説明

リンゴ小球形潜在ウイルスベクターを用いたウリ科植物の内在性遺伝子発現抑制方法

【課題】 野菜、果物等として有用なウリ科植物の内在性遺伝子を、迅速かつ安定的に発現抑制するための新しい手段を提供する。
【解決手段】 ウリ科植物の内在性遺伝子DNAを含む組換えリンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)をウリ科植物の子葉に接種する工程を含むことを特徴とするウリ科植物の内在性遺伝子発現抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、組換えALSVによるウリ科植物の内在性遺伝子発現抑制に関するものである。さらに詳しくは、ウリ科植物の内在性遺伝子DNAを含む組換えALSVを用いたウリ科植物内在性遺伝子の発現抑制方法、および内在性遺伝子の発現が抑制されたウリ科植物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RNAサイレンシングは真核生物に普遍的な配列特異的遺伝子制御システムであり、発生制御やウイルスに対する防御機構である。免疫機構をもたない植物では、RNAサイレンシングはウイルスに対する防御機構として重要な役割を持っている(非特許文献1)。ウイルスが植物に感染すると複製時に形成されるdouble-stranded RNA(dsRNA)が引き金となり、DICER(植物においてはDICER-LIKE:DCL)と呼ばれるRNase III-like nucleaseにより21nt〜22ntの短いsi(small interence)RNAと23〜25ntの長いsiRNAに切断される。siRNAはRNA-induced silencing complex(RISC)に取り込まれ、ウイルスRNAを分解し、ウイルス感染を抑制する。またsiRNAは隣接する細胞へと移行し、RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)の働きによりsiRNAと相補的なmRNAがdsRNAに変換され、さらにサイレンシングを拡大する(非特許文献2-4)。一方、RNAサイレンシングに対して多くの植物ウイルスはサイレンシングサプレッサータンパク質を発現し、ds siRNAと結合するなどしてサイレンシングを阻害する(非特許文献5、6)。1995年、植物の内在性遺伝子を組み込んだTMV感染によりその遺伝子のRNAサイレンシングが誘導されることが報告された(非特許文献7)。これはウイルス誘導ジーンサイレンシング(Virus-induced gene silencing:VIGS)と呼ばれ、優れた逆遺伝学的手法として現在幅広く利用されている。従来、植物遺伝子の機能解析は形質転換体や変異体の作出により行われてきたが、VIGSを利用することで多数の個体を短期間に解析することができる。VIGSの利用は、現在一般的に用いられているTabacco rattle virus(TRV)によりN.benthamiana(ベンサミアナ) 、シロイヌナズナ、トマト、ポピーなど(非特許文献8-11)やTomato yellow leaf curl china virus(TYLCCNV)によりベンサミアナ、トマト、(非特許文献12、13)、Pea early brownig virus(PEBV)によりエンドウ(非特許文献14)、Cucumber mosaic virusによりダイズ(特許文献1、非特許文献15)などで報告されてきた。VIGSによる遺伝子解析は、致死遺伝子を含む多数の遺伝子を対象にでき、また形質転換体の作出が困難な植物にも利用できるなどの利点がある。一方、ウイルス感染により病徴を示すこと、ウイルスを利用できる植物が限られていること、特に作物に利用できるウイルスが少数であることなど問題点がある。
【0003】
リンゴ小球形潜在ウイルス(Apple latent spherical virus:ALSV)は2分節1本鎖RNAゲノム(RNA1とRNA2)と3種類の外被タンパク質(Vp25、Vp20およびVp24)からなる径25nmの小球形ウイルスである(非特許文献16)。リンゴに潜在感染し、Chenopodium quinoa(キノア)に退緑などの病徴を示すが、タバコ、ベンサミアナ、N.occidentalis(オキシデンタリス)、N.glutinosa(グルチノーサ)およびシロイヌナズナなどほとんどの宿主植物に無病徴感染する。さらにウリ科およびマメ科植物にもほとんど無病徴で感染することが明らかになっている。これまでにRNA2のMP(movement protein)とVp25の間に外来遺伝子導入部位を組み込んだウイルスベクタ−が構築され、キノアや草本植物、リンゴでの外来遺伝子の発現に成功している(特許文献2、非特許文献12、17、18、)。Green fluorescent protein (GFP)発現タバコにおいてGFPを組み込んだALSV(GFP-ALSV)を接種するとGFP遺伝子のサイレンシングが誘導され、接種葉においてはGFP蛍光が円状に消失し、やがて上位葉全体でGFP蛍光が消失することが明らかにされた(非特許文献19)。これらの結果は、ALSVが全身的なサイレンシングを誘導することを示している。
【0004】
五十嵐(非特許文献20)は、4種のNicotiana属植物にタバコ内在性遺伝子であるphytoene desaturase(PDS)遺伝子、sulfer(SU)遺伝子およびproliferating cell nuclear antigen(PCNA)遺伝子を組み込んだALSV(tPDS-ALSV, SU-ALSVおよびPCNA-ALSV)を接種するとPDS、SUおよびPCNA遺伝子のサイレンシングがそれぞれ誘導されることを報告した。すなわち、tPDS-ALSV接種個体では上葉が白色化すると共に、PDS遺伝子mRNA量が減少し、同様にSU-ALSV接種個体では上葉が黄白色化すると共に、SU遺伝子mRNA量が減少した。PCNA-ALSV接種個体ではPCNA遺伝子のサイレンシングに起因する上葉の退緑や縮葉などの奇形が生じることが明らかにされた。さらに、シロイヌズナに内在性遺伝子であるPDS遺伝子およびprotoporphyrin-IX Mg-chelatase(CH42)遺伝子を組み込んだALSV(aPDS-ALSVおよびCH42-ALSV)を接種すると、PDSおよびCH42遺伝子のサイレンシングがそれぞれ誘導され、aPDS-ALSV接種個体では上葉が白色化すると共に、PDS遺伝子mRNA量が減少し、同様にCH42-ALSV接種個体では上葉が黄白色化すると共に、CH42遺伝子mRNA量が減少した(非特許文献20)。これらの結果は、ALSVベクターが4種のNicotiana属植物およびシロイヌナズナにおいて効率の良いVIGS用ベクターとなり得ることを示している。
【特許文献1】特開2008-211993号公報
【特許文献2】特開2004-65009号公報
【非特許文献1】Voinnet,O. (2001). RNA silencing as a plant immune system against viruses. Trends Genet 17:449-459.
【非特許文献2】Baulcombe,DC.(2004). RNA silencing in plants. Nature 431:356-363.
【非特許文献3】Qi,Y. and Hannon,GJ. (2005). Uncovering RNAi mechanisms in plant:biochemistry enters the fray. FEBS Lett. 579:5899-5903.
【非特許文献4】Wang,MB. and Metzlaff,M. (2005). RNA silencing and antiviral defense in plant. Plant Biol. 8:216-222.
【非特許文献5】Lakatos,L., Csorba,T., Pantaleo,V., Chapman,EJ., Carrington,JC., Liu,Y., Dolja,VV., Calvino,LF., Lopez-Moya,JJ. and Jozsef,B. (2006). Small RNA binding is a common strategy to suppress RNA silencing by several viral suppressors. EMBO J. 25:2768-2780.
【非特許文献6】Merai,Z., Kerenyi,Z., Kertesz,S., Magna,M., Lakatos,L. and Silhavy,D. (2006). Double-Stranded RNA Binding May Be a General Plant RNA Viral Strategy To Suppress RNA Silencing. J.Virol. 5747-5756.
【非特許文献7】Kumagai,MH., Donson,J., Della-Cioppa,G., Harvey,D., Hanley,K. and Grill,LK. (1995). Cytoplasmic inhibition of carotenoid biosynthesis with virus−derived RNA. Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1679-1683.
【非特許文献8】Brigneti,G., Martin-Hernandez,AM., Jin,H., Baulcombe,DC., Baker,B. and Jones,JDG. (2004). Virus-induced gene silencing in Solanum species.Plant J. 39:264-272.
【非特許文献9】Burch-smith,T., Schiff,M., Liu,Y. and Dinesh-Kumar,SP. (2006). Efficient Virus-Induced Gene Silencing in Arabidopsis. Plant Physiol. 142:22-27.
【非特許文献10】Liu,Y., Schiff,M., Marathe,R. and Dinesh-Kumar,SP. (2002). Virus -induced gene silencing in tomato. Plant J. 31:777-786.
【非特許文献11】Hileman,LC., Drea,S., Martino,G., Litt,A. and Irush,VF. (2005). Virus- induced gene silencing is an effective tool for assaying gene function in the basal eudicot species Papaver somnifeum(opium poppy). Plant J. 44:334-341.
【非特許文献12】佐々木伸浩.GFPでタグしたリンゴ小球形潜在ウイルスの細胞間移行および長距離移行の解析.岩手大学大学院連合農学研究科修士論文.
【非特許文献13】Xinzhong,Cai., Changchun,Wang., Youping,Xu., Qiufang Xu., Zhong,Zheng., Xueping,Zhou. (2007). Efficient gene silencing induction in tomato by a viral satellite DNA vector. Virus Res. 125:169-175.
【非特許文献14】Constantin,GD., Krath,BN., MacFarlane,SA., Nicolaisen,M., Johansen, IE. and Lund,OS. (2004). Virus−induced gene silencing as a tool for functional genomics in a legume species. Plant J. 40:622-631.
【非特許文献15】Nagamatsu,A., Masuta,C., Senda,M., Matsuura,H., Kasai,A., Hong,JS., Kitamura,K., Abe,J., Kanazawa,A. (2007). Functional analysis of soybean genes involved in flavonoid biosynthesis by virus-induced gene silencing. Plant Biotechnol J. 5:778-90.
【非特許文献16】Li,C., Yoshikawa,N., Takahashi,T., Ito,T., Yoshida,K. and Koganezawa,H. Nucleotide sequence and genome organization of Apple latent spherical virus:a new virus classified into the family Comoviridae. (2000). J.Gen.Virol. 81:541-547.
【非特許文献17】Li,C., Sasaki,N., Isogai,M. and Yoshikawa,N. (2004). Stable expression of foreign proteins in herbaceous and apple plants using Apple latent spherical virus RNA2 victors. Arch. Virol. 149:1541-1558.
【非特許文献18】李春江(1999).リンゴ小球形潜在ウイルス構造のゲノムとウイルスベクタ−への改変に関する研究.岩手大学大学院連合農学研究科博士論文.
【非特許文献19】Yaegashi H., Yamatsuta,T., Takahashi,T., Li,C., Isogai,M., Kobori,T., Ohki,S., Yoshikawa,N. (2007). Characterization of virus-induced gene silencing in tobacco plants infected with apple latent spherical virus. Arch. Virol. 152:1839-1849.
【非特許文献20】五十嵐亜紀(2007).リンゴ小球形潜在ウイルスベクタ−を利用した植物内在性遺伝子のRNAサイレンシングの誘導.岩手大学大学院農学研究科修士論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウリ科の植物(例えば、キュウリ、スイカ、カボチャ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、ユウガオ、ニガウリ、メロン等)はその栄養価、味、食感等に優れた有用植物である。これらのウリ科植物の生産量を増大させたり、その特性や商品価値(栄養価、味、香り、色彩、食感等)をさらに向上させる手段として、遺伝子改変による形質転換体の作出が試みられているが、ウリ科植物の形質転換体作出は非常に難しい。この遺伝子改変には、ウリ科植物が本来持っていない外来性の遺伝子を導入して新たな有用形質を付与する方法と、ウリ科植物が本来持っている内在性遺伝子の発現を抑制することによって不要または不都合な形質を除去または低下させる方法とがある。後者はまた、各種内在性遺伝子の機能を個体レベルで正確に理解するためにも有用であり、例えば特定の内在性遺伝子の発現抑制によって低下した機能を解析することは、当該機能を増強するための手段を探索するうえで重要な情報を提供する。
【0006】
内在性遺伝子の発現抑制のためには、前記のジーンサイレンシングは有効な手段であるが、これまでウリ科植物において有用なウイルスベクターは全く報告されていない。
【0007】
本願発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、野菜、果物等として有用なウリ科植物の内在性遺伝子を、迅速かつ安定的に発現抑制するための新しい手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、前記の課題を解決するものとして、ウリ科植物の内在性遺伝子DNAを含む組換えリンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)をウリ科植物の子葉に接種する工程を含むことを特徴とするウリ科植物の内在性遺伝子発現抑制方法を提供する。
【0009】
また本願は、ウリ科植物の内在性遺伝子DNAを含む組換えALSVを子葉に接種して育成させたウリ科植物であって、前記の内在性遺伝子の発現が抑制されているウリ科植物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、ウリ科植物の内在性遺伝子を、迅速かつ安定的に発現抑制することが可能となる。内在性遺伝子の発現抑制によって生じた植物形質の解析は、新しいウリ科植物の作出のための直接的または間接的な有用情報を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】wt-ALSV、cuPDS-ALSVおよびcuSu-ALSVを感染させたメロン葉の写真像。感染後31日。
【図2】wt-ALSV、cuPDS-ALSVおよびcuSu-ALSVを感染させたキュウリ葉の写真像。感染後27日。
【図3】wt-ALSV、cuPDS-ALSVおよびcuSu-ALSVを感染させたユウガオ葉の写真像。cuPDS-ALSV感染後22日。cuSu-ALSV感染後33日。
【図4】cuPDS-ALSVを感染させたスイカ葉の写真像。感染後27日。
【図5】wt-ALSV、cuSu-ALSVおよびcuPDS-ALSVを感染させたズッキーニ葉の写真像。cuPDS-ALSV感染後23日。cuSu-ALSV感染後37日。
【図6】wt-ALSV、cuPDS-ALSVおよびcuSu-ALSVを感染させたヘチマ葉の写真像。感染後33日。
【図7】cuPDS-ALSVおよびcuSu-ALSVを感染させたメロン葉から抽出したRNAのsemi-quantitative RT-PCR分析によるPDS遺伝子およびSU遺伝子の発現量の比較。「H」は健全葉、「cuPDS-ALSV」はcuPDS-ALSV感染により白色化した上葉、「cuSu-ALSV」はcuSu-ALSV感染により黄色化した上葉からそれぞれ抽出したRNAの分析結果。
【図8】cuPDS-ALSVおよびcuSu-ALSVを感染させたヘチマ葉から抽出したRNAのsemi-quantitative RT-PCR分析によるPDS遺伝子およびSU遺伝子の発現量の比較。「H」は健全葉、「cuPDS-ALSV」はcuPDS-ALSV感染により白色化した上葉、「cuSu-ALSV」はcuSu-ALSV感染により黄色化した上葉からそれぞれ抽出したRNAの分析結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明における「ウリ科植物」とは、キュウリ、スイカ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、ユウガオ、メロン等のウリ科(学名: Cucurbitaceae)に属する植物である。本願発明ではこれらの種の全てを対象とすることができる。
【0013】
「ウリ科植物内在性遺伝子」は、当該植物のゲノムDNAに存在し、当該植物の発生、成長、個体形成、各種タンパク質等の産生や代謝などに機能する遺伝子全般を意味する。
【0014】
この内在遺伝子は、ウリ科植物から定法によって単離したゲノムDNAや、ゲノムDNAから転写されたmRNAを鋳型とするcDNAとしてALSVベクターに組込むことができる。なお、ALSVベクターに組込む内在性遺伝子DNAは、対象とする植物と同種の植物遺伝子であることが好ましいが、同じウリ科植物であれば、別種植物の対応する遺伝子DNAを用いることができる。例えば、キュウリ遺伝子を含む組換えALSVを用いて、スイカやメロン等の他のウリ科植物の当該遺伝子を発現抑制することができる。
【0015】
組換えALSVの作製は、基本的には特許文献2に開示された方法に従って行うことができる。例えば、ALSV RNA2の感染性cDNAクローンであるpEALSR2L5R5に、内在性遺伝子cDNAをインサートDNAとして組込むことによって、組換えALSVを作製することができる。
【0016】
このようにして作製した組換えALSVを用いたウリ科植物のVIGSは以下の手順で行うことができる。
【0017】
まず、組換えALSVを増殖宿主(例えば、キノア)に接種して増殖させ、全身感染した宿主から全RNAを抽出する。次いで、前記の全RNAを、例えばパーティクルボンバードメント法を用いてウリ科植物の子葉に接種する。これによって、組換えALSVを確実かつ安定に当該植物に全身感染させることができる。
【0018】
以下、実施例を示して本願発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本願発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
1.材料および方法
(1)供試植物
(1-1)増殖植物
Cenopodium quinoa(以下キノア)をALSVの増殖植物として供試した。
(1-2)ウリ科植物
Citrullus lanatus(品種:瑞祥、以下スイカ)、Cucumis melo(品種:アールスナイト、以下メロン)、Cucumis sativus(品種:つばさ、以下キュウリ)、Cucurbita pepo(品種:ダイナー、以下ズッキーニ)、Lagenaria siceraria(品種:大長夕顔および台丈夫、以下ユウガオ)、Luffa cylindrica(品種:大長ヘチマ、以下ヘチマ)を供試した。
(2)キュウリ内在性遺伝子の一部を導入したALSVベクターの構築
(2-1)キュウリ遺伝子のクローニング
スイカ由来のphytoene desaturase(PDS)遺伝子(GeneBank Accession No.EF159942)およびキュウリ由来のmagnesium chelatase subunit(SU)遺伝子(GeneBank Accession No.DQ641092)の配列をもとに設計したプライマーを用いて、以下のようにキュウリ葉から抽出したmRNAから各遺伝子の一部をPCRにより増幅後クローニングした。
【0020】
キュウリのmRNAの抽出は以下のように行った。−80℃で凍結させたキュウリ葉(0.1g)を乳鉢、乳棒で粉末状にした後、600μlのRNA抽出緩衝液[0.1M Tris-HCl(pH8.0),10mM EDTA(pH8.0),0.1M LiCl,1% SDS]を加え、再度乳鉢と乳棒で十分に磨砕した。磨砕液をマイクロチューブに移し、水飽和フェノールとクロロホルムを300μlずつ加え、5分間ボルテックスミキサーで攪拌した。14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清500μlを新しいマイクロチューブに移し、等量のクロロホルムを加え、5分間攪拌した。14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清400μlに等量の4M LiClを加え、−20℃で1時間静置した。14,000rpm、4℃で20分間遠心分離し、得られた沈殿に1mlの70%エタノールを加え、再び14,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、70%エタノールを除去した後、沈殿を50μlのTEに懸濁した。この溶液に5μlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)と150μlの99%エタノールを加えて−80℃で30分間静置した。14,000rpm、4℃で15分間遠心分離し、得られた沈殿に1mlの70%エタノールを加え、14,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、減圧乾燥後に44μlの滅菌水に懸濁した。
【0021】
この溶液に5μlの10 X DNase I Buffer(TaKaRa)、1μlのDNase I-RNase free(TaKaRa)を加え、37℃で30分間静置した。160μlの滅菌水を加え、続いて水飽和フェノールとクロロホルムを100μlずつ加え、5分間攪拌した。14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清200μlを新しいマイクロチュ−ブに移し、等量のクロロホルムを加え、5分間攪拌した。14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清150μlに15μlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)と450μlの99%エタノ−ルを加えて−80℃で30分間静置した。14,000rpm、4℃で15分間遠心分離し、得られた沈殿に1mlの70%エタノールを加え、再び14,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、減圧乾燥して12μlの滅菌水に懸濁し、分光光度計(ND-1000 v3.1.2)で定量し、得られたRNAを1000ng/μlに調整したRNA溶液とした。
【0022】
逆転写反応は以下のようにして行った。1μl のRNA溶液(1000ng/μl) 、1μl の10μM Oligo(dT)12プライマー、2μl の2.5mM dNTP mixture(TaKaRa)、4μl の5 X RT Buffer (TOYOBO)、0.5μl のRNase Inhibitor(TaKaRa)、1μl のReverTra Ace (TOYOBO)、10.5μlの滅菌水を混合して20μlとし、TaKaRa Thermal Cycler Dice(TaKaRa)を用いて42℃で5分間、42℃で45分間、99℃で5分間、最後に4℃で5分間反応させた。
【0023】
PCRのプライマーには、キュウリの870 ntのPDS遺伝子を増幅するcuPDS31(+)[5’-tttgggggcttatcccaatgt-3’](配列番号1)と
cuPDS900(-)[5’-ttccaacatggactggtttg-3’](配列番号2)、
507ntのSU遺伝子を増幅するcuSU1(+)[5’-acagcattggaagagaattgg-3’](配列番号3)とcuSU507(-)[5’-cccacgcccagtatctttaa-3’](配列番号4)の組み合わせを用いた。
【0024】
10μlのcDNA溶液、各2.5μlの合成プライマー(10μl)、5μl の10 X PCR buffer(TaKaRa)、4μl の2.5mM dNTP mixture(TaKaRa)、0.5μlのEx-Taq(2.5U/μl TaKaRa)、25.5μlの滅菌水を混合し、TaKaRa Thermal Cycler Dice(TaKaRa)にセットした。初め94℃で5分間熱変性し、続いて94℃で30秒、アニ−リングを55℃で30秒、DNA相補鎖の伸長を72℃で1分という過程を1サイクルとして、30サイクル行い、その後72℃で7分間処理した。PCR終了後、1μlの反応液と0.1μlの10Xloading Buffer(1%SDS,50%グリセロ−ル,0.05%ブロモフェノールブルー)を混合し、1%アガロ−スゲル(0.1 μg/mlの臭化エチジウムを含む)で電気泳動(100V)してPCR産物のサイズを確認した。泳動には1XTAE Buffer(40mM Tris-酢酸,1mM EDTA)を使用し、分子量マ−カ−にはλファージのHindIII断片を用いた。
【0025】
PCR産物をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて次のようにゲルから回収した。上記のPCR反応液をマイクロチューブに移し、5μlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)と150μlの99%エタノ−ルを加えて−80℃で15分間静置した。14,000rpm、4℃で15分間遠心分離し、得られた沈殿に1mlの70%エタノ−ルを加え、再び14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。沈殿を減圧乾燥して20μlのTEに懸濁後、全量を1%アガロースゲルで電気泳動した。バンドをカッターで切り出し、マイクロチューブに入れた後、3倍容のBufferQGを加え、50℃で10分間インキュベ−トした。ときどき懸濁して完全にゲルが溶けたのち、ゲルと同容量のイソプロパノールを入れて撹拌した。QIA quick spin columnにcollection tubeを取り付け、これに溶液を移して14,000rpm、室温で1分間遠心した。その後collection tube内の液を捨て、再びQIA quick spin columnにcollection tubeを取り付けて0.75mlのBuffer PEを加え、14,000rpm、室温で1分間遠心した。同様にcollection tube内の液を捨て、再び13,000rpm、室温で1分間遠心した。QIA quick spin columnをマイクロチューブに移し、columnに30μlのTEを添加して1分間放置後、14,000rpm、室温で1分間遠心し、約28μlを溶出した。
【0026】
精製したPCR産物をpGEMR-T Easy Vector Systemsを用いて以下のようにライゲーションした。マイクロチューブに3μlの精製PCR産物、1μlのpGEMR-T Easy Vector、5μlの2XRapid Ligation Buffer 、そして1μlのT4 DNA Ligaseを混合し、16℃で2時間インキュベートした。続いて10μlのライゲ−ション産物を以下のように大腸菌(DH5α)にヒートショック法で形質転換した。−80℃で凍結保存しておいたDH5α(100ml)を氷上でゆっくり溶解し、これに10μlのライゲーション産物を加え、軽く攪拌後、氷上に30分間静置した。続いて42℃で45秒間インキュベートし、ただちに氷上に2分間静置した。37℃に加温した900μlのSOC(1LのSOCあたりTrypton peptone 20g、Yeast Extract 5g、NaCl 0.58g、KCl 0.19g、1M MgCl・6H2O 10ml、1M MgSO4・7H2O 10ml、グルコ−ス 10ml)を加え、37℃で1時間振盪培養した。LMAプレートに培養液200μlを塗り広げて風乾後、37℃で16時間培養した。形成されたコロニ−を爪楊枝を用いて試験管(2mlのLB培地に4μlのアンピシリンを加えた培地)に移植し、37℃で14〜16時間振盪培養した。
【0027】
プラスミドの抽出は煮沸法により以下のように行った。培養液をマイクロチューブに移し、14,000rpm、室温で1分間遠心後、上清を除去した。沈殿に350μlのSTET〔0.1M NaCl,10mM Tris-HCl(pH8.0),1mM EDTA(pH8.0),5%TritonX-100〕を加えて懸濁し、25μlのリゾチ−ム溶液〔10mg/mlのリゾチ−ム,10mM Tris-HCl(pH8.0)〕を加えて3秒間攪拌した後、40秒間沸騰水につけ、直ちに氷水に入れた。14,000rpm、室温で20分間遠心し、沈殿を爪楊枝で除去し、上清に420μlのイソプロパノールと3M酢酸ナトリウム40μlを加えて攪拌後、室温で5分間静置した。続いて14,000rpm、4℃で5分間遠心した。上清を除去した後、1mlの70%エタノ−ルを加え14,000rpm、4℃で2分間遠心し、沈殿を減圧乾燥した。30μlのTE Buffer〔10mM Tris-HCl(pH8.0),RNase A(20 μg/ml)〕を加えて懸濁し、37℃で30分間静置した。
【0028】
得られたプラスミド2μlを1%アガロ−スゲルで電気泳動し、インサートが挿入されていると考えられるプラスミドを選抜した。選抜したプラスミドを制限酵素EcoRIで処理し、再び1%アガロ−スゲルで電気泳動し、インサートが挿入されているかを確認した。制限酵素処理は2μlのプラスミドに0.2μlの制限酵素、1μlの各制限酵素に至適なbuffer、6.6μlの滅菌水を加えて混合し、37℃で2時間静置して行った。
【0029】
インサートが挿入されたプラスミドを次のように精製した。46μlのプラスミドDNAに150μlのTEを加え、TE飽和フェノールとクロロホルムを100μlずつ加えて3分間懸濁し、14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。水層を新しいマイクロチュ−ブに移し、上記と同様の方法でエタノール沈殿した。50μlのTEに懸濁後、50μlのPRG溶液(13%ポリエチレングリコール6000,1.6M NaCl)を加え、氷上で1時間静置した。14,000rpm、4℃で20分遠心分離し、沈殿に1mlの70%エタノールを加えて14,000rpm、4℃で5分遠心分離した。沈殿を減圧乾燥し、30μlの滅菌水で懸濁して吸光度を測定した。
【0030】
精製したプラスミドは次のようにシークエンス分析した。シークエンス分析に供試する泳動試料の調製はBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて次のように行った。PCRチューブに2μlのReady reaction Premix、1μlのBigDye Sequencing Buffer、1.6μlのプライマー[ACUNI6745(+)](1.6μM)、1μlの精製プラスミドDNA(300ng/μl)、4.4μlの滅菌水を加えて混合し、TaKaRa Thermal Cycler Diceにセットし、94℃で30秒間、50℃で15秒間、60℃で4分間を30サイクル反応させた。反応終了後、10μlの滅菌水、2μlの125 mM EDTA(pH8.0)、2μlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)、60μlの99%エタノールを加えて混合し、遮光下、室温で15分間静置した。14,000rpm、4℃で20分間遠心分離し、得られた沈殿に500μlの70%エタノールを加えて再び14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。再び得られた沈殿に100μlの70%エタノールを加えて14,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、沈殿を減圧乾燥して25μlのHi-Di Formamideに懸濁した。これを95℃で2分間熱変性し、氷上で5分間静置して泳動試料とした。
【0031】
試料の泳動はABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystems)のマニュアルに従って行った。泳動試料をMicroAmp 96-well Reaction Plateに加え、プレートアセンブリーを組み立てオートサンプラーにセットした。キャピラリー長は80cm、ポリマーはPOP-4、泳動緩衝液には1×TBEを用いた。次にプレートレコードを作成し、サンプル名、泳動条件および解析条件などを設定した。Mobility FileはDT3100POP4{BDv3}v1.mob、Dye SetはZ、BioLIMS Projectは3100_Project1、Run ModouleはLongSeq80_POP4Defaulymodule、そしてAnalysis moduleはBC-3100APOP_80cm_SeqOffFtOff.sazに設定して泳動した。泳動終了後、BI PRISM 3100-Avant Genetic Analyzerのマニュアルに従い、泳動データを塩基配列に変換し、得られた塩基配列データを遺伝子情報処理ソフトのDNASIS for windows ver.2.1を用いて解析した。配列を確認したプラスミドをそれぞれpGEM cuPDS、pGEM cuSUとした。
(2-2)ALSVベクターへの内在性遺伝子の導入
ALSV RNA2の感染性cDNAクローンであるpEALSR2L5R5に上記でクローニングした各遺伝子、すなわちcuPDS(870nt)およびcuSU(507nt)断片を以下の方法でそれぞれ組み込んだ。
【0032】
pGEM cuPDSを鋳型にcuPDS31XhoI(+)[5’-tacatctcgagtttggggcttatccccaat-3’](配列番号5)とcuPDS330BamHI(-)[5’-tacatggatcctctcatccactcttgcac-3’](配列番号6)、pGEM cuSUを鋳型にcuSU1XhoI(+)[tacatctcgagacagaattggaagagaat-3’](配列番号7)とcuSU300BamHI(-)[5’-tacatggatccataacaaacatcactcat-3’](配列番号8)のプライマーの組み合わせでPCRを以下のように行った。
【0033】
10 μlの鋳型cDNA溶液(20ng/μl)、各2.5μlの合成プライマー(10μM)、5μl の10xPCR buffer(TaKaRa)、4μl の2.5mM dNTP mixture(TaKaRa)、0.5μlのEx-Taq(2.5U/μl TaKaRa)、25.5μlの滅菌水を混合し、上記と同様の方法で行った。反応後、1μlを1%アガロースゲルで電気泳動しバンドのサイズを確認した。
【0034】
続いてPCR産物全量をマイクロチューブに移し、上記と同様の方法でフェノール・クロロホルム抽出およびエタノ−ル沈殿を行った。これに10μlの各制限酵素に至適なbuffer、86μlの滅菌水を加え、沈殿(cuPDS、cuSU)をそれぞれ懸濁した。2μl のBamHIとXhoIで処理し、1%アガロース電気泳動後、上記と同様の方法でDNAを回収してインサートDNAとした。この操作と平行して2μlのpEALSR2L5R5GFP(1μg/μl)をBamHIとXhoIで処理後、ゲル回収したものをベクターDNAとした。
インサートDNAとベクターDNAをTaKaRa ligation Kit Ver 2.1(TaKaRa)を用いてライゲーション反応を行った。1μlのベクターDNA、4μlのインサートDNAおよび5μlのI液を加えて混合し、16℃で3時間インキュベートした。10μlのライゲーション産物を上記と同様の方法で大腸菌DH5αへ形質転換した。プラスミドを抽出後、DNAを1%アガロ−スで電気泳動し、pEALSR2L5R5よりも移動度の遅いプラスミドを選抜し、BamHIとXhoIで処理して目的のインサートの含まれているクローンを選抜した。
【0035】
インサートが挿入されているプラスミドをQIAGEN Plasmid Midi(QIAGEN)を用いて精製した。500ml坂口フラスコに100mlのLB培地と200μlのアンピシリン(25mg/μl)を分注し、インサートの含まれていたクローンのコロニーを爪楊枝で移し、180rpm、37℃で14〜16時間振盪培養した。培養液をファルコンチューブに移して7,000rpm、4℃で15分間遠心し、上清を除去した。沈殿に4mlのbuffer P1を加えて懸濁し、さらに4mlのbuffer P2を加えて4〜6回全体が混ざるようにゆるやかに回した後、室温で5分間静置した。4mlのBuffer P3を加えて回した後、氷上で15分間静置し、13,000rpm、4℃で30分間遠心した。上清を他の遠心管に移し、13,000rpm、4℃で15分間遠心した。4mlのbuffer QBTで平衡化したQIAGEN-Tip100に上清を移し、プラスミドDNAを結合させた。QIAGEN-Tip100に10mlのbuffer QCを加えて洗浄し、さらにこの操作をもう一度繰り返した。QIAGEN-Tip100に5mlのBuffer QFを加え、溶出液を回収し、3.5mlのイソプロパノールを加え攪拌後、11,000rpm、4℃で30分間遠心した。沈殿に2mlの70%エタノールを加え11,000rpm、4℃で10分間遠心し、沈殿を減圧乾燥後、450μlのTEに懸濁した。260nm吸光度を計測して濃度を調べた後、1μg/μlになるように調製した。
【0036】
構築したプラスミドをそれぞれpEALSR2L5R5cuPDS、pEALSR2L5R5cuSUとした。
【0037】
構築した各クローン(pEALSR2L5R5cuPDS、pEALSR2L5R5cuSU)とALSV RNA1の感染性cDNAクローンであるpEALSR1(1μg/μl)をそれぞれ等量ずつ混合し、カーボランダム法によってキノア(8葉期)の第3葉から第6葉に8μlずつ接種した。またpEALSR2L5R5とpEALSR1も同様に混合してキノアに接種した。感染し、上葉に病徴が現れたら上葉をサンプリングし、3倍容の磨砕buffer〔0.1M Tris-HCl(pH7.8),0.1M NaCl,5mM MgCl2〕で磨砕し、再びキノア(10葉期)の第3葉から第6葉に接種した。病徴の現れた上葉をサンプリングして接種源とし、これらのウイルスをcuPDS-ALSVおよびcuSU-ALSVとした。
(2-3)植物へのウイルス接種
cuPDS-ALSV感染キノア葉、cuSU-ALSV感染キノア葉、およびwt-ALSV感染キノア葉を3倍容の磨砕bufferで磨砕し、カーボランダム法によりcuPDS-ALSVおよびcuSU-ALSVをスイカ、メロン、キュウリ、ズッキ−ニ、ユウガオ、ヘチマの子葉に接種後育成した。
(2-4)Semi-quantitative RT-PCR
Semi-Quantitative RT-PCRは五十嵐(非特許文献20)を参考に行った。
【0038】
cuPDS-ALSV およびcuSU-ALSVを接種し、白色化または黄白色化したヘチマおよびメロンの上葉および健全葉からmRNAを上記と同様の方法で抽出し、逆転写した。
【0039】
cuPDS遺伝子およびcuSU遺伝子のcDNA溶液を鋳型に、ALSVに組みこんだ領域とは別の部位を増幅するプライマーcuPDS341(+)[5’-tacctgatcgtgtaacaaca-3’](配列番号9)とcuPDS640(-)[5’-caattacattcccatcgttt-3’](配列番号10)、cuSU301(+)[5’-cctgatagtttgattggaaa-3’](配列番号11)とcuSU500(-)[5’-ccagtatctttaagtgattg-3’](配列番号12)、またキュウリのアクチン遺伝子を増幅するプライマーcuActin(+)[5’-agacattcaatgtgcctgct-3’](配列番号13)とcuActin(-)[5’-gttcgtagtcaagagcaaca-3’](配列番号14)の組み合わせを用いてPCRを行った。プライマーはスイカPDS遺伝子(GeneBank Accession No.EF159942)、キュウリSU遺伝子(GeneBank Accession No.DQ641092)、キュウリアクチン遺伝子(GeneBank Accession No.AB010922)をもとに設計した。PCRには4μlのcDNA溶液、各1μlの合成プライマー(10μM)、2μlの10xPCR buffer(TaKaRa)、1.6μlの2.5mM dNTP mixture(TaKaRa)、0.2μlのEx-Taq(2.5U/μl TaKaRa)、10.2μlの滅菌水を混合し、PCRを行った。その際、15、18、21、24、27、30サイクルの6つのサイクル数で行った。PCR産物10μlを1%または1.5%アガロ−スゲルで電気泳動し、それぞれ比較した。
2.結果
(1)cuPDS-ALSVおよびcuSU-ALSV感染によるcuPDSおよびcuSU遺伝子のサイレンシング
cuPDS-ALSVおよびcuSU-ALSVをメロンの子葉に接種すると、第1〜3本葉から葉脈に沿ってcuPDS-ALSV接種個体では白色化、cuSU-ALSV接種個体では黄白色化し、その後は全体が白色または黄白色化した葉が展開した(図1)。cuPDS-ALSV接種個体よりもcuSU-ALSV接種個体の方が葉の白色または黄白色化の表現型が現れるのが2〜3日早かったが、その後のサイレンシングの進行にはほとんど差異はなかった。接種個体では白色または黄白色化した葉が次々に展開したが、3〜6葉期になると生育が抑制され、やがて枯死した。
【0040】
キュウリ、ユウガオ、スイカにおいても同様の表現型が観察された (図2〜図4)。また、ズッキーニにおいては子葉への接種後、第4〜7本葉から表現型が観察され、蕾を形成するまでに至った(図5)。ヘチマにおいては第1〜3本葉から表現型が観察されたが、表現型がメロンなどに比べてモザイク状となり、生育が抑制されず、蕾を形成するまでに至った(図6)。一方、対照区 として野生型(wt)ALSVを接種した植物では、初期症状として第1〜2本葉に薄い斑点が観察できたものの、数日後に消失し、上葉に病徴は全く観察されなかった。
(2)サイレンシングが誘導されたメロンおよびヘチマ葉からのmRNAの解析
サイレンシングが誘導されたメロンおよびヘチマ葉での各遺伝子のmRNAの量をsemi-quantitative RT-PCRにより解析した。PDS遺伝子を増幅するプライマーを用いたRT-PCRでは、メロンにおいて健全葉では18cycleでバンドが検出されたのに対して、cuPDS-ALSV感染葉では21cycle以降に PDS遺伝子のバンドが検出された。また、ヘチマにおいては健全葉およびcuPDSALSV感染葉ともに24cycleでバンドが検出されたが、cuPDS-ALSV感染葉のバンドが健全葉と比較して明らかに薄かった。これらの結果からcuPDS-ALSV感染葉ではPDS遺伝子mRNAが減少していることが示唆された(図7、8)。一方、ユビキチンを増幅するプライマーを用いたRT-PCRでは健全葉、cuPDS-ALSV感染葉どちらもメロンにおいては15cycle、ヘチマにおいては21cycleからバンドが検出され、ユビキチンmRNA量に差異は認められなかった。
【0041】
SU遺伝子を増幅するプライマーを用いたRT-PCRでも同様に、健全葉ではメロンおよびヘチマにおいて21cycleからバンドが検出されたのに対して、cuSU-ALSV感染葉ではメロンにおいて30cycle、ヘチマにおいては27cycleからバンドが検出され、SU遺伝子のmRNAが減少していることが示唆された(図7、8)。一方、ユビキチンを増幅するプライマーを用いたRT-PCRでは健全葉、cuSU-ALSV感染葉どちらもメロンにおいては15cycle、ヘチマにおいては21cycleからバンドが検出され、ユビキチンmRNA量に差異は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳しく説明したように、本願発明によって、ウリ科植物を所望の形質に転換させ、その生産性や商品価値を向上させることができる。また、内在性遺伝子の発現抑制によって生じた植物形質の解析によって、新しいウリ科植物の作出のための有益な情報が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウリ科植物の内在性遺伝子DNAを含む組換えリンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)をウリ科植物の子葉に接種する工程を含むことを特徴とするウリ科植物の内在性遺伝子発現抑制方法。
【請求項2】
ウリ科植物の内在性遺伝子DNAを含む組換えALSVを子葉に接種して育成させたウリ科植物であって、前記の内在性遺伝子の発現が抑制されているウリ科植物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−166867(P2010−166867A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13535(P2009−13535)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】