説明

リン酸エステル類

【課題】 スフィンゴミエリンなどの合成原料として有用な新規スフィンゴシン誘導体リン酸エステル類を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)
【化7】


(式中、RはおよびRは置換基を有していてもよいアルキル基であり、Rは低級アルキル基であり、Yはハロゲン原子を表す。)で表されるリン酸エステル類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスフィンゴシン誘導体のリン酸エステル類に関するものであり、詳細にはドラッグデリバリーシステム等に有効なスフィンゴミエリンなどの合成原料として有用な物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スフィンゴシン誘導体からスフィンゴミエリン等のリン酸エステル類へ変換する方法としては、クロロ−N,N−ジイソプロピルアミノメトキシホスフィンを用いる方法(たとえば非特許文献1)、エチレンクロロホスファイトを用いる方法(たとえば非特許文献2)、環状クロロホスフェートを用いる方法(たとえば非特許文献3)が知られている。
【非特許文献1】A. L. Weis, Chem. Phys. Lip., 102, 3-12 (1999)
【非特許文献2】H. S. Byun, R. K. Erukulla, and R. K. Bittman, J. Org. Chem., 59, 6495-6498 (1994)
【非特許文献3】Z. Dong and J. A. Butcher, Tetrahedron Lett., 32, 5291-5294 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、ヒドロキシル基の保護が必要であり、反応後トシル酸コリンを反応させ、さらに酸化してリン酸エステルとし、さらに脱メチル化、脱シリル化しなければならず、煩雑で工程数が多いという問題がある。非特許文献2記載の方法では、反応後臭素の酸化的付加、加水分解、トリメチルアンモニウムイオンの導入を行わねばならず、この方法もやはり煩雑で工程数が多いという問題がある。非特許文献3に記載の方法では、ヒドロキシル基の保護・脱保護が必要であり、反応後無水トリメチルアミンを反応させてホスホコリンに誘導しなければならず、この方法もやはり煩雑である。
【0004】
本発明はスフィンゴミエリンなどの合成原料として有用な新規スフィンゴシン誘導体リン酸エステル類を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、スフィンゴミエリン等の合成中間体として有用な新規リン酸エステル類を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明の新規リン酸エステル類は、下記一般式(I)
【化2】

【0007】
(式中、RはおよびRは置換基を有していてもよいアルキル基であり、Rは低級アルキル基であり、Yはハロゲン原子を表す。)で表されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規リン酸エステル類を用いれば、ヒドロキシル基等の保護を行うことなくリン酸エステル類へ簡便に変換することができ、ドラッグデリバリーシステム等に有効なスフィンゴミエリンを、従来の反応工程に比べて工程数を少なく、かつ簡易に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の新規リン酸エステル類は、一般式(I)
【化3】

【0010】
(式中、RおよびRは置換基を有していてもよいアルキル基であり、Rは低級アルキル基であり、Yはハロゲン原子を表す。)で表されることを特徴とする。
【0011】
ここで上記低級アルキル基とは、枝分かれを有していてもよい炭素数1から8のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等を例示することができる。
【0012】
上記アルキル基とは、反応に関与しない置換基や枝分かれを有していてもよい炭素数1から20のアルキル基である。ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。
【0013】
本発明の一般式(I)で表されるリン酸エステル類は、下記に示すように、公知の化合物(重成俊彦、箱木敏和、勝村成雄、日本化学会第84春季年会2J2−49(2004))から、たとえば、N原子上の脱保護の後、アシル化することにより製造することができる。
【化4】

【0014】
脱保護過程は、通常酸存在下に行うことが好ましい。利用できる酸としては、塩酸、硫酸等の鉱酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン等の有機酸を好適に用いることができる。
【0015】
アシル化過程は、対応するカルボン酸の無水物、酸クロリド、エステル等を用いて好適に行うことができる。アシル化過程の実施にあたっては塩基を用いることが好ましい。用いることができる塩基としては、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、イミダゾール等の有機塩基を好適に利用することができる。
【0016】
反応の実施にあたっては、反応に関与しない溶媒中で行うことが好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライムジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、水媒体並びにこれらの混合溶媒等が挙げられるが、好ましくはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライムジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒が望ましい。
【0017】
反応温度は、−40℃ないし80℃の温度範囲から適宜選択することができるが、反応速度ならびに経済的観点から0℃ないし室温の範囲が好ましい。
以下、本発明を実施例および参考例によりさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
【化5】

【0019】
2−ブロモエチル(2−t−ブチルオキシカルボニルアミノ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エニル)メチルフォスフェート(上記2)(2-Bromoethyl(2-tert-butyloxycarbonylamino-3-hydroxyoctadec-4-enyl)(methyl)phosphate :500 mg, 0.833 mmol )の塩化メチレン( 4.16 ml )溶液に0℃でトリフルオロ酢酸( 1.67 ml )を加え、1.5時間攪拌した。反応溶液に1N NaOH水溶液を加え、中和した後、クロロホルムで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。残渣をTHF、H2O( 8.32ml, 1:1 )で溶解し、0℃で炭酸カリウム( 575 mg, 4.16 mmol )、パルミトイルクロリド( 0.28 ml, 0.916 mmol ) を順次加え、15分攪拌した。反応混合液を飽和塩化アンモニウム水溶液で中和し、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧濃縮を行った。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルムに0%〜10% のメタノールを溶かしたもの)により分離・精製し、2−ブロモメチル(2−ヘキサデカノイルアミノ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エニル)メチルホスフェート(上記3)(2-Bromoethyl(2-hexadecanoylamino-3-hydroxyoctadec-4-enyl)(methyl)phosphate:522 mg, 85% )を得た。2−ブロモメチル(2−ヘキサデカノイルアミノ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エニル)メチルホスフェート(上記3)のIR、1H NMR、13C NMRデータを以下に示す。
【0020】
IR (KBr disk): 3291, 2917, 1647, 1547, 1468, 1269, 1047 cm-1
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 6.25 ( d, J =7.3 Hz, 1H), 5.75 ( td, J = 6.8, 15.1 Hz, 1H ), 5.48 ( dd, J =6.6, 15.4 Hz, 1H ), 4.33 ( m, 3H ), 4.17 ( m, 3H ), 3.81 ( d, J =11.2 Hz, 3/2H ), 3.80 ( d, J =11.2 Hz, 3/2H ), 3.55 ( t, J =6.1 Hz, 2H ), 2.19 ( dt, J =1.7, 7.1 Hz, 2H ), 2.03 ( td, J =7.1, 1.7 Hz, 2H ), 1.61 ( m, 2H ), 1.26 ( m, 46 H ), 0.88 ( t, J =6.6 Hz, 6 H )
13C NMR (CDCl3, 100MHz) δ: 173.6, 134.8, 128.5, 72.4, 67.2 ( m ), 66.8 ( d, JC-P = 5.0 Hz ), 54.77 ( d, JC-P = 5.8 Hz, 1/2 C ), 54.74 ( d, JC-P = 5.8 Hz, 1/2 C ), 53.7 ( d, JC-P = 5.8 Hz ), 36.7, 32.3, 31.9, 29.7, 29.5, 29.4, 29.3, 29.3, 29.1, 25.7, 22.6, 14.1
【0021】
(参考例1)
【化6】

【0022】
2−ブロモメチル(2−ヘキサデカノイルアミノ−3−ヒドロキシオクタデカ−4−エニルメチルホスフェート(上記3:502 mg, 0.679 mmo ) のメタノール ( 8.36 ml )溶液に室温で無水のトリメチルアミン ( 5.40 ml ) を加え、同温で2日間攪拌した。反応混合物を水で希釈し、クロロホルム、メタノールで抽出し、有機層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(メタノール:クロロホルム=1:9〜メタノール:クロロホルム:水=65:25:4 )により分離・精製し、スフィンゴミエリン(上記4)を得た。スフィンゴミエリンのIR、1H NMRデータを以下に示す。
【0023】
IR(KBr disk): 3447, 2919, 1640, 1231, 1090 cm-1
1H NMR (CD3OD), 400MHz) δ: 5.71 (dtd, J=15.4, 6.6, 0.5Hz, 1H),
5.46 (ddt, J=15.4, 7.6, 1.5Hz, 1H), 4.28 (m, 2H), 4.14-3.88 (m, 4H),
3.63 (t, J=4.9Hz, 2H), 3.22 (s, 9H), 2.19 (m, 2H),
2.03 (dt, J=6.8, 6.8Hz, 2H), 1.59 (m, 2H), 1.29 (s, 46H),
0.90 (t, J=7.1Hz, 6H)
【0024】
参考例1に示すように、本発明の新規リン酸エステル類を用いれば、ドラッグデリバリーシステム等に有効なスフィンゴミエリンを従来の反応工程に比べて工程数を少なく、かつ簡便に製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、RはおよびRは置換基を有していてもよいアルキル基であり、Rは低級アルキル基であり、Yはハロゲン原子を表す。)で表されることを特徴とするリン酸エステル類。

【公開番号】特開2006−45113(P2006−45113A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228056(P2004−228056)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000180586)株式会社ケミクレア (20)
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】