説明

リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物、後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法および後処理済みリン酸亜鉛系処理材

【課題】リン酸亜鉛系処理材に従来のクロメート液による後処理を施して得られる材料と同等以上の耐食性および塗装密着性を有する後処理済みリン酸亜鉛系処理材を6価クロムを使用せずに得ることができる、リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物の提供。
【解決手段】金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させた後、前記リン酸亜鉛系皮膜に塗布されるリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物であって、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)と、水とを含有し、前記化合物(A)に対する前記フッ素含有化合物(B)と前記リン酸化合物(C)の合計の質量比([(B)+(C)]/(A))が、0.01〜100であり、pHが1〜6である、リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物、後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法および後処理済みリン酸亜鉛系処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸亜鉛系処理は、塗装下地処理として一般的に使用されている。リン酸亜鉛系処理は、具体的には、リン酸亜鉛系の結晶で皮膜(リン酸亜鉛系皮膜)を形成させて材料の表面を覆い、その結晶の凹凸によるアンカー効果で優れた塗装密着性を得る塗装下地処理である。また、リン酸亜鉛系処理によれば、材料の表面がリン酸亜鉛系の結晶の皮膜で覆われるため、材料の腐食が抑制され、一時的な防錆効果も得られる。
【0003】
このリン酸亜鉛系処理の後には、一般的に、耐食性や塗装密着性を向上させる目的で、クロメート液による後処理(クロメート処理)が施される。この後処理は、クロムリンス、クロムシーリング等とも呼ばれる。
リン酸亜鉛系皮膜が形成された金属板(以下「リン酸亜鉛系処理材」ともいう。)は、主にリン酸亜鉛の微細な結晶によりその表面が覆われた状態になっている。クロメート液による後処理を施した場合、この結晶の隙間や欠陥部にクロメート液が浸透して、その隙間や欠陥部を埋めてクロムが不動態化することにより、封孔処理がなされるため、材料の腐食がより抑制され、耐食性が向上するとともに塗装密着性も向上すると考えられている。
また、リン酸亜鉛系皮膜にはビルドアップ結晶や二次結晶と呼ばれる結晶(材料表面に密着した結晶の上や隙間に沈着した結晶)があり、クロメート液による後処理を施した場合、これを酸性のクロメート液が溶解して除去するため、上塗り塗料密着性や塗装後耐食性が向上するとも言われている。
【0004】
しかしながら、このクロメート液としては、通常、クロム酸を主成分とする水溶液が使用されている。即ち、クロメート液は、6価クロムを含んでいる。したがって、このクロメート液で後処理された材料も6価クロムを含むため、その有害性が問題となっている。
【0005】
この問題を解決するため種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、クロメート液による後処理を必要とせず、十分な耐食性(耐白錆性)を確保することを目的として、リン酸亜鉛皮膜を有する亜鉛系メッキ鋼板であって、前記リン酸亜鉛皮膜が、Mgを2%以上、Ni、Co、Cuから選ばれる1種以上の元素を0.01〜1%含有し、付着量が0.7g/m2以上であることを特徴とする耐食性および色調に優れたリン酸亜鉛処理亜鉛系メッキ鋼板が提案されている。
また、特許文献2には、Zn2+イオン:0.5〜5.0g/L、Mg2+イオン:15〜30g/L、PO43-イオン:5〜20g/L、F-イオン:0.05〜0.50g/L並びにNO3-イオン:75〜150g/Lを含有し、液温が40〜70℃であるリン酸塩処理液を用いて、亜鉛めっき鋼板に浸せき処理またはスプレー処理を施すことにより、亜鉛めっき鋼板上に片面あたりの皮膜量にして0.5〜3.0g/m2のリン酸塩皮膜を形成することを特徴とする亜鉛めっき鋼板のリン酸塩化成処理方法が提案されている。
しかしながら、これらの手法は、後処理をしていないため、実用上十分な耐食性が得られず、塗装密着性も不十分であった。
【0006】
また、リン酸亜鉛処理した後に、クロムを全く使用しないで後処理を行う方法として、例えば、特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板上にリン酸塩処理皮膜を備え、その上に、有機樹脂とチオカルボニル基含有化合物を含むか、またはバナジン酸化合物を含むことを特徴とする非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板が提案されている。
また、特許文献4には、ZnもしくはAlまたはZn−Al系のめっき鋼板表面に、Niを1〜20mg/m2析出させ、および/または、リン酸塩皮膜を0.2〜3g/m2生成させ、その上に非クロム系防錆顔料を10〜60wt%含む下塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成することを特徴とする非クロム系塗装金属板が記載されている。
また、特許文献5には、リン酸亜鉛を主成分とするリン酸亜鉛皮膜層と該皮膜の上層にMg,Al,Co,Mn,CaおよびNiの中から選択される1種以上の金属よりなるリン酸塩と固体潤滑剤を主成分とする複合リン酸塩皮膜層を有する鋼板が記載されている。
また、特許文献6には、ニッケル、マンガンおよびマグネシウムの中から選ばれる少なくとも1種を含有するリン酸亜鉛複合皮膜層を有し、その上部に第2層皮膜として特定のエポキシ系の樹脂系皮膜層を有する鋼板が記載されている。
【0007】
また、特許文献7にはリン酸亜鉛を主成分とするリン酸亜鉛皮膜層と該皮膜上層にMg,Al,Co,Mn,CaおよびNiの中から選ばれる1種以上の金属よりなるリン酸塩とエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレン系樹脂およびポリエステル系樹脂の中から選ばれる1種以上の有機樹脂とを主成分とする複合リン酸塩皮膜を有する鋼板が記載されている。
また、特許文献8には第1層としてニッケル、マンガンおよびマグネシウムの中から選ばれる1種以上を含有するリン酸亜鉛皮膜層を有し、その上部に第2層としてエチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂の中から選ばれる1種の有機樹脂を主成分とする有機系皮膜を有することが記載されている。
また、特許文献9にはリン酸亜鉛を主成分とするリン酸亜鉛皮膜層と該皮膜の上層に形成されたMg,Al,Co,MnおよびCaの中から選択される1種以上の金属よりなるリン酸塩を主成分とするリン酸塩皮膜層とを有する鋼板が記載されている。
また、特許文献10にはヒドラジン誘導体、シリカ微粒子および金属表面をエッチングできる酸を含有する後処理剤と後処理方法が記載されている。
また、特許文献11には、特定の樹脂化合物と、少なくとも1種のバナジウム化合物と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガンおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物とを含有することを特徴とする金属表面処理剤が記載されている。
【0008】
また、特許文献12にはフッ素含有化合物と、カチオン性またはノニオン性を有する水溶性または水分散性の樹脂化合物を含有する金属表面処理剤が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−285346号公報
【特許文献2】特開2001−152356号公報
【特許文献3】特開2000−248367号公報
【特許文献4】特開2001−81578号公報
【特許文献5】特開2002−12983号公報
【特許文献6】特開2001−179874号公報
【特許文献7】特開2002−12982号公報
【特許文献8】特開2001−105528号公報
【特許文献9】特開2000−265281号公報
【特許文献10】特開2001−207271号公報
【特許文献11】特開2001−181860号公報
【特許文献12】特開2005−206888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3〜11に記載の後処理方法は、クロメート液による後処理と比べて、耐食性が不十分であったり、耐食性がよくても塗装密着性が不十分であったりするという問題があり、また、コストが高いという問題等があるものもあった。
また、特許文献12に記載の金属表面処理剤は、本発明者が検討したところ、クロメート後処理と皮膜すると、耐食性や塗装密着性が十分に得られないことがあった。
【0011】
したがって、本発明は、リン酸亜鉛系処理材に従来のクロメート液による後処理を施して得られる材料と同等以上の耐食性および塗装密着性を有する後処理済みリン酸亜鉛系処理材を6価クロムを使用せずに得ることができる、後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法およびそれに用いるリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、リン酸亜鉛系処理材に従来のクロメート液による後処理を施して得られる材料と同等以上の耐食性および塗装密着性を有し、6価クロムを使用せずに得ることができる後処理済みリン酸亜鉛系処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させた後、前記リン酸亜鉛系皮膜に塗布されるリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物であって、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)と、水とを含有し、前記化合物(A)に対する前記フッ素含有化合物(B)と前記リン酸化合物(C)の合計の質量比([(B)+(C)]/(A))が、0.01〜100であり、pHが1〜6である、リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物を提供する。
【0013】
ここで、前記アルコキシシリル基は、前記アミノ基の窒素原子に直接またはアルキレン基を介して結合しているのが好ましい。
また、前記フッ素含有化合物(B)は、Ti、Zr、Hf、Si、AlおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有するのが好ましい。
また、更に、V、W、Ni、Co、Fe、Zn、Mg、Al、Mn、CaおよびLiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する金属化合物(D)を含有するのが好ましい。
また、前記金属化合物(D)の含有量が、0.0010モル/kg以上であり、前記フッ素化合物(B)および前記リン酸化合物(C)の合計に対する前記金属化合物(D)のモル比((D)/[(B)+(C)])が、0.02〜50であるのが好ましい。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本発明は、金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させるリン酸亜鉛系処理工程と、前記リン酸亜鉛系処理工程で形成させた前記リン酸亜鉛系皮膜の上に、本発明のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物を塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後、水洗することなく、前記リン酸亜鉛系皮膜処理材用後処理組成物を塗布された後の前記リン酸亜鉛系処理材の温度が40〜200℃となるように乾燥させて、後処理済みリン酸亜鉛系処理材を得る乾燥工程とを具備する後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法を提供する。
ここで、前記乾燥工程により形成される前記リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物の乾燥皮膜の付着量が、1〜1000mg/mであるのが好ましい。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明は、金属板と、前記金属板の上に形成されたリン酸亜鉛系皮膜と、前記リン酸亜鉛系皮膜が有する孔を封止する封止膜とを有し、前記封止膜が、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)とを含む、後処理済みリン酸亜鉛系処理材を提供する。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明は、本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法により得られる後処理済みリン酸亜鉛系処理材を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法によれば、リン酸亜鉛系処理材に従来のクロメート液による後処理を施して得られる材料と同等以上の耐食性および塗装密着性を有する後処理済みリン酸亜鉛系処理材を6価クロムを使用せずに得ることができる。
また、本発明のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物は、本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法に好適に使用でき、クロムを全く含まないため、環境保全、リサイクル性等の社会問題に対する対策案として、極めて有効である。
また、本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材は、リン酸亜鉛系処理材に従来のクロメート液による後処理を施して得られる材料と同等以上の耐食性および塗装密着性を有し、6価クロムを使用せずに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物(以下「本発明の組成物」という。)、本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法(以下「本発明の製造方法」という。)および本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材について詳細に説明する。
初めに、本発明の組成物について説明する。
【0019】
本発明の組成物は、金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させた後、前記リン酸亜鉛系皮膜に塗布されるリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物であって、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)と、水とを含有し、前記化合物(A)に対する前記フッ素含有化合物(B)と前記リン酸化合物(C)の合計の質量比([(B)+(C)]/(A))が、0.01〜100であり、pHが1〜6である、リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物である。
【0020】
本発明の組成物による後処理の対象は、リン酸亜鉛系処理材である。リン酸亜鉛系処理材は、鋼板(例えば、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、冷延鋼板)、アルミニウム板等の金属板にリン酸亜鉛系処理を施した処理材であれば、特に限定されない。
リン酸亜鉛系処理材は、リン酸亜鉛系処理により形成されるリン酸亜鉛系皮膜を表面に有する。リン酸亜鉛系皮膜の量は、0.1〜5g/m2であるのが好ましく、0.3〜4.5g/m2であるのがより好ましく、0.5〜4g/m2であるのが更に好ましい。リン酸亜鉛系皮膜の量が0.1g/m2以上であると、材料表面の露出が少なくなり、耐食性が優れたものとなり、リン酸亜鉛系皮膜元来の密着性を得ることができる。また、5g/m2以下であると、リン酸亜鉛系の結晶が粗大化せず、塗装後加工された場合に優れた塗膜密着性が得られる。
【0021】
リン酸亜鉛系皮膜は、主に、リン酸亜鉛を主体とする結晶により構成される。リン酸亜鉛系皮膜は、Ni、Mn、Mg、Co、Ca等の1種以上の金属元素を含有することができる。これらを含有することにより、耐食性や密着性が向上する。特に、Ni、Mn、Mgは、耐食性向上に効果的である。
【0022】
本発明の組成物に用いられる化合物(A)(以下「化合物(A)ともいう。」は、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基)と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物である。化合物(A)は、単量体であってもよく、重合体であってもよい。
芳香環とフェノール性ヒドロキシ基とを有する化合物にアルコキシシリル基を導入することにより、本発明の組成物の密着性および耐食性が大きく向上する。
【0023】
上記アルコキシシリル基は、ケイ素原子とケイ素原子に直接結合しているアルコキシ基とを有する基であればよく、ケイ素原子とケイ素原子に直接結合しているアルコキシ基を少なくとも2つ有する基であるのが好ましく、ケイ素原子とケイ素原子に直接結合しているアルコキシ基を3つ有する基であるのがより好ましい。
上記アルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。
上記アルコキシ基以外の上記アルコキシシリル基が有する基は、特に限定されないが、例えば、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基等が好適に挙げられる。
【0024】
上記アルコキシシリル基としては、具体的には、例えば、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、ジエチルエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0025】
化合物(A)のアルコキシシリル基は、アミノ基の窒素原子に直接またはアルキレン基を介して結合しているのが好ましい態様の1つである。このような態様の化合物(A)は、例えば、後述するように、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、ホルムアルデヒドとを反応させる方法(以下「第1の方法」という。)、または、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、アミン化合物(a3)と、ホルムアルデヒドとを反応させる方法(以下「第2の方法」という。)により得ることができる。
【0026】
化合物(A)が重合体である場合(主鎖に繰り返し単位を有する場合)には、化合物(A)は、アルコキシシリル基を化合物(A)の繰り返し単位当たり0.01〜4個有するのが好ましく、0.05〜2個有するのがより好ましく、0.1〜1.5個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲でアルコキシシリル基を有する場合、密着性および耐食性に優れる。
【0027】
また、化合物(A)は、1分子中にアルコキシシリル基を1〜4個有するのが好ましく、1〜3個有するのがより好ましく、1〜2個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲でアルコキシシリル基を有する場合、密着性および耐食性に優れる。
【0028】
上記化合物(A)が有する芳香環は、特に限定されないが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環であるのが好ましい。上記フェノール性ヒドロキシ基は、化合物(A)が有する芳香環に直接結合しているヒドロキシ基である。
【0029】
化合物(A)の水溶性を確保するために、化合物(A)はアミノ基や芳香環に直接結合していないヒドロキシ基等の極性基を有しているのが好ましい。化合物(A)は水溶性であるため、水系後処理組成物に使用できる。
【0030】
化合物(A)は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ基を有するものである。中でも、第二級アミノ基、第三級アミノ基を有することがより好ましく、第三級アミノ基を有することが更に好ましい。化合物(A)がアミノ基を有する場合、化合物(A)の極性が高くなるため水溶化しやすくなる。更に、アミノ基の窒素原子上に存在する非共有電子対が鋼材あるいは上層塗膜との静電的相互作用の結果、密着性が向上する。また、第一級アミノ基および第二級アミノ基の場合、アミノ基が反応性官能基として作用する結果、密着性が向上する。
【0031】
化合物(A)は、上記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を有するのが好ましい。化合物(A)が上記フェノール性ヒドロキシ基以外にもヒドロキシ基を有している場合、化合物(A)の水溶性が高くなる。また、得られる組成物の密着性および耐食性を向上できる。
【0032】
上記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基は、上記アミノ基の窒素原子にアルキレン基を介して結合しているのが好ましい態様の1つである。このような態様の化合物(A)は、例えば、上記第2の方法により得ることができる。
【0033】
化合物(A)が重合体である場合(主鎖に繰り返し単位を有する場合)には、上記化合物(A)は、上記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を化合物(A)の繰り返し単位当たり0.01〜4個有するのが好ましく、0.05〜2個有するのがより好ましく、0.1〜1.5個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲で上記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を有する場合、化合物(A)の水溶性および得られる組成物の密着性および耐食性に優れる。
【0034】
また、化合物(A)は、1分子中に上記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を1〜4個有するのが好ましく、1〜3個有するのがより好ましく、1〜2個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲で上記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を有する場合、化合物(A)の水溶性および得られる組成物の密着性および耐食性に優れる。
【0035】
化合物(A)は、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、ホルムアルデヒドとの反応(第1の方法)により得られる化合物であるのが好ましい態様の1つである。
【0036】
また、化合物(A)の他の好ましい態様としては、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、アミン化合物(a3)と、ホルムアルデヒドとの反応(第2の方法)により得られる化合物が好適に挙げられる。
【0037】
これらの態様の化合物(A)は、いわゆるマンニッヒ反応により、上記芳香族化合物(a1)が有する芳香環のヒドロキシ基のオルト位またはパラ位に、ホルムアルデヒド由来のメチレン基を介してアミノ基が結合した構造であると考えられる。化合物(A)は、芳香環が置換基を有する位置は特に限定されないが、芳香環のヒドロキシ基のオルト位および/またはパラ位が置換されたものであることが好ましい。
【0038】
上記芳香族化合物(a1)は、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物である。具体的には、例えば、フェノール、ビスフェノールA、p−ビニルフェノール、ナフトール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が挙げられる。また、これらの重合体を用いることもできる。重合方法は特に限定されず、公知の重合方法、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、縮重合を採用することができる。
これらの他に、上記芳香族化合物(a1)として、フェノール−クレゾールノボラック共重合体、ビニルフェノール−スチレン共重合体、フェノール−ナフタレン共重合体等を用いることもできる。また、上述した芳香族化合物(a1)を、エピクロルヒドリン等のハロエポキシド、酢酸等のカルボン酸類、エステル類、アミド類、トリメチルシリルクロリド等の有機シラン類、アルコール類、硫酸ジメチル等のアルキル化物等により変性したものを用いることもできる。これらの芳香族化合物(a1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記芳香族化合物(a1)は、フェノール、ビスフェノールA、p−ビニルフェノール、ナフトール、ノボラック樹脂、ポリビスフェノールA、ポリp−ビニルフェノールおよびフェノール−ナフタレン重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、ノボラック樹脂、ポリビスフェノールA、ポリp−ビニルフェノールおよびフェノール−ナフタレン重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましく、ポリp−ビニルフェノールであるのが更に好ましい。
【0040】
ここで、本明細書において、上記ポリビスフェノールAは下記式で表される化合物を意味する。
【0041】
【化1】

【0042】
上記式中、sは1〜2000の整数であり、5〜1000の整数であるのが好ましい。
【0043】
また、上記ポリp−ビニルフェノールは、下記式で表される化合物を意味する。
上記ポリp−ビニルフェノールとして、ビニルフェノールを公知の重合方法により重合したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、丸善石油化学社製のマルカリンカーが挙げられる。
【0044】
【化2】

【0045】
上記式中、tは1〜4000の整数であり、10〜2000の整数であるのが好ましい。
【0046】
上記芳香族化合物(a1)の重量平均分子量は、特に限定されないが、200〜1,000,000であるのが好ましく、500〜500,000であるのがより好ましく、1,000〜200,000であるのが更に好ましい。
【0047】
上記アミノシラン(a2)は、第一級アミノ基および/または第二級アミノ基(イミノ基)と、アルコキシシリル基とを有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0048】
【化3】

【0049】
上記式(2)中、R3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ベンジル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基、ジヒドロキシアルキル基、トリヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、アセチル基またはアルキルカルボニル基である。
上記アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基が挙げられる。
上記アルケニル基としては、炭素数1〜10のアルケニル基が好適に挙げられ、より好ましくはアリル基が挙げられる。
上記アルキニル基としては、炭素数1〜10のアルキニル基が好適に挙げられ、より好ましくはプロピニル基が挙げられる。
上記アリール基としては、炭素数1〜10のアリール基が好適に挙げられ、より好ましくは、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が好適に挙げられ、より好ましくはフェニル基が挙げられる。
上記ヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくは2−ヒドロキシエチル基が挙げられる。
上記ジヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のジヒドロキシアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはビス(ヒドロキシエチル)基が挙げられる。
上記トリヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のトリヒドロキシアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはトリス(ヒドロキシエチル)基が挙げられる。
上記アミノアルキル基としては、炭素数1〜10のアミノアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはアミノエチル基が挙げられる。
上記アルキルアミノアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキルアミノアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくは2−メチルアミノエチレンが挙げられる。
上記ジアルキルアミノアルキル基としては、炭素数1〜10のジアルキルアミノアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはジメチルアミノエチレンが挙げられる。
上記アルキルカルボニル基としては、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基が好適に挙げられ、より好ましくはアセチル基が挙げられる。
【0050】
上記式(2)中、R4およびR5は、それぞれ、アルキル基であり、炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましく、メチル基、エチル基であるのがより好ましい。複数のR4およびR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記式(2)中、nは、1〜3の整数であり、2〜3の整数であるのが好ましく、3であるのがより好ましい。
上記式(2)中、mは、1〜3の整数であるのが好ましく、2または3であるのがより好ましく、3であるのが更に好ましい。
【0051】
上記アミノシラン(a2)としては、具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−プロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−プロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミノビニルトリメトキシシラン、N−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノ)−3−イソブチルジメチルメトキシシラン、n−ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチルアミノイソブチルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、N−メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミン、ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジオクチル−N′−トリエトキシシリルプロピルウレア、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコナミド、(3−トリエトキシシリルプロピル)−t−ブチルカルバメート、トリエトキシシリルプロピルカルバメート、1,3−ジビニルテトラメチルジシラザン、トリメトキシシリルプロピル(ポリエチレンイミン)、3−(2,4−ジニトロフェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリルプロピル)−p−ニトロベンザミン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミンおよび3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のアミノシランが好ましい。
【0052】
第1の方法における上記アミノシラン(a2)の使用量は、上記芳香族化合物(a1)100質量部に対して1〜1200質量部が好ましく、2〜600質量部がより好ましく、3〜300質量部が更に好ましい。
【0053】
第2の方法における上記アミノシラン(a2)の使用量は、上記芳香族化合物(a1)100質量部に対して1〜1200質量部が好ましく、2〜600質量部がより好ましく、3〜300質量部が更に好ましい。
【0054】
上記アミン化合物(a3)は、第一級アミノ基および/または第二級アミノ基(イミノ基)を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が好適に挙げられる。
なお、上記アミン化合物(a3)は、上記アミノシラン(a2)と同一であってもよい。
【0055】
【化4】

【0056】
上記式(1)中、R1およびR2は、それぞれ、上記式(2)のR3と同様であるが、R1およびR2は互いに結合してモルホリノ基を形成していてもよい。
【0057】
前記アミン化合物(a3)としては、具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、i−プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジi−プロピルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−メチルエタノールアミン、2−エチルエタノールアミン、N−メチルアミノ1,2−プロパンジオール、N−メチルグルカミン等のアルカノールアミン、アニリン、p−メチルアニリン、N−メチルアニリン等の芳香族アミン、ビニルアミン、アリルアミン等の不飽和アミン、ピロール、ピロリジン、イミダゾール、インドール、モルホリン、ピペラジン等の複素環アミン、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、sym−ジメチルエチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも2−メチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、N−メチルグルカミン、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N−メチルアニリン、エチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、2−エチルアミノエタノール、エチレンジアミン、sym−ジメチルエチルアミンおよびモルホリンからなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物が好ましい。
【0058】
第2の方法における上記アミン化合物(a3)の使用量は、上記芳香族化合物(a1)100質量部に対して0.2〜360質量部が好ましく、0.4〜270質量部がより好ましく、0.6〜180質量部が更に好ましい。
【0059】
上記反応に用いられるホルムアルデヒドとしては、溶媒で希釈されているものを用いることもできる。
上記溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン溶媒;アセトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0060】
第1の方法における上記ホルムアルデヒドの使用量は、上記アミノシラン(a2)のアミノ基に対するホルムアルデヒドのモル比(ホルムアルデヒド/アミノ基)が1〜100であるのが好ましく、2〜50であるのがより好ましい。
【0061】
第2の方法における上記ホルムアルデヒドの使用量は、上記アミノシラン(a2)のアミノ基と上記アミン化合物(a3)のアミノ基との合計に対するホルムアルデヒドのモル比(ホルムアルデヒド/アミノ基)が1〜100であるのが好ましく、2〜50であるのがより好ましい。
【0062】
上記化合物(A)としては、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体が好ましい態様の1つである。
【0063】
【化5】

【0064】
上記式(3)中、R6は、上記式(2)のR3と同様である。
7は単結合またはアルキレン基であり、炭素数1〜10のアルキレン基であるのが好ましく、トリメチレン基(−(CH23−)であるのがより好ましい。R7が単結合である場合は、R7が存在せず窒素原子とケイ素原子が直接結合していることになる。
8およびR9は、それぞれ、アルキル基であり、炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましく、メチル基、エチル基であるのがより好ましい。複数のR8およびR9はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
10およびR11は、それぞれ、上記式(2)のR3と同様であるが、R10およびR11は互いに結合してモルホリノ基を形成していてもよい。
pは1〜3の整数であり、2または3であるのが好ましく、3であるのがより好ましい。
【0065】
上記重合体は、上記式(3)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。上記重合体は、上記式(3)で表される繰り返し単位と、下記式(5)で表される繰り返し単位、下記式(6)で表される繰り返し単位、下記式(7)で表される繰り返し単位、下記式(8)で表される繰り返し単位および下記式(9)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位とからなる重合体であるのが好ましい態様の1つである。
上記重合体は、上記式(3)〜(9)のいずれかで表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0066】
【化6】

【0067】
上記式(5)〜(9)中、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびpは、それぞれ、上記式(3)のR6、R7、R8、R9、R10、R11およびpと同様である。
【0068】
上記重合体の製造方法は、特に限定されないが、ポリp−ビニルフェノールと、上記アミノシラン(a2)と、上記アミン化合物(a3)と、ホルムアルデヒドとを反応させて上記重合体を得る方法が好適に挙げられる。
【0069】
上記重合体としては、具体的には、例えば、下記式(4)で表される繰り返し単位を含む重合体(以下「本発明の第1態様の化合物」という。)が好適に挙げられる。
【化7】

【0070】
本発明の第1態様の化合物は、上記式(4)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。本発明の化合物は、上記式(4)で表される繰り返し単位と、下記式(10)で表される繰り返し単位、下記式(11)で表される繰り返し単位、下記式(12)で表される繰り返し単位、下記式(13)で表される繰り返し単位および下記式(14)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位とからなる重合体であるのが好ましい態様の1つである。
本発明の第1態様の化合物は、上記式(4)および(10)〜(14)のいずれかで表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0071】
【化8】

【0072】
本発明の第1態様の化合物の製造方法は、特に限定されないが、ポリp−ビニルフェノールと、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランと、2−メチルアミノエタノールと、ホルムアルデヒドとを反応させて上記重合体を得る方法が好適に挙げられる。
【0073】
化合物(A)の他の好ましい態様としては、例えば、ポリp−ビニルフェノールと、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミンおよび3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のアミノシランと、2−メチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N−メチルアニリン、エチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、2−エチルアミノエタノールおよびモルホリンからなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物と、ホルムアルデヒドとを有機溶媒中で反応させて得られる化合物(以下「本発明の第2態様の化合物」という。)が挙げられる。
【0074】
本発明の第2態様の化合物の製造方法は、特に限定されないが、上記ポリp−ビニルフェノールと、上記アミノシランと、上記アミン化合物と、上記ホルムアルデヒドとを有機溶媒中で反応させて本発明の第2態様の化合物を得る方法が好適に挙げられる。
本発明の第2態様の化合物は、いわゆるマンニッヒ反応により、ポリp−ビニルフェノールが有する芳香環のヒドロキシ基のオルト位に、ホルムアルデヒド由来のメチレン基を介してアミノ基が結合した構造であると考えられる。
本発明の第2態様の化合物は、芳香環が置換基を有する位置は特に限定されないが、フェノール性ヒドロキシ基のオルト位が置換されたものであることが好ましい。
【0075】
また、上記反応における上記アミノシランの使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、1〜1200質量部が好ましく、2〜600質量部がより好ましく、3〜300質量部が更に好ましい。
上記反応における上記アミン化合物の使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、0.2〜360質量部が好ましく、0.4〜270質量部がより好ましく、0.6〜180質量部が更に好ましい。
上記反応におけるホルムアルデヒドの使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、0.3〜300質量部が好ましく、0.6〜200質量部がより好ましく、0.9〜150質量部が更に好ましい。
【0076】
上記有機溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン溶媒;アセトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0077】
上記有機溶媒の使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、0〜10,000質量部が好ましく、10〜5,000質量部がより好ましい。
【0078】
本発明の第2態様の化合物の製造方法においては、更に触媒を添加することにより、反応率を向上でき、反応時間を短縮することもできる。触媒としては、例えば、酸触媒、塩基触媒、ルイス酸触媒等が挙げられる。
上記酸触媒としては、具体的には、例えば、塩酸、塩化水素ガス、硫酸、発煙硫酸、硝酸、濃硝酸、リン酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ギ酸、酢酸等の有機酸等が挙げられる。
上記塩基触媒としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられる。
上記ルイス酸触媒としては、具体的には、例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン、トリフルオロメタンスルホン酸ランタニウム、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム、トリフルオロメタンスルホン酸イットリビウム等が挙げられる。
【0079】
上記触媒の添加量は、特に限定されないが、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、1〜300質量部が好ましく、2〜150質量部がより好ましい。
【0080】
本発明の第2態様の化合物の製造方法における反応温度は、特に限定されないが、0〜150℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。
本発明の第2態様の化合物の製造方法においては上述したように触媒が反応効率に影響を与えるが、反応温度も反応効率に影響を与える。具体的には、低い反応温度であると比較的長い反応時間を要し、高い反応温度であると比較的短時間にて製造が可能である。ただし、反応温度が高すぎる場合、目的生成物に悪影響を与えたり、目的の反応以外の反応を促進させる場合がある。
【0081】
本発明の第2態様の化合物の製造方法における反応時間は、特に限定されないが、例えば、反応温度が80℃である場合は24時間程度が好ましい。また、反応温度が23℃である場合は7日間程度が好ましい。
【0082】
本発明の第2態様の化合物の製造方法について具体的に説明する。ただし、本発明の第2態様の化合物の製造方法はこの方法に限定されない。
まず、ポリp−ビニルフェノールと上記有機溶媒とを混合して十分に溶解させる。
次に、この混合液に、上記アミン化合物、上記アミノシラン、ホルムアルデヒドおよび必要に応じて上記触媒を室温にて順次撹拌しながら滴下して加える。この混合液を80℃に加温して24時間撹拌後、本発明の化合物を得ることができる。
ここで、上記アミノシラン、上記アミン化合物、ホルムアルデヒドおよび上記触媒を加える順序は、特に限定されないが、上記アミノシランおよび上記アミン化合物を加えた後にホルムアルデヒドを加えるのが好ましい。上記触媒はホルムアルデヒド添加後に加えるのが好ましい。
【0083】
上記の方法で得られた本発明の化合物は、公知の方法により精製することができる。例えば、不溶性の溶媒による沈降、常圧もしくは減圧による留去、または、クロマトグラフィーの使用により精製することができる。
【0084】
上述した化合物(A)の重量平均分子量は、1,000〜500,000であるのが好ましく、1,500〜250,000であるのがより好ましく、2,000〜200,000であるのが更に好ましい。分子量がこの範囲であると、塗膜密着性、耐食性および耐薬品性に優れる塗膜を得ることができる。
【0085】
化合物(A)の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した本発明の第2態様の化合物の製造方法が好適に挙げられる。
【0086】
本発明の組成物に用いられるフッ素含有化合物(B)は、フッ化物、錯フッ化物その他のフッ素を含有する化合物であれば特に限定されない。例えば、フッ化水素酸、そのアンモニウム塩、そのアルカリ金属塩;フッ化スズ、フッ化マンガン、フッ化第一鉄、フッ化第二鉄、フッ化アルミニウム、フッ化亜鉛、フッ化バナジウム等の金属フッ化物;酸化フッ素、フッ化アセチル、フッ化ベンゾイル等の酸フッ化物が挙げられる。
また、フッ素含有化合物(B)として、Ti、Zr、Hf、Si、AlおよびBからなる群から選ばれる原子の少なくとも1種の元素を有するものが、得られる皮膜の耐食性、基材との密着性を向上させることができるという点から好適に用いられる。具体的には、例えば、(TiF62-、(ZrF62-、(HfF62-、(SiF62-、(AlF63-、(BF4OH)-等のアニオンに水素原子が1〜3原子付加した錯体、これらのアニオンのアンモニウム塩、これらのアニオンの金属塩等が挙げられる。フッ素含有化合物(B)は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0087】
本発明の組成物に用いられるリン酸化合物(C)は、特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸のアンモニウム塩、金属塩(金属としては、例えば、アルカリ金属、Zn、Ni、Mn、Co、Mg、Al、Fe、Vが挙げられる。);ピロリン酸等の縮合リン酸;フィチン酸、ホスホン基、ホスフィン基を有する有機リン酸化合物が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
リン酸化合物(C)は、本発明の組成物1kgあたりに0.001mol以上含むことが好ましい。リン酸化合物(C)の含有量がこの範囲であると耐食性がより高くなる。
また、得られる皮膜の耐水性が良好となり、基材との密着性が高くなるという観点からは、本発明の組成物におけるリン酸化合物(C)の含有量は、5.0mol/kg以下であることが好ましい。
【0089】
本発明の組成物中の、前記化合物(A)に対する前記フッ素含有化合物(B)と前記リン酸化合物(C)の合計の質量比([(B)+(C)]/(A))は、0.01〜100である。ただし、前記質量比は成分(A)〜(C)の固形分の質量比である。
固形分質量比([(B)+(C)]/(A))が0.01未満であると、封孔処理として、リン酸亜鉛系皮膜の隙間における素材表面との反応性に劣るようになり、耐食性が得られなくなるか、耐食性が得られても十分な塗装密着性が得られなくなるかのいずれかとなる。一方、固形分質量比([(B)+(C)]/(A))が100を超えると、化合物(A)の塗装密着性に対する効果が得られなくなる。
前記質量比([(B)+(C)]/(A))は、0.05〜50であるのが好ましく、0.1〜25であるのがより好ましい。この範囲であると、耐食性および塗装密着性がより高くなる。
【0090】
本発明の組成物は、更に、水を含有する。
本発明の組成物中の水の含有量は、特に限定されず、上述した必須成分および任意成分の濃度が所望の範囲となるように調整すればよい。
【0091】
本発明の組成物は、更に、V、W、Ni、Co、Fe、Zn、Mg、Al、Mn、CaおよびLiからなる群から選ばれる少なくとも1種を有する金属化合物(D)を含有するのが好ましい。金属化合物(D)を含有することにより、耐食性が更に向上する。
金属化合物(D)としては、例えば、上記金属の炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ素化合物、塩酸塩、有機酸塩、有機化合物が挙げられる。
【0092】
本発明の組成物中の金属化合物(D)の含有量は、0.0010モル/kg以上であり、かつ、本発明の組成物中の前記フッ素化合物(B)および前記リン酸化合物(C)の合計に対する前記金属化合物(D)のモル比((D)/[(B)+(C)])が、0.02〜50であるのが好ましい。金属化合物の含有量が0.001モル/kg以上であると、十分な耐食性向上効果が得られる。また、前記モル比((D)/[(B)+(C)])〕が0.02以上であると、十分な耐食性向上効果が得られる。また、前記モル比((D)/[(B)+(C)])が50以下であると、得られる皮膜が堅くて脆くなることがなく、塗装後、加工を受ける部分での密着性が十分となる。
前記モル比((D)/[(B)+(C)])は、0.02〜20であるのがより好ましく、0.02〜10であるのが更に好ましい。
【0093】
本発明の組成物は、更に、被塗面に均一な皮膜を得るために濡性向上剤と呼ばれる界面活性剤、水溶性溶剤、増粘剤、溶接性の向上のための導電性物質等を含有することができる。
【0094】
本発明の組成物は、pH1〜6であり、pH1.5〜5.5であるのが好ましく、pH2〜5であるのがより好ましい。pHが1未満であると、リン酸亜鉛系結晶を過度に溶解し、リン酸亜鉛系皮膜の隙間や欠陥部を広げてしまい、耐食性や塗装密着性を低下させるため好ましくない。一方、pHが6を超えると、リン酸亜鉛系皮膜のビルドアップ結晶等の溶解作用が低下し、更にエッチング効果も低下するため、やはり耐食性や塗装密着性が低下する。
【0095】
本発明の組成物をpH1〜6に調整する方法は、特に限定されず、酸成分またはアルカリ成分を用いて調整することができる。
酸成分としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、ギ酸、酢酸、フッ化水素酸等の無機酸;酢酸、タンニン酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。
アルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、第一級〜第三級アミンが挙げられる。
【0096】
本発明の組成物は、後述する本発明の製造方法におけるリン酸亜鉛系処理材に塗布される塗布工程および乾燥工程において、リン酸亜鉛系皮膜で被覆されていない素材表面(例えば、リン酸亜鉛系結晶の隙間、欠陥部)と反応し密着性の良好な皮膜を形成するとともに、化合物(A)が造膜し、優れた耐食性および塗装密着性を付与するものと考えられる。具体的なメカニズムは明らかではないが、本発明者は次のように考えている。
【0097】
まず、本発明の組成物においては、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)が、リン酸亜鉛系皮膜の隙間や欠陥部に浸透して、素材表面との反応性(エッチング効果)を高める。一方で、素材表面からエッチングによって生じた金属イオンと反応し、リン酸亜鉛系皮膜の隙間や欠陥部を封孔し、これによって耐食性が向上するのであると考えられる。
また、本発明の組成物においては、化合物(A)がpH1〜6の範囲で安定な水性樹脂であり、本発明の組成物の塗布時または加熱工程もしくは乾燥工程において、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)と素材表面との反応と相まって、緻密な3次元構造を形成して造膜するとともに、素材表面およびリン酸亜鉛系皮膜上に固着すると考えられる。つまり、封孔作用に加えて、樹脂皮膜のバリアー性により耐食性を向上し、リン酸亜鉛系皮膜自体のアンカー効果と樹脂の効果で塗装密着性を向上させているものと考えられる。特に、固形分質量比([(B)+(C)]/(A))が特定の範囲にあるため、耐食性および塗装密着性の両者が極めて優れたものとなる。
【0098】
更に、本発明の組成物は、pH1〜6であるため、ビルドアップ結晶、二次結晶と呼ばれる結晶を溶解除去する効果も有していると推測する。
【0099】
更に、フッ素含有化合物(B)が、Ti、Zr、Hf、Si、AlおよびBからなる群から選ばれる原子の少なくとも1種を有する、フッ化物および/または錯フッ化物の1種以上である場合、本発明の組成物のリン酸亜鉛系処理材塗布時および乾燥時の反応性を高め、更に、化合物(A)の造膜性を向上させることで、より密着性の高い皮膜を形成させる効果があり、その結果、耐食性と塗装密着性を更に向上させると考えられる。
【0100】
更に、化合物(A)は共鳴安定化構造を有する化合物である。化合物(A)とフッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)とで形成される皮膜は、金属表面と反応し固着することによって、素材金属の外殻軌道と重なる程度に十分近い距離であるため、Φ軌道を利用して腐食によって生ずる電子を非局在化する作用を持ち、このことによって、表面電位が均一に保たれ、優れた耐食性(平面部のみならず、切断端面、キズ部)を付与すると考えられる。
【0101】
従来のクロメート皮膜の防食機構は、溶解性のある6価のクロムが溶け出し、金属表面露出部に再析出する自己補修作用が一般的に言われているが、本発明者らは、クロメート皮膜の防食機構はクロムの高いカチオノイド性(金属表面への高い固着反応性)と優れた(腐食電子の)非局在化作用に起因する、本発明の処理剤と同様の防食機構であると考えており、本発明はこれらの考えに基づいて成されたものである。
【0102】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させるリン酸亜鉛系処理工程と、前記リン酸亜鉛系処理工程で形成させた前記リン酸亜鉛系皮膜の上に、請求項1〜5のいずれかに記載のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物を塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後、水洗することなく、前記リン酸亜鉛系皮膜の上に塗布した前記リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物の温度が40〜200℃となるように乾燥させて、後処理済みリン酸亜鉛系処理材を得る乾燥工程とを具備する。
【0103】
リン酸亜鉛系処理工程は、金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成することができる方法であれば特に限定されず、例えば、公知のリン酸亜鉛系処理方法により実施することができる。
本発明の製造方法に用いる金属板および前記リン酸亜鉛系皮膜は、本発明の組成物で説明したものと同様である。
【0104】
塗布工程は、リン酸亜鉛系処理工程で形成させた前記リン酸亜鉛系皮膜の上に、上述した本発明の組成物を塗布する工程である。本発明の組成物を前記リン酸亜鉛系皮膜が形成されていない金属板の表面にも塗布することができる。
塗布工程における塗布の方法は、特に限定されず、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸せき、バーコート、刷毛塗りが挙げられる。
【0105】
乾燥工程は、前記塗布工程の後、水洗することなく、前記リン酸亜鉛系皮膜の上に塗布した前記リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物の温度が40〜200℃となるように乾燥させて、後処理済みリン酸亜鉛系処理材を得る工程である。
乾燥工程においては、前記リン酸亜鉛系皮膜処理材用後処理組成物を塗布された後の前記リン酸亜鉛系処理材の温度が40〜200℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは50〜120℃となるように乾燥させる。乾燥温度が低すぎると、本発明の組成物が乾燥するのに時間がかかり、また、皮膜の安定化が不十分となって耐食性が低下する場合がある。一方、乾燥温度が高すぎると、材料の温度を下げるのに時間を要して、作業性が低下し、また、樹脂の分解が始まって、所望の効果が得られなくなることがある。
乾燥の方法は、特に限定されず、例えば、熱風、遠赤外線加熱、直火、インダクションヒーターが挙げられる。
乾燥時間は、特に制限されないが、通常、工業的に採算の合う条件で設定する。
【0106】
本発明の方法においては、乾燥前の水洗を行わないため、水洗水の汚染の問題がなく、ライン操業効率の向上という利点がある。逆に、水洗を行った後、乾燥を行うと、可溶成分の溶出により処理液組成のバランスが変化し、皮膜のバリアー性が低下するため、十分な耐食性および、密着性性が得られないという欠点がある。
【0107】
乾燥工程により形成される本発明の組成物の乾燥皮膜の付着量は、1〜1000mg/m2であるのが好ましく、2〜500mg/m2であるのがより好ましく、3〜300mg/m2であるのが更に好ましい。乾燥皮膜の量が少なすぎると、リン酸亜鉛系処理剤の表面を覆い切れず、耐食性が不十分となることがある。乾燥皮膜の量が多すぎると、リン酸亜鉛系結晶の隙間を本発明の組成物の皮膜が埋めてしまい、アンカー効果が得られなくなって密着性が低下することがある。
【0108】
次に、本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材について説明する。
本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材は、金属板と、前記金属板の上に形成されたリン酸亜鉛系皮膜と、前記リン酸亜鉛系皮膜が有する孔を封止する封止膜とを有し、前記封止膜が、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)とを含む、後処理済みリン酸亜鉛系処理材である。
【0109】
前記封止膜の付着量は、1〜1000mg/m2であるのが好ましく、2〜500mg/m2であるのがより好ましく、3〜300mg/m2であるのが更に好ましい。封止膜の量が少なすぎると、リン酸亜鉛系処理剤の表面を覆い切れず、耐食性が不十分となることがある。封止膜の量が多すぎると、リン酸亜鉛系結晶の隙間を皮膜が埋めてしまい、アンカー効果が得られなくなって密着性が低下することがある。
【0110】
本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材における金属板、リン酸亜鉛系皮膜、封止膜に含まれる化合物(A)、フッ素含有化合物(B)、リン酸化合物(C)は、上述したものと同様である。
【0111】
本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材を製造する方法は、特に限定されないが、上述した本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法により好適に得ることができる。
【0112】
本発明の後処理済みリン酸亜鉛系処理材は、リン酸亜鉛系皮膜に存在する隙間や欠陥部等の孔を前記封止膜によって封孔されているため耐食性に優れる。また、前記封止膜は素材と強固に結合した皮膜を形成するため、リン酸亜鉛系皮膜自体のアンカー効果と樹脂の効果により塗膜密着性に優れる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
1.試験板の作製
(1)供試材(素材)
以下の市販の材料を供試材として使用した。なお、供試材のサイズは70mm×150mmである。
(i)電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚0.8mm、目付量=20/20(g/m2
(ii)溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚0.8mm、目付量=60/60(g/m2
(iii)合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚0.8mm、目付け量=40/40(g/m2
(iv)冷延鋼板(SPC):板厚0.8mm
(v)アルミニウム板(AL):板厚0.4mm、6000番
【0114】
(2)リン酸亜鉛系処理材の作製
供試材の種類に応じて、リン酸亜鉛系処理を行い、リン酸亜鉛系処理材を得た。
(I)供試材(i)のリン酸亜鉛系処理
EG材である供試材(i)にアルカリ脱脂液(日本パーカライジング(株)製CL−N364Sを20g/Lで希釈し、60℃に加温したもの)をスプレーで吹きかけ、表面を清浄化し、水道水で水洗した。ついで、表面調整処理液(日本パーカライジング(株)製PL−Zを水道水で0.2〜2.5g/Lに希釈したもの)に20秒間浸せきさせた後、リン酸亜鉛系処理液(日本パーカライジング(株)製PB−3312Mを水道水で55g/Lに希釈して60℃に加温した後、日本パーカライジング(株)製NT−4055で遊離酸を1.4ポイントに調整したもの)で数秒間スプレー処理した。その後、ただちに水道水で水洗し、更に、純水で洗浄した後、ロール絞りで水切りを行い、送風乾燥し、リン酸亜鉛系処理材を得た。表面調整処理液の濃度とリン酸亜鉛系処理液の処理時間とを変えることにより、種々のリン酸亜鉛系皮膜量(0.2〜2.5g/m2)のリン酸亜鉛系処理材を得た。
【0115】
(II)供試材(ii)のリン酸亜鉛系処理
GI材である供試材(ii)にアルカリ脱脂液(日本パーカライジング(株)製FC−4336を20g/Lで希釈し、60℃に加温したもの)をスプレーで吹きかけ、表面を清浄化し、水道水で水洗した。ついで、表面調整処理液(日本パーカライジング(株)製PL−Zを水道水で0.5〜2.5g/Lに希釈したもの)で表面を10秒間スプレー処理して、リン酸亜鉛系処理液(日本パーカライジング(株)製PB−3300Mを水道水で50g/Lに希釈して65℃に加温した後、日本パーカライジング(株)製NT−4055で遊離酸を1.2ポイントに調整したもの)で数秒間スプレー処理した。
その後、ただちに水道水で水洗し、更、に純水で洗浄した後、ロール絞りで水切りを行い、送風乾燥し、リン酸亜鉛系処理材を得た。表面調整処理液の濃度とリン酸亜鉛系処理液の処理時間とを変えることにより、種々のリン酸亜鉛系皮膜量(0.8〜1.8g/m2)のリン酸亜鉛系処理材を得た。
【0116】
(III)供試材(iii)および(iv)のリン酸亜鉛系処理
GA材である供試材(iii)とSPC材である供試材(iv)をアルカリ脱脂液(日本パーカライジング(株)製FC−E2085を20g/Lで希釈し、45℃に加温したもの)に2分間浸せきさせて表面を清浄化し、水道水で水洗した。ついで、表面調整処理液(日本パーカライジング(株)製PL−Xを水道水で2.0g/Lに希釈したもの)に浸せきさせた後、取り出して、リン酸亜鉛系処理液(日本パーカライジング(株)製PB−WL35をカタログに準じて調整し、35℃に加温したもの)に2分間浸せきさせた。
その後、ただちに水道水で水洗し、更、に純水で洗浄した後、ロール絞りで水切りを行い、送風乾燥し、リン酸亜鉛系処理材を得た。表面調整処理液の濃度とリン酸亜鉛系処理液の処理時間とを変えることにより、種々のリン酸亜鉛系皮膜量(1.8〜4.5g/m2)のリン酸亜鉛系処理材を得た。
【0117】
(IV)供試材(v)のリン酸亜鉛系処理
AL材である供試材(v)をアルカリ脱脂液(日本パーカライジング(株)製FC−E2085を20g/Lで希釈し、45℃に加温したもの)に2分間浸せきさせて表面を清浄化し、水道水で水洗した。ついで、表面調整処理液(日本パーカライジング(株)製PL−Xを水道水で2.5g/Lに希釈したもの)に浸せきさせた後、取り出して、リン酸亜鉛系処理液(日本パーカライジング(株)製PB−AX35をカタログに準じて調整し、35℃に加温したもの)に2分間浸せきさせた。その後、ただちに水道水で水洗し、更に、純水で洗浄した後、ロール絞りで水切りを行い、送風乾燥し、リン酸亜鉛系処理材を得た。
表面調整処理液の濃度とリン酸亜鉛系処理液の処理時間とを変えることにより、種々のリン酸亜鉛系皮膜量(1.0〜1.2g/m2)のリン酸亜鉛系処理材を得た。
【0118】
(3)化合物(A)の合成
(合成例a1〜a11)
撹拌機のついた反応装置(1Lセパラブルフラスコ)に、下記第1表に示す芳香族化合物100質量部と、下記第1表に示す量(質量部)の有機溶媒とを入れ、十分に溶解させた。この混合液に下記第1表に示すアミン化合物、アミノシラン、36質量%ホルムアルデヒド液、触媒を下記第1表に示す量(質量部)室温にて順次滴下して加えた後、80℃にて24時間撹拌を行った。24時間撹拌後、亜硫酸ナトリウムを加えて系内に存在する未反応ホルムアルデヒドを滴定して反応率を求め、ほぼ定量的に反応が進行していることを確認した。
その後、水を加えてポリマー成分のみを沈降ろ過して精製を行い、前記化合物(A)に相当する化合物を得た。
【0119】
【表1】

【0120】
第1表中の記号の意味は以下のとおりである。
a1−1:ポリp−ビニルフェノール(マルカーリンカー、丸善石油化学)
a1−2:ノボラック樹脂(スミライトレジンPR、住友ベークライト)
a1−3:ポリビスフェノールA(三井化学)
a1−4:フェノール-ナフタレン共重合物(新日鐵化学)
a2−1:γ−フェニルプロピルトリメトキシシラン
a2−2:γーアミノプロピルトリエトキシシラン
a2−3:N−ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン
a2−4:テトラメトキシシラン
a3−1:2−メチルアミノエタノール
a3−2:ジエタノールアミン
a3−3:N−メチルグルカミン
a3−4:ジメチルエチレンジアミン
a3−5:クロロ硫酸
a4−1:1,4−ジオキサン
a4−2:2−ブトキシエタノール
a4−3:水
a5−1:p-トルエンスルホン酸
a5−2:ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド
【0121】
なお、後述する比較例10〜15の樹脂化合物には、以下に示す合成例a12〜a17の化合物を用いた。
【0122】
(合成例a12:ウレタン樹脂)
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよびエチレングリコール、分子量1500)150質量部、トリメチロールプロパン6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン24質量部、イソホロンジイソシアネート94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。
【0123】
(合成例a13:エポキシ樹脂)
反応容器に、ビスフェノールAポリプロピレンオキシド2モル付加物180質量部を仕込み、攪拌加熱を行った。触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.9質量部を添加し、そこに2−エチルヘキシルモノグリシジルエーテル(エポキシ当量198)27質量部を60〜70℃で1時間かけて滴下し、そのまま1.5時間熟成し、付加反応を行った。系内のオキシラン環の消滅を塩酸吸収量により確認した後、48質量%水酸化ナトリウム3質量部で三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体を失活させた。生成した水酸基をエピクロルヒドリン370質量部とテトラメチルアンモニウムクロリド1.4質量部投入し、減圧下、50〜60℃でエピクロロヒドリンを還流させ48質量%水酸化ナトリウム109質量部を滴下しながら還流脱水した。滴下後、3時間還流脱水させて脱水反応を進行させた。生じた塩化ナトリウムをろ過により除去した。過剰のエピクロロヒドリンを減圧下で留去した。得られた樹脂はエポキシ当量283、粘度1725mPa・s(25℃)、全塩素含有量0.4質量%であった。得られたエポキシ樹脂300質量部と水700質量部を混合し、ポリオキシエチレン系乳化剤を3.0質量部添加し、攪拌機にて強制乳化した。
【0124】
(合成例a14:アクリル樹脂)
スチレン25質量部、ブチルアクリレート25質量部、アクリルニトリル20質量部、アクリル酸15質量部、ヒドロキシエチルアクリレート10質量部、N−メチロールアクリルアミド5質量部を反応容器内にて共重合させ、生成したアクリル樹脂300質量部と水700質量部とポリオキシエチレン系乳化剤0.5重量部を混合し、攪拌機にて強制乳化した。
【0125】
(合成例a15:フェノール樹脂)
還流冷却機を備えた1000mlのフラスコ内に、フェノール1モルおよび触媒としてp−トルエンスルホン酸0.3gを仕込み、内部温度を100℃まで上げ、ホルムアルデヒド水溶液0.85モルを1時間かけて添加し、100℃で2時間還流下にて反応させた。その後、反応容器を水冷静置し、上層に分離する水層の濁りがなくなってから、デカンテーションして水層を除去し、さらに170〜175℃になるまで加熱攪拌して未反応分および水分を除去した。次に100℃まで温度を下げ、ブチルセロソルブ234gを添加して重縮合物を完全に溶解させた後、純水234gを加え、系内の温度が50℃まで下がったところで、ジエタノールアミン1モルを添加し、これにホルムアルデヒド水溶液1モルを50℃で約1時間かけて滴下した。さらに80℃まで温度を上げ、約3時間攪拌しながら反応を続け、カチオン性フェノール系重縮合物を得た。
【0126】
(合成例a16:ポリエステル樹脂)
エチレングリコール58.9部、トリメチロールプロパン6.8部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸34.4部、テレフタル酸56.4部、イソフタル酸66.4部及び重合触媒を仕込み、加熱攪拌して、生成する水を除去しながらエステル化反応を行い、数平均分子量3,000、Tg40℃、水酸基価50mgKOH/g以下及び酸価0.5mgKOH/g以下のポリエステル樹脂を得た。得られた樹脂をシクロヘキサンで希釈して固形分60%のポリエステル樹脂溶液を調製し、強攪拌を行いながら水に、水900質量部にポリエステル樹脂100質量部の割合で添加し、強制乳化したポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0127】
(合成例a17:ポリオレフィン樹脂)
反応容器にエチレン−アクリル酸共重合体112g、28%アンモニア水11.3g(60%中和相当)、及び水性分散媒として水276.7gを仕込み、攪拌下で加熱して昇温させた。反応容器の内温が95℃に昇温してからその温度で4時間攪拌を続けた後、攪拌を継続しながら内容物を室温まで冷却し、中和されたエチレン−アクリル酸共重合体の水性分散液を得た。
【0128】
(4)後処理組成物の調製
下記の各成分を、第2表に示す組成(質量部)で混合し、pHをアンモニアで調整して第2表に示す値として、各後処理組成物を得た。
なお、比較例1および8〜11のクロメート後処理には、クロメート後処理液1(パーレン62(日本パーカライジング(株)製、略称:LN−62)を純水で希釈したもの)とクロメート後処理液2(パーレン60(日本パーカライジング(株)製、略称:LN−60)を純水で希釈したもの)を用いた。
【0129】
(5)後処理方法
上記(2)で得られたリン酸亜鉛系処理材に、上記(4)で得られた後処理組成物をバーコートまたはロールコートにより塗布し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れて、第2表に示される乾燥温度で乾燥させ、第2表に示される皮膜量(比較例1および10〜13においては、Crの付着量で表した。)の皮膜を形成させた。乾燥温度は、オーブン中の雰囲気温度とオーブンに入れている時間とで調節した。バーコートおよびロールコートの具体的な方法は以下のとおりである。
【0130】
バーコート塗装:後処理組成物をリン酸亜鉛系処理材に滴下して、#3〜5バーコーターで塗装した。使用したバーコーターの番手と後処理組成物の濃度とにより、所定の皮膜量となるように調整した。
【0131】
ロールコート塗装:リン酸亜鉛系処理材を後処理組成物に室温で1秒程度浸せきさせ、取り出した後、ロールで余分な液を切り、塗布量を調整した。ロールによる水切り量と後処理組成物の濃度とにより、所定の皮膜量となるように調整した。
【0132】
【表2】

【0133】
【表3】

【0134】
【表4】

【0135】
第2表中の各成分は下記のとおりである。
フッ素含有化合物(B)
B1:フッ化水素酸
B2:チタンフッ化水素酸
B3:ジルコンフッ化水素酸
【0136】
リン酸化合物
C1:リン酸
C2:リン酸第一アンモニウム
C3:フィチン酸
【0137】
金属化合物(D)
D1:メタバナジン酸アンモニウム
D2:三酸化バナジウム
D3:バナジウムオキシアセチルアセトネート
D4:タングステン酸アンモニウム
D5:重リン酸マグネシウム
D6:炭酸ニッケル(Ni29質量%含有品)
D7:酸化亜鉛
D8:重リン酸アルミニウム
【0138】
2.後処理されたリン酸亜鉛系処理材の性能
上記で得られた後処理済みリン酸亜鉛系処理材について、以下のようにして耐食性および塗装密着性を評価した。結果を下記第3表に示す。
【0139】
(1)耐食性
70×150mmの後処理済みリン酸亜鉛系処理材の裏面および端面部をテープでシールした後に、JIS Z2371(2000)による塩水噴霧試験を行い、錆の発生状況を目視で観察し、下記基準により評価を行った。
<評価基準>
◎:白錆発生面積が全面積の5%未満
○:白錆発生面積が全面積の5%以上10%未満
○△:白錆発生面積が全面積の10%以上20%未満
△:白錆発生面積が全面積の20%以上40%未満
×:白錆発生面積が全面積の40%以上
【0140】
(2)塗装密着性
後処理済みリン酸亜鉛系処理材にメラミンアルキッド系塗料(グリミン(登録商標)、新東塗料社製)を焼き付け乾燥後の膜厚が25μmになるように塗布して、140℃雰囲気のオーブンで30分間焼き付けた。オーブンから取り出して24時間後に1mm間隔の碁盤目をNTカッターで切り、この部分をセロテープ(登録商標)で塗膜をはく離させて、下記基準により評価を行った。更に、この碁盤目部分をエリクセン押出機にて5mm押し出し(加工部)、再度、セロテープ(登録商標)で塗膜をはく離させ、同様に下記評価基準で評価した(これらを一次試験とする)。
更に、オーブンから取り出して24時間後に沸騰した純水に2時間浸せきさせ、取り出して、24時間放置した。その後、上述した一次試験と同様に評価試験を行った(これらを二次試験とする)。
<評価基準>
◎:塗膜残存面積100%(塗膜はく離なし)
○:塗膜残存面積95%以上100%未満
○△:塗膜残存面積80%以上95%未満
△:塗膜残存面積50%以上80%未満
×:塗膜残存面積50%未満
【0141】
【表5】

【0142】
【表6】

【0143】
第3表から明らかなように、本発明の組成物を用いて後処理を行った場合(実施例1〜63)は、耐食性および塗装密着性のいずれにも優れており、比較例1および18〜21のクロメート処理と同等以上の性能が得られた。これに対し、後処理を行わない場合(比較例2)は、耐食性および塗装密着性に劣っていた。また、本発明の後処理組成物に該当しない場合(比較例3〜17)は、耐食性および塗装密着性の両者を満足するものが得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させた後、前記リン酸亜鉛系皮膜に塗布されるリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物であって、
アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)と、水とを含有し、
前記化合物(A)に対する前記フッ素含有化合物(B)と前記リン酸化合物(C)の合計の質量比([(B)+(C)]/(A))が、0.01〜100であり、
pHが1〜6である、リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基が、前記アミノ基の窒素原子に直接またはアルキレン基を介して結合している請求項1に記載のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物。
【請求項3】
前記フッ素含有化合物(B)が、Ti、Zr、Hf、Si、AlおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する請求項1または2に記載のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物。
【請求項4】
更に、V、W、Ni、Co、Fe、Zn、Mg、Al、Mn、CaおよびLiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する金属化合物(D)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物。
【請求項5】
前記金属化合物(D)の含有量が、0.0010モル/kg以上であり、
前記フッ素化合物(B)および前記リン酸化合物(C)の合計に対する前記金属化合物(D)のモル比((D)/[(B)+(C)])が、0.02〜50である、請求項1〜4のいずれかに記載のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物。
【請求項6】
金属板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成させるリン酸亜鉛系処理工程と、
前記リン酸亜鉛系処理工程で形成させた前記リン酸亜鉛系皮膜の上に、請求項1〜5のいずれかに記載のリン酸亜鉛系処理材用後処理組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、水洗することなく、前記リン酸亜鉛系皮膜処理材用後処理組成物を塗布された後の前記リン酸亜鉛系処理材の温度が40〜200℃となるように乾燥させて、後処理済みリン酸亜鉛系処理材を得る乾燥工程とを具備する後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程により形成される前記リン酸亜鉛系処理材用後処理組成物の乾燥皮膜の付着量が、1〜1000mg/mである、請求項6に記載の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法。
【請求項8】
金属板と、前記金属板の上に形成されたリン酸亜鉛系皮膜と、前記リン酸亜鉛系皮膜が有する孔を封止する封止膜とを有し、
前記封止膜が、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、フッ素含有化合物(B)および/またはリン酸化合物(C)とを含む、後処理済みリン酸亜鉛系処理材。
【請求項9】
請求項6または7に記載の後処理済みリン酸亜鉛系処理材の製造方法により得られる後処理済みリン酸亜鉛系処理材。

【公開番号】特開2009−280886(P2009−280886A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136989(P2008−136989)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】