説明

リーマ

【課題】長期に渡って安定して高精度の仕上げ加工を行うことが可能となる。
【解決手段】工具本体の先端部に刃部2を有し、この刃部2に溝3と、切れ刃4と、ヒール5と、ランド6とを備えるガンリーマ1であって、前記ランド6に切れ刃4と工具回転方向後方側に隣接して形成されたマージン7と、前記刃部2の先端側におけるランド6に前記ヒール5と隣接して形成されたガイドパッド8と、前記工具本体の中央部に軸線に沿って穿設された油穴9とを有し、前記刃部2の後端側における溝の深さh2が、前記刃部2の先端側における溝の深さh1よりも浅くなるように構成され、前記刃部2の後端側におけるランド6に開口して、前記油穴9に連通する吐出口10bが形成されているガンリーマ1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらかじめあけられた穴を正確に仕上げ、同時に滑らかな仕上げ面を得るために用いられるリーマに関し、特に深穴の仕上げに用いられるガンリーマに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、穴の仕上げ加工に使用するリーマとして、切削油剤を噴出するための油穴が設けられた油穴付きリーマが知られている(例えば、特許文献1,第9図参照。)。
この油穴付きリーマは、溝に開口して設けられた油穴から切削油を送り込み、切削に伴い発生する切りくずを溝から切削油と共に排出させるものである。このように溝に油穴が設けられている場合には、切れ刃からヒールまでの堤状の部分、即ちランドには切削油が供給されず、ランド部分に被削材の微紛や切削油の不純物等のスラッジが堆積して固着してしまうことがある。このスラッジが被削材と接触すると、加工精度が悪化したり、バニッシュ(摩擦)トルクが上昇してリーマの折損や過負荷停止などのトラブルの原因となったりするという問題があった。
この問題を解決するために、例えば、リーマ本体の隣合う切屑逃げ用溝間に砥粒が付設されてなる砥粒部に、油溜め凹部を設けると共に、油溜め凹部と切削油供給孔とを連通孔にて連結して、切削油をこの油溜め凹部から噴出させて切屑を切屑逃げ用溝へ押出すように構成した電着リーマが提案されている(例えば、特許文献1,第1図参照。)。
【特許文献1】特開平2002−273620号公報(第1図及び第9図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の発明では、隣合う切屑逃げ用溝間に砥粒を付着させた砥粒部を有する電着リーマであることから、この油溜め凹部から砥粒間の隙間を通って砥粒部から切屑逃げ用溝へ向かって切削油が流出することとなる。
しかし、切削油が砥粒間を滲み出るようにして砥粒部を通る程度では、流路が狭く、切屑逃げ用溝を通る切削油の流量が不十分で、切屑を切屑逃げ用溝にスムーズに押し出すのに有効な流量が得られないという問題があった。
また、通常のリーマでは下穴の被削面とランドとの間の空間が少なく、特にガイド性の向上を目的としてマージンやガイドパッドが形成されたリーマでは隙間がほとんどないので、油溜め凹部を設けても、切削油はランドを通って切屑逃げ用溝へ向かって流れ出ることができないという不都合があった。したがって、依然としてランドに被削材の微紛や切削油の不純物等のスラッジが堆積してしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、長期に渡って安定して高精度の仕上げ加工を行うことができるリーマを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、軸線回りに回転される略棒状をなす工具本体と、該工具本体の先端部に設けられた刃部と、該刃部の外周部に先端側から後端側へ向け軸線方向に延びるように形成された溝と、該溝の工具回転方向を向く壁面の外周側稜線部に形成された切れ刃と、該切れ刃から前記刃部の外周面と前記溝とのつなぎとなるヒールまでの前記刃部の外周面に設けられたランドと、該ランドに前記切れ刃と工具回転方向後方側に隣接して形成されたマージンと、前記刃部の先端側における前記ランドに前記ヒールと隣接して形成されたガイドパッドと、前記工具本体の中央部に軸線に沿って穿設された油穴とを有し、前記刃部の後端側における前記溝の深さが、前記刃部の先端側における前記溝の深さよりも浅くなるように構成され、前記刃部の後端側における前記ランドに開口して、前記油穴に連通する吐出口が形成されていることを特徴とするリーマを提供する。
【0006】
本発明によれば、前記刃部の後端側におけるランドに開口して、前記油穴に連通する吐出口を形成することにより、前記ランドに切削油が供給されることになる。さらに、前記刃部の後端側における外周面の余肉が削ぎ落され、下穴の被削面とランドとの間に空間ができるように構成されていることから、切削油が前記吐出口からこの空間へ流入し、さらに溝まで流れ込むこととなる。このため、切くずを溝からスムーズに排出するのに有効な流量が得られるので切りくず詰まりをおこすことがなく、ランドに被削材の微紛や切削油の不純物等のスラッジが堆積して固着してしまうこともない。したがって、長期に渡って安定して高精度の仕上げ加工を行うことができる。
【0007】
また、前記刃部の後端側における溝の深さが先端側における溝の深さよりも浅く形成されているので、従来のリーマと比べ工具剛性に優れる。したがって、切削抵抗が小さく、びびり振動の発生を抑制することができるので、仕上げ面粗さ等に優れるとともに、刃部の損傷、工具折損等を防止できる。
この場合において、前記刃部の先端側におけるランドには前記ガイドパッドを有するので、リーマの下穴への食い付き時におけるガイド性が高く、真直度等も確保できる。
【0008】
上記発明においては、前記刃部の先端側における前記溝に開口して前記油穴に連通する吐出口を形成することとしてもよい。
このように切削油が前記溝へ直接流れ込むように構成することで、切りくず排出性に優れるとともに、切削油剤の潤滑作用および冷却作用により、構成刃先の生成および穴の拡大を抑制することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記切れ刃、前記マージン、前記ガイドパッドおよび前記溝を、周方向にほぼ等間隔で各3つずつ設けることとしてもよい。
このようにすることで、3点支持により工具回転状態が安定し、振動も少なく、仕上げ面粗さ等の加工精度に優れる。
【0010】
また、上記発明においては、前記吐出口を互いに軸線方向にずらして形成することとしてもよい。
このように構成することで、前記吐出口が形成される箇所においても工具剛性を維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリーマによれば、長期に渡って安定して高精度の仕上げ加工を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施形態に係るリーマについて、図1乃至図4を参照しつつ説明する。
本実施形態に係るガンリーマ1は、図1および図4に示されるように、軸線回りに回転される略棒状をなす工具本体と、この工具本体の先端部に設けられた刃部2と、この刃部2の外周部に先端側から後端側へ向け軸線方向に延びるように形成された溝3と、この溝3の工具回転方向rを向く壁面の外周側稜線部に形成された切れ刃4とを備えている。
切れ刃4から刃部2の外周面と溝3とのつなぎとなるヒール5までの刃部の外周面には、
図2(a)に示されるように、ランド6が形成されている。ランド6には、切れ刃4と工具回転方向r後方側に隣接してマージン7が形成されている。また、刃部2の先端側におけるランド6には、ヒール5と隣接してガイドパッド8が形成されている。
これら切れ刃4、マージン7、ガイドパッド8および溝3は、周方向にほぼ等間隔で各3つずつ設けられている。
【0013】
本実施形態に係るガンリーマ1においては、一定の深さでストレートに形成された溝13を備える従来のガンリーマ12と異なり(図5(a)参照)、刃部2の先端側と後端側で深さが異なるように形成された溝3a,3bを備える(図1参照)。すなわち、図2(b)(c)に示されるように、刃部2の後端側における溝3bの深さh2は、刃部2の先端側における溝3bの深さh1よりも浅く形成されており、刃部2の後端側の断面は、刃部2の先端側の断面とは異なる形状をなしている。刃部2の後端側におけるランド6にはガイドパットがなく、図2(c)に示されるように、マージン7を残して工具回転方向r後方側の外周面、つまりランド6の余肉が削ぎ落とされている。このため、ランド16と下穴の被削面との間に十分な空間が確保されていない従来のガンリーマ12とは異なり(図5(b)参照)、図3に示されるように、ランド6と下穴の被削面との間に切削油を流入するのに十分な空間が確保されるように構成されている。刃部2の後端側の断面形状は、切れ刃4を頂点とした略三角形のような形状をなし、刃部2の後端側における肉厚t2、つまり、溝3bの溝底に内接する内接円と油穴9とがなす距離が、刃部2の先端側における肉厚t1、つまり、溝3aにおける溝底に内接する内接円と油穴9とがなす距離よりも大きくなるように構成されている。
【0014】
また、ガンリーマ1本体の中央部には、図2(a)に示されるように軸線Oに沿って工具先端側から基端側へ延びる油穴9が穿設されている。油穴9の工具基端側は貫通形成されており、切削油を供給するために開口している。一方、工具先端側へは開口していない。そして、油穴9には、図2(b)(c)に示されるように、刃部2の先端側における溝3aに開口する吐出口10aが連通形成されるとともに、刃部2の後端側におけるランド6に開口する吐出口10bが連通形成されている。これら吐出口10a,10bは、溝3aおよびランド6毎に少なくとも1つずつ開口するように設けられるとともに、互いに軸線方向にずらして形成されている。
【0015】
このように構成された本実施形態に係るガンリーマ1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係るガンリーマ1によれば、工具基端側から切削油を油穴9に供給しながら、ガンリーマ1をその軸線O廻りに回転させつつ、下穴に挿入して軸線O方向に前進させて使用することにより、刃部2が下穴の被削面を切削し、加工穴の内周面を仕上げることとなる。
このとき油穴9に供給された切削油が、各溝3aに開口する吐出口10aから勢い良く流出して、切削に伴い発生する切りくずを貫通した下穴の前方へ排出するので、切りくず排出性に優れる。さらに、切削油剤の切れ刃4への潤滑作用および冷却作用により、構成刃先の生成を抑え、穴の拡大を抑制することができる。
【0016】
また、切れ刃4により切削された加工穴の内周面がマージン7によって擦られることとなるので、平滑な仕上げ面が得られる。さらに、ガイドパッド8により加工穴の中心軸とガンリーマ1の軸線Oが一致するように刃部2が案内されることとなるので、真直性が確保される。また、3枚の切れ刃4による3点支持により工具本体の軸心が定位置に保持されることとなるので、工具回転状態が安定し、刃部2の振動が抑制されて穴曲がりしにくく、真円度に優れる。
したがって、高精度の仕上げ面粗さ、穴位置精度、穴径寸法等の加工穴精度を得ることができる。
【0017】
この場合において、本実施形態に係るガンリーマ1は、刃部2の後端側のランド6と下穴の被削面との間に空間が形成されているので、油穴9に供給された切削油が、各ランド6に開口する吐出口10bから流出してその空間へ流れ込み、図3に示される矢印のように、ランド6から溝3bへと噴出することとなる。その結果、刃部2の外周面と下穴の被削面との間に入った切りくずは、ランド6から溝3bへと噴出する切削油によって溝3bへ押し出されることとなる。これにより、ランド6に対する被削材の微紛、切削油の不純物等のスラッジの堆積を防止することができ、スラッジが被削材と接触することによる加工精度の悪化やバニッシュ(摩擦)トルクの上昇に伴うリーマの折損、過負荷停止等のトラブルを防止できる。したがって、長期にわたって精度よく仕上げ加工を行うことが可能となる。さらに、ランド6に固着したスラッジ等の除去作業を行う必要がなくなることから、作業効率に優れるとともに、工具寿命が向上する。
【0018】
また、ランド6と下穴の被削面との間に切削油を確実かつ十分に送り込むとともに、溝3bへの流入量を増加させるので、切りくずの排出性が向上する。さらに、切削油によるマージン4への潤滑作用により、加工穴の内周面とのバニシング作用をより効果的に得ることができ、仕上げ面粗さが向上する。
【0019】
このようなガンリーマ1が好適に用いられる代表的な例としては、エンジンに用いられるバルブガイドなどの等の内径仕上げ加工等が挙げられる。これらの被削材はアルミ合金製等のエンジン本体に圧入された肉厚の薄い円筒形状の部品であるために、内径の仕上げ加工を行う場合において被削材自体が変形しやすく縮小傾向が生じやすい。そのため、被削面と接触することとなるガンリーマ1の外周面における潤滑性が加工精度に大きく影響することとなる。この点、本実施形態に係るガンリーマ1によれば、吐出口10bからランド6へ切削油が供給されることとなるので、加工精度において多大な効果を発揮する。
【0020】
また、本実施形態に係るガンリーマ1は、刃部2の後端側における溝3bの深さh2が、先端側の溝3bの深さh1よりも浅くなるように構成されているので、工具剛性が向上する。また、刃部2の後端側における肉厚t2が、先端側の肉厚t1よりも大きくなるように構成されていることから、工具強度に優れる。これにより、びびり振動の発生を抑制できるので、仕上げ面粗さ、真円度、真直度等の加工精度の向上を図れる。そして、刃部の損傷、工具折損等を防止することができ、工具寿命に優れる。
【0021】
この場合において、吐出口10a,10bは互いに軸線方向にずらして形成することが好ましい(図1参照)。このようにすることで、吐出口10a,10bが形成される箇所においても工具剛性を維持することができる。
なお、吐出口10aは各溝3a毎に少なくとも1つずつ、吐出口10bは各ランド6毎に少なくとも1つずつ形成されていればよく、それらの個数は任意に設定することができる。
【0022】
また、上記実施形態においては、刃先の再研磨を考慮して、刃部2の先端から3分の1程度まで従来通りのストレートの溝3aとし、それ以降を浅く形成して溝3bとしたが、これに限定されるものではなく、任意に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るガンリーマの要部を示す正面図である。
【図2】(a)は図1に示すガンリーマの左側面図であり、(b)は図1のX−X線断面拡大図、(c)は図1のY−Y線断面拡大図である。
【図3】図2(c)における切削油の流れを説明する図である。
【図4】図1のガンリーマの全体を示す正面図である。
【図5】(a)は従来のガンリーマの要部を示す正面図であり、(b)はその左側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ガンリーマ(リーマ)
2 刃部
3 溝
3a 先端側の溝
3b 後端側の溝
4 切れ刃
5 ヒール
6 ランド
7 マージン
8 ガイドパッド
9 油穴
10a 先端側の吐出口
10b 後端側の吐出口
h1 先端側の溝深さ
h2 後端側の溝深さ
t1 先端側の肉厚
t2 後端側の肉厚
O 軸線
r 工具回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される略棒状をなす工具本体と、
該工具本体の先端部に設けられた刃部と、
該刃部の外周部に先端側から後端側へ向け軸線方向に延びるように形成された溝と、
該溝の工具回転方向を向く壁面の外周側稜線部に形成された切れ刃と、
該切れ刃から前記刃部の外周面と前記溝とのつなぎとなるヒールまでの前記刃部の外周面に設けられたランドと、
該ランドに前記切れ刃と工具回転方向後方側に隣接して形成されたマージンと、
前記刃部の先端側における前記ランドに前記ヒールと隣接して形成されたガイドパッドと、
前記工具本体の中央部に軸線に沿って穿設された油穴とを有し、
前記刃部の後端側における前記溝の深さが、前記刃部の先端側における前記溝の深さよりも浅くなるように構成され、
前記刃部の後端側における前記ランドに開口して、前記油穴に連通する吐出口が形成されている
ことを特徴とするリーマ。
【請求項2】
前記刃部の先端側における前記溝に開口して、前記油穴に連通する吐出口が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のリーマ。
【請求項3】
前記切れ刃、前記マージン、前記ガイドパッドおよび前記溝が、周方向にほぼ等間隔で各3つずつ設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載のリーマ。
【請求項4】
前記吐出口が、互いに軸線方向にずらして形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のリーマ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−254107(P2008−254107A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97955(P2007−97955)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】