説明

リヨセル繊維

本発明は、真珠粉、粉砕した真珠層、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる材料を含有するリヨセル繊維に関する。本発明の繊維の製造は、−第3級アミンオキシド水溶液中、好ましくは、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)水溶液中にセルロースを含有する紡糸溶液を製造する工程、および−上記紡糸溶液を紡糸して繊維にする工程、を含み、真珠粉、粉砕した真珠層、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる材料を、上記紡糸溶液および上記紡糸溶液の前躯体の少なくとも一方に添加し、混合することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリヨセル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
リヨセル類の繊維は、セルロースを、誘導体を形成することなく、第3級アミンオキシド水溶液に対して、直接、溶解して得られた溶液を紡糸する、溶媒紡糸法により製造される。
【0003】
このような繊維は、“溶媒紡糸"繊維とも呼ばれる。“リヨセル”は、国際化繊協会(BISFA: The International Bureau for the Standardization of Man-made Fibres)によって割り当てられた総称で、セルロースを、誘導体を形成することなく有機溶媒に溶解し、乾湿式紡糸法または溶融ブロー法を用いて、上記有機溶媒から繊維を押し出すことにより製造されるセルロース繊維を指す。
【0004】
上記製造では、有機溶媒は有機化学物質と水の混合物であると解される。現在では、N−メチル−モルフィン−N−オキシド(N-methyl-morpholine-N-oxide、(NMMO))が、有機溶媒として工業的に使用されている。
【0005】
上記プロセスでは、通常、セルロースの溶液を、成形工具を用いて押し出し、成形する。成形した溶液を、エアギャップを通じて沈殿槽に入れ、沈殿させることにより、成形体が得られる。
【0006】
この成形体を、さらなる処理工程を経たのち洗浄し、必要に応じて乾燥する。リヨセル繊維の製造プロセスは、例えば、特許文献1に開示されている。リヨセル繊維は、引っ張り強度、湿度係数、および、ループ強度が高い点に特徴がある。
【0007】
セルロース系繊維やリヨセル繊維を、種々の添加物と組み合わせて統合して修飾することは、よく知られている。
【0008】
上記修飾に関連して、特許文献2では、海産植物、あるいは海洋動物の殻を材料として含有するリヨセル繊維を開示している。海洋動物としては、特に、二枚貝があげられる。しかしながら、二枚貝の貝殻の外側、つまり水と接触する側には、あらゆる汚染物質が沈着している。
【0009】
特許文献3は、真珠粉を含有するビスコース繊維を開示している。
【0010】
また、特許文献4も、真珠粉を含有する繊維を開示している。しかしながら、後者で開示されている繊維は、非セルロース系合成繊維である。
【0011】
真珠粉(すなわち、粉砕した真珠)は、健康・美容を促進するものとして、古くより漢方医学においてよく知られており、そのため、化粧品として利用されている。上記真珠粉の材料は、主にCaCO3とタンパク質からなる。
【0012】
ビスコース繊維、特に非セルロース系合成繊維の製造プロセスは、リヨセル繊維の製造プロセスと著しく異なる。特に、ビスコース繊維の製造プロセスでは、紡糸溶液の製造において、環境に有害な種々の物質を使用しなければならない。
【0013】
さらに、これらの繊維タイプの製造プロセスは、真珠粉の成分に有害な条件で実行されるため、歩留まりの減少や製品特性の悪化をもたらす。真珠粉を非セルロース系合成繊維に合わせると、真珠粉の生物学的利用率が低下する。上記低下は、上記繊維の疎水性によって、真珠粉が繊維内に包み込まれ、真珠粉と周囲との間の物質交換が制限されることによる。
【0014】
一方、ビスコース繊維の製造プロセスにおいては、H2SO4を含む酸沈殿槽での繊維の沈殿は、真珠粉に含有されているCaCO3に対してダメージを与える。何れの場合でも、CaCO3が部分的に溶解し、CaSO4として部分的に沈殿することは明らかである。
【0015】
さらに、種々のタイプの各繊維の特性は、互いに著しく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4,246,221号公報(1981年1月20日登録)
【特許文献2】欧州特許第1259564号公報(2004年12月1日登録)
【特許文献3】中国出願公開公報第1772980号(2006年5月17日公開)
【特許文献4】中国出願公開公報第1450212号(2003年10月22日公開)
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】http://de.wikipedia.org/wiki/Perle
【非特許文献2】http://de.wikipedia.org/wiki/perlmutt
【非特許文献3】http://www.karipearl.com/medicine.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、純度の高い真珠材料が高い生物学的利用率にて内部に存在する繊維を提供し、真珠材料を可能な限り保存する方法にて製造され得る上記繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的は、真珠粉、粉砕した真珠層、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる材料を含有するリヨセル繊維により達成される。
【0020】
このように、本発明の繊維は、真珠または真珠層の高純度材料を含有する。真珠層および真珠は、軟体部に対向する、殻下層(hypostracum、真珠層)と呼ばれる最内層のみから得られる。殻下層の95%は、500nmの厚さを有し、アラゴナイトの結晶形態を呈する、炭酸カルシウムの疑似六方板状からなる。この疑似六方板状は、タンパク質とキチンの有機マトリクス内に包接されている。
【0021】
真珠は、基本的に、その80〜95%がアラゴナイトの結晶形態を呈するCaCO3である真珠層からなり、最終的には少量の方解石を含有する(非特許文献1、非特許文献2)。真珠は、結果として、二枚貝(貝殻)の内部で形成されるため、二枚貝の貝殻全体とは対照的に、環境からの有害な影響から保護されて成長するので、汚染物質類を含有しない。
【0022】
真珠または真珠層の材料は、繊維重量に対して、0.07重量%以上、5重量%以下、含有されることが好ましい。
【0023】
真珠または真珠層の材料は超微粉であることが特に好ましく、その平均粒径は0.04μm以上、1.5μm以下、好ましくは0.4μm以上、1.0μm以下である。このような粉末は、“ナノ真珠粉”の名称で市販品が利用でき、あるいは、真珠および/または真珠層の適切な粉砕により製造可能である。
【0024】
広く知られているように、リヨセル繊維の製造プロセスは、ビスコース繊維の製造方法とは対照的に、事前の誘導体化を前提としておらず、かつ環境に負荷をかけずに実行できる。
【0025】
従って、本発明のリヨセル繊維の製造方法は、
−第3級アミンオキシド水溶液中、好ましくは、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)の水溶液中にセルロースを含有する紡糸溶液を製造する工程、および、
−上記紡糸溶液を紡糸して繊維にする工程を周知の工程として含み、
真珠粉、粉砕した真珠層、およびこれらの混合物からなる群から選ばれた材料を、上記紡糸溶液および上記紡糸溶液の前躯体の少なくとも一方に対し、添加し、混合することを特徴としている。
【0026】
紡糸溶液の“前駆体”としての、上記紡糸溶液の製造における出発物質および中間体は、以下のものと解される。
−出発セルロース物質として、例えば、パルプ、
−使用溶媒(第3級アミンオキシド水溶液、以下、適する全てのアミンオキシドの略称として、“NMMO"を使用する)
−出発セルロース物質とNMMO溶媒の混合物、特に、NMMO水溶液中にセルロースを含有した、上記紡糸溶液の作製を開始可能な懸濁液。
【0027】
真珠および真珠層の少なくとも一方の材料を、セルロース重量に対して、0.1重量%以上、5重量%以下、添加し、混合することが好ましい。歩留まり損失は、5%〜30%観察され、一般的には、約10%しか観察されない。
【0028】
上記材料は、粉末の形態で使用されることが好ましい。上記材料の平均粒径は、0.04μm以上、1.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以上、1.0μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
上記粉末を、上記懸濁液または上記懸濁液の上記前駆体に対して、添加し、混合する前に、水性懸濁液の形態にしておくことが好ましい。その後、上記水性懸濁液は、上記懸濁液に添加され、混合される。
【0030】
本発明は、さらに、織物製品および不織化粧用品の少なくとも一方における、美容効果のある製品としての、本発明のリヨセル繊維の利用方法に関する。
【0031】
真珠粉は、肌を柔らかくし、皮膚細胞を再生させ、メラニン合成を阻害することで染みの形成を阻害するのに効果的とされ、また、ときには抗酸化作用もあるとされる。この効果の範囲は、体内に吸収可能な必須アミノ酸および微量元素の、局所的適用によるものと考えられる。
【0032】
化粧品としての利用に関しては、ナノ領域(40nm〜80nm)の粒子サイズが、マイクロメーターサイズの粒子と比較して、肌を通じたCaおよびアミノ酸の吸収速度を増大させることが知られている(非特許文献3)。
【0033】
必須アミノ酸、無機化合物、微量元素、および多量のカルシウムの純度と特殊な組成が、真珠および真珠層を、特に肌に有益なものにする。
【0034】
リヨセル繊維に組み込まれた真珠および真珠層の少なくとも一方の材料は、徐放効果によって徐々に、少量ずつ、無機化合物、必須アミノ酸、およびカルシウムを、肌に対して投与可能である。それゆえ、これらの各微量栄養素が肌に対して継続的に供給される。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の繊維の一般的な製造方法としては、粉砕された真珠の粉末(以下、“ナノ真珠粉”と称する)を、0.5%以上、5%以下、リヨセル紡糸の原液に添加し、混合し、上記混合した原液を、一般的な各紡糸条件を用いて紡糸して、上記繊維を製造することが挙げられる。上記添加・混合により紡糸原液の安定性に対して大きな影響を与えないことが確認されている。
【実施例1】
【0036】
〔ダベンポート装置における紡糸〕
紡糸原液の製造として、ナノ真珠粉(セルロース重量に対して)3重量%が、紡糸原液に対して以下のように添加され、混合された。ナノ真珠粉0.78g(製造者: Messrs.Fenix、表示の粒子サイズ:40nm〜80nm)を、超音波浴槽中の脱イオン水5ml中でスラリーにした。
【0037】
溶液を作製するため、まず、約50%のNMMO水溶液は、周知の方法にて安定剤(0.1%)が混合された。その後、ナノ真珠粉のスラリーを添加して混合し、最後にパルプを加えた。この混合物を、室温で1時間、250ミリバールの圧力下にて攪拌し、その後、70℃まで加熱した。その後、水分を蒸発させて、周知の方法により、溶液を作製した。この溶液を、さらに若干の間加熱した。得られた溶液は、光学的に透明で、3μmを超える粒子を含有していなかった。
【0038】
上記溶液は、(溶液重量に対し)NMMOを77%、セルロースを13%、水を10%、安定剤を0.1%、およびナノ真珠粉を(セルロース重量に対し)3重量%含有していた。
【0039】
上記溶液を、ダベンポート紡糸装置を使用して、周知の方法により、紡績口金を115℃で、さらにエアギャップを通して、紡糸した。使用した紡糸口金の穴径は、100μmであった。
【0040】
製造した繊維を、周知の方法で洗浄し、切断した。
【0041】
得られた繊維は、1.35dtexの繊度(fineness)であり、十分な引っ張り強度を示した。
【0042】
原料(ナノ真珠粉)と、それより作製した繊維を分析し、下記の結果を得た。
【0043】
【表1】

【実施例2】
【0044】
小型パイロットプラントにおける紡糸として、下記の組成の紡糸溶液を作製した。
パルプ 13%
2O 10.5%
NMMO 76.5%
ナノ真珠粉 (セルロース重量に対し)3%。
【0045】
この紡糸溶液は、周知の安定剤をさらに含有したものであった。
【0046】
まず、ナノ真珠粉を、Ultra Turrax T 50ミキサを使用して、78%NMMO中に分散させた。そして、パルプを加え、懸濁液を調製し、この懸濁液から周知の方法で溶液を作製した。
【0047】
このように準備された溶液を、紡糸温度120℃で紡糸した。得られた繊維は、1.35dtexの繊度であり、十分な引っ張り強度を示した。
【0048】
カルシウム歩留まりを調べたところ、カルシウムを40%含有する、上記使用したナノ真珠粉の洗浄槽の段階におけるカルシウムの損失は、12.7%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠粉、粉砕した真珠層、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる材料を含有するリヨセル繊維。
【請求項2】
上記材料を、リヨセル繊維重量に対し、0.07重量%以上、5重量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のリヨセル繊維。
【請求項3】
上記材料の平均粒径が、0.04μm以上、1.5μm以下であり、好ましくは、0.4μm以上、1.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリヨセル繊維。
【請求項4】
第3級アミンオキシド水溶液中、好ましくは、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)水溶液中にセルロースを含有する紡糸溶液を製造する工程、および、
上記紡糸溶液を紡糸して繊維にする工程、を含み、
真珠粉、粉砕した真珠層、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる材料を、上記紡糸溶液および上記紡糸溶液の前躯体の少なくとも一方に添加し、混合することを特徴とする、請求項1ないし3の何れか1項に記載のリヨセル繊維の製造方法。
【請求項5】
上記材料を、セルロース重量に対し、0.1重量%以上、5重量%以下、添加し、混合することを特徴とする、請求項4に記載のリヨセル繊維の製造方法。
【請求項6】
上記材料は、粉末の形態で使用され、平均粒径が0.04μm以上、1.5μm以下であり、好ましくは0.4μm以上、1.0μm以下であることを特徴とする、請求項4または5に記載のリヨセル繊維の製造方法。
【請求項7】
上記粉末を、上記紡糸溶液または上記紡糸溶液の上記前駆体に添加し、混合する前に、水性懸濁液の形態に変換することを特徴とする、請求項6に記載のリヨセル繊維の製造方法。
【請求項8】
織物製品および不織化粧用品の少なくとも一方における、美容効果のある製品としての、請求項1ないし3の何れか1項に記載のリヨセル繊維の使用。

【公表番号】特表2010−539345(P2010−539345A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525161(P2010−525161)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/AT2008/000329
【国際公開番号】WO2009/036481
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(594191087)レンツィング・アクチエンゲゼルシャフト (6)
【氏名又は名称原語表記】Lenzing AG
【住所又は居所原語表記】Werkstrasse 2 4860 Lenzing Austria
【Fターム(参考)】