説明

レトルト魚介類

【課題】 本発明は、レトルト魚介類、特にレトルト臭のないレトルト魚介類を新たに提供することを目的とし、更に具体的には、簡便な方法で様々な種類・形状の魚介類について美味に味付けされているだけでなく、使用食塩量を減らすことによってナトリウムの過剰摂取を防ぎ、より健康に良い食品たり得るレトルト魚介類を新たに提供することを目的とする。
【解決手段】 冷凍または解凍または生の魚介類について、魚まるごと、もしくは切り身もしくは内臓を取り除いた魚、もしくはぶつ切りにした魚を、魚肉をアルカリプロテアーゼ分解して得たペプチドと少量の食塩を含む浸漬液で処理し、液切り後にレトルト処理を行い、美味な味付けをするとともに身崩れを起こさないようにし、レトルト臭のしないレトルト魚介類を提供するものであり、浸漬液としてはペプチドを0.1〜2.8%及び食塩を0〜2%含有する液体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美味な味付けがされているレトルト魚介類に関するものである。一般に、レトルト魚は、骨まで柔らかく、全体をそっくりそのまま食することができるので、カルシウムの補給にも好適なものとして、広く食されるようになってきた。本発明のレトルト魚介類は、簡便な方法で様々な種類・形状の魚介類について美味に味付けされているだけでなく、使用食塩量を減らすことによってナトリウムの過剰摂取を防ぎ、より健康に良い食品たり得たものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レトルト容器入り焼き魚としては、保存中ドリップが出て焼き魚の風合いを損なわないようにするために魚肉の硬さを85〜1500gになるように焼成した焼き魚を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、魚介類のレトルト食品としては、調理した魚介類を適度に乾燥させて、容器につめ、レトルト処理することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、開き魚について、ペプチドと食塩を含有する浸漬液による浸漬処理後、氷温乾燥、真空乾燥、レトルト処理を行うことで美味な味付けがされ身崩れを起こさないようにしたレトルト開き魚が提供されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−189718号公報
【特許文献2】特開平4−234944号公報
【特許文献3】特許第3434923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来の技術において、例えばレトルト開き魚は本発明者らが先に発明した商品であって、すぐれた商品ではあるものの、魚を開かなくてはならない上、氷温乾燥に手間と時間がかかり、また浸漬液の塩分濃度が高く、昨今の減塩食品が好まれる風潮にそぐわなくなってきていた。また、一般に魚介類を食する形態は様々であり、開き魚以外でも同様な商品が求められてきていた。さらに、一般にレトルト食品においては、レトルト処理にともない独特なレトルト臭がついてしまうため、その解決が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記した従来技術の欠点を改良してすぐれたレトルト魚介類を開発するためになされたものである。そこで、本発明者らは、各方面から検討した結果、先に本発明者らがはじめて開発するのに成功した上記レトルト開き魚に改めて着目した。
【0005】
本発明者らは、既述のように、先に、美味な味付けがなされ、身崩れを起こさないレトルト開き魚をペプチドと食塩を含む浸漬液で浸漬処理後、氷温乾燥して、レトルト処理を行うことにより得ていた。しかし、氷温乾燥工程に手間がかかる上に形状が開き魚に限定されており、更にまた、浸透圧を上げることによって、ペプチド成分がより浸潤しやすくするために添加使用する食塩量も多いことから、対象を開き魚に限らず、減塩を目指して鋭意研究を続けてきた。
【0006】
そしてその結果、アルカリプロテアーゼ分解して得た魚肉ペプチド溶液または粉末を適量と少量の食塩を使用したところ生魚まるごと、もしくは生魚切り身、もしくは内臓を取り除いた生魚、もしくはぶつ切りにした生魚について、乾燥工程不要で、美味な味付けがなされ、身崩れを起こさず、しかもレトルト臭のしないレトルト魚介類を得ることをはじめて見出し、更に研究の結果、ついに本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、冷凍または解凍または生の魚介類を、魚まるごと、もしくは切り身、もしくは内臓を取り除いた魚、もしくはぶつ切りにした魚のような様々な形状で、魚肉をアルカリプロテアーゼ分解したペプチドと少量の食塩を含む浸漬液に浸漬し、軽く液切りし、真空包装し、レトルト処理してなるレトルト魚介類に関する。
【0008】
本発明は、魚まるごと、もしくは内臓を取り除いた魚、もしくは切り身、もしくはぶつ切りにした魚にペプチドを付着浸潤させ、そのままあるいは必要であれば調味した後で、レトルト処理して一挙に骨まで柔らかくすることと、煮付けて味付けすることを行い、美味で型くずれしない、骨まで食することのできる、レトルト臭のしない魚介類を提供するものである。
【0009】
本発明の魚介類としては、イワシ、アジ、サンマ、サバ、サケ、ブリ、サワラ、タイ、キンメダイ、赤魚、マグロ、カツオ、ヒラメ、カレイ、ハモ、アナゴ、ニシン、タラ、タチウオ、ハギ、アユなどがあり、冷凍または解凍または生の魚介類を使用することができ、魚まるごと、もしくは切り身、もしくは内臓を取り除いた魚、もしくは頭部と尾部をカットしたもの、もしくはぶつ切りにしたもの等、各種形状、各種大きさ、各種部位が適宜使用できる。
【0010】
本発明における重要な特徴のひとつは、魚肉をアルカリプロテアーゼで分解して得たペプチドと少量の食塩を含有する浸漬液に、魚まるごと、もしくは切り身、もしくは内臓を取り除いた魚、もしくは頭部と尾部をカットした魚、もしくは、ぶつ切りにした魚を浸漬し、魚介類にペプチドを付着浸潤させることである。
【0011】
本発明においては、魚肉をアルカリプロテアーゼで分解したペプチドを使用する。魚肉としては、イワシ、アジ、マグロ、カツオ、サンマ、サバ、サケ、ブリ、サワラ、タイ、ヒラメ、アナゴ、ニシン、タラ、キス、サメ、エイ、アンコウ、エビ、カニ等、赤身魚、白身魚、軟骨魚、深海魚、甲殻類等各種魚介類由来の魚肉が適宜使用可能であり、これらの魚介類由来の魚肉を、動植物起源あるいは微生物起源のアルカリプロテアーゼを用い、各酵素の至適pHにて処理して得られたペプチドが適宜使用される。
【0012】
魚肉をアルカリプロテァーゼで分解して得たペプチドは、分子量が小さいため(M.W. 100〜1,000)魚体に浸潤しやすく、漬け込む魚の種類・形状を選ばない。そして、本ペプチドは優れた呈味性を持っており、浸漬することで付着浸潤して表面だけでなく内部まで美味な味付けができる。また、本ペプチドの持つ別の効果として、表面・内部に付着浸潤した魚介類の肉身を熱に対して安定にさせる性質があり、その後のレトルト処理における身崩れを防止することができる。本ペプチドは、これらの性質の他、更に下記する有用な性質も併有しており、これらの性質は従来知られておらず、新規であって、きわめて特徴的である。
【0013】
すなわち、本発明におけるさらなる特色として、本ペプチドは強いマスキング効果を持ち、様々な臭みを防ぐことができる点が挙げられる。
【0014】
魚種によっては、レトルト処理によって肉身のタンパク質が壊れてトリメチルアミンに代表されるアミン臭が発生することがある。俗に言う「レトルト臭」の一つであるが、本ペプチドの効果として、そのメカニズムの詳細は今後の更なる研究にまたねばならないが、この生じたアミン成分と本ペプチドの持つ官能基が反応してアミン臭を防ぐことができるだけでなく、本ペプチドを表面・内部に付着浸潤させることにより、アミン成分の発生につながる肉身のタンパク質が壊れることを防ぐことができる。
【0015】
さらに、本ペプチドの驚くべき性質として包材から生ずるレトルト臭をも減じることができる点が挙げられる。
【0016】
レトルト用包材として様々な合成樹脂フィルムが市販されている。当然耐熱性に優れた構造を持っているが、レトルト処理という過酷な条件下ではどうしても壊れて樹脂臭が発生してしまう。これも「レトルト臭」の一つであるが、本ペプチドの効果として、そのメカニズムの詳細も今後の更なる研究にまたねばならないが合成樹脂フィルムの構造体に存在する官能基と本ペプチドの持つ官能基が反応して結合し、合成樹脂フィルムの表面に薄いペプチド層ができる。このペプチド層がフィルム表面をコーティングすることになり、フィルムからレトルト処理によって発生した樹脂臭成分が脱離するのを防ぎ、結果として包材由来のレトルト臭が食材につくのを防ぐのである。
【0017】
浸漬液に使用するペプチド溶液またはペプチド粉末は、ペプチドとして0.1〜2.8%程度でよく、使用する魚の種類、漬け込む魚の形状に応じて量を変化させるこことができ、好ましくは0.2〜2.0%、一般的には0.3〜1.5%程度が好ましい。また、浸漬液中の食塩は、0〜2%、好ましくは0.1〜1.5%であり、添加しないこともあり得る。また、浸漬液には砂糖、グルタミン酸ソーダなど他の呈味性物質を添加してもよい。
【0018】
浸漬液への魚介類の浸漬は魚肉の変化がないように、常温ないしは常温以下であるのが好ましい。浸漬時間は15〜60分程度で十分である。次いで、魚介類を浸漬液から取り出し、軽く液切りをする。具体的には、例えば、拭き取り、自然放置(ないし自然落下)、軽い遠心分離等、浸漬液が落下したり表面に付着したりすることがない程度に軽く液切りをする。本発明は、このように軽く液切りをすればよく、氷温乾燥処理等の乾燥処理をする必要がない点でも特徴的である。
【0019】
上でも述べたように、本発明者らが先に開発した以前の特許「レトルト開き魚(特許第3434923号)」においては、浸漬液の液切り後に氷温乾燥処理で魚介類の水分を60〜70%まで乾燥する必要があったが、本発明においては、魚肉をアルカリプロテアーゼで分解して得たペプチドを使用することにより、乾燥工程が不要となり水分が70%を越えてもレトルト処理したときに魚の肉身は崩れたりしない。これは、ペプチドが魚に付着浸潤することで肉身の余分な水分を追い出し置き換わる性質を持っていることに起因し、結果としてレトルト処理後の魚の姿形を保持することにつながる。また、魚の表面に残った浸漬液が合成樹脂フィルム由来のレトルト臭を防ぐ効果を持つことから、逆に乾燥させないことが必要事項となる。
【0020】
軽く液切りした魚介類は合成樹脂フィルムで真空包装し、レトルト処理すれば、レトルト魚介類が得られる。ここで、液切りした魚介類を別の新たな調味液とともに合成樹脂フィルムで真空包装してレトルト処理すれば、様々な味付けのレトルト魚介類が得られる。レトルト処理としては121℃で5〜30分で十分である。大きな骨を持った魚介類を柔らかくする場合は30分以上処理すればよい。
【0021】
調味液としては、味噌、醤油、食酢、オイル、トマトソース、カレー、ダシ汁その他の各種調味料が1種又は2種以上併用できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレトルト魚介類は様々な形状をしていて使用食塩量を減じていながら、身崩れのない肉身を持ち、骨は柔らかく、しかもレトルト臭がせず、そのままもしくは短時間の加熱で、おいしく食すことができるのである。また、各種調味した味付けレトルト魚介類も製造することができる。しかも本発明は、浸漬処理後に氷温乾燥等の手間と時間がかかる乾燥工程を必要とせず、短時間にしかも効率的にレトルト魚介類を製造できるという著効も奏するものである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
浸漬液へのペプチド添加量の出来上がり製品への効果をみるために、レトルト時に調味液を使わないレトルトイワシを試作し、官能評価テストを行った。イワシ魚肉を市販のアルカリプロテアーゼで分解したペプチドを用いその量を0%、0.5%、1.1%、1.8%、2.5%と変えた5種類の浸漬液を用意し、ぶつ切りにしたイワシを30分間浸漬し、これをネット上に広げて浸漬液を自然落下させて軽く液切りし、これを合成樹脂フィルムで真空包装し、121℃で40分間レトルト処理をして、5種類のレトルトイワシを得た。それぞれについて、レトルト臭及び生臭みについて官能評価テストを行った。官能評価テストに対して高度に訓練を施した社員10名がそれぞれレトルトイワシを試食し、レトルト臭及び生臭みについてその臭いが強い・・3点、弱いが気になる・・2点、わずかに臭う・・1点、しない・・0点という配点で点をつけ、その合計点をまとめたのが以下の表1である。
【0025】
表1に示したように、わずか0.5%の添加でもマスキング効果が現れ、1.1%の添加でほぼレトルト臭及び生臭みを抑えられることがわかった。これらの結果から、0.5〜2.5%の添加での有効性が確認された。また、0.2〜2.8%の添加でも充分有効であることが認められた。
【0026】
(表1)
―――――――――――――――――――――――――
ペプチド添加量 レトルト臭 生臭み
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0% 29 21
0.5% 13 12
1.1% 1 2
1.8% 0 1
2.5% 0 0
―――――――――――――――――――――――――
【0027】
(実施例2)
実施例1の結果を調味したレトルトイワシ味噌煮を作って確認した。実施例1と同じく、ペプチド量を0%、0.5%、1.1%、1.8%、2.5%と変えた5種類の浸漬液を用意し、ぶつ切りにしたイワシをそれぞれの浸漬液に常温で30分間浸漬し、次いで軽く液切りし、これを味噌調味液とともに合成樹脂フィルムで真空包装し、121℃で40分間レトルト処理をして、5種類のレトルトイワシ味噌煮を得た。そして、それぞれについて味の評価をした結果をまとめたものが以下の表2である。
【0028】
表2に示したように、0.7〜2.0%、更に好ましくは1.1〜1.8%加えるのが適当であるとわかった。また、イワシ味噌煮を作る場合にはペプチドを多く入れすぎるとイワシの身が締まりすぎたり味噌の風味までマスキングしてしまい、食べて美味しくなくなるとわかった。
【0029】
(表2)
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ペプチド添加量 官能評価
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0% 褐変臭(加熱臭)を感じる。塩味を強く感じる。
0.5% やや褐変臭(加熱臭)を感じる。
1.1% 味噌の風味(香り)と、イワシの味のバランスがよい。
1.8% 味噌の風味(香り)がよく、イワシの味に後味ののびがある。
2.5% イワシの身が締まりすぎて固い。味噌の香りが弱くなる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0030】
(実施例3)
サンマを水洗いしてぶつ切りにし、イワシの肉をアルカリプロテアーゼで分解して得たペプチド溶液15%(ペプチドとして約1.4%)と食塩0.5%を含有する浸漬液に常温で30分間浸漬し、次いで軽く液切りし、これを味噌調味液とともに合成樹脂フィルムで真空包装し、121℃で20分間レトルト処理をして、レトルト臭のしない美味なレトルトサンマ味噌煮を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉をアルカリプロテアーゼ分解して得たペプチド溶液又はペプチド粉末をペプチドとして0.1〜2.8%及び食塩を0〜2%含有する浸漬液に魚介類を浸漬し、軽度の液切りを行い、真空包装し、レトルト処理してなり、乾燥工程が不要で且つレトルト臭もないこと、を特徴とするレトルト魚介類。
【請求項2】
魚肉をアルカリプロテアーゼ分解して得たペプチド溶液又はペプチド粉末をペプチドとして0.1〜2.8%及び食塩を0〜2%含有する浸漬液に魚介類を浸漬し、軽度の液切りを行い、調味液とともに真空包装し、レトルト処理してなり、乾燥工程が不要で且つレトルト臭もないこと、を特徴とする味付けレトルト魚介類。
【請求項3】
魚介類が冷凍又は解凍又は生の魚介類であること、を特徴とする請求項1又は2に記載のレトルト魚介類。
【請求項4】
魚介類が、丸ごと、切り身、頭部と尾部をカットしたもの、内臓を除去したもの、ぶつ切りのいずれかひとつであること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレトルト魚介類。
【請求項5】
軽度の液切りが、液体の拭き取り、自然放置、軽度の遠心分離の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレトルト魚介類。
【請求項6】
該ペプチドが、イワシ魚肉をアルカリプロテアーゼ分解して得た分子量100〜1,000のペプチドであること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のレトルト魚介類。

【公開番号】特開2006−101765(P2006−101765A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293008(P2004−293008)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(591141050)仙味エキス株式会社 (4)