説明

レボフロキサシン・1/2水和物の製法

【課題】 レボフロキサシン粗原料を、高収率でレボフロキサシン・1/2水和物に変えることのできる方法を提供すること。
【解決手段】 レボフロキサシンを、含水率が0.14容量%以上4容量%未満である含水低級アルコール類または含水低級ケトン類もしくは1容量%以上5容量%以下の濃アンモニア水を含むアンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類から再結晶することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性化合物である、レボフロキサシン・1/2水和物の製法に関し、更に詳細には、レボフロキサシンを再結晶させ、その1/2水和物を高収率で得るレボフロキサシン・1/2水和物の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
レボフロキサシン((S)−9−フルオロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−2,3−ジヒドロ−7H−ピリド[1,2,3−de][1,4]ベンソオキサジン−6−カルボン酸)は高い抗菌力と高い安全性を有する化合物であり(特許文献1参照)、その1/2水和物は、優れた合成抗菌薬として知られている。
【0003】
このレボフロキサシンには、上記した1/2水和物の他、結晶水の数の異なる1水和物や、水和物から脱水して生成する無水物の結晶の存在が知られているが、抗菌剤として使用するためには、これらを1/2水和物とすることが必要である。
【0004】
従来、レボフロキサシンの1/2水和物は、前記レボフロキサシンの1水和物や無水物(以下、「レボフロキサシン粗原料」という)の結晶をエタノールとジエチルエーテル若しくは濃アンモニア水とエタノールの混合溶媒(特許文献1参照)、もしくは4−11%の含水エタノール、含水アセトンで再結晶し、晶析させることにより得ていた。
【0005】
しかし、前者の混合溶媒を使用する方法では、晶析時に1/2水和物であるレボフロキサシンの他にレボフロキサシン粗原料の1水和物(以下、単に「1水和物」と略す)が析出し、これが混入する場合があった。また、後者の場合においても、1水和物が析出し、混入する場合もあり、高純度のレボフロキサシンを得る方法としては不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特公平3−27534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、レボフロキサシン粗原料を、高収率でレボフロキサシン・1/2水和物に変えることのできる方法の開発が求められており、このような方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、レボフロキサシン・1/2水和物を得るための再結晶方法に関し、鋭意検討を行っていたところ、ごく低い含水率の溶媒中でレボフロキサシンを再結晶することで、レボフロキサシンの1/2水和物を安定的かつ高収率で取得可能であることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、レボフロキサシンを、含水率が0.14容量%以上4容量%未満である含水低級アルコール類または含水低級ケトン類から再結晶することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法である。
【0010】
また本発明は、レボフロキサシンを、1容量%以上5容量%以下の濃アンモニア水を含むアンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類から再結晶することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レボフロキサシン粗原料を、高収率でレボフロキサシン・1/2水和物に変えることが可能である。従って、種々の方法で製造したレボフロキサシン粗原料から、レボフロキサシン・1/2水和物を製造する方法として使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一つの態様は、レボフロキサシン粗原料を、含水率が0.14容量%以上4容量%未満である含水低級アルコール類または含水低級ケトン類から再結晶するレボフロキサシン・1/2水和物の製法である。
【0013】
使用するレボフロキサシン粗原料としては、レボフロキサシンの1水和物や無水物が挙げられるが、これに限らず、不純物が含まれていたり、前記1水和物や無水物が混入した1/2水和物を粗原料としても良い。
【0014】
また、再結晶に使用できる溶媒(以下、「再結晶溶媒」という)は、少量の水と混和する溶媒で、レボフロキサシン粗原料が溶解するものであれば特に制限はなく、例えば無水メタノール、無水エタノール、イソプロパノール、ブタノール類の低級アルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトンを例示することが出来る。
【0015】
この再結晶溶媒は、含水率が0.14容量%以上4容量%未満であることが必要であり、特に含水率が0.5容量%以上2容量%以下であることが好ましい。
【0016】
再結晶溶媒として低級アルコール類を使用する場合は、レボフロキサシン粗原料に対しその4−8重量倍の範囲とすれば良く、通常は6−7重量倍が望ましい。また、再結晶溶媒として低級ケトンを使用する場合は、レボフロキサシン粗原料に対しその10−50重量倍の範囲とすれば良く、通常は20−30重量倍が望ましい。更に、再結晶溶媒の使用量は処理の開始当初から上記の量を使用する必要はなく、あらかじめ上記より多い量の再結晶溶媒に溶解した後に濃縮によって上記の量にしても良い。
【0017】
この再結晶溶媒にレボフロキサシン粗原料を溶解させるための加熱温度は、50℃から80℃の範囲であり、再結晶溶媒が低級アルコールである場合は、通常、75〜80℃程度の温度が好ましく、再結晶溶媒が低級ケトンである場合は、通常、50℃〜60℃が好ましい。また、溶解後の冷却温度は、25℃から−5℃の範囲であり、通常は5℃程度が好ましい。冷却時間は2時間から2昼夜の範囲でよく、好ましくは一昼夜である。
【0018】
なお、レボフロキサシン・1/2水和物の再結晶は、レボフロキサシン粗原料が再結晶溶媒に加熱溶解した後、直ちに冷却し、静置して晶析させることが好ましい。
【0019】
一方、本発明の別の態様は、レボフロキサシン粗原料を、1容量%以上5容量%以下、好ましくは、1.5容量%以上2.5容量%以下で濃アンモニア水(27%アンモニア水)を含むアンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類から再結晶するレボフロキサシン・1/2水和物の製法である。
【0020】
この態様による発明は、再結晶溶媒として、上記のアンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類を使用する以外は、第一の態様の発明と同様にして実施することができる。すなわち、使用溶媒量、加熱温度および冷却温度も、前記した条件とほぼ同一でよい。
【0021】
なお、上記のように濃アンモニア水を含有させたアンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類(以下、「アンモニア含有再結晶溶媒」という)の含水量は、上記量の濃アンモニア水を加えることにより、概ね最初の態様の発明の条件をも満たすことができる。
【0022】
以上説明した本発明のレボフロキサシン・1/2水和物の製法は、その再結晶、晶析に先立って、精製工程を加えることもできる。例えば、レボフロキサシン粗原料の溶解後に、活性炭などを使用して脱色等の精製処理の工程を加えることも出来る。
【0023】
更に、本発明法で得られたレボフロキサシン・1/2水和物は、乾燥され、最終製品とされる。この結晶の乾燥は、目的物から溶媒のみを除去できる条件で行うことが好ましく、例えば、乾燥温度は20−45℃程度、好ましくは35−40℃程度であり、減圧度は5−100mmHg程度、好ましくは5−10mmHg程度である。また、乾燥時間はおよそ8時間程度が好ましく、乾燥法としては、逆円錐型スクリュー攪拌式真空乾燥機、縦型振動式真空乾燥機、あるいは棚段式箱形真空乾燥機などの各種の真空乾燥機を使用する乾燥法を挙げることができる。
【0024】
かくして得られたレボフロキサシン・1/2水和物は、これを公知の医薬品担体と組み合わせることにより、種々の形態の抗菌剤とすることができる。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制約されるものではない。
【0026】
実 施 例 1
100mLナス型フラスコに、レボフロキサシン粗原料(無水物;水分量0.994%)10gを秤取し、これに無水エタノール(含水量0.14v/v%)に2v/v%の水を加えて65mLとした溶液を加え、水浴で加熱した。レボフロキサシン粗原料は、77.3℃で溶解したので、その後放冷した。1昼夜室温で放冷後、減圧下濾取し、風乾した。レボフロキサシン・1/2水和物9.51gを得た。
【0027】
水分値(カールフィッシャー法 平沼産業(株)製 AQ−55C):
2.56%(理論値 2.43%)
赤外線吸収スペクトル(日本分光(株)製 IR−5000):
1724, 1005カイザー
粉末X線結晶回折(2θ):
6.5°、9.5°、12.9°、13.5°、19.2°
【0028】
実 施 例 2
100mLナス型フラスコに、レボフロキサシン粗原料(1/2水和物;水分量2.462%)10.00gを秤取し、これに無水エタノール(含水量0.14v/v%)70mLを加え、水浴で加熱した。レボフロキサシンは79℃で溶解したので、その後放冷した。1昼夜室温で放冷後、減圧下で濾取し、風乾した。レボフロキサシン・1/2水和物
9.41gを得た。
【0029】
水分値(カールフィッシャー法 平沼産業(株)製 AQ−55C):
2.69%(理論値 2.43%)
赤外線吸収スペクトル(日本分光(株)製 IR−5000):
1724, 1006カイザー
粉末X線結晶回折(2θ):
6.5°、9.5°、12.9°、13.5°、19.2°
【0030】
実 施 例 3
100mLナス型フラスコに、レボフロキサシン粗原料(無水物;水分量0.9941%)10.00gを秤取し、これに無水エタノール(含水量0.14v/v%)に2v/v%の濃アンモニア水を加えて60mLとした溶液を加え、水浴で加熱した。レボフロキサシン粗原料は77.5℃で溶解したので、その後放冷した。1昼夜室温で放冷後、減圧下で濾取し、風乾した。レボフロキサシン・1/2水和物9.24gを得た。
【0031】
水分値(カールフィッシャー法 平沼産業(株)製 AQ−55C):
2.36%(理論値 2.43%)
赤外線吸収スペクトル(日本分光(株)製 IR−5000):
1724, 1006カイザー
粉末X線結晶回折(2θ):
6.5°、9.5°、12.9°、13.5°、19.2°
【0032】
実 施 例 4
500mLナス型フラスコにレボフロキサシン粗原料(無水物;水分量0.9941%)10.00gを秤取し、これに、アセトン(含水量0.07%)に水2%を含有させた溶媒260mLを加え、水浴で加熱した。レボフロキサシン粗原料は51.6℃で溶解したので、その後放冷した。1昼夜室温で放冷後、減圧下で濾取し、風乾した。レボフロキサシン・1/2水和物を6.80g得た。
【0033】
水分値(カールフィッシャー法 平沼産業(株)製 AQ−55C):
2.688%(理論値 2.43%)
赤外線吸収スペクトル(日本分光(株)製 IR−5000):
1724, 1006カイザー
粉末X線結晶回折(2θ):
6.5°、9.5°、12.8°、13.5°、19.1°
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明方法により、レボフロキサシン粗原料からレボフロキサシン・1/2水和物を効率よく得ることができるので、レボフロキサシン・1/2水和物を有効成分とする抗菌剤を経済的に製造する方法として有利に使用することができるものである。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レボフロキサシンを、含水率が0.14容量%以上4容量%未満である含水低級アルコール類または含水低級ケトン類から再結晶することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項2】
含水低級アルコール類または含水低級ケトン類の含水率が0.5容量%以上2容量%以下である請求項第1項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項3】
レボフロキサシンに対し、その4〜8重量倍の含水低級アルコール類を使用する請求項第1項または第2項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項4】
レボフロキサシンに対し、その10〜50重量倍の含水低級ケトン類を使用する請求項第1項または第2項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項5】
レボフロキサシンが、レボフロキサシンの無水物または一水和物である請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項6】
レボフロキサシンを、1容量%以上5容量%以下の濃アンモニア水を含むアンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類から再結晶することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項7】
アンモニア水含有低級アルコール類またはアンモニア水含有低級ケトン類が、濃アンモニア水を1.5容量%以上2.5容量%以下で含有するものである請求項第6項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項8】
レボフロキサシンに対し、その4〜8重量倍のアンモニア水含有低級アルコール類を使用する請求項第6項または第7項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項9】
レボフロキサシンに対し、その10〜50重量倍のアンモニア水含有低級ケトン類を使用する請求項第6項または第7項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項10】
レボフロキサシンが、レボフロキサシンの無水物または一水和物である請求項第6項ないし第9項の何れかの項記載のレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項11】
レボフロキサシンを、その重量に対して6〜7倍で、含水率が0.5容量%以上2容量%以下である含水エタノールに75〜80℃の温度で溶解し、溶解後に室温まで冷却することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法。
【請求項12】
レボフロキサシンを、その重量に対して6〜7倍で、濃アンモニア水を1.5容量%以上2.5容量%以下で含有するアンモニア水含有エタノールに75〜80℃の温度で溶解し、溶解後に室温まで冷却することを特徴とするレボフロキサシン・1/2水和物の製法。


【公開番号】特開2006−273718(P2006−273718A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90485(P2005−90485)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(390028509)シオノケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】