとすれば、iVDRの挿入時間内で除電できなければならない。挿入時間はほぼ1秒以下なので、移動時間(緩和時間)τを1秒以下とすればよいことになる。
【0049】
一方、iVDRを記録再生装置に装着後、コネクタ経由以外に、カートリッジ10を介して、iVDRの収納部である記録再生装置のトレイ(図示せず)とiVDRとの間で電流が流れると、ノイズや不要輻射などの問題が生じる。そこで、カートリッジの漏洩抵抗は少なくとも10MΩ(10+7Ω)とする必要がある。
【0050】
2.5インチのiVDRでカートリッジ10の厚さを1mmと仮定し、表面抵抗を無視して、漏洩抵抗R(100MΩ)から体積抵抗率ρを算出してみる。なお、iVDRの場合、カートリッジと金属製外装とで形成される対向面積が大きいので、カートリッジの表面を介して流れる表面電流の割合は小さく、主に、カートリッジの内部(厚さ:例えば約1mm程度)を通って電流が流れると考えられ、表面抵抗を無視しても大きな誤差は生じないと思われる。
【0051】
カートリッジ10の抵抗Rは、一般に、数3で求められる。但し、dはカートリッジ10の厚さ、Sはカートリッジ10の表面と裏面の合計の面積である。
【0052】
【数3】

この式を変形することにより、約1.9×10+8Ω・m体積抵抗率ρとして約1.8×10+8Ω・mを得る。従って、この時の移動時間(緩和時間)τは、カートリッジの部材を例えばポリカーボネートとすれば、数2より約0.005秒となる。これより、移動時間(緩和時間)τは、少なくとも0.005秒以上とする必要がある。
【0053】
以上のことを纏めると、移動時間(緩和時間)τが数4を満足するようにすれば、例えば特許文献2に記載の除電手段を用いて除電が可能となるといえる。
【0054】
【数4】

しかし、バラツキなどを勘案すると、マージンをとって、移動時間(緩和時間)τは約0.05〜0.5秒程度とするのが好ましいといえる。つまり、次の数を満足することが好ましい。なお、移動時間(緩和時間)0.05秒は抵抗R=100MΩに対応する。
【0055】
【数5】

この時の移動時間τに対応する体積抵抗率ρは、カートリッジの部材をポリカーボネートとすれば、数2より、約1.9×10+9〜1.9×10+10Ω・mとなる。
【0056】
カートリッジ10の絶縁部材における体積抵抗の調整は、絶縁性を有する樹脂基材に粒子状,繊維状の導電性部材(例えば、カーボン繊維や金属繊維)を付与することで可能である。
【0057】
以上述べた本実施形態によれば、iVDRの筐体としてのカートリッジの絶縁部材における静電気緩和時間τを0.005〜1秒とすることにより、iVDRの記録再生装置への挿入の際、例えば、除電ブラシでカートリッジ表面を摺動することで、帯電したiVDRに生じている静電気を除去(除電)することが可能となる。そのために、本実施形態では、上記条件を満足するために、本実施形態では、カートリッジ(筐体)10を構成する絶縁部材に導電性部材が含有させるようにしている。また、上記条件を満足するために、本実施形態では、上記カートリッジ(筐体)10の体積抵抗率を、例えば約1.9×10+9〜1.9×10+10Ω・mに設定している。
【0058】
従って、iVDRに規格化されてない放電用金属端子を備える必要がなく、記録再生装置のトレイにカートリッジ表面摺動による除電手段を設けることができ、iVDR規格を満足しながら、良好に、記録再生装置およびiVDR自体の静電気による誤動作や電子部品の信頼性低下を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、カートリッジは適度な導電性を有するので、除電ブラシでカートリッジ表面を摺動しても、除電ブラシを介して記録再生装置の例えば金属筐体(図示せず)に流れる放電電流は一気に流れないという特徴を有する。従って、除電ブラシと記録再生装置の金属筐体との間に接続される放電電流制限用の抵抗を削除することも可能となる。
【0060】
上記した実施形態では、カートリッジとカートリッジ内に収納されるHDDの金属製外装が接触しているとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば特開2004−139636号公報に記載されているように、カートリッジとカートリッジ内に収納されるHDDとの間に、衝撃を吸収する緩衝材が四隅に設けられているiVDRの場合にも適用できる。特開2004−139636号公報では、緩衝材としてゴム系の部材が用いられている。ゴム系の部材といえども、その体積抵抗率は有限なので、カートリッジ上の帯電電荷は緩衝材を介してHDDに移動する。そして、iVDRを記録再生装置(図示せず)に挿入する際、コネクタを介してiVDRの静電気が記録再生装置に加わり、誤動作を引き起こすことになる。
【0061】
そこで、前記した本実施形態を適用する。この場合、カートリッジ上の帯電電荷は緩衝材を介してHDDに移動するので、緩衝材に対して適度な導電性を持たせる必要がある。カートリッジの静電気緩和時間(移動時間)τは1秒以下0.05秒以上とすることが好ましいので、緩衝材の静電気緩和時間(移動時間)τは、0.05秒以下とすればよい。このようにすれば、緩衝材を有するiVDRにおいても、本実施形態を良好に適用することが可能となる。
【0062】
以上では、リムーバブル記録媒体としてiVDRを用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。筐体で生じる静電気を蓄積できる程の十分大きな金属導体を内部に有する構造の記録媒体構成体であれば、本発明を好適に用いることができることは言うまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態に係わるiVDRの外観を模式的に示した斜視図。
【図2】カートリッジに収納された金属製外装のHDDの外観を側面から見た模式図。
【図3】本実施形態に係わるHDDのブロック構成を模式的に示した図。
【図4】カートリッジに静電気が生じた場合の静電気の電荷分布を説明する図。
【符号の説明】
【0064】
10…カートリッジ、10a…表側カートリッジ、10b…裏側カートリッジ、11…開口部、12…ガイドレール、13…ロック機構用溝、14…挿入方向マーク、20…HDD、23…ディスク駆動機構部、24…駆動回路、25…I/F回路、26…コネクタ、26g…GND端子、27…基板、27g…GNDパターン、28…フレーム、29…カバー、30…金属製外装、100…iVDR、231…スピンドルモータ、232…磁気ディスク、233…磁気ヘッド、234…ヘッドアーム、235…ボイスコイルモータ、281…凸部、282…低部、291…ネジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁部材で構成された筐体の内部に金属製の外装により覆われた記録媒体が収納されたリムーバブル記録媒体において、
前記筐体を構成する絶縁部材の静電気緩和時間τが、次の条件を満足することを特徴とするリムーバブル記録媒体。
0.005秒<τ<1秒
【請求項2】
請求項1に記載のリムーバブル記録媒体であって、
前記絶縁部材は、樹脂基材に粒子状或は繊維状の導電性部材が付与されていることを特徴とするリムーバブル記録媒体。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載のリムーバブル記録媒体であって、
前記リムーバブル記録媒体がカートリッジ型であることを特徴とするリムーバブル記録媒体。
【請求項4】
絶縁部材で構成された筐体の内部に金属製の外装により覆われた記録媒体が収納されたリムーバブル記録媒体において、
前記筐体を構成する絶縁部材に、導電性部材が含有されていることを特徴とするリムーバブル記録媒体。
【請求項5】
絶縁部材で構成された筐体の内部に金属製の外装により覆われた記録媒体が収納されたリムーバブル記録媒体において、
前記筐体の体積抵抗率が、約1.9×10+9〜1.9×10+10Ω・mであることを特徴とするリムーバブル記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−20629(P2009−20629A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181613(P2007−181613)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】