説明

レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量低減方法

【課題】レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量を低減するにあたり、環境問題改善への貢献を可能とする。
【解決手段】レゾール型フェノール樹脂を含有する成形原料を加熱成形してレゾール型フェノール樹脂を含有する成形体を製造するにあたり、リグニン誘導体の存在下で加熱成形する。リグニン誘導体として、好ましくは、フェノール化リグニンが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、耐久性や安定性に優れ、成形材料、鋳造用レジン、電子材料、バインダーなどとして広く利用されている。しかし、フェノールに対してホルムアルデヒドが過剰に配合されて製造されるレゾール型フェノール樹脂には、未反応のホルムアルデヒドが残存しており、経過的に放出されることによる人体への悪影響等が指摘されている。そこで、未反応のホルムアルデヒドが成形体から放出するのを低減する技術が、例えば、下記特許文献1に開示されている。下記特許文献1に記載の技術によれば、成形体の原料となるレゾールタイプのフェノール樹脂にキャッチャー剤としてマイクロカプセル化したレゾルシンを配合することにより、レゾールタイプのフェノール樹脂中に未反応のホルムアルデヒドを捕捉し、成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減することができる。かかる技術によれば、成形体の原料となるフェノール樹脂の配合を調整する比較的容易な方法によって、成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−259368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今の環境問題意識の向上にともない、石油等の限りある資源に由来する材料に替えて植物等の再生可能資源の利用が期待されている。しかしながら、上記従来の方法は、レゾール型のフェノール樹脂に石油由来のキャッチャー剤を内添するものであって、環境問題への配慮がなされたものではなかった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量を低減するにあたり、環境問題改善への貢献を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量低減方法は、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形原料を加熱成形してレゾール型フェノール樹脂を含有する成形体を製造するにあたり、リグニン誘導体の存在下で加熱成形することを特徴とする。すなわち、少なくとも成形原料を加熱成形するよりも前の段階でリグニン誘導体が成形原料に付与される。そして、リグニン誘導体が成形時の熱によってレゾール型フェノール樹脂中に残留している未反応のホルムアルデヒドと反応する。そのため、成形後の成形体に含有される未反応のホルムアルデヒドが低減され、延いては成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レゾール型フェノール樹脂中の未反応のホルムアルデヒドが低減され、その結果、成形体からのホルムアルデヒド放出量を低減することができる。また、再生可能資源である木材等のリグノセルロース物質より抽出されるリグニン誘導体を用いることで環境問題改善にも貢献可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体としては、代表的には、レゾール型フェノール樹脂をバインダーとして含む成形体が挙げられる。かかる成形体は、主体となる植物繊維ないし木材チップ等植物の破砕物や粉砕物等の成形材料にバインダーとしてレゾール型フェノール樹脂を付与して調整した成形原料を、熱圧成形してなる。また、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体としては、レゾール型フェノール樹脂を主成分として含む成形体も挙げられる。
【0009】
本発明では、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形原料を加熱成形してレゾール型フェノール樹脂を含有する成形体を製造するにあたり、リグニン誘導体の存在下で加熱成形する。すなわち、少なくとも成形原料が加熱成形されるよりも前の段階でリグニン誘導体が成形原料に付与される。成形時の熱により、リグニン誘導体とレゾール型フェノール樹脂中に残留する未反応のホルムアルデヒドとが反応し、未反応のホルムアルデヒドを低減することができる。その結果、成形後の成形体に含まれる未反応のホルムアルデヒドが低減され、成形体からのホルムアルデヒド放出量を低減することができる。
【0010】
リグニン誘導体は、例えば、レゾール型フェノール樹脂の合成時にフェノールやホルムアルデヒド等の原料とともに配合することにより添加することができる。
【0011】
また、例えば、合成されたレゾール型フェノール樹脂にリグニン誘導体を添加することもできる。このとき、加熱しながら撹拌するのが好ましい。それにより、加熱成形前にリグニン誘導体と未反応のホルムアルデヒドとの反応が進行し、加熱成形時に放出されるホルムアルデヒドをも低減することができ、加熱成形時の作業環境の改善にも寄与することができる。そして、加熱成形時に加わる熱によりリグニン誘導体とホルムアルデヒドとの反応が更に促進されることにより、レゾール型フェノール樹脂中に残留している未反応のホルムアルデヒドをより効果的に低減し、成形体からのホルムアルデヒドの放出量をより確実に低減することができる。合成されたレゾール型フェノール樹脂にリグニン誘導体を添加する際の加熱温度は、40〜60℃とするのが好ましい。60℃を超えると、レゾール型フェノール樹脂の分子量が増し、粘度が上昇するため、操作性の低下が懸念される。また、レゾール型フェノール樹脂をバインダーとして用いるにあたり性能の低下も懸念される。
【0012】
また、レゾール型フェノール樹脂と成形材料を混合して成形原料を調整する時、或いは成形原料を調整した後に成形原料に付与してもよい。
【0013】
リグニン誘導体としては、木材等のリグノセルロース物質から従来公知の方法により単離された種々のリグニン誘導体を用いることができる。リグニン誘導体としては、例えば、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、オルガノソルブリグニン等のパルプリグニン、爆砕リグニン、リグノフェノール、フェノール化リグニン等が挙げられる。リグニンの構造は複雑であり未だ完全には解明されていないが、リグニン誘導体はその一部にフェノールに類似する構造を有するため、レゾール型フェノール樹脂と融和しやすく、効率よくレゾール型フェノール樹脂中で未反応のホルムアルデヒドと反応してホルムアルデヒド量を低減することができる。その結果、成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減することができる。
【0014】
なかでも、フェノール化リグニンは好適に用いることができる。フェノール化リグニンは木材等のリグノセルロース物質をフェノール誘導体の存在下で酸処理することにより単離されるリグニンであり、リグニンとセルロースとが分離するとき、フェノール誘導体がリグニン中の分子鎖と化学結合して安定化(グラフト化)することでリグニンの自己縮合が防止されたものである。その単離方法の詳細は、例えば、特開2006−225325号公報に開示されている。フェノール化リグニンは、よりレゾール型フェノール樹脂となじみ易く、レゾール型フェノール樹脂中で未反応のホルムアルデヒドと一層効率よく反応することができ、成形体からのホルムアルデヒドの放出量をより効率的に低減し得る。
【0015】
レゾール型フェノール樹脂に対するリグニン誘導体の添加量は、レゾール型フェノール樹脂に含まれるホルムアルデヒドの含有量に応じて適宜調整可能である。例えば、レゾール型フェノール樹脂に含まれるホルムアルデヒド1重量部に対するリグニン誘導体の添加量を20〜80重量部とするのが好ましい。レゾール型フェノール樹脂に含まれるホルムアルデヒド1重量部に対するリグニン誘導体の添加量が20重量部未満であると、ある程度のホルムアルデヒド低減効果は得られるものの、ホルムアルデヒドに対してリグニン誘導体が少なく、ホルムアルデヒド残存量が多くなる。また、80重量部を超えて添加しても、成形体からのホルムアルデヒドの放出量の低減効果は頭打ちとなり、余剰のリグニン誘導体が無駄になる。また、余剰のリグニン誘導体が成形体の物性に影響を及ぼすことも懸念される。
【実施例】
【0016】
<比較例1,2>
まず、比較例として、リグニン誘導体を添加しない従来の成形体を作製した。比較例1ではレゾール型フェノール樹脂として昭和高分子株式会社製BRL−1025を用い、比較例2ではレゾール型フェノール樹脂として昭和高分子株式会社製BRL−1035を用いた。レゾール型フェノール樹脂の含有量が40重量%になるように、繊維長70mmのケナフ繊維を交絡させて形成した不織布に対してレゾール型フェノール樹脂を含浸させ、80℃にて揮発分が約7%になるまで乾燥し、次いで180℃で5分間、30kgf/cmの圧力を加え、ボード状に成形して比較例1,2の各成形体を得た。
【0017】
[レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量の測定]
リグニン誘導体を添加していない比較例1,2において、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量を塩化ヒドロキシルアンモニア法で測定した。その結果、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量は、比較例1では0.27重量%、比較例2では1.0重量%であった。
【0018】
<実施例1〜3>
そこで、実施例1〜3として、比較例1のレゾール型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社製、BRL−1025)に含まれるホルムアルデヒド1重量部に対してリグニン誘導体を固形分率で79.4重量部添加した。すなわち、ホルムアルデヒドを0.27重量%含むレゾール型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社製、BRL−1025)100重量部に対して固形分率で21.4重量部のリグニン誘導体を添加し、60℃で2時間撹拌して樹脂組成物を得た。ここで、リグニン誘導体として、実施例1では、粒径2mm以下のケナフの芯材粉砕品を用い、特開2006−225325号公報に開示される酸反応工程、固液分離工程、中和工程、乾燥工程を経て得られたフェノール化リグニン、実施例2では、市販のリグニンスルホン酸塩(日本製紙ケミカル株式会社製、バニレックスHW)、実施例3では、市販のリグニンスルホン酸(東京化成工業株式会社製、リグニン(アルカリ))を用いた。実施例1〜3でも得られた樹脂組成物中のホルムアルデヒド量を塩化ヒドロキシルアンモニア法で測定した。その測定結果からレゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量を算出し、表1に示す。次に、それぞれ樹脂組成物の含有量が40重量%になるように、繊維長70mmのケナフ繊維を交絡させて形成した不織布に対して樹脂組成物を含浸させ、80℃にて揮発分が約7%になるまで乾燥し、次いで180℃で5分間、30kgf/cmの圧力を加え、ボード状に成形して成形体を得た。
【0019】
<実施例4>
実施例4では、比較例2のレゾール型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社製、BRL−1035)にリグニン誘導体を添加した。具体的には、リグニン誘導体として上記実施例1と同じフェノール化リグニンを用い、レゾール型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社製、BRL−1035)に含まれるホルムアルデヒド1重量部に対して固形分率で21.4重量部のフェノール化リグニンを添加し、上記実施例1〜3と同様にして樹脂組成物を得た。比較例1,2や実施例1〜3と同様に、得られた樹脂組成物中のホルムアルデヒド量を塩化ヒドロキシルアンモニア法で測定し、その測定結果からレゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量を算出した。その結果を表1に示す。次に、この樹脂組成物を用いて上記実施例1〜3と同様にして成形体を得た。
【0020】
[曲げ強度の測定]
得られた比較例1,2と実施例1〜4の成形体について、JIS−K7055に準じて常態曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
[成形体からのホルムアルデヒド放出量の測定]
得られた比較例1,2と実施例1〜4の成形体について、ホルムアルデヒド放出量を測定した。その結果を、比較例1の成形体からのホルムアルデヒドの放出量を100としたときの相対値として表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1を見れば明らかなように、成形体の曲げ強度は、リグニン誘導体を含む実施例1〜4もリグニン誘導体を含まない比較例1,2とで同じであり、ホルムアルデヒド1重量部に対して20〜80重量部の範囲ではリグニン誘導体はホルムアルデヒドとの反応に使われ成形体の曲げ強度には影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0024】
また、実施例1では、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量は、リグニン誘導体の添加されていない比較例1のレゾール型フェノール樹脂に比べて56%も少なかった。これにより、レゾール型フェノール樹脂に加熱しながらフェノール化リグニンを添加することによりレゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量を低下させられることが明らかとなった。また、実施例1の成形体からのホルムアルデヒド放出量の結果から、レゾール型フェノール樹脂を含む成形原料をフェノール化リグニンの存在下で加熱成形することにより、成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減させることができることが明らかとなった。
【0025】
また、実施例1のフェノール化リグニンに代えて、リグニン誘導体としてリグニンスルホン酸塩又はリグニンスルホン酸の添加された実施例2、3において、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量はリグニン誘導体の添加されていない比較例1に比べて37%少なかった。これにより、レゾール型フェノール樹脂に加熱しながらフェノール化リグニン以外のリグニン誘導体を添加することによっても、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量を低下させられることが明らかとなった。また、成形体からのホルムアルデヒド放出量の結果から、レゾール型フェノール樹脂を含む成形原料をフェノール化リグニン以外のリグニン誘導体の存在下で加熱成形することによっても、成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減させることができることが明らかとなった。
【0026】
また、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド1重量部に対するフェノール化リグニンの添加量が少ない実施例4でも、十分な成形体からのホルムアルデヒド低減効果が認められた。しかし、実施例1では略100%低減できていることに対し、実施例4では若干量のホルムアルデヒドが残存していた。これにより、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド1重量部に対するリグニン誘導体の添加量は、20重量部以上とする必要があることが明らかとなった。
【0027】
また、実施例1と3の結果から、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド1重量部に対するリグニン誘導体の添加量が79.4重量部のとき、成形体からのホルムアルデヒド放出量が0に近似していることから、80重量部を超えてリグニン誘導体を添加しても余剰となるだけでホルムアルデヒド放出量を低減する効果には寄与しないことが明らかとなった。これにより、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド1重量部に対するリグニン誘導体の添加量は80重量部以下とするのが好ましいことが明らかとなった。また、実施例2の結果から、リグニン誘導体によっては成形体からのホルムアルデヒド放出量に多少のばらつきが生じることがあるが、レゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド1重量部に対するリグニン誘導体の添加量が80重量部あれば、どんなリグニン誘導体でも効果的に成形体からのホルムアルデヒドの放出量を低減することができることが明らかとなった。
【0028】
また、リグニン誘導体としてフェノール化リグニンを用いた実施例1と、リグニン誘導体としてリグニンスルホン酸塩又はリグニンスルホン酸を用いた実施例2,3とを比較すると、いずれも成形体の放出量を低減可能であるが、レゾール型フェノール樹脂に対して添加した段階にけるレゾール型フェノール樹脂中のホルムアルデヒド量は、フェノール化リグニンを用いた実施例1の方が少なかった。これにより、フェノール化リグニンは、比較的低温でもホルムアルデヒドとの反応性に優れ、より好適に用いることができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量低減方法であって、
レゾール型フェノール樹脂を含有する成形原料を加熱成形してレゾール型フェノール樹脂を含有する成形体を製造するにあたり、リグニン誘導体の存在下で加熱成形することを特徴とする、レゾール型フェノール樹脂を含有する成形体からのホルムアルデヒド放出量低減方法。


【公開番号】特開2010−248309(P2010−248309A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96754(P2009−96754)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】