説明

レゾール樹脂繊維の製造方法および繊維および製品

【課題】従来のレゾール樹脂の低曳糸性を改善し、さらに得られた繊維の脆さを改善することで取り扱い性も向上できるレゾール樹脂を主体とする繊維の製造方法およびそれから得られる繊維を提供する。
【解決手段】レゾール樹脂に溶液粘度が20〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%添加したブレンド物と溶媒から成る溶液を凝固液中で凝固せしめた後、延伸し、さらに130℃以上で緊張熱処理するレゾール樹脂繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曳糸性や脆性が改善されたレゾール樹脂を主体とする繊維の製造方法およびそれにより得られる繊維、製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維材料の産業資材への適用が進んでいるが、耐薬品性に優れ、さらに高温に曝されても溶融しない不溶不融の耐熱繊維およびそれからなる耐熱シートが注目されている。この耐熱シートは、耐熱ハニカム構造体として使用する場合もあるが、最も大きな用途は変圧器などに用いられる電気絶縁シートである。この電気絶縁シートへの要求特性は大きくは、絶縁破壊電圧が高いこと、油などの耐薬品性が高いこと、用途に応じた耐熱性の3点である。このような観点から、主としてメタアラミド繊維を用いた電気絶縁紙が使用されている。電気絶縁シートは変圧器内部で発生する熱量に応じて要求される耐熱性が異なり、高耐熱が要求されるものについてはメタアラミドが必須であるが、低い耐熱性でも良いものについてはポリエステルフィルムなどが使用される場合もある。しかしながら、メタアラミドとポリエステルの中間を埋める素材が存在せず、中耐熱領域でも高価なメタアラミドを敢えて使用している状況があり、中耐熱領域に適した低コストで作製できる電気絶縁シートが求められていた。
【0003】
一方、低コストの耐熱ポリマーとしては、架橋型のポリマーが適していると考えられ、特許文献1などに記載されているようにメラミン繊維なども検討されたことがあった。しかしながら、湿式紡糸の溶液処理などの設備費がかさむことや架橋処理が煩雑なことから、事業として広がらなかったようである。
【0004】
一方、活性炭繊維の原料として、やはり耐熱ポリマーとしてフェノール樹脂を用いた繊維が特許文献2などに記載されている。フェノール樹脂はフェノールをメチロール成分などで架橋することで、耐薬品性や耐熱性を向上させ不溶不融とするものである。フェノール樹脂は熱可塑型のノボラック樹脂と熱硬化型のレゾール樹脂に大別されるが、ノボラック樹脂は繊維化後改めて溶液中などで架橋剤により架橋させて硬化させる必要があるが、レゾール樹脂は熱処理のみで硬化が可能であり、実際の生産プロセスを考えた場合には、レゾール樹脂を選択することが好ましい。しかしながら、レゾール樹脂は分子量が比較的低いことから、曳糸性が極めて低く、レゾール樹脂単体では繊維化が難しい物であった。さらに、繊維にできたとしても脆く、曲げが不可能であり、扱い難いという致命的な欠点があった。
【0005】
以下、フェノール樹脂の繊維化に関する従来技術について述べる。特許文献3には、フェノール樹脂に繊維形成性高分子を10重量%以上ブレンドしたものを紡糸原液とし、これを湿式紡糸してフェノール樹脂繊維を得る方法が記載されている。しかし、具体例が挙げられているほとんどのもので繊維形成性高分子のブレンド率が40重量%以上の高率となっており、フェノール樹脂本来の耐熱性や耐薬品性を活かせる構成にはなっていない。特許文献3の具体例で最も繊維形成性高分子のブレンド率が低いのは特許文献3の実施例1に記載された二酢酸セルロース10重量%であり、また最も細い繊維径が得られていることから、これが特許文献3記載の発明の本命と考えられる。しかし、これとてもフェノール樹脂本来の耐熱性や耐薬品性を活かせる構成とは言えない。さらに、二酢酸セルロースは公定水分率が6重量%以上と高いため、電気絶縁用途には向かないポリマーである。
【0006】
また、特許文献4にはノボラック樹脂とレゾール樹脂の混合物をエレクトロスピニング(以下、ESPと略称することもある)することで、ノボラック樹脂とレゾール樹脂のブレンド物の極細繊維から成るシートを得ることが記載されている。しかしながら、エレクトロスピニングで得られる繊維は実質的に延伸を受けておらずレゾール樹脂の分子配向が極めて低いため、脆さの改善は不充分であり、やはり取り扱い性に劣る物であった。
【0007】
このように、低コストでしかも脆さが改善され取り扱い性に優れ、しかもレゾール樹脂が本来有している耐熱性や耐薬品性を兼備したレゾール樹脂系の繊維を得る方法は未だ達成されていなかった。
【特許文献1】特開平10−317286号公報
【特許文献2】特開2005−105452号公報
【特許文献3】特開2005−256182号公報
【特許文献4】特表2006−526085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、従来のレゾール樹脂の低い曳糸性を改善し、さらに得られた繊維の脆さを改善することで取り扱い性も向上できるレゾール樹脂を主体とする繊維の製造方法およびそれから得られる繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る製造方法は、レゾール樹脂に溶液粘度が20〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%添加したブレンド物と溶媒から成る溶液を曳糸して凝固液中で凝固せしめた後、延伸し、さらに130℃以上で緊張熱処理するレゾール樹脂繊維の製造方法である。
【0010】
また、本発明に係る繊維は、上記方法で得られた繊維である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るレゾール樹脂繊維の製造方法によれば、従来レゾール樹脂で問題となっていた曳糸性と繊維の脆さとを改善し、しかも低コストで取り扱い性に優れたレゾール樹脂繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0013】
本発明で言うフェノール樹脂とは、フェノールおよび/またはフェノール誘導体(以下、フェノール類と総称する)を構成単位とするポリマーであり、通常適切な架橋成分を含有する。フェノール樹脂は成形後適切な架橋処理により、硬化され耐薬品性や耐熱性に優れた不溶不融物とすることができる。フェノール樹脂は、熱可塑型のノボラック樹脂と熱硬化型のレゾール樹脂に大別されるが、ノボラック樹脂は成形後改めて溶液中などで架橋剤により架橋させて硬化させる必要があるが、レゾール樹脂は熱処理のみで硬化が可能であり、実際の生産プロセスを考えた場合には、レゾール樹脂を選択することが重要である。
【0014】
本発明で言うレゾール樹脂とは、フェノール類に加熱によって架橋反応を起こす官能基または置換基が導入されたモノマーまたはポリマーの混合物を言う。このため、熱処理のみで硬化が可能という利点を有する反面、曳糸性に劣り、紙や多孔体の含浸ポリマーとしてや、接着成分として用いられることが多い。また、ポリマー自身が非常に脆いという欠点がある。
【0015】
レゾール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られるものである。前記フェノール類としては、特に限定はないが、例えば以下のような物を例示することができる。すなわち、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価フェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類等を挙げることができる。また、キシレン・ホルムアルデヒド重縮合物やジシクロペンタジエン、パラキシリレンアルコール誘導体、桐油、トール油等を酸性条件下でフェノール類と反応させたものを用いてもよい。また、樹皮などの天然物から抽出されるフェノール誘導体やポリフェノールを用いても良い。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、高い力学物性が得られやすいことから、フェノール、クレゾール類、ビスフェノールAを好ましく用いることができる。また、天然物から抽出されるフェノール誘導体やポリフェノールは非石化原料であり、カーボンニュートラルの考え方から好ましい。
【0016】
また、前記アルデヒド類も特に限定はないが、例えば以下のような物を例示することができる。すなわち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキサゾール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独あるいは2種類以上混合して使用してもよい。これらの中でも合成時の反応性が高いことから、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドを好ましく用いることができる。
【0017】
レゾール樹脂の合成に用いる塩基性触媒としては、例えば以下のような物を例示することができる。すなわち、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、トリエチルアミンなどの第3級アミン、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物および水酸化物、炭酸ナトリウムヘキサメチレンテトラミンなどのアルカリ性物質を挙げることができる。これらの中でも電気絶縁シート用途は、電気伝導性が低いことが望ましいので金属や金属イオンを含有しない物が好ましく、具体的にはアンモニア水や第3級アミン(トリエチルアミンなど)やヘキサメチレンテトラミンなどのアミン系触媒が好ましい。また、反応性の観点からもアミン系触媒が好ましい。
【0018】
合成反応時のフェノール類に対するアルデヒドの反応モル比としては特に限定はないが、フェノール類1molに対し、アルデヒド類0.5〜3molとすることが好ましく、より好ましくはアルデヒド類は0.7〜2.5molである。
【0019】
レゾール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を反応させ、脱水した後、溶媒を添加し系内の沸点以下に保持して熟成を行い得ることができる。この時、熟成の温度を高温にしたり、時間を長く取ることにより、高分子量レゾール樹脂を得ることができる。熟成時間を制御すると、架橋反応を再現性良く制御できるため好ましく、熟成温度を高温にすると熟成時間を短くできるため好ましい。得られたレゾール樹脂を凝固させることを考えた場合には、凝固浴として水を用いると環境負荷、凝固液処理、回収の容易性から好ましいため、水で凝固できるようなレゾール樹脂とすることが好ましい。また、環境負荷の小さな溶媒が好ましく、具体的にはメタノールやエタノール、イソプロパノールなどのアルコール類やアセトンが好ましい。ただし、熟成温度を高温にする場合には、高沸点のジメチルスルフォキシドなどを用いてもよい。
【0020】
レゾール樹脂の分子量としては、あまりに低すぎると曳糸性に乏しく、高すぎると後述するような分子配向し難くなるため、ポリスチレン(PS)換算の重量平均分子量として、1,000〜50,000とすることが好ましい。重量平均分子量としては、4,000〜20,000とすると、さらに曳糸性が向上し、溶液とする時の溶解性も向上するため好ましい。なお、この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)を用いて測定を行い、以下の条件でPS換算で算出したものである。
【0021】
GPC本体 : TOSOH社製HLC−8120
分析用カラム: TOSOH社製G1000HLX1本、G2000HLX2本、
G3000HLX1本
溶出溶媒 : テトラヒドロフラン(以下、THFと略称する)
流量 : 1.0mL/分
カラム温度 : 40℃
検出器 : 示差屈折計
また、レゾール樹脂に含有されるホルムアルデヒドは少ない方が工程や製品化した時のアウトガスが少なく好ましい。より具体的には、滴定法で測定されるホルムアルデヒド含有量はレゾール樹脂全体に対し1重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5重量%以下である。
【0022】
本発明で言うレゾール樹脂には、レゾール樹脂の易硬化性を損なわない範囲で別のポリマーを含有していてもよい。別のポリマーのブレンド率としては10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは0重量%、すなわちレゾール樹脂100%である。別のポリマーとしては、ノボラック樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性ポリマーや光硬化性ポリマーなど、架橋により接着性や高耐熱・高耐薬品性を発現するポリマーを挙げることができる。また、レゾール樹脂の低い曳糸性を向上させる意味から、曳糸性の良いポリマーとすることもできる。例えば、ノボラック樹脂、セルロース、セルロース誘導体、高耐熱ポリオレフィン、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、パラアラミド、メタアラミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどを例示することができる。ただし、これらのポリマーはレゾール樹脂と共通の溶媒に溶解できることが重要である。また、ポリマー自身の吸水率や吸湿率が低い方が、電気絶縁用途に用いる際には好ましい。さらに低コストで架橋型のポリマーが耐熱・耐薬品性の観点から好ましく、ノボラック樹脂やエポキシ樹脂などが好ましい例として挙げられる。
【0023】
本発明で用いるレゾール樹脂の合成法について具体的な例を記載しておくが、もちろん本発明は何等これに限定されるものではない。攪拌装置、環流冷却器および温度計を備えた反応容器に、フェノール1000部、濃度37%のホルマリンを1550部、濃度27%のアンモニア水32部を加え、80℃で1時間反応させる。その後650mmHgの真空下で脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところでメタノール480部を加え熟成を行った後冷却し、レゾール樹脂を得ることができる。この時、反応時間を調整することで所望の重量平均分子量のレゾール樹脂を得ることができる。また脱水条件やその時間を変更することで残存ホルムアルデヒドや未反応フェノール濃度を低減することができ、残存ホルムアルデヒドは0.2〜0.5重量%、フェノールは2〜8重量%とすることが可能である。
【0024】
本発明で言うポリビニルブチラール(以下、PVBと略称する)とは、ブチラール基を主成分とし、水酸基と少量のアセチル基を含む共重合体であり、ポリビニルアルコール(PVA)をブチラール化することで得ることができる。また、ブチラール化する際にはPVAにブチルアルデヒドを反応させるが、この時にアセトアルデヒドなどの他のアルデヒド類を用いたり、これらを混用することも可能である。ただし、ブチルアルデヒドを反応させることがレゾール樹脂の曳糸性向上の観点から好ましい。なお、本発明では他のアルデヒド類を反応させたとしてもブチラール化という言葉を用いるものとする。レゾール樹脂の曳糸性や脆さを改善する観点から、ブチラール化度は50〜81.6mol%が好ましく、より好ましくは60〜68molとするとさらに曳糸性を向上できる。また、分子量についてもレゾール樹脂の曳糸性や脆さを改善する観点から大きい方が好ましく、分子量で5万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜20万である。また、分子量や重合度を反映するパラメータとして溶液粘度があり、工程管理の上からは溶液粘度で管理する方が簡便である。
【0025】
本発明においては、PVBの溶液粘度は、エタノールにPVBを5重量%の濃度になるように溶解し、以下の条件で溶液粘度を測定したものである。すなわち、東機産業(株)製のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計ELD)を用い、25℃で測定を行った。円錐角φ1゜34’、ローター回転数100rpmで、ずり速度383sec-1とした。なお、エタノールへの溶解性が不十分なPVBの溶液粘度については、エタノール/トルエン=1/1の混合溶媒などを用いることができるが、この時にはエタノール、混合溶媒の両方に溶解性良好なPVBで溶媒による違いを補正する検量線を作成し、エタノールでの溶液粘度に変換する。
本発明で用いるPVBの溶液粘度としては、レゾール樹脂の曳糸性や脆さを向上させる観点から20〜200mPa・sであることが重要である。PVBは高粘度であるほどレゾール樹脂の曳糸性が向上するため、50mPa・s以上とすることが好ましい。一方、PVBがあまりに高粘度になると、ブレンド物溶液、すなわち紡糸原液が過度に増粘し、かえって曳糸性が低下したり、繊維径が太くなったり繊維径ばらつきが大きくなる場合があるので、PVBの溶液粘度は好ましくは100mPa・s以下である。
【0026】
PVBのブレンド率としては、レゾール樹脂の曳糸性向上の観点から0.5重量%以上とすることが重要である。また、好ましくは1重量%以上であれば得られた繊維の脆さ改善にも効果が認められ、より好ましくは1.5重量%以上である。また、レゾール樹脂とPVBのブレンド物の凝固速度の観点からもPVB濃度は高い方が好ましい。一方、硬化後のレゾール樹脂の優れた耐熱性・耐薬品性を活かす観点からはPVBブレンド率は低い方が好ましく、5重量%以下であることが重要である。好ましくは3重量%以下である。
【0027】
本発明は、レゾール樹脂にPVBを少量ブレンドすることによりレゾール樹脂の欠点を解決するものであるが、この理由は定かではないが以下のように推定される。すなわち、レゾール樹脂の曳糸性の悪さや脆さは、レゾール樹脂が低分子量体であり、しかも紡糸のための原料の時から部分的に架橋しているため網目構造のような形態となり、直鎖ポリマーのような分子鎖間の絡み合いが少なく、また分子配向がほとんどできないためではないかと考えられる。ここに高溶液粘度、すなわち高分子量のPVBを少量ブレンドすると、PVBの水酸基とレゾール樹脂分子鎖が相互作用することで鎖延長が行われレゾール分子鎖長が伸びるだけでなく、PVBが多数保有する嵩高いブチラール基がレゾール樹脂の分子鎖の過度の凝集を抑制することで、変形追従性が向上し曳糸性や脆性が改善されるのではないかと考えられる。さらに、高分子量で直鎖型であるPVBが分子配向することで、それと相互作用しているレゾール樹脂分子鎖の網目も引き伸ばされ、レゾール樹脂分子鎖として分子配向するため脆性が改善されるのではないかと考えられる。なお、PVBの原料となるPVAでは、PVBのような効果はあまり見られない。これは、PVAは、側鎖のほとんどが水酸基であり、鎖連結効果というよりも架橋を進め分子鎖として伸びにくくなること、またブチラール基のような嵩高い側鎖を持たないため、PVBのような効果が発現し難いのではないかと思われる。
【0028】
このような観点から、前記したようにPVBの組成としてもブチラール化度に適正範囲があるものと考えられる。すなわち、ブチラール化度が低過ぎると、嵩高いブチラール基がレゾール樹脂の分子鎖の過度の凝集を抑制する効果が低下し、逆にブチラール化度が高過ぎると水酸基量が減少し、これによるレゾール樹脂の鎖連結効果が低下するのではないかと考えられる。また、ブチラール化する際にアセトアルデヒドよりもブチルアルデヒドを用いた方が曳糸性が向上したり繊維径ばらつきが改善するのは、ブチラール基の嵩高性の効果が現れているものと考えられる。
【0029】
また、本発明におけるPVBの添加は上記した曳糸性向上、脆性改善以外にも以下のようなメリットがある。すなわち、レゾール樹脂繊維では130℃以上の熱処理で硬化を行うが、後で述べるように、レゾール樹脂分子の架橋が未熟であると融解し、繊維形態を保持し難い場合がある。しかしながら、本発明ではPVBが鋳型となってレゾール樹脂分子を支えていると考えられるため、融解による繊維形態の崩壊を抑制する効果が有ると考えられる。この観点から、後述するように、130℃以上の硬化熱処理前に低温での予備熱処理を行うことが好ましいのであるが、PVBのガラス転移温度以下とすることがより好ましい。この観点からは、PVBのガラス転移温度は高い方が良く、70℃以上のガラス転移温度を持つ物がより好ましい。これに該当する物としては、例えば積水化学工業株式会社製S−LECのBH−3、BXシリーズ、KSシリーズや電気化学工業株式会社製デンカブチラール5000シリーズ、6000シリーズなどが挙げられる。
【0030】
本発明で言うブレンド物とは、レゾール樹脂とPVBから成るものである。また、これを繊維化したものはPVBを含むが、ほとんどがレゾール樹脂であるため、本発明では単にレゾール樹脂繊維と言うものとする。
【0031】
また、ブレンド物は適切な溶媒に溶解し溶液とすることで、溶液紡糸の紡糸原液とすることができる。この時の溶媒は、レゾール樹脂を含有するポリマーとPVBの双方を溶解できればよいが、例えばアルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシト(DMSO)など、またこれらとトルエンなど非極性溶媒との混合溶媒を挙げることができる。この中でも、環境低負荷の観点からはアルコール類やアセトンなど、またそれらの混合溶媒が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノールやイソプロパノールが好ましい。また、PVBの溶解性の観点からもアルコール類やアセトンが好ましい。紡糸原液中のレゾール樹脂の濃度は高い方が凝固速度が速く、また生産効率の観点からも好ましい。具体的には紡糸原液中のレゾール樹脂濃度は40重量%以上であることが好ましく、55重量%以上であることがより好ましい。なお、レゾール樹脂濃度の実用的な上限は一般に75重量%である。紡糸原液の粘度についても制限は無いが、低粘度過ぎると成形や紡糸をした際、溶液が繋がり難く、逆に高粘度過ぎると伸長性が低下するためやはり成形性や曳糸性が低下するため、適切な粘度を選択することが好ましい。具体的には、30〜5000mPa・sであることが好ましい。なお、レゾール樹脂として、芳香環成分としてフェノールを用いた物では500〜5000mPa・sであるが、芳香環成分としてキシレンを一部に用いたキシレン変性レゾール樹脂では30〜500mPa・sであることがより好ましい。なお、溶液粘度測定装置はPVBで用いたものを適用することができる。
【0032】
本発明では上記したブレンド物溶液を紡糸原液として溶液紡糸を行い繊維化を行うものである。より具体的には、紡糸原液を凝固液中で凝固させ、これを延伸し、さらに130℃以上で緊張熱処理を施すものである。
【0033】
ここで凝固とは、凝固液中に紡糸原液を導き、紡糸原液と凝固液の溶媒置換により紡糸原液中のブレンド物を固化させることを意味する。この時、ブレンド物は完全に固化しても良いし、溶媒を含んだ状態で変形し得るゲル状としても良く、本発明ではどちらの状態も単に凝固という言葉を充てる。また、凝固の際は、いわゆる湿式紡糸や乾湿式紡糸のように繊維化をしていても良いし、単に紡糸原液を凝固液に接触させただけの不定形の状態でも良い。
【0034】
凝固液としてはレゾール樹脂に対し貧溶媒を用いれば良い。先に述べたように、環境負荷、凝固液処理、回収の容易性から水を用いることが好ましい。この時、水とは、完全な純水では高コストとなるため純水に1重量%以下の不純物が混入していても良い。好ましくはイオン交換水や精密濾過水などを用いる。また、電気絶縁用途に用いる際はレゾール樹脂繊維に残存する無機イオンを極少化するため、導電率としては100μS以下の凝固液を用いることが好ましく、より好ましくは1μS以下である。なお、用いる液の導電率が低い方が良いのは、レゾール樹脂繊維の洗浄液にも同様にあてはまる。なお、凝固速度を向上させる目的で、無機塩を水に5〜30重量%混合させることも可能ではあるが、溶媒回収や凝固液処理にコストがかかりすぎる場合が有ること、前記した電気絶縁用途に供する場合には洗浄を確実に行うなどの注意が必要である。なお、無機塩としては、一般的に凝固速度を向上させる物が使用可能であり、特に制限はないが、硫酸ナトリウムや硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど、硫酸、塩酸、硝酸、炭酸などの金属塩を例示しておく。また、硫酸や塩酸などの酸性液体を凝固液用いることもできるが、装置の腐食や無機塩水溶液の場合と同様の注意が必要である。なお、レゾール樹脂として水溶性の物を用いる場合には、有機溶媒を凝固液に用いることができる。また、凝固速度を調節する目的で凝固液温度を管理することも好ましい。
【0035】
次に、凝固後に延伸を施すことが重要である。これにより硬化後のレゾール樹脂繊維の強度や弾性率を向上させることができるのはもちろんのこと、未延伸繊維と比較して繊維の脆性を大幅に改善し、しなやかな繊維とすることができる。実際、実質的に延伸操作のないエレクトロスピニングで得た繊維では硬化しても本発明で得られる繊維ほどはしなやかではない。また、延伸物は延伸後、張力を解除すると収縮するというゴム弾性挙動を示すことから、レゾール樹脂/PVBブレンド物において延伸により分子配向していると考えられる。そして、この収縮物を硬化しても、延伸物の硬化品に比べると脆いのである。このように、本発明において延伸するということがレゾール樹脂繊維の脆性改善に非常に重要なのである。
【0036】
また、この延伸物を緊張熱処理することが重要である。ここで、緊張熱処理とは延伸物の収縮を抑制あるいは禁制、さらにはストレッチ、追加延伸しながら熱処理を施すことを意味している。この時、収縮を抑制、禁制しているにもかかわらず、繊維には収縮応力あるいは延伸応力が作用しているため、前記した分子配向低下を抑制あるいは分子配向を維持、さらには分子配向を増大しながら硬化を進めることができるのである。また、後述するように、硬化熱処理時に繊維の融解を抑制する観点からも緊張熱処理は有効である。一般に緊張下ではポリマーの分子配向が保持され易いため、見かけ融点が向上することが知られている(「新版熱分析」、神戸・小沢編、p171(十時)、講談社(1992)を参照)。また、融解したとしても溶融張力が作用していることで形状を保つ効果があるために、緊張熱処理が繊維形態保持に有効に働くものと考えられる。
【0037】
具体的な緊張熱処理方法としては、延伸物を定長に固定して熱処理を施しても良いし、延伸ローラー等を用いて所望の収縮率、あるいは延伸倍率下で熱処理を施しても良い。熱処理方法としては乾熱処理、蒸気熱処理、浴中熱処理など任意の方法を採ることができる。装置の簡便さからは乾熱処理が好ましい。また、高温酸性蒸気や酸性浴を用い硬化速度を向上させることも不可能ではない。
【0038】
また、熱処理温度としては硬化を効率的に進める観点から130℃以上とすることが重要である。熱処理温度を高温にするほど硬化速度が向上するため150℃以上であることが好ましい。熱処理温度はレゾール樹脂の分解が問題にならない範囲で設定すれば良いが、250℃以下が普通である。
【0039】
延伸直後のレゾール樹脂繊維は硬化が進んでいないため融点が低く、すぐに130℃以上で硬化処理を行うと繊維が融解する場合がある。このため、この熱処理の前に60℃〜90℃で予備熱処理を行い、繊維が融解しない程度に架橋反応を進めておいてから、130℃以上の熱処理を施すことが好ましい。前記したようにPVB添加により繊維の融解を抑制する効果が有ると考えられるが、PVBのガラス転移温度は60〜110℃であるため、添加するPVBのガラス転移温度より低温で予備熱処理を行うとより好ましい。
【0040】
また、レゾール樹脂の硬化反応では脱水縮合が起こっているため繊維内部から水が発生するが、この脱離水を効率的に繊維外に排除しないと気泡が残存し、欠点となる場合がある。また、熱処理前に繊維中に残存溶媒が有ると、これが熱処理により気化し、気泡を発生させることもある。このため、低温の予備熱処理により、レゾール樹脂の硬化が未熟な段階で脱離水や残存溶媒を効率的に排除することは、繊維内の残存気泡を抑制する観点からも好ましい。この予備熱処理においても繊維の収縮を抑制、禁制する観点から、上記したような緊張熱処理とすることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法を用いることでレゾール樹脂の曳糸性が画期的に向上し、しかもこれで得られるレゾール樹脂繊維は、従来のレゾール樹脂とは全く異なり脆性が改善され、しなやかであるが、これは大きくは以下の2つの理由によるものと考えられる。一つ目は、前記PVBの効果の部分で述べたように、PVBの分子構造に由来するものである。すなわち、レゾール樹脂の曳糸性の悪さや脆さは、レゾール樹脂が低分子量体であり、しかも紡糸のための原料の時から部分的に架橋しているため網目構造のような形態となり、直鎖ポリマーのような分子鎖間の絡み合いが少ないものではないかと考えられる。ここに高溶液粘度、すなわち高分子量のPVBを少量ブレンドすると、PVBの水酸基によりレゾール樹脂の鎖延長が行われ分子鎖長が伸びるだけでなく、PVBが多数保有する嵩高いブチラール基がレゾール樹脂の分子鎖の過度の凝集を抑制することで、レゾール樹脂分子鎖の変形追従性が向上し、曳糸性や脆性が改善されるのではないかと考えられる。
【0042】
二つ目は、延伸および緊張熱処理によるPVB分子鎖を鋳型としたレゾール樹脂の分子配向である。すなわち、高分子量で直鎖型であるPVB分子鎖がまず引き伸ばされ、それと相互作用しているレゾール樹脂分子鎖の網目もPVB分子鎖に追随して引き伸ばされ、曳糸性が向上すると考えられる。さらに、PVB分子鎖が配向するが、これを鋳型としてレゾール樹脂分子鎖(網目)も分子配向するため脆性が改善されるのではないかと考えられる。
【0043】
以上より、PVB分子鎖がレゾール樹脂分子鎖と良く相互作用することと、分子鎖長が長いことがポイントであり、本発明で規定する範囲のPVBを用いることが非常に重要である。実は、レゾール樹脂にPVBを添加した樹脂は知られているが、その目的は含浸用レゾール樹脂の粘度調整であり、このため用いられるPVBも溶液粘度が10mPa・s未満と低い物であり、分子鎖長が短すぎるため本発明の効果を奏することはできない。また、ブレンド率も10重量%を超えるものであり、フェノール樹脂の特長を充分活かす物とは言えない。実際、溶液粘度が5mPa・sのPVBを添加しても、曳糸性向上は認められなかった。
【0044】
以上のように、本発明のレゾール樹脂繊維の製造方法の特徴と、曳糸性や得られる繊維のしなやかさが向上する技術思想を述べた。本発明の製造方法の具体的な様態については特に制限は無いが、いくつかの好ましい様態を例示する。もちろん、本発明はこれらにより何等制限を受けるものではない。
【0045】
まずは一つ目の方法として簡易繊維化方法を下記する。紡糸原液をシリンジから凝固液に押し出すが、この時、凝固液中に押し出しても、凝固液面に向かって空中に押し出しても良い。そして、押し出された紡糸原液を凝固液中で軽く攪拌し表面から徐々に凝固させる。この時、表面が白く変色することで凝固が進んでいることが分かる。紡糸原液の凝固が進むと、溶媒が残存したままゲル状になるので、これをピンセットなどで摘み、別途準備した長い凝固液中あるいは空中で引き伸ばし延伸を行って繊維化させる。この時、凝固によるゲル化状態を適度に調整することで曳糸性を調整することができる。すなわち、凝固が甘く、まだ白色への変化が進んでいない場合には、液体状態の性質が強く、引っ張っても繊維化は難しくすぐに破断してしまう。また、凝固が進みすぎると、ゲル状物が伸び難くなり、繊維の太細斑が大きくなるとともに細い繊維とすることは困難である。適度なゲル状態とは、全体が白色に変化しつつも未だ容易に変形しうる状態である。これは紡糸原液、すなわちレゾール樹脂とPVBのブレンド物が凝固しつつある状態で練り飴のように良く練ることで均一なゲル化状態を作り出すことができ、繊維径が25〜1,000μmで太細斑が少なく細い繊維を得ることができる。
【0046】
また、本簡易法では一旦不定形で凝固させるため、紡糸原液の溶液粘度やレゾール樹脂濃度の影響は小さく、幅広い粘度やレゾール樹脂濃度の紡糸原液での繊維化が可能であるというメリットがある。
【0047】
延伸後の繊維は離型紙やフィルム等に貼り付けて長さを固定することができる。そして、これを所望の条件で熱処理することで緊張熱処理が達成され、硬化したしなやかなレゾール樹脂繊維を得ることができる。
【0048】
また、熱処理前に繊維を定長に保持する等して緊張状態で水などの凝固液に浸漬し、さらに凝固を進めておくと、熱処理時に残存溶媒や脱離水が繊維から抜けることによる気泡の発生を抑制することができる。
【0049】
二つ目の方法としては、ポリアクリロニトリルなどで行われている、湿式紡糸や乾湿式紡糸を適用することである。これにより、工業的に長繊維(連続繊維)や短繊維を得ることができる。具体的な製法としては、公知の方法を採用することができるが、「最新の紡糸技術」、繊維学会編(1992)、第3章記載のように、紡糸原液を直接凝固液に吐出する湿式紡糸や紡糸原液を一旦空中に吐出した後、凝固液に導く乾湿式紡糸を用いることができる。
【0050】
本発明で用いる湿式紡糸法においては、ポリマーがレゾール樹脂とPVBのブレンド物であり凝固液が水の場合には、アクリルなど既に工業生産が完成しているポリマーに比べ一般に凝固速度が遅く、凝固浴を長くしなければいけないという課題が有る。一方、凝固速度が遅い故、一般の湿式紡糸で見られるスキンコア構造やボイド、繊維断面が不定形になるという問題を解決し易く、丸断面の均一な繊維が得られ易いというメリットがある。これは、凝固速度が遅いと、繊維の表面が過度に優先的に凝固することがなく、繊維直径方向で比較的均一に凝固が進行するためと考えられる。このため、凝固速度を如何に制御するかが重要であるが、レゾール樹脂と水では元々凝固速度が遅いため、如何に凝固速度を速くするかが技術ポイントになる。
【0051】
一つ目のポイントとしては、口金から凝固液中に吐出する紡糸原液、すなわちポリマー流の表面積を増大させることが好ましい。このため、なるべく細いポリマー流としたり、断面が異形のポリマー流とすることが有効である。細いポリマー流とするためには、口金単孔当たりの吐出量をなるべく減じることが良い。しかしながら、口金孔径が大きいとレゾール樹脂/PVB/溶媒から成るポリマー流と凝固液の界面張力の寄与が大きくなり過ぎポリマー流が凝固する前に液滴となることで、繊維化不能となる場合がある。このため、口金単孔の孔径としては、0.01〜0.10mmの範囲とすることが好ましい。より好ましくは0.02〜0.05mmである。通常、溶融紡糸や乾式紡糸、乾湿式紡糸の口金孔径が0.15〜0.50mm程度であることを考えると桁違いに細い口金孔径である。これにより、ポリマー流中の溶媒と凝固液の置換が効率的に行われるようになり、結果として凝固速度を向上させることができる。さらに単繊維の直径が細い繊維が得られ、熱処理時の気泡残存を抑制できるとともに、繊維のしなやかさを格段に向上でき、レゾール樹脂の欠点である脆性を解決することができるのである。さらに、しなやかとなることで、短繊維化やニードルパンチ、ウォータージェットパンチ時の粉体の発生や、ニードルパンチやウォータージェットパンチおよび抄紙時の繊維の絡みも良くなり、得られる不織布や紙のしなやかさも向上する等、不織布や抄紙に適した繊維とすることができるメリットもある。さらに繊維を細くする観点からは紡糸速度の向上が有効であり、最初の引き取りローラー速度としては5〜70m/分とすることが有効である。さらに高速化する場合には、口金から引き取りローラーに向かって積極的に凝固液の流れを付与することが好ましい。これらによって、単繊維の繊維径として1〜25μmが可能となる。また、単に繊維を細くするだけであれば、紡糸原液中のレゾール樹脂の濃度を下げることも有効である。
【0052】
二つ目のポイントは樹脂設計である。水で凝固させる場合には、樹脂の疎水性設計がポイントとなる。まず、レゾール樹脂として疎水性が強いことが凝固速度を向上させる観点から好ましい。具体的には、疎水基を有する芳香族成分や、水酸基を有しない芳香族成分をレゾール樹脂に共重合することが好ましい。疎水性の共重合成分としては、例えば、クレゾール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、t−ブチルフェノール、フェニルフェノール、カシューオイルやキシレンなどを挙げることができ、これらの共重合によりレゾール樹脂の疎水性を設計することができる。実際、フェノール性水酸基が少ないキシレン変性レゾール樹脂を用いると、凝固速度がフェノールのみのレゾール樹脂に比べ格段に速くなる。この観点からキシレン変性レゾール樹脂は、凝固速度が速く、湿式紡糸や乾湿式紡糸に適したポリマー組成と言うことができる。また、レゾール樹脂のメチロール基が少ない方が疎水性となるため、凝固速度のみを考えた場合には、なるべく高分子量化してメチロール基比率を減少させることが有効である。重量平均分子量として15,000以上であると凝固速度を速くすることができる。また、本発明ではPVBをレゾール樹脂に添加しているが、添加された状態ではPVBが疎水的に働くと考えられるため、PVB添加量が多いほどブレンド物としての疎水性が強くなり、凝固速・BR>Xを向上させることができる。この観点からはPVB添加量は1.5重量%以上が好ましい。
【0053】
また、最初の引き取りローラーで繊維を得た後、引き続いて空中あるいは凝固液中で延伸を施すことができる。この時、加熱下で延伸を行っても良いが、レゾール樹脂の融点を考慮すると糸切れや繊維の融着、こ着を回避するためには、延伸温度は20〜90℃とすることが好ましい。延伸は公知の装置を活用しローラー間で行うことができる。その後、さらに追加延伸を施すことや熱処理を施すこともできる。また、この後、洗浄を行った後、一旦巻き取ってから熱処理を行っても良いし、巻き取ることなくそのまま熱処理を連続して行っても良い。レゾール樹脂では熱処理時間が長いため、一般的には硬化のための熱処理は紡糸工程と切り離す方が好ましい。
【0054】
また、洗浄に先立って、無機塩水溶液や酸性液体、さらには酸性蒸気で処理することで、さらに凝固を進め溶媒を除去したり、予備的な硬化を進めておくこともできる。これは、特に130℃以上での熱処理前に繊維を巻き取る場合には、巻取糸パッケージ内での糸の融着やこ着を抑制するために有効である。特に繊維表面だけ軽く硬化を進めるため酸性液体や酸性蒸気で処理することは有効である。具体的には、延伸後に無機水溶液や酸性液体を満たした浴や酸性蒸気を満たしたボックス中に繊維を導くことで処理を行うことができる。ただし作業環境や装置の腐食などを考慮すると、無機塩水溶液浴を通す方が現実的である。また、延伸を無機塩水溶液や酸性液体、酸性蒸気中で同時に行うことも効率化の観点から好ましい。
【0055】
湿式紡糸法による具体的な製造法の一例を下記するが、もちろん本発明は何等これに限定されるものではない。まず、重量平均分子量4,000〜20,0000、残存ホルムアルデヒド量0.2〜1重量%のレゾール樹脂のメタノール溶液と、溶液粘度50〜100mPa・sのPVBをメタノールまたはアセトンまたはメタノール/アセトン混合溶媒に溶解した物をブレンドし、レゾール樹脂濃度40〜75重量%、レゾール樹脂とPVBの和に対するPVB濃度が1〜5重量%の溶液を調整し、溶液粘度が500〜5,000mPa・sの紡糸原液を調整する。この範囲の溶液粘度を持つPVBとしては、例えば積水化学工業株式会社製、S−LEC Bシリーズで高分子量のものが適切であり、より具体的にはBH−3(実測値65mPa・s)や同社製、BX−1(実測値63mPa・s)等を例示することができる。そして、この紡糸原液を口金孔径0.02〜0.08mm、口金孔数2,000〜10,000の口金から、凝固液中に吐出する。この時凝固液としては、イオン交換水(導電率1μS以下)を用いる。そして凝固液中を1〜10m通過させ5〜20m/分で回転する第一引き取りローラーで引き取り、その後、イオン交換水を満たした20〜50℃に調整された延伸浴に導き、ここでローラー間で2〜5倍の延伸を施す。この延伸を2回行った後、ローラー間で1.01〜1.20倍のストレッチを与えつつイオン交換水を満たした洗浄浴に通し、さらにローラー間で1.01〜1.20倍のストレッチを与えつつ70℃の乾燥機を通した後、一旦巻き取られる。その後、これをローラー間で1.01〜1.20倍のストレッチを与えつつ70〜90℃で乾熱で予備熱処理を行い、さらに1.01〜1.20倍のストレッチを与えつつ150℃で30〜1時間の熱処理を行い、硬化レゾール樹脂繊維から成る長繊維(連続繊維)を得ることができる。ここで得られる硬化レゾール樹脂長繊維としては、単繊維径1〜25μmの物を得ることができ、結節することができるほどしなやかなものである。なお、この長繊維は必要に応じて、繊維長0.1〜70mm程度の短繊維とすることもできる。そして、本発明のレゾール樹脂繊維は非常にしなやかであるので、ギロチンカッターなど従来のカッターを用いても粉体の発生が抑制されており、品質の良い短繊維を得ることができる。なお、凝固液として、前記した無機塩水溶液を用いることもできるが、この時は洗浄回数を増やし、イオン交換水での洗浄を特に念入りに行い、無機イオンがレゾール樹脂繊維に残存しないようにすることで、電気絶縁用途での信頼性を高くすることができる。また、硫酸や塩酸などの酸性液体を使用することもできるが、この時も同様にイオン交換水での洗浄を念入りに行うことが好ましい。
【0056】
本発明で用いる乾湿式紡糸法においては、凝固液にポリマー流が導かれて以降は上記した湿式紡糸と同様に繊維が作製される。乾湿式紡糸は湿式紡糸に比べエアギャップでのポリマー流の細化が加わるため紡糸ドラフトを高くでき、より紡糸速度を高速化し易い。乾湿式紡糸においては、エアギャップでのポリマー流動が重要であるが、この時、過度に低粘度では表面張力の寄与や紡糸張力に耐えられずに断糸してしまう。このため、紡糸原液の溶液粘度は高い方が好ましく、500mPa・s以上であることが好ましい。一方、紡糸原液の溶液粘度を5000mPa・s以下とすることで吐出安定性を向上することができる。より好ましくは、紡糸原液の溶液粘度は1000〜4000mPa・sである。また、紡糸口金と凝固液面の距離であるエアギャップ長も重要であり、エアギャップ長としては1〜50mmとすることで、空中でのポリマー流の細化を安定化することができる。
【0057】
三つ目の方法としては、メタアラミドなどで行われているフィブリッド化法である。これにより、抄紙原料に適した極細短繊維を効率良く得ることができる。これも紡糸原液を凝固液に導いて凝固させるのであるが、凝固液を高速流体とすることで紡糸原液に高い剪断応力を与え、これにより凝固させつつ延伸を加えて、極細短繊維、すなわちフィブリッドを得る方法である。フィブリッドとしては、単繊維径0.01〜10μm、単繊維長10〜5000μm(5mm)、長さと直径の比であるL/Dが10以上の物を得ることができる。
【0058】
簡易的には、5000rpm以上の高速攪拌機を備えた液体処理装置を用いることができる。そして、凝固液をこれに入れ、凝固液を高速で攪拌しつつ少しづつ紡糸原液を滴下しても良いし、まず凝固液を静置した状態で紡糸原液を滴下し、ある程度凝固した段階で高速攪拌を開始しても良い。後者の方法は、先に記載した一つ目の方法である簡易繊維化方法と類似であるが、高速流体による剪断を用いて延伸を行う点が異なる。このため、紡糸原液の設計などは先に記載した一つ目の方法である簡易繊維化方法に準ずることができる。一方、前者の方法はより複雑であり、以下、これについて詳述する。凝固液の高速流体による剪断場により紡糸原液が引きちぎられながら凝固が進むものである。この第一過程では、紡糸原液はほとんど凝固していないので紡糸原液/凝固液間の界面張力と高速流体による剪断応力により紡糸原液が細かな液滴に引きちぎられることが主として起こると考えられる。次に小液滴に引きちぎられた紡糸原液は剪断応力により再度引き伸ばされるため紡糸原液/凝固液の界面面積が飛躍的に増大し、急速に凝固が進むと考えられる。そして、凝固が進むことで、一つ目の方法である簡易繊維化方法で記載したように紡糸原液がゲル状になり、剪断応力をより強く受けるようになり、さらに細く引き伸ばされる。すなわち、第二過程としてレゾール樹脂/PVBブレンド物が延伸を受けるようになり、分子配向が急速に進むと考えられる。この第二過程が本発明で言う「延伸」に当たる。そして、そのまま攪拌を続けると、急速に拡大したブレンド物/凝固液界面で溶媒置換が増進され、さらに凝固が進むことで、延伸状態、すなわち分子配向された状態を維持できるようになる。これが第三過程である。その後、この懸濁液を沈降法や遠心分離、濾過などで分取することにより、レゾール樹脂繊維から成るフィブリッドを得ることができる。得られたフィブリッドは、そのまま熱処理を行っても良いし、抄紙の形態にして熱処理を行っても良い。また、フィブリッドを分離することなく、懸濁液のまま熱処理を行っても良い。この時、抄紙の形態で熱処理を行うと、フィブリッド同士が絡み合うことで収縮が抑制あるいは禁制され緊張熱処理が達成される。一方、懸濁液のまま熱処理を行う際には、繊維の収縮を低くするよう充分凝固あるいは軽く硬化しておくことで緊張熱処理が達成される。
【0059】
フィブリッド化法での第1の技術ポイントは、フィブリッドをよりしなやかにし、さらに極細化するための、ゲル状物の高倍率延伸法である。まずは剪断応力を高くすることが肝要であり、液体処理装置の攪拌速度を高くすることが有効である。さらに、第一過程であまりに小さな液滴に引きちぎられると、剪断応力が小液滴、すなわちゲル状物に働きにくくなる(これの理論については、J.Macromol.Sci.Phys.,B35(3&4),547−561(1996).を参照)ので、紡糸原液の粘度は高い方が良い。より具体的には、紡糸原液粘度は800mPa・s以上であることが好ましい。より好ましくは1500mPa・s以上である。
【0060】
第2の技術ポイントは、延伸状態の効率的な固定およびフィブリッド作製速度向上のための凝固速度の制御である。先に記載したように、レゾール樹脂/水系では凝固速度が遅いため、ゲル状物が分子配向を伴って延伸されるまで、また延伸状態を固定できるほど凝固するまでに時間がかかる。このため、凝固速度を速くすることが好ましい。具体的な方法としてまずは、先に記載したように凝固液を無機塩水溶液や酸性液体にすること、疎水性が強いレゾール樹脂を用いることが挙げられる。さらに、ブレンド物(フィブリッド)/凝固液界面での溶媒置換が凝固速度に大きな影響を与えていることを考えると、大きな比表面積を持つ細いフィブリッドになると凝固速度が格段に速くなると考えられる。このため、第1の技術ポイントで記載した事項も肝要である。
【0061】
第3の技術ポイントとしては、第一過程と第二、第三過程では求められる剪断応力のレベルが異なる場合があるため、それに応じて剪断応力を変化させることである。すなわち、上記したように第一過程では紡糸液滴を小液滴に引きちぎる際、小さくし過ぎると不都合が生じる場合がある。一方、第二、第三過程では剪断応力は高いほど良い。このため、第二、第三過程に相当する時間帯では第一過程での剪断応力より高い剪断応力をかけるように、凝固液の高速流体作成条件を変えることが好ましい。例えば、攪拌速度を最初よりもプロセス後半程高速にすることが考えられる。
【0062】
第4の技術ポイントとしては、フィブリッドの分取方法である。特に懸濁液を遠心分離にかける場合には、フィブリッド同士に圧力がかかるため、こ着し易い。このため、凝固を完全にしたり、フィブリッドの表面だけ軽く硬化することが好ましい。具体的な方法としては、凝固液として無機塩水溶液や酸性液体を用いたり、あるいは水凝固の場合には後でこれらの液体を追加することができる。また、懸濁液のまま90℃以下で熱処理し、軽く硬化させることも有効である。
【0063】
フィブリッド化法による具体的な製造の一例を下記しておくが、もちろん本発明は何等これに限定されるものではない。まず、重量平均分子量4,000〜20,0000、残存ホルムアルデヒド量0.2〜1重量%のレゾール樹脂のメタノール溶液と、溶液粘度50〜100mPa・sのPVBをメタノールまたはアセトンまたはメタノール/アセトン混合溶媒に溶解した物をブレンドし、レゾール樹脂濃度40〜75重量%、レゾール樹脂とPVBの和に対するPVB濃度が1〜5重量%の溶液を調整し、溶液粘度800〜5,000mPa・sの紡糸原液とする。この範囲の溶液粘度を持つPVBとしては、例えば積水化学工業株式会社製、S−LEC Bシリーズで高分子量のものが適切であり、より具体的にはBH−3(実測値65mPa・s)や同社製、BX−1(実測値63mPa・s)等を例示することができる。そして、高速攪拌機を備えた液体処理装置として実験用ミキサー(攪拌翼回転数10,000回転以上が可能)を用いる。これは実験用ミキサーの外観は家庭用ジューサーとよく似ている。この実験用ミキサーの容器の半分程度まで凝固液としてイオン交換水(導電率1μS以下)を入れる。そして、攪拌翼回転数0〜10,000回転/分で水を静置あるいは攪拌しつつ、紡糸原液をニードルを備えたシリンジから滴下する。この時の吐出量としては、1〜10mL/分とする。そして、紡糸原液滴下終了直後に回転数を5,000〜10,000回転とする。さらに、紡糸原液を滴下終了してから5〜15分後に攪拌翼の回転数を10,000〜15,000回転/分に増速し、30分〜2時間そのまま保持する。その後、メンブレンフィルターを用いて得られたフィブリッドを濾別し、その後イオン交換水でよく洗浄し風乾する。その後、60〜70℃で12〜36時間熱処理を施した後、さらに150〜180℃で40分〜2時間熱処理を行うことで、硬化レゾール樹脂フィブリッドを得ることができる。ここで得られる硬化レゾール樹脂フィブリッドとしては、単繊維径0.01〜10μm、単繊維長10〜5000μm(5mm)、長さと直径の比であるL/Dが50以上の物を得ることができる。なお、凝固液として、前記した無機塩水溶液を用いることもできるが、この時はイオン交換水での洗浄を特に念入りに行い、無機イオンがフィブリッドに残存しないようにすることで、電気絶縁用途での信頼性を高くすることができる。また、攪拌翼の回転数を上げる前や攪拌中でも硫酸や塩酸などの酸性液体を追添することで軽く硬化することもできるが、この時も同様にイオン交換水での洗浄を念入りに行うことが好ましい。
【0064】
なお、工業的には公知の大スケールで、好ましくは連続的にフィブリッドが得られる装置を用いることができる。工業化に適した装置としては、例えば特公昭37−5732号公報(特に実施例102、129)、特公昭40−9044号公報特開昭52−15621号公報、特開昭58−91814号公報等に記載された装置を挙げることができる。それぞれ、剪断場の作成方法が異なるが、これを剪断応力の向上の考え方はそれぞれの公報に記載されている。
【0065】
以上のような本発明の製造方法により得られる繊維は、レゾール樹脂特有の脆さを改善ししなやかさを向上させる観点から、長さと直径の比であるL/Dが10以上であることが好ましい。長さについては特に制限は無いが、後述するシートを形成させやすくする観点から50μm以上であることが好ましい。また、レゾール樹脂特有の脆さを改善ししなやかさを向上させる観点から、繊維直径は50μm以下とすることが好ましい。ところで、レソール樹脂では架橋反応で水が発生するが、硬化後の繊維にこの水に由来する気泡が残存する場合が有り、これを効率的に繊維外に排出し気泡の発生を抑制する観点からは繊維直径は25μm以下であることがより好ましい。繊維直径は、さらに好ましくは15μm以下である。また、本発明における繊維直径の下限は現実的には0.01μmである。
【0066】
また、本発明の製造方法により得られるレゾール樹脂繊維は様々な製品に好適に用いることができる。製品中で本発明のレゾール樹脂繊維は全てに用いられていても一部に用いられていても良い。また、本発明のレゾール樹脂繊維に由来する物品が製品に用いられていても良い。ここで、本発明のレゾール樹脂繊維に由来する物品とは、本発明のレゾール樹脂繊維からPVBを除去して多孔繊維や極細繊維としたり、炭素繊維化や活性炭素繊維化した物などを言うものである。
【0067】
また、これらは織編物や不織布、紙などのシート状(2次元構造体)としても良いし、組紐やハニカム構造体、コンポジットなどの3次元構造体としても良い。シート状とすると、レゾール樹脂特有の脆さを、細い繊維による形状効果(断面2次モーメントの減少)でも改善できるため好ましい。シート状の形態とすると、耐熱・耐薬品シートなどに応用することができるが、より具体的には、フェノール樹脂の耐熱・耐薬品性、電気絶縁性、難燃性を活かし、電気絶縁紙、耐熱・耐薬品フィルター、電池セパレーター、耐熱・耐薬品接着シート、難燃シートなどに用いることができる。
【0068】
上記したシート状物の好ましい製造方法については特に制限は無いが、例えば従来公知の不織布法や抄紙法を用いることができる。例えば、不織布を作製する方法としては、以下のような方法を例示することができる。まず、本発明により得られたレゾール樹脂繊維を繊維長30〜70mmにカットしレゾール樹脂短繊維を得る。この時、カットとして従来公知の方法を使用可能である。その後カーディングを行い短繊維を開繊させ、所望の目付に積層した後、ニードルパンチやウォータージェットパンチなどの方法で短繊維を絡め不織布化することができる。本発明のレゾール樹脂繊維は、従来の脆い物に比べ格段にしなやかさが向上しているため、カットやカーディング時にも粉体の発生が抑制されており、品質トラブルや工程トラブルの発生を大幅に抑制できるメリットがある。さらに、繊維がしなやかであるため、ニードルパンチやウォータージェットパンチでも繊維がよく絡み、引っ張りや圧縮、曲げ等の力学特性に優れ、さらに密度の高い不織布が得られるメリットもある。従来の物は、ニードルパンチやウォータージェットパンチで繊維を絡めようとしても、繊維が剛直で脆いため、繊維が絡まず力学特性や密度に優れた不織布が得られないばかりか繊維が割れた粉体が多く発生する等の致命的な問題があった。
【0069】
抄紙法については、特開2005−264420号公報や特開2006−257618号公報記載の方法をなど公知の方法を本発明のレゾール樹脂繊維の抄紙に応用することができる。本発明では、第1の方法としてレゾール樹脂長繊維を短カットし抄紙原料とする方法と第2の方法としてレゾール樹脂フィブリッドを抄紙原料とする方法がある。
【0070】
まず、第一の方法では、レゾール樹脂長繊維を0.1〜30mmにギロチンカッターなどを用いて短カットする。前記したように、本発明のレゾール樹脂繊維ではしなやかさが格段に改善されているため、繊維長10mm以下の短カットも可能である。そして、これを必要に応じて叩解しても良い。ただし、本発明により如何にレゾール樹脂繊維のしなやかさが改善されているとは言え、硬化レゾール樹脂は本質的に架橋ポリマーであり、フィブリル化はし難いものである。このため、叩解しようとしてもフィブリル化せず粉体化してしまうことの方が多い。このため、本発明で得られるレゾール樹脂繊維では叩解は行わない方が好ましい。しかしながらこのままでは抄紙原料として不適なため、なるべく細くて繊維長の短い繊維を用いることが好ましく、具体的には繊維径は1〜10μm、繊維長は1mm以下であることが好ましい。そして、分散剤を加えレゾール樹脂短繊維を分散させて抄紙原料スラリーを作製し、公知の抄紙機で必要に応じて支持体を用いて抄紙を行うことができる。また、簡易法として濾紙やメンブレンフィルター支持体として用いた濾過を行い、これらの上に紙を形成させることもできる。特に支持体としてはフッ素系やシリコーン系ポリマーから成る物、あるいはそれらでコーティングされた物など離型性の高い物を用いると、レゾール樹脂繊維から成る紙を単離し易く好ましい。本発明のレゾール樹脂繊維ではPVBが添加されていること、また分子配向していることから離型性が格段に向上しているため単離が可能なのである。通常、レゾール樹脂はワニスなどの含浸剤、接着剤として用いられることからもわかるように接着性が強く、離型性は極めて低い。このため、従来、レゾール樹脂を単離することは困難であった。本発明は、このように抄紙の時に重要な離型性という特性をも向上できるのである。また、抄紙の紙力を向上させるため、バインダーを併用することもできる。バインダーとしてはアラミドのパルプやそれのフィブリッド、また本発明により得られる硬化レゾール樹脂フィブリッドや未硬化レゾール樹脂フィブリッド、未硬化レゾール樹脂短繊維を用いることができる。また、液状フェノール樹脂やそれにPVBなど脆性を改善できる物質を添加したブレンド物を含浸してバインダーとすることもできる。このような方法により、厚み0.1〜2mmのレゾール樹脂繊維から成る紙を得ることができる。なお、電気絶縁用途に使用することを考えると、紙構造により繊維間に空隙、すなわち空気層が多くできると、ここで絶縁破壊が起こり、ポリマーの絶縁破壊特性を有効活用できない問題がある。このため、未硬化レゾール樹脂フィブリッド、未硬化レゾール樹脂短繊維など耐熱性・絶縁特性に優れた熱で賦型できるバインダーを用いると、これらを加熱プレスなどで融解させ紙中の繊維間空隙を埋めることでシートの絶縁破壊特性を大幅に向上できる。繊維間空隙の埋め易さの観点からは未硬化レゾール樹脂フィブリッドがより好ましい。この観点から液状フェノール樹脂やそれにPVBなど脆性を改善できる物質を添加したブレンド物をバインダーとして含浸し、その後硬化させることも空隙を埋め絶縁破壊特性を向上することができ、有効である。
【0071】
第2の方法は、フィブリッド化法で作製したレゾール樹脂フィブリッドを抄紙原料として用いる方法である。フィブリッドであれば、単繊維径0.01〜10μm、単繊維長10〜5000μm(5mm)、長さと直径の比であるL/Dが10以上と抄紙原料に適している。特に、単繊維径0.01〜1μm、単繊維長が100〜1000μm、L/Dが50以上の物が抄紙原料として適している。このような特殊な抄紙原料については、従来の長繊維を短カットする方法で得ようとしても限界があったが、フィブリッド化法を用いることで好適に得ることができる。抄紙原料スラリーは、一旦懸濁液から分取したものを再度溶媒に分散させた物で良いし、分取前の懸濁液をそのまま用いても良い。この時必要に応じて分散剤やその他の添加物を加える。その後は、第1の方法と同じく抄紙を行う。ただし、極細短繊維であるフィブリッドを用いているため、第一の方法の時よりも支持体の目開きを小さな物を用いることでフィブリッドのすり抜けを抑制することができる。また、フィブリッドの単繊維径が小さいので、第一の方法に比べより薄い紙を作製し易いというメリットがある。また、抄紙の紙力を向上させるため、バインダーを併用することができる。バインダーとしてはアラミドのパルプやそれのフィブリッド、また本発明により得られる未硬化レゾール樹脂フィブリッド、未硬化レゾール樹脂短繊維を用いることができる。また、液状フェノール樹脂やそれにPVBなど脆性を改善できる物質を添加したブレンド物を含浸してバインダーとすることもできる。このような方法により、厚み10〜1,000μmのレゾール樹脂繊維から成る紙を得ることができる。なお、電気絶縁用途に使用することを考えると、紙構造により繊維間に空隙、すなわち空気層が多くできると、ここで絶縁破壊が起こり、ポリマーの絶縁破壊特性を有効活用できない問題がある。このため、未硬化レゾール樹脂フィブリッド、未硬化レゾール樹脂短繊維など耐熱性・絶縁特性に優れた熱で賦型できるバインダーを用いると、これらを加熱プレスなどで融解させ紙中の繊維間空隙を埋めることでシートの絶縁破壊特性を大幅に向上できる。繊維間空隙の埋め易さの観点からは未硬化レゾール樹脂フィブリッドがより好ましい。この観点から液状フェノール樹脂やそれにPVBなど脆性を改善できる物質を添加したブレンド物をバインダーとして含浸し、その後硬化させることも空隙を埋め絶縁破壊特性を向上することができ、有効である。
【0072】
このようにして紙を得ることができるが、抄紙原料となるレゾール樹脂繊維が細すぎるなどの原因で水抜け性が悪く厚い紙を得難い場合には、転写などの方法により薄い紙を積層することで厚い紙を得ることもできる。さらに、得られた紙は加熱プレス加工やエンボス加工などによりさらに厚さを調整したり、表面状態(目開きなど)を制御することができる。
【0073】
さらに、以上の方法を応用したり併用したりして、積層紙を得ることも可能である。例えば、まず、第2の方法を用いて厚み10〜200μmのフィブリッドから成る紙(表層)を形成し、次に硬化レゾール樹脂フィブリッドと未硬化レゾール樹脂フィブリッドあるいは未硬化レゾール樹脂短繊維を0/100〜90/10で混合したものを抄紙原料として抄紙を行い、厚み50〜800μmの中間層を形成させる。さらに第2の方法を用いて再度厚み10〜200μmのフィブリッドから成る紙(表層)を形成し、3層構造からなる紙を得ることができる。これを150〜220℃で加熱プレスし、中間層の未硬化レゾール樹脂フィブリッドを融解させて硬化レゾール樹脂フィブリッド間の隙間を埋め、表層は紙による多孔構造を維持しながら中間層は硬化レゾール樹脂で埋められた3層構造特殊紙を得ることができる。この3層構造特殊紙は電気絶縁紙に最適である。というのは、単なる紙構造では繊維間に空隙、すなわち空気層が多くできるため、ここで絶縁破壊が起こり、ポリマーの絶縁破壊特性を有効活用できない問題がある。このため、電気絶縁に関しては空隙の無いフィルム構造の方が有利なのであるが、フィルムは表面に多孔構造が無いため、ワニスを含浸できず接着性が悪いという問題がある。しかしながら、本発明の3層構造特殊紙では表層は紙による多孔構造と維持しながら、中間層はフィルム構造のように空隙が無いため、両者の長所を兼備することができるのである。このような3層特殊紙は多孔構造部分厚みは5〜100μm、中間層であるフィルム構造部分厚みは20〜500μmとすることで薄くて絶縁破壊に優れた電気絶縁紙とすることができる。また、これの変形として多孔構造をシートの片側だけとした2層構造紙や3層でも表と裏で多孔構造が異なる非対称構造紙、さらに多孔構造とフィルム構造の中間構造を形成させるために4層以上の構造とすることもできる。また、特にフィブリッドの単繊維径が250μm以下のナノファイバーが主体となると顕著であるが、最下層の紙が緻密に成りすぎると抄紙時の水抜けが悪くなるため中間層や上層の紙形成が劣る場合がある。このため、最下層は実用上の問題がない範囲で薄くするかフィブリッドの単繊維径が250μmを超える物をフィブリッド全体の80重量%以上とすることが好ましい。この観点から最下層の抄紙時の厚みは10〜100μmとし、加熱プレス後の厚みは5〜50μmとすることがより好ましい。なお、前記したように転写法を用いて積層する事も可能である。
【0074】
本発明のレゾール樹脂繊維は前記したように、電気絶縁紙に活用することができる。電気絶縁紙として用いる場合には、耐熱性・耐薬品性の観点からレゾール樹脂を高度に硬化させておく必要があり、25℃でのアセトン浸漬前後での重量減少率は8重量%以下とすることが好ましい。より耐熱性・耐薬品性を向上させるためには重量減少率は5重量%以下とすることがより好ましい。また、電気絶縁紙を形成するポリマーにおけるフェノール樹脂含有量は90重量%以上が好ましく、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは97重量%以上である。また、前記したように表層は多孔構造内層はフィルム構造である多層紙とすることが、絶縁破壊とワニス含浸性を両立する観点から好ましい。また、最も重要な特性である絶縁破壊電圧は20kV/mm以上とすることが好ましく、メタアラミド紙同等以上の25kV/mm以上とすればより好ましい。このような絶縁破壊特性を得るためには、硬化レソール樹脂繊維の吸湿率を低くすることが好ましい。この観点から、前記した疎水性が強いレゾール樹脂を原料として用いることが好ましい。さらに、本発明では疎水性であるPVBを添加物として採用していることも重要な役割を果たしている。一方、特許文献3に記載されている吸湿性の高いポリマーでは絶縁破壊には不利である。例えば該文献での本命技術と思われる二酢酸セルロースでは公定水分率が6%以上と高吸湿ポリマーである。
【0075】
電気絶縁紙とする場合の厚みとしては50μm〜2mmとすることが好ましい。元の紙が薄い場合には積層し厚み調整をすることができるが、あまりにも多数積層すると層間剥離などにより空気層が形成されると絶縁破壊電圧が低下するため、積層は3層以下とすることが好ましく、より好ましくは1層である。また、電気絶縁紙を変圧機等に使用する場合には巻かれるため、紙のしなやかさが重要である。このため、挫屈が発生する直前の曲率半径は小さいほどしなやかさに優れており、曲率半径は10mm以下であることが好ましく、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。本発明のレゾール樹脂繊維は従来の物に比べ、格段にしなやかさが向上しているため、例え厚さ2mmのシートを形成しても2mm以下まで曲率半径を小さくすることが可能である。さらに、このようなしなやかなシートであるため、シートを積層したとしても剥離し難いものであり、積層シートとすることも可能である。 また、本発明のレゾール樹脂繊維は耐熱・耐薬品性フィルターとしても有用である。既に特許文献4にはフェノール樹脂のエレクトロスピニングにより多孔構造シートを形成し、これを活性炭素化することでシガレットフィルターを提案している。しかしながら、少なくとも活性炭化する前の硬化レゾール樹脂繊維の段階で考えると、該文献ではPVBが添加されておらず、しかもエレクトロスピニングによる繊維は延伸されていないため本発明の硬化レゾール樹脂繊維に比べて脆くフィルターの取り扱い性は不良と考えられる。これに対し、本発明のレゾール樹脂繊維はしなやかであり、PVBブレンド率も5重量%以下と低いためフェノール樹脂の特徴を損なうことが無いので、特に耐熱性と耐薬品性の両立が必要な分野で有用である。例えば、半導体や液晶工場などでは近年、腐食性や溶解性の強い溶液やガスを扱うことが増加しており、これらが高温で使用される場合もあるが、冷却することなく、そのまま濾過できる本発明によるフィルターは有用である。
【0076】
基本的には前記した抄紙法に準じてフィルターが作製できるが、もちろん本発明はこれに限定されるものではない。レゾール樹脂繊維を用いた抄紙単体でのフィルターを作製する場合には、支持体として前記した離型性の高いメンブレンフィルターなどを用いることが好ましい。また、抄紙と支持体とを積層するフィルターでは、支持体にも耐熱性や耐薬品性に優れた物を用いることが好ましい。より具体的には、ポリプロピレンやポリフェニレンスルフィド、フッ素系、シリコーン系ポリマーから成る薄くて通気度の高い不織布や織物を用いることが好ましい。フィルターとする場合には、用いるレゾール樹脂繊維は細い方が良く、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0077】
また、ハニカム構造体として使用する場合には絶縁破壊電圧は必要無いが、この他の特性は電気絶縁紙に準じた特性が要求される。また、本発明のレゾール樹脂繊維は消防服や焼却炉のバグフィルターなど耐熱性が要求される衣料やインテリア、産業資材にも幅広く使用することができる。
【0078】
本発明のレゾール樹脂繊維は炭素繊維や活性炭繊維前駆体としても有用である。このための炭素化や賦活処理については、従来公知の方法が活用できる。例えば、特開2004−43997号公報や特表2006−526085号公報記載の方法を参考にすることができる。炭素化で使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等を用いることができる。炭素化の温度は600〜1000℃とすることで炭素化が可能である。炭素化をより効率的に進める観点からは、炭素化の温度は800℃以上が好ましい。また、賦活化も従来公知の方法を使用することができ、上記のように炭素化した物を水蒸気、空気あるいはこれらを混合した酸化性ガスを導入するなどして効率よく活性炭を得ることができる。例えば、本発明の硬化レゾール樹脂繊維を試験炭化炉に入れ、窒素気流下800〜900℃、20〜40分の条件で炭素化することができる。また、本発明の硬化処理品を石英セルに入れ、25℃から3〜10℃/分の昇温速度で800〜900℃まで昇温し、窒素・水蒸気の混合ガスを石英セルに5〜20分間導入する。この時、窒素・水蒸気混合ガスは、予め70〜90℃に調整された温水中に窒素ガスを導入して得ることができる。次に窒素ガスのみを石英セルに導入しながら冷却し、活性炭を得ることができる。なを、フィブリッドなどのように極細繊維が得られている場合には、より広い比表面積を有するため効率的に炭素化、賦活化を進めることができる。さらに、極細繊維が元々広い比表面積を有するため、効率的にミクロ孔、メソ孔を形成できる。通常の活性炭ではミクロ孔、メソ孔を多く形成させるため、賦活処理を過度に行いエネルギーロスが大きいという問題があった。さらに、ミクロ孔、メソ孔よりもマクロ孔が多く形成されてしまうため、測定される比表面積の割に吸着能が低いという問題があった。また、本発明ではPVBを添加しているが、PVBは炭素化のような高温熱処理を受けるとほとんど残さを残さずガス化してしまう。このため、PVBが微分散していると思われる本発明のレゾール樹脂繊維を活性炭化した場合には、PVB未添加品に比べメソ孔の寄与を多くすることができ、通常のヤシ殻活性炭などでは吸着し難い高分子量の化学種を効率よく吸着できるメリットが有る。また、PVBブレンド率が高すぎるとメソ孔でなくマクロ孔に転化し、化学種の吸着に寄与し難くなるが、その点本発明ではPVBブレンド率は5重量%以下であるので、マクロ孔への転化が起こり難いメリットがある。
【0079】
このような活性炭繊維は、わた状物や多孔性シート状物とすることができ、電池やキャパシターの電極やVOCなどの有害物質、また有用物質の良好な吸着体やフィルターとすることもできる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0081】
A.レゾール樹脂の重量平均分子量
重量平均分子量はGPCを用いて測定を行い、以下の条件でPS換算で算出したものである。
【0082】
GPC本体 : TOSOH社製HLC−8120
分析用カラム: TOSOH社製G1000HLX1本、G2000HLX2本、
G3000HLX1本
溶出溶媒 : テトラヒドロフラン
流量 : 1.0mL/分
カラム温度 : 40℃
検出器 : 示差屈折計
B.ポリマーの溶液粘度
ポリマーの溶液粘度は東機産業(株)製のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計ELD)を用い、25℃で測定を行った。円錐角φ1゜34’、ローター回転数100rpmで、ずり速度Ds=383sec-1とした。また、PVBの溶液粘度は、濃度5重量%のエタノール溶液で測定を行った。
【0083】
C.曳糸性
曳糸性を以下のように評価し、○以上を合格とした。
【0084】
直径2mm以下で30cm以上の曳き伸ばしが可能であった物 : ◎
直径2mm以下で10cm以上の曳き伸ばしが可能であった物 : ○
直径2mm以下とすることができたが10cm以上曳き伸ばせなかった物 : △
直径2mm以下まで伸ばそうとすると破断した物 : ×
D.離型性
未硬化繊維を離型紙に貼り付け、硬化後の繊維の剥がれ易さで評価を行い、○以上を合格とした。
【0085】
離型紙から容易に剥がれ繊維の割れが無かった物 :○
離型紙から剥がれるが繊維に離型紙が一部付着した物 :△
離型紙から剥がすことができなかった物 :×
E.繊維のしなやかさ
繊維で一重の結び目を作って評価を行い、○以上を合格とした。
【0086】
結び目の直径が1.5mm以下の物 : ◎
結び目の直径が2mm以下の物 : ○
結び目の直径が2mmを超え5mm以下の物 : △
結び目が5mmを超える、あるいは結べない物 : ×
参考例1(レゾール樹脂の合成)
攪拌装置、環流冷却器および温度計を備えた反応容器に、フェノール1000部、濃度37%のホルマリンを1550部、濃度27%のアンモニア水32部を加え、80℃で1時間反応させた。その後650mmHgの真空下で脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところでメタノール480部を加え熟成を行った後冷却し、レゾール樹脂を得た。これの重量平均分子量をGPCで測定したところ14,000であり、残存ホルムアルデヒドは1%であった。
参考例2(レゾール樹脂の合成)
熟成時間を変更して参考例1と同様にレゾール樹脂を得た。これの重量平均分子量4,800、残存ホルムアルデヒド量が0.4%であった。
【0087】
参考例3(レゾール樹脂の合成)
熟成時間を変更して参考例1と同様にレゾール樹脂を得た。これの重量平均分子量17,000、残存ホルムアルデヒド量が1%であった。
【0088】
実施例1〜3
参考例1で合成したレゾール樹脂をメタノールに溶解した物と、溶液粘度65mPa・sのPVB(積水化学工業株式会社製、S−LEC B:BH−3)をメタノール/アセトン=6/4の混合溶媒に溶解した物をブレンドし、紡糸原液を調整した。PVB濃度は、レゾール樹脂とPVBの和に対するPVBの比率である。なお、ここで用いたPVBの計算分子量は11万、ブチラール化度は65mol%。Tgは71℃であった。なお、計算分子量とは、積水化学工業株式会社 S−LECシリーズのカタログ(JUL.2005)記載の値である。なお、ここではレゾール樹脂/メタノール溶液に別途調整したPVB/混合溶媒(PVB濃度10重量%)を添加して紡糸原液を調整したため、PVBが高濃度ほど紡糸原液粘度が低下した。
【0089】
この紡糸原液を0.5mLシリンジで吸い取り、イオン交換水200mL(導電率1μS)を凝固液としてこれの液面に滴下した。すると、紡糸原液が液面に拡がり膜化したので、ピンセットでこの膜を掴み水中で攪拌した。すると紡糸原液が黄色透明から白色に変化し凝固が進みゲル状になった。そして、このゲル状物を練り飴のように練り、黄色の所が無くなったところで水から取り出し、ゲル状物の端をピンセットで掴んで空中で延伸を行った。この時の曳糸性を表1に示すが、いずれも優れた曳糸性を示した。また得られた繊維は均一に細く引き伸ばすことが可能であり、繊維径300μm程度の繊維が得られ、また目視判定では繊維の太細斑は見られなかった。なお、凝固が進むと延伸張力が高くなり曳糸性が低下するが、それまでの時間により凝固速度を定性的に判断することができる。これによると、PVB添加量が多いほど凝固速度が速くなった。次に、これを別途準備したバット(20cm×15cm)にやはりイオン交換水を満たし、これの水中に繊維が浸されるようにしてバットの両端に繊維を固定して繊維の収縮を禁制しつつ、凝固をさらに進めた。次に、これから繊維を取り出し、離型紙に繊維を貼り付けた。繊維は完全に凝固しているわけではなかったので、繊維を離型紙上に置き、繊維の両端を押さえるだけで繊維を定長に固定できた。そしてこれを乾熱オーブンを用い70℃で24時間予備熱処理した後、さらに150℃で1時間硬化熱処理を行った。得られた硬化レゾール樹脂繊維を離型紙から剥がしたところ、いずれも繊維が割れることなくスムーズに剥がすことができ、優れた離型性を示した。また、これらの繊維を結んだところいずれも優れたしなやかさを示した。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0090】
実施例4
PVBとして溶液粘度163mPa・sの電気化学工業株式会社社製、デンカブチラール6000C(重合度2400、Tg=88℃、デンカブチラールカタログ(JUN.2007)記載の値)に変更し、実施例2と同様に紡糸原液の調整を行った。得られた紡糸原液は、レゾール樹脂濃度は57重量%、溶液粘度が2230mPa・sであった。この紡糸原液を用いて実施例2と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、直径2mm以下で長さ30cm以上の繊維を得ることができ、従来のレゾール樹脂に比べ曳糸性に優れることを確認した。また、離型性やしなやかさ、繊維径についても実施例2と同等であった。ただし、繊維の太細斑は実施例2に若干及ばない物であった。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0091】
実施例5
PVBとして溶液粘度23mPa・sの積水化学工業株式会社製、S−LEC B BH−6(計算分子量9.2万、ブチラール化度69mol%、Tg=67℃)を用い、実施例2と同様に紡糸原液の調整を行った。得られた紡糸原液は、レゾール樹脂濃度は57重量%、溶液粘度が1190mPa・sであった。この紡糸原液を用いて実施例2と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、直径2mm以下で長さ10cm以上の繊維を得ることができ、従来のレゾール樹脂に比べ曳糸性に優れることを確認した。しかしながら、得られた繊維の直径は500μm程度と実施例2の物に比べると太いものであった。また、凝固速度は実施例2に比べると遅い物であった。
【0092】
実施例6
PVBとして溶液粘度63mPa・sの積水化学工業株式会社製 S−LEC B BX−1(計算分子量10万、ブチラール化度66mol%(ただし、ブチラールとアセタールの共重合物)、Tg=90℃)を用い、実施例2と同様に紡糸原液を調整した。得られた紡糸原液は、レゾール樹脂濃度は57重量%、溶液粘度が1350mPa・sであった。この紡糸原液を用いて実施例2と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、直径2mm以下で長さ10cm以上の繊維を得ることができ、従来のレゾール樹脂に比べ曳糸性に優れることを確認した。しかしながら、得られた繊維の直径は400μm程度と実施例2の物に比べると太いものであった。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0093】
比較例1
参考例1で合成したレゾール樹脂にPVBをブレンドすることなく、実施例1と同様に繊維化を試みた。しかし、凝固速度が実施例1に比べ遅く、さらに直径2mmまで引き伸ばすことができず、曳糸性に乏しい物であり、繊維化不能であった。
【0094】
比較例2
PVBを溶液粘度5mPa・sの物(積水化学工業株式会社製、S−LEC B:BL−1)に変更し、実施例2と同様に繊維化を試みた。しかし、凝固速度が実施例1に比べ遅く、さらに直径2mmまで引き伸ばすことができず、曳糸性に乏しい物であり、繊維化不能であった。
【0095】
実施例7
PVB添加量を0.5重量%として、実施例1と同様に紡糸原液の調整を行った。得られた紡糸原液は、レゾール樹脂濃度は70重量%、溶液粘度が4300mPa・sであった。この紡糸原液を用いて実施例1と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、直径2mm以下で長さ10cm以上の繊維を得ることができ、従来のレゾール樹脂に比べ曳糸性に優れることを確認した。しかしながら、繊維径は800μm程度と実施例1〜3に比べると太く、また繊維の太細斑も実施例1〜3に比べると一歩譲るものであった。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0096】
比較例3
PVB添加量を7重量%として、実施例1と同様に紡糸原液の調整を行った。得られた紡糸原液は、レゾール樹脂濃度は47重量%、溶液粘度が800mPa・sであった。この紡糸原液を用いて実施例1と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、曳糸性、繊維のしなやかさには問題無かった。次に繊維の耐薬品性を調べるためアセトン(25℃)に浸漬し、重量減少を測定し、アセトン抽出量を算出した。比較例3ではPVB含量が多いためアセトン抽出量が10重量%と、実施例1の3重量%以下に比べ多く、耐薬品性に劣る物であった。
【0097】
実施例8
参考例2で作製した重量平均分子量4800のレゾール樹脂を用い、実施例2と同様に紡糸原液の調整を行った。この紡糸原液を用いて実施例2と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、曳糸性、硬化レゾール樹脂繊維の離型性、しなやかさに優れることを確認した。しかしながら、得られた繊維径は500μm程度と実施例2に比べると太く、また繊維の太細斑も実施例2に比べると一歩譲るものであった。また、凝固速度が実施例2よりも遅いものであった。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0098】
実施例9
参考例3で作製した重量平均分子量17000のレゾール樹脂を用い、実施例2と同様に紡糸原液の調整を行った。この紡糸原液を用いて実施例1と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、実施例2同様に曳糸性、硬化レゾール樹脂繊維の離型性、しなやかさ、繊維の太細斑に優れることを確認した。また、凝固速度が実施例2よりも速いものであった。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0099】
実施例10
レゾール樹脂として住友ベークライト社製PR−53123(キシレン変性レゾール樹脂)を用い、実施例2と同様に紡糸原液を調整した。得られた紡糸原液は、レゾール樹脂濃度は40重量%、溶液粘度が35mPa・sであった。この紡糸原液を用いて実施例2と同様に繊維化、熱処理を行ったところ、曳糸性、硬化レゾール樹脂繊維の離型性、しなやかさに優れることを確認した。しかしながら、得られた繊維径は400μm程度と実施例2に比べるとやや太く、また繊維の太細斑も実施例2に比べると一歩譲るものであった。ところで、凝固速度が実施例2よりもかなり速く、この観点からは湿式紡糸や乾湿式紡糸のような連続繊維化方法やフィブリッド化法などではメリットが有ると考えられた。また、参考例1〜3で合成したホモレゾール樹脂の場合に比べ、延伸した際の収縮力が強いものであった。この観点からは、このキシレン変性レゾール樹脂をフィブリッド法に用いる場合には、より強い剪断応力の付与が必要になると考えられた。また、繊維化した後に充分凝固させ、さらにPVBのガラス転移温度以下で予備熱処理を行い、緊張下で熱処理を行ったため繊維形態を保持し、得られた繊維に気泡の残存も見られなかった。
【0100】
実施例11
実施例2と同様に延伸操作まで行い、繊維長を固定した状態で10%硫酸水溶液中に24時間浸漬した。その後、純水で充分洗浄した後、やはり繊維を離型紙に貼り付け、予備熱処理を行うことなく130℃で3時間の緊張熱処理を行った。結果、実施例2同様優れた繊維を得ることができた。ただし、硫酸処理を行ったため洗浄に手間がかかり、スケールアップの際には生産効率低下要因になると考えられた。
【0101】
比較例4 実施例2と同様に延伸操作まで行い、バットに張った水中で自由収縮させ、これ以降は実施例2と同様に熱処理を行った。硬化処理後のサンプルを離型紙から剥がそうとしたところ、サンプルが離型紙に接着していたため剥がし難いものであったので、ゆっくり剥がした。しかしながらサンプルに離型紙が付着し、離型性評価は不合格であった。また得られたサンプルは結び目を作ることが困難であり、しなやかさの評価も不合格であった。これは、収縮時に分子配向が低下しすぎたためではないかと考えられた。
【0102】
比較例5
実施例1と同様に延伸、繊維を離型紙に貼り付けるところまで行い、予備熱処理を行うことなく110℃で1時間の熱処理を行った。得られた熱処理サンプルは離型紙上で若干収縮し、またサンプルが一部融解することにより、サンプル幅が一部で3mm以上まで広くなった。さらに、サンプルには多数の気泡が見られた。このサンプルを離型紙から剥がそうとしたが、容易には剥がれず一部に離型紙が付着した。また、剥がす途中で割れ、しなやかさにも劣っていた。しなやかさが劣っていたのは硬化不充分も一因と考えられる。さらに、アセトン抽出率が10重量%以上と多く、耐薬品性に劣る物であった。
【0103】
比較例6
実施例2で調整した紡糸原液をメタノールでさらに希釈し、レゾール樹脂濃度30重量%のエレクトロスピニング用紡糸原液を調整した。これを紡糸原液として、カトーテック社製エレクトロスピニング装置を用い、雰囲気温度18℃、雰囲気湿度50%RH、距離10cm、印可電圧15kV、吐出量0.025cm/分でエレクトロスピニングを行った。この時、ノズルとしては22ゲージのニードル(先端をカットした物)1本を用い、捕集装置としては直径10cm、幅33cmの回転ローラーに離型紙を貼り付けた物を用いた。また、回転ローラーは12rpmで回転させた。
【0104】
得られたシート状物をSEMで観察した結果、レゾール樹脂ブレンド物は繊維化しており、ビーズの発生も見られず良好な曳糸性であった。また、繊維径は0.8〜1.6μmと細く、繊維径ばらつきも小さいものであった。そして、これを70℃で24時間予備熱処理した後、150℃で1時間熱処理を施して硬化させた。この硬化レゾール樹脂繊維シートを離型紙から剥がそうとしたところ、離型紙が一部付着した。さらに剥がす途中でサンプル割れが発生し、長さ10cm以上のサンプルを取得することは困難であった。これは、エレクトロスピニングでは実質的に繊維に延伸が加えられないため分子配向をほとんどせず、脆性改善が不充分であったためと考えられた。
【0105】
比較例7
PVBの代わりにPVA(日本合成化学社製、ゴーセノール GM−14L)を用い、実施例2と同様にしてPVA濃度0.7重量%の紡糸原液を調整した。これを用い、実施例2と同様に繊維化を試みたが、凝固速度が実施例1に比べ遅く、さらに直径2mmまで引き伸ばすことができず、曳糸性に乏しい物であり、繊維化不能であった。
【0106】
比較例8

PVA(日本合成化学社製、ゴーセノール NM−11)のメタノールへの溶解テストを行ったが、ほとんど溶解せず、参考例1で合成したレゾール樹脂との溶液を作製することができなかった。
【0107】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾール樹脂に溶液粘度が20〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%添加したブレンド物と溶媒から成る溶液を凝固液中で凝固せしめた後、延伸し、さらに130℃以上で緊張熱処理するレゾール樹脂繊維の製造方法。
【請求項2】
130℃以上の緊張熱処理の前に60〜90℃の予備熱処理を施す請求項1記載のレゾール樹脂繊維の製造方法。
【請求項3】
凝固液が水である請求項1記載のレゾール樹脂繊維の製造方法。
【請求項4】
レゾール樹脂合成の触媒がアミン系である請求項1記載のレゾール樹脂繊維の製造方法。
【請求項5】
レゾール樹脂がキシレン変性物である請求項1記載のレゾール樹脂繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られたレゾール樹脂繊維。
【請求項7】
請求項6記載のレゾール樹脂繊維および/またはそれに由来する物品を少なくとも一部に含む製品。


【公開番号】特開2010−116640(P2010−116640A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289869(P2008−289869)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】