説明

ルテニウム錯体を用いる1,2−ジオールの開裂反応

【課題】二重結合に隣接した1,2−ジオールの炭素-炭素結合を選択的に開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を生産する反応を提供する。
【解決手段】ルテニウム錯体を用いる、以下の一般式で表される反応が提供される。


ここで、原料1は分子量100から7000の化合物であり、R、Rは単独に水素原子または低級アルキル基を表す。RとRは互いに直接結合して炭素−炭素の二重結合を形成していても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルテニウム錯体を用いて1,2−ジオールを選択的に開裂する新規な反応に関する。本発明の1,2−ジオールを開裂する方法は二重結合に隣接した1,2−ジオールに特有の反応であり天然物有機化学の分野でしばしば遭遇するポリエンアルコール構造を有する化合物の構造解析・決定において有用である。また、各種ポリマー製造過程で問題となるアリルジオール構造を有する不純物の除去に効果があると期待される。
【背景技術】
【0002】
1,2−ジオールの開裂反応は、炭素−炭素結合が切断され、対応するアルデヒドまたはケトンを得る有用な反応である。過ヨウ素酸(Malaprade酸化開裂,非特許文献1、2)または四酢酸鉛IV(Creigee法,非特許文献3、4)を用いた例が多く報告されているが、用いる酸化剤の毒性と多量の廃棄物精製が問題点である。また、過ヨウ素酸法ではジオールの立体配置がシスに限定され、トランス体には応用できない。一方、ルテニウム錯体は白金に少量添加してその硬度を増すことによりペン先等に用いるほか、触媒として広く用いられている。特に、第二世代Grubbs触媒(Grubbs II)はオレフィンメタセシス反応の安定な触媒としてよく知られているが、アリル1,2−ジオールもしくはジアリル1,2−ジオールの開裂反応が選択的に起こることはこれまでに全く報告されていない(非特許文献5〜8)。
【0003】
ところで、天然物有機化学の分野ではしばしばポリエンアルコール構造を有する化合物に遭遇する。この構造解析・決定においては選択的な炭素−炭素結合の切断反応が不可欠であり、前述の過ヨウ素酸、四酢酸鉛IVなどが用いられているが、必ずしも満足できる選択性などの特性を持つ方法が得られるとは限らないという問題があった。また、各種ポリマー製造過程で問題となるアリルジオール構造を有する不純物の除去には種々の工夫がされているが、より改善された手段の開発が望まれている。
【0004】
【非特許文献1】Bull. Soc. Chim. France [4] 43, 683 (1928);Compt. Restd. 186, 382 (1928)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 59, 2049(1937)
【非特許文献3】Chem. Ber. 64, 260 (1931)
【非特許文献4】Tetrahedron: Asymmetry. 8, 451 (1997).
【非特許文献5】J. Molecular Catalysis A: Chemical 254, 93 (2006).
【非特許文献6】J. Org. Chem. 72, 5025 (2007).
【非特許文献7】Tetrahedron Letters 49, 3363 (2008).
【非特許文献8】Organic Letters 1, 713 (1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の背景の下、ルテニウム錯体を用いることにより二重結合に隣接した1,2−ジオールの炭素(1)−炭素(2)結合を選択的に開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を生産する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ルテニウム錯体の1つである第2世代Grubbs触媒を種々のモデル化合物と室温で反応させると2重結合に隣接した1,2−ジオールの炭素(1)−炭素(2)結合を開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物が得られることを見出し、以下の本発明を完成した。
【0007】
[1] ルテニウム錯体を用いて1,2−ジオールの炭素(1)−炭素(2)結合を開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を得る、以下の一般式に示される方法。
【化3】

【0008】
ここで、原料(1)は図に示した構造を分子内に包含する分子量100から7000の化合物であり、R、Rは単独に水素原子または低級アルキル基を表す。R〜R、R〜R10は原料(1)の化合物を構成する化学種を表し、2つ以上が互いに結合し環状となっていても良い。また、RとRは互いに直接結合して炭素−炭素の二重結合を形成していても良い。
【0009】
[2] [1]に記載のルテニウム錯体が第2世代Grubbs触媒である、以下の一般式に示される2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を得る方法。
【化4】

【0010】
ここで、原料(1)は図に示した構造を分子内に包含する分子量100から7000の化合物であり、R、Rは単独に水素原子または低級アルキル基を表す。R〜R、R〜R10は原料(1)の化合物を構成する化学種を表し、2つ以上が互いに結合し環状となっていても良い。また、RとRは互いに直接結合して炭素−炭素の二重結合を形成していても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の1,2−ジオールを開裂する方法は以下の一般式で表される。
【化5】

【0012】
ここで、原料(1)は図に示した構造を分子内に包含する分子量100から7000の化合物であり、R、Rは単独に水素原子または低級アルキル基を表す。R〜R、R〜R10は原料(1)の化合物を構成する化学種を表し、2つ以上が互いに結合し環状となっていても良い。また、RとRは互いに直接結合して炭素−炭素の二重結合を形成していても良い。具体的には、例えばR=R=R=R=R=R10=H、R=R=Ph、かつR、Rが互いに結合して2重結合を形成している化合物(4)、R=R=R=R=R=R=R=R10=H、R=R=Phである化合物(5)、渦鞭毛藻から単離されたシンビオジノライド(6、Symbiodinolide)を挙げることができる。各例示化合物の構造を列挙する。
【化6】

【0013】
【化7】

【0014】
【化8】

【0015】
この方法にかかる反応は列挙した化合物のように炭素−炭素の二重結合に隣接した1,2−ジオールに対して選択的に進行する点が特徴である。従って、以下に示すようなジアルキル1,2−ジオール(7)では反応は起こらない。
【化9】

【0016】
低級アルキル基とは、炭素数1から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基を意味し、その具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基を挙げることができ、シクロアルキル基としてはシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
本発明のルテニウム錯体としては、例えば第二世代Grubbs触媒(Grubbs II)として知られるBenzylidene[1,3-bis(2,4,6-trimethylphenyl)- 2-imidazolidinylidene]dichloro(tricyclohexylphosphine)rutheniumや、第2世代Hoveyda-Grubbs触媒(Hoveyda-Grubbs II)として知られる(1,3-Bis-(2,4,6-trimethylphenyl)-2-imidazolidinylidene)dichloro(o-isopropoxyphenylmethylene)ruthenium等を挙げることができる。その構造を以下に示す。
【化10】

【0017】
尚、ルテニウム錯体はこれらに特に限定されるものではなく、多座配位のルテニウム錯体であれば同様に用いることができる。用いる溶媒は特に限定されるものではなく、原料およびルテニウム錯体が十分溶解する通常の有機溶媒であれば何でも用いることができる。
本発明の方法にかかる反応は単に特定の構造を持つ化合物を選択的に開裂し、または開裂により生成するアルデヒドもしくはケトン化合物を得ることを目的とするのみならず、その生成物の構造を解析することにより原料化合物の構造を知ることを目的として利用することができる。例えば、上述のシンビオジノライド(6)は分子量が2860であり、NMRシグナルは1Hも13Cも重複して非常に複雑である。そのため立体構造決定の重要な情報である結合定数を読み取ることができずスペクトルデータのみから立体構造を決定することができなかったところ、本発明の反応により、炭素−炭素の二重結合に隣接した1,2−ジオール構造に相当する13位と14位の間で開裂した。同時に進行したメタノリシスの結果、1位から13位に該当するアルデヒド化合物(8)を得た。分子量が302である、このアルデヒド化合物のNMRスペクトルを詳細に解析してシビオジノライドの3位から7位までの絶対立体構造を決定することができた。ここで選択性のない方法(反応)を使用すると全ての1,2−ジオールの位置で開裂して生成物が非常に複雑な混合物となってしまい、立体構造解析は不能となる。天然物有機化学の分野ではこのような例に少なからず遭遇するので、本発明の反応は効力を遺憾なく発揮することになる。
【0018】
本発明の別の局面は、ポリマー製造時にアリルジオール構造を有する不純物を分解除去する方法を提供する。これまでの方法では必ずしも十分でなかった除去方法の効率性が、本反応により不純物の化学的特性を変化させることで大幅に改善すると期待される。
【実施例】
【0019】
1.ジアリル1,2−ジオールの開裂反応
R、Rが互いに結合して2重結合を形成している場合のモデル化合物としてR=R=R=R=R=R10=H、R=R=Phである化合物(4)をエチレン雰囲気下、第2世代Grubbs触媒で処理し、該当するアルデヒド化合物(9)を得た。
【化11】

【0020】
モデル化合物−Hydrocinnamoin(4、1,6-Diphenyl-1,5-hexadiene-3,4-diol)は、コネティカット州ウォーターバリのプファルツ&バウエル社(Pfaltz& Bauer, Inc., Waterbury, CT)、また、試薬の二世代Grubbs触媒{Benzylidene[1,3-bis(2,4,6-trimethylphenyl)- 2-imidazolidinylidene]dichloro(tricyclohexylphosphine)ruthenium}}は、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社(Sigma-Aldrich Inc., Japan)から入手した。
原料のhydrocinnamion(4、1.5 mg、5.6 μmol)を5 mlナス型フラスコ(三方コック付き)に入れ、真空ポンプに連結し、1 時間をかけて乾燥した。次に、無水メタノール0.3 ml を加えてHydrocinnamionを溶かし、Grubbs II触媒(5.0 mg、5.8 μmol)を無水ピリジン0.1 mlに溶解した溶液を加えた。このナスフラスコを液体窒素に浸し、溶媒を凍結させた。同ナスフラスコを液体窒素浴から出し、三方コックを真空ポンプ側に開き、室温で凍結溶媒の溶解に従って十分に脱気した(凍結脱気法。この操作を3回繰り返した)。三方コックを他方に接続したエチレンガス(エチレン風船)側に開いて容器内をエチレン雰囲気下とし、室温で4時間攪拌した後、反応液を減圧下に濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル0.5 g、ヘキサン/アセトン=2/1)と高速液体クロマトグラフィー(Develosil ODS-HG-5, O10×250 mm、60%から100%水−MeOH(20分間))により精製して、Benzenepropenal(9)を0.7 mg(収率94%)得た。
【0021】
2.モノアリル1,2−ジオールの開裂反応
R、Rが互いに結合して2重結合を形成していない場合のモデル化合物としてR=R=R=R=R=R=R=R10=H、R=R=Phである化合物(5)をエチレン雰囲気下、第2世代Grubbs触媒で処理し、該当する2種のアルデヒド化合物(9、10)を得た。
【化12】

【0022】
[1]モノアリル1,2−ジオールの合成
以下の接触水素化反応によって1.で用いたhydrocinnamionからモノアリル化合物(5、1,6-Diphenyl-1-hexene-3,4-diol)を合成した。
【0023】
市販品のhydrocinnamion(4、5.0 mg、18.8 μmol)をメタノール1 mlに溶解した中に8% Rh/カーボン粉末(日本エンゲルハルド社製)0.4 mgを加え、水素雰囲気下(水素風船)で50分間攪拌した。反応液をコスモナイスフィルター(0.45 μm、日本ミリポア社製)で吸引ろ過し、濾液と洗液をあわせて減圧濃縮した。残渣を高速液体クロマトグラフィー(Develosil ODS-HG-5, 内径10×250 mm、60% 水−MeCN)で精製し、モノアリル化合物(5)1.7 mg(収率34%)を得た。
【0024】
[2]モノアリル1,2−ジオールの開裂反応
[1]で得たモノアリル1,2−ジオール(5、1.6 mg、6.0 μmol)を入れた5 mlナス型フラスコ(三方コック付き)を真空ポンプに連結し、1 時間かけて乾燥した。次に、無水メタノール0.3 mlを加えて溶解し、Grubbs II触媒2当量(10.5 mg、12.3 μmol)を含む無水ピリジン溶液0.1 mlを加えた。このナスフラスコを液体窒素に浸し、溶媒を凍結させ、液体窒素浴から出した容器の三方コックを真空ポンプ側に開き、室温で凍結溶媒の溶解に従って十分に脱気した(この操作を3回繰り返した)。三方コックを他方に接続したエチレンガス(エチレン風船)側に開いて容器内をエチレン雰囲気下とし室温で4時間攪拌した後、反応液を減圧下に濃縮した。これを反応混合物の状態で1H NMRスペクトルを測定したところ、ピークに対応する積分曲線の高さの比から計算して、原料(5)と生成物(9と10)がほぼ1:1:1の割合で存在した。図1に重メタノール中で測定した1H NMRスペクトルを、図2に重クロロホルム中で測定した1H NMRスペクトルを示す。すなわち、図1では原料のシグナル(6.33 ppmに二重結合のジオール側のプロトン1個分、6.60 ppmに二重結合のフェニル側のプロトン1個分)と生成物(9)のシグナル(6.75 ppmに二重結合のアルデヒド側のプロトン1個分、9.66 ppmにアルデヒドプロトン1個分)がプロトン1個分に付き約1:1の積分値で観測され、図2では生成物(9)のシグナル(9.66 ppmにアルデヒドプロトン1個分)と生成物(10)のシグナル(9.77 ppmにアルデヒドプロトン1個分)がプロトン1個分に付き約1:1の積分値で観測された。
【0025】
3.シンビオジノライドの開裂反応
天然有機化合物の構造決定に本反応を利用する例として、渦鞭毛藻から得られたシンビオジノライド(6)をエチレン雰囲気下、第2世代Grubbs触媒で処理し、該当する構造の位置で開裂したフラグメント(8)が得られた。
【化13】

【0026】
シンビオジノライド(6、4.4 mg、1.5 μmol)を入れた10 mlナス型フラスコ(三方コック付き)を真空ポンプに連結し、1 時間をかけて乾燥した。次に、無水メタノール3.6 mlを加えてシンビオジノライドを溶解し、トリエチルアミン1.1 mlを加えた。三方コックをアルゴンガス(アルゴン風船)側に開き、容器内をアルゴン雰囲気下とし、室温で46時間攪拌した。次に反応液を減圧下に濃縮した。この加メタノール分解(メタノリシス)により、シンビオジノライドの62員環ラクトンを開環し、メトキシエステル(開環型)シンビオジノライド(収率100%)を得た。
上述の開環型シンビオジノライド(2.3 mg、0.8 μmol)を入れた5 mlナス型フラスコ(三方コック付き)を真空ポンプに連結し、1 時間をかけて乾燥した。次に、無水メタノール0.3 mlを加えてシンビオジノライドを溶解し、Grubbs II触媒(0.9 mg、1.0 μmol)を含む無水ピリジン溶液0.1 mlを加えた。このナスフラスコを液体窒素に浸し、溶媒を凍結させ、液体窒素浴から出した容器の三方コックを真空ポンプ側に開き、室温で凍結溶媒の溶解に従って十分に脱気した(この操作は3回繰り返した)。三方コックをエチレンガス(エチレン風船)側に開き、容器内をエチレン雰囲気下とし、室温で2時間攪拌した後、エチル ビニル エーテル(Ethyl Vinyl Ether、東京化成工業社製)0.1 mlを加え、1時間攪拌した。次いで反応液を減圧下に濃縮した。高速液体クロマトグラフィー{Develosil ODS-HG-5, (内径10×250 mm)、グラジェント、20−50(30 min)−100%(10 min) aq. MeOH}により精製して、フラグメントC1-C13 (8)を0.2 mg(収率72%)と、フラグメントC14-C25’を0.6 mg(収率28%)得た。
【0027】
4.ジアルキル1,2−ジオールの開裂反応
1,2−ジオールが二重結合に隣接していない場合のモデル化合物としてジアルキル1,2−ジオール化合物(7)をエチレン雰囲気下、第2世代Grubbs触媒で処理してみたが、開裂反応生成物に該当するアルデヒド化合物は得られなかった。
【化14】

【0028】
[1]ジアルキル1,2−ジオールの合成
以下の接触水素化反応によって1.で用いたジアリル化合物hydrocinnamion(4)からジアルキル1,2−ジオール(7、1,6-Diphenyl-3,4-hexanediol)を合成した。
Hydrocinnamion(4、5.1 mg、19.0 μmol)をメタノール1 mlに溶解した中に30%Rh/カーボン粉末(5 wt %、日本エンゲルハルド社製)1.5 mgを加え、水素雰囲気下で(水素風船)50分間攪拌した。反応液をコスモナイスフィルター(0.45 μm、日本ミリポア社製)で吸引ろ過し、濾液と洗液をあわせ減圧濃縮した。ジアルキル化合物(7)5.0 mg(収率97%)を得た。
【0029】
[2]ジアルキル1,2−ジオールの開裂反応
[1]で得たジアルキル1,2−ジオール(7、1.45 mg、5.4 μmol)を入れた5 mlナス型フラスコ(三方コック付き)を真空ポンプに連結し、1 時間をかけて乾燥した。次に、無水メタノール0.3 mlを加え、ジアルキル化合物を溶解し、Grubbs II触媒(5.0 mg、5.89 μmol)を含む無水ピリジン溶液0.1 mlを加えた。このナスフラスコを液体窒素に浸し、溶媒を凍結させ、液体窒素浴から出したナスフラスコの三方コックを真空ポンプ側に開き、室温で凍結溶媒の溶解に従って十分に脱気した(この操作を3回繰り返した)。三方コックをエチレンガス(エチレン風船)側に開いて容器内をエチレン雰囲気下とし、室温で24時間攪拌した後、反応液を減圧下に濃縮して1H NMRを測定・分析したが、開裂反応生成物に相当するアルデヒド(benzenepropanal)のシグナルは観測されなかった。従って、この反応はジアルキル1,2−ジオールに対しては起こらないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の反応は、二重結合に隣接した1,2−ジオールの炭素(1)−炭素(2)結合を選択的に開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を生産する反応を提供するものであり、有機合成化学のほか、天然物有機化学におけるポリエンアルコール構造を持つ化合物の構造解析に有用である。また、各種ポリマー製造過程で問題となるアリルジオール構造を有する不純物の除去に効果があると期待される。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】モノアリル1,2−ジオール(5)をエチレン雰囲気下,第2世代Grubbs 触媒で処理した反応生成物の1H NMRスペクトル(CD3OD、600 MHz)。
【図2】モノアリル1,2−ジオール(5)をエチレン雰囲気下,第2世代Grubbs 触媒で処理した反応生成物の1H NMRスペクトル(CDCl3、600 MHz)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式、
【化1】

で示され、上記式中、原料(1)は図に示した構造を分子内に包含する分子量100から7000の化合物であり、R、Rは単独に水素原子または低級アルキル基を表し、R〜RおよびR〜R10は原料(1)の化合物を構成する化学種を表し、R〜RおよびR〜R10は2つ以上が互いに結合し環状となっていても良く、RとRは互いに直接結合して炭素−炭素の二重結合を形成していても良い、ルテニウム錯体を用いて1,2−ジオールの炭素(1)−炭素(2)結合を開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のルテニウム錯体が第2世代Grubbs触媒である、以下の一般式、
【化2】

で示され、上記式中、原料(1)は図に示した構造を分子内に包含する分子量100から7000の化合物であり、R、Rは単独に水素原子または低級アルキル基を表し、R〜RおよびR〜R10は原料(1)の化合物を構成する化学種を表し、R〜RおよびR〜R10は2つ以上が互いに結合し環状となっていても良く、RとRは互いに直接結合して炭素−炭素の二重結合を形成していても良い、1,2−ジオールの炭素(1)−炭素(2)結合を開裂し、2種のアルデヒド化合物またはケトン化合物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53072(P2010−53072A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219516(P2008−219516)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(501081845)
【Fターム(参考)】