説明

レドックスフロー電池、レドックスフロー電池セル、及びレドックスフロー電池用セルスタック

【課題】電極内に均等に電解液が流れ易いレドックスフロー電池(RF電池)、この電池の構成部材に適したRF電池セル、及びRF電池用セルスタックを提供する。
【解決手段】このRF電池は、正極電解液が流通される正極電極14と、負極電解液が流通される負極電極15と、両極電極14,15間に介在される隔膜101とを具える電池セル10と、双極板121を有するフレーム12とが交互に積層されてなるセルスタックを具える。両極電極14,15は、電解液の流通方向に実質的に直交するように設けられた流通溝(横溝)2Aが複数並列された電極1Aにより構成されている。流通溝(横溝)2Aが電解液の流れを阻止するように存在するため、電池反応に寄与せずに通過する電解液を効果的に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池(以下、RF電池と呼ぶことがある)、このRF電池の構成部材に適したRF電池用セルスタック、RF電池セルに関するものである。特に、電極内に均等に電解液が流れ易いRF電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池として、RF電池が利用されている。また、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーに対して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを目的とした蓄電池として、RF電池が期待されている。
【0003】
RF電池100は、図5に示す構成が代表的であり、正極電極104を内蔵する正極セル102と、負極電極105を内蔵する負極セル103と、両セル102,103間に介在されて両セル102,103を分離すると共にイオンを透過する隔膜101とを具えるセルを具える。また、RF電池100は、各極セル102,103で電池反応に利用される各極電解液を貯留する各極タンク106,107と、各極セル102,103と各極タンク106,107との間で電解液を移送する流通路となる配管108〜111とを具える。各極電解液は、配管108,109に設置されたポンプ112,113を利用して、各極セル102,103に循環供給される。上記電解液には、酸化還元により価数が変化する金属イオン、例えば、バナジウムイオンを含有する水溶液が利用される。なお、図5のセル内の実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。
【0004】
RF電池100は、代表的には、上記セルを複数積層させたセルスタックと呼ばれる形態が利用される(特許文献1の図9参照)。セルスタック200には、図6に示すフレーム122が利用される。フレーム122は、各極電極104,105が表裏に配置される双極板121の外周に設けられている。セルスタック200は、双極板121を有するフレーム122、正極電極104、隔膜101、負極電極105、双極板121を有するフレーム122、…と順に繰り返し積層され、代表的には、この積層体の両側を一対のエンドプレート210で挟み、長ボルトなどの締付部材220によりエンドプレート210を締め付けることで構成される。
【0005】
上記フレーム122は、その表裏を貫通する各極電解液の給液孔123,124及び排液孔125,126と、その一面に設けられ、給液孔123に連続する液導入溝及び排液孔125に連続する液排出溝と、その他面に設けられ、給液孔124に連続する液導入溝及び排液孔126に連続する液排出溝とを具える。上記液導入溝・液排出溝を利用して、双極板121の一面に配置された正極電極104に正極電解液が供給・排出され、他面に配置された負極電極105に負極電解液が供給・排出される。複数のフレーム122を積層することで、給液孔123(124)及び排液孔125(126)は各極電解液の流路を構成し、この流路は配管108〜111に適宜接続される。また、積層したフレーム122間にOリングなどのシール部材127を配置して、セルスタック200を構成する上記各部材の隙間から電解液の漏洩を防止している。
【0006】
上記フレーム122において矩形状の双極板121の対向する周縁側領域にそれぞれ、上記液導入溝や液排出溝に繋がる整流溝(図示せず)が上記周縁に沿って設けられた構成が代表的である(特許文献1の図1,2参照)。整流溝は、上記液導入溝からの電解液を上記周縁に沿って広げたり、電極からの電解液を液排出溝に集約したりする機能を有する。
【0007】
各極電極104,105には、炭素繊維からなるカーボンフェルト製のものが利用されている(特許文献1,2)。特許文献2では、図6に示すように、電極の一面(特許文献2では、隔膜101側の面)に、電解液の流通方向(矩形状の電極の対辺間を繋ぐ方向。図6では上下方向)に平行に設けられた複数の流通溝104sを具えるものを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-367659号公報
【特許文献2】特開2002-246035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
RF電池では、電極内に電解液が均一的に流れ易く、かつこの電解液が電極で十分に電池反応が行えることが望まれる。
【0010】
上述のように電解液の流通方向に平行な流通溝(以下、縦溝と呼ぶ)を複数具える電極(以下、縦溝有り電極と呼ぶ)では、電解液が当該縦溝部分を流れ易いため、この溝加工が施されていない一様な表面を有する電極(以下、溝無し電極と呼ぶ)と比較して、電極の圧力損失や電極に加えられる圧力のばらつきを低減できる。そのため、電極の全体に亘って電解液の流れを均一的にし易い。また、この電極では、上記圧力損失が主として上記流通溝の断面形状により決められるため、電極における電解液の流量分布を制御し易い(流量のばらつきを小さくし易い)。
【0011】
しかし、上記流通溝(縦溝)部分が電極の他の部分に比較して電解液が流れ易いことから、電解液が電池反応に寄与せずに通過する可能性がある。そのため、内部抵抗(電池内の電気抵抗)が上昇する可能性がある。
【0012】
また、長期の使用により上記流通溝(縦溝)の一部が詰まったり、溝の形成不良などといった欠陥があると、この欠陥を有する溝以外の別の流通溝に電解液が余分に流れる可能性がある。電極の一部に電解液が余分に流れる領域が生じると、上記欠陥部分よりも下流側の領域では、溝無し電極よりも電解液が流れ難くなる可能性がある。このように電解液の流れに差が生じることで、電解液の流れが遅い箇所では、活物質が不足して過充電となり、この過充電の副反応により、正極では酸素、負極では水素が発生する可能性がある。上記酸素は、電極を含むRF電池の構成部材を酸化させる恐れがあり、これらの構成部材の寿命を短くする原因となり得る。
【0013】
そこで、本発明の目的の一つは、電極内に均一的に電解液が流れ易く、電池反応が十分に行えるRF電池を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記RF電池の構成部材に好適なRF電池セル、及びRF電池用セルスタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、電極に具える流通溝の形成方向を従来の縦溝有り電極と異ならせることで、上記目的を達成する。
【0015】
本発明のレドックスフロー電池セルは、正極電解液が流通される正極電極と、負極電解液が流通される負極電極と、これら両電極の間に介在される隔膜とを具える。上記電極は、その表面に少なくとも一つの電解液の流通溝を有する。上記流通溝のうち、少なくとも一つは、その長手方向が前記電解液の流通方向に対して、実質的に直交するように設けられた横溝である。
【0016】
本発明レドックスフロー電池用セルスタックは、上記本発明レドックスフロー電池セルと、以下のフレームとが交互に複数積層されてなる。このフレームは、上記電池セルに具える各極電極が表裏に配置される双極板の外周に設けられて、上記各極電極への電解液の供給及び上記各極電極からの電解液の排出を行う。
【0017】
本発明レドックスフロー電池は、上記本発明レドックスフロー電池用セルスタックと、上記セルスタックに具える上記各極電極に供給する各極電解液を貯留する各極タンクと、上記セルスタックと上記各極タンクとの間で上記各極電解液を移送する流通路とを具える。
【0018】
上記本発明によれば、横溝が電解液の流れを阻止するように存在するため、電池反応に寄与せずに通過する電解液を効果的に低減する、或いは実質的に無くすことができる。従って、本発明によれば、電極で電池反応を十分に行え、上記電解液の素通りに伴う内部抵抗の上昇が生じ難く、後述する試験例に示すように内部抵抗を小さくできる。また、横溝部分は、電極の他の部分と比較して電解液が流れ易い。そのため、電解液の流通も良好に行える上に、横溝に流れた電解液の圧力が横溝の長手方向に沿って均一的になり易い。従って、横溝の長手方向の一部に欠陥があった場合でも、この欠陥以外の箇所では、電解液が十分に流れることから、当該横溝の下流側領域にも電解液が十分に行き渡ることができる。即ち、本発明は、電極内で電解液の滞留が生じ難く、滞留に伴う電解液の流量のばらつきが生じ難い。このような本発明によれば、電極内に局所的に活物質が不足した状態が生じ難く、活物質不足による過充電、及びこの過充電に伴う副反応も生じ難い。更に、横溝に電解液が十分に流通可能なため、電極内の電解液の充電深度が均一化されることから、電極内で局所的に電解液の充電深度が上昇することを防止できる。このことからも、本発明は、過充電や過充電に伴う副反応が生じ難い。
【0019】
従って、上記本発明によれば、(1)電極内を電解液が均一的に流れることができる、(2)過充電を防止して、電解液の充電深度を均一化することができる、(3)過充電の副反応により電極などのRF電池の構成部材の酸化劣化などを抑制し、RF電池の構成部材の長寿命化を図ることができる、といった優れた効果を有する。また、上記劣化の抑制により、メンテナンスの頻度を少なくでき、本発明RF電池は、管理し易い上に、信頼性が高い。
【0020】
本発明において電極は、横溝部分と横溝部分以外の領域とを具え、横溝部分が電解液の流通促進箇所として機能し、横溝部分以外の領域は、代表的には、電極において横溝の長手方向に沿って電極の全体に電解液が行き渡ることを促進する整流箇所として機能する。
【0021】
本発明において電極は、代表的には、矩形状が挙げられる。その他、多角形状、円形状、楕円形状、レーストラック状などとしてもよいが、RF電池全体における電極の占有率やRF電池を設置した際のスペースなどを考慮すると、矩形状が利用し易いと考えられる。
【0022】
本発明において電解液の流通方向とは、上記矩形状や多角形状の電極において対向する二辺(周縁)を繋ぐ方向とする。代表的には、上下方向、或いは左右方向が挙げられる。円形状、楕円形状の電極では、径方向が挙げられる。
【0023】
本発明の一形態として、上記横溝における上記流通方向に対する傾斜角が90°±10°である形態が挙げられる。
【0024】
上記傾斜角が0°又は180°に近づくと、従来の縦溝有り電極と同様に、電解液が電池反応に寄与せずに通過する可能性がある。従って、上記傾斜角は90°±10°が好ましい。傾斜角が90°に近いほど(例えば、90°±5°以内)、電池反応に寄与せずに通過する電解液の低減効果が高いと考えら、90°が最も好ましいと考えられる。
【0025】
本発明の一形態として、上記横溝を複数具え、これら横溝が平行に設けられた形態が挙げられる。
【0026】
上記横溝は、一つでもよいが、複数具えた電極では、上述のように電解液の流通促進箇所(横溝部分)と、整流箇所(横溝部分以外の領域)とが交互に配置されるため、電解液の流通の促進と整流とを繰り返し行える。その結果、電解液は電極内をより均一に流れることができる。
【0027】
本発明の一形態として、上記流通溝のうち、少なくとも一つは、その長手方向が上記電解液の流通方向に実質的に平行するように設けられた縦溝であり、上記電極は、上記横溝及び上記縦溝により区切られる複数の領域を有する形態が挙げられる。
【0028】
電極が横溝のみを具える形態とすることができるが、上記形態のように横溝に加えて縦溝をも具える形態とすることで、上述した横溝による種々の効果に加えて、縦溝の効果:圧力損失の低減をも有することができる。また、上記形態のRF電池は、圧力損失が少ないため、各極電解液の供給に利用されるポンプの動力を小さくでき、システム効率が高い。
【0029】
本発明の一形態として、上記横溝及び上記縦溝を複数具え、これら横溝及び縦溝が格子状に交差した形態が挙げられる。
【0030】
上記形態によれば、上述のように横溝を複数具える効果、即ち、電解液の流通の促進と整流との繰り返しによる電解液の流れの均一化に加えて、縦溝により圧力損失の低減を図ることができる。また、縦溝一つあたりに横溝との交点が複数存在し、各交点で、縦溝部分を流れてきた電解液の少なくとも一部は横溝の長手方向に沿って流れる。従って、上記形態によれば、従来の縦溝有り電極と比較して、電池反応に寄与せずに通過する電解液を効果的に低減でき、電極全体で電池反応を行えると期待される。
【発明の効果】
【0031】
本発明レドックスフロー電池は、電極内に均等に電解液が流れ易い。本発明レドックスフロー電池セル及びレドックスフロー電池用セルスタックは、上記本発明レドックスフロー電池の構成部材に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1(A)は、実施形態1のRF電池に具える電極がフレームに配置された状態を示す概略平面図、図1(B)は、この電極のB-B断面図、図1(C)は、この電極及びフレームの配置状態を説明する分解斜視図である。
【図2】図2は、横溝が設けられた電極を具えるRF電池と、縦溝が設けられた電極を具えるRF電池とにおいて、単位時間に対する電極の単位面積当たりの電解液の流量と内部抵抗との関係を示すグラフである。
【図3】図3(A)は、実施形態2のRF電池に具える電極がフレームに配置された状態を示す概略平面図、図3(B)は、この電極のB-B断面図である。
【図4】図4(A)は、実施形態3のRF電池に具える電極がフレームに配置された状態を示す概略平面図、図4(B)は、この電極のB-B断面図、図4(C)は、この電極のC-C断面図である。
【図5】図5は、RF電池の動作原理を示す説明図である。
【図6】図6は、従来のRF電池に具えるセルスタックの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、実施形態のレドックスフロー電池(RF電池)、この電池に具えるRF電池セル、及びRF電池用セルスタックを説明する。図において同一符号は、同一名称物を示す。
【0034】
本発明RF電池の基本的構成は図5,図6に示す従来のRF電池と同様である。即ち、正極電解液が流通される正極電極14と、負極電解液が流通される負極電極15と、両電極14,15の間に介在される隔膜(代表的にはイオン交換膜)101とを具える電池セル10を具える。より具体的には、このRF電池は、各極電極14,15が表裏に配置される双極板121を有するフレーム12と上記電池セル10とが交互に積層されてなるセルスタック(図6)と、各極電極14,15に供給する各極電解液を貯留する各極タンク(図5)と、上記セルスタックと上記各極タンクとに接続されて上記電解液の流通路となる配管(図5)とを具える。このRF電池は、バナジウムイオンなどの金属イオンを活物質に含有する硫酸溶液などの電解液を上記各極タンクから上記セルスタックに供給して電池反応を行う。そして、このRF電池は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、一般の発電所(火力、水力、原子力、風力、太陽光など)の他、一般家屋や集合住宅などを含む各所に設けられた太陽光発電機、風力発電機などの分散電源を含む)と負荷(一般家庭、プラント、工場などの需要家)とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。本発明RF電池は、このように発電部と負荷との間に組みつけられて電力系統の一要素に利用される。
【0035】
本発明RF電池の特徴とするところは、電池セル10の構成部材である電極1Aの形状にある。以下、この電極1Aを中心に説明し、その他の構成については詳細な説明を省略する。
【0036】
[実施形態1]
(構成)
図1を参照して、実施形態1のRF電池セルに具える電極1Aを説明する。
【0037】
上記正極電極14,負極電極15に利用される電極1Aは、矩形状の板材であり、その一面(例えば、隔膜101に接する側の面)に電解液の流通溝2Aを複数具える。各流通溝2Aはいずれも、電極1Aの対向する二辺(ここでは左右に配置された上下方向に延びる周縁)間を繋ぐように、一方の周縁から他方の周縁に向かって左右方向に延びる直線状に形成され、等間隔に並列されている。なお、図1及び後述する図3,図4の流通溝の数は例示である。
【0038】
そして、各流通溝2Aはいずれも、その長手方向が電解液の流通方向に対して、直交するように設けられた横溝である。ここでは、電解液の流通方向は、電極1Aの対向する二辺(ここでは左右方向に延びる周縁)間を繋ぐ方向(ここでは上下方向)としている。従って、各流通溝2Aは、電極1Aにおいて別の対向する二辺(ここでは上下に配置されて左右方向に延びる周縁)に平行に設けられている。このような横溝を複数具えることで、電極1Aの表面は、横溝と当該横溝が形成されていない矩形状の領域(以下、整流領域と呼ぶ)3Aとが交互に配置された形状である。
【0039】
電極1Aは、矩形枠状のフレーム12に囲まれた矩形状の双極板121に配置されて利用される。フレーム12には、表裏を貫通する給液孔(正極電極14では給液孔123,負極電極15では給液孔124)及び排液孔(正極電極14では排液孔125,負極電極15では排液孔126)が設けられている。また、フレーム12の一面(図1(A)では表面)には、正極給液孔123に連続する液導入溝123i、及び正極排液孔125に連続する液排出溝125oが設けられ、他面(図1(A)では裏面)には、負極給液孔124に連続する液導入溝124i、及び負極排液孔126に連続する液排出溝126oが設けられている。上記双極板121に配置された電極1Aは、給液孔123,124から液導入溝123i,124iを介して、各極電解液が供給される。供給された電解液は、電池反応に利用され、その後、電極1Aから液排出溝125o,126oを介して排液孔125,126から排出される。
【0040】
電極1Aが双極板121に配置された状態において電極の流通方向は、上記給液孔123,124及び排液孔125,126の形成位置により規定することができる。例えば、図1(A)に示すように給液孔123,124及び排液孔125,126がフレーム12の異なる領域(ここでは上下の領域)に形成されている場合、当該両領域を繋ぐ方向(ここでは上下方向)が挙げられる。例えば、給液孔123,124及び排液孔125,126がフレーム12の同じ領域(上方領域のみ、など)に形成されている場合は、給液孔123,124に連続する液導入溝123i,124iの開口部が位置する領域と、排液孔125,126に連続する液排出溝125o,126oの開口部が位置する領域とを繋ぐ方向が挙げられる。
【0041】
なお、ここでは、フレーム12において対向する各領域(図1(A)では上下の領域)に給液孔123,124及び排液孔125,126がそれぞれ設けられた形態を示すが、給液孔123,124及び排液孔125,126がフレームの同じ側の領域(図1(A)において上方領域のみ、下方領域のみ、左方領域のみ、右方領域のみのいずれか)に設けられる形態もある。また、ここでは、給液孔123,124及び排液孔125,126をそれぞれ一つずつ具える形態を示すが、給液孔123,124及び排液孔125,126をそれぞれ複数具える形態もある。
【0042】
上記流通溝(横溝)2Aの断面形状、長手方向の形状は、適宜選択することができる。例えば、断面形状は、矩形状、半円状、V字状などが挙げられる。長手方向の形状は、上記直線状の他、波形状、ジグザグ形状などとすることができる。波形状などの直線以外の形状の場合、流通溝の長手方向とは、波形やジグザグの振幅の中心を通る直線に沿った方向とする。流通溝(横溝)2Aの溝幅、深さ、個数、各溝を形成する間隔は適宜選択することができる。また、複数の流通溝を具える場合、各溝の断面形状、溝幅、深さを異ならせた形態とすることができる。更に、流通溝(横溝)2Aは、電極1Aの両面に設けた形態とすることができる。両面に流通溝を具える場合、各面における流通溝(横溝)2Aの断面形状などの仕様、配置位置、個数などが異なっていてもよい。これら断面形状、長手方向の形状、溝幅、深さ、個数、形成位置に関する内容は、後述する実施形態3の流通溝(縦溝)2Cについても同様である。
【0043】
電極1Aには、公知の材質のもの、代表的には、炭素繊維から構成されるカーボンフェルト製のものが利用できる。そして、所望の素材に、プレス加工、切削、ラインエンボス加工などの適宜な方法により、流通溝2Aを形成するとよい。
【0044】
(電解液の流れ)
上記電極1Aを具えるRF電池を運転すると、給液孔123(124)から液導入溝123i(124i)を経て電極1Aに電解液が供給される。液導入溝123i(124i)の開口部を経た電解液は、電極1Aの周縁(図1(A)では、下辺縁)からその周縁に沿って整流領域3Aの全体に広がる。即ち、当該領域3Aは、整流部として機能する。整流領域3A内の電解液は、ここでは矢印で示すように下方から上方に向かって進行する。上記整流領域3Aを経た電解液が流通溝2Aに達すると、流通溝2A部分の方が当該領域3Aよりも電解液が流れ易いため、流通溝2Aの長手方向(図1(A)では左右方向)に沿って電解液が流れる。即ち、流通溝2Aは、電解液の流通の促進部として機能する。上記流通溝2Aを経た電解液は、当該流通溝2Aよりも下流側の整流領域3Aで上述のように当該領域3Aの全体に広がる。電解液は、この整流と流通の促進とを繰り返しながら、上方に向かい、最終的に液排出溝125o(126o)で集約されて排液孔125(126)から排出される。
【0045】
(効果)
上記RF電池によれば、流通溝(横溝)2Aにより、電解液の進行が一旦阻止された状態になるため、電池反応に寄与せずに電極1Aを通過する電解液を効果的に低減することができる。また、流通溝(横溝)2A部分は、整流領域3Aよりも電解液が流れ易いことで、このRF電池は、全体として電解液の良好な流通を確保することができる。更に、流通溝(横溝)2Aの一部に欠陥が存在しても、当該流通溝(横溝)2Aにおいてこの欠陥以外の箇所では電解液が良好に流れることができる上に、この電解液が当該流通溝(横溝)2Aの下流側の整流領域3Aに達して、当該領域3A全体に広がることで、上記欠陥の下流側領域にも電解液を行き渡ることができる。従って、上記RF電池は、電池反応を十分に行え、内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0046】
また、上記RF電池では、電極内で電解液が滞留し難く、電解液の流量が局所的に異なることを抑制できる。その結果、過充電を抑制できる。更に、上記RF電池では、流通溝(横溝)2Aを通過する際に電解液の充電深度が均一化されることで、電解液の充電深度が局所的に異なることを抑制できる。このことからも、上記RF電池は、過充電を抑制できる。その他、上記RF電池では、電極1A自体が整流機能を有することで、フレーム12に整流溝を設ける必要が無い、或いは整流溝の形状を簡略化することができると期待される。
【0047】
更に、上記RF電池は、電極内に電解液を均一的に流すことができる上に、過充電の副反応に伴うRF電池の構成部材の酸化劣化などを抑制して、当該構成部材の長寿命化を図ることができる。特に、上記RF電池では、複数の流通溝(横溝)2Aを具えることで、上述した種々の効果が十分に得られると考えられる。
【0048】
[試験例]
電解液の流通方向に直交する流通溝が設けられた電極(以下、横溝有り電極と呼ぶ)を具えるRF電池と、電解液の流通方向に平行な流通溝が設けられた縦溝有り電極を具えるRF電池とを作製し、電池内の内部抵抗を測定した。その結果を図2に示す。
【0049】
この試験で用いた横溝有り電極及び縦溝有り電極は、流通溝の形成方向が異なる以外の点は、同様の構成(電極の材質、溝の断面形状、溝幅、深さ、個数)とし、各電極の面積はいずれも、500cm2とした。上記電極を用いて、図6に示すようなセルスタックを作製し、単位時間(min)当たりに供給する電解液(ここでは、バナジウム硫酸溶液を使用)の量を変化させた。ここでは、電極の単位面積当たりの電解液量(ミリリットル(ml=cc)/cm2)が0.4ml/cm2,0.6ml/cm2,0.8ml/cm2となるように、電解液量を変化させた。そして、各電解液量における1セルあたりの内部抵抗(セル抵抗率:Ω・cm2/セル)を以下のように求めた。作製した各セルスタックを用いて電流密度:70mA/cm2での定電流充放電を行い、充放電時の端子電圧を測定し、端子電圧の測定値の推移からセル抵抗率を求めた。その結果を表1,図2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1,図2に示すように、単位時間に対する電極の単位面積当たりの電解液量が多いほど、内部抵抗が小さくなっている。特に、横溝有り電極を具えるRF電池は、縦溝有り電極を具えるRF電池よりも電気抵抗が小さいことが分かる。このような結果となった理由として、上述のように横溝有り電極は、縦溝有り電極よりも電解液が良好に流れるためであると考えられる。
【0052】
[実施形態2]
実施形態1では、電極1Aに設けられた流通溝2Aが電解液の流通方向に直交する形態を説明した。その他、図3に示す電極1Bのように、流通溝2Bが電解液の流通方向に対して非直交に交差するように設けられた形態が挙げられる。ここでも、電極1Bを中心に説明し、その他の重複する構成及び効果は詳細な説明を省略する。
【0053】
電極1Bもその一面に、一方の周縁から他方の周縁に向かって、複数の直線状の流通溝2Bを等間隔に並列に具える。特に、各流通溝2Bはいずれも、その長手方向が電解液の流通方向(ここでは上下方向)に対して非直交に交差するように設けられた溝である。即ち、各流通溝2Bは、電極1Bにおいて対向する二辺(ここでは上下に配置されて左右方向に延びる周縁)に対して交差するように設けられている。ここでは、各流通溝2Bにおいて流通方向(図3(A)において二点鎖線で示す)に対する傾斜角θを81°としている。このような傾斜角θが90°±10°を満たす流通溝2Bも横溝と呼ぶ。特に、ここでは、給液孔123(124)と排液孔125(126)とがほぼ対角位置に設けられており、流通溝2Bは、各極給液孔から各極排液孔へのほぼ対角方向に向かって、同じ向きに傾斜している。図3(A)に示す紙面手前側:正極側では、流通溝2Bは、給液孔123から排液孔125に向かって左上がりに傾斜し、紙面奥側:負極では、図示していないが、流通溝2Bは、給液孔124から排液孔126に向かって右上がりに傾斜する。従って、両極電極が積層された状態で透視すると、各極電極の流通溝2Bが交差された状態である。また、流通溝2B間に形成される整流領域3Bは、台形状或いは平行四辺形状である。
【0054】
上記流通溝2Bの傾斜角θは90°±10°の範囲で適宜選択することができる。また、流通溝2Bの傾斜の向きも適宜選択することができる。その他、流通溝2Bのように流通方向に対して非直交に交差する溝と、実施形態1で説明した流通溝2Aのように直交する溝とを組み合せた形態とすることができる。
【0055】
上記電極1Bを具えるRF電池も、実施形態1と同様に、流通溝(横溝)2Bにより、電池反応に寄与せずに電極1Bを通過する電解液を効果的に低減できる。
【0056】
[実施形態3]
実施形態1,2では、電極1A,1Bに設けられた流通溝2A,2Bの電解液の流通方向に対する傾斜角が90°±10°である形態を説明した。その他、図4に示す電極1Cのように、電解液の流通方向に直交する流通溝(横溝)2Aと、電解液の流通方向に平行な流通溝(縦溝)2Cとの双方を具える形態が挙げられる。ここでも、電極1Cを中心に説明し、その他の重複する構成及び効果は詳細な説明を省略する。
【0057】
電極1Cは、実施形態1で説明した電極1Aと同様に、その一面に、対向する二辺(ここでは左右に配置されて上下方向に延びる周縁)の一方の周縁から他方の周縁に向かって、左右方向に延びる複数の直線状の流通溝(横溝)2Aを等間隔に並列に具える。かつ、電極1Cでは、別の対向する二辺(ここでは上下に配置されて左右方向に延びる周縁)の一方の周縁から他方の周縁に向かって、上下方向に延びる複数の直線状の流通溝2Cを等間隔に具える。これら流通溝2Cは、電解液の流通方向に対して平行に設けられた縦溝である。即ち、電極1Cは、電極1Cの各周縁に平行に複数の流通溝2A,2Cを具え、これら流通溝2A,2Cが直交するように設けられていることで、電極1Cの表面は、市松模様になっている。両溝2A,2Cで囲まれる矩形状の領域が整流領域3Cとなる。
【0058】
ここでは、流通溝(横溝)2Aと流通溝(縦溝)2Cとが直交する形態を説明したが、両溝2A,2Cを適宜な傾斜角を有する溝として、電極の表面がダイヤ模様となるようにしてもよい。また、流通溝(横溝)2A及び流通溝(縦溝)2Cの個数は、整流部3Cの面積が過小にならない範囲で適宜選択できる。更に、流通溝(横溝)2Aと流通溝(縦溝)2Cとで、断面形状、溝幅、溝の深さなどを異ならせることができる。
【0059】
上記電極1Cを具えるRF電池を運転した場合、給液孔123(124)から液導入溝123i(124i)を経て電極1Cに供給された電解液の一部は、実施形態1で説明したように周縁(図4(A)では下辺縁)に沿って各整流領域3Cの全体に広がり、実施形態1と同様に流通溝(横溝)2Aによる電解液の流通の促進と整流領域3Cによる整流とを繰り返して下流側の排液孔125(126)に向かう。
【0060】
一方、給液孔123(124)から液導入溝123i(124i)を経て電極1Cに供給された電解液の他部は、流通溝(縦溝)2Cを流れる。但し、流通溝(縦溝)2Cを流れる電解液は、従来の縦溝有り電極と異なり、流通溝(横溝)2Aとの交点に達すると、流通溝(横溝)2Aの長手方向(図4(A)では左右方向)に沿って流れ、流通溝(横溝)2Aに流れた電解液は、当該流通溝(横溝)2Aの下流側の整流領域3Cに導入される。このように電極1Cでは、流通溝(縦溝)2Cを流れる電解液は、流通溝(横溝)2Aとの交点ごとにその流れが緩和されながら、排液孔125(126)に向かう。
【0061】
上記電極1Cを具えるRF電池は、流通溝(縦溝)2Cを具えていながらも、実施形態1と同様に流通溝(横溝)2Bにより、電池反応に寄与せずに電極1Cを通過する電解液を効果的に低減できる。特に、電極1Cでは、流通溝(縦溝)2Cにより、実施形態1と比較して電解液の流通の促進を図り、電解液の圧力損失や電極の加圧状態のばらつきを低減し易いと期待される。このことから、上記電極1Cを具えるRF電池は、電極の全体に亘って電解液の流れをより均一的にし易いと期待される。また、圧力損失を低減できることで、このRF電池は、電解液を流す際のセルの許容圧力を低減できる、ポンプ動力を低減できる、といった効果も得られると期待される。
【0062】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、流通溝の数・傾斜角、溝の形成間隔、流通溝の形成面などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明RF電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした用途、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした用途などに好適に利用できる。本発明RF電池用セルスタック及び本発明RF電池セルは、上記本発明RF電池の構成部材に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1A,1B,1C 電極 2A,2B 流通溝(横溝) 2C 流通溝(縦溝)
3A,3B,3C 整流領域
10 電池セル 12 フレーム 14 正極電極 15 負極電極
100 レドックスフロー電池 101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 104s 流通溝 105 負極電極 106 正極タンク
107 負極タンク 108,109,110,111 配管 112,113 ポンプ
121 双極板 122 フレーム 123 正極給液孔 123i,124i 液導入溝
124 負極給液孔 125 正極排液孔 125o,126o 液排出溝 126 負極排液孔
127 シール部材
200 セルスタック 210 エンドプレート 220 締付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電解液が流通される正極電極と、負極電解液が流通される負極電極と、これら両電極の間に介在される隔膜とを具えるレドックスフロー電池セルであって、
前記電極は、その表面に少なくとも一つの電解液の流通溝を有し、
前記流通溝のうち、少なくとも一つは、その長手方向が前記電解液の流通方向に対して、実質的に直交するように設けられた横溝であることを特徴とするレドックスフロー電池セル。
【請求項2】
前記横溝は、前記流通方向に対する傾斜角が90°±10°であることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池セル。
【請求項3】
前記横溝を複数具え、これら横溝が平行に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池セル。
【請求項4】
前記流通溝のうち、少なくとも一つは、その長手方向が前記電解液の流通方向に実質的に平行するように設けられた縦溝であり、
前記電極は、前記横溝及び前記縦溝により区切られる複数の領域を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池セル。
【請求項5】
前記横溝及び前記縦溝をそれぞれ複数具え、これら横溝及び縦溝が格子状に交差していることを特徴とする請求項4に記載のレドックスフロー電池セル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池セルと、
前記各極電極が表裏に配置される双極板の外周に設けられて、前記各極電極への電解液の供給及び前記各極電極からの電解液の排出を行うフレームとが交互に複数積層されてなることを特徴とするレドックスフロー電池用セルスタック。
【請求項7】
請求項6に記載のレドックスフロー電池用セルスタックと、前記セルスタックに具える前記各極電極に供給する各極電解液を貯留する各極タンクと、前記セルスタックと前記各極タンクとの間で前記各極電解液を移送する流通路とを具えることを特徴とするレドックスフロー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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