説明

リン含有活性アルミナの製造方法

【課題】水熱安定性に優れ、水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移が起きにくく、しかも、熱処理によるα−アルミナへの相転移が起きにくく、比表面積の低下の少ないリン含有活性アルミナの製造方法の提供。
【解決手段】可溶性カルボン酸の存在下に、可溶性アルミニウム塩水溶液と塩基性水溶液を反応させて、アルミナ基準で2〜15wt%の擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを生成させ、該アルミナヒドロゲルを洗浄して副生塩を除去してアルミナ中のアルカリ金属を酸化物として1.0wt%以下にし、次いで、洗浄したアルミナヒドロゲルにリン成分および有機高分子酸を添加し、加熱熟成して、得られた熟成スラリーを押出成型が可能な状態に水分調整し、所望の形状に押出成型し、成型された成型体を乾燥し、400〜800℃で0.5〜10時間焼成するリン含有活性アルミナの製造方法であって、前記リン含有活性アルミナは、水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移率が20%以下であると共に、リン含有活性アルミナの比表面積が300〜600m/gで、且つ、水熱処理による比表面積の低下率が20%以下であることを特徴とするリン含有活性アルミナの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、吸着剤、充填剤などの用途に好適な、水熱安定性および熱安定性に優れたリン含有活性アルミナの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミナは各種触媒担体、吸着剤、充填剤、希釈剤などとして広い分野で利用されている。この場合、それぞれの使用目的にあった比表面積、細孔容積、細孔径、細孔分布などの性状のほか、耐水熱性や耐熱性が要求される。しかし、通常、触媒担体などに使用されるγ−アルミナなどの活性アルミナは、水熱安定性や熱安定性が低いために、触媒の使用環境下で相転移を生じ、ベーマイト形アルミナ水和物やα−アルミナへ相転移し、比表面積等が著しく低下し、触媒担体としての機能が失われるなどの問題があった。
【0003】
一般に、γ−アルミナからα−アルミナへの相転移温度はγ−アルミナにシリカを添加すれば上昇し、高温下でもγ−アルミナの高い比表面積を維持しうることが知られている。しかし、α−アルミナへの相転移率を小さくするためには、シリカの添加量を多くしなければならず、そのためにアルミナの特性が損なわれるという問題があった。そこで、本発明者らは、特許文献1において、シャープな細孔分布を有し、耐熱性に優れ、かつ、α−アルミナへの相転移が起きにくく、シリカ含有量の少ないアルミナ成形体およびその製造方法を提案した。
【0004】
また、特許文献2には、自動車排ガス処理などの触媒反応に広く用いられているアルミナ触媒が高温例えば1000℃以上、とくに1300℃以上の雰囲気中にさらされるとアルミナの表面積が極端に低下し、活性を失ってしまうという欠点を改良する技術を提案している。この技術によれば、アルミニウムアルコキシドとリン酸類を、アルミニウム原子とリン原子の原子比(Al/P)が5〜200の範囲で混合し、グリコール溶媒中で加熱した後、1000℃以上で焼成することにより、1300℃で焼成した際の表面積が10m/g以上(焼成前は通常50m/g以上)を保つことのできるリン修飾アルミナを得るものである。しかしながらこの技術によるリン修飾アルミナは製造段階において1000℃以上で焼成しているため、アルミナの主成分はθ−アルミナになってしまっており、石油化学における反応触媒としては好ましいものではなく、かつ水蒸気にさらされると表面積が低下してしまうことが判ってきた。
【0005】
従来、活性アルミナの耐熱性については、シリカまたはリンを活性アルミナに含有させることにより、一応改善されてきている。しかし、水蒸気を含む排ガスなどの処理に使用されるアルミナ系触媒においては、活性アルミナの耐水熱性が重要な特性となる。しかし、活性アルミナの耐水熱性の改善についてはほとんど検討されていなかったのが実情である。
【0006】
【特許文献1】特開平11−189409号公報
【特許文献2】特開平3−261617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水熱安定性に優れ、水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移が起きにくく、しかも、熱処理によるα−アルミナへの相転移が起きにくく、比表面積の低下の少ないリン含有活性アルミナの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可溶性カルボン酸の存在下に、可溶性アルミニウム塩水溶液と塩基性水溶液を反応させて、アルミナ基準で2〜15wt%の擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを生成させ、該アルミナヒドロゲルを洗浄して副生塩を除去してアルミナ中のアルカリ金属を酸化物として1.0wt%以下にし、次いで、洗浄したアルミナヒドロゲルにリン成分および有機高分子酸を添加し、加熱熟成して、得られた熟成スラリーを押出成型が可能な状態に水分調整し、所望の形状に押出成型し、成型された成型体を乾燥し、400〜800℃で0.5〜10時間焼成するリン含有活性アルミナの製造方法であって、前記リン含有活性アルミナは、水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移率が20%以下であると共に、リン含有活性アルミナの比表面積が300〜600m/gで、且つ、水熱処理による比表面積の低下率が20%以下であることを特徴とするリン含有活性アルミナの製造方法に関する。
【0009】
本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
本発明での水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移率は、バイヤー法で得られたジブサイト形アルミナ水和物(Al・3HO)をオートクレーブ中250℃で30時間水熱処理して得たベーマイト形アルミナ水和物(Al・1HO)を130℃で3時間乾燥した試料のX−線回折図から2θが13.9度、28.1度、38.3度におけるピーク高さを100として、リン含有活性アルミナを180℃の飽和水蒸気中で50時間水熱処理した後、130℃で3時間乾燥した試料のX−線回折図から2θが13.9度、28.1度、38.3度におけるピーク高さの相対比(%)で表したものである。
【0010】
該相転移率が20%よりも高い場合には、リン含有活性アルミナの水熱安定性が低いため、水蒸気を含む排ガスなどの処理に使用される吸着剤や触媒などでは、活性アルミナのベーマイト形アルミナ水和物への相転移に起因する活性低下を生じるので好ましくない。本発明のリン含有活性アルミナは、前述の水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移率が、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10〜0%の範囲にあることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明により得られるリン含有活性アルミナは、その比表面積を250m/g以上とすることができる。該比表面積が250m/gより小さい場合には、使用中に水熱処理を受けて200m/g以下になることがあるので、吸着剤や触媒などとして使用した場合に所望の効果が得られないことがある。本発明のリン含有活性アルミナの比表面積(S)は、好ましくは280m/g以上、さらに好ましくは300〜600m/gの範囲にあることが望ましい。また、該リン含有活性アルミナの細孔容積は0.30ml/g以上であることが望ましい。
【0012】
また本発明により、水熱処理による比表面積の低下率、即ち、リン含有活性アルミナの比表面積を(S)とし、リン含有活性アルミナの試料を180℃の飽和水蒸気中で50時間水熱処理した後、130℃で3時間乾燥した試料の比表面積を(S)として、
【数1】

で表される低下率を20%以下とすることができる。該比表面積の低下率が20%よりも高い場合には、水蒸気を含む排ガスなどの処理に使用される吸着剤や触媒などでは、活性アルミナの比表面積の低下に起因する活性低下を生じることがある。本発明のリン含有活性アルミナの水熱処理による比表面積の低下率は、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10〜0%の範囲とすることが望ましい。
【0013】
本発明により得られたリン含有活性アルミナは、熱処理によるα−アルミナへの相転移率が20%以下、好ましくは15〜0%の範囲とすることができる。なお、本発明でのα−アルミナへの相転移率は、試薬特級α−アルミナのX−線回折図の2θが25.6度、35.1度、37.7度、43.3度、52.5度、57.4度におけるピーク高さを100とし、リン含有活性アルミナを1050℃で3時間焼成した試料の2θがそれぞれの角度におけるピーク高さの相対比(%)で求めた。
熱処理によるα−アルミナへの相転移率が20%より高いリン含有活性アルミナは、高温領域で使用される吸着剤や触媒などでは、熱安定性が低いため活性低下を生じることがある。
【0014】
また、本発明により前述のリン含有活性アルミナは、リン含有量がPとして0.5〜10wt%、好ましくは1〜5wt%の範囲とすることができる。リン含有量がPとして0.5wt%より少ない場合には、水熱安定性や熱安定性が劣ることがあり、また、10wt%より多い場合には、アルミナ自体の特性が損なわれることがある。
【0015】
本発明でのリン含有活性アルミナは、アルミナの形態がα−アルミナ以外のものを言い、γ−アルミナ、η−アルミナ、ρ−アルミナ、χ−アルミナ、δ−アルミナおよびこれらの混合物などが例示される。特に、γ−アルミナを主成分とする活性アルミナは触媒担体などに好適である。また、本発明のリン含有活性アルミナは、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの第3成分を含有することもできる。
【0016】
前述の本発明のリン含有活性アルミナの製造方法を以下に具体的に説明する。
可溶性カルボン酸の存在下に、可溶性アルミニウム塩水溶液と塩基性水溶液を反応させて、アルミナ基準で2〜15wt%の擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを生成させ、該アルミナヒドロゲルを洗浄して副生塩を除去してアルミナ中のアルカリ金属を酸化物として1.0wt%以下にし、次いで、洗浄したアルミナヒドロゲルにリン酸アンモニウムなどのリン酸塩やオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸などのリン成分およびグルコン酸などの有機高分子酸を添加し、加熱熟成して、得られた熟成スラリーを押出成型が可能な状態に水分調整し、所望の形状に押出成型し、成型された成型体を乾燥し、400〜800℃で0.5〜10時間焼成してリン含有活性アルミナを得る。なお、このときの温度が高すぎると活性アルミナ中のγ−アルミナ成分の割合が低下し、γ−アルミナが主成分ではなくなり、θ−アルミナが主成分となってしまうので好ましくない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法を用いることにより、水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物の相転移率が小さく又比表面積の低下率が小さいリン含有活性アルミナが得られるので、このリン含有活性アルミナは水蒸気を含む系に使用される触媒担体や吸着剤として好適である。また、本発明により得られたリン含有活性アルミナは、熱安定性にも優れているので、高温の系で使用される触媒担体、吸着剤、充填剤としても好適である。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を示し本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
Alとしての濃度が22wt%のアルミン酸ナトリウム水溶液3.030kgに26.5wt%グルコン酸ナトリウム0.075kgと純水10.228kgを加えて57℃に加温した水溶液(i)を調製した。次いで、Alとしての濃度が7wt%の硫酸アルミニウム水溶液4.762kgに純水8.571kgを加えて希釈し57℃に加温した水溶液を前記水溶液(i)に添加して擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを調製した。
この擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを、濃度0.3wt%アンモニア水をかけながら濾過洗浄した。得られた洗浄ゲルは、Al基準でNaOが0.13wt%、SOが0.48wt%であった。この洗浄ゲルをAlとして10wt%濃度に希釈し、これにグルコノデルタラクトンおよびリン酸アンモニウムをPとして3.0wt%となるように(Al基準)添加し、95℃で20時間攪拌しながら熟成した。この熟成ゲルを捏和、成型し、乾燥した後、空気雰囲気下で600℃で3時間焼成して、円柱状リン含有活性アルミナ(A)を得た。このリン含有活性アルミナ(A)の水熱処理および熱処理等による性状を表1に示す。
【0020】
(実施例2)
実施例1において、リン酸アンモニウムをPとして5.0wt%となるように(Al基準)添加した以外は、実施例1と全く同様にしてリン含有活性アルミナ(B)を得た。このリン含有活性アルミナ(B)の水熱処理および熱処理等による性状を表1に示す。
【0021】
(比較例1)
実施例1において、リン酸アンモニウムを添加しなかった以外は実施例1と全く同様にして活性アルミナ(C)を得た。この活性アルミナ(C)の水熱処理および熱処理等による性状を表1に示す。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性カルボン酸の存在下に、可溶性アルミニウム塩水溶液と塩基性水溶液を反応させて、アルミナ基準で2〜15wt%の擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを生成させ、該アルミナヒドロゲルを洗浄して副生塩を除去してアルミナ中のアルカリ金属を酸化物として1.0wt%以下にし、次いで、洗浄したアルミナヒドロゲルにリン成分および有機高分子酸を添加し、加熱熟成して、得られた熟成スラリーを押出成型が可能な状態に水分調整し、所望の形状に押出成型し、成型された成型体を乾燥し、400〜800℃で0.5〜10時間焼成するリン含有活性アルミナの製造方法であって、前記リン含有活性アルミナは、水熱処理によるベーマイト形アルミナ水和物への相転移率が20%以下であると共に、リン含有活性アルミナの比表面積が300〜600m/gで、且つ、水熱処理による比表面積の低下率が20%以下であることを特徴とするリン含有活性アルミナの製造方法。

【公開番号】特開2007−302558(P2007−302558A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219937(P2007−219937)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【分割の表示】特願2000−46613(P2000−46613)の分割
【原出願日】平成12年2月23日(2000.2.23)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】