説明

リン脂質の加水分解方法及び塩基交換方法

【課題】 ホスホリパーゼDを用いたリン脂質の加水分解反応及び塩基交換反応を効率よく行う方法を提供する。
【解決手段】 リン脂質と、アルコール類、含窒素アルコール類、糖類、ポリオール類、及びヒドロキシ環状化合物からなる群から選択される少なくとも1種のヒドロキシル基含有化合物とを、ホスホリパーゼDの存在下、アセトンと水からなる均一相中で反応させる工程を含む、リン脂質を塩基交換する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホリパーゼD(以下、PLDと略す)を用いたリン脂質の加水分解反応及び塩基交換反応に関する。
【背景技術】
【0002】
PLDは、リン脂質の加水分解反応及び塩基交換反応を触媒することが知られている。PLDは、例えば、ホスファチジルコリン(以下、PCと略す)又はホスファチジルエタノールアミン(以下、PEと略す)のようなリン脂質と、受容体であるアルコールとの間の塩基交換反応を触媒する。例えば、アルコールとしてグリセロールを用いた場合には、ホスファチジルグリセロール(以下、PGと略す)が生産される。また、アルコールとしてセリンを用いた場合には、ホスファチジルセリン(以下、PSと略す)が生産される。一方、受容体としてアルコールの代わりに水を用いた場合には、リン脂質の加水分解反応が進行し、ホスファチジン酸(以下、PAと略す)が生産される。
【0003】
一般的に、PLDを用いたリン脂質の加水分解反応及び/又は塩基交換反応は、水相及び有機溶媒相からなる二相系で行われる。水相は、主としてPLD、反応受容体、pH緩衝液、無機塩等を含む。一方、有機溶媒相は、主として親油性であるリン脂質等を含む。この二相系の反応は、水相と有機溶媒相とを適宜に攪拌、混合して接触させることにより行われる(例えば、特許文献1を参照)。
しかし、上記の二相系反応では、反応に必要な成分が二相に分かれて存在するため、攪拌等の操作によって水相と有機溶媒相とを十分に接触させなければ反応が効率よく進行しないという問題点があった。
【0004】
上記の問題を解決するために、W/O型エマルジョン中でホスファチジル基転移反応を行う方法(特許文献2を参照)、カルシウム塩の存在下において、水性条件下でホスファチジルセリンを製造する方法(特許文献3を参照)等の改良方法が報告されている。
しかし、これらの改良方法では、反応系中に、本来反応には不必要な界面活性剤又はカルシウムが存在することになり、生成物の単離工程が複雑化する等の問題点が生じ、好ましい製造方法とはいえない。
【0005】
また、有機溶媒にリン脂質を溶解した均一相で反応を行う方法も報告されている(特許文献4、5を参照)。これらの方法では、リン脂質を十分溶解するため有機溶媒として炭素数4以上のエステル類や炭素数5以上のケトン類等を使用しており、得られた生成物を単離するため、更に別の有機溶媒を使用するかクロマトグラフィーを用いる必要があった。
【特許文献1】特開2001−186898号公報
【特許文献2】特開2004−215528号公報
【特許文献3】特開2000−333689号公報
【特許文献4】特開昭63−245684号公報
【特許文献5】特開昭63−245685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の種々の問題点を解決し、PLDを用いたリン脂質の加水分解反応及び塩基交換反応を効率よく行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、リン脂質を溶解せず、従来は酵素失活作用が強いと言われていたアセトンを含む均一溶媒系で、PLDによるリン脂質の加水分解反応及び/又は塩基交換反応が効率よく進行し、単離工程が更に簡便になることを見出した。
すなわち、本発明は、リン脂質と、アルコール類、含窒素アルコール類、糖類、ポリオール類、及びヒドロキシ環状化合物からなる群から選択される少なくとも1種のヒドロキシル基含有化合物とを、ホスホリパーゼDの存在下、アセトンと水からなる均一相中で反応させる工程を含む、リン脂質を塩基交換する方法を提供する。
さらに、本発明は、リン脂質と水とを、ホスホリパーゼDの存在下、アセトンと水からなる均一相中で反応させる工程を含む、リン脂質を加水分解する方法を提供する。
好ましくは、これらの方法において使用されるホスホリパーゼDは、微生物由来である。
更に好ましくは、これらの方法において使用されるホスホリパーゼDは、放線菌由来である。
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のリン脂質の塩基交換方法及び加水分解方法は、リン脂質とヒドロキシル基含有化合物、又は、リン脂質と水とを、ホスホリパーゼD(PLD)の存在下、アセトンと水からなる均一相中で反応させる工程を含むものである。
本発明の塩基交換方法及び加水分解方法では、アセトンと水からなる均一相で反応を行う。上記「アセトンと水からなる均一相」とは、25℃で1時間静置してもアセトンと水が層分離を起こさない相を意味し、エマルションを除く。
アセトンは、これまで酵素失活作用が強い化合物とされ、使用する場合であってもその配合量が限定されていたが、本発明の塩基交換方法及び加水分解方法ではその含有量に関係なく反応を行うことができる。
上記塩基交換方法では、アセトンの含有量は、ヒドロキシル基含有化合物の種類にもよるが、反応効率がよい点で好ましくは全化合物の合計量に対して15〜70質量%である。なお、アセトンと水との量比は特に限定されないが、好ましくは、(アセトン:水)が1:3〜5:1である。
上記加水分解方法における好ましいアセトンの含有量及びアセトンと水との量比は、上記塩基交換方法と同じである。
本発明のリン脂質の塩基交換方法及び加水分解方法において、リン脂質は通常アセトンと水からなる均一相中で溶解せず、分散又は沈殿した状態で、ヒドロキシル基含有化合物又は水と反応する。リン脂質が分散又は沈殿のいずれの状態となるかは反応系中のアセトンの含有量に依存し、アセトンが少ないと分散する傾向にある。但し、上記塩基交換方法において、ヒドロキシル基含有化合物としてグリセロールを用いた場合、グリセロールの添加量によってはリン脂質が溶解して反応系が溶液になる場合もある。
【0009】
本発明の塩基交換方法及び加水分解方法において用いる水としては、イオン交換水、精製水、蒸留水、水道水等が挙げられる。さらに、これらに酢酸等を含有させてpH調整のための緩衝液としてもよい。好ましくは、イオン交換水、精製水又は蒸留水が用いられる。
本発明の塩基交換方法及び加水分解方法において、アセトンと水以外の他の溶媒は添加しなくてもよいが、均一相の状態を維持できる範囲で添加することができる。このような他の溶媒としては、例えばヘプタン等が挙げられる。
本発明では、アセトンと水からなる均一相中で塩基交換反応又は加水分解反応を行うので、界面活性剤やカルシウム塩を添加することなく効率よく反応を行うことができるが、界面活性剤やカルシウム塩等の塩を用いてもよい。
【0010】
本発明の塩基交換方法及び加水分解方法に用いられるリン脂質は、いかなる起源のものでもよい。リン脂質を含む天然物、天然物からの抽出物、当該抽出物を精製したもの、合成リン脂質等が好適に用いられる。このようなリン脂質の例としては、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、これらの混合物等が挙げられる。上記リン脂質は、単独で用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよく、一般的には、大豆レシチン、卵黄レシチン又は菜種レシチン等が用いられる。
リン脂質の純度は、好ましくは、上記の化合物の全質量を基準として20〜99.5質量%である。また、上記リン脂質は、本反応系中で0.1〜60質量%用いるのが好ましい。
【0011】
本発明の塩基交換方法に用いられるヒドロキシル基含有化合物は、アルコール類、含窒素アルコール類、糖類、ポリオール類、及びヒドロキシ環状化合物からなる群から選択される。
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アスコルビン酸等が挙げられる。
含窒素アルコール類としては、例えば、セリンなどのアミノ酸;1−アミノ−2−プロパノールなどが挙げられる。
糖類としては、例えば、アデノシン、グアノシン、イノシン、キサントシン、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン等のヌクレオシド;グルコース、トレハロース、N−アセチル−D−グルコサミン等が挙げられる。
ポリオール類としては、例えば、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
ヒドロキシ環状化合物としては、例えば、麹酸、アルブチン等が挙げられる。
上記ヒドロキシル基含有化合物は、上記リン脂質に対して1〜10000モル%用いるのが好ましい。
【0012】
本発明の塩基交換方法及び加水分解方法で用いられるPLDは、リン脂質の塩基部分を加水分解する酵素である。
このようなPLDとしては、植物由来(例えばキャベツ由来)のPLD、微生物由来(例えば放線菌由来)のPLD等が挙げられる。好ましくは、微生物由来のPLDが用いられ、より好ましくは、放線菌由来のPLDが用いられる。
【0013】
本発明で用いられる放線菌は、PLDを生成するものであれば全て用いることができる。特に、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ミクロモノスポーラ(Micromonospora)属、ノカルディア(Nocardia)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属、アクチノマデューラ(Actinomadura)属などに属する微生物が好ましく用いられる。
より具体的には、ストレプトマイセス・シンナモネウム(Streptomyces cinnamoneum IFO12852)、ミクロモノスポーラ・チヤルセア(Micromonospora chalcea ATCC 12452)、ノカルディア・メディテラーネイ(Nocardia mediterranei IFO13142)、ノカルデイオプシス・ダソンビレイ(Nocardiopsis dassonvillei IFO 13908)、アクチノマデューラ・リバノチカ(Actinomadura libanotica IFO 14095)などが挙げられる。これらの他にも、上記の属に属する放線菌であれば、公知の微生物、および自然界から単離された微生物が用いられる。また、PLDの生産性を向上させた上記微生物の変異株、および上記微生物から単離したPLD遺伝子を同種または異種の宿主に導入してPLDの生産性を向上させた菌株も、本発明の方法に使用することができる。
【0014】
PLDは、通常、上記微生物を好気的に培養して得られる。培養に用いる培地としては、微生物の培養に通常用いられるものが使用され得る。炭素源としては、例えば、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、デンプン、デキストリン、糖蜜、グリセロールなどの同化可能な炭水化物や炭化水素類などが使用される。窒素源としては、利用可能な窒素化合物であれば特に限定されず、例えば、コーンスチープリカー、大豆粉、小麦グルテン、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、カゼインなどが使用される。その他、リン酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類が必要に応じて使用される。
培養温度は、菌が生育し、かつPLDが生成される範囲内で適宜採用することができ、通常15〜40℃である。培養時間は条件によって異なるが、PLD活性が最大となる時点で培養を終了すればよく、通常1〜6日程度である。
なお、PLDは菌体外に生成されるものでもよく、菌体内に生成されるものでもよい。例えば、PLDを含有する培養液でもよく、培養液あるいは培養菌体から精製した酵素であってもよい。これらはいずれも本発明の方法に使用することができる。
【0015】
本発明で用いられるPLDの使用量は、リン脂質1gに対し、1〜10000単位(以下、単位Uを用いる)、好ましくは20〜8000U、さらに好ましくは10〜1000Uの範囲で選択することができる。なお、酵素活性の1Uは、95%大豆ホスファチジルコリンを基質とし、基質濃度0.16%の0.2M酢酸緩衝液(pH4.0、10mMのCaCl、1.3%のTriton X−100を含む)を37℃にて反応させた時、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。
【0016】
本発明の塩基交換方法及び加水分解方法において、リン脂質の加水分解反応及び/又は塩基交換反応の温度は、10〜60℃が好ましく、25〜50℃がさらに好ましい。反応の所要時間は、酵素量及び/又は反応温度に依存して変動する。反応時間は、通常は、約0.5〜48時間、好ましくは2〜6時間である。二相系の反応では、反応を十分に進行させるために水相と溶媒相とを十分に混合させる必要があるが、本発明の塩基交換方法及び加水分解方法は、アセトンと水からなる均一相で行うので、反応時に攪拌等をすることは必須ではなく、静置状態でも十分反応が進行する。しかし、反応時に攪拌、振とう等の処理を施すことを否定するものではない。
【0017】
リン脂質の塩基交換反応及び/又は加水分解反応の終了後、得られたPG、PS、PA等の単離は、例えば、減圧下で水及びアセトンを除去することにより容易に行うことができる。また、当業者によく知られた方法により、シリカゲル、アルミナゲル、逆相担体等を用いたカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等を用いて行うこともできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、均一溶媒中で反応が進行するため、静置状態であってもリン脂質の加水分解反応及び/又は塩基交換反応が効率よく進行する。さらに、水及びアセトンは、反応後に減圧下で容易に除去できるため、生成物の単離工程が複雑化するという問題も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1:グリセロールを用いたリン脂質の塩基交換反応)
レシチンUltralecP(ADM社製、PC20〜25重量%、PE15〜20重量%)4g、グリセロール2gを蒸留水4mLに加え、常温で均一になるまで混合して混合物Aを作成した(約1〜2時間)。混合物Aを0.2gずつ10個に分け、それぞれにPLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を10U(レシチン1gあたり125U)の活性を有するように添加し、9個の混合物に、アセトン4μL、10μL、20μL、40μL、80μL、200μL、400μL、800μL、2000μLをそれぞれ添加した。残りの1個はアセトンを添加せずに反応させる。これら10個の混合物を、振動させながら、30℃で4時間反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、以下の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
【0020】
使用カラム:ジーエルサイエンス社製 Unisil Q NH(4.6mm I.D.×250mm)
移動相:アセトニトリル/メタノール/50mMリン酸二水素アンモニウム=1856/874/270
流速:1.3mL/分
検出:UV 205nm
【0021】
実施例1の結果を表1及び図1に示す。表1及び図1は、添加したアセトンの量と生成したPG量との関係を示す表及びグラフである。
表1及び図1において、
アセトン(容積%):(添加したアセトン(μL)/(混合物A+アセトン)(μL))×100
PG(重量%):酵素処理後のサンプル中のPG量/酵素処理後のサンプル中の全リン脂質量×100である。
【0022】
【表1】

【0023】
添加するアセトンの量が増えるにつれて、生成するPGの量が増えていき、アセトン(容積%)=50でPG(重量%)=67と最大値を示した。アセトン(容積%)=50を超えてさらにアセトンを添加した場合、生成するPGの量は徐々に減少していく傾向が見られた。
【0024】
(実施例2:セリンを用いたリン脂質の塩基交換反応)
レシチンUltralecP(ADM社製)4g、セリン飽和水溶液(25℃)6gを常温で混合して混合物Bを作成した。混合物B0.2gに、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を10U(レシチン1gあたり125U)の活性を有するように添加し、さらにアセトン0μL、4μL、10μL、20μL、40μL、80μL、200μL、400μL、800μL、2000μLをそれぞれ添加した。これらの混合物を、振動させながら、30℃で4時間反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
実施例2の結果を表2及び図2に示す。表2及び図2は、添加したアセトンの量と生成したPS量との関係を示す表及びグラフである。
表2及び図2において、
アセトン(容積%):(添加したアセトン(μL)/(混合物B+アセトン)(μL))×100
PS(重量%):酵素処理後のサンプル中のPS量/酵素処理後のサンプル中の全リン脂質量×100である。
【0025】
【表2】

【0026】
添加するアセトンの量が増えるにつれて、生成するPSの量が増えていき、アセトン(容積%)=29でPS(重量%)=37と最大値を示した。アセトン(容積%)=29を超えてさらにアセトンを添加した場合、生成するPSの量は徐々に減少していく傾向が見られた。
【0027】
(実施例3:リン脂質の加水分解反応)
レシチンUltralecP(ADM社製)4g、蒸留水6gを常温で均一になるまで混合して混合物Cを作成した。混合物C0.2gに、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を10U(レシチン1gあたり125U)の活性を有するように添加し、さらにアセトン0μL、4μL、10μL、20μL、40μL、80μL、200μL、400μL、800μL、2000μLをそれぞれ添加した。これらの混合物を、振動させながら、30℃で4時間反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
【0028】
実施例3の結果を表3及び図3に示す。表3及び図3は、添加したアセトンの量と生成したPA量との関係を示す表及びグラフである。
表3及び図3において、
アセトン(容積%):(添加したアセトン(μL)/(混合物C+アセトン)(μL))×100
PA(重量%):酵素処理後のサンプル中のPA量/酵素処理後のサンプル中の全リン脂質量×100
である。
【0029】
【表3】

【0030】
添加するアセトンの量が増えるにつれて、生成するPAの量が増えていき、アセトン(容積%)=29でPA(重量%)=32と最大値を示した。アセトン(容積%)=29を超えてさらにアセトンを添加した場合、生成するPAの量は徐々に減少していく傾向が見られた。
【0031】
(実施例4:反応温度)
レシチンUltralecP(ADM社製)4g、グリセロール2gを蒸留水4mLに加え、常温で均一になるまで混合した(約1〜2時間)。この混合物0.2gに、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を10U(レシチン1gあたり125U)の活性を有するように添加し、さらにアセトン1.00μLを添加した(アセトン(容積%)=33に相当)。アセトンを添加したサンプルと、アセトンを添加していないサンプルとを対にして、これらの混合物を、それぞれ、20℃、30℃、40℃、50℃及び60℃で4時間静置して反応させた。反応修了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
実施例4の結果を表4及び図4に示す。表4は、アセトンを添加した系又は添加しない系において、反応温度と、PC及びPEの転移率と、生成したPG量との関係を示す表であり、図4は、アセトンを添加した系又は添加しない系において、反応温度と、生成したPG量との関係を示すグラフである。
【0032】
表4において、
PCの転移率(%):(酵素処理前のPC量−酵素処理後のPC量)/(酵素処理前のPC量)×100
PEの転移率(%):(酵素処理前のPE量−酵素処理後のPE量)/(酵素処理前のPE量)×100
である。
また、表4及び図4において、PG(重量%)は実施例1に記載した式により計算した値である。
【0033】
【表4】

【0034】
いずれの反応温度においても、アセトンを添加した系では、アセトンを添加しない系よりもPG(重量%)が高い結果となった。また、アセトンを添加した系において、反応温度40〜60℃でPG(重量%)=67〜68であり、20℃の場合と比較してPG(重量%)が高かった。更に、PCとPEを比較すると、反応温度やアセトンの有無に関わらず、PCの方が転移率が高かった。
【0035】
(実施例5:緩衝液を添加した反応系)
レシチンUltralecP(ADM社製)2.0g、グリセロール0.8g、及び150mM酢酸緩衝液3.6gを、常温で均一になるまで混合した。この混合物に、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を2000U(レシチン1gあたり1000U)の活性を有するように添加し、さらにアセトン3.6mLを添加した(アセトン(容積%)=約36)。比較として、アセトンを添加しないサンプルを別途作成した。これらの混合物を、30℃で3.5時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
アセトン添加あり:PG(重量%)=65
アセトン添加なし:PG(重量%)=34
【0036】
(実施例6:緩衝液を添加した反応系)
レシチンUltralecP(ADM社製)3.0g、グリセロール1.2g、及び125mM酢酸緩衝液4gを、常温で均一になるまで混合した。この混合物に、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を2000U(レシチン1gあたり667U)の活性を有するように添加し、さらにアセトン1.8mLを添加した(アセトン(容積%)=約18)。比較として、アセトン1.8mLの代わりに蒸留水1.8mLを添加したサンプルを別途作成した。これらのサンプルを、30℃で3.5時間攪拌しながら反応させた。
反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
アセトン添加あり:PG(重量%)=65
アセトン添加なし:PG(重量%)=40
【0037】
(実施例7)
レシチンSLP−PC70(辻製油社製、PC約75重量%、PE約20重量%)3.0g、グリセロール1.0g、及び蒸留水1.0gを、常温で均一になるまで混合した。この混合物にアセトン1.0mLを添加した(アセトン(容積%)=17)。さらに、この混合物に、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を300U(レシチン1gあたり100U)の活性を有するように添加した。比較として、アセトンを添加しないサンプルを別途作成した。これらのサンプルを、30℃で3.5時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
アセトン添加あり:PG(重量%)=73
アセトン添加なし:PG(重量%)=37
【0038】
(実施例8)
レシチンUltralecP(ADM社製)0.5g、グリセロール1.0g、及び蒸留水3.5gを、常温で均一になるまで混合した。この混合物に、アセトン2.5mLを添加した(アセトン(容積%)=33)。さらに、この混合物に、PLDナガセ(ナガセケムテックス社製)を25U(レシチン1gあたり100U)の活性を有するように添加した。比較として、アセトンを添加しないサンプルを別途作成した。これらの混合物を、40℃で3時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
アセトン添加あり:PG(重量%)=59
アセトン添加なし:PG(重量%)=42
【0039】
(実施例9)
レシチンUltralecP(ADM社製)0.1g、グリセロール0.3g、及び蒸留水0.6gを、常温で均一になるまで混合した。この混合物に、アセトン0.2mLを添加した(アセトン(容積%)=17)。さらに、この混合物に、Streptmyces sp.(フナコシ社製)由来PLDを5U(レシチン1gあたり50U)の活性を有するように添加した。比較としを、40℃で3時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
アセトン添加あり:PG(重量%)=21
アセトン添加なし:PG(重量%)=17
【0040】
(実施例10)
レシチンUltralecP(ADM社製)0.1g、グリセロール0.3g、及び蒸留水0.6gを、常温で均一になるまで混合した。この混合物に、アセトン0.2mLを添加した(アセトン(容積%)=17)。さらに、この混合物に、Actinomadura sp.(生化学工業社製)由来PLDを5U(レシチン1gあたり50U)の活性を有するように添加した。比較としてレアセトンを添加しないサンプルを別途作成した。これらの混合物を、40℃で3時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応物をクロロホルム/メタノール=1:1に溶解し、上記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて反応物の分析を行った。
アセトン添加あり:PG(重量%)=64
アセトン添加なし:PG(重量%)=48
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】添加したアセトンの量と生成したPG量との関係を示す図である。
【図2】添加したアセトンの量と生成したPS量との関係を示す図である。
【図3】添加したアセトンの量と生成したPA量との関係を示す図である。
【図4】アセトンを添加した系又は添加しない系において、反応温度と、生成したPG量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質と、アルコール類、含窒素アルコール類、糖類、ポリオール類、及びヒドロキシ環状化合物からなる群から選択される少なくとも1種のヒドロキシル基含有化合物とを、ホスホリパーゼDの存在下、アセトンと水からなる均一相中で反応させる工程を含む、リン脂質を塩基交換する方法。
【請求項2】
リン脂質と水とを、ホスホリパーゼDの存在下、アセトンと水からなる均一相中で反応させる工程を含む、リン脂質を加水分解する方法。
【請求項3】
前記ホスホリパーゼDが、微生物由来である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ホスホリパーゼDが、放線菌由来である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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