説明

レジスト材及びパターン形成方法

【課題】 白色光線下で作業が出来、熱処理工程にも耐えられ、更に赤外レーザ光で直接デジタル画像を形成することが可能なレジスト材及びパターン形成方法を提供すること。
【解決手段】 希アルカリ性水溶液からなる現像液に対して難溶性であって、その被膜に赤外線照射等の手段により選択的に加熱した部分が、該現像液に可溶性となることを特徴とするレジスト材、レジスト材を使用するパターン形成方法、及び該レジスト材を用いて形成された印刷版。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は新規なレジスト材及びパターンの形成方法に関し、更に詳しくは、可視光に対して不感受性で、且つ希アルカリ性水溶液に難溶性のレジスト材であって、その被膜を選択的に加熱すると、その加熱部分のみが上記現像液に可溶性となる新規なレジスト材及び選択的に加熱した部分を上記現像液で溶解除去するパターンの形成方法及び前記レジストを用いて形成された印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、半導体チップや各種印刷版等は、支持体上に形成した感光層にパターン形成マスクを密着させ、紫外線や電子線等を照射し、露光部分を現像液に可溶化するポジ型或はネガ型のレジスト材を用いてパターンを形成することによって製造されている。この方法においては、従来のレジスト材が可視光線に対して感受性を有している為に白色光線下での作業が不可能であり、又、現状の半導体レーザの発振波長である赤外光領域には感受性を有していない為、レーザ光で直接デジタル画像を形成することが出来なかった。更に、一般のレジスト材は100℃を越える温度で長時間加熱すると、露光の有無に係らず樹脂が硬化して現像液に対して難溶性となる現象が現れ、レジスト材としての機能を消失する為、レジスト被膜を部材上に形成した後に部材の加熱等の熱処理工程を行うことは不可能であった。
【0003】ところで、特開平7−20629号公報には、紫外線及び赤外線の両方に感受性を有し、ネガ型及びポジ型いずれにも機能する(1)レゾール樹脂、(2)ノボラック樹脂、(3)潜伏性ブレンステッド酸及び(4)赤外線吸収剤からなる放射線感受性組成物が開示されている。又、特開平6−43633号公報には、可視から近赤外線領域の光線に対して高感度で、ポジ型及びネガ型レジストを与えるスクアリリウム化合物と光酸発生剤とバインダーとからなる化学増幅型レジスト組成物が開示されている。この様なレジスト組成物は赤外領域のレーザ光線でデジタル画像の形成が可能であるが、可視光線にも感受性を有しており、白色光線下での作業には使用することは出来ず、又、加熱によりレジスト機能を消失する為、部材上にレジスト被膜を形成後、熱処理工程を行うことも出来ない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、白色光線下で作業することが出来、熱処理工程にも耐えられ、更に赤外レーザ光で直接デジタル画像を形成することが可能なレジスト材及びパターン形成方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決する為の手段】上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、希アルカリ性水溶液からなる現像液に対して難溶性となる被膜をレジスト材として媒体上に形成し、該被膜を選択的に加熱することにより、加熱した部分が上記現像液に可溶性となることを特徴とするレジスト材、該レジスト材を使用するパターン形成方法、及び該レジスト材を用いて形成された印刷版である。
【0006】
【発明の実施形態】次に発明の実施形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明のレジスト材は、可視光線に対して不感受性であり、レジスト材の現像に従来から用いられている希アルカリ性水溶液からなる現像液には溶解しないが、赤外線照射等によって選択的に加熱することにより、その加熱された部分が可溶性となるポジ型レジスト材である。本発明のレジスト材は、白色光線下での作業を可能とする為に可視光領域では不感受性であることが必要である。本発明において好ましいレジスト材はノボラック樹脂である。本発明のレジスト材は、官能基として水酸基のみを有するフェノールノボラック樹脂、水酸基とメチル基を有するクレゾールノボラック樹脂のいずれでもよい。
【0007】一般にノボラック樹脂をレジスト材として使用する場合は、ジアゾ系の化合物に代表される光化学反応を有する感光材料を加えて溶媒に溶かし、コーティング及び乾燥を経て被膜を形成するが、本発明においては上記感光材料を加えず、ノボラック樹脂のみを溶媒に溶かし(或は分散し)コーティング液とする。このとき、本発明の効果に影響を与えない範囲で添加物、例えば、赤外線照射時の赤外線吸収効率を向上させる為の赤外線吸収剤等を加えることも可能である。これらの赤外線吸収剤としては、近赤外から赤外領域に吸収感度を有する色素若しくは顔料として、フタロシアニン、インドリジン、クロコネート、シアニン、スクアリリウム、ピリリウム等が挙げられる。赤外線吸収剤の使用量は特に限定されないが、通常、レジスト材に対して0.1〜1.0重量%程度の量で使用される。
【0008】本発明のレジスト材を使用して画像パターンを形成するには、先ず、任意の支持体(例えば、印刷版の場合には、アルミニウム又はその他の金属性支持体、ポリエステル、ポリイミド等のポリマーフイルム支持体等、半導体の場合には、シリコンウェハー等)上に、レジスト材、或は赤外線吸収剤を含むレジスト材を溶解若しくは分散させた液を、スピンコーティング法等の公知のコーティング法によって、所定の乾燥膜厚(用途によって異なるが、例えば、印刷版の場合には0.5〜2μm程度である)となる様にコーティングし、乾燥して薄膜を形成させる。
【0009】一般にレジスト被膜の乾燥温度は80℃程度に設定されることが多い。これは、一般にレジスト材においては、高温で乾燥することで架橋反応等による樹脂硬化の進行、熱分解による感光材料の機能消失等の影響によってレジスト材としての機能が失われことを防ぐ為である。これに対し、本発明のレジスト材においては感光材料は含まれておらず、加熱による樹脂硬化の進行も本発明におけるレジスト材としての機能には影響を与えない為、レジスト薄膜の乾燥温度は、支持部材、その他の要因によって決まる乾燥温度に設定することが出来る。例えば、本発明においてレジスト材としてノボラック樹脂を使用した場合、100〜150℃の温度で1時間という条件で乾燥することも可能である。
【0010】乾燥後得られた薄膜はそのままでは希アルカリ性の現像液に対して難溶性であるが、選択的に加熱することにより、加熱された部分のみが現像液に対して可溶性に変化する。加熱の手段としてはサーマルヘッドによる加熱、赤外線光源とパターン形成マスクを組み合せての露光、或はレーザ光を用いたダイレクト描画等が考えられる。レーザには、半導体レーザをはじめとして、YAG、CO2 等の固体レーザ、ガスレーザ等が使用される。
【0011】レジスト膜が加熱することによって現像液に対し可溶性になる理由としては、詳細は未だ不明であるが、以下に述べる様な現象が予想される。即ち、レジスト膜をコーティングし乾燥する場合、時間をかけて加熱される為、形成される樹脂膜はある程度の結晶性を有する様になる。その後、レーザ等によって瞬時のうちに加熱及び冷却が行われた場合、樹脂膜の結晶性が失われアモルファス状態になる。一般に結晶性の有無はその樹脂の溶解度に影響を与え、結晶性が高い程溶解度は低下する傾向がある。その為、本発明においては選択的に加熱した部分がアモルファス状態となり現像液に可溶性となる。
【0012】図1にクレゾールノボラックの樹脂膜の結晶性をX線回折装置によって測定した結果を示す。樹脂膜はクレゾールノボラックをメチルエチルケトンに溶解後、アルミニウムの支持体上にコーティングし100℃の温度で1時間で乾燥させたものである。図中、加熱前は乾燥後の状態、加熱後は乾燥後に半導体レーザ(波長780nm)を照射した後の状態を示す。加熱前には観測されている結晶性を示すピークが、加熱後には観測されなくなっていることから、結晶性がレーザ照射により低下していることがわかる。この結晶性の変化が現像液に対する溶解度の変化に影響を与えているのではないかと思われる。本発明で使用する現像液は、従来よりノボラック系等のレジスト材等に使用されている希アルカリ性水溶液、例えば、メタ珪酸ナトリウム水溶液等を使用することが出来る。
【0013】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例1ノボラック(フェノールノボラック)樹脂(住友ベークライト:スミライトレジンPR−50731)1重量部と赤外線吸収色素(日本化薬:CY−10)0.01重量部とをメチルエチルケトン1重量部に溶解させた。この溶液を基材(ポリイミドフイルム:100μm)に塗布して薄膜を形成し、次いで100℃で1時間加熱して薄膜を硬化させた。半導体レーザ(オプトパワーコーポレーション:A001−780−FC)の出射光をレンズ系によりビームサイズ40μm、パワー300mWのビームに絞り込み薄膜に直接照射してパターン描画を行った。その後、現像液(東京応化工業:NMD−3)に浸漬し、レーザビーム照射で可溶化された部分を溶解除去し、レーザ描画のパターンに応じたパターンを有する薄膜を得た。以上の作業は、全て白色光線下にて行った。
【0014】実施例2レジスト材としてノボラック(p−クレゾールノボラック)樹脂(住友ベークライト:スミライトレジンPR−53053)を使用し、実施例1と同じ条件で赤外線吸収色素を加え、溶媒に溶かし、薄膜形成後レーザ照射を行ったところ、実施例1と同様にパターンを有する薄膜が得られた。
【0015】実施例3レジスト材としてノボラック(m−クレゾールノボラック)樹脂(住友ベークライト:スミライトレジンPR−5153)を使用し、実施例1と同じ条件で赤外線吸収色素を加え、溶媒に溶かし、薄膜形成後レーザ照射を行ったところ、実施例1と同様にパターンを有する薄膜が得られた。
【0016】実施例4実施例1に記載されたレジスト組成物を、陽極酸化処理したアルミニウム基材上に塗布し、実施例1と同様の条件で硬化後、半導体レーザにて、同様の条件で、所望のパターンに描画を行い、平版印刷版を形成した。この印刷版を用いて通常のオフセットインキにて、印刷を行ったところ、良好な印刷が可能であった。
【0017】
【発明の効果】以上の本発明によれば、薄膜形成からパターン形成に至る全ての作業を白色光線下にて行うことが出来る。又、半導体レーザを用いたデジタル描画が可能であり、マスクを使用せずに直接(ダイレクトに)デジタルデータからパターニングが可能である。従って、本発明によれば、レーザダイレクト製版用PS板、平版印刷版、凹版等の印刷版、ホログラム記録媒体等を容易に製造することが出来る。又、フォトリソグラフィの分野においては、本発明によるレジスト材を用いることにより、レジスト材が熱的に安定な為にレジスト膜形成後に部材に対して熱処理を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 クレゾールノボラックの樹脂膜の結晶性をX線回折装置によって測定した結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 希アルカリ性水溶液からなる現像液に対して難溶性となる被膜をレジスト材として媒体上に形成し、該被膜を選択的に加熱することにより、加熱した部分が上記現像液に可溶性となることを特徴とするレジスト材。
【請求項2】 被膜の状態において選択的に加熱することにより、加熱した部分の結晶性が変化する請求項1に記載のレジスト材。
【請求項3】 主成分がノボラック樹脂からなる請求項1に記載のレジスト材。
【請求項4】 希アルカリ性水溶液からなる現像液に対して難溶性且つ赤外線に対して感受性を有する被膜をレジスト材として媒体上に形成し、該被膜に赤外線を選択的に照射することにより該被膜を選択的に加熱し、加熱された部分が上記現像液に可溶性となることを特徴とするレジスト材。
【請求項5】 被膜の状態において選択的に赤外線を照射することにより、赤外線を照射した部分の結晶性が変化する請求項4に記載のレジスト材。
【請求項6】 主成分がノボラック樹脂からなる請求項4に記載のレジスト材。
【請求項7】 赤外線吸収剤を含有する請求項4に記載のレジスト材。
【請求項8】 支持体上に請求項1に記載のレジスト材からなる被膜を形成し、該被膜を選択的に加熱し、該加熱部分を希アルカリ性水溶液からなる現像液で溶解除去することを特徴とするパターンの形成方法。
【請求項9】 支持体上に請求項1に記載のレジスト材からなる被膜を形成し、該被膜に選択的に赤外線を照射し、照射部分を希アルカリ性水溶液からなる現像液で溶解除去することを特徴とするパターンの形成方法。
【請求項10】 請求項1に記載のレジスト材を用いて形成された印刷版。

【図1】
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