説明

ループ型ヒートパイプおよび電子機器

【課題】トップヒート等の状態で、作動流体の循環を、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができるループ型ヒートパイプ、および、そのようなループ型ヒートパイプを搭載した電子機器を提供する。
【解決手段】蒸発部110と凝縮器120とを連結する蒸気管130、及び、凝縮器120と蒸発部110とを連結する液管140がループ状に連結され、液管140の内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプ100において、作動流体の循環を制御する制御部190を有し、この制御部190が、上記の循環を開始させる起動時に、液管140と蒸発部110とを繋ぐリザーバタンク150内の作動流体をペルチェ素子160を使って冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンピュータ等の電子機器内の発熱素子を冷却するために用いられるループ型ヒートパイプ、および、そのようなヒートパイプを搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発熱した物体を冷却する冷却方法としては、単純な空冷や水冷等による冷却方法や、ペルチェ素子を使った電気的な冷却方法(例えば、特許文献1参照)等の様々な冷却方法が知られている。このような冷却方法の中に、いわゆるヒートパイプを使った冷却方法がある(例えば、特許文献2参照)。ヒートパイプは、内部に封入した作動流体の相変化を利用して熱を輸送する伝熱装置であり、コンピュータ等の電子機器内の発熱素子を冷却するために広く用いられている。
【0003】
このヒートパイプの一種として、外部からの熱を受熱し液相の作動流体を蒸発させて蒸気相の作動流体に相変化させる蒸発器と、放熱により、蒸気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮器と、蒸発器と凝縮器との間で作動流体を循環させる管とを備えたループ型ヒートパイプが知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、および特許文献5参照)。このループ型ヒートパイプは、主として人工衛星や宇宙ステーションなどの熱輸送装置として開発が進められている。
【0004】
図11は、従来のループ型ヒートパイプの一例を示す概略構成図である。
【0005】
図11には、外部からの熱を受熱し液相の作動流体を蒸発させて蒸気相の作動流体に相変化させる蒸発部10と、放熱により、蒸気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮器20と、蒸発部10と凝縮器20との間で作動流体を循環させる管30とを備えたループ型ヒートパイプ1が示されている。
【0006】
このループ型ヒートパイプ1の蒸発部10には円筒形の蒸発器11が備えられており、その蒸発器11の内壁には軸方向に延びた溝形状の複数の蒸気通路13が形成されている。そして、この蒸気通路13の先端部に接するように多孔質の円筒形のウィック12が挿入されている。
【0007】
管30からウィック12内に送り込まれた液相の作動流体はウィック12の内壁の微細な孔からウィック12外へと浸透して蒸気通路13に到る。このとき、蒸発器11が発熱素子によって加熱されると、ウィック12内から蒸気通路13に到った液相の作動流体が蒸発して蒸気相の作動流体が発生する。この蒸発器11内における相変化に発熱素子の熱が使われるので、この発熱素子が冷却されることとなる。冷却によって生じた蒸気相の作動流体は、凝縮器20に向かい、この凝縮器20で冷却されて液相の作動流体に変化する。このような作動流体の循環が繰り返されることで、発熱素子の冷却が連続して行われる。
【0008】
ここで、この図11に示すループ型ヒートパイプ1に限らず、一般に、ループ型ヒートパイプは、図11に示すように、蒸発器が凝縮器よりも低い位置にあり、その状態で蒸発器が加熱されるボトムヒートという状態で使用されることが前提となっている。これは、冷却対象の発熱素子によって蒸発器が加熱されて作動流体の循環が開始されるためには、この開始の時点で、ウィック内から蒸気通路に液相の作動流体が至っており、加熱によってこの液相の作動流体が蒸発する必要があるためである。仮に、ループ型ヒートパイプを、図11とは上下が逆のトップヒートという状態で使用すると、作動流体の循環の開始時点には、重力によって作動流体が凝縮器側に偏った状態となっているので、この時点で加熱によって蒸発すべき液相の作動流体が存在しないドライアウトという状態となり、作動流体の循環が開始しないという不具合が生じてしまう。また、ループ型ヒートパイプを水平に配置した状態で使用した場合にも、作動流体の循環の開始時点に、蒸発器に、この開始に十分な液相の作動流体が存在している保証がなく、ドライアウトとなって作動流体の循環が開始しないという不具合が生じるおそれがある。
【0009】
しかしながら、電子機器内における実装上の制約等から、ループ型ヒートパイプを、トップヒートで使用される状態や水平に配置した状態で電子機器に搭載せざるを得ない場合もあり、トップヒート等の状態でも作動流体の循環を開始することができるループ型ヒートパイプが望まれている。
【0010】
そこで、トップヒート等の状態における作動流体の循環の開始を可能とするために、例えば、作動流体の循環の開始時点に、凝縮器側に偏っている液相の作動流体を強制的に加熱し、その加熱よって生じる蒸気圧によって、凝縮器側に偏っている液相の作動流体を蒸発器にまで押し上げることでドライアウトを解消するという技術が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0011】
図12は、凝縮器側に偏っている液相の作動流体に対する強制的な加熱によってトップヒート等の状態におけるドライアウトを解消する技術の一例を模式的に示す図である。
【0012】
この図12に示すループ型ヒートパイプ2は、放熱フィン41を有する凝縮器40と、冷却対象の発熱素子50に接する蒸発部60と、蒸発部60で生じた蒸気相の作動流体を凝縮器40まで案内する蒸気管70と、凝縮器40で生じた液相の作動流体を蒸発部60まで案内する液管80と、凝縮器40側に偏っている液相の作動流体に対する強制的な加熱を行う加熱部90とを備えている。加熱部90は、凝縮器40の近傍で蒸気管70に取り付けられたヒータ91と、ヒータ91に電力を供給する電源92と、電源92からヒータ91に至る回路上に設けられたスイッチ93と、発熱素子50が動作を開始してから所定時間に亘ってスイッチ93をON状態にする制御装置94と備えている。また、この蒸気管70内には、ヒータ91の、蒸発部60側の近傍に、多孔質のフィルタ95が取り付けられている。
【0013】
このループ型ヒートパイプ2が、例えば、図12に示すようにトップヒートで使用されると、作動流体の循環の開始時点には液相の作動流体が凝縮器40側に偏っている。このとき、発熱素子50が動作を開始して発熱を始めると、制御装置94がスイッチ93をON状態にし、ヒータ91が、そのヒータ91が取り付けられている部分の蒸気管70内にある液相の作動流体を加熱して、この液相の作動流体が蒸発する。この蒸発によって生じた蒸気相の作動流体は、フィルタ95によって遮られて、蒸気管70内を逆流することなく、液管80側に向かう。その結果、液相の作動流体を液管80側に押し上げる圧力が生じ、この圧力によって液相の作動流体が蒸発部60まで押し上げられる。これにより、蒸発部60におけるドライアウトが解消され、作動流体の循環が開始されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10−244251号公報
【特許文献2】特開平11−201669号公報
【特許文献3】米国特許第4765396号明細書
【特許文献4】特開2002−174492号公報
【特許文献5】特開2003−148882号公報
【特許文献6】特開2002−340489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ここで、上記の図12に一例を示す技術では、強制的な加熱によって生じた蒸気相の作動流体が、蒸気管内を逆流しないようにするために、図12に示すようなフィルタが必要となる。しかしながら、このようなフィルタは、作動流体が正常に循環しているときには、この正常な循環を妨げる抵抗となってしまう。例えば、冷却対象の発熱素子での発熱が低下したとき等には、蒸発器で発生する蒸気相の作動流体の量が減少するので、凝縮器から液相の作動流体を蒸発器に押し上げる力が減少する。このとき、上記のようなフィルタは、このただでさえ少ない力を更に減少させてしまい、結果的に、液相の作動流体を蒸発器に押し上げる力が許容以上に減少し、循環中にドライアウトが生じて循環が停止してしまうおそれがある。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑み、トップヒート等の状態で、作動流体の循環を、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができるループ型ヒートパイプ、および、そのようなループ型ヒートパイプを搭載した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するループ型ヒートパイプのうちの第1のループ型ヒートパイプの基本形態は、
蒸発器と凝縮器とを連結する蒸気管、及び、上記凝縮器と上記蒸発器とを連結する液管がループ状に連結され、上記液管の内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプであって、
上記作動流体の循環を制御する制御手段を有し、
上記制御手段が、上記循環を開始させる起動時に、上記液管内の作動流体を冷却する手段を有する
ことを特徴とする。
【0018】
この第1のループ型ヒートパイプの基本形態によれば、上記循環を開始させる起動時に、上記液管内の作動流体が冷却される。ここで、一般に、ループ型ヒートパイプの内部は飽和蒸気圧に保たれている。そのため、このループ型ヒートパイプがトップヒート等の状態で使用され、上記の起動時に液相の作動流体が上記凝縮器側に偏っており、蒸発器に液相の作動流体を案内する液管内のほとんどが蒸気相の作動流体で占められドライアウトとなっていたとしても、上記の冷却により、上記液管内の蒸気相の作動流体の温度が、例えば上記蒸気管等の他の部分内の作動流体の温度よりも低温状態となると、液管内で凝結作用が起きて液相の作動流体が発生することとなる。そして、この冷却によって発生した液相の作動流体によって上記のドライアウトが解消され、作動流体の循環が開始されることとなる。また、この基本形態によれば、ドライアウトの解消が、上記液管内の作動流体に対する冷却で行われるので、例えばフィルタ等といった、循環開始後にその循環を妨げるような特別の要素が不要である。つまり、この第1のループ型ヒートパイプの基本形態によれば、トップヒート等の状態で、作動流体の循環を、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができる。
【0019】
また、上記目的を達成するループ型ヒートパイプのうちの第2のループ型ヒートパイプの基本形態は、
蒸発器、凝縮器、上記蒸発器と上記凝縮器とを連結する蒸気管、及び、上記凝縮器と上記蒸発器とを連結する液管がループ状に連結され、内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプであって、
上記蒸気管と上記液管との温度差を検出する第1の温度差検出手段と、
上記温度差が予め定められた所定の第1の値よりも小さい場合に、上記蒸気管の温度を上昇させるとともに上記液管の温度を下降させる調整手段と
を有することを特徴とする。
【0020】
一般に、ループ型ヒートパイプにおいてドライアウトが発生し、蒸気管内と液管内との双方が蒸気相の作動流体で占められているときには、これら蒸気管と液管とは互いにほぼ同じ温度となる。つまり、蒸気管と液管との間にある程度以上の温度差がある場合にはドライアウトは発生していない可能性が高く、逆に、この温度差が異常に小さい場合にはドライアウトが発生している可能性が高い。ここで、上記第1の値は、ドライアウトが発生していない状態における蒸気管と液管との温度差の下限値として予め定められる値である。この第2のループ型ヒートパイプの基本形態によれば、上記蒸気管と上記液管との温度差がこの第1の値よりも小さく、ドライアウトの発生が想定される場合に、上記蒸気管の温度が上昇されるとともに上記液管の温度が下降される。これにより、ドライアウトによって液管内のほとんどを占める蒸気相の作動流体の温度が、上記蒸気管内の作動流体の温度よりも低温状態となり、液管内で凝結作用が起きて液相の作動流体が発生することとなる。そして、この液相の作動流体によって上記のドライアウトが解消され、作動流体の循環が開始されることとなる。また、この基本形態によれば、ドライアウトの解消が、上記蒸気管の温度の上昇と上記液管の温度の下降とで行われるので、例えば上述のフィルタ等といった、循環開始後にその循環を妨げるような特別の要素が不要である。つまり、この第2のループ型ヒートパイプの基本形態によれば、トップヒート等の状態で、作動流体の循環を、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができる。
【0021】
また、上記の第2のループ型ヒートパイプの基本形態に対し、
「上記調整手段が、上記蒸気管と上記液管の間に配置されたペルチェ素子を含む機構である」という応用形態は好適であり、この好適な応用形態に対し、
「上記ペルチェ素子の一方の面が上記蒸気管の表面と接触し、且つ、上記ペルチェ素子の他方の面が上記液管の表面と接触する」という応用形態は更に好適である。
【0022】
これらの応用形態によれば、上記ペルチェ素子によって上記液管の温度を容易に下降させることができ、上記の更に好適な応用形態によれば、上記ペルチェ素子によって、上記液管の温度の下降と上記蒸気管の温度の上昇とを同時に行うことができる。
【0023】
また、上記の第2のループ型ヒートパイプの基本形態に対し、
「上記第1の温度差検出手段は、上記蒸気管の温度と上記液管の温度との双方を検出してこれら2つの温度の差を求めることにより、上記温度差を間接的に検出する手段である」という応用形態も好適である。
【0024】
この好適な応用形態によれば、上記温度差を簡単に検出することができる。
【0025】
また、上記の第2のループ型ヒートパイプの基本形態に対し、
「上記蒸発器は、電力の供給を受けて発熱する発熱素子によって加熱されるものであり、
上記調整手段は、上記発熱素子に電力が供給された時点で、上記温度差が上記第1の値よりも小さい場合に、上記蒸気管の温度を上昇させるとともに上記液管の温度を下降させるものである」という応用形態も好適である。
【0026】
上記ループ型ヒートパイプがトップヒート等の状態で使用されるときには、上記発熱素子に電力が供給されて作動流体が開始される時点でドライアウトが発生している可能性が高い。上記の好ましい応用形態によれば、この時点におけるドライアウトが効果的に解消されるので効率的である。
【0027】
また、この好適な応用形態に対し、
「上記液管と上記凝縮器との温度差を検出する第2の温度差検出手段をさらに有し、
上記調整手段は、上記発熱素子に電力が供給された時点で、上記蒸気管と上記液管との温度差が上記第1の値よりも小さい場合であって、さらに、その液管と上記凝縮器との温度差が所定の第2の値よりも小さい場合に、上記蒸気管の温度を上昇させるとともに上記液管の温度を下降させるものである」という応用形態はさらに好適である。
【0028】
上記ループ型ヒートパイプでは、作動流体の循環が始まると、上記液管の温度が、液管よりも蒸気相の作動流体が占める割合が高い上記凝縮器の温度よりも低くなる。つまり、液管と凝縮器との間にある程度以上の温度差がある場合には作動流体が十分に循環し始めた可能性が高く、逆に、この温度差が異常に小さい場合には作動流体がまだ十分には循環し始めていない可能性が高い。ここで、上記第2の値は、作動流体の循環が十分に循環し始めた状態における液管と凝縮器との温度差の下限値として予め定められる値である。上記の好適な応用形態によれば、上記発熱素子に電力が供給された時点、即ち循環の開始時点に、上記液管と上記凝縮器との温度差がこの第2の値よりも小さく、作動流体の循環がまだ始まっていないと想定される場合に、上記蒸気管の温度上昇と上記液管の温度下降とが行われるので、この作動流体の循環を一層確実に始めることができる。
【0029】
また、上記の第2のループ型ヒートパイプの基本形態に対し、
「上記蒸発器は、電力の供給を受けて発熱する発熱素子によって加熱されるものであり、
上記調整手段は、上記発熱素子に電力が供給された時点で、上記温度差が上記第1の値よりも小さい場合に、上記蒸気管の温度を上昇させるとともに上記液管の温度を下降させ、その発熱素子に電力が供給されている間は、その温度差が所定の第3の値よりも小さい場合に、その蒸気管の温度を上昇させるとともにその液管の温度を下降させるものである」という応用形態も好適である。
【0030】
一般に、ループ型ヒートパイプにおいて作動流体が正常に循環している場合には、蒸気管と液管との間にはある程度以上の温度差が存在する。つまり、蒸気管と液管との間にある程度以上の温度差がある場合には作動流体が正常に循環している可能性が高く、逆に、この温度差が異常に小さい場合にはドライアウトによりこの循環が停止している可能性が高い。ここで、上記第3の値は、作動流体が正常に循環している状態における蒸気管と液管との温度差の下限値として予め定められる値である。上記の好ましい応用形態によれば、作動流体の循環の開始時点におけるドライアウトが解消されるとともに、上記発熱素子に電力が供給されている間つまり作動流体の循環中に、蒸気管と液管との温度差が上記第3の値よりも小さくドライアウトによる循環の停止が想定されるときにもそのドライアウトが解消されるので、その一旦は停止してしまった循環を再開させることができる。
【0031】
また、この好適な応用形態に対し、
「上記発熱素子の温度を検出する温度検出手段をさらに有し、
上記調整手段は、上記発熱素子に電力が供給されている間は、上記発熱素子の温度が予め定められた所定の上限値を超えている場合において、上記温度差が上記第3の値よりも小さい場合に、上記蒸気管の温度を上昇させるとともに上記液管の温度を下降させるものである」という応用形態はさらに好適である。
【0032】
このさらに好適な応用形態によれば、上記発熱素子において上記上限値を超える異常な発熱が起きており、作動流体の循環の停止が想定される場合に、ドライアウトの解消が行われるので効率的である。
【0033】
また、上記目的を達成する電子機器は、
上記第1のループ型ヒートパイプの基本形態、上記第2のループ型ヒートパイプの基本形態、および、その第2のループ型ヒートパイプの各応用形態を備えた
ことを特徴とする。
【0034】
これらの電子機器によれば、電子機器が備えたループ型ヒートパイプについて、トップヒート等の状態で、作動流体の循環を、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上、説明したように、第1および第2のループ型ヒートパイプの上記基本形態や、電子機器によれば、トップヒート等の状態で、作動流体の循環を、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】電子機器の具体的な実施形態であるコンピュータの透視図である。
【図2】図1に示すループ型ヒートパイプの蒸発部の構造を示す斜視図である。
【図3】図2に示す蒸発部を蒸発器の軸方向に切断した断面図である。
【図4】図2に示す蒸発部を蒸発器の軸方向と直交する方向に切断した断面図である。
【図5】別形態の蒸発部の構造を示す斜視図である。
【図6】図5に示す別形態の蒸発部を蒸発器の軸方向に切断した断面図である。
【図7】別形態の蒸発部を蒸発器の軸方向と直交する方向に切断した断面図である。
【図8】図1に示すループ型ヒートパイプの、蒸発部およびその近傍を示す拡大図である。
【図9】リザーバタンク150とインテークマニホールド111との内部構造を模式的に示す断面図である。
【図10】図1に示す制御部によって行われるペルチェ素子のON/OFF制御における処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】従来のループ型ヒートパイプの一例を示す概略構成図である。
【図12】図1に示すループ型ヒートパイプの蒸発部の構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
基本形態および応用形態について上記に説明したループ型ヒートパイプおよび電子機器に対する具体的な実施形態を、以下図面を参照して説明する。
【0038】
図1は、電子機器の具体的な実施形態であるコンピュータの透視図である。
【0039】
図1には、主要な発熱部であるCPU510と、補助記憶装置であるHDD(Hard Disk Drive)520と、電源部530と、空冷用の送風ファン540とを有するコンピュータ500、およびこのコンピュータ500に組み込まれ、CPU510を冷却するループ型ヒートパイプ100が示されている。この電子機器は、上述した電子機器の一実施形態に相当する。また、CPU510が、上述した応用形態における発熱素子の一例に相当する。
【0040】
このループ型ヒートパイプ100は、上述した第1のループ型ヒートパイプと第2のループ型ヒートパイプとを兼ねた一実施形態に相当し、発熱体であるCPU510から受熱し液相の作動流体を蒸発させて蒸気相の作動流体に相変化させる後述の蒸発器(受熱器)を内蔵した蒸発部110と、複数の放熱フィン121を有し送風ファン540からの風をこの放熱フィンで受けることによる放熱で蒸気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮器(放熱器)120と、蒸発部110で発生した蒸気相の作動流体を凝縮器120に案内する銅管である蒸気管130と、凝縮器120で発生した液相の作動流体を蒸発部110に案内する銅管である液管140と、液管140を通ってきた液相の作動流体を一時的に溜めてから蒸発部110に供給するリザーバタンク150とを備えている。
【0041】
また、このループ型ヒートパイプ100は、冷却部がリザーバタンク150に接しているペルチェ素子160と、蒸発部110における蒸気相の作動流体の出口近傍の蒸気管130を覆い、ペルチェ素子160の加熱部に接している熱伝導ブロック170を備えている。
【0042】
さらに、このループ型ヒートパイプ100は、CPU510の温度Tcpuを検出する第1温度センサ181と、リザーバタンク150の温度Ttankを検出する第2温度センサ182と、熱伝導ブロック170の温度Tvpを検出する第3温度センサ183と、凝縮器120の温度Tcondを検出する第4温度センサ184と、各温度センサで検出された各温度に基づいてペルチェ素子160のON/OFFを制御する制御部190とを備えている。
【0043】
ここで、上記の蒸発部110は、上述した第1のループ型ヒートパイプの基本形態、第2のループ型ヒートパイプの基本形態それぞれにおける蒸発器の一例に相当する。また、上記の凝縮器120は、各基本形態における凝縮器の一例に相当し、上記の液管140とリザーバタンク150とを合せたものは、各基本形態における液管の一例に相当し、上記の蒸気管130と熱伝導ブロック170とを合せたものは、各基本形態における蒸気管の一例に相当する。また、上記の制御部190とペルチェ素子160とを合せたものは、上述した第1のループ型ヒートパイプの基本形態における制御手段の一例に相当し、ペルチェ素子160は、上述した第1のループ型ヒートパイプの基本形態における「液管内の作動流体を冷却する手段」の一例に相当する。このペルチェ素子160と制御部190とを合せたものは、上述した第2のループ型ヒートパイプの基本形態における調整手段の一例にも相当する。また、上記の第2温度センサ182と第3温度センサ183と制御部190とを合せたものは、上述した第2のループ型ヒートパイプの基本形態における第1の温度差検出手段の一例に相当する。また、上記の第2温度センサ182と第4温度センサ184と制御部190とを合せたものは、上述した第2のループ型ヒートパイプの応用形態における第2の温度差検出手段の一例に相当し、第1温度センサ181と制御部190とを合せたものは、上述した第2のループ型ヒートパイプの応用形態における温度検出手段の一例に相当する。また、上記のペルチェ素子160は、上述した第2のループ型ヒートパイプの応用形態におけるペルチェ素子の一例にも相当する。
【0044】
このループ型ヒートパイプ100では、作動流体として水が使われ、蒸気管130や液管140等の内部が水の飽和蒸気圧に設定されている。CPU510が動作を始めて発熱し始めると、まず、このCPU510に接している蒸発部110内で、液相の作動流体がCPU510が発する熱によって蒸発し、蒸気相の作動流体が発生する。この蒸気相の作動流体は蒸気管130を伝って凝縮器120に至り、凝縮器120で凝縮されて液相の作動流体に変わる。この液相の作動流体は、液管140およびリザーバタンク150を伝って蒸発部110に至り、CPU510が発する熱によって再度蒸発する。ループ型ヒートパイプ100では、このような作動流体の循環によってCPU510を冷却する。
【0045】
図2は、図1に示すループ型ヒートパイプの蒸発部の構造を示す斜視図である。
【0046】
この蒸発部110は、図1に示すコンピュータに組み込まれ、インテークマニホールド(分岐部)111と、3つの蒸発器112と、エキゾーストマニホールド(集束部)113と、蒸発器収容体114と、断熱材115とを備えている。
【0047】
インテークマニホールド111は、凝縮器120(図1参照)から送られてきて液入口111aから流入した液相の作動流体を3つに分岐させるものである。
【0048】
3つの蒸発器112は、インテークマニホールド111で分岐された液相の作動流体それぞれを受け入れ蒸気相に相変化させて送り出す、銅パイプ112a内に多孔質の筒型のウィック112cが挿入された二重管構造の、横に並べられた管状の部材である。
【0049】
ここで、本実施形態では、インテークマニホールド111の本体部分の内壁面と、筒型の液入口111aの内壁面とが、蒸発器112におけるウィック112cと同質のウィック111bによって覆われている。このインテークマニホールド111におけるウィック111bは、図1に示すリザーバタンク150から流入してくる液相の作動流体を、多孔質構造における毛細管現象によって蒸発器112へと導く役割を担っており、蒸発器112におけるウィック112cに接している。このインテークマニホールド111におけるウィック111bの働きにより、たとえ、リザーバタンク150から流入してくる液相の作動流体が少量であっても、その液相の作動流体が確実に蒸発器112へと導かれる。
【0050】
エキゾーストマニホールド113は、上記3つの蒸発器112から流出してきた蒸気相の作動流体を一つに集束させて蒸気出口113aから凝縮器120(図1参照)へと送り出すものである。
【0051】
蒸発器収容体114は、上記3つの蒸発器112を収容しCPU510の熱を下面から受熱し受熱した熱を内部に拡散させて3つの蒸発器112に伝熱するものである。
【0052】
断熱材115は、蒸発器収容体114の上面を覆ってその蒸発器収容体114からの外部への放熱を抑制し受熱部内の温度を均一に保つためのものである。
【0053】
CPU510の蒸発部110側の面は、縦30mm×横30mmの正方形であり、蒸発部110の外形サイズ(インテークマニホールド111およびエキゾーストマニホールド113は含まず)は縦50mm×横50mm×高さ20mmである。蒸発器収容体114は、厚さ2mmの銅板製の、内部が空洞の箱体である。
【0054】
この蒸発器収容体114の内部には、平面方向に貫通する3本の蒸発器112が等間隔で並列に設置されている。3本の蒸発器112は、それぞれ、外径14mm、厚さ2mmの銅パイプ112aとその銅パイプ112a内に挿入された多孔質のウィック112cとからなる二重管構造となっている。
【0055】
蒸発器収容体114と銅パイプ112aの外壁とによって蒸発器収容体114内の空洞は密閉されており、この空洞に作動流体である水が封入されている。この空洞内は水の飽和水蒸気圧に保たれている。ここで、図1の蒸気管130や液管140等の内部を循環する作動流体(水)を、以下では第1の作動流体と呼び、上記の空洞内に封入されている作動流体を第2の作動流体と呼ぶ。
【0056】
また、3本の銅パイプ112aの内壁には、軸方向に深さ1mmの溝形状の蒸気通路112bが2mmピッチで等間隔に形成されている。そして、銅パイプ112a内壁に形成された蒸気通路112bの先端部に接するように外径10mm、内径4mmの筒型のウィック112cが挿入されている。この銅パイプ112aの内壁に形成された蒸気通路112bは、蒸気相の作動流体が流通する通路として機能する。
【0057】
ウィック112cは、銅粉末を焼結して形成した多孔質の円筒であり、ウィック112cの内側と外側とは10μm〜50μm径の微細孔によって連通しており、ウィック112c内の第1の作動流体が毛細管現象によりウィック112cの外に染み出すようになっている。
【0058】
3本の銅パイプ112aの両端部には、液管140およびリザーバタンク150(図1参照)から流入してきた液相の第1の作動流体を3本のウィック112cに分岐させるインテークマニホールド111と、3本のウィック112cの蒸気通路112bから流出してきた蒸気相の第1の作動流体を一つに収束させて凝縮器120に送り出すエキゾーストマニホールド113とが接合されており、第1の作動流体が漏れ出さないようになっている。
【0059】
蒸発部110のエキゾーストマニホールド113と凝縮器120とは、蒸気管130により連結されており、さらに、凝縮器120と蒸発部110のインテークマニホールド111とは、液管140とリザーバタンク150とにより連結されており、第1の作動流体が循環するようになっている。
【0060】
本実施形態では、第1の作動流体と第2の作動流体とは互いに異なる個所に封入されている。第1および第2の作動流体には、ともに水が用いられているが、水以外の流体であってもよく、また、互いに異なる材料の作動流体を用いても差し支えない。第1の作動流体および第2の作動流体を封入する際には、水の飽和蒸気圧となるよう気圧が調節される。
【0061】
図3は、図2に示す蒸発部を蒸発器の軸方向に切断した断面図であり、図4は、図2に示す蒸発部を蒸発器の軸方向と直交する方向に切断した断面図である。
【0062】
図3および図4に示すように、蒸発部110は、金属製の蒸発器収容体114で覆われ、蒸発器収容体114の下面114aにはサーマルグリースが塗布されており、そのサーマルグリースを介して発熱体であるCPU510が蒸発器収容体114の下面114aに熱的に接触するようになっている。
【0063】
本実施形態では、上記蒸発器収容体114は内部空間114bを有し、この内部空間114bに、発熱体からの受熱により蒸気相に相変化し、蒸発器112への伝熱により液相に相変化する第2の作動流体118が封入されている。
【0064】
次に、この蒸発部110の作用について説明する。
【0065】
蒸発器収容体114の下面114aがCPU510によって加熱されることにより、蒸発器収容体114の内部空間114bに封入された第2の作動流体118が加熱されて沸騰し、気化する。
【0066】
気化した蒸気相の第2の作動流体118は温度の低い銅パイプ112a表面に触れて凝集し液化することにより、CPU510からの熱は銅パイプ112aに伝えられる。
【0067】
銅パイプ112aに伝えられた熱は、銅パイプ112a内側のウィック112c内の第1の作動流体116に伝えられ、第1の作動流体116が沸騰し気化する。
【0068】
気化した蒸気相の第1の作動流体117は蒸気通路112bを通りエキゾーストマニホールド113を経て蒸気出口113aから送り出され、蒸気管130(図1参照)を通って凝縮器120(図1参照)に供給される。
【0069】
凝縮器120は、放熱面積を増加させるために、銅管に複数の放熱フィン121(図1参照)が半田付けされた構造となっており、その放熱フィン121に向けた送風ファン540(図1参照)からの送風により、銅管300内の蒸気相の第1の作動流体116の熱は空気中に放散される。こうして凝縮器120を通過する間に蒸気相の第1の作動流体116は熱を放出して凝集し液化する。
【0070】
こうして液相となった第1の作動流体116は、再び液管140とリザーバタンク150を通って液入口111aからインテークマニホールド111に流入し、インテークマニホールド111により3つの銅パイプ112aに流入し、蒸発部110においてCPU510の熱を受け取り、蒸気相の第1の作動流体116となって凝縮器120に送られる。
【0071】
ここで、本実施形態では、蒸発部110において、蒸発器収容体114の下面114aに加えられたCPU510からの熱の蒸発器112への伝熱方法として、上記の第2の作動流体を使った方法が採用されているが、この伝熱方法は、例えば、以下に説明するように金属の熱伝導を利用する方法であってもよい。
【0072】
以下、蒸発器収容体の下面から蒸発器112への伝熱方法として金属の熱伝導を利用する方法が採用された別形態の蒸発部について説明する。
【0073】
図5は、別形態の蒸発部の構造を示す斜視図であり、図6は、図5に示す別形態の蒸発部を蒸発器の軸方向に切断した断面図であり、図7は、図5に示す別形態の蒸発部を蒸発器の軸方向と直交する方向に切断した断面図である。
【0074】
これらの図に示す別形態の蒸発部210は、蒸発器収容体114を除く構成要素が、上記の図2から図3に示す蒸発部110の構成要素と同等であり、図5から図7では、これらの構成要素については図2から図3における符号と同じ符号が付され、以下では、これら同等な構成要素については重複説明を省略する。
【0075】
この別形態の蒸発部210が備える蒸発器収容体211は銅製のブロックであり、内部に、3つの蒸発器112それぞれの外壁面と接する3つの空洞211bを有し、その3つの空洞211bそれぞれに上記3つの蒸発器112それぞれが収容されている。
【0076】
この蒸発器収容体211の下面211aがCPU510で加熱されることにより、CPU510からの熱は、蒸発器収容体211の銅ブロックに伝えられ、さらにこの銅ブロックを介して銅パイプ112に伝えられる。このように、この別形態の蒸発部210では、蒸発器収容体211の下面211aから蒸発器112への伝熱方法として銅の熱伝導を利用する方法が採用されている。
【0077】
以上で、この別形態の蒸発部210についての説明を終了し、図1に示すループ型ヒートパイプ100についての説明を続ける。
【0078】
図8は、図1に示すループ型ヒートパイプの、蒸発部およびその近傍を示す拡大図である。
【0079】
図1のループ型ヒートパイプ100では、上述したように、蒸発部110におけるインテークマニホールド111の液入口111aと、液管140との間には、液管140を通ってきた液相の作動流体を一時的に溜めるリザーバタンク150が備えられている。また、蒸発部110におけるエキゾーストマニホールド113の蒸気出口113aの近傍では、蒸気管130が、熱伝導ブロック170によって覆われている。そして、ペルチェ素子160の冷却部161がリザーバタンク150に接し、加熱部162が熱伝導ブロック170に接している。
【0080】
図9は、リザーバタンク150とインテークマニホールド111との内部構造を模式的に示す断面図である。
【0081】
上述したように、インテークマニホールド111の内壁面は液入口111aの内壁面も含めてウィック111bで覆われている。このインテークマニホールド111のウィック111bは、蒸発器112のウィック112cに接しており、インテークマニホールド111内における液相の第1の作動流体を毛細管現象によって蒸発器112へと導く役割を担っている。
【0082】
リザーバタンク150は、図9に示すように直方体形状の箱体であり、本実施形態では、このリザーバタンク150の内壁面も、蒸発器112のウィック112cやインテークマニホールド111のウィック111bと同質のウィック151で覆われており、このリザーバタンク150のウィック151が、インテークマニホールド111のウィック111bに接している。このリザーバタンク150のウィック151は、液管140から流入してくる液相の第1の作動流体を毛細管現象によってインテークマニホールド111へと導く役割を担っており、このウィック151の働きによって、たとえ液管140から流入してくる液相の第1の作動流体が少量であっても、その液相の第1の作動流体がインテークマニホールド111に確実に導かれることとなる。
【0083】
以上に説明した構成により、基本的には、図1に示すループ型ヒートパイプ100は、第1の作動流体を相変化させながら循環させることで発熱体であるCPU510の冷却を行う。
【0084】
ところで、本実施形態では、コンピュータ500は、基本的に、図1に示す姿勢で使用される。そして、ループ型ヒートパイプ100は、図1に示す姿勢に置かれたコンピュータ500内で、蒸発部110と凝縮器120とがほぼ同じ高さに位置する水平状態でこのコンピュータ500内に搭載されている。一般に、ループ型ヒートパイプは、蒸発部の位置が凝縮器の位置よりも高いトップヒートや水平状態に置かれると、作動流体の循環の開始時点で蒸発部に液相の作動流体が存在している保証がなく、ドライアウトとなって作動流体の循環が開始しないおそれがある。本実施形態では、このようなドライアウトを解消するために、蒸発部110における液相の作動流体の入り口と気相の作動流体の出口の近傍において以下に説明する工夫が凝らされている。
【0085】
図8を参照して説明したように、本実施形態では、液入口111aに接続されたリザーバタンク150と、蒸気出口113aの近傍で蒸気管130を覆う熱伝導ブロック170との間にペルチェ素子160が配置されている。そして、このペルチェ素子160の冷却部161がリザーバタンク150に接し、加熱部162が熱伝導ブロック170に接している。
【0086】
ここで、ループ型ヒートパイプ100においてドライアウトが起きているときには、多くの場合、蒸発部110の内部からリザーバタンク150の内部に至るまで、蒸気相の作動流体で占められる。このとき、このループ型ヒートパイプ100の内部は、上述したように第1の作動流体である水の飽和蒸気圧に設定されている。このため、リザーバタンク150内の蒸気相の第1の作動流体の温度が、例えば蒸気管130等の他の部分内の作動流体の温度よりも低温状態となると、リザーバタンク150内で相変化が起きて液相の第1の作動流体が発生する。本実施形態では、ドライアウトが起きているときに、ペルチェ素子160の冷却部161がリザーバタンク150を冷却することでこのリザーバタンク150内の蒸気相の第1の作動流体を冷却し、加熱部162が熱伝導ブロック170を介して蒸気管130を加熱することでこの蒸気管130内の蒸気相の第1の作動流体を加熱する。これにより、リザーバタンク150内で相変化が起きる条件が作られ、その結果、リザーバタンク150内に液相の第1の作動流体が発生することとなる。このように発生する液相の第1の作動流体は少量ではあるが、上述したように、図9に示すリザーバタンク150のウィック151における毛細管現象、およびインテークマニホールド111のウィック111bにおける毛細管現象によって、蒸発部110内の蒸発器112におけるウィック112cに確実に伝わることになる。さらに、液相の第1の作動流体は、蒸発器112のウィック112c自体の毛細管現象によって蒸発器112内部に進み、この蒸発器112内部で蒸発し、この蒸発によって、ループ型ヒートパイプ100における第1の作動流体の循環が開始されることとなる。
【0087】
また、一般に、トップヒートや水平状態に置かれたループ型ヒートパイプでは、作動流体の循環中であっても、冷却対象である発熱体での発熱が少ない状態が続いたとき等に、液相の作動流体を蒸発部に送るための蒸気圧が不足して蒸発部から液相の作動流体が無くなってしまいドライアウトが発生して循環が停止してしまうことがある。本実施形態のループ型ヒートパイプ100では、循環中にこのようなドライアウトが発生して循環が停止した場合であっても、上記のようにペルチェ素子160によるリザーバタンク150内の蒸気相の第1の作動流体の冷却と、熱伝導ブロック170を介した蒸気管130内の蒸気相の第1の作動流体の加熱とによって、リザーバタンク150内に液相の第1の作動流体を発生させることでドライアウトが解消され、一旦停止した循環が再開されることとなる。
【0088】
このようなペルチェ素子160による冷却あるいは加熱は、図1に示す第1から第4の4つの温度センサ181,…,184で検出された各温度に基づいてペルチェ素子160のON/OFFを制御する制御部190によって行われる。
【0089】
以下、この制御部190によって行われるペルチェ素子160のON/OFF制御について説明する。
【0090】
図10は、図1に示す制御部によって行われるペルチェ素子のON/OFF制御における処理の流れを示すフローチャートである。
【0091】
この図10のフローチャートが示す処理は、図1のコンピュータ500に電源が投入され、ループ型ヒートパイプ100の冷却対象の発熱体であるCPU510に電源が供給されると開始される。処理が開始されると、まず、図1に示す第1から第4の4つの温度センサ181,…,184によって、CPU510の温度Tcpuの検出とリザーバタンク150の温度Ttankの検出と熱伝導ブロック170の温度Tvpの検出と凝縮器120の温度Tcondの検出とが開始される(ステップS101)。
【0092】
すると、制御部190において、リザーバタンク150の温度Ttankと熱伝導ブロック170の温度Tvpとが、Ttank<(Tvp−a1)という条件式を満たすか否かの判定が行われる(ステップS102)。ここで、a1は、ドライアウトが発生していない場合におけるリザーバタンク150の温度Ttankと熱伝導ブロック170の温度Tvpとの温度差の下限値として予め決められた規定の温度差であり、上述した第2のループ型ヒートパイプの基本形態における第1の値の一例に相当する。
【0093】
ステップS102において、上記の条件式が満たされていない(ステップS102におけるNo判定)ということは、ドライアウトが発生しており、リザーバタンク150と熱伝導ブロック170で覆われた蒸気管130とが、ほぼ同程度の温度の蒸気相の第1の作動流体で占められていることをことを意味する。そこで、上記の条件式が満たされていない場合には、制御部190によって、ペルチェ素子160がON状態にされ、熱伝導ブロック170の加熱とリザーバタンク150の冷却とが実行される(ステップS103)。そして、ペルチェ素子160がON状態にされた後は、ステップS102に戻って上記の判定が繰り返される。そして、ペルチェ素子160による加熱と冷却とによって、上記の条件式が満たされるようになると(ステップS102におけるYes判定)、次の処理(ステップS104)に進む。
【0094】
本実施形態における、上記のステップS102およびステップS103の処理は、リザーバタンク150の温度Ttankと熱伝導ブロック170の温度Tvpとを検出することで、リザーバタンク150と蒸気管130との温度差を間接的に検出し、その温度差が上記の規定の温度差a1よりも小さい場合に、蒸気管130の温度を上昇させ、リザーバタンク150の温度を下降させる処理である。
【0095】
ステップS104では、制御部190によって、リザーバタンク150の温度Ttankと、凝縮器120の温度Tcondとが、Ttank<(Tcond−a2)という条件式を満たすか否かの判定が行われる。ここで、a2は、第1の作動流体が十分に循環し始めた場合におけるリザーバタンク150の温度Ttankと凝縮器120の温度Tcondとの温度差の下限値として予め決められた規定の温度差であり、上述した第2のループ型ヒートパイプの応用形態における第2の値の一例に相当する。
【0096】
このステップS104において、上記の条件式が満たされていない(ステップS104におけるNo判定)ということは、ドライアウトは解消されつつあるものの、リザーバタンク150内における液相の第1の作動流体が少量で、第1の作動流体が未だ十分には循環していないことを意味する。そこで、この場合には、ステップS103に戻ってペルチェ素子160のON状態が継続される。そして、その後は、ステップS102の判定とステップS104の判定とが繰り返される。そして、第1の作動流体が十分に循環し、ステップS104における条件式が満たされるようになると(ステップS104におけるYes判定)、制御部190によって、ペルチェ素子160がOFF状態にされる(ステップS105)。
【0097】
以上に説明したステップS101からステップS105に至る一連の処理が、第1の作動流体の循環の開始時点におけるドライアウトを解消して、この循環を正常に開始させる処理である。
【0098】
このように第1の作動流体の循環が正常に開始された後も、図1に示す第1から第4の4つの温度センサ181,…,184によって、CPU510の温度Tcpuの検出とリザーバタンク150の温度Ttankの検出と熱伝導ブロック170の温度Tvpの検出と凝縮器120の温度Tcondの検出とが引き続いて行われる(ステップS106)。
【0099】
そして、制御部190において、CPU510の温度Tcpuが、予め定められた上限温度Tcpu(MAX)を超えているか否かの判定が行われる(ステップS107)。この上限温度Tcpu(MAX)は、上述の応用形態における上限値の一例に相当する。
【0100】
CPU510の温度Tcpuがこの上限温度Tcpu(MAX)を超えていない場合(ステップS107におけるNo)には、第1の作動流体の循環が順調でCPU510の冷却が十分に行われていることを意味しているので、ペルチェ素子160のOFF状態が継続される(ステップS108)。
【0101】
一方、CPU510の温度Tcpuがこの上限温度Tcpu(MAX)を超えている場合(ステップS107におけるYes)には、第1の作動流体の循環が停止している可能性がある。そこで、そのことを確かめるために、リザーバタンク150の温度Ttankと熱伝導ブロック170の温度Tvpとが、Tvp<(Ttank+a3)という条件式を満たすか否かの判定が行われる(ステップS109)。ここで、a3は、第1の作動流体が正常に循環している場合におけるリザーバタンク150の温度Ttankと熱伝導ブロック170の温度Tvpとの温度差の下限値として予め決められた規定の温度差であり、上述した第2のループ型ヒートパイプの応用形態における第3の値の一例に相当する。
【0102】
上記の条件式が満たされている(ステップS109におけるYes判定)ということは、ドライアウトが発生してリザーバタンク150と蒸気管130とが、ほぼ同程度の温度の蒸気相の第1の作動流体で占められていることをことを意味する。そこで、この場合には、制御部190によってペルチェ素子160が再びON状態にされてドライアウトの解消と循環の再開が図られる(ステップS110)。
【0103】
ペルチェ素子160がON状態にされた後は、ステップS107の判定とステップS109の判定が繰り返され、ステップS107の判定において、CPU510の温度Tcpuが上限温度Tcpu(MAX)を超えていないと判定されると(ステップS107におけるNo)、第1の作動流体の循環が順調に再開されてCPU510の冷却が十分に行われていること意味するので、ステップS108に進んでペルチェ素子160がOFF状態にされる。
【0104】
一方、ステップS109の条件式が満たされていない(ステップS109におけるNo判定)場合には、第1の作動流体の循環が順調であるにも関わらずCPU510において異常な温度上昇が発生していることを意味するので、この場合には、制御部190によって、CPU510におけるクロック数のダウンあるいはCPU510の強制停止が行われる(ステップS111)。また、この場合には、第1の作動流体の循環自体は順調であるので、ステップS108に進んでペルチェ素子160のOFF状態が継続される。
【0105】
以上に説明したステップS106からステップS111に至る一連の処理が、第1の作動流体の循環の開始後においてドライアウトが発生し循環が停止してしまった場合に、そのドライアウトを解消して、この循環を再開させる処理である。
【0106】
以上に説明したように、本実施形態によれば、コンピュータ500内で、ループ型ヒートパイプ100が水平状態に置かれ、そのために第1の作動流体の循環の開始時点においてドライアウトが発生している場合であっても、循環が始まった後にその循環を妨げないように開始することができる。さらに、本実施形態によれば、循環の開始後においてドライアウトが発生し循環が停止してしまった場合には、そのドライアウトを解消して、この循環を再開させることができる。また、本実施形態では、電力の消費量が比較的に多いペルチェ素子の動作が、ドライアウトの発生が想定される循環の開始のときと、循環中であってCPU510で異常な温度上昇が見られたときに行われるので効率的である。
【0107】
尚、上記では、ループ型ヒートパイプの一例として、水平状態に置かれて使用されるループ型ヒートパイプ100を例示したが、このループ型ヒートパイプはこれに限るものではなく、例えばトップヒートで使用されるもの等であっても良い。
【0108】
また、上記では、ループ型ヒートパイプが搭載される電子機器の一例として、コンピュータ500を例示したが、この電子機器はコンピュータに限るものではなく、例えば家電製品等であっても良い。
【0109】
また、上記では、ループ型ヒートパイプにおける蒸気管および液管として、銅管である蒸気管130および銅管である液管140を例示したが、この蒸気管および液管はこれに限るものではなく、例えば銅以外の金属製の管であっても良い。
【0110】
また、上記では、作動流体として水を例示したが、作動流体はこれに限るものではなく、例えばアルコール等といった、水以外の流体であっても良い。
【0111】
また、上記では、ペルチェ素子によってリザーバタンクの冷却と熱伝導ブロックの加熱との両方を行う例を示したが、ペルチェ素子による処理はこれに限るものではなく、例えばリザーバタンクの冷却のみを行うものであっても良い。
【0112】
また、上記では、冷却と加熱にペルチェ素子を用いているが、冷却と加熱を行う方法はこれに限るものではなく、例えば、冷却を放熱ファンを用いて行い加熱をヒータで行う等といった方法であっても良い。
【0113】
以下、上述した基本形態および応用形態を含む種々の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0114】
(付記1)
蒸発器と凝縮器とを連結する蒸気管、及び、前記凝縮器と前記蒸発器とを連結する液管がループ状に連結され、前記液管の内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプであって、
前記作動流体の循環を制御する制御手段を有し、
前記制御手段が、前記循環を開始させる起動時に、前記液管内の作動流体を冷却する手段を有する
ことを特徴とするループ型ヒートパイプ。
【0115】
(付記2)
蒸発器、凝縮器、前記蒸発器と前記凝縮器とを連結する蒸気管、及び、前記凝縮器と前記蒸発器とを連結する液管がループ状に連結され、内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプであって、
前記蒸気管と前記液管との温度差を検出する第1の温度差検出手段と、
前記温度差が予め定められた所定の第1の値よりも小さい場合に、前記蒸気管の温度を上昇させるとともに前記液管の温度を下降させる調整手段と
を有することを特徴とするループ型ヒートパイプ。
【0116】
(付記3)
前記調整手段が、前記蒸気管と前記液管の間に配置されたペルチェ素子を含む機構である
ことを特徴とする付記2に記載のループ型ヒートパイプ。
【0117】
(付記4)
前記ペルチェ素子の一方の面が前記蒸気管の表面と接触し、且つ、前記ペルチェ素子の他方の面が前記液管の表面と接触する
ことを特徴とする付記3に記載のループ型ヒートパイプ。
【0118】
(付記5)
前記第1の温度差検出手段は、前記蒸気管の温度と前記液管の温度との双方を検出してこれら2つの温度の差を求めることにより、前記温度差を間接的に検出する手段である
ことを特徴とする付記2から4のうちいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【0119】
(付記6)
前記蒸発器は、電力の供給を受けて発熱する発熱素子によって加熱されるものであり、
前記調整手段は、前記発熱素子に電力が供給された時点で、前記温度差が前記第1の値よりも小さい場合に、前記蒸気管の温度を上昇させるとともに前記液管の温度を下降させるものである
ことを特徴とする付記2から5のうちいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【0120】
(付記7)
前記蒸発器は、電力の供給を受けて発熱する発熱素子によって加熱されるものであり、
前記調整手段は、前記発熱素子に電力が供給された時点で、前記温度差が前記第1の値よりも小さい場合に、前記蒸気管の温度を上昇させるとともに前記液管の温度を下降させ、該発熱素子に電力が供給されている間は、該温度差が所定の第3の値よりも小さい場合に、該蒸気管の温度を上昇させるとともに該液管の温度を下降させるものである
ことを特徴とする付記2から6のうちいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【0121】
(付記8)
蒸発器と凝縮器とを連結する蒸気管、及び、前記凝縮器と前記蒸発器とを連結する液管がループ状に連結され、前記液管の内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプを備えた電子機器であって、
前記ループ型ヒートパイプは、
前記作動流体の循環を制御する制御手段を有し、
前記制御手段が、前記循環を開始させる起動時に、前記液管内の作動流体を冷却する手段を有する
ことを特徴とする電子機器。
【符号の説明】
【0122】
30 管
50 発熱素子
90 加熱部
91 ヒータ
92 電源
93 スイッチ
94 制御装置
95 フィルタ
1,2,100 ループ型ヒートパイプ
10,60,110 蒸発部
111 インテークマニホールド
111a 液入口
12,111b ウィック
11,112 蒸発器
112a 銅パイプ
13,112b 蒸気通路
112c ウィック
113 エキゾーストマニホールド
113a 蒸気出口
114 蒸発器収容体
114a 下面
114b 内部空間
115 断熱材
116 第1の作動流体
117 気化した蒸気相の第1の作動流体
118 第2の作動流体
20,40,120 凝縮器
41,121 放熱フィン
70,130 蒸気管
80,140 液管
150 リザーバタンク
151 ウィック
160 ペルチェ素子
161 冷却部
162 加熱部
170 熱伝導ブロック
181 第1温度センサ
182 第2温度センサ
183 第3温度センサ
184 第4温度センサ
190 制御部
210 蒸発部
211 蒸発器収容体
211a 下面
211b 空洞
500 コンピュータ
510 CPU
520 HDD
530 電源部
540 送風ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器、凝縮器、前記蒸発器と前記凝縮器とを連結する蒸気管、及び、前記凝縮器と前記蒸発器とを連結する液管がループ状に連結され、内部を作動流体が通過するループ型ヒートパイプであって、
前記蒸気管と前記液管との温度差を検出する第1の温度差検出手段と、
前記温度差が予め定められた所定の第1の値よりも小さい場合に、前記蒸気管の温度を上昇させるとともに前記液管の温度を下降させる調整手段と
を有することを特徴とするループ型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記調整手段が、前記蒸気管と前記液管の間に配置されたペルチェ素子を含む機構である
ことを特徴とする請求項1に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項3】
前記ペルチェ素子の一方の面が前記蒸気管の表面と接触し、且つ、前記ペルチェ素子の他方の面が前記液管の表面と接触する
ことを特徴とする請求項2に記載のループ型ヒートパイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−198019(P2012−198019A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−136812(P2012−136812)
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【分割の表示】特願2008−4325(P2008−4325)の分割
【原出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)