説明

リン酸アルミニウムの製造方法

【課題】低い温度、かつ、短時間でリン酸アルミニウムを製造することができる、リン酸アルミニウムの新規製造方法を提供すること。
【解決手段】リン酸アルミニウムの製造方法として、リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物をアルカリ性水溶液に溶解させた、第2の水溶液を、第1の水溶液のpHが1.49〜2.49となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸アルミニウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸アルミニウム(AlPO4)の製造方法は、これまでにもいくつか報告されてきた。
代表的な例として、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)と塩化アルミニウム(AlCl3)とを水に溶解し、水酸化ナトリウムを用いてpHを3.8になるように調整した後に、1〜4週間加温することによって製造する方法が報告されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0003】
別の製造方法として、リン酸(H3PO4)とアルミン酸ナトリウム(NaAlO2またはNa2O・Al2O3)との混合液を、約160℃で加熱することによって飽和溶液とし結晶を析出させる方法をはじめとする、水熱合成方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】新実験化学講座8、丸善
【非特許文献2】無機リン化学、講談社サイエンティフィック
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より低い温度、かつ、より短時間で純度の高いリン酸アルミニウムを製造することができる、リン酸アルミニウムの新規製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、リン酸含有化合物を溶解させた酸性水溶液に対して、アルミニウム含有化合物を溶解させたアルカリ性水溶液を加えることによって、このリン酸含有化合物とアルミニウム含有化合物とを含む水溶液のpHを特定の値にすれば、簡便に純度の高いリン酸アルミニウムを製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
即ち、本発明は下記の通りである。
(i)リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.49〜2.49となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【0007】
(ii)リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.54未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.54〜2.49となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【0008】
(iii)リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.49〜1.80となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【0009】
(iv)リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.54未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.54〜1.80となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【0010】
(v)前記アルカリ性水溶液が、アルカリ金属の水酸化物を含有する水溶液であることを特徴とする、(i)〜(iv)のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
(vi)前記アルカリ金属の水酸化物が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする、(v)に記載の製造方法。
【0012】
(vii)前記酸性水溶液が鉱酸を含有する水溶液であることを特徴とする、(i)〜(vi)のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
(viii)前記酸性水溶液が塩酸、硝酸、または、リン酸を含有する水溶液であることを特徴とする、(vii)に記載の製造方法。
【0014】
(ix)前記リン酸含有化合物が、リン酸、リン酸無水素塩、および、リン酸一水素塩からなる群から選択される1以上のリン酸含有化合物であることを特徴とする、(i)〜(viii)のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
(x)前記リン酸含有化合物が、リン酸アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸一水素マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、および、リン酸一水素カルシウムからなる群から選択される1以上の化合物であることを特徴とする、(ix)に記載の製造方法。
【0016】
(xi)前記リン酸含有化合物が、リン酸二水素塩であることを特徴とする、(i)〜(viii)のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
(xii)前記リン酸含有化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、および、リン酸二水素カリウムからなる群から選択される1以上の化合物であることを特徴とする、(xi)に記載の製造方法。
【0018】
(xiii)前記アルミニウム含有化合物が、アルミニウム単体、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、および、硫酸アルミニウムからなる群から選択される1以上の化合物であることを特徴とする、(i)〜(xii)のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
(xiv)前記第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液が、硫酸成分とカルシウム成分とを同時に含有しないことを特徴とする、(i)〜(xiii)のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
(xv)前記生成したリン酸アルミニウムを母液中で熟成させる工程をさらに含むことを特徴とする、(i)〜(xiv)のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
(xvi)前記第2の水溶液が、アルマイト処理によって排出されるアルミニウム含有アルカリ廃液を含むことを特徴とする、(i)〜(xv)のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
(xvii)前記リン酸含有化合物が、下水汚泥、農業廃水汚泥、家畜糞尿、または、これらの焼却灰またはばいじん由来であることを特徴とする、(i)〜(xvi)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、より低い温度、かつ、より短時間で純度の高いリン酸アルミニウムを製造することができる、リン酸アルミニウムの新規製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により当業者には明らかであり、本明細書の記載から当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0025】
==リン酸アルミニウムの製造方法==
本発明のリン酸アルミニウム製造方法によれば、リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物をアルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、第1の水溶液のpHが1.49〜2.49となるまで加えることによって、純度の高いリン酸アルミニウムを製造することができる。
【0026】
リン酸含有化合物とは、例えば、リン酸、リン酸無水素塩、リン酸一水素塩、および、リン酸二水素塩があげられるが、これらに限定されない。
【0027】
ここで、リン酸とは、オルトリン酸をいう。
リン酸無水素塩とは、リン酸塩であって、水素塩ではない化合物をいう。例えば、リン酸アンモニウム((NH4)3PO4)、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)、リン酸三カリウム(K3PO4)、リン酸アンモニウムマグネシウム(MgNH4PO4)、および、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)があげられるが、これらに限定されない。
リン酸一水素塩とは、リン酸塩であって、一水素塩の化合物をいう。例えば、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸一水素マグネシウム(MgHPO4)、および、リン酸一水素カルシウム(CaHPO4)があげられるが、これらに限定されない。
リン酸二水素塩とは、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、および、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)があげられるが、これらに限定されない。
【0028】
上記リン酸含有化合物は、無水和物であっても良く、水和物であっても良い。なお、水和物の水和数は特に限定されない。
これらリン酸含有化合物は、単一種類で用いてもよく、また、複数種類を組み合わせて用いても良い。
【0029】
これらの化合物の由来は問わず、天然由来であっても、リン鉱石などを原料として製造された合成品であっても良い。
しかし、リン酸資源は、枯渇が問題となっている資源のひとつであり、さらに、一部の国においては戦略物質として指定され、その輸出が規制されている事態を踏まえれば、廃棄物から回収した廃棄物由来のリン酸資源を原料として用いることは、環境保全の面のみならず、自国資源の有用活用の面からも優れている。従って、廃棄物から回収したリン酸化合物を用いることが好ましい。
リン酸資源を高濃度で含む廃棄物としては、例えば、下水汚泥、農業廃水汚泥、家畜糞尿、および、これらの焼却灰やばいじんが挙げられるが、これらに限定されない。下水汚泥、および、その焼却灰やばいじんからは、特にリン酸アンモニウムマグネシウムやヒドロキシアパタイトなどを高効率で回収することができる。畜産系廃棄物、および、その焼却灰やばいじんからは、特にリン酸一水素カルシウムやヒドロキシアパタイトなどを高効率で回収することができる。
【0030】
リン酸含有化合物を溶解させる酸性水溶液は、これらの化合物を溶解させた後の第1の水溶液のpHが1.49未満となるような酸性水溶液であれば特に限定されないが、リン酸アルミニウムを生成した後の後処理のしやすさ、および、酸性水溶液の価格を踏まえれば、鉱酸の水溶液であることが好ましい。鉱酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、および、リン酸を用いることができるが、これらに限定されない。また、これらを組み合わせて用いても良い。
【0031】
ただし、例えば、リン酸含有化合物としてヒドロキシアパタイトやリン酸一水素カルシウムを用いる場合など、第1の水溶液または第2の水溶液がカルシウム成分を含有する場合には、鉱酸として硫酸を用いると、カルシウム成分と硫酸成分とが反応して硫酸カルシウムを生じ、目的生成物であるリン酸アルミニウムとの分離精製が煩雑になってしまう可能性がある。よって、この場合には、鉱酸のなかでも、塩酸、硝酸、または、リン酸を用いることがより好ましい。
【0032】
なお、ここで、「成分」とはイオンの状態を含む元素をいい、例えば、「カルシウム成分」とは、カルシウムイオンを含むカルシウム元素をいう。また、「第1の水溶液または第2の水溶液がカルシウム成分を含有する」とは、硫酸成分と反応することによって硫酸カルシウムを生じ、かつ、生じた硫酸カルシウムが沈殿として析出する程度の有効量のカルシウム成分を、第1の水溶液または第2の水溶液が含有することをいう。
【0033】
リン酸含有化合物を溶解させる酸性水溶液の純度は、特に限定されず、不純物を含んでいても良い。例えば、廃酸を用いることができる。
【0034】
酸性水溶液の酸濃度は、特に限定されないが、リン酸含有化合物を溶解させる効率を踏まえれば、0.1 mol/L以上であることが好ましく、1 mol/L以上であることがより好ましく、3 mol/L以上であることが特に好ましい。
【0035】
リン酸含有化合物を上記酸性水溶液に溶解させる方法は、特に限定されず、例えば、攪拌、振とう、超音波溶解などの常法を用いることができる。また、これらの化合物を酸性水溶液に溶解させる温度や圧力も特に限定されず、例えば、常温常圧下や加温常圧下で行うことができる。
【0036】
リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させる濃度は、特に限定されないが、第1の水溶液と第2の水溶液とを反応させリン酸アルミニウムを生成する効率を踏まえれば、0.1 mol/L以上であることが好ましく、0.5 mol/L以上であることがより好ましく、0.75 mol/L以上であることが特に好ましい。
【0037】
このようにして、リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液を調製することができる。
【0038】
一方、第2の水溶液に溶解させるアルミニウム含有化合物は、アルカリ性水溶液に溶解し、アルミニウム元素を構成成分とする化合物であれば特に限定されない。
ここで、アルミニウム含有化合物には、アルミニウム単体(Al)も含まれる。
【0039】
例えば、入手のしやすさ、および、溶解性の高さの観点から、アルミニウム単体、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)、塩化アルミニウム(AlCl3)、および、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)などを用いることが好ましい。さらに、取扱いの容易さを踏まえれば、アルミニウム単体、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、および、硫酸アルミニウムなどを用いることが特に好ましい。
【0040】
ただし、第1の水溶液または第2の水溶液がカルシウム成分を含有する場合には、
アルミニウム含有化合物として、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩を用いると、硫酸成分とカルシウム成分とが反応して硫酸カルシウムを生じ、目的生成物であるリン酸アルミニウムとの分離精製が煩雑になってしまう可能性がある。よって、この場合には、アルミニウム含有化合物のなかでも、アルミニウム単体、水酸化アルミニウム、または、酸化アルミニウムを用いることがより好ましい。
【0041】
なお、ここで、「第1の水溶液または第2の水溶液がカルシウム成分を含有する」とは、硫酸成分と反応することによって硫酸カルシウムを生じ、かつ、生じた硫酸カルシウムが沈殿として析出する程度の有効量のカルシウム成分を、第1の水溶液または第2の水溶液が含有することをいう。
【0042】
アルミニウム含有化合物は、無水和物であっても良く、水和物であっても良い。なお、水和物の水和数は特に限定されない。
これらアルミニウム含有化合物は、単一種類で用いてもよく、また、複数種類を組み合わせて用いても良い。
アルミニウム含有化合物の由来は問わず、天然由来であっても、合成品であっても良い。
【0043】
アルミニウム含有化合物を溶解させるアルカリ性水溶液の種類は、このアルミニウム含有化合物を溶解させることができるアルカリ性水溶液を適宜選択して用いることができる。このように選択したアルカリ性水溶液であれば特に限定されず用いることができるが、第2の水溶液を加えることによって、第1の水溶液のpHを1.49以上へと上昇させる効率を踏まえれば、強アルカリ性水溶液を用いることが好ましい。さらに、アルカリ金属の水酸化物水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることが特に好ましい。
【0044】
アルカリ性水溶液のアルカリ濃度は、特に限定されないが、アルミニウム含有化合物を溶解させる効率と、第1の水溶液のpHを1.49以上へと上昇させる効率とを踏まえれば、0.1 mol/L以上であることが好ましく、1 mol/L以上であることがより好ましく、3 mol/L以上であることが特に好ましい。
【0045】
アルミニウム含有化合物を、上記アルカリ性水溶液に溶解させる方法は、特に限定されず、例えば、攪拌、振とう、超音波溶解などの常法を用いることができる。また、これらの化合物をアルカリ性水溶液に溶解させる温度や圧力も特に限定されず、例えば、常温常圧下や加温常圧下で行うことができる。
【0046】
アルミニウム含有化合物を、アルカリ性水溶液に溶解させる濃度は、特に限定されないが、第1の水溶液と第2の水溶液とを反応させリン酸アルミニウムを生成する効率を踏まえれば、0.1 mol/L以上であることが好ましく、0.5 mol/L以上であることがより好ましく、1.0 mol/L以上であることが特に好ましい。
【0047】
このようにして、アルミニウム含有化合物をアルカリ性水溶液に溶解させた、第2の水溶液を調製することができる。
【0048】
なお、第2の水溶液として、工場などから排出されるアルミニウム含有アルカリ廃液を用いることができ、例えば、アルマイト処理によって排出されるアルミニウム含有アルカリ廃液を用いることができる。日本における主要なアルミニウム加工工場ではアルマイト処理工程などで強アルカリ性アルミニウム廃液が多量に発生し、その排液処理が問題となっていることから、第2の水溶液として、アルマイト処理によって排出されるアルミニウム含有アルカリ廃液を用いることは、資源のリサイクルという観点のみならず、廃液処理方法の一環としても、特に好ましい。
【0049】
第2の水溶液を、第1の水溶液のpHが1.49〜2.49となるまで第1の水溶液に加えると、直ちにリン酸アルミニウムが析出する、即ち、リン酸アルミニウムを沈殿として生成させることができる。
【0050】
この際、第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液のpHが1.49未満であっても、リン酸アルミニウムを生成させることはできる。しかし、pHが1.49未満ではリン酸アルミニウムの析出量が少ないため、回収の利便性を考慮すれば、第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液のpHは、1.49以上であることが好ましく、1.54以上であることがより好ましい。
なお、第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液のpHを1.54以上とする場合には、第2の水溶液を加える前の第1の水溶液のpHは1.54未満であれば良く、リン酸含有化合物を溶解させる酸性水溶液は、リン酸含有化合物を溶解させた後の第1の水溶液のpHが1.54未満となるような酸性水溶液であれば良い。
【0051】
第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液のpHが2.49を超えると、目的とするリン酸アルミニウムと共に、水酸化アルミニウムなどが析出しはじめることから、純粋なリン酸アルミニウムを沈殿として得るためには、第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液のpHは、2.49以下であることが好ましい。
【0052】
第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液が、硫酸成分とカルシウム成分とを同時に含有する場合には、硫酸成分とカルシウム成分とが反応して硫酸カルシウムを生じ、目的生成物であるリン酸アルミニウムとの分離精製が煩雑になってしまう可能性がある。よって、第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液が、硫酸成分とカルシウム成分とを同時に含有しないように、第1の水溶液と第2の水溶液とを選択することが好ましい。
【0053】
なお、ここで、「第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液が、硫酸成分とカルシウム成分とを同時に含有する」とは、硫酸成分とカルシウム成分とが反応することによって硫酸カルシウムを生じ、かつ、生じた硫酸カルシウムが沈殿として析出する程度の有効量の硫酸成分とカルシウム成分とを、第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液が含有することをいう。
【0054】
第2の水溶液を第1の水溶液に加える際には、第1の水溶液のpHが均一となるよう、第1の水溶液を攪拌しながら加えることが好ましい。
加える際の温度や圧力は特に限定されず、例えば、常温常圧下でも高い収率でリン酸アルミニウムを生成することができ、また、加温常圧下でも行うことができる。
【0055】
第2の水溶液を第1の水溶液に加える際において、第1の水溶液に含まれるリン酸成分と、第2の水溶液に含まれるアルミニウム成分とのモル比は、特に限定されないが、1:1になるように加えることが原料の有効利用という観点から好ましい。本発明に係るリン酸アルミニウムの製造においては、いずれかの原料、即ち、リン酸含有化合物、または、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を過剰量用いなくても、非常に高い収量でリン酸アルミニウムを製造できる。
【0056】
第2の水溶液を第1の水溶液に加えることによって、直ちにリン酸アルミニウムを生成させることができるが、さらに、生成したリン酸アルミニウムを熟成させても良い。リン酸アルミニウムを熟成させることによって、例えば、析出したリン酸アルミニウムの粒子径を大きくし、後の工程のハンドリング効率を向上させることができる。
熟成させる方法は、例えば、リン酸アルミニウムを生成した溶液中、即ち、母液中で、静置または攪拌する方法があげられるが、これらに限定されない。熟成させる時間は、特に限定されないが、3時間以上が好ましく、12時間以上が特に好ましい。
【0057】
リン酸アルミニウムを回収、精製する方法は特に限定されず、常法を用いることができる。例えば、リン酸アルミニウムは溶液中に析出しているため、ろ過によって、極めて容易に回収、精製することができる。
【0058】
==リン酸アルミニウムの使用方法==
このように製造したリン酸アルミニウムの使用方法は、特に限定されないが、焼却飛灰の重金属安定化剤や、都市ごみ焼却場の排ガス処理剤中の高機能添加剤として利用することができる。また、この他の用途としては、例えば、セラミック原料、医薬品原料、および、化粧品原料として利用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0060】
===リン酸成分含有酸性水溶液とアルミニウム成分含有アルカリ性水溶液との調製===
異なるリン酸またはリン酸塩化合物を含むリン酸成分含有酸性水溶液10種類と、異なるアルミニウム含有化合物を含むアルミニウム成分含有アルカリ性水溶液2種類とを、以下の方法で調製した。
【0061】
純度85%のリン酸8.65 g(0.075 mol、和光純薬工業。なお、以下に記載の全ての試薬は、和光純薬工業から購入した。)を量り取り、3 mol/Lの塩酸水溶液に溶解させつつ、100 mLにメスアップすることによって、0.75 mol/Lのリン酸成分含有酸性水溶液を調製した。この溶液をA3液とした。
【0062】
同様に、下記のリン酸塩化合物のいずれかを0.075 mol量り取り、3 mol/Lの塩酸水溶液に溶解させつつ、100 mLにメスアップすることによって、0.75 mol/Lの各種リン酸成分含有酸性水溶液を調製した。
リン酸塩化合物としては、リン酸アンモニウム(A0-a液)、リン酸三ナトリウム十二水和物(A0-b液)、リン酸三カリウム(A0-c液)、リン酸アンモニウムマグネシウム六水和物(A0-d液)、および、ヒドロキシアパタイト(A0-e液、ここまで、リン酸無水素塩)、リン酸水素二アンモニウム(A1-a液)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(A1-b液)、リン酸水素二カリウム(A1-c液)、リン酸一水素マグネシウム三水和物(A1-d液)、および、リン酸一水素カルシウム二水和物(A1-e液、ここまで、リン酸一水素塩)、リン酸二水素アンモニウム(A2-a液)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(A2-b液)、および、リン酸二水素カリウム(A2-c液、ここまで、リン酸二水素塩)を、それぞれ使用した。
【0063】
また、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液は、水酸化アルミニウム、または、硫酸アルミニウムを、水酸化ナトリウム水溶液に溶解させることによって調製した。
具体的には、水酸化ナトリウム211.0 g(5.28 mol)を、2 Lビーカーに量り取った。イオン交換水960 mLと水酸化アルミニウム209.8 g(2.69 mol)とを加えた後、この混合物を90℃で過熱攪拌し溶解させることによって、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液を調製した。この溶液をB1液とした。B1液の比重が1.227 g/mLであったことから、B1液の水酸化ナトリウム濃度を4.69 mol/Lと算出し、アルミニウム成分の濃度を2.39 mol/Lと算出した。
同様に、水酸化ナトリウム211.0 g(5.28 mol)を、2 Lビーカーに量り取り、イオン交換水960 mLと無水硫酸アルミニウム459.9 g(1.34 mol、アルミニウム成分換算2.69 mol)とを加えた後、この混合物を90℃で過熱攪拌し溶解させることによって、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液としてB2液を調製した。B2液の水酸化ナトリウム濃度は4.69 mol/Lであり、アルミニウム成分の濃度は2.39 mol/Lであった。
【0064】
===pHの影響===
上記A1-e液にB1液を加えていくリン酸アルミニウムの製造方法において、B1液を全て加え終えた後のA1-e液のpHが生成物に与える影響を示すべく、A1-e液のpHがそれぞれ1.00(実施例1)、1.49(実施例2)、1.54(実施例3)、1.67(実施例4)、1.78(実施例5)、1.80(実施例6)、1.88(実施例7)、2.03(実施例8)、および、2.49(実施例9)となるまでB1液を加えた実施例1〜9と、A1-e液のpHがそれぞれ2.71(比較例1)、3.02(比較例2)、3.43(比較例3)、3.54(比較例4)、4.25(比較例5)、4.39(比較例6)、および、4.57(比較例7)となるまでB1液を加えた比較例1〜7を行った。
これら実施例1〜9および比較例1〜7の詳細は、以下の通りである。
【0065】
[実施例1] pHが1.00の場合
200 mLビーカーに入れたA1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB1液22.5 mLを14℃〜30℃で1時間かけて滴下した。この時点で、白色沈殿の析出がわずかに観察された。なお、B1液全量滴下後のpHは1.00であった。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた。しかし、白色沈殿の析出量は著しく少なかった。吸引ろ過により沈殿をろ別し、ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄した後、105℃で乾燥させた結果、微量のリン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
[実施例2] pHが1.49の場合
200 mLビーカーに入れたA1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB1液24.0 mLを14℃〜30℃で1時間かけて滴下した。この時点で、白色沈殿が析出した。なお、全量滴下後のpHは1.49であった。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた後、吸引ろ過により沈殿をろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
【0066】
[実施例3] pHが1.54の場合
200 mLビーカーに入れたA1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB1液24.5 mLを14℃〜30℃で1時間かけて滴下した。この時点で、白色沈殿が多量に析出した。なお、全量滴下後のpHは1.54であった。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた後、吸引ろ過により沈殿をろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
[実施例4〜9] pHが1.67〜2.49の場合
実施例4においてはB1液26.0 mL(B1液全量滴下後のpHは1.67)、実施例5ではB1液27.0 mL(B1液全量滴下後のpHは1.78)、実施例6ではB1液28.0 mL(B1液全量滴下後のpHは1.80)、実施例7ではB1液28.5 mL(B1液全量滴下後のpHは1.88)、実施例8ではB1液29.0 mL(B1液全量滴下後のpHは2.03)、そして、実施例9ではB1液29.5 mL(B1液全量滴下後のpHは2.49)を用いた他は、実施例3の方法に従って行った。
実施例4〜9のいずれの反応系内の様子も、実施例3と同様に、B1液を全量滴下した時点で多量のリン酸アルミニウムの白色沈殿の析出が観察された。
【0067】
[比較例1] pHが2.71の場合
200 mLビーカーに入れたA1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB1液30.0 mLを14℃〜30℃で1時間かけて滴下した。全量滴下後のpHは2.71であった。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を吸引ろ過によりろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、白色粉体を得た。
[比較例2〜7] pHが3.02〜4.57の場合
比較例2においてはB1液32.0 mL(B1液全量滴下後のpHは3.02)、比較例3ではB1液33.0 mL(B1液全量滴下後のpHは3.43)、比較例4ではB1液34.0 mL(B1液全量滴下後のpHは3.54)、比較例5ではB1液35.5 mL(B1液全量滴下後のpHは4.25)、比較例6ではB1液36.0 mL(B1液全量滴下後のpHは4.39)、そして、比較例7ではB1液36.5 mL(B1液全量滴下後のpHは4.57)を用いた他は、比較例1の方法に従って行った。
【0068】
[データ解析1]
実施例1〜9および比較例1〜7で生成物として得た白色粉体のそれぞれについて、X線回折分析(X-ray diffraction, XRD分析)を行い、データベース(Joint Committee on Powder Diffraction Standards, JCPDS)および市販のリン酸アルミニウムと比較することによって、白色粉体の成分を同定した。
【0069】
まず、各実施例で得た生成物をそのまま用いてXRD分析を行った。この結果、実施例1〜9において得た生成物は、JCPDSのリン酸アルミニウムのデータ、そして、市販のリン酸アルミニウムと同一の回折角(2θ=20°〜34°)を有していることより、リン酸アルミニウムであることが示された。
この一方で、比較例1〜7において得た生成物も、JCPDSのリン酸アルミニウムのデータ、そして、市販のリン酸アルミニウムと同一の回折角を有していることより、主生成物はリン酸アルミニウムであることが分かった。
【0070】
そこで、生成物の同定精度をより高めるべく、市販のリン酸アルミニウムと、実施例2、および、比較例1、4および7の生成物とについて、それぞれを焼成した後に得られた粉体のXRD分析も行った。具体的には、各化合物2 gをそれぞれのるつぼに量り取り、電気炉を用いて、室温から1000℃まで毎分10℃で昇温し、さらに1000℃の恒温で1時間焼成することによって、粉体を得、このようにして得た粉体を用いてXRD分析を行った。
これら焼成後の粉体のXRD分析の結果を、実施例2、および、比較例1、4および7の生成物については焼成前のXRD分析の結果とあわせて、図1〜5に示す。
【0071】
図1は、焼成した市販のリン酸アルミニウムのXRD分析チャートである。また、図2〜5は、それぞれ実施例2、および、比較例1、4および7において得た生成物の焼成前と焼成後のXRD分析チャートである。
図2における焼成後の生成物のXRD分析チャートは、図1及びJCPDSのPDFファイル(powder diffraction file)PDF#20-44と非常に良い一致を示した。従って、生成物を焼成した後のXRD分析結果からも、実施例における生成物はリン酸アルミニウムであることが支持された。
また、図3および4における焼成後の生成物のXRD分析チャートも、図1及びPDF#20-44と良い一致を示し、そして、図5における焼成後の生成物のXRD分析チャートは、PDF#11-500と良い一致を示した。このことから、比較例における主生成物もリン酸アルミニウムであることが分かった。
なお、焼成前のリン酸アルミニウムのピークがブロードであった理由としては、焼成前のリン酸アルミニウムはアモルファス形状をとっていたことによると推察される。
【0072】
XRD分析の結果から、実施例においても比較例においても、主生成物がリン酸アルミニウムであることは分かったが、これらの生成物が純粋なリン酸アルミニウムであるかどうかを判別することは難しいことから、より精密な分析を行うべく、実施例5、7、8および9、および、比較例2、3、5および6の生成物について、ICP発光分析による成分分析を行った。結果を図6に示す。
【0073】
図6の縦軸は、生成物におけるリン酸アルミニウムの割合(純度)を表わしており、横軸はpHを表わしている。成分分析の結果、塩としては、実施例5、7、8および9では実質上リン酸アルミニウムしか含まれていないことが裏付けられた。また、図6が示すように、その量は約78%と一定であった。なお、この場合の残り約22%は、生成物を焼成すると約20%強の重量が減少することから、水であると考えられる。
これに対し、比較例2、3、5および6の生成物には、成分分析の結果、リン酸アルミニウムの他にも、水酸化アルミニウムやCa9Al(PO4)7が含まれていることが分かった。また、生成物に含まれるリン酸アルミニウムの量は、pH2.49を境目として、pHが上昇するに従って減少していた。
【0074】
成分分析の結果、純粋なリン酸アルミニウムを生成したことが確認された実施例1〜9についてはその収率と、焼成前の回折角の測定値とを、表1に示す。なお、収率については、70%以上の場合は++、80%以上の場合は+++、そして、わずかに生成が確認されたものは±と表記した。
【0075】
【表1】

【0076】
以上示したように、実施例1〜9において、非常に効率良く純粋なリン酸アルミニウムが生成し、その収率は、pHが1.49で43%、pHが1.54で70%、そして、pHが1.67以上の場合には80%以上と、極めて高い値であった。
【0077】
このように、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液をリン酸成分含有酸性水溶液に加えることによって、室温という温和な条件のもと、短時間で純粋なリン酸アルミニウムを製造できた。この製造方法において、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液を加えた後のリン酸成分含有酸性水溶液のpHを、1.49以上にすることによって、リン酸アルミニウムを収率良く製造できた。
【0078】
===リン酸成分含有酸性水溶液におけるリン酸含有化合物の種類の影響===
次に、リン酸成分含有酸性水溶液におけるリン酸含有化合物の種類がリン酸アルミニウムの製造方法に与える影響を示すべく、各種リン酸またはリン酸塩を含有する酸性水溶液を用いて、実施例10〜23(A3液、A0-a液〜A0-e液、A1-a液〜A1-e液、および、A2-a液〜A2-c液を使用)を行った。
これら実施例10〜23の詳細は、以下の通りである。
【0079】
[実施例10] A3液を用いた場合
A3液100 mLを200 mLビーカーに入れ、スターラーを用いて攪拌しながら、pHが2.00になるまでB1液を14℃〜30℃で滴下した。この時点で、白色沈殿が多量に析出した。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた。沈殿を吸引ろ過によりろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
【0080】
[実施例11〜23] A0-a液〜A0-e液、A1-a液〜A1-e液、および、A2-a液〜A2-c液を用いた場合
A3液の代わりに、実施例11ではA0-a液、実施例12ではA0-b液、実施例13ではA0-c液、実施例14ではA0-d液、実施例15ではA0-e液、実施例16ではA1-a液、実施例17ではA1-b液、実施例18ではA1-c液、実施例19ではA1-d液、実施例20ではA1-e液、実施例21ではA2-a液、実施例22ではA2-b液、そして、実施例23ではA2-c液を用いた他は、実施例10の方法に従って行った。
【0081】
[データ解析2]
実施例10〜23で生成物として得たリン酸アルミニウムのそれぞれについて、XRD分析により、化合物の同定を行った。
リン酸含有化合物として、リン酸、リン酸無水素塩、または、リン酸一水素塩を用いた、実施例10〜23においては、生成した粉体をそのままXRD分析することによって、JCPDSのリン酸アルミニウムのデータ、および、市販のリン酸アルミニウムと同一の回折角を検出することができ、生成物はリン酸アルミニウムであると同定することができた。
【0082】
この一方で、リン酸含有化合物としてリン酸二水素塩を用いた実施例21〜23においては、生成した粉体をそのままXRD分析したところ、回折角のピークが著しくブロードになり、生成物がリン酸アルミニウムであるかどうかが不明確であった。そこで、明瞭なピークを得るべく、生成した粉体を焼成し、再度XRD分析を行った。
図6及び図7は、それぞれ、実施例21および22における生成物の焼成前と焼成後のXRD分析結果である。これら図6及び図7が明示するように、焼成後の生成物のXRD分析チャートは、図1およびPDF#20-44と良い一致をしており、この結果から、リン酸含有化合物としてリン酸二水素塩を用いた場合の生成物もリン酸アルミニウムであると同定された。
【0083】
実施例10〜23において生成したリン酸アルミニウムの、焼成前の回折角と収率とを、まとめて表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2に記載するように、リン酸成分含有酸性水溶液として、リン酸含有酸性水溶液(A3液)を用いた場合には、高収率でリン酸アルミニウムを生成できた。さらに、リン酸無水素塩含有酸性水溶液(A0-a液〜A0-e液)、リン酸一水素塩含有酸性水溶液(A1-a液〜A1-e液)、および、リン酸二水素塩含有酸性水溶液(A2-a液〜A2-c液)のいずれを用いた場合においても、同様に高収率でリン酸アルミニウムを生成できることが実証された。
【0086】
===硫酸成分とカルシウム成分との影響===
リン酸アルミニウムの製造方法において、硫酸成分とカルシウム成分との両方が含まれる場合の影響を示すべく、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液として硫酸アルミニウムを溶解させたB2液を使用し、リン酸成分含有酸性水溶液としてリン酸水素二ナトリウムを溶解させたA1-b液を用いた実施例24と、リン酸成分含有酸性水溶液としてリン酸一水素カルシウムを溶解させたA1-e液とを用いた実施例25とを行った。
これら実施例24および25の詳細は、以下の通りである。
【0087】
[実施例24] 硫酸成分のみの場合
200 mLビーカーに入れたA1-b液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB2液25.0 mLを室温(25℃)で1時間かけて滴下した。この時点で、白色沈殿が多量に析出した。なお、全量滴下後のpHは1.75であった。
室温で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた後、吸引ろ過により沈殿をろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムの白色粉体を得た。
【0088】
[実施例25] 硫酸成分とカルシウム成分との両方が含まれる場合
200 mLビーカーに入れたA1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB2液25.0 mLを室温(25℃)で1時間かけて滴下した。滴下するに従って白色沈殿が多量に析出した。全量滴下後のpHは1.90であった。
室温で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた後、吸引ろ過により沈殿をろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムと硫酸カルシウムとが混合した白色粉体を得た。
【0089】
実施例24および25において得られた生成物、即ち、リン酸アルミニウムと硫酸カルシウムとの同定は、XRD分析により行った。
これら実施例の結果、リン酸アルミニウムの製造方法において、硫酸成分とカルシウム成分との両方が含まれる場合には、リン酸アルミニウムと硫酸カルシウムとが生成した。
【0090】
===混合方法の影響===
アルミニウム含有化合物をアルカリ性水溶液に溶解させた後に、リン酸成分含有酸性水溶液にこのアルカリ性水溶液を加えていきpHを1.49以上とすることによってリン酸アルミニウムを製造する方法(実施例26)と、リン酸成分含有酸性水溶液に先にアルミニウム含有化合物を加えた後に、アルカリ性水溶液を加えていくことによってpHを1.49以上とする方法(比較例8)との比較を行った。
【0091】
[実施例26] アルミニウム含有化合物を先にアルカリ性水溶液に溶解させる場合
まず、リン酸0.075 molを蒸留水で100 mLにメスアップすることによって、0.75 mol/Lのリン酸成分含有酸性水溶液を調製した。
このリン酸成分含有酸性水溶液100 mLを200 mLビーカーに入れ、スターラーを用いて攪拌しながら、pHが2.00になるまでB1液を14℃〜30℃で滴下した。この時点で、白色沈殿が多量に析出した。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた。沈殿を吸引ろ過によりろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
【0092】
[比較例8] アルミニウム含有化合物を先にリン酸成分含有酸性水溶液に溶解させる場合
リン酸0.01 molを蒸留水で100 mLにメスアップすることによって、0.10 mol/Lのリン酸成分含有酸性水溶液とした。この溶液を200 mLビーカーに移し、スターラーを用いて攪拌しながら、塩化アルミニウム0.01 molを加え溶解させた。溶液のpHは1.45であった。また、この時点で沈殿の析出は一切観察されなかった。
このようにして調製したアルミニウム含有化合物が溶解したリン酸成分含有酸性水溶液に、1.0 mol/L水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを2.49となるまで上昇させていったが、沈殿は一切生じなかった。さらにpHを4.50まで上昇させていったが、この場合にも、溶液が薄く白濁したのみで沈殿物を回収することはできなかった。
引続き、室温(25℃)で24時間攪拌を続けたものの、ごく僅かに白濁が観測されたのみで、析出物を回収することさえできなかった。
【0093】
実施例26と比較例8との結果から明らかなように、リン酸成分含有酸性水溶液に、アルミニウム含有化合物をあらかじめ溶解させたアルカリ性水溶液を加えていくことによってリン酸成分含有酸性水溶液のpHを上昇させていった場合においてのみ、非常に温和な条件で、リン酸アルミニウムを高効率で製造できた。
【0094】
===温度の影響===
これまでの実施例1〜26では、14℃〜30℃という低い温度でリン酸アルミニウムを生成できることを示してきたが、加温状態においても同様に効率良くリン酸アルミニウムを生成できることを実証すべく、実施例27を行った。
【0095】
[実施例27] 60℃の場合
200 mLビーカーに入れたA1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にB1液24.0 mLを60℃で1時間かけて滴下した。この時点で、白色沈殿が多量に析出した。なお、全量滴下後のpHは1.49であった。
60℃で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた後、吸引ろ過によりろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
【0096】
この結果、本発明に係るリン酸アルミニウムの製造は、常温以下〜常温という温和な条件下のみならず、加温条件下においても極めて効率よく行えた。
【0097】
===濃度の影響===
濃度が薄いリン酸成分含有酸性水溶液とアルミニウム成分含有アルカリ性水溶液とを用いても、同様に効率良くリン酸アルミニウムを生成できることを実証すべく、実施例28を行った。
【0098】
[実施例28] 希薄水溶液の場合
まず、希薄リン酸成分含有酸性水溶液と希薄アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液とを、以下の方法で調製した。
リン酸一水素カルシウム二水和物1.72 g(0.01 mol)を量り取り、3 mol/Lの塩酸水溶液に溶解させつつ、100 mLにメスアップすることによって、0.10 mol/Lの希薄リン酸成分含有酸性水溶液を調製した。この溶液をdil.A1-e液とした。
つづいて、水酸化ナトリウム21.1 g(0.53 mol)を、200 mLビーカーに量り取った。イオン交換水96 mLと水酸化アルミニウム2.80 g(0.035 mol)とを加えた後、この混合物を90℃で過熱攪拌し溶解させることによって、希薄アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液を調製した。この溶液をdil.B1液とした。
【0099】
200 mLビーカーに入れたdil.A1-e液100 mLを、スターラーを用いて攪拌しながら、その中にdil.B1液24.0 mLを14℃〜30℃で1時間かけて滴下した。この時点で、白色沈殿が多量に析出した。なお、全量滴下後のpHは1.62であった。
室温(25℃)で24時間攪拌を続け、生成した沈殿を熟成させた後、吸引ろ過により沈殿をろ別した。ろ物をイオン交換水20 mLで3回洗浄し、105℃で乾燥させた結果、リン酸アルミニウムを白色粉体として得た。
【0100】
この結果、リン酸成分含有酸性水溶液、および、アルミニウム成分含有アルカリ性水溶液の濃度に依存せず、濃度の薄い水溶液を用いた場合においても、リン酸アルミニウムを温和な条件下で収量よく生成できた。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】焼成した市販のリン酸アルミニウムのXRD分析チャートである。
【図2】本発明の一実施例における、pHを1.49とした場合の生成物の、焼成前後のXRD分析チャートである。
【図3】本発明の一実施例における、pHを2.71とした場合の生成物の、焼成前後のXRD分析チャートである。
【図4】本発明の一実施例における、pHを3.54とした場合の生成物の、焼成前後のXRD分析チャートである。
【図5】本発明の一実施例における、pHを4.57とした場合の生成物の、焼成前後のXRD分析チャートである。
【図6】本発明の一実施例における、pHと、生成物中のリン酸アルミニウムの割合との関係を示したグラフである。
【図7】本発明の一実施例における、リン酸二水素アンモニウムを用いた場合の生成物の、焼成前後のXRD分析チャートである。
【図8】本発明の一実施例における、リン酸二水素ナトリウムを用いた場合の生成物の、焼成前後のXRD分析チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.49〜2.49となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【請求項2】
リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.54未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.54〜2.49となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【請求項3】
リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.49未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.49〜1.80となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【請求項4】
リン酸含有化合物を酸性水溶液に溶解させた、pHが1.54未満の第1の水溶液に対して、アルカリ性水溶液に溶解するアルミニウム含有化合物を前記アルカリ性水溶液に溶解させた第2の水溶液を、前記第1の水溶液のpHが1.54〜1.80となるまで加えることによってリン酸アルミニウムを生成する工程を含む、リン酸アルミニウム製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ性水溶液が、アルカリ金属の水酸化物を含有する水溶液であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属の水酸化物が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸性水溶液が鉱酸を含有する水溶液であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸性水溶液が塩酸、硝酸、または、リン酸を含有する水溶液であることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸含有化合物が、リン酸、リン酸無水素塩、および、リン酸一水素塩からなる群から選択される1以上のリン酸含有化合物であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記リン酸含有化合物が、リン酸アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸一水素マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、および、リン酸一水素カルシウムからなる群から選択される1以上の化合物であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸含有化合物が、リン酸二水素塩であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記リン酸含有化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、および、リン酸二水素カリウムからなる群から選択される1以上の化合物であることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム含有化合物が、アルミニウム単体、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、および、硫酸アルミニウムからなる群から選択される1以上の化合物であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記第2の水溶液を加えた後の第1の水溶液が、硫酸成分とカルシウム成分とを同時に含有しないことを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記生成したリン酸アルミニウムを母液中で熟成させる工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記第2の水溶液が、アルマイト処理によって排出されるアルミニウム含有アルカリ廃液を含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記リン酸含有化合物が、下水汚泥、農業廃水汚泥、家畜糞尿、または、これらの焼却灰またはばいじん由来であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法。

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−256172(P2009−256172A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260960(P2008−260960)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(592018227)菱光石灰工業株式会社 (18)