説明

リン酸アンモニウムの製造

リン酸アンモニウムの製造方法であって、リンを含み水に相溶しない液相を供給する工程(210)と、水に相溶しない液相に無水アンモニアを加える工程(212)と、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方を水に相溶しない液相から沈殿させる工程(214)と、水に相溶しない液相から沈殿したリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方を抽出する工程(218)とを含む。この方法はさらに、上記の加える工程(212)及び沈殿させる工程(214)において水に相溶しない液相が所定の温度範囲になるように、水に相溶しない液相の温度を制御する工程(216)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、リンを含む溶液からのリン酸アンモニウムの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
リン鉱石(リン灰石)は、リンの主要な商用資源である。世界のリン製品の大部分は農産物に栄養を補給する肥料を生産するために用いられる。埋蔵されているリンの品質は落ちており、採掘及び加工のコストは上昇している。カルシウムを置換するカドミウムのような関連する重金属が、分離が必要となる程度高レベルで、リン鉱石に含まれている可能性がある。いくつかの国では、肥料に含まれる重金属のレベルを制限している。例えば、スウェーデンでは、P(リン)1kgにCd(カドミウム)を5mg以上含有しているP肥料には税金が課されている。ヨーロッパのいくつかの肥料製造者はカドミウム制限を設けた原料のみを輸入するサプライヤに切り替えている。
【0003】
可溶性肥料のような全ての水溶性リン酸塩はリン酸から生成される。リン酸は、商業的には、湿式プロセスまたは熱プロセスにより製造される。リン鉱石の湿式分解は最も一般的な方法である。熱プロセスはエネルギーを大量消費するため、費用がかかる。その理由から、熱的に製造された酸の量は非常に少なく、主に工業用リン酸塩の製造に用いられる。
【0004】
肥料製造のためのリン酸は、ほとんど全てがリン鉱石の湿式分解によるものである。そのプロセスは主に、硫酸によるリン灰石の溶解によるものである。リン灰石の溶解後、硫酸カルシウム(石膏)とリン酸とがろ過により分離される。商業グレードのリン酸を製造するために、高い酸濃度が必要とされ、水が蒸発される。硫酸カルシウムは、温度、スラリー中のリンの濃度、及び硫酸塩の解離度といった主な条件に依存して、数々の異なる結晶形で存在する。硫酸カルシウムは2水和物(CaSO・2HO)または半水和物(CaSO・1/2HO)として沈殿する。このプロセスで製造されたリン酸は低純度である特徴がある。
【0005】
全てのリン酸アンモニウム塩はリン酸から生成される。約54%のP濃度を有する商業グレードのリン酸は、中和プロセスにおけるリン酸に対するアンモニアのモル比を調節することによってリン酸モノアンモニウム(MAP)またはリン酸ジアンモニウム(DAP)を形成するために、アンモニアで中和される。アンモニアは液体状または気体状で用いられる。液体のアンモニアを気化させるためには、他の系からの過剰の熱が必要であるため、通常は液体の無水アンモニアが好ましい。商業グレードのリン酸のアンモニアによる中和は、通常、いくつかの反応容器を用いて、いくつかの段階で行われる。反応前のリン酸に対するアンモニアのモル比は、普通は、スラリーについて最大の溶解度を与えるレベル(DAPの製造には1.4〜1.45、MAPの製造には通常1以下)に保たれる。運転制御のために、スラリーのpHを監視することにより、リン酸に対するアンモニアのモル比が判定される。反応物に水を加えることで、反応の余分の熱は、中和前の反応物から除かれる。水の蒸発はスラリーを冷却する。リン酸に対するアンモニアのモル比が1を超えると未反応のアンモニアが反応物から逃げ、そして放出された気体蒸気は酸によって洗浄されなければならない。中和前の反応物によるスラリーは通常16〜23%の水分を含んでおり、通常、アンモニエータ―グラニュレータ(ammoniator-granulator)内に導入され、所望の生成物のためのアンモニアの添加を完了させる。中和及びさらなる水の蒸発が完了すると、固体の粒子が生成されることになる。酸を用いて洗浄することにより、気体蒸気からの未反応アンモニアを回収する必要がある。その後、固体のリン酸アンモニウムは通常、別個の反応容器において、水分を除去するために乾燥される。乾燥器から失われたアンモニアは、通常、酸による洗浄で回収される。リン酸アンモニウムの固体は、通常、冷却反応器を通して空気を通すことにより冷却される。
【0006】
滴下施肥(灌漑用水への水溶性の肥料の導入)、及び葉面施肥(葉への肥料の散布)のようないくつかの用途において、不溶性固体による滴下施肥装置の目詰まりを防ぐため、完全に溶解するリン酸アンモニウムに対する要求が存在する。湿式プロセスによるリン酸は、アンモニアによる中和において水に不溶の固体を形成する、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カドミウム等のような多くの不純物を含み、そのために肥料用グレードのリン酸アンモニウムは水に完全には溶解しない。したがって、滴下施肥を目的とした完全に溶解するP肥料は精製されたリン酸から特別な方法で製造する必要がある。
【0007】
現在用いられているリン酸精製の技術は、湿式プロセスによる不純物を含むリン酸の有機溶媒(ケトン、リン酸トリアルキル、アルコール等)による抽出と、これに続いて水による逆抽出により純粋な希釈されたリン酸を形成し、そこから水を蒸発させることとに基づく。精製されたリン酸は、その後、アンモニアによって中和され、上述の工程によって、完全に溶解するリン酸アンモニウム生成物が形成される。
【0008】
一般に、リン酸の溶媒抽出法として2つのプロセスが特定できる。これらのプロセスはa)濃縮溶液からのリン酸の部分的な抽出(partial extraction)とb)他の酸または塩の存在下におけるリン酸の完全な抽出(complete extraction)である。
【0009】
リン灰石を硫酸で分解して製造された濃リン酸からのリン酸の部分的な抽出は、もっとも一般的なプロセスである。このプロセスでは、リン酸の一部だけが有機相において抽出される。抽出されずに金属不純物と共に残ったリン酸は、様々な肥料といった低グレードのリン酸塩製品に用いられる。アルコールのような非常に低濃度に至るまで安定した分配係数を持つ溶媒、並びに例えばエーテル、エステル、及び特定のケトンのような特定の閾濃度より下では非常に低いリン酸抽出能力を示す、すなわち分配係数が非常にはっきりと濃度依存する溶媒、の何れであっても、リン酸を溶解できる溶媒はこのプロセスに用いることができる。
【0010】
異なるアプローチとしては、高濃度の他の酸または塩の存在下でのリン酸の完全な抽出を得ることがある。HSOのような第2の酸(英国特許第3573005号)またはCaClのような塩(英国特許第3304157号)の添加により、非常にリン酸が低濃度であっても、リン酸の分配係数(有機相と水相との間の溶質の分配比)が改善できる。加えられた酸も溶媒によって抽出されるが、有機溶媒中のその割合は、通常、供給溶液よりも小さい。適切な溶媒は、アルコール、トリブチルリン酸のようなリン酸トリアルキルなどであり、これらは、非常に低いリン酸濃度に至るまで安定した分配係数を示す。この方法は、部分的な抽出のプロセスにより得られたそのままの純粋でないリン酸からリン酸を抽出するときに推奨される。このアプローチの主な欠点は、最終的に水相には不純物と共に、加えられた酸(すなわち硫酸)または塩が多く含まれることで、(水相の)最終的な用途はないであろうことである。
【0011】
リン酸アンモニウムの製造のための従来技術の欠点は数多くある。石膏のろ過により製造されるリン酸はリン酸アンモニウム塩の直接的な生産には適さない。適切なリン酸濃度(通常、約54%P)とするために、水を蒸発させて酸をさらに濃縮しなければならない。通常、リン酸の濃縮は3つの段階で行われる。ろ過により得られる弱酸(28%P)を、1段真空エバポレータで水を蒸発させて40%Pとする。次に、酸は、沈殿した固体を除去するように清澄にされ、清澄にされた酸は2段階でさらに濃縮されて54%Pとなる。中間段階での濃度は、約48%Pである。54%Pのリン酸は、上述した工程によるリン酸アンモニウムの製造に用いられる。
【0012】
水の蒸発による酸の濃縮は非常に多くのエネルギーを消費するプロセスである。リン酸の濃縮のための蒸気の量は、通常、製造条件によって、リン酸1トン当たり2.5〜5トンの間で変動する。リン酸の濃縮のために必要なエネルギーは、大きな製造コストである。商業グレードのリン酸の製造には、蒸気分配システム、エバポレータ、排ガス浄化装置、濃縮システム、冷却水装置、廃液処理システム、酸貯蔵施設といった高価な設備が必要である。さらに、いくつかの段階におけるアンモニアによるリン酸の中和、乾燥、冷却、及び気体蒸気からのアンモニアの洗浄には、さらなる設備が必要となる。大きな欠点は、リン酸アンモニウム製品の品質はリン灰石原料の品質によることである。製造された肥料グレードのリン酸アンモニウムは、通常、カドミウムのような重金属の不純物を含んでおり、完全には溶解せず、したがって、滴下施肥法のような用途には不適切である。
【0013】
完全に溶解するリン酸アンモニウム塩(専門グレード)の製造はさらに複雑で、アンモニアによる中和の前に、商業グレードのリン酸を溶媒抽出で精製することを必要とする。リン酸を以下のa)、b)の2回にわたって濃縮する必要があるため、このプロセスで水の蒸発に使われるエネルギーは、非常に大きくなる。a)酸は溶媒抽出の前に濃縮する必要がある。b)精製されたリン酸は希釈されており、再び水を蒸発させて濃縮する必要がある。完全に溶解するリン酸アンモニウムの製造のためのさらなる設備には、溶媒抽出の前処理、液液抽出設備、液液ストリッピング設備、及び精製された酸を濃縮するためのエバポレータの各施設が含まれる。
【0014】
米国特許第3298782号では、湿式プロセスでのリン酸の精製のためのプロセスを記載しており、このプロセスはa)水相からアルコール−アミン有機相へのリン酸の抽出、b)アルコール−アミン相の水相からの分離、c)アルコール−アミン相からの精製リン酸の回収からなる。主な目的は、水による逆抽出で精製リン酸を回収することである。本文では、塩基との反応によって、アルコール−アミン相からリン酸塩を回収できることについても述べられている。一つの例では、リン酸塩を有機相から水相へ移すために、アンモニア水溶液を用いている。
【0015】
米国特許第3458282号では、リン酸からいくつかの不純物を除去するあるいは水相からリン酸を抽出するための抽出相として有機希釈剤(例えば、ケロシン)に溶解させたアミンを用いることによって、リン酸を精製する方法が記載されている。アミン希薄溶液によってリン酸が抽出される場合、主な目的は、水による逆抽出で精製された水相のリン酸を得ること、あるいは塩基水溶液との反応によってリン酸塩水溶液を得ることである。この特許文献では、有機希釈剤を気化させ、リン酸塩を沈殿させるために残った物質を水性溶媒またはアンモニアのようなガスで処理することで、アミンからリン酸塩を除くことが可能であることについても述べられている。ケロシンのような有機希釈剤を非常に大量に気化及び濃縮することは、コストが高く複雑である。
【0016】
米国特許第3894143号では、湿式プロセスのリン酸とアンモニアから高品質のリン酸アンモニウム結晶を得るプロセスが記載されている。プロセスはa)全ての成分が水と混ざるような、リン酸水溶液とアセトンの混合物の形成工程、b)アンモニアの添加による不純物の沈殿、及び精製混合物を形成するための沈殿した不純物の分離工程、c)リン酸アンモニウム結晶と上澄み液の生成のために精製混合物をアンモニアに接触させる工程、及びd)上澄み液からのリン酸アンモニウム結晶の分離工程、リサイクルのためのアセトンを分離するための上澄み液の蒸留工程、からなる。この方法の欠点は、大量のアセトンの蒸留、リン酸アンモニウムの限られた収率、大量の希釈されたリン酸アンモニウム廃液の生成、を含む。したがって、このプロセスは工業用には用いられなかった。
【0017】
公開された国際特許出願2008/115121号では、リンを回収するための方法及び装置が開示されている。リンイオンをスカベンジャー中に吸収させ、スカベンジャーの再生(regeneration)時にリンイオンを溶出液中に放出することで、リンイオンが溶液から抽出される。この再生はアンモニアによって行われる。リン酸アニオンは、過剰量のアンモニアを導入することにより、リン酸トリアンモニウムの形で沈殿する。リン酸トリアンモニウムが沈殿した後に溶液中に残ったアンモニアは、スカベンジャーの再生のために再利用される。残念ながら、リン酸トリアンモニウムは室温・大気圧では不安定で、結晶はアンモニアの放出を伴って分解する。このような不安定な結晶性の固体は農業用途での直接の使用にはふさわしくない。
【0018】
完全に溶解する、リン酸モノアンモニウム(MAP)またはリン酸ジアンモニウム(DAP)のようなリン酸アンモニウムの改良された製造方法であって、水の蒸発によるリン酸の濃縮に関連するコストが除かれた方法が求められている。
【発明の概要】
【0019】
本発明の総合的な目的は、リンを含む溶液からリン酸アンモニウムを製造するための方法及び装置を改良することである。本発明のさらなる目的は、水の蒸発によるリン酸の濃縮を必要とせずに完全に溶解するリン酸アンモニウムを製造する方法を提供することである。本発明の他の目的は、排出された蒸気からのアンモニアを乾燥及び洗浄する必要のない、コスト上効果的なリン酸アンモニウムの製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、肥料用途に容易に利用できる形で、回収されたリン酸アンモニウムを提供することである。
【0020】
上記目的は、添付の特許請求の範囲による方法及び装置によって達成される。一般的に言うと、第1の側面では、リン酸アンモニウムの製造方法であって、リンを含み水に相溶しない液相を供給する工程と、水に相溶しない液相に無水アンモニアを加える工程と、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方を水に相溶しない液相から沈殿させる工程と、水に相溶しない液相から沈殿したリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方を抽出する工程とを含む。この方法はさらに、上記の加える工程及び沈殿させる工程において、所定の温度範囲内になるように、水に相溶しない液相の温度を制御する工程を含む。
【0021】
第2の側面では、リン酸アンモニウム製造のための装置が混合容器を備える。混合容器は、リンを含み水に相溶しない液相のために接続された導入部、及び無水アンモニアを水に相溶しない液相に加えるために接続された導入部を有する。装置はさらに、水に相溶しない液相と熱的な接触をするように構成された熱交換器を備える。制御器は、混合容器中の水に相溶しない液相を所定の温度範囲内に保つように熱交換器を動作させるように構成される。装置は、沈殿したリン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムの結晶を混合容器から取り去るように構成された沈殿分離器をも備える。
【0022】
好ましくは、リンとの親和性を有する液体スカベンジャーにリンを吸収させることにより、溶液からリンを含み水に相溶しない液相へとリンが抽出され、結果、リンを含み水に相溶しない液相を生み出している。スカベンジャーの再生において、リンは、無水アンモニアを加えることにより液体スカベンジャーから取り去られる。液体スカベンジャーの温度は好ましくは沸点以下に維持される。再生されたスカベンジャーは好ましくはさらなる供給溶液からリンを抽出するため、続いてリサイクルされる。
【0023】
分離されたリン酸アンモニウムの結晶は、特定の一実施形態では、pHが所定のレベルに制御された水溶液で洗浄される。最初に結晶に付着していたスカベンジャーは、相分離器中で、密度の高い水から分離される。そのように分離されたスカベンジャーは、供給溶液からリンを抽出するため、続いてリサイクルされる。洗浄水溶液も、さらなる洗浄のためにリサイクルされる。他の特定の実施形態では、分離されたリン酸アンモニウムの結晶は、リン酸アンモニウムを溶解しない有機溶媒で洗浄され、当該有機溶媒はスカベンジャーよりも低い沸点を持つ。
【0024】
洗浄されたリン酸アンモニウムの結晶は、その後好ましくは乾燥される。乾燥は好ましくは少なくとも一部が無水アンモニアとリン酸との混合を冷却している熱交換プロセスで得られた熱によって行われる。
【0025】
本発明は、環境に優しく、コスト上効果的な方法での、リン酸アンモニウム肥料のような高品質な製品の形で一連のプロセスからリンを抽出する工程を提供する。本発明は、沈殿した結晶の初期組成に依存せずに、MAPまたはDAPを生成することを可能にする。本発明によると、濃縮された水に可溶な高品質な、すなわち植物に対するリンの利用可能性が高く重金属汚染が少ない無機生成物としてリンが回収される。本発明の他の利点は、大量の液体スカベンジャーを蒸留する必要なく、スカベンジャーを再利用可能にしていることである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明、及びその目的と利点は、添付の図面と共に以下の記載を参照することにより最もよく理解できる。
【図1】リン回収のための装置の一実施形態を示すブロック図。
【図2】本発明に係るリン酸アンモニウム製造装置の一実施形態を示すブロック図。
【図3】本発明に係る方法の一実施形態を示す流れ図。
【図4】本発明に係るリン酸アンモニウム製造装置の他の実施形態を示すブロック図。
【図5】本発明に係るリン酸アンモニウム製造装置の他の実施形態を示すブロック図。
【図6】本発明に係るリン酸アンモニウム製造装置の他の実施形態を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図面全体を通して、同じまたは対応する要素には同じ参照番号が用いられている。
【0028】
本明細書において頻繁に用いられるいくつかの用語については以下のように解釈される。
スカベンジャー:イオン会合または溶媒和により溶質種との親和性を有する物質、例えば、イオンまたは酸を吸収する物質。この用語は、溶媒に含まれる様々な種類の抽出剤を含む。
溶媒:液相、典型的には有機物質、水溶液から抽出できる溶質種を選択的に溶解させるもの。
抽出剤(extractant):抽出を可能にするアクティブな溶媒成分、典型的には有機物質。
溶媒抽出(液液抽出):典型的には少なくとも一方の相が有機溶媒である非相溶性の相の間でのマストランスファーによって、混合物から1以上の溶質を分離すること。
再生(regeneration):スカベンジャーを再利用可能とするために、処理溶液から除かれたスカベンジャーからイオンまたは酸を追い出すこと。
希釈剤:液体、典型的には有機物質、溶媒を形成するために抽出剤が溶解される。
ラフィネート(raffinate):水相で、溶質が抽出によって除去されている。
【0029】
本発明の主目的は、リン酸アンモニウム製造のためのシンプルかつコスト上効果的な方法を提供することである。本発明の方法では、水の蒸発によるリン酸の濃縮を必要とせずにリン酸アンモニウムを製造することを可能にする。さらに、本発明の方法では、完全に溶解する、純粋なリン酸モノアンモニウム塩またはリン酸ジアンモニウム塩の製造を可能にする。
【0030】
リン酸からのリン酸アンモニウム製造のための、1つの可能な一般的なアプローチは、リン酸を有機溶媒中に抽出し、有機相から直接リン酸アンモニウムを沈殿させるための手段としてアンモニアを用いることである。さらに、以下から、液体の無水アンモニアまたは気体の無水アンモニアは有用であることが分かる。液体の無水アンモニアまたは気体の無水アンモニアは、米国特許第3298782号、同3458282号においてリン酸アンモニウムを直接的に沈殿させるための手段としては試験されなかった。このような代替物が試験されなかった一つの理由は、このような一般的なアプローチに関連するいくつかの大きな困難性である。この困難性は、低いリン酸濃度の有機相における不十分なリン酸量、熱の発生と溶媒を蒸発させること、沈殿物に付着する高価な溶媒の損失、沈殿するリン酸アンモニウムの形態を予測することの困難性、及び不純物の分離の困難性のようなことである。当該困難性は、以下に記載され、商業的に意味のあるアプローチを与えるために克服すべきである。
【0031】
ケトン、リン酸トリアルキル、アルコールのようなリン酸の精製に用いられる溶媒は、供給溶液中のリン酸濃度を高くする必要があり、これは液液抽出プロセスを有効にするための十分に高濃度のリン酸を含む有機相を得るためである。このような溶媒を使用するには、リン酸の抽出に先立って、水を蒸発させることによるリン酸の濃縮が必要とされる。
【0032】
液液抽出を実用的とするために有機相中において十分に高濃度のリン酸が達成されても、アンモニアと高濃度のリン酸との反応は大きな発熱を伴うことが知られており、このことは溶媒の蒸発につながりうる。リン酸を多く含む溶媒を塩基水溶液でストリッピングさせると大量の熱が発生する。このような熱の発生の問題は、米国特許第4112118号に記載されており、この文献は、塩基水溶液でストリッピングすることで有機溶媒中へと抽出されたリン酸からリン酸塩を得るプロセスに関する。プロセスを実施するために、熱の発生を最小限に抑えるために、塩基のリン酸に対するモル比を0.1:1〜0.5:1に減少させる必要がある。有機相中で直接、無水アンモニアによりリン酸モノアンモニウムまたはリン酸ジアンモニウムを沈殿させる場合、アンモニアのリン酸に対するモル比を1以上とする必要があることから、このことは熱の発生と溶媒の蒸発という問題を浮き彫りにしている。特定の混合溶媒中で無水アンモニアとリン酸とを反応させる場合、それぞれの混合溶媒についてエンタルピーデータは特有の値であるため、実験的に判定される必要があり、熱の発生量を予測することも困難である。
【0033】
熱の発生と溶媒の蒸発によるこれらの困難性に加えて、沈殿したリン酸アンモニウムの結晶に、大量の溶媒が付着して残ることが予測され、少なくともいくつかの適用例においては、高価な溶媒の損失は経済的に受け入れ難い。リン酸トリブチルのような溶媒の沸点(289℃)はリン酸モノアンモニウムの融点(190℃)より高いため、蒸留による付着溶媒の除去は困難である。さらに、所望の最終生成物であるリン酸モノアンモニウムまたはリン酸ジアンモニウムのような安定したリン酸塩を製造するために、このプロセスは制御されていなければならない。最後に、このようなプロセスを適用可能なものとするために、金属、シリカ、フッ素等のような不純物の除去方法は特定されていなければならない。
【0034】
ここで特定した全ての上記困難性は、上記一般的なアプローチが本発明に先立って試験及び工業的な実施をされなかったことにつながった。
【0035】
以下、無機物を含むリンからのリン酸アンモニウムの製造プロセスの本発明に係る一実施形態を図1と関連させて詳細に述べる。しかし、効果的なアプローチであるが、本発明は無機物からのリン酸の回収に限られず、リン酸イオン/リン酸を与える多くの異なる系に適用可能である。小さな変更を加えた同様のプロセスは、例えば、汚泥を焼却した灰、動物由来成分を焼却した灰、汚水処理場におけるPが豊富な部分、工業廃水等からのリンの抽出に用いることができる。
【0036】
リンの回収のための装置100の一実施形態を図1に示す。採掘されたリン鉱石の選別により得られたリン灰石の濃縮物2は、分解されたリン灰石3を与えるための既知の方法による、ダイジェスタ(digester)4中での硫酸1による分解を受ける。既知のプロセススキームには、2水和物、半水和物、半水和物−2水和物、及び2水和物−半水和物プロセスが含まれる。硫酸カルシウム(石膏)5及びリンを含む水溶液7(本実施形態ではリン酸)は、続いてダイジェスタセパレータ(digester separator)6でろ過により分離される。ろ過された段階のリン酸7は、必要に応じて、既知の方法による不純物の除去の前処理がなされる。リン灰石の分解のための装置4及び不純物の分離のための装置6は、液液抽出プロセスへの供給溶液、すなわちリンを含む水溶液7、を供給するための前段階とみなすことができる。液液抽出による本実施形態では、供給溶液はリン酸アンモニウム製造のための装置10に供給される。液液抽出は、水相と有機相という混ざりあわない2つの相の間での溶質の選択的な移動を伴う。2つの混ざりあわない相は、溶質が移動しやすくするために、最初に全体的にしっかり混ぜられ、その後分離される。
【0037】
リンを含む水溶液7からリン酸塩を回収するために、液液抽出のプロセスが用いられ、リン酸イオン/リン酸水溶液を含む供給水溶液は有機相(ここではスカベンジャーと呼ぶ)と接触させられる。続いて、リン酸イオン/リン酸はスカベンジャー中に抽出される。このことを以下でさらに詳細に述べる。概略として、リン酸アンモニウム製造装置10は、リンを含む水溶液7から、残留処理液8を与えながら、リン酸アンモニウム9を抽出する。処理液8は再び、硫酸1とともに分解のために使用されることが好ましい。
【0038】
図2にリン酸アンモニウム製造装置10の一実施形態を更に詳しく示す。抽出部12は、リンを含む水溶液7からリンとの親和性を有する液体スカベンジャー15へリンの吸収を可能とするように構成される。リンが分離された水溶液は抽出部12から除かれる。図1に示すリン回収のための装置100と結合して用いられる場合、リンが分離された水溶液は残留処理液8となる。リンを含むスカベンジャー15についての抽出部12から出る排出部は、水と混ざらないリンを含む液相のための混合容器20の導入部22に接続され、それによってリンを含むスカベンジャー15は、水と混ざらないリンを含む液体の相14を形成する。以下においてもさらに述べる通り、リン16から分離されたスカベンジャー15の抽出部への導入部は少なくとも間接的に、混合容器20に接続される。したがって、リン16から分離されたスカベンジャー15の上記導入部は、混合容器20で形成されて再生したスカベンジャー15を、さらに抽出部12においてリンを吸収するために再利用するように構成される。
【0039】
水相からリンを取り去ることができる何れの有機溶媒(スカベンジャー)でも抽出部における液液抽出に用いることができる。リン抽出のメカニズムは、イオン会合、リン酸の溶媒和、またはその両方が考えられる。スカベンジャーの組成は、高いローディング量と効果的な動作の抽出プロセスを得るため、供給されるリン酸の濃度、添加される酸または塩の存在等によって選ぶべきである。
【0040】
希釈されたリン酸を処理するには、強いリン抽出力を持つスカベンジャーを使用する必要がある。希薄溶液からのリン酸の抽出に適切な液体スカベンジャーは液体アミンである。一般的に1級、2級、3級の液体アミンが用いられる。アミン抽出剤は水への溶解性は低く、有機溶媒への高い相溶性、化学的な安定性の高さ、高選択性、及び強い結合力を有し、非常に希薄な溶液からの酸の抽出を可能にする。好ましくは、アミンは7以上の脂肪族または芳香族炭素原子を有する大きな有機分子に結合した窒素原子を有するものを選択すべきである。このようなアミンは有機溶媒に非常に溶けやすく、ほとんど水に溶けない。酸を含む溶液との接触において、アミン塩基は酸と反応して、プロトン化された正電荷を形成し、酸アニオンと結合する。有機アミンは、付加的な中性酸分子の溶媒和により、1のアミン分子につき1の酸分子という化学量論比より多くの酸を抽出できる。濃縮されたリン酸では、1つのアミン分子につき4つまでのリン酸塩分子が抽出される。高濃度のアミンは重合し、第3の望まれない分離相を形成しうる。しかしながら、リン酸トリブチルまたはアルコールのような強いルイス塩基となる他の有機溶媒にアミンを溶解させることで、望まれない第3の相の形成が避けられる。高濃度及び低濃度の何れにおいても効率的にリン酸塩を抽出させるために、好ましくは、リン酸トリブチル及び液体アミンのような溶媒抽出剤の混合物が用いられる。
【0041】
溶媒抽出剤は酸素原子を含む液体有機分子(アルコール、エステル、エーテル、ケトン、リン酸トリアルキル、アミド等)でリン酸と相互作用して水素結合を形成する。このメカニズムでは、抽出剤が水分子の部分と置き換わって、有機相にリン酸分子を溶解させる。リン酸の結合は水素結合による弱い結合である。溶媒抽出剤は、a)非常に低濃度に至るまで安定した分配係数を持つ、アルコール、リン酸トリブチルのような溶媒、及びb)特定の閾濃度より下ではリン酸の抽出能力が非常に低い、すなわち分配係数が顕著な濃度依存性を有する例えばエーテル、エステル、特定のケトンのような溶媒、の2つのグループに分けられる。ろ過されたリン酸の処理では、イオン結合のメカニズムによって非常に低濃度であっても強い抽出力を有する、リン酸トリブチル及び液体アミンのような非常に低濃度においても安定した分配係数を有する混合物を用いることが好ましい。
【0042】
2つのメカニズム、すなわち、イオン会合によるリン酸塩の吸収と中性リン酸の溶解、を組み合わせたリン酸の抽出により、リン酸トリブチルのような抽出剤及びトリオクチルアミンのような液体アミンを溶かしている混合物は、高濃度及び高希釈度のリン酸の何れの流体に対しても効果的なスカベンジャーである。このようなスカベンジャーによる酸抽出における分配係数は高く、これは必要となる接触段階の数が小さいことを意味する。5Mの濃度のろ過されたリン酸からのリン酸の抽出のための水相に対する有機相の比率は、10:1より小さく、好ましくは5:1より小さい。スカベンジャー中の得られたリン酸の濃度は、好ましくは1M以上である。加えて、抽出剤及び液体アミンを溶かしている混合物は、アニオンに対して選択的で、正の電荷を帯びた金属とは結合しない。これは、金属不純物は水溶液中に残り、抽出されたリン酸とは分離されることを意味する。
【0043】
ろ過されたリン酸は上記スカベンジャーによって特徴付けられる液液抽出プロセスに供給される。液液抽出プロセスは好ましくは連続液液抽出プロセスで、パルスカラムのような液液抽出装置を用いることが好ましい。しかし、攪拌カラム(agitated columns)、非攪拌カラム(non-agitated columns)、ミキサーセトラー、インラインミキサー、遠心抽出器等といった他の液液抽出装置を用いてもよい。
【0044】
リンが分離されたラフィネートには、さらに金属沈殿物を除去するための処理がなされる。続いてこれを、リン灰石の溶解または石膏の洗浄に用いてもよい(図1の例を参照)。
【0045】
リンを含有するスカベンジャーは、ともに抽出された不純物を除去するために必要に応じて洗浄され、リンを含み水に相溶しない液相を形成する。
【0046】
図2に戻ると、リンを含み水に相溶しない液相14は、その後無水アンモニアで処理されて、スカベンジャー中で直接リン酸アンモニウムの結晶を形成する。この目的を達成するために、リン酸アンモニウム製造装置10は、リンを含み水に相溶しない液相14の導入部22を有する混合容器20を備える。混合容器は、さらに、無水アンモニア18をリンを含み水に相溶しない液相14に加えるための導入部24を有する。液体無水アンモニアまたは気体無水アンモニアを用いることができる。
【0047】
リン酸アンモニウムの結晶を形成するために、数個のアンモニア分子が、数個のリン酸分子またはリン酸水素分子と反応して、アンモニウム分子とリン酸塩分子との水素結合による結晶構造を形成する。弱い結合は水との接触で容易に解離して、高い水溶性を有するリン酸アンモニウムの結晶が生成する。異なる濃度及び温度でアンモニアとリン酸と水とを接触させることでいくつかのリン酸アンモニウムの結晶相が得られることが知られている。以下の結晶相が知られている。(NH(PO、(NHPO、(NHPO・2HO、(NHPO・3HO、(NH)HPO・H、(NHHPO、(NHHPO・2HO、NHPO、(NH(PO、NH(PO・HO、及びNH(PO。これらのリン酸アンモニウム結晶のいくつかは室温・大気圧で不安定で、アンモニアの放出を伴って他の構造へと結晶が分解することになる。このような不安定な結晶相は農業に用いるにはふさわしくない。
【0048】
完全に乾燥させたアンモニアは完全に乾燥させた塩化水素とは結合せず、アンモニウム塩を形成しないことが知られている。したがって、反応させるには水分が必要である。リン酸トリブチルのようなスカベンジャーによるリン酸の抽出は、水分子も伴って抽出される。リン酸トリブチルに対する、伴って抽出された水のモル比は0.7〜1.7[HO]org/[TBP]orgで、スカベンジャー中のリン酸濃度及び温度に依存する。
【0049】
しかし、驚くべきことに、有機スカベンジャー(例えば、リン酸トリブチル、リン酸トリブチルとアルコールとの混合物、リン酸トリブチルとアミンとの混合物)中での、無水アンモニアとリン酸またはリン酸塩との反応により得られた結晶相は、およそ1であるリン酸塩に対するアンモニウムのモル比を有し、結晶は室温・大気圧で安定であることが分かった。結晶相は主にリン酸モノアンモニウム(MAP)NHPOで構成されることが分かった。副成分のリン酸ジアンモニウム(DAP)(NHHPOも存在する。したがって、上記スカベンジャー中での無水アンモニアとリン酸塩との接触により驚くべきことに生成されたリン酸アンモニウムの結晶は、農業目的に直接用いることができる。
【0050】
上記有機溶媒中でリンの沈殿は、非常に効果的であることが分かり、リンを取り去る効率を99%とすることができることがわかった。高いストリッピング効率は、リン酸の抽出における使用能力を実現する。平衡反応に基づく、リンのストリッピングが不完全となるような水でのストリッピングとは対照的に、リンのアンモニアとの反応は、平衡には基づいておらず、リンのストリッピングは完全なものとなる。
【0051】
無水アンモニアは、エタノール(25℃で10wt%)、メタノール(25℃で16wt%)等のような異なる有機溶媒に溶解することが知られている。しかし、リン酸トリブチルに対するアンモニアの溶解度は、20℃で0.6wt%で、温度が上昇すると溶解度は低下する。35℃以上でのリン酸トリブチルに対するアンモニアの溶解度は、わずかになる。したがって、リンを沈殿させた後のスカベンジャー中のアンモニアの残量は非常に少ない。リンを有機溶媒に含ませることによる、pHと伝導度の間には相関があることが発見された。溶媒中のリン酸濃度が減少すると、伝導度が上昇し、pHは増加する。したがって、アンモニアの添加は、スカベンジャーの伝導度とpHを監視することにより制御され、過剰量のアンモニアを必要とせずに行える。再び図2を参照すると、この目的のために、リン酸アンモニウム製造装置10はセンサ26、本実施形態では、水に相溶しない液相の伝導度を監視するためのセンサ、を混合容器20中に備える。リン酸アンモニウム製造装置10は、さらに、センサ26に接続され、監視された伝導度に応じて加えられる無水アンモニア18の量を制御するために構成された添加制御ユニット(adder control unit)28を備える。他の実施形態では、センサ26は、混合容器20中の水に相溶しない液相のpHを監視するためのセンサで、よって、添加制御ユニット28は、監視されたpHに応じて加えられる無水アンモニア18の量を制御するために構成される。
【0052】
アンモニアのリン酸との反応は上記の通り発熱が大きく、この反応で相当量の熱が生成されることが予想される。しかし、驚くべきことに、1.42MのHPOを含む溶媒の中和で生成される熱(〜50℃/1L溶媒)は、溶媒の気化に必要な熱量よりも小さいことがわかった。したがって、実際にはスカベンジャーの温度は、熱交換によって、実用的な方法で所望の温度範囲内に制御されることができる。リン酸アンモニウム製造装置10は、水に相溶しない液相15と熱接触するように構成された熱交換器30を備える。図2の実施形態では、熱交換器30は、混合容器20内の水に相溶しない液相15から熱を取り去るために、混合容器20に配置される。スカベンジャー15とアンモニア18が混合される混合容器20中の温度は、好ましくは、温度計32によって測定され、混合容器20中の水に相溶しない液相15の温度を所定の温度範囲で保持するような熱交換を行うための制御器34で、上記測定値が用いられる。スカベンジャー15によるリン酸の抽出は低温の方が有利であるため、好ましくは、抽出部12で用いられるスカベンジャーは60℃以下に冷却される。
【0053】
特定の一実施形態では、熱交換器30の冷却は、液体無水アンモニアを気体へと気化させることによって行われる。このような方法において、最終生成物の原料となるアンモニアを用いることにより冷却を行える。これは、破線矢印36及び37によって図2に示される。その目的のために、リン酸アンモニウム製造装置10は、液体アンモニア供給源19を備える。ヒーターユニット23はアンモニア供給源19に接続され、熱交換器30に接続されるあるいは組み込まれる。ヒーターユニット23は、無水アンモニア18として用いられる気体アンモニアを生成するために、熱交換器30で取り去られた熱の少なくとも一部を用いるように構成される。これは、混合容器20に無水アンモニア18を添加するための導入部24が、液体アンモニア供給源19から気体のアンモニアを抽出するために接続されることを意味する。
【0054】
また、冷却は冷却水との熱交換のような、他の手段によっても行われる。この代替手段は、他のプロセスの用途のために発生した熱を回収する必要がある場合に好都合であり、あるいは、以下に述べる回収されたリン酸アンモニウム結晶の乾燥のために用いられる。
【0055】
さらに、ろ過、デカンテーション、遠心分離等のような既知の固液分離の技術により、リン酸アンモニウムの結晶がスカベンジャーから分離される。図2において、沈殿分離器40は、リン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムが沈殿した結晶を混合容器20から取り去るように構成される。そこで、好ましくは、リンが分離されたスカベンジャー16は、抽出部12において供給溶液からリン酸塩を再び抽出するために、続いてリサイクルされる。
【0056】
比較的大量のスカベンジャーが、分離されたリン酸アンモニウム結晶に付着して残る。これらの量は、通常は大きく、高価な溶媒混合物の損失が一般に経済的に受け入れがたくなるには十分であろう。したがって、これらのスカベンジャーもリサイクルすることが好ましい。図2の実施形態では、リン酸アンモニウム製造装置10は、洗浄装置50を備え、これはさらに沈殿分離器40に接続された洗浄器52を備える。洗浄器52は分離されたリン酸アンモニウム結晶を洗浄するように構成される。乾燥器54は洗浄器52に接続され、洗浄された結晶を乾燥するように構成される。分離器60は洗浄器52に接続され、結晶から洗い流された残留スカベンジャー17を分離するように構成される。したがって、抽出部12においてさらにリンを吸収するために分離された残留スカベンジャー17を再利用するために、分離器60は、リンから分離されたスカベンジャー16のための抽出部12への導入部に接続される。分離器は洗浄器52中での結晶の洗浄のために再利用するために、残留スカベンジャーから分離された洗浄液59を供給するようにも構成される。
【0057】
本発明の1つの実施形態によれば、分離されたリン酸アンモニウムに付着したスカベンジャーは、飽和リン酸アンモニウム水溶液でリン酸アンモニウム結晶を洗浄することにより除去される。最初に結晶に付着したスカベンジャーは、典型的には密度の高い水相よりも軽く、上記のように水に相溶しない分離相を形成する。したがって、2つの相は自然に分離される。したがって、本実施形態の分離器60は、スカベンジャーと上記の飽和リン酸アンモニウム水溶液を分離するように構成された相分離器である。驚くべきことに、上記洗浄工程は、大変効果的であることが発見された。洗浄されたリン酸アンモニウム結晶に含まれる炭素の量は市販の高純度リン酸塩に含まれる炭素の量よりも少ない。飽和リン酸アンモニウムの溶液で洗浄することは、リン酸アンモニウム結晶が常に溶解と再結晶をして付着した溶媒の効率的な除去を可能にする、動的なプロセスであると考えられる。洗浄工程の操作は、単純でエネルギーを大量消費しない。続いて、結晶から分離された飽和リン酸アンモニウムの溶液は、さらに洗浄のためにリサイクルされる。飽和リン酸アンモニウムの溶液は、生成されたリン酸アンモニウム塩を、水、リン酸、または他の酸/塩の溶液といった水溶液に溶解させることによって生成される。また、上記の通り、続いて、分離された水に相溶しないスカベンジャーは、供給溶液からリン酸塩を抽出するためにリサイクルされる。
【0058】
その後、洗浄されたリン酸アンモニウム結晶は乾燥器54で乾燥される。好ましくは、乾燥は、少なくとも部分的には、無水アンモニアとリン酸との混合における冷却のための熱交換プロセスで得られる熱によって行うことができる。そのために、破線矢印37及び39に示すように、乾燥器54は熱交換器30に接続される。乾燥器54は、熱交換器30から回収した熱の少なくとも一部を、洗浄された結晶の乾燥のために用いられるように構成される。
【0059】
生成されたリン酸アンモニウムは、完全に水に溶解し、金属は除かれ、滴下施肥または肥沃化のような農業目的に用いることができる。
【0060】
本発明の好適な実施形態による洗浄プロセスの、他の重要な利点は、沈殿した結晶の初期組成に依存せずに、MAPまたはDAPの何れかを生成するように、リン酸アンモニウムの生成を制御可能にする点である。MAPが望まれる最終生成物である場合、使用する洗浄溶液は、リン酸モノアンモニウムの飽和水溶液で構成されることが好ましい。スラリーのpHは、2〜6好ましくは3〜5さらに好ましくは約4.1に調整されるように、例えばリン酸またはアンモニアの添加によって制御される。この工程によって、沈殿した結晶の初期組成に依存せずにMAPが生成されることになる。同様に、DAPが望まれる最終生成物である場合、使用する洗浄溶液は、リン酸ジアンモニウムの飽和水溶液で構成される。スラリーのpHは、6〜10、好ましくは7〜9、さらに好ましくは約8.3に調整されるように、例えばアンモニアの添加によって制御される。この工程によって、沈殿した結晶の初期組成に依存せずにDAPが生成されることになる。このような方法では、本発明によると、MAP及びDAPの何れの生成も可能である。この目的のために、洗浄器52は、さらに、リン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムの飽和水溶液のpHを制御するように構成される。
【0061】
図3は、本発明の実施形態による方法の工程を示すフロー図である。ステップ200でリン酸アンモニウムを製造するための工程が始まる。ステップ210で、リンを含み水に相溶しない液相が供給される。ステップ212で、無水アンモニアが水に相溶しない液相に加えられる。特定の一実施形態では、添加するステップ212は、水に相溶しない液相の伝導度を監視すること、及び監視された伝導度に応じて添加する無水アンモニアの量を制御することが含まれる。他の特定の実施形態では、添加するステップ212は、水に相溶しない液相のpHを監視すること、及び監視されたpHに応じて添加する無水アンモニアの量を制御することが含まれる。ステップ214で、リン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムは、水に相溶しない液相で沈殿する。ステップ216で、添加及び沈殿の工程において、水に相溶しない液相の温度は所定の温度範囲にあるように制御される。以下においても詳細はさらに議論するが、実際の制御の工程は、添加及び沈殿の工程の前、中、後において行われる。重要な特徴は、添加及び沈殿中の温度を所定の限度内に保つことが保証されていることである。いつ実際に熱除去が行われるかは、それほど重要なことではない。したがって、ステップ216は、ステップ212及び214の前、同時、後の少なくとも何れかにおいて行えばよい。温度制御は典型的には、水に相溶しない液相からの熱の回収を含む。この熱の少なくとも一部は、加熱手段による液体アンモニアからの気体アンモニアの生成に用いてもよい。この気体アンモニアはステップ212で添加される無水アンモニアとして用いてもよい。ステップ218では、沈殿したリン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムが、水に相溶しない液相から抽出される。
【0062】
図3に示す実施形態の方法は、ステップ220をさらに含み、ここで、沈殿し抽出されたリン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムの結晶が洗浄される。ステップ222では、結晶から洗い流された、水に相溶しない残留した液相、すなわち、典型的にはスカベンジャー(以下で議論する)が、分離される。好ましくは、分離された残留スカベンジャーは、破線矢印224に示すように、さらにリンを吸収するために再利用され、リンを含み水に相溶しない液相を得る。同様に、残留スカベンジャーから分離された洗浄液は、破線矢印226に示すように、さらに結晶を洗浄するために再利用される。この特定の実施形態では、洗浄はリン酸アンモニウムの飽和水溶液によって行われ、残留スカベンジャーの分離は、スカベンジャーとリン酸アンモニウムの飽和水溶液の相分離によって行われる。洗浄された結晶はステップ228で乾燥される。好ましくは、温度制御の工程から回収した熱の少なくとも一部を利用して乾燥する。
【0063】
好ましい実施形態では、化学反応により、MAP及び/またはDAPを特定の組成で生成するため、リン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムの飽和水溶液のpHは制御される。特に、上で議論したように、純粋なMAPは酸性側のpHで得られ、純粋なDAPはわずかに塩基性側のpHで得られる。
【0064】
図3の実施形態では、リンを含み水に相溶しない液相を供給するステップ210は、引き続いてリンを含む水溶液からリンとの親和性を持つ液体スカベンジャーへとリンを吸収させる工程を含む。これは、リンを含むスカベンジャーは、リンを含み水に相溶しない液相を形成することを意味する。図3の実施形態による方法は、抽出ステップ218で形成され、再生したスカベンジャーを、ステップ210でのさらなるリン酸の吸収のために再利用するステップ230をさらに含む。工程はステップ299で終了する。
【0065】
結晶の洗浄には別のアプローチがある。スカベンジャーの沸点を大きく下回る沸点を持ち、結晶リン酸アンモニウムが溶解しない有機溶媒で洗浄することで、付着したスカベンジャーは除去される。洗浄に用いる有機溶媒は、完全に水と相溶する。リン酸アンモニウムの洗浄のための可能な溶媒の例は、アセトン(沸点56.5℃)、メタノール(沸点64.7℃)などである。回収した結晶リン酸アンモニウムは、蒸留によって残留した洗浄溶媒を除去するように処理可能である。得られた洗浄溶液は集められ、洗浄に用いた有機溶媒は蒸留によってスカベンジャーから分離される。このような実施形態を図4に示す。ここでは、洗浄器52’はリン酸アンモニウムを溶解しない有機洗浄溶媒で結晶を洗浄するために構成される。分離器60は、洗浄溶媒61を気相にして、液体として残る残留スカベンジャーから分離する蒸留器64を備える。混合容器20から回収した熱は、好ましくは、破線矢印37及び38に示すように、蒸留の必要な熱源の少なくとも一部としても用いられる。気体の洗浄溶媒61は濃縮器62で濃縮される。乾燥器54からも、気体の洗浄溶媒が生成され、さらなる再利用のため、乾燥器54も濃縮器に接続されることが好ましい。しかし、小さな欠点ではあるが、有機溶媒による結晶の洗浄は、洗浄溶媒の流量及び量についての注意深い考慮が求められることが発見された。洗浄に必要な洗浄溶媒の量は比較的多くなるかもしれない。さらに、このプロセスは前述したものよりやや複雑で、蒸留によって有機スカベンジャーから有機洗浄溶媒の分離するためにより多くのエネルギーが必要となる。現状では、リン酸モノアンモニウム及び/またはリン酸ジアンモニウムの飽和水溶液を用いる本実施形態のほうが好ましいと考えられる。
【0066】
上で簡潔に述べたように、リンを含み水に相溶しない液相からの実際の熱の回収は異なる方法で行うこともできる。図2及び図4の実施形態では、熱交換器30は混合容器20に組み込まれる。これは、良好に制御された温度が得られるため、現状で好ましい方法と考えられる。しかし、代替手段もある。図5では、一実施形態が示され、熱交換器30は、沈殿分離器40を出た、水に相溶しない液相と接触するように構成される。温度計32で測定された混合容器20の温度に基づいて制御器34が制御されていてもよい。代わりに、または加えて、温度測定手段32’による抽出部12に流入するスカベンジャーの温度に基づいて制御器34’を動作させてもよい。この方法では、抽出部12に流入するスカベンジャーの温度が主に制御され、特に、リンを含み水に相溶しない液相に含まれて抽出部を出るリンの想定される含量についての情報があれば、次のサイクルにおける混合容器中の、リンを含み水に相溶しない液相の温度を要求される温度範囲に保つことになる。言い換えると、抽出部12に流入するスカベンジャーの温度を制御することにより、混合容器の温度の間接的な制御もまた達成できるだろう。リンの初期含量が比較的安定または少なくとも予測可能である場合に、これは良い代替構成となる。そのとき、抽出部12に流入するスカベンジャーは、リンとの親和性に関して最適な温度としてもよい。
【0067】
図6においても、異なる実施形態が示されており、熱交換器30は抽出部12を出て、混合容器20に入る前の、水に相溶しない液相と接触するように構成される。ここで、混合容器の温度及び混合容器20に入る前のスカベンジャーの温度の少なくとも一方に制御が基づいてもよい。混合容器に入る前のスカベンジャーの温度は、温度計32”によって制御器34”を用いて測定される。この方法では、スカベンジャーの温度は下がり、混合容器20で予想される発熱反応は水に相溶しない液相を所定の温度範囲に持っていく。この実施形態は、効率的な熱回収でもって、アンモニア添加と沈殿を組み合わせることに困難がある場合の応用例において有利なものとなりうる。
【0068】
上記の詳細な実施形態はリン酸アンモニウム製造装置または方法をどのように構成するかについてのいくつかの例に過ぎない。リンを含み水に相溶しない液相は、上記の通り供給されることが好ましいが、これも別の可能性がある。リンを含み水に相溶しない液相は、何らかのイオン交換プロセスによって供給されてもよい。リンを含む液相は、固相のものを溶解するような、他の化学的プロセスによって供給されてもよい。同様に、沈殿したMAP及び/またはDAPの後処理も、MAP及び/またはDAPをどのように処理できるかについての、現状では好ましい、ほんの一例である。他のさらなる慣用技術は、沈殿物を直接蒸留して、洗浄工程を経ずに直接、スカベンジャーまたはその他の溶媒を蒸発させることなどである。
【0069】
さらに、スカベンジャーまたはその他の溶媒はそれほど高価ではなく、生成したMAP/DAPの不純物として無害であるような、特定の応用例では、洗浄工程を完全に除くこともできる。
【0070】
上記原理による構成及び方法で得られる利点を示し、実証するために、実験はそれぞれ異なる系で行った。いくつかのサンプルを以下に示す。
【0071】
実験例1
80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のヘプタノールからなり、pH5.9の有機溶媒を、リン酸水溶液に接触させて、当該有機溶媒に1.42MのHPOを含ませた。互いに相溶しない2相は、リン酸の移動を促進するために、まず十分に混合され、その後分離した。(リンを含む)pH−0.4の有機溶媒を、過剰量の液体無水アンモニア(>50gNH/溶媒1L)と接触させた。有機相中に結晶性の固体が形成された。遠心分離とデカンテーションにより、固体が有機溶媒から分離された。分離された固体は数回にわたってメタノールで洗浄され、90℃で2時間乾燥された。回収された無機塩は、N:12.3wt%、P:26.8wt%を含んでおり、98wt%のNHPOと2wt%の(NHHPOに相当する。有機溶媒からリンを取り去る効率は99.4%と高いことが分かった。
【0072】
実験例2
実験例1と同様の実験を、80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のトリオクチル/トリデシルアミンからなる有機溶媒を用いて繰り返した。回収された無機塩は、N:13wt%、P:26.6wt%を含んでおり、90wt%のNHPOと10wt%の(NHHPOに相当する。
【0073】
実験例3
実験例1と同様の実験を行った。違いは制限された量の液体無水アンモニア(<20gNH/溶媒1L)を用いることのみである。回収された無機塩は、N:12.2wt%、P:26.9wt%を含んでおり、99wt%のNHPOと1wt%の(NHHPOに相当する。
【0074】
実験例4
実験例3と同様の実験が繰り返された。違いは、80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のトリオクチル/トリデシルアミンからなる有機溶媒を用いることのみである。回収された無機塩は、N:12.4wt%、P:26.8wt%を含んでおり、97wt%のNHPOと3wt%の(NHHPOに相当する。
【0075】
実験例5
80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のヘプタノールからなり、1.42MのHPOを含む有機溶媒に、測定された量の液体無水アンモニアが加えられた。添加されたアンモニアの量に対する溶媒(22℃)のpHと伝導度の関係を以下の表1に示す。
【0076】

表1.実験例5における添加されたアンモニアの量に対する溶媒(22℃)のpHと伝導度の関係
【0077】
実験例6
実験例5と同様の実験が繰り返された。違いは、80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のトリオクチル/トリデシルアミンからなる有機溶媒を用いることのみである。添加されたアンモニアの量に対する溶媒(22℃)のpHと伝導度の関係を以下の表2に示す。
【0078】

表2.実験例6における添加されたアンモニアの量に対する溶媒(22℃)のpHと伝導度の関係
【0079】
実験例7
80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のヘプタノールからなり、1.42MのHPOを含む有機溶媒に、過剰量の気体無水アンモニアが加えられた。溶媒の温度は22℃から78℃に上昇した。
【0080】
実験例8
実験例7と同様の実験が繰り返された。違いは、80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のトリオクチル/トリデシルアミンからなる有機溶媒を用いることのみである。溶媒の温度は23℃から86℃に上昇した。
【0081】
実験例9
リン酸モノアンモニウムの結晶が、80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のヘプタノールからなる有機溶媒から、デカンテーションにより分離された。分離された結晶はリン酸モノアンモニウムの飽和水溶液に加えられた。結晶は遠心分離によって飽和水溶液から分離され、90℃で乾燥された。最初に結晶に付着していた有機溶媒は、水相の上に分離された相を形成した。洗浄されたリン酸モノアンモニウム結晶に含まれる炭素は、市販の高純度リン酸モノアンモニウム塩に含まれる炭素よりも少ないことが分かった。80vol%のリン酸トリブチルと20vol%のトリオクチル/トリデシルアミンからなる溶媒を用いた場合に同様の結果が得られた。
【0082】
実験例10
リン酸モノアンモニウムの結晶が、リン酸ジアンモニウムの飽和水溶液に加えられた。その後、気体無水アンモニアの添加によって、水相のpHは8.3に調整された。その後、結晶は飽和水溶液から分離され、乾燥された。固体は本質的にリン酸ジアンモニウムからなることが分かった。したがって、リン酸モノアンモニウムの結晶は、リン酸ジアンモニウムの結晶に変換できる。
【0083】
上記実施形態は、本発明のいくつかの例を示したものであることを理解すべきである。様々な改良、組み合わせ、及び変更により本発明の範囲を逸脱しない実施形態とすることができることは、当業者は理解できる。特に、技術的に可能であれば、異なる実施形態における異なる解決部分が組み込まれ、他の構成とすることができる。しかし、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸アンモニウムの製造方法であって、
リンを含み水に相溶しない液相(14)を供給する工程(210)と、
前記リンを含み水に相溶しない液相(14)に無水アンモニア(18)を加える工程(212)と、
リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方を前記水に相溶しない液相(14)から沈殿させる工程(214)と、
前記加える工程(212)及び沈殿させる工程(214)において、所定の温度範囲内になるように前記水に相溶しない液相(15)の温度を制御する工程(216)と、
前記水に相溶しない液相(15)から前記沈殿したリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方を抽出する工程(218)と、
前記抽出された沈殿したリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方の結晶を洗浄する工程(220)と、
前記洗浄された結晶を乾燥する工程(228)と、
前記結晶から洗い流された残留スカベンジャー(17)を分離する工程(222)と、
前記分離された残留スカベンジャー(17)を、さらなる抽出のために再利用されるように、さらにリンを吸収するため再利用する工程(224)と、
残留スカベンジャーから分離された洗浄液を、さらに前記結晶を洗浄するために再利用する工程(226)と、
を含み、
前記洗浄する工程(220)は、リン酸アンモニウムの飽和水溶液で洗浄する工程を含み、
前記残留スカベンジャー(17)を分離する工程(222)は、前記スカベンジャーと、前記リン酸アンモニウムの飽和水溶液との相分離を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記リン酸アンモニウムの飽和水溶液中で、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくともいずれかの含有量を調節することにより、前記結晶中のリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの相対的な組成を制御する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸アンモニウムの飽和水溶液中で、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくともいずれかの含有量の調節は、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくともいずれかを含む前記飽和水溶液のpHを制御することによって行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくともいずれかの飽和水溶液のpHを制御することには、リン酸またはアンモニアの少なくとも一方を添加することを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記リンを含み水に相溶しない液相(14)を供給する工程(210)は、リンを含む水溶液からリンとの親和性を有する液体スカベンジャーへとリンを吸収させる工程を含み、前記リンを含んだスカベンジャーは、前記リンを含み水に相溶しない液相(14)を形成し、
前記リン酸アンモニウムの製造方法は、さらに、前記抽出する工程(218)で形成され、再生された前記スカベンジャーをさらなるリンの吸収のために再利用する工程
を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記加える工程(212)は、前記水に相溶しない液相(14)の伝導度を監視することと、前記監視された伝導度に応じて加える無水アンモニア(18)の量を制御することと、を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記加える工程(212)は、前記水に相溶しない液相(14)のpHを監視することと、前記監視されたpHに応じて加える無水アンモニア(18)の量を制御することと、を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記温度を制御する工程(216)は、前記加える工程(212)及び沈殿させる工程(214)の前、間、及び後の少なくとも何れかにおける、前記水に相溶しない液相(14)からの熱の回収を含むことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記無水アンモニア(18)は気体アンモニアであり、
前記リン酸アンモニウムの製造方法は、さらに、前記温度を制御する工程(216)で前記回収された熱の少なくとも一部によって加熱することで、液体アンモニアから気体アンモニアを生成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥する工程(228)では、前記温度を制御する工程(216)で前記回収された熱の少なくとも一部を用いることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
リン酸アンモニウム製造のための装置であって、
リンを含み水に相溶しない液相(14)の導入部(22)、及び無水アンモニア(18)を前記水に相溶しない液相(14)に加えるための導入部を有する混合容器(20)と、
前記水に相溶しない液相(15)と熱的な接触をするように構成された熱交換器(30)と、
前記混合容器(20)中の前記水に相溶しない液相(14)を所定の温度範囲内に保つように前記熱交換器(30)を動作させるように構成された制御器(34)と、
沈殿したリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムのうちの少なくとも一方の結晶を前記混合容器(20)から取り去るように構成された沈殿分離器(40)と、
前記沈殿分離器(40)に接続され、前記結晶を洗浄するように構成された洗浄器(52、52’)と、
前記洗浄器(52、52’)に接続され、前記洗浄された結晶を乾燥するように構成された乾燥器(54)と、
前記洗浄器(52、52’)に接続され、前記結晶から洗い流された水に相溶しない残留した液相(17)を分離するように構成された分離器(60)と、
を備え、
前記分離器(60)は、抽出部(12)においてさらにリンを吸収させるために、前記分離された、水に相溶しない残留した液相(17)を再利用するため、リンから分離された水に相溶しない液相(17)を前記抽出部(12)へ導入する導入部に接続され、
前記分離器(60)は、水に相溶しない残留した液相から分離された洗浄液(59)を、前記洗浄器(52、52’)において結晶を洗浄するように再利用するために供給するようにさらに構成され、
前記洗浄器(52)は、リン酸アンモニウムの飽和水溶液で前記結晶を洗浄するように構成され、
前記分離器(60)は、前記水に相溶しない液相(17)と、前記リン酸アンモニウムの飽和水溶液とを分離するように構成された相分離器(58)を有する
ことを特徴とする装置。
【請求項12】
前記洗浄器(52)は、前記リン酸アンモニウムの飽和水溶液中で、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくともいずれかの含有量を調節することにより、前記結晶中のリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの相対的な組成を制御するように構成されていることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記洗浄器(52)は、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウムの少なくとも一方の前記飽和水溶液のpHを制御するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記洗浄器(52)は、リン酸またはアンモニアの少なくとも一方を添加するように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
リンを含む水溶液からリンとの親和性を有する液体スカベンジャーへとリンを吸収させるように構成された抽出部(12)を備え、
リンを含むスカベンジャーの前記抽出部(12)からの排出部が、前記混合容器(20)の、リンを含み水に相溶しない液相(14)の前記導入部(22)に接続されており、
前記リンを含むスカベンジャーは、前記リンを含み水に相溶しない液相(14)を形成し、
リンから分離されたスカベンジャー(16)の前記抽出部への導入部が、前記混合容器(20)に接続され、前記抽出部(12)でさらにリンを吸収するために、前記沈殿分離器(40)の動作により前記混合容器で形成されて再生された前記スカベンジャーを再利用するように構成されている
ことを特徴とする請求項11乃至14の何れか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記水に相溶しない液相(14)の伝導度を監視するセンサ(26)と、
前記センサ(26)に接続され、前記監視された伝導度に応じて加える無水アンモニア(18)の量を制御するように構成される添加制御ユニット(28)と、
を備えることを特徴とする請求項11乃至15の何れか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記水に相溶しない液相(14)のpHを監視するセンサ(26)と、
前記センサ(26)に接続され、前記監視されたpHに応じて加える無水アンモニア(18)の量を制御するように構成される添加制御ユニット(28)と、
を備えることを特徴とする請求項11乃至15の何れか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記熱交換器(30)は、前記混合容器(20)に入る、前記リンを含み水に相溶しない液相(14)と、前記混合容器(20)中の、前記水に相溶しない液相(14)と、前記混合容器(20)から出る、リンが分離された水に相溶しない液相(17)と、のうちの少なくとも1つから熱を回収するために動作することを特徴とする請求項11乃至17の何れか1項に記載の装置。
【請求項19】
液体アンモニアの供給源(19)と、
前記液体アンモニアの供給源(19)に接続され、前記熱交換器(30)に接続または組み込まれた加熱ユニット(23)と、
を備え、
前記加熱ユニット(23)は、気体アンモニアを生成するために、前記熱交換器(30)で回収された前記熱の少なくとも一部を用いるように構成され、
無水アンモニア(18)を加えるための前記混合容器の前記導入部(24)は、前記液体アンモニアの供給源(19)から前記気体アンモニアを抽出するために接続される
ことを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記乾燥器(54)は、前記熱交換器(30)に接続され、前記洗浄された結晶を乾燥するために、前記熱交換器(30)で回収された前記熱の少なくとも一部を用いることを特徴とする請求項11乃至19の何れか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528065(P2012−528065A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513004(P2012−513004)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051041
【国際公開番号】WO2010/138045
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(509263386)イージーマイニング スウェーデン エービー (2)
【氏名又は名称原語表記】EASYMINING SWEDEN AB
【住所又は居所原語表記】Box 322, S−751 05 Uppsala, Sweden
【Fターム(参考)】