説明

ルテニウム錯体の製造方法

【課題】 光電変換素子用材料の原料として有用な特定の構造を有するルテニウム錯体を簡便且つ生産性良く製造できる方法の提供。
【解決手段】 4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと、塩化ルテニウム及び式(1):R−OH (1)(式中、Rはメチル基又はエチル基を表す。)で表されるアルコールを、85℃以上で反応させることを特徴とするルテニウム錯体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル基を有するルテニウム錯体の製造方法に関し、更に詳しくは、式(2):
【0002】
【化1】

(式中、Rはメチル基又はエチル基を示し、R、R及びRは水素原子又はRを示す。)で表されるルテニウム錯体(以下、ルテニウム錯体(2)という。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ルテニウム錯体(2)は、例えば色素増感型湿式太陽電池等の光電変換素子用材料、光学電子材料等の原料として有用である(例えば、非特許文献1〜4参照)。従来、ルテニウム錯体(2)の製造法としては、1)4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンとメタノール又はエタノールとをエステル化反応させ、対応する4,4’−ジアルキルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジンを得た後、得られた4,4’−ジアルキルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジンを塩化ルテニウムとエタノール溶媒中加熱還流させる方法(例えば、非特許文献1、2又は3参照)、2)塩化リチウム及び濃塩酸の存在下で、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと塩化ルテニウムとをエタノール溶媒中加熱還流させる方法(例えば、非特許文献4参照)が知られている。
【0004】
しかし、1)の製法は、二工程で行う必要があるので操作が煩雑となり、2)の製法は、反応剤以外に塩化リチウム及び濃塩酸が必要となり経済的に満足しうるものではなく、いずれの製法においても工業的に有利な方法とはいえない。また、2)の方法について、塩化リチウム及び濃塩酸を用いないで反応を行ったところ、目的とするルテニウム錯体(2)は少量しか生成しなかった(後述の比較例1参照)。
【非特許文献1】Chem.Mater.,9,430(1997)
【非特許文献2】Inorg.Chem.,41,6258(2002)
【非特許文献3】Chem.Mater.,13,1023(2001)
【非特許文献4】Inorganica Chimica Acta,263,395(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、塩化リチウム及び濃塩酸を必要とせず、一工程で収率よくルテニウム錯体(2)を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと、塩化ルテニウム及び式(1):
R−OH (1)
(式中、Rは前記に同じ。)で表されるアルコール(以下、アルコール(1)という。)を、85℃以上で反応させることを特徴とするルテニウム錯体(2)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塩化リチウム及び濃塩酸などの添加剤を使用することなく、一工程で収率よくルテニウム錯体(2)を製造することができるので、工業的利用価値大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)及び式(2)中、Rはメチル基又はエチル基を示す。式(2)中、R、R及びRは互いに同じか或いは異なって、水素原子又は前記のRを表す。
【0009】
本発明の製造方法を実施するには、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、塩化ルテニウム及びアルコール(1)を85℃以上で反応させればよい。このようにすれば錯体形成反応とエステル化反応が同時に進行し、容易にルテニウム錯体(2)を製造することができる。
【0010】
本発明の目的物質は次の化合物である。1)モノエステル体[式(2)中、R〜Rの全てが水素原子]、2)ジエステル体[式(2)中、R〜Rのいずれか二つが水素原子]、3)トリエステル体[式(2)中、R〜Rのいずれか一つが水素原子]及び4)テトラエステル体[式(2)中、R〜Rの全てがR]である。本発明の製造方法においては、一般に、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体及びテトラエステル体の混合物として得られるが、エステル化の度合いに応じていずれかの目的物質が主生成物となり得る。エステル化の度合いはアルコール(1)の種類、原料モル比、反応温度、反応時間などによって影響される。
【0011】
ルテニウム錯体(2)の具体例として、モノエステル体としては、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−メチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−エチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、ジエステル体としては、シス−ジクロロ−(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−メチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−エチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、トリエステル体としては、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−メチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−エチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、テトラエステル体としては、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)が挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法において、塩化ルテニウムは、特別な精製をする必要はなく、市販されているものをそのまま用いることができる。塩化ルテニウムは、一般に水和物として市販されており、本発明方法においても水和物が好んで用いられる。
【0013】
4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの使用量は、塩化ルテニウム中のルテニウム原子1モルに対して、通常1.7モル以上、好ましくは1.8〜3.0モル、特に好ましくは1.9〜2.1モルである。
【0014】
本発明の製造方法において、アルコール(1)はエステル化剤及び溶媒として用いられる。具体的には、メタノール又はエタノールである。
【0015】
アルコール(1)は、単独で使用すればよいが、メタノール及びエタノールを混合しても使用することができる。また、反応を阻害しなければ、アルコール(1)以外の有機溶媒を共存させて反応を行うこともできる。
【0016】
アルコール(1)の使用量は、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン1重量部に対して通常5〜100重量部であり、好ましくは10〜60重量部である。アルコール(1)の使用量が多過ぎると、経済的に不利になるので好ましくない。
【0017】
反応温度は通常85℃以上、好ましくは95〜160℃である。反応温度が85℃未満では、錯体形成がほとんど進行せず、ルテニウム錯体(2)の収率が極めて低くなる。
【0018】
本発明方法では、反応を85℃以上で行うため、一般に耐圧反応器を使用する。原料の混合順序は特に限定されないが、一般に耐圧反応器を用いるため、通常塩化ルテニウム、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン及びアルコール(1)を同時に反応器に仕込む。
【0019】
本発明の製造方法は、遮光下で反応を行うのが好ましい。遮光せずに反応を行うと、トランス配座の錯体が副生する。遮光方法については、蛍光灯、太陽等の光が反応器内の反応混合物に照射されなければ、特に限定されない。また、通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0020】
反応終了後、反応混合物から濾過、濃縮、抽出、洗浄等の所望の分離操作を行うことでルテニウム錯体(2)を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。また、エステル化率はH−NMR分析の積分曲線から下記の式を用いて算出した。
【0022】
【数1】

【0023】
実施例1
アルミホイルで被覆して遮光された300mlガラス製オートクレーブに、塩化ルテニウム(III)水和物(ヘレウス株式会社製;ルテニウム含量40.70%)3.97g(16.0mmol)、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン7.62g(31.2mmol)及びエタノール(沸点78℃)76.4gを仕込み、窒素置換した後、反応温度110℃で12時間反応した。反応終了後、反応混合物を室温で濾過し、濾残をメタノールで洗浄し、乾燥することで、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を主成分とするルテニウム錯体(2)10.65g(黒緑色結晶、エステル化率90%、収率89.7%)を得た。また、濾洗液を濃縮し、濃縮残を7.3%塩酸42.3gで洗浄後、乾燥することで、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.95g(黒緑色結晶、エステル化率100%、収率7.9%)を得た。
【0024】
比較例1
アルミホイルで被覆して遮光された100mlガラス反応器に塩化ルテニウム(III)水和物(ヘレウス株式会社製;ルテニウム含量40.70%)0.50g(2.0mmol)、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン0.95g(3.9mmol)及びエタノール(沸点78℃)9.65gを仕込み、還流下(反応温度77℃)で12時間反応した。反応終了後、反応混合物を65℃で濾過し、濾残をエタノールで洗浄した。濾洗液を濃縮することで、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.12g(黒緑色結晶、エステル化率100%、収率8.0%)を得た。また、濾残を乾燥することで、灰色固体1.39gを得たが、この中にはルテニウム錯体(2)は含まれていなかった。
【0025】
実施例2
アルミホイルで被覆して遮光された300mlガラス製オートクレーブに、塩化ルテニウム(III)水和物(ヘレウス株式会社製;ルテニウム含量40.70%)0.99g(4.0mmol)、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン1.91g(7.8mmol)及びメタノール(沸点64℃)95.3gを仕込み、窒素置換した後、反応温度110℃で12時間反応した。反応終了後、反応混合物を室温で濾過し、濾残をメタノールで洗浄し、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)2.00g(黒緑色結晶、エステル化率100%、収率71.6%)を得た。また、濾洗液を濃縮し、濃縮残を7.3%塩酸26.8gで洗浄後、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.52g(黒緑色結晶、エステル化率100%、収率18.6%)を得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと、塩化ルテニウム及び式(1):
R−OH (1)
(式中、Rはメチル基又はエチル基を表す。)で表されるアルコールを、85℃以上で反応させることを特徴とする式(2):
【化1】

(式中、R、R及びRは水素原子又はRを表す。Rは前記に同じ。)で表されるルテニウム錯体の製造方法。
【請求項2】
反応温度が95℃〜160℃である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−31390(P2007−31390A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219840(P2005−219840)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】