説明

リンパ球の製造方法

【課題】養子免疫療法に適用可能なリンパ球を効率よく製造する手段を提供すること。
【解決手段】(1)5μg/mL未満の抗CD3抗体溶液を使用して前記抗体を固定化した固相、及び/又は(2)25μg/mL未満のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド溶液を使用して前記ポリペプチドを固定化した固相、と接触させた状態でリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養することを特徴とするリンパ球の製造方法を提供する。前記方法により、生体への生着率、表現型の維持能力において優れたリンパ球を効率よく製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において有用なリンパ球の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は主として免疫応答により異物から守られており、免疫システムはさまざまな細胞とそれが作り出す可溶性の因子によって成り立っている。なかでも中心的な役割を果たしているのが白血球、特にリンパ球である。このリンパ球はBリンパ球(以下、B細胞と記載することがある)とTリンパ球(以下、T細胞と記載することがある)という2種類の主要なタイプに分けられ、いずれも抗原を特異的に認識し、これに作用して生体を防御する。
【0003】
T細胞は、末梢ではCD(Cluster of Differentiation)4マーカーを有するCD4T細胞とCD8マーカーを有するCD8T細胞が大部分を占める。CD4T細胞の大部分は、ヘルパーT細胞と呼ばれ、抗体産生の補助や種々の免疫応答の誘導に関与し、抗原刺激により産生するサイトカインの種類が異なるTh1型あるいはTh2型に分化する。CD8T細胞の大部分は、抗原刺激により細胞傷害活性を示す細胞傷害性T細胞[細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte)、別名:キラーT細胞、以下、CTLと記載することがある]に分化する。
【0004】
例えば、癌の病態において、外科手術、化学療法、放射線療法に次ぐ第4の治療法として、免疫療法が近年関心を集めている。免疫療法は本来ヒトが有する免疫力を利用するため、患者への肉体的負担が他の治療法と比べて軽いと言われている。免疫療法には体外で誘導したCTLや末梢血リンパ球等から種々の方法で拡大培養して得られるリンフォカイン活性化細胞、NKT細胞、γδT細胞などを移入する療法、体内での抗原特異的CTLの誘導を期待する樹状細胞移入療法やペプチドワクチン療法、Th1細胞療法、更にこれら細胞に種々の効果を期待できる遺伝子を体外で導入して体内に移入する免疫遺伝子治療法などが知られている。
【0005】
免疫療法の中で、体外で誘導したCTLや末梢血リンパ球等からIL(インターロイキン)−2と抗CD3抗体の作用により拡大培養して得られるリンフォカイン活性化細胞を移入する療法において、体外で誘導した抗原特異的CTLを拡大培養する際に細胞傷害活性をいかに維持するか、リンパ球を体外でいかに効率よく拡大培養できるか等の問題については、フィブロネクチンやそのフラグメントを使用することによる効果が、既に本発明者らにより検討されてきた(例えば、特許文献1〜4)。
【0006】
近年、免疫療法に使用されるTリンパ球は、すでに終末分化したエフェクターT細胞よりも、より未分化な状態のナイーブT細胞やセントラルメモリーT細胞を投与した方が、生体への投与においてはるかに高い治療効果が期待できることが報告されている(例えば非特許文献1)。更に、体内での抗原特異的CTLの誘導を期待する樹状細胞移入療法やペプチドワクチン療法などにおいても、例えば癌が進行した患者の体内ではCTLに誘導されうる元となるナイーブT細胞が少ないと考えられるため、充分な効果が期待できないことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/016511号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/080817号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/019450号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/142300号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Clin. Invest.(ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション)2005年、第115巻、第1616〜1626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リンフォカイン活性化細胞や細胞傷害性リンパ球の製造において、フィブロネクチンやそのフラグメントを使用することで、細胞増殖率の向上作用、細胞傷害活性の維持作用が奏されることについては、既に本発明者らにより検討されてきた(例えば、特許文献1〜4)。しかしながら、養子免疫療法が多様化しているという現状を考えた場合、上記文献の方法以外の、さらなる細胞増殖方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはリンパ球の培養、特に拡大培養の諸条件について鋭意検討を重ね、効率のよいリンパ球製造の条件を見出し、本発明を完成させた。更に、本発明の方法により製造されたリンパ球は、長いテロメアを保持していることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下にリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養する工程を包含するリンパ球の製造方法であって、
(1)5μg/mL未満の抗CD3抗体溶液を使用して前記抗体を固定化した固相、及び/又は
(2)25μg/mL未満のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド溶液を使用して前記ポリペプチドを固定化した固相
と接触させた状態でリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養することを特徴とするリンパ球の製造方法、
[2]固相が細胞培養用器材又は細胞培養用担体である[1]の方法、
[3]フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、VLA−4結合活性、VLA−5結合活性、へパリン結合活性から選択される結合活性を有するものである[1]の方法、
[4]フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、CS−1ドメイン、細胞接着ドメイン、へパリン結合ドメインから選択されるフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するものである[1]の方法、
[5]フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが配列表の配列番号9〜34から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドである[4]の方法、
[6]リンパ球が抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球又はリンフォカイン活性化細胞である[1]の方法、及び
[7]リンパ球に外来遺伝子を導入する工程を更に包含する[1]の方法、
に関する。
また、抗CD3抗体の単独刺激下で得られたリンパ球と比較して、テロメアが長い[1]記載の方法で得られたリンパ球に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、効率的なリンパ球の製造方法が提供される。当該方法は細胞増殖率が高く、本発明により得られるリンパ球は、例えば、養子免疫療法に好適に使用される。従って、本発明の方法は基礎研究や医療分野への多大な貢献が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、医療への使用に適した、効率的なリンパ球の製造方法に関する。
本発明は、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドとを使用するリンパ球の製造方法において、前記の有効成分を固相に固定化する際の濃度について鋭意検討し、完成するに至ったものである。
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
(1)本発明に使用される、フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド
本発明には、フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドとして、例えばフィブロネクチンのフラグメントを使用することができる。フィブロネクチンのフラグメントは天然から得られたもの、又は人為的に合成されたもの、遺伝子工学的に調製されたもののいずれでもよい。フィブロネクチンのフラグメントを調製するための情報であるフィブロネクチンをコードする核酸配列又はフィブロネクチンのアミノ酸配列は、NCBI RefSeq Accession No. NM_002026、NP_002017に開示されている。
【0015】
本発明において、フィブロネクチン フラグメントとしては、例えば、III−8(配列番号1)、III−9(配列番号2)、III−10(配列番号3)、III−11(配列番号4)、III−12(配列番号5)、III−13(配列番号6)、III−14(配列番号7)、及びCS−1(配列番号8)のいずれかの領域を構成するアミノ酸配列を少なくとも1つ含んでなるポリペプチドや、前記いずれかのアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加したアミノ酸配列を少なくとも1つ含んでなるポリペプチドであって、前記ポリペプチドと同等な機能を有するポリペプチドが例示される。フラグメントの長さとしては、例えば、アミノ酸の数として20〜1000が好ましく、100〜800がより好ましい。なお、本明細書において、複数個とは数個を含む概念であり、2〜12個が好ましく、2〜10個がより好ましく、2〜8個が更に好ましく、以下においても同様である。
【0016】
また、当該フラグメントとしては、細胞接着活性及び/又はヘパリン結合活性を有するものが好適に使用できる。細胞接着活性は、本発明で使用されるフラグメント(その細胞結合ドメイン)と細胞との結合を公知の方法を使用してアッセイすることにより調べることができる。例えば、このような方法には、ウイリアムズ D.A.らの方法〔ネイチャー(Nature)、第352巻、第438〜441頁(1991)〕が含まれる。当該方法は、培養プレートに固定化したフラグメントに対する細胞の結合を測定する方法である。また、ヘパリン結合活性は、本発明に使用されるフラグメント(そのヘパリン結合ドメイン)とヘパリンとの結合を公知の方法を使用してアッセイすることにより調べることができる。例えば、上記のウイリアムズ D.A.らの方法において、細胞に換えてヘパリン、例えば標識ヘパリンを使用することにより、同様の方法でフラグメントとヘパリンとの結合の評価を行うことができる。
【0017】
更にフィブロネクチン フラグメントとしては、C−274(配列番号9)、H−271(配列番号10)、H−296(配列番号11)、CH−271(配列番号12)、CH−296(配列番号13)、C−CS1(配列番号14)、及びCH−296Na(配列番号15)からなる群より選択されるポリペプチドが例示される。
【0018】
上記のCH−271、CH−296、CH−296Na、C−274、C−CS1の各フラグメントはVLA−5に結合する活性を有する細胞結合ドメインを有するポリペプチドである。また、C−CS1、H−296、CH−296、CH−296NaはVLA−4に結合する活性を有するCS−1を有するポリペプチドである。更に、H−271、H−296、CH−271、CH−296及びCH−296Naはヘパリン結合ドメインを有するポリペプチドである。なお、CH−296Naは血漿由来のフィブロネクチンにおける細胞結合ドメインからCS−1までを含むポリペプチドである。
【0019】
本発明においては、上記の各ドメインが改変されたフラグメントも使用することができる。フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインは3つのIII型配列(III−12、III−13、III−14)によって構成されている。前記III型配列のうちの一つもしくは二つを欠失したヘパリン結合ドメインを含むフラグメントも本発明に使用することが可能である。例えば、フィブロネクチンの細胞結合部位(VLA−5結合領域、Pro1239〜Ser1515)と一つのIII型配列とが結合したフラグメントであるCHV−89(配列番号16)、CHV−90(配列番号17)、CHV−92(配列番号18)、あるいは二つのIII型配列とが結合したフラグメントであるCHV−179(配列番号19)、CHV−181(配列番号20)が例示される。CHV−89、CHV−90、CHV−92はそれぞれIII−13、III−14、III−12を含むものであり、CHV−179はIII−13とIII−14を、CHV−181はIII−12とIII−13をそれぞれ含んでいる。
【0020】
また、上記の各フラグメントに更にアミノ酸を付加したフラグメントも本発明に使用することができる。当該フラグメントは、例えば、上記各フラグメントに所望のアミノ酸を付加することにより製造可能である。例えば、H−275−Cys(配列番号21)は、フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインを有し、かつC末端にシステイン残基を有するフラグメントである。
【0021】
なお、本発明に使用されるフラグメントとしては、本発明の所望の効果が得られる限り、上記に例示した天然のフィブロネクチンのアミノ酸配列の少なくとも一部を含むフラグメントと同等な機能を有する、当該フラグメントを構成するポリペプチドのアミノ酸配列に1もしくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる組換えフィブロネクチン フラグメントであってもよい。
【0022】
更に、本発明には、組換えフィブロネクチン フラグメントのほかに、改変型組換えフィブロネクチン フラグメントを使用することができる。この改変型組換えフィブロネクチン フラグメントは、同一のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を分子内に複数個含有するポリペプチドである。
【0023】
前記の改変型組換えフィブロネクチン フラグメント(以下改変型フラグメントと記載する)の一例としては、2個以上のアミノ酸配列(m)、1個以上のアミノ酸配列(n)を必須領域として含むポリペプチドである。ここで、アミノ酸配列(m)は、フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインの一部である配列番号5〜7から選択される1もしくは複数個のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列である。ただし、アミノ酸配列(m)は配列番号5〜7で表されるそれぞれの同じ配列を2個以上含まないアミノ酸配列であり、配列番号5〜7で表されるアミノ酸配列の組み合わせで構成されるアミノ酸配列である。例えば、アミノ酸配列(m)は、配列番号5で表されるアミノ酸配列を2個以上含まず、また配列番号6もしくは7で表されるアミノ酸配列についても同様である。また、当該ポリペプチドに存在する2個以上のアミノ酸配列(m)はそれぞれ同一のアミノ酸配列を示す。
【0024】
当該アミノ酸配列(m)としては、そのアミノ酸配列からなるポリペプチドがヘパリン結合活性を有するものが好適に使用できる。ヘパリン結合活性の測定は前記の方法により実施できる。
【0025】
アミノ酸配列(m)は改変型フラグメント中に、例えば2〜5個、好適には2〜4個、より好適には2〜3個含有されていることが好ましい。
【0026】
アミノ酸配列(n)は、フィブロネクチンのCS−1ドメインである配列番号8で表されるアミノ酸配列である。アミノ酸配列(n)は改変型フラグメント中に、例えば1〜5個、好適には1〜4個、より好適には1〜3個含有されていることが好ましく、好適には改変型フラグメント中に含まれるアミノ酸配列(m)と同じ個数含有されていることが好ましい。
【0027】
改変型フラグメント中の2個以上のアミノ酸配列(m)と1個以上のアミノ酸配列(n)の位置関係については、本発明の所望の効果が得られるものであれば、特に限定はないが、例えば少なくとも1つのアミノ酸配列(m)に対してC末端側にアミノ酸配列(n)が連結されているものが好ましい。また、改変型フラグメント中のN末端側にはアミノ酸配列(m)が位置しており、C末端側にはアミノ酸配列(n)が位置していることが好ましい。より好適には、改変型フラグメント中において、アミノ酸配列(m)とアミノ酸配列(n)が交互に位置していることが好ましい。
【0028】
この改変型フラグメントを構成するアミノ酸数としては、特に限定はないが、好適には100〜3000アミノ酸、より好適には150〜2800アミノ酸、更に好適には200〜2600アミノ酸である。
【0029】
更に、改変型フラグメントは本発明の所望の効果が得られるものであれば、その他のアミノ酸残基を含んでいてもよい。例えば、メチオニンやHisタグ配列、リンカー等に由来するアミノ酸残基が含まれていても良い。改変型フラグメントポリペプチドのアミノ酸配列に1もしくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも、所望の効果を有する限り本発明に使用することができる。
【0030】
本発明において、改変型フラグメントとしては、例えば配列番号22で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H296−H296)、配列番号23で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H296−H296−H296−HT)、配列番号24で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(CH296−CH296−HT)、配列番号25で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H105−H105−HT)、配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H296−H296−HT)、配列番号27で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H296−H296−H296)、配列番号28で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H105−H105)、配列番号29で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H271−H296)、配列番号30で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H296−H271)、配列番号31で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(15aaH105−H105−HT)、配列番号32で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(15aaH105−H105)、配列番号33で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H105−H105Nc−HT)、配列番号34で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H105−H105Nc)が例示される。
【0031】
H296−H296は、N末端側から順にIII−12、III−13、III−14、CS−1、アラニン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0032】
H296−H296−H296−HTは、N末端側から順にHisタグ配列(MNHKVHHHHHHIEGRH)、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1、ヒスチジン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1、ヒスチジン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0033】
CH296−CH296−HTは、N末端側から順にHisタグ配列(MNHKVHHHHHHIEGRH)、メチオニン、III−8、III−9、III−10、アスパラギン酸、リジン、プロリン、セリン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1、ヒスチジン、メチオニン、III−8、III−9、III−10、アスパラギン酸、リジン、プロリン、セリン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0034】
H105−H105−HTは、N末端側から順にHisタグ配列(MNHKVHHHHHHIEGRH)、メチオニン、III−14、CS−1、ヒスチジン、メチオニン、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0035】
H296−H296−HTは、N末端側から順にHisタグ配列(MNHKVHHHHHHIEGRH)、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1、ヒスチジン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0036】
H296−H296−H296は、H296−H296−H296−HTのN末端側のHisタグ配列を除いたポリペプチドであり、H296−H296−H296−HTから公知の方法でHisタグ配列を切断して製造することができる
H105−H105は、H105−H105−HTのN末端側のHisタグ配列を除いたポリペプチドであり、H105−H105−HTから公知の方法でHisタグ配列を切断して製造することができる。
【0037】
H271−H296は、N末端側から順にIII−12、III−13、III−14、アラニン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0038】
H296−H271は、N末端側から順に、III−12、III−13、III−14、CS−1、アラニン、メチオニン、III−12、III−13、III−14で構成されるポリペプチドである。
【0039】
15aaH105−H105−HTは、N末端側から順にHisタグ配列(MNHKVHHHHHHIEGRH)、メチオニン、III−13のC末端側の15アミノ酸、II−14、CS−1、アラニン、メチオニン、アラニン、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。
【0040】
15aaH105−H105は、15aaH105−H105−HTのN末端側のHisタグ配列を除いたポリペプチドであり、15aaH105−H105−HTから公知の方法でHisタグ配列を切断して製造することができる。
【0041】
H105−H105Nc−HTは、N末端側から順にHisタグ配列(MNHKVHHHHHHIEGRH)、メチオニン、III−14、CS−1、アラニン、メチオニン、アラニン、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。なお、当該ポリペプチドは、前述のH105−H105−HTと比較して、CS−1とIII−14の間に含まれるリンカー部分の2アミノ酸が異なるのみである。
【0042】
H105−H105Ncは、H105−H105Nc−HTのN末端側のHisタグ配列を除いたポリペプチドであり、H105−H105Nc−HTから公知の方法でHisタグ配列を切断して製造することができる。なお、当該ポリペプチドは、前述のH105−H105と比較して、CS−1とIII−14の間に含まれるリンカー部分の2アミノ酸が異なるのみである。
(2)リンパ球の製造方法
以下、本発明のリンパ球の製造方法について具体的に説明する。
【0043】
本発明のリンパ球の製造方法は、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下にリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養する工程を包含する方法である。抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、リンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養する際に使用される固相、例えば細胞培養用器材や細胞培養用担体の表面に固定化して使用される。
【0044】
従来、例えば抗CD3抗体は5μg/mLの濃度の溶液を固定化すべき固相と接触されることにより、固定化処理が実施されてきた。本発明者らはこの抗CD3抗体溶液の濃度を5μg/mL未満とした場合であっても、フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドを共存させた場合には実質的にリンパ球の増殖率の低下が起こらないことを見出した。すなわち、その効果を低下させることなく抗CD3抗体の使用量を低減させることが可能であることを見出した。
【0045】
本発明に使用される抗CD3抗体としては、特に本発明を限定するものではないが、好適には抗ヒトCD3モノクローナル抗体、より好適にはOKT3[Science(サイエンス)、1979年、第206巻、第347〜349頁]が例示される。
【0046】
抗CD3抗体の固定化は公知の方法で実施すればよいが、例えば、国際公開第97/18318号パンフレット、ならびに国際公開第00/09168号パンフレットに記載のフィブロネクチンのフラグメントの固定化と同様の方法により実施することができる。固定化に使用される溶液中の抗CD3抗体の濃度は0μg/mL超かつ5μg/mL未満であり、好ましくは0.001〜3μg/mL、より好ましくは0.01〜2μg/mL、特に好ましくは0.1〜1μg/mLの濃度のCD3抗体溶液で固定化が実施される。
【0047】
抗CD3抗体を固定化する固相は、細胞培養に使用可能であり、リンパ球又はリンパ球の前駆細胞の培養の際に前記の細胞に接触するものであれば限定はない。例えばシャーレ、フラスコ、バッグ等の細胞培養器材(開放系のもの、及び閉鎖系のもののいずれをも含む)、又はビーズ、メンブレン、スライドガラス等の細胞培養用担体に抗CD3抗体を固定化することができる。
【0048】
本発明には、抗CD3抗体とともに前記(1)に記載されたフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが使用される。当該ポリペプチドを固相に固定化する際には、従来、リンパ球の培養時の固定化に使用されていた濃度(例えば25μg/mL)の溶液を使用することができる。固定化時のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド溶液の濃度は、所望のリンパ球の増殖率が得られるように適宜設定すればよい。フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの共存により、抗CD3抗体の固定化量の減少によるリンパ球の増殖率の低下が抑制される。例えば、固相の固定化に使用する溶液中の抗CD3抗体の濃度を0.01〜3μg/mLとした場合であっても、当該固相について1μg/mL以上、好ましくは5μg/mL以上の濃度のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド溶液による固定化処理を行っておけば、従来の抗CD3抗体の固定化量で達成される増殖率に匹敵するリンパ球の増殖率が得られる。
【0049】
本発明の他の態様においては、前記(1)に記載されたフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの固相への固定化が従来よりも低濃度のポリペプチドを含有する溶液で実施される。固定化に使用される溶液中のポリペプチドの濃度は0μg/mL超かつ25μg/mL未満であり、好ましくは0.5〜15μg/mL、特に好ましくは1〜10μg/mLの濃度の溶液が使用される。本態様では、抗CD3抗体の固定化に使用される溶液中の抗CD3抗体濃度には特に限定はなく、所望のリンパ球の増殖率が得られるように適宜設定すればよい。従来同様の濃度(例えば5μg/mL)とすることもできる。抗CD3抗体の共存により、フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの固定化量の減少によるリンパ球の増殖率の低下が抑制される。例えば、固相の固定化に使用する溶液中のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの濃度を1〜5μg/mLとした場合であっても、当該固相について0.05μg/mL以上、好ましくは0.1μg/mL以上の濃度の抗CD3抗体溶液による固定化処理を行っておけば、従来のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの固定化量で達成される増殖率に匹敵するリンパ球の増殖率が得られる。
【0050】
以上に記載された、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの固定化操作は。それぞれの成分を個別に含む2種の溶液を使用して段階的に行ってもよく、両成分を含む1種の溶液を使用して行ってもよい。
【0051】
以上のように、従来よりも低濃度となるよう調製した抗CD3抗体やフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの溶液を使用した固定化操作により得られる培養器材も、本発明の一態様である。
【0052】
前記の、従来よりも低濃度となるよう調製した抗CD3抗体やフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの溶液で培養用器材への前記の成分の固定化を行い、得られた培養器材でリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養することにより、これらの細胞は、例えば細胞増殖に関する刺激を受ける。本明細書においてはこのような刺激を「低濃度刺激」と記載することがある。
【0053】
以下、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下でのリンパ球又はリンパ球の前駆細胞の培養を本発明の培養工程と記載する。本発明のリンパ球の製造方法は、リンパ球製造における培養の全期間、もしくは任意の一部の期間において本発明の培養工程を実施することにより行われる。すなわち、リンパ球の製造工程の一部に前記培養工程を含むものであれば本発明に包含される。リンパ球の製造工程の一部に前記培養工程を含む場合、好適には培養初期に前記培養工程を含むことが好ましく、より好適には培養開始時に前記培養工程を含むことが好ましい。本発明を特に限定するものではないが、培養開始時から1〜7日間、好ましくは1〜5日間、本発明の培養工程が実施される。
【0054】
本発明において使用されるリンパ球又はその前駆細胞には特に限定はない。リンパ球としては、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、ナイーブT細胞、メモリーT細胞等が例示される。リンパ球の前駆細胞としては、リンパ球に分化しうる能力を有する細胞もしくは当該細胞を含有する細胞集団を本発明に使用することができ、末梢血単核球(PBMC)、臍帯血単核球、骨髄細胞、造血幹細胞等が例示される。培養に使用される細胞は製造するリンパ球の種類に応じて適宜設定できるが、当該細胞は生体から採取されたものをそのままもしくは凍結保存したもののいずれも使用することができる。更に、本発明の方法は抗原特異的細胞傷害活性を付与されたCTLの拡大培養にも有効である。
【0055】
本発明の製造方法により得られるリンパ球としては、特に限定するものではないが、例えばCTL、ヘルパーT細胞、リンフォカイン活性化細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、NK細胞、ナイーブT細胞、メモリーT細胞、γδT細胞、NKT細胞、これらのうちの少なくとも1種の細胞を含む細胞集団等が挙げられる。これらのうち、本発明は、抗原特異的CTL及びリンフォカイン活性化細胞、ナイーブT細胞の製造により適している。なお、本明細書においてリンフォカイン活性化細胞とは、リンパ球を含む末梢血液(末梢血白血球)や臍帯血、組織液等にIL−2を加えて、数日間培養することにより得られる機能的細胞集団を示す。このような細胞集団のことを一般的にリンフォカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)と称することがあるが、当該細胞集団には細胞傷害性を有さない細胞(例えば、ナイーブT細胞等)も含まれていることから、本願明細書においては当該細胞集団をリンフォカイン活性化細胞と称することとする。
【0056】
本発明の培養工程は、CTLになり得る細胞からの抗原特異的CTLへの誘導、抗原特異的CTLの維持、もしくは抗原特異的CTLやナイーブT細胞等の上記のリンパ球の拡大培養を目的とするものである。本発明のリンパ球の製造方法においては、該方法に供する細胞の種類や、培養の条件等を適宜調整してリンパ球の培養を行うことにより、養子免疫療法等に有用なリンパ球を製造することができる。なお、本明細書においてリンパ球とはリンパ球を含有する細胞群をも包含し、CTLとはCTLを含有する細胞群をも包含するものとする。培養に使用される細胞は製造するリンパ球の種類に応じて適宜設定できるが、当該細胞は生体から採取されたものをそのままもしくは凍結保存したもののいずれも使用することができる。
【0057】
本発明の培養工程において使用される細胞培養器材としては、特に限定はないが、例えば、シャーレ、フラスコ、バッグ、大型培養槽、バイオリアクター等を使用することができる。なお、バッグとしては、例えば、細胞培養用COガス透過性バッグを使用することができる。また、工業的に大量のリンパ球を製造する場合には、大型培養槽を使用することができる。また、培養は開放系、閉鎖系のいずれでも実施することができるが、好適には得られるリンパ球の安全性の観点から閉鎖系で培養を行うことが好ましい。
【0058】
培養条件は、リンパ球の公知の培養条件で行なえばよく、通常の細胞培養に使用される条件を適用することができる。例えば、37℃、5%CO等の条件で培養することができる。また、適当な時間間隔で細胞培養液に新鮮な培地を加えて希釈したり、培地を新鮮なものに交換したり、細胞培養器材を交換することができる。使用される培地や、同時に使用されるその他の成分等は後述のとおり、製造するリンパ球の種類によって、適宜設定することができる。
【0059】
更に、国際公開第02/14481号パンフレットに記載された、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞の誘導に有効な酸性多糖、酸性オリゴ糖、酸性単糖及びそれらの塩からなる群より選択される化合物や、国際公開第03/016511号パンフレット下記(A)〜(D)から選択される物質を前記成分と共に用いて培養してもよい。
(A)CD44に結合活性を有する物質
(B)CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質
(C)成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質
(D)成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質
これらの成分の培地中の濃度は、所望の効果が得られれば特に限定されるものではない。また、これらの成分は培地中に溶解して共存させる他、前記のような適切な固相に固定化して使用してもよい。なお、上記の各種物質は単独で、もしくは2種以上混合して用いることができる。
【0060】
本発明のリンパ球の培養工程に使用される培地としては、細胞培養に使用される公知の培地を使用すればよく、更に後述するとおり製造するリンパ球の種類に応じて各種サイトカイン等を添加すれば良い。
【0061】
本発明のリンパ球の培養工程においては、培地中に血清や血漿を添加することもできる。これらの培地中への添加量は特に限定はないが、0超〜20容量%、特に自己由来の血清又は血漿を用いる場合、患者への負担を考慮して、0超〜5容量%とするのが好ましい。また、リンパ球の培養工程において、培地中の血清や血漿濃度は段階的に低減させることができる。例えば、リンパ球の培養工程において培地の交換や添加を行う際に、新たな培地中の血清や血漿濃度を低く調整することにより、使用する血漿や血漿を低減させてリンパ球の培養を実施することができる。このように、培地中の血清や血漿の添加量を低減させることができることは、本発明の有効な効果の1つである。なお、血清又は血漿の由来としては、自己(培養するリンパ球と由来が同じであることを意味する)もしくは非自己(培養するリンパ球と由来が異なることを意味する)のいずれでも良いが、好適には安全性の観点から自己由来のものが使用できる。
【0062】
例えば、本発明の方法において、リンパ球の拡大培養を行う場合、本発明において使用される培養開始時の細胞数としては、特に限定はないが、例えば1cell/mL〜1×10cells/mL、好適には10cells/mL〜5×10cells/mL、更に好適には1×10cells/mL〜2×10cells/mLが例示される。
【0063】
(2)−1 リンフォカイン活性化細胞の製造方法
以下、本発明の製造方法によりリンフォカイン活性化細胞を製造する例(以下、本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法と称することがある)について詳細に記載する。
【0064】
本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法は、リンフォカイン活性化細胞になり得る能力を有する細胞を用いて、IL−2の存在下で本発明の培養工程を実施することを特徴とする。ここで本発明の培養工程の実施は、培養の全期間であっても一部の期間であってもよく、好適には培養開始時に本発明の培養工程を実施することが好ましい。本発明の培養工程の培養期間については、例えば1〜10日、好適には2〜8日、より好適には3〜7日が好ましく、より高い拡大培養率を実現する観点からは3日以上が好ましい。
【0065】
リンフォカイン活性化細胞になり得る能力を有する細胞としては、特に限定されるものではなく、例えばPBMC、NK細胞、臍帯血単核球、骨髄細胞、造血幹細胞、これらの細胞を含有する血液成分等が挙げられ、血球系細胞であれば使用できる。また、前記細胞を含有する材料、例えば末梢血液、臍帯血等の血液や、血液から赤血球や血漿等の成分を除去したもの、骨髄液等を使用することができる。
【0066】
また、リンフォカイン活性化細胞を培養するための一般的な条件は、公知の条件〔例えば、細胞工学、1995年、第14巻、第223〜227頁;組織培養、1991年、第17巻、第192〜195頁;The Lancet(ザ ランセット)、2000年、第356巻、第802〜807頁;Current Protocols in Immunology(カレント プロトコル イン イムノロジー)、補遺 17、UNIT7.7を参照〕に従えばよい。培養条件は特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を適用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件下で培養することができる。この培養は通常、2〜15日程度実施され、培養初期に本発明の培養工程を実施することが好ましいことは前述のとおりである。また、適当な時間間隔で細胞培養液を希釈する工程、培地を交換する工程もしくは細胞培養器材を交換する工程を行っても良い。
【0067】
使用される培地については特に限定はなく、リンパ球の培養に適した公知の培地を使用することができる。また、本発明の有効成分以外に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。好適には、IL−2を含有する培地が本発明に使用される。IL−2の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば0.01〜1×10U/mL好適には0.1〜1×10U/mLである。
【0068】
本発明の一つの態様では、細胞に副刺激を与えるために抗CD28抗体、特に好適には抗ヒトCD28モノクローナル抗体を共存させることもできる。また、レクチン等のリンパ球刺激因子を共存させてもよい。更に、これらの成分は前述のとおり、適当な固相に固定化して使用することもできる。
【0069】
本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法により得られた細胞は、実施例6及び7に記載のとおり、CD45RA陽性CCR7陽性細胞や、CD45RA陽性CCR7陽性CD62L陽性細胞の比率が高い。すなわち、当該方法により得られるリンフォカイン活性化細胞はナイーブT細胞を高比率に含んでいる細胞であり、養子免疫療法への利用に極めて適している。
【0070】
更に、実施例9に記載のとおり、当該細胞は生体内での増殖・生存作用が強く、その上ナイーブT細胞を高比率で維持する。このことは、当該細胞が生体内で抗原提示細胞より抗原提示を受け、特異的CTLに誘導され増殖する効率が高いことを示しており、養子免疫療法への利用に非常に有用である。
【0071】
(2)−2 外来遺伝子の導入工程を包含する本発明のリンパ球の製造方法
本発明は、前述したリンパ球の製造方法において、更に外来遺伝子を導入する工程を包含するリンパ球の製造方法も提供する。すなわち、本発明は、その一態様として、リンパ球に外来遺伝子を導入する工程を更に含むリンパ球の製造方法を提供する。なお、「外来」とは、遺伝子導入対象のリンパ球に対して外来であることをいう。
【0072】
本発明のリンパ球の製造方法を行うことにより、培養されるリンパ球の増殖能が増強される。よって、本発明のリンパ球の製造方法を、遺伝子の導入工程と組み合わせることにより、遺伝子の導入効率の上昇が期待される。
【0073】
外来遺伝子の導入手段には特に限定はなく、公知の遺伝子導入方法により適切なものを選択して使用することができる。遺伝子導入の工程は、リンパ球の製造の際、任意の時点で実施することができる。例えば、前記本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法中の細胞増殖時に実施するのが好適である。
【0074】
前記の遺伝子導入方法としては、ウイルスベクターを使用する方法、該ベクターを使用しない方法のいずれもが本発明に使用できる。それらの方法の詳細についてはすでに多くの文献が公表されている。
【0075】
前記ウイルスベクターには特に限定はなく、通常、遺伝子導入方法に使用される公知のウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、シミアンウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はセンダイウイルスベクター等が使用される。特に好適には、ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はシミアンウイルスベクターが使用される。上記ウイルスベクターとしては、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させたものが好適である。また、遺伝子導入の際に導入効率を向上させる物質を使用してもよく、例えばレトロネクチン(登録商標、タカラバイオ社製)やその他のフィブロネクチン フラグメントを使用することもできる。
【0076】
レトロウイルスベクターならびにレンチウイルスベクターは、当該ベクターが導入される細胞の染色体DNA中に該ベクターに挿入されている外来遺伝子を安定に組み込むことができ、遺伝子治療等の目的に使用されている。当該ベクターは分裂、増殖中の細胞に対する感染効率が高いことから、本発明における、リンパ球の製造工程、例えば、拡大培養の工程において遺伝子導入を行なうのに好適である。
【0077】
ウイルスベクターを使用しない遺伝子導入方法としては、本発明を限定するものではないが、例えば、リポソーム、リガンド−ポリリジンなどの担体を使用する方法やリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などを使用することができる。この場合にはプラスミドDNAや直鎖状DNAに組み込まれた外来遺伝子が導入される。
【0078】
本発明においてリンパ球に導入される外来遺伝子には特に限定はなく、前記細胞に導入することが望まれる任意の遺伝子を選ぶことができる。このような遺伝子としては、例えば、タンパク質(例えば、酵素、サイトカイン類、レセプター類等)をコードするものの他、アンチセンス核酸やsiRNA(small interfering RNA)、リボザイムをコードするものが使用できる。また、遺伝子導入された細胞の選択を可能にする適当なマーカー遺伝子を同時に導入してもよい。
【0079】
前記の外来遺伝子は、例えば、適当なプロモーターの制御下に発現されるようにベクターやプラスミド等に挿入して使用することができる。また、効率のよい遺伝子の転写を達成するために、プロモーターや転写開始部位と協同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列やターミネーター配列がベクター内に存在していてもよい。また、外来遺伝子を相同組換えにより導入対象のリンパ球の染色体へ挿入することを目的として、例えば、該染色体における該遺伝子の所望の標的挿入部位の両側にある塩基配列に各々相同性を有する塩基配列からなるフランキング配列の間に外来遺伝子を配置させてもよい。導入される外来遺伝子は天然のものでも、又は人工的に作製されたものでもよく、あるいは起源を異にするDNA分子がライゲーション等の公知の手段によって結合されたものであってもよい。更に、その目的に応じて天然の配列に変異が導入された配列を有するものであってもよい。
【0080】
本発明の方法によれば、例えば、癌等の患者の治療に使用される薬剤に対する耐性に関連する酵素をコードする遺伝子をリンパ球に導入して該リンパ球に薬剤耐性を付与することができる。そのようなリンパ球を用いれば、養子免疫療法と薬剤療法とを組み合わせることができ、従って、より高い治療効果を得ることが可能となる。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、多剤耐性遺伝子(multidrug resistance gene)が例示される。
【0081】
一方、前記の態様とは逆に、特定の薬剤に対する感受性を付与するような遺伝子をリンパ球に導入して、該薬剤に対する感受性を付与することもできる。かかる場合、生体に移植した後のリンパ球を当該薬剤の投与によって除去することが可能となる。薬剤に対する感受性を付与する遺伝子としては、例えば、チミジンキナーゼ遺伝子が例示される。
【0082】
その他、導入する遺伝子としては、標的細胞の表面抗原を認識するTCRをコードする遺伝子や、標的細胞の表面抗原に対する抗体の抗原認識部位を有し、かつTCRの細胞内領域(CD3等)を含むキメラレセプターをコードする遺伝子が例示される。
【0083】
(3)本発明の製造方法により得られるリンパ球、当該リンパ球を含有する医薬、当該医薬を用いた疾患の治療方法
更に本発明は、上記の本発明の製造方法で得られたリンパ球や当該リンパ球を含有する細胞集団、前期細胞集団から分離された細胞亜集団を提供する。また、本発明は当該リンパ球等を有効成分として含有する医薬(治療剤)を提供する。
【0084】
本発明の製造方法により得られるリンパ球や細胞集団を含有する治療剤は養子免疫療法への使用に適している。養子免疫療法においては、患者の治療に適したリンパ球が、例えば静脈より患者に投与される。当該治療剤は後述の疾患やドナーリンパ球輸注での使用において非常に有用である。当該治療剤は製薬分野で公知の方法に従い、例えば、本発明の方法により調製されたリンパ球や細胞集団を有効成分として、例えば、公知の非経口投与に適した有機又は無機の担体、賦形剤、安定剤等と混合することにより調製できる。なお、治療剤における本発明のリンパ球の含有量、治療剤の投与量、当該治療剤に関する諸条件は公知の養子免疫療法に従って適宜決定でき、特に限定はないが、例えば、成人一日あたり、好適には1×10〜1×1012cells/日、より好ましくは、5×10〜5×1011cells/日、更に好ましくは1×10〜1×1011cells/日が例示される。通常、リンパ球は注射や点滴により静脈、動脈、皮下、腹腔内等へ投与される。
【0085】
本発明の医薬の投与においては、特に限定はないが、例えば、治療しようとする疾病に対してワクチンとして機能しうる成分とともに投与することもできる。例えば、がんの治療に際しては腫瘍抗原、抗原を提示しうる能力を有する細胞、抗原の提示された細胞、人為的操作により増殖能を失った腫瘍組織由来の細胞や、腫瘍組織からの抽出物などを投与することもできる。また、当該医薬の投与においては、リンパ球刺激因子、例えば、抗CD3抗体、抗CD28抗体、サイトカイン(IL−2、IL−15、IL−7、IL−12、IFN−γ,IFN−α、IFN−β等)、ケモカイン等を適宜投与することもできる。なお、本願明細書において、リンパ球刺激因子とはリンパ球増殖因子を包含するものである。
【0086】
本発明の方法により製造されるリンパ球を投与される疾患としては、特に限定はないが、例えば、癌、白血病等の悪性腫瘍疾患やウイルス、細菌、真菌が原因となる感染性疾患(例えば肝炎、インフルエンザ、AIDS、結核、MRSA感染症、VRE感染症、深在性真菌症)が例示される。また、前述のように更に外来遺伝子を導入した場合は、各種遺伝子疾患に対しても効果が期待される。また、本発明の方法により製造されるリンパ球は骨髄移植や放射線照射後の感染症予防、再発白血病の寛解を目的としたドナーリンパ球輸注等にも利用できる。
【0087】
本発明の方法により製造されるリンパ球の医薬の製造における使用、例えばがん性疾患や感染性疾患治療用の医薬の製造における使用も本発明に包含される。
【0088】
また、本発明の別の態様として、前記医薬を用いた疾患の治療方法が提供される。当該疾患の治療方法は、前述のリンパ球の製造方法により製造されたリンパ球を用いることを特徴とし、当該医薬の投与の諸条件については、公知の養子免疫療法や前述の医薬の投与の開示に従って実施できる。
【0089】
前記のとおり、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下に拡大培養されたリンフォカイン活性化細胞はナイーブT細胞を高比率に含んでいる。ナイーブT細胞は、生体に移植された後に抗原提示細胞により抗原の提示を受け、この抗原を認識するCTLやヘルパーT細胞などに分化することにより、治療が望まれる疾患への治療効果を発揮できるようになる。
【0090】
下記実施例に示すように、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下に拡大培養されたリンフォカイン活性化細胞は、他の方法で拡大培養されたリフォカイン活性化細胞よりもテロメアが長く、輸注後の生体内において、長期生存が可能である。また他の方法で拡大培養されたリンフォカイン活性化細胞よりも高い生着率を示す。すなわち、抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下に拡大培養されたリンフォカイン活性化細胞は、生体内において安定に維持されることができ、より高い頻度で抗原提示されるため、優れた治療効果を奏する。すなわち本発明により、固定化された抗CD3抗体、固定化されたフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド及びIL−2の存在下に拡大培養された、生体に投与された後に高い生体内生着率、安定した表現型の維持率を示し、より高い頻度で抗原提示されるリンフォカイン活性化細胞が提供される。また固定化された抗CD3抗体、固定化されたフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド及びIL−2の存在下にリンパ球又はリンパ球前駆細胞を拡大培養する工程を包含する、生体に投与された後に高い生体内生着率、安定した表現型の維持率を示し、より高い頻度で抗原提示されるリンフォカイン活性化細胞の製造方法が提供される。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0092】
調製例1 フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド(FNフラグメント)の調製
C−274(フィブロネクチンの細胞結合ドメインからなるポリペプチド、配列番号9)、H−271(フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインからなるポリペプチド、配列番号10)、H−296(フィブロネクチンのヘパリン結合ドメイン及びCS−1ドメインからなるポリペプチド、配列番号11)、CH−271(フィブロネクチンの細胞結合ドメイン及びヘパリン結合ドメインからなるポリペプチド、配列番号12)、C−CS1(フィブロネクチンの細胞結合ドメイン及びCS−1ドメインからなるポリペプチド、配列番号14)は、それぞれJ. Biochem.(ジャーナル オブ バイオケミストリー)、1991年、第110巻、第284〜291頁の記載に基づいて調製した。
【0093】
H296−H296(配列番号22)、H105−H105(配列番号28)は特許文献4の記載に基づいて調製した。
【0094】
実施例1 凍結PBMCにおける細胞増殖の促進−1
(1)PBMCの分離及び保存
インフォームド・コンセントの得られた健常人より成分採血を実施後、採血液をFicoll−paqueを用いて、PBMCを回収した。採取したPBMCはRPMI1640培地(インビトロジェン社製又は和光純薬社製)に懸濁後、CP−1(極東製薬工業社製)と25%ヒト血清アルブミン(ブミネート:バクスター社製、以下HSAと記載)を17:8の割合で混合した保存液を等量加えて液体窒素中にて保存した。使用時には、これら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mLのDNase(カルビオケム社製)を含むGT−T551(タカラバイオ社製)で洗浄後、各実験に供した。
【0095】
(2)抗CD3抗体及びCH−296の固定化
以下の実験で使用する培養器材に抗CD3抗体(OKT3、ヤンセンファーマ社製)及びレトロネクチン(登録商標、タカラバイオ社製、以下CH−296と記載)を固定化した。すなわち96穴細胞培養プレート(コーニング社製)に0.01−5μg/mLの抗CD3抗体のみを含むACD−A液(テルモ社製)あるいは、0.01−5μg/mLの抗CD3抗体及び1−25μg/mLのCH−296を含むACD−A液を80μL/ウエルずつ添加した。この培養器材を室温で5時間インキュベート後、培養器材から当該ACD−A液を吸引除去後、各ウエルをダルベッコPBS(日水製薬社製又はインビトロジェン社製、以下DPBSと記載)で2回、RPMI1640培地で1回洗浄し各実験に供した。
【0096】
(3)細胞の培養とチミジン取り込み試験
実施例1−(1)で分離したPBMC 0.3×10cellsを0.5%ヒトAB型血清(LONZA社製、以下血清と記載)、終濃度200U/mLのIL−2(製剤名Proleukin、カイロン社製)を含むGT−T551 0.2mLに懸濁し、実施例1−(2)で調製した抗CD3抗体固定化プレート、又は抗CD3抗体及びCH−296固定化プレートに添加し、これらのプレートを37℃、5%COインキュベータ内で培養した(培養0日目)。培養3日目に終濃度0.1mCi/mL チミジン(Thymidine[methyl−3H])(Perkin Elmer社製)を含む0.5%血清含有GT−T551を10μL/ウエルずつ添加し、37℃(5%CO存在下)で16時間インキュベートした。培養後の細胞をセルハーベスター(SKATORON instruments社製)を用いて、FilterMAT(SKATORON instruments社製)上に回収し、エタノール(ナカライテスク社製)で固定後、水で洗浄し、乾燥させた。細胞へのチミジン取り込み活性は、細胞が固定化されたFilterMATの放射活性を、Aquasol−2(Perkin Elmer社製)をシンチレーションカクテルとして、液体シンチレーションカウンターLS6500(ベックマン・コールター社製)により測定することで評価した。2人のドナーについて試験を行い、各群における放射活性の値(cpm)を表1−1及び表1−2に示す。なお、表中の値はN=4の平均値を示す。
【0097】
【表1−1】

【0098】
【表1−2】

【0099】
表1−1及び表1−2に示されるように、どちらのドナーにおいても、抗CD3抗体のみを固定化したプレートを使用した場合には固定化時の抗CD3抗体濃度の低下に伴ってチミジン取り込み活性の低下が見られた。しかしながら、0.3μg/mLの抗CD3抗体溶液による固定化と5μg/mL又は25μg/mLのCH−296溶液による固定化を組み合わせた場合のチミジン取り込み活性は、従来のプロトコルである5μg/mLの抗CD3抗体溶液と25μg/mLのCH−296溶液を組み合わせた場合と同等であった。すなわち、固定化時の抗CD3抗体の濃度を低下させても、CH−296を共存させることで従来どおりの細胞増殖促進効果が得られることが示された。
【0100】
実施例2 凍結PBMCにおける細胞増殖の促進−2
(1)細胞の培養とチミジン取り込み試験
実施例1と同様の方法で、細胞の培養とチミジン取り込み試験を行った。ただし、抗CD3抗体の固定化には0.1μg/mL溶液を使用し、CH−296以外のFNフラグメントとしてH−296、C−274、H−271、CH−271、C−CS1、H296−H296、H105−H105を表中の各濃度(5−20μg/mL)に調製して、抗CD3抗体と各FNフラグメントを固定化した。各組み合わせの結果の放射活性の値を表2に示す。なお、表中の値はN=3の平均値を示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示されるように、0.1μg/mLの抗CD3抗体溶液により固定化を行ったプレートであっても、更にFNフラグメントを固定化した場合の放射活性は、抗CD3抗体のみが前記の濃度で固定化されている場合の放射活性よりも高く、それぞれチミジン取り込み量が多いことが確認された。すなわち0.1μg/mLの抗CD3抗体溶液による固定化と各濃度のFNフラグメントの固定化の組み合わせにおける細胞増殖促進効果が示された。
【0103】
実施例3 新鮮PBMCにおける細胞増殖の促進
(1)PBMC及び非働化済み血漿の分離
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを用いた50mL分の採血を実施後、遠心し血漿画分とPBMCを含む細胞画分をそれぞれ回収した。血漿画分は、56℃、30分非働化処理を行った後、遠心後の上清を非働化済み血漿として回収し、各実験に供した。細胞画分は、Ficoll−paqueによりPBMCを回収、洗浄し、各実験に供した。
【0104】
(2)細胞の培養とチミジン取り込み試験
実施例1と同様の方法で、細胞の培養とチミジン取り込み試験を行った。ただし、抗CD3抗体の固定化には0.01−5μg/mLの抗CD3抗体溶液を使用し、CH−296非固定化群とCH−296を5μg/mLの溶液で固定化した抗CD3抗体及びCH−296固定化群を作製した。また、培養用培地は前記の非働化済み血漿を終濃度0.6%となるよう含有させたGT−T551(以下0.6%血漿含有GT−T551と記載)を使用した。
【0105】
各群における放射活性の値を表3に示す。なお、表中の値はN=4の平均値を示す。
【0106】
【表3】

【0107】
表3に示されるように、新鮮PBMCに対して0.01−1μg/mLの抗CD3抗体溶液と5μg/mLのCH−296溶液を組み合わせて固定化を行ったプレートで刺激を行った場合のチミジン取り込み活性は、5μg/mLの抗CD3抗体溶液と5μg/mLのCH−296溶液を組み合わせた場合に匹敵することが確認された。すなわち低濃度の抗CD3抗体溶液での固定化でもCH−296溶液と組み合わせることで細胞増殖促進効果が示された。
【0108】
実施例4 restingT細胞における細胞増殖の促進−1
(1)restingT細胞の調製
実施例1−(1)と同様の方法で調製したPBMCを0.5%血清含有GT−T551で1×10cells/mLに調製し、48穴細胞培養用プレート(コーニング社製)に1mL播種した。更に、IL−2を終濃度100U/mL、Phytohemaaglutinin(シグマ社製)を終濃度2μg/mLとなるように添加し、5%CO中37℃で培養した。培養4日目に、0.2×10cells/mLとなるように、培養7日目、11日目には、0.5×10cells/mLとなるように0.5%血清含有GT−T551を添加した。培地添加時には各回ともIL−2を終濃度50U/mLとなるように添加した。T25細胞培養フラスコ(コーニング社製)にて培養を継続し、14日目の細胞懸濁液を回収してrestingT細胞として各実験に供した。
【0109】
(2)細胞の培養とチミジン取り込み試験
実施例4−(1)で調製したrestingT細胞を用いて、実施例1と同様の方法で、細胞の培養とチミジン取り込み試験を行った。ただし、抗CD3抗体は0.01−0.3μg/mL溶液で固定化を実施したうえ、CH−296を使用しない抗CD3抗体のみ固定化した群と、更に1−10μg/mLのCH−296溶液で固定化を行った抗CD3抗体とCH−296とを固定化した群を設定した。なお2人のドナー由来のrestingT細胞について試験を行った。各初期刺激条件における放射活性の値を表4−1(ドナーA由来restingT細胞)及び表4−2(ドナーB由来restingT細胞)に示す。なお、表中の値はN=4の平均値を示す。
【0110】
【表4−1】

【0111】
【表4−2】

【0112】
表4−1、表4−2に示されるように、restingT細胞における初期刺激として抗CD3抗体の固定化時の濃度を0.01−0.3μg/mLに低下させた場合であっても、抗CD3抗体に加えて5μg/mL又は10μg/mLの溶液でCH−296を固定化した場合には、いずれのドナーにおいても高いチミジン取り込み活性が確認された。すなわち新鮮PBMCと同様に、T細胞に純化されたrestingT細胞においても低濃度抗CD3抗体溶液とCH−296溶液を組み合わせて固定化したプレートで細胞増殖が促進されることが示された。
【0113】
実施例5 restingT細胞における細胞増殖の促進−2
(1)細胞の培養とチミジン取り込み試験
実施例4と同様の方法で細胞の培養とチミジン取り込み試験を行った。ただし、細胞の刺激は実施例2と同様の方法で行った。各初期刺激条件の結果の放射活性の値を表5に示す。なお、表中の値はN=4の平均値を示す。
【0114】
【表5】

【0115】
表5に示されるように、0.1μg/mLの抗CD3抗体溶液で固定化を行い、かつFNフラグメントを共存させた場合には、FNフラグメントを使用しない場合よりも放射活性が高く、チミジン取り込み量が多いことが確認された。すなわち、固定化時の抗CD3抗体溶液の濃度を低下させたことに起因する細胞増殖促進効果の低下を、各FNフラグメントが抑制しうることが示された。
【0116】
実施例6 FNフラグメントCH−296を用いた低濃度刺激によるリンパ球の拡大培養
(1)抗CD3抗体及びCH−296の固定化
12ウエルプレート(コーニング社製)に0.03−10μg/mLの抗CD3抗体のみを含むACD−A液、あるいは0.03−10μg/mLの抗CD3抗体と5μg/mLのCH−296を含むACD−A液を0.45mL/ウエルずつ添加したのち5%CO中、37℃で5時間インキュベートした。使用直前に当該ACD−A液を吸引、除去後、各ウエルをDPBSで2回、RPMI1640培地で1回洗浄し各実験に供した。
【0117】
(2)リンパ球の拡大培養
実施例6−(1)で調製した抗CD3抗体固定化プレート、又は抗CD3抗体及びCH―296固定化プレートに0.5%血清含有GT−T551を4.77mL/ウエルで添加しておき、次いで実施例1−(1)で調製したPBMCを0.5%血清含有GT−T551に1.0×10cells/mLとなるように懸濁した細胞懸濁液を0.53mL/ウエルずつ添加した。各ウエルに終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO中37℃で培養した(培養0日目)。培養開始4日目に、各群の培養液を0.5%血清含有GT−T551を用いて約8.3倍希釈し、この希釈液約7.8mLをT25細胞培養フラスコを立てたものに移し、更に終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始7日目及び10日目には、各群の培養液をGT−T551を用いて2倍希釈して終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、得られた培養液15.6mLをT25細胞培養フラスコを立てたものに移して培養を継続した。培養開始後7日目、10日目及び13日目に生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較して拡大培養率を算出した。その結果を表6−1に示す。表6−1は培養開始時を1とした時のそれぞれの日での拡大培養率(倍)を示す。なお、表中の値はN=2の平均値を示す。
【0118】
【表6−1】

【0119】
表6−1に示されるように、低濃度の溶液を使用して抗CD3抗体及びCH―296が固定化された器材を用いた(低濃度刺激条件と呼ぶ)培養を含む工程により、抗CD3抗体単独での刺激と比較してリンパ球の拡大培養がより強く促進されることが確認された。
【0120】
(3)培養後のリンパ球のCD45RA陽性CCR7陽性CD62L陽性細胞の解析
実施例6−(2)で調製した培養開始7日目、10日目及び13日目の細胞をRD1標識マウス抗ヒトCD45RA抗体(ベックマンコールター社製)、FITC標識マウス抗ヒトCCR7抗体(R&D Systems社製)、PC5標識マウス抗ヒトCD62L抗体(eBioscience社製)により染色後、フローサイトメトリー(Cytomics FC500:ベックマンコールター社製)により解析した。その結果を表6−2に示す。表6−2はCD45RA陽性CCR7陽性CD62L陽性細胞の比率(%)を示す。なお表中の値はN=2の平均値を示す。
【0121】
【表6−2】

【0122】
表6−2に示されるように、抗CD3抗体とCH−296を固定化した培養器材を使用した群においては、抗CD3抗体のみを固定化した対照群と比較してCD45RA陽性CCR7陽性CD62L陽性細胞集団の比率が高い結果が得られた。すなわち、抗CD3抗体の固定化時の濃度が低くても、CH−296を組み合わせて用いることにより、生体内で高い細胞傷害活性を示す細胞への分化能の高いCD45RA陽性CCR7陽性CD62L陽性のナイーブT細胞を高効率で増殖できることが明らかとなった。
【0123】
実施例7 CH−296、抗ヒトCD28抗体、抗ヒト4−1BB抗体及びCD3/CD28ビーズを用いたリンパ球の拡大培養
(1)抗ヒトCD3抗体及びCH−296、抗ヒトCD28抗体、抗ヒト4−1BB抗体の固定化
抗CD3抗体(0.3μg/mL溶液)のみ、抗CD3抗体(0.3μg/mL溶液)及びCH−296(5μg/mL溶液)、抗CD3抗体(0.3μg/mL溶液)及び抗CD28抗体(5μg/mL溶液)、抗CD3抗体(0.3μg/mL溶液)及び抗4−1BB抗体(5μg/mL溶液)を含むACD−A液を、それぞれバッグ面積が86cmになるようにシールしたガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標) 215(タカラバイオ社製)に10.4mL/バッグずつ添加し、5%CO中37℃で5時間インキュベートした。上記のバッグは使用前に当該ACD−A液を除去し、RPMI1640培地で3回洗浄した後各実験に供した。
【0124】
(2)リンパ球の拡大培養
実施例3−(1)と同様の方法で4ドナーより分離した各PBMC 0.6×10cellsを120mLの0.6%血漿含有GT−T551に懸濁し、実施例7−(1)で作製した固定化条件の異なるCultiLife(登録商標) 215にそれぞれ添加した。なおCD3/CD28ビーズ使用群については、1%血清含有DPBSで洗浄したCD3/CD28ビーズ(Dynabeads CD3/CD28:インビトロジェン社製)を細胞数に対して3倍量添加し使用した。次に各バッグに終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO中37℃で培養した(培養0日目)。培養開始4日目に、各CultiLife(登録商標) 215内の細胞を懸濁し、この懸濁液120mLを380mLの0.6%血漿含有GT−T551を用いて希釈して何も固定化していないガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標) Eva(タカラバイオ社製)に移した。いずれの群についても終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養を継続し、培養開始7日目には各バッグに細胞懸濁液と等量のGT−T551を添加し2倍希釈した後、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始10日目には各バッグ内の細胞懸濁液を500mL抜き取った後、等量のGT−T551をバッグに添加し、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始10日目及び14日目に生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較して拡大培養率を算出した。4ドナーの平均値を表7−1に示す。CD3/CD28ビーズ使用群については3ドナーについて実施したため、3ドナーの平均値で示す。なお、CD3/CD28ビーズ使用群については、生細胞数計測時に細胞懸濁液から磁気ビーズ分離装置MPC−1(インビトロジェン社製)を用いてCD3/CD28ビーズを除去した。なお表中において「+」は「及び」を意味し、以降の表においても同様である。
【0125】
【表7−1】

【0126】
表7−1に示されるように、培養日数にかかわらず、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296を固定化した培養器材を使用することで、他群と比較して、高い拡大培養率が得られた。このことから、低濃度の溶液を用いて成分を固定化した培養器材を使用する手法においても、抗CD3抗体とCH−296の組み合わせはリンパ球拡大培養時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0127】
(3)CCR7陽性CD45RA陽性T細胞の解析
実施例7−(2)で調製した培養10日目及び培養14日目の細胞を実施例6−(3)と同様の方法でCCR7陽性CD45RA陽性T細胞の解析を行った。なお、CD62Lは測定していない。それぞれの陽性細胞の含有比率の4ドナー平均値を表7−2に示す。なお、CD3/CD28ビーズ使用群については3ドナーの平均値である。また、培養10日目の抗CD3抗体使用群の2ドナーについては解析に必要な細胞数が得られず未実施であったため、2ドナーの平均値を示す。
【0128】
【表7−2】

【0129】
表7−2に示されるように、培養日数にかかわらず、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296を固定化した培養器材を使用することで、他群と比較して、高い比率でCCR7陽性CD45RA陽性細胞集団が得られた。当該実施例より、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体とCH−296による低濃度刺激を施すことにより、CCR7陽性CD45RA陽性のナイーブT細胞を高効率で増殖できることが明らかとなった。
【0130】
実施例8 NOD/scidマウスにおける生着、ナイーブT細胞比率
(1)リンパ球の調製
実施例7−(2)と同様の方法でリンパ球拡大培養を行い、培養14日目の細胞を実施例1−(1)と同様の方法で凍結保存した。なお、固定化時の濃度は、抗CD3抗体は5μg/mLとし、CH−296は25μg/mLとした。また、CD3/CD28ビーズ使用群を設定した。
【0131】
(2)マウスと群構成
NOD/scidマウス(日本クレア社製)8週齢雌12匹を以下の表8−1に示す群構成とした。なお、各群はN=4とした。
【0132】
【表8−1】

【0133】
(3)抗アシアロGM1抗体の投与
抗アシアロGM1抗体処理はNOD/scidマウスにおいてNK細胞を除去しヒト細胞の生着を高めることが知られている。細胞の投与前日に、抗アシアロGM1抗体溶液(和光純薬社製)20μlを0.4%HSA含有生理食塩水0.38mLで希釈し、その全量をマウスの腹腔内に投与した。
【0134】
(4)投与細胞の調製と投与
実施例8−(1)で凍結保存したリンパ球を37℃水浴中にて急速融解した。各リンパ球は3.0×10cells/0.3mL/マウスになるように4%HSA含有生理食塩水に懸濁し投与用の細胞とした。細胞投与前にすべてのマウスをX線照射(350R)し、準備した細胞を0.3mL尾静脈内に投与した。
【0135】
(5)末梢血中ヒトT細胞の生着
細胞投与後7日目及び14日目にマウスより尾静脈採血を実施し、フローサイトメトリーにより移入したマウス末梢血中のヒトリンパ球の陽性率を%キメリズム[ヒトCD3陽性細胞含有率/(ヒトCD3陽性細胞含有率+マウスCD45陽性細胞含有率)×100%]として解析した。染色はFITC標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベックマンコールター社製)、PE標識ラット抗マウスCD45抗体(ベックマンコールター社製)を用いた。抗体反応後、ACK bufferを用いて溶血作業を2回繰り返した後、DPBSに懸濁しフローサイトメトリーに供した。その結果を表8−2に示す。表8−2はマウス末梢血中のヒトリンパ球の陽性率(%キメリズム)を示し、N=4の平均値を示す。
【0136】
【表8−2】

【0137】
表8−2に示されるように、細胞投与後7日目及び14日目についてRN−T群は、他群と比較して、高い%キメリズムを示した。つまり、抗CD3抗体とCH−296を使用し製造した細胞は、NOD/scidマウスの生体内でより高い生着能を有することが明らかとなった。
【0138】
(6)末梢血中ヒトT細胞のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞の解析
実施例8−(5)と同様の方法でRD1標識マウス抗ヒトCD45RA抗体、FITC標識マウス抗ヒトCCR7抗体及びPC5標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベックマンコールター社製)により細胞の染色を行った。ヒトCD3陽性T細胞集団について、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞の含有率を算出した。各群の平均を表8−3に示す。
【0139】
【表8−3】

【0140】
表8−3より、細胞投与後7日目及び14日目についてRN−T群は、他群と比較して、生着したヒトリンパ球におけるCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率が高い値を示した。抗CD3抗体とCH−296で刺激するとCD45RA陽性CCR7陽性のナイーブT細胞が効率よく増殖するが、NOD/scidマウスの生体内においてもその表現型を高いまま維持することが明らかとなった。
【0141】
実施例9 低濃度刺激条件により拡大培養したリンパ球のNOD/scidマウスにおける生着、ナイーブT細胞比率検討
(1)リンパ球の拡大培養
実施例7−(2)と同様の方法で10日間リンパ球拡大培養を行った。なお、抗CD3抗体を固定化時の濃度を5μg/mLとした群(OKT3−T群)、抗CD3抗体を5μg/mL、CH−296を25μg/mLとして固定化した群(RN−T群)を追加した。なおCD3/CD28ビーズで刺激した群は試験していない。
【0142】
(2)マウスと群構成
NOD/scidマウス9週齢雌25匹を以下の表9−1に示す群構成とした。なお、各群はN=5とした。
【0143】
【表9−1】

【0144】
(3)抗アシアロGM1抗体の投与
実施例8−(3)と同様にして抗アシアロGM1抗体を細胞投与前日に腹腔内に投与した。
【0145】
(4)投与細胞の調製と投与
実施例9−(1)で調製したリンパ球を実施例8−(4)と同様の方法により投与した。なお、投与用の細胞は5.0×10cells/0.3mL/マウスになるよう4%HSA含有生理食塩水に懸濁した。
【0146】
(5)末梢血中ヒトT細胞の生着
実施例8−(5)と同様にして、細胞投与後7日目のマウス末梢血中のヒトT細胞の%キメリズムを検討した。
【0147】
その結果を表9−2に示す。なお、表9−2は各群の平均値を示す。
【0148】
【表9−2】

【0149】
表9−2より、細胞投与7日目において低濃度刺激条件であるRN(L)−T群は、CD28(L)−T群と同程度に、他群より高い%キメリズムを示した。つまり、低濃度刺激条件で製造した細胞は、NOD/scidマウスの生体内で初期の段階でより高い生着能を有することが明らかとなった。
【0150】
(6)末梢血中ヒトT細胞のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞の解析
実施例8−(6)と同様の方法で染色を実施した。ヒトCD3陽性T細胞集団について、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞の含有率を算出した。各群の平均を表9−3に示す。
【0151】
【表9−3】

【0152】
表9−3より、細胞投与後7日目についてRN(L)−T群は、他の低刺激条件の群に比較して、移入したヒトリンパ球におけるCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率が高い値を示した。低濃度の抗CD3抗体溶液、CH−296溶液で固定化が実施された培養器材を使用し製造したリンパ球は、NOD/scidマウスの生体内においても移植前の表現型を高いまま維持することが明らかとなった。
【0153】
実施例10 NOGマウスにおける生着、細胞ポピュレーション検討
(1)リンパ球の拡大培養
実施例7−(2)と同様の方法で10日間リンパ球拡大培養を行った。なお、刺激条件は実施例8−(1)と同様とした。
【0154】
(2)マウスと群構成
NOGマウス(NOD/Shi―scid,IL―2γ KO)((財)実験動物中央研究所製)8週齢雌12匹を以下の表10−1に示す群構成とした。なお、各群はN=4とした。
【0155】
【表10−1】

【0156】
(3)投与細胞の調製と投与
実施例10−(1)で調製したリンパ球を5.0×10cells/0.3mL/マウスになるよう溶媒(4%HSA含有生理食塩水)に懸濁し、尾静脈内に投与した。
【0157】
(4)末梢血中ヒトT細胞の生着
実施例8−(5)と同様にして、細胞投与後8日目、14日目、21日目、28日目のマウス末梢血中のヒトT細胞の%キメリズムを検討した。
その結果を表10−2に示す。なお、表10−2は各群の平均値を示す。
【0158】
【表10−2】

【0159】
表10−2より、特に細胞投与後21日目までの初期の段階でRN−T群が他群に比較して高い値を示した。つまり、抗CD3抗体とCH−296を使用し製造した細胞は、NOGマウスの生体内で初期の段階でより高い生着能を有することが明らかとなった。
【0160】
(5)マウス末梢血中ヒトT細胞のCD4、CD8陽性率の検討
実施例10−(4)と同様にして、細胞投与後14日目、21日目、28日目の末梢血中のヒトT細胞におけるCD4及びCD8陽性率を検討した。染色は実施例8−(5)に用いた抗体にPC5標識マウス抗ヒトCD8抗体(ベックマンコールター社製)を加えた。ヒトCD3陽性T細胞集団について、CD8陽性T細胞の含有率を算出した。CD4陽性T細胞の含有率はヒトCD3陽性T細胞集団を100%とし、CD8陽性T細胞の割合を引いて求めた。その結果を表10−3に示す。
【0161】
【表10−3】

【0162】
表10−3より、細胞投与後、日数を経るにつれてCD8T細胞の比が減少するが、RN−T群においては28日目において他群に比較してCD8T陽性率が高い値を示した。すなわち、抗CD3抗体とCH−296を使用し製造した細胞はNOGマウスの生体内で高いCD8T細胞比率を保って生着できることが明らかとなった。
【0163】
(6)末梢血中ヒトT細胞のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞の解析
実施例8−(6)と同様の方法で染色を実施した。ヒトCD3陽性T細胞集団について、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞の含有率を算出した。各群の平均を表10−4に示す。
【0164】
【表10−4】

【0165】
表10−4より、細胞投与後いずれの段階においてもRN−T群は、他群と比較して、生着したヒトリンパ球におけるCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率が高い値を示した。抗CD3抗体とCH−296を使用し製造するとCD45RA陽性CCR7陽性ナイーブT細胞が効率よく増殖するが、NOGマウスの生体内においてもその表現型を高いまま維持することが明らかとなった。
【0166】
実施例11 NOD/scidマウスにおけるRN−Tのリンパ組織への集積
(1)リンパ球の調製
実施例7−(2)と同様の方法でリンパ球拡大培養を行い、培養14日目の細胞を実施例1−(1)と同様の方法で凍結保存した。なお、培養には抗CD3抗体(5μg/mL溶液を固定化に使用)のみを固定化したバッグ、抗CD3抗体及びCH−296(5μg/mLの抗CD3抗体溶液、25μg/mLのCH−296溶液を固定化に使用)を固定化したバッグを使用した。また、実施例7と同様のCD3/CD28ビーズ刺激群を設定した。
【0167】
(2)マウスと群構成
NOD/scidマウス(日本クレア社製)8週齢雌12匹を以下の表11−1に示す群構成とした。なお、各群はN=4とした。
【0168】
【表11−1】

【0169】
(3)抗アシアロGM1抗体の投与
実施例8−(3)と同様にして抗アシアロGM1抗体を細胞投与前日に腹腔内に投与した。
【0170】
(4)投与細胞の調製と投与
実施例11−(1)で調製したリンパ球を実施例8−(4)と同様の方法によりNOD/scidマウスに投与した。なお、投与用の細胞は7.0×10cells/0.3mL/マウスになるよう4%HSA含有生理食塩水に懸濁した。
【0171】
(5)末梢血中ヒトT細胞の生着及び絶対数の検討
細胞投与後7日目にマウスより尾静脈採血を実施し、移入したヒトリンパ球の陽性率(%キメリズム)及び絶対数[血液1μLあたりのhCD3陽性細胞数(個/μL)]をフローサイトメトリーにより測定した。すなわち、FITC標識マウス抗ヒトCD3抗体、PE標識ラット抗マウスCD45抗体と蛍光粒子浮遊液であるFlow−Count(ベックマンコールター社製)の混合液に等量の血液を添加し反応後、ACK bufferを用いた溶血操作を施してフローサイトメトリーに供した。その結果を表11−2に示す。なお、表11−2はマウス末梢血中のヒトリンパ球の陽性率(%キメリズム)及び血液1μLあたりのhCD3陽性細胞数(個/μL)を、N=4の平均値で示す。
【0172】
【表11−2】

【0173】
表11−2に示されるように、細胞投与後7日目のRN−T群は他群と同等の高い%キメリズムを示したが、血液1μLあたりのhCD3陽性細胞数は他群と比較してきわめて高い値を示した。つまり、抗CD3抗体とCH−296で刺激した細胞は、移植後の体内での増殖能が高いことが示された。
【0174】
(6)末梢リンパ組織へのヒトT細胞の生着及び集積の解析
細胞投与後7日目にマウスをネンブタール麻酔下で開腹、腹大動・静脈をハサミで切断することで放血殺した。その後に脾臓と左右両側の鼠径リンパ節を摘出した。鼠径リンパ節は各群4匹分をまとめて細胞調製に供した。摘出した脾臓及びリンパ節はスライドガラスで押しつぶして分散させ、細胞懸濁液としてフローサイトメトリー用のサンプルとした。脾臓についてはACK bufferによる溶血操作を実施した。染色はFITC標識マウス抗ヒトCD3抗体を用いた。その結果を表11−3に示す。なお、表11−3は脾臓及び鼠径リンパ節のヒトリンパ球の陽性率(%)を示す。脾臓についてはN=4の平均値を示す。
【0175】
【表11−3】

【0176】
表11−3に示されるように、細胞投与後7日目におけるヒトT細胞のマウス末梢リンパ組織での生着は、脾臓及びリンパ節ともRN−T群で高い結果を示した。つまり、抗CD3抗体とCH−296で刺激した細胞は、NOD/scidマウスの生体内で末梢リンパ組織での生着が他群に比べて高いことが明らかとなった。
【0177】
ヒトT細胞の鼠径リンパ節への集積をチュルク染色液によるカウントにより解析した。得られた細胞数と表11−3のリンパ節でのヒトT細胞の陽性率から鼠径リンパ節でのヒトT細胞の細胞数を求めた。その結果を表11−4に示す。
【0178】
【表11−4】

【0179】
表11−4に示されるように、細胞投与後7日目におけるRN−T群の鼠径リンパ節の細胞数は他群に比べて著しく高いとの結果が示された。また、この細胞数の増加は投与されたヒトT細胞の集積に起因することが示唆された。つまり、抗CD3抗体とCH−296で刺激した細胞は、体内でリンパ節へ集積する能力が高いことが明らかとなった。
【0180】
(7)末梢リンパ組織中ヒトT細胞のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞の解析
実施例11−(6)で調製された細胞について、実施例8−(6)と同様の方法でRD1標識マウス抗ヒトCD45RA抗体、FITC標識マウス抗ヒトCCR7抗体及びPC5標識マウス抗ヒトCD3抗体により染色を行った。ヒトCD3陽性T細胞集団について、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞の含有率を算出した。結果を表11−5に示す。なお、脾臓についてはN=4の平均値を示す。
【0181】
【表11−5】

【0182】
表11−5のとおり、細胞投与後7日目の脾臓においてRN−T群は、他群と比較して、生着したヒトリンパ球におけるCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率が高いことが示されたが、リンパ節では同程度の高含有率であった。抗CD3抗体とCH−296で刺激するとナイーブT細胞が効率よく増殖するが、NOD/scidマウスの生体内において脾臓に生着するヒトT細胞はその表現型を高いまま維持することが明らかとなった。リンパ節に生着するヒトT細胞はいずれもCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率が高いことから、ナイーブT細胞の表現型の高い細胞がリンパ節に集積しやすいことが明らかとなった。
【0183】
実施例12 リンパ球拡大培養におけるテロメラーゼ活性の定量、テロメア長の検出及びNKG2D陽性CD8陽性細胞の解析
(1)PBMCの分離及び非働化済み血漿の分離
実施例3−(1)と同様の方法で、PBMC及び非働化済み血漿を分離し、各実験に供した。
【0184】
(2)抗ヒトCD3抗体及びCH−296の固定化
培養面積が75cmの細胞培養フラスコ(ベクトン・ディッキンソン社製)に終濃度0.3μg/mLの抗ヒトCD3抗体のみを含むACD−A液あるいは、終濃度0.3μg/mLの抗ヒトCD3抗体及び終濃度5μg/mLのCH−296を含むACD−A液を9.1mLずつ添加し、37℃、5%COインキュベータ内で5時間インキュベートした。その後、固定化液を除去し使用直前にPBSで2回、RPMI1640培地で1回洗浄し各実験に供した。
【0185】
(3)リンパ球の拡大培養
実施例12−(1)で分離したPBMC 1.05×10cellsを、終濃度200U/mLのIL−2を含む1%血漿含有GT−T551 104.5mLに懸濁した後、実施例12−(2)で調製した抗CD3抗体固定化フラスコ、又は抗CD3抗体及びCH−296固定化フラスコに添加し、37℃、5%COインキュベータ内で培養した(培養0日目)。4日目に各条件の培養液を1%血漿含有GT−T551を用いて8.36倍希釈し、この希釈液のうち234mLを何も固定化していない、バッグ面積が300cmになるようにシールしたガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標) Evaに移し、更に終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養を継続し、7日目には各バッグに培養液と等量のGT−T551を添加し2倍希釈した後、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。10日目には、各群の培養液を234mL抜き取った後、等量のGT−T551及び終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、15日目まで培養を継続した。培養開始後4日目、7日目、10日目及び15日目にトリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較して拡大培養率を算出した。その結果を表12−1及び表12−2に示す。
【0186】
【表12−1】

【0187】
【表12−2】

【0188】
(4)培養後のリンパ球のCD45RA陽性CCR7陽性細胞の解析
実施例12−(3)で調製した培養4日目、7日目、10日目及び15日目の細胞を用いて実施例6−(3)と同様の方法でCD45RA陽性CCR7陽性細胞の解析を行った(CD62L陽性細胞については解析せず)。それぞれの陽性細胞の含有比率を表12−3及び表12−4に示す。
【0189】
【表12−3】

【0190】
【表12−4】

【0191】
(5)細胞の保存
実施例12−(3)で拡大培養を実施した培養4日目のリンパ球 2×10cellsを1.5mLマイクロチューブ(トレフ社製)に回収し、3000×g、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去した。PBSを1mL添加し、同様の遠心条件で遠心分離した。上清を除去し、沈渣(細胞)をディープフリーザー内で−80℃保存した。なお、使用時には、これら保存細胞を氷上で解凍し、テロメラーゼ活性の定量実験に供した。また、実施例12−(3)で拡大培養を実施した培養4日目、7日目、10日目及び15日目のリンパ球を実施例1−(1)と同様の方法で凍結保存した。なお、使用時には、これら保存細胞を37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mLのDNaseを含むRPMI1640培地で洗浄後、トリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、テロメア長の検出実験及びNKG2D陽性CD8陽性細胞の解析実験に供した。
【0192】
(6)テロメラーゼ活性の定量
実施例12−(5)で凍結保存した沈渣(細胞)を氷上で解凍し、PCR−ELISA法を原理とするテロメラーゼ活性定量キット、Telo TAGGG Telomerase PCR ELISA PLUS(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いてテロメラーゼ活性を定量した。キットに添付されている資料の方法に従って測定後、下記式1(数1)より、Relative telomerase activities(以下RTAと記載)値を求めた。表12−5に結果を示す。
【0193】
【数1】

【0194】
:サンプルの吸光度
SO:熱処理サンプルの吸光度
S,IS:内部標準の吸光度
TS8:対照鋳型の吸光度
TS8,0:溶解液の吸光度
TS,IS:対照鋳型の内部標準の吸光度
【0195】
【表12−5】

【0196】
表12−5に示されるように、どちらのドナーにおいても、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296を固定化したフラスコを使用することで、抗CD3抗体のみを固定化したフラスコを使用した場合と比較して、高いRTA値が得られた。すなわち当該実施例より、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296による低濃度刺激を施すことにより、高いテロメラーゼ活性を保持するリンパ球が得られることが明らかとなった。
【0197】
(7)テロメア長の検出
実施例12−(5)で凍結保存したリンパ球を37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mLのDNaseを含むRPMI1640培地で洗浄して調製した細胞を、フローサイトメトリーによるFluorescence in situ hybridization法を原理とするテロメア長の検出キット、テロメアPNAキット/FITC標識 フローサイトメトリー用(ダコジャパン社製)を用いてテロメア長の検出を行った。キットに添付されている資料の方法に従って1301細胞を比較対照として測定後、下記式2(数2)より、Relative telomerase length(以下RTLと記載)値を求めた。表12−6に結果を示す。
【0198】
【数2】

【0199】
PS:プローブ有りサンプルのFL1 Mean Fluorescence Intensity(平均蛍光強度、以下MFIと記載)
S:プローブ無しサンプルのFL1 MFI
PC:プローブ有り対照細胞のFL1 MFI
C:プローブ無しの対照細胞のFL1 MFI
IC:対照細胞のDNA index=2
IS:サンプル細胞のDNA index=1
【0200】
【表12−6】

【0201】
表12−6に示されるように、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296を固定化したフラスコを使用することで、抗CD3抗体のみを固定化したフラスコを使用した場合と比較して、高いRTL値が得られた。すなわち当該実施例より、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296による低濃度刺激を施すことにより、より長いテロメアを保持するリンパ球が得られることが明らかとなった。
【0202】
(8)培養後のリンパ球のNKG2D陽性CD8陽性細胞の解析
実施例12−(5)で凍結保存した培養10日目及び15日目のリンパ球を37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mLのDNaseを含むRPMI1640培地で洗浄して調製した細胞を実施例6−(3)と同様の方法でFITC標識マウス抗ヒトNKG2D抗体(eBioscience社製)及びRD1標識マウス抗ヒトCD8抗体(ベックマンコールター社製)により染色後、フローサイトメトリーにより解析した。その陽性細胞の含有比率を表12−7に示す。
【0203】
【表12−7】

【0204】
表12−7に示されるように、どちらのドナーにおいても、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296を固定化したフラスコを使用することで、抗CD3抗体のみを固定化したフラスコを使用した場合と比較して、高いNKG2D陽性CD8陽性細胞比率が得られた。NKG2D分子はCD8陽性T細胞の活性化、細胞傷害性応答及びIFN−γ産生能に関与する重要な分子であり、免疫抑制下では発現が低下することが知られているが、当該実施例よりリンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体及びCH−296による低濃度刺激を施すことにより、より高効率でNKG2D陽性CD8陽性細胞が得られることが明らかとなった。
【0205】
実施例13 restingT細胞における初期活性化抗原の検討
(1)restingT細胞の調製
実施例4と同様の方法でrestingT細胞の調製を行った。ただし、培養0日目は培養面積が25cmの細胞培養フラスコ(コーニング社製)を用いてIL−2を終濃度200U/mL添加した。培養7日目、11日目には、0.75〜0.8×10cells/mLとなるように0.5%血清含有GT−T551を添加した。この時、IL−2を終濃度100U/mLとなるように添加した。13日目の細胞懸濁液を回収してrestingT細胞として各実験に供した。
【0206】
(2)抗CD3抗体及びCH−296の固定化
以下の実験で使用する培養器材に抗CD3抗体及びCH−296を固定化した。すなわち6穴細胞培養プレート(コーニング社製)に0.3μg/mLの抗CD3抗体のみを含むACD−A液あるいは、0.3μg/mLの抗CD3抗体及び1.5μg/mLのCH−296を含むACD−A液を1mL/ウエルずつ添加した。この培養器材を室温で5時間インキュベート後、培養器材から当該ACD−A液を吸引除去後、各ウエルをPBSで2回、RPMI1640培地で1回洗浄し各実験に供した。
【0207】
(3)細胞の初期活性化抗原の検討
実施例13−(1)で調製したrestingT細胞 1.5×10cellsを0.5%血清含有GT−T551、3mLに懸濁し、実施例13−(2)で調製した抗CD3抗体固定化プレート、又は抗CD3抗体及びCH−296固定化プレートに添加し、これらのプレートを37℃、5%COインキュベータ内で培養した。16時間後に細胞を回収し、FITC標識マウス抗ヒトCD69抗体(eBioscience社製)により染色後、フローサイトメトリーにより解析した。48時間後に細胞を回収し、FITC標識マウス抗ヒトCD25抗体(ダコ社製)により染色後、同様に解析した。その結果を表13−1に示す。なお表中の値はN=2の平均値を示す。
【0208】
【表13−1】

【0209】
表13−1に示されるように、restingT細胞における初期刺激として抗CD3抗体の固定化時の濃度を0.3μg/mLにした場合、抗CD3抗体に1.5μg/mLの溶液でCH−296を固定化した場合には、リンパ球の初期活性化抗原であるCD69の発現上昇が確認された。同様にCD69に遅れて活性化に伴って発現が上昇するCD25においても低濃度抗CD3抗体にCH−296を固定化した場合において優位にその発現が上昇することが確認された。すわなち、低濃度抗CD3抗体溶液とCH−296溶液を組み合わせて固定化したプレートで細胞を刺激することで、初期活性化抗原の発現上昇が促進されることが示された。
【0210】
実施例14 restingT細胞におけるBcl−xL発現の検討
(1)細胞のBcl−xL発現の検討
実施例13−(1)で調製したrestingT細胞を、実施例13−(2)で調製した抗CD3抗体固定化プレート、又は抗CD3抗体及びCH−296固定化プレートに添加し、これらのプレートを37℃、5%COインキュベータ内で培養した。16時間後に細胞を回収し、細胞を1%BSA/PBSに懸濁し、IntraPrep Reagent(ベックマンコールター社製)の方法に従って、PE標識マウス抗ヒトBcl−xL抗体(ベックマンコールター社製)で細胞内染色を行なった。この細胞をフローサイトメトリーにより解析した。その結果を表14−1に示す。なお表中の値はN=2の平均値を示す。
【0211】
【表14−1】

【0212】
表14−1に示されるように、restingT細胞における初期刺激として抗CD3抗体の固定化時の濃度を0.3μg/mL及びCH−296を1.5μg/mL固定化した場合に、アポトーシスを抑制する働きのあるBcl−xLの発現強度が上昇することが確認された。
【0213】
実施例15 NOD/scidマウスにおけるRN−T細胞生着の経時的変化の検討
(1)リンパ球の調製
実施例7−(2)と同様の方法でリンパ球拡大培養を行い、培養14日目の細胞を実施例1−(1)と同様の方法で凍結保存した。なお、抗CD3抗体及びCH−296固定化時の濃度は、抗CD3抗体は5μg/mL及びCH−296は25μg/mLとした。
【0214】
(2)マウスと群構成
NOD/scidマウス7週齢雌10匹を使用した。投与後1日目、3日目、6日目、8日目、14日目に2匹ずつ最終日とし、血液中及び各組織でのヒトT細胞の生着を検討した。
【0215】
(3)抗アシアロGM1抗体の投与
実施例8−(3)と同様にして抗アシアロGM1抗体を細胞投与前日に腹腔内に投与した。
【0216】
(4)投与細胞の調製と投与
実施例15−(1)で調製したリンパ球を実施例8−(4)と同様の方法により投与した。なお、投与用の細胞は8.0×10cells/0.3mL/マウスになるよう4%HSA含有生理食塩水に懸濁した。
【0217】
(5)血液中及び組織中ヒトT細胞の生着
細胞投与後1日目、3日目、6日目、8日目、14日目にマウスより採血あるいは組織を摘出した。検討した部位は尾静脈、下大静脈、脾臓、鼠径リンパ節、骨髄、胸腺である。実施例8−(5)と同様にして、尾静脈及び下大静脈中のヒトT細胞の%キメリズムを検討した。結果を表15−1に示す。また、実施例11−(6)と同様にして、各組織のヒトリンパ球の陽性率(%)を検討した。このとき、脾臓及び骨髄についてはACK bufferによる溶血操作を実施した。結果を表15−2に示す。
【0218】
【表15−1】

【0219】
【表15−2】

*n.t.は組織の摘出ができなかったことを示す。
【0220】
表15−1に示されるように、細胞投与後3日目から14日目についてRN−T細胞は、血液中において高い%キメリズムを示した。また、組織におけるRN−T細胞の経時的変化を検討したところ、表15−2に示されるように、脾臓においては3日目と6日目で80%以上のヒトリンパ球の陽性率(%)が確認できた。鼠径リンパ節は免疫不全マウスであるNOD/scidにおいては発達していない組織であるが、6日目以降で肉眼的にも大きくなっていることが確認でき、6日目及び14日目で約45%以上のヒトリンパ球の陽性率(%)が確認できた。胸腺については6日目、骨髄については3日目において、ヒトリンパ球の陽性率(%)が上昇する傾向が見られたが、14日目では数%程度の陽性率に減少した。
【0221】
(6)血液中及び組織中ヒトT細胞のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞の解析
実施例8−(6)と同様にヒトCD3陽性T細胞集団について、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞の含有率を算出した。各群の平均の結果を表15−3に示す。
【0222】
【表15−3】

【0223】
表15−3より、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率(%)は、各組織間で同程度の陽性率を示した。血液中及び組織に集積したRN−T細胞は、6日目以降で投与前と同等かそれ以上のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率を示すことが明らかとなった。
【0224】
実施例16 NOD/scidマウスにおけるRN−Tのリンパ組織への集積
(1)リンパ球の調製
実施例7−(2)と同様の方法でリンパ球拡大培養を行い、培養10日目及び14日目の細胞を実施例1−(1)と同様の方法で凍結保存した。なお、初期刺激方法は実施例11−(1)と同様にした。
【0225】
(2)マウスと群構成
NOD/scidマウス8週齢雌24匹を以下の表16−1に示す群構成とした。なお、各群はN=4とした。
【0226】
【表16−1】

【0227】
(3)抗アシアロGM1抗体の投与
実施例8−(3)と同様にして抗アシアロGM1抗体を細胞投与前日に腹腔内に投与した。
【0228】
(4)投与細胞の調製と投与
実施例16−(1)で調製したリンパ球を実施例8−(4)と同様の方法によりNOD/scidマウスに投与した。なお、投与用の細胞は7.0×10cells/0.3mL/マウスになるよう4%HSA含有生理食塩水に懸濁した。
【0229】
(5)末梢血中ヒトT細胞の生着及び絶対数の検討
実施例11−(5)と同様にして、細胞投与後5日目及び7日目にマウスより尾静脈採血を実施し、移入したヒトリンパ球の陽性率(%キメリズム)及び絶対数[血液1μLあたりのhCD3陽性細胞数(個/μL)]をフローサイトメトリーにより測定した。N=4の平均値の結果を表16−2に示す。
【0230】
【表16−2】

【0231】
表16−2に示されるように、細胞投与後5日目及び7日目のRN−T群は他群と同等の高い%キメリズムを示したが、細胞投与後5日目においては血液1μLあたりのhCD3陽性細胞数は他群と比較して高い値を示した。培養10日間と14日間での%キメリズムは同程度であったが、末梢血中におけるhCD3陽性細胞の絶対数は10日間培養の細胞で高い傾向が示された。
【0232】
(6)末梢リンパ組織へのヒトT細胞の生着及び集積の解析
実施例11−(6)と同様にして、細胞投与後7日目の末梢リンパ組織へのヒトT細胞の生着を解析した。脾臓についてはN=4の平均値を示す。それぞれの結果を表16−3に示す。
【0233】
【表16−3】

【0234】
表16−3に示されるように、細胞投与後7日目におけるヒトT細胞の脾臓での生着はRN−T群とOKT3−T群で高い結果を示し、リンパ節での生着はRN−T群で高い結果を示した。培養10日間と14日間では、10日間培養の群でやや高い生着を示した。すなわち、抗CD3抗体とCH−296で刺激した細胞は、NOD/scidマウスの生体内で末梢リンパ組織での生着が他群に比べて高いことが明らかとなった。
【0235】
次に、ヒトT細胞の鼠径リンパ節への集積を解析した。得られた細胞数と表16−3のリンパ節でのヒトT細胞の陽性率から鼠径リンパ節でのヒトT細胞の細胞数を求めた。その結果を表16−4に示す。
【0236】
【表16−4】

【0237】
表16−4に示されるように、細胞投与後7日目におけるRN−T群の鼠径リンパ節の細胞数は培養日数に関わらず、他群に比べて高い結果が示された。つまり、抗CD3抗体とCH−296で刺激した細胞は、体内でリンパ節へ集積する能力が高いことが明らかとなった。
【0238】
(7)末梢血中及び末梢リンパ組織中ヒトT細胞のCD45RA陽性CCR7陽性T細胞の解析
実施例16−(6)で調製された細胞について、実施例8−(6)と同様の方法でRD1標識マウス抗ヒトCD45RA抗体、FITC標識マウス抗ヒトCCR7抗体及びPC5標識マウス抗ヒトCD3抗体により染色を行った。ヒトCD3陽性T細胞集団について、CD45RA陽性CCR7陽性T細胞の含有率を算出した。その結果を表16−5に示す。なお、脾臓についてはN=4の平均値を示す。
【0239】
【表16−5】

【0240】
表16−5に示されるように、細胞投与後7日目の末梢血、脾臓、鼠径リンパ節に生着したヒトリンパ球におけるCD45RA陽性CCR7陽性T細胞含有率はRN−T群において、多くは他群と同等かそれより高いことが示された。抗CD3抗体とCH−296で刺激するとナイーブT細胞が効率よく増殖するが、NOD/scidマウスの生体内においる末梢血及び末梢リンパ組織に生着するヒトT細胞はその表現型を高いまま維持することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明により、リンパ球の製造方法が提供される。当該方法は細胞増殖率が高く、本発明により得られるリンパ球は、生体への生着率、表現型の維持能力において優れており、養子免疫療法をはじめとする医療分野において極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0242】
SEQ ID NO:1 ; Partial region of fibronectin named III-8.
SEQ ID NO:2 ; Partial region of fibronectin named III-9
SEQ ID NO:3 ; Partial region of fibronectin named III-10.
SEQ ID NO:4 ; Partial region of fibronectin named III-11.
SEQ ID NO:5 ; Partial region of fibronectin named III-12.
SEQ ID NO:6 ; Partial region of fibronectin named III-13.
SEQ ID NO:7 ; Partial region of fibronectin named III-14.
SEQ ID NO:8 ; Partial region of fibronectin named CS-1.
SEQ ID NO:9 ; Fibronectin fragment named C-274.
SEQ ID NO:10 ; Fibronectin fragment named H-271.
SEQ ID NO:11 ; Fibronectin fragment named H-296.
SEQ ID NO:12 ; Fibronectin fragment named CH-271.
SEQ ID NO:13 ; Fibronectin fragment named CH-296.
SEQ ID NO:14 ; Fibronectin fragment named C-CS1.
SEQ ID NO:15 ; Fibronectin fragment named CH-296Na.
SEQ ID NO:16 ; Fibronectin fragment named CHV-89.
SEQ ID NO:17 ; Fibronectin fragment named CHV-90.
SEQ ID NO:18 ; Fibronectin fragment named CHV-92.
SEQ ID NO:19 ; Fibronectin fragment named CHV-179.
SEQ ID NO:20 ; Fibronectin fragment named CHV-181.
SEQ ID NO:21 ; Fibronectin fragment named H-275-Cys.
SEQ ID NO:22 ; Fibronectin fragment named H296-H296.
SEQ ID NO:23 ; Fibronectin fragment named H296-H296-H296-HT.
SEQ ID NO:24 ; Fibronectin fragment named CH296-CH296-HT.
SEQ ID NO:25 ; Fibronectin fragment named H105-H105-HT.
SEQ ID NO:26 ; Fibronectin fragment named H296-H296-HT.
SEQ ID NO:27 ; Fibronectin fragment named H296-H296-H296.
SEQ ID NO:28 ; Fibronectin fragment named H105-H105.
SEQ ID NO:29 ; Fibronectin fragment named H271-H296.
SEQ ID NO:30 ; Fibronectin fragment named H296-H271.
SEQ ID NO:31 ; Fibronectin fragment named 15aaH105-H105-HT.
SEQ ID NO:32 ; Fibronectin fragment named 15aaH105-H105.
SEQ ID NO:33 ; Fibronectin fragment named H105-H105Nc-HT
SEQ ID NO:34 ; Fibronectin fragment named H105-H105Nc.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD3抗体とフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドの存在下にリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養する工程を包含するリンパ球の製造方法であって、
(1)5μg/mL未満の抗CD3抗体溶液を使用して前記抗体を固定化した固相、及び/又は
(2)25μg/mL未満のフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチド溶液を使用して前記ポリペプチドを固定化した固相
と接触させた状態でリンパ球又はリンパ球の前駆細胞を培養することを特徴とするリンパ球の製造方法。
【請求項2】
固相が細胞培養用器材又は細胞培養用担体である請求項1記載の方法。
【請求項3】
フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、VLA−4結合活性、VLA−5結合活性、へパリン結合活性から選択される結合活性を有するものである請求項1記載の方法。
【請求項4】
フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、CS−1ドメイン、細胞接着ドメイン、へパリン結合ドメインから選択されるフィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するものである請求項1記載の方法。
【請求項5】
フィブロネクチン由来のアミノ酸配列を有するポリペプチドが配列表の配列番号9〜34から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドである請求項4記載の方法。
【請求項6】
リンパ球が抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球又はリンフォカイン活性化細胞である請求項1記載の方法。
【請求項7】
リンパ球に外来遺伝子を導入する工程を更に包含する請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2010−94123(P2010−94123A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212668(P2009−212668)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】