説明

レンズ、光学系、並びに光学装置

【課題】WDの長い、あるいは非接触の観察光学系を提供すること。
【解決手段】負屈折率媒質301と対物レンズ306とを組み合わせて光学系を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、顕微鏡、リソグラフィー光学系、光ディスク光学系等の光学系並びに、それらを用いた光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、これらの光学系では、解像力を向上させるため、水浸あるいは油浸、あるいは固体浸などの方法により、物体側NAを向上させることが提案されていた(以下の文献1を参照)。一方、通常のガラスレンズ等とは異なる屈折特性を示す物質(例えばフォトニック結晶など)に関して以下のような文献がある(非特許文献2,3及び特許文献1、2)。
【非特許文献1】光学系の仕組みと応用 P73−77、P166−170 オプトロニクス社 2003年11月19日刊
【非特許文献2】J.B.Pendry Phys. Rev.Lett., Vol85, 18(2000) 3966-3969
【非特許文献3】M. Notomi Phy.Rev.B.Vol62(2000) 10696
【特許文献1】US 2003/0227415 A1
【特許文献2】US 2002/0175693 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法では標本面あるいは光ディスク面、ウェハ面と、レンズ又は水、油、フォトマスクとが接触している、あるいは30ナノメートル程度の間隔しか離れていない等、作動距離(以下WDと称する)が短かすぎるため、標本やレンズ等に損傷を与えるなど実用上の問題があった。
【0004】
この点に鑑みるに、本発明は、WDの長いあるいは非接触の、例えば観察光学系、結像光学系、投影光学系等、各種光学系並びにそれらを用いた光学装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様は、レンズであって、負屈折を示す媒質で形成されている。
【0006】
また、本発明の第2の態様は、光学系であって、負屈折を示す媒質で形成された光学素子を有する。
【0007】
また、本発明の第3の態様は、光学系であって、負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有する。
【0008】
また、本発明の第4の態様は、光学系であって、負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、結像光学系とを組み合わせて配置する。
【0009】
また、本発明の第5の態様は、光源と微細構造を有する部材と、負屈折を示す媒質で形成された光学素子とを順に配置し、前記微細構造の結像を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、十分な光学性能を得ながらWDの長いあるいは非接触の各種光学系、光学装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態であり、負屈折率媒質301を用いた落射型顕微鏡302の例である。光源303(例えばレーザー光源、水銀ランプ等)から出た光は照明レンズ304,半透鏡305を通り、対物レンズ306に入射する。対物レンズ306のNAは例えば1を越えており、エバネッセント波を励起できる。対物レンズ306には、正の屈折率を有する媒質で形成された光学素子、例えばガラスからなるレンズ306−1,306−2が含まれている。
【0012】
図2は、図1の対物レンズ306近傍の拡大図を示している。ここでは、対物レンズ306の最も物体側の面を311とする。対物レンズ306の中間結像点をFFで表した。面311と中間結像点FFの距離をgとする。
【0013】
中間結像点FFからdだけ離れた位置には例えば平行平板状の負屈折率媒質301が配置されている。dは中間結像点FFと負屈折率媒質310との距離を表す。dの値は例えば50μmである。312は負屈折率媒質301の物体側の面である。
【0014】
物体307で散乱された光は、負屈折率媒質301,対物レンズ306,半透鏡305,接眼レンズ308を通り、眼309、あるいはTVカメラ、冷却CCDカメラ等で観察することができる。以下、この様子を詳述する。
【0015】
ここで、負屈折率媒質301の屈折率を−1、厚さをt(例えば、300μm)とする。WDは負屈折率媒質301と物体307あるいは後述する結像部材の距離である。WDについては後に詳述する。
【0016】
負屈折率媒質301の屈折率が−1であるため、物体307で散乱された光線は図2の矢印で示すように通常と異なる屈折をする(非特許文献2参照)。
【0017】
入射角をi、出射角をrとすれば
r=−i …式(0−3)
である。負屈折率媒質301の屈折率をnとすれば
sin r=(1/n)sin i …式(0−4)
である。
【0018】
非特許文献2によれば
t=WD+d …式(1)
のとき、負屈折率媒質301は、物体307を中間結像点FFに完全結像する。ここで言う完全結像とは、回折限界の影響を受けない、放射光も、エバネッセント波も含めた全ての電磁場としての光を結像することを指す。このためFFに物体があるのと等価となる。
【0019】
gの値は、
0≦g≦λ …式(0)
であり、中間結像点FFは面311に非常に接近している。これはエバネッセント波を有効に利用するために望ましい条件である。実用的には
0≦g≦10λ …式(0−1)
でもよい場合がある。
【0020】
なお、λは用いる光の波長であり、可視光の場合λは0.4μm〜0.7μmである。
【0021】
このようにして、NA>1.0の、エバネッセント波を含む結像が可能となるのである。そして、高解像度の顕微鏡が実現できる。
【0022】
なお、用途によっては、
0≦g≦1000λ …式(0−1−0)
でもよい。
【0023】
仮にd=50μmとすれば式(1)よりWD=250μmとなり、WDの長いことは従来にないメリットであり、gが0〜数十nmであれば、結像性能は対物レンズ306を物体307に直接ほぼ密着させた固体浸レンズとほぼ同等である。
【0024】
本発明の一実施形態は、負屈折率媒質で形成された光学素子(301等)と結像光学系(306等)とを組合せて配置したことがポイントである。この実施形態では負屈折率媒質301の像側に結像光学系を配置した構成となっている。
【0025】
そして、負屈折率媒質301によって結像された物体像(中間結像)を対物レンズ306によって再結像していることが特徴である。中間結像は図2の例では実像であるが、光学系の用途によっては虚像でもよい。また、図2の例では、照明光と観察光とが逆方向に計2回、負屈折率媒質301を透過している特徴がある。
【0026】
以上の説明では、g≧0の場合について述べたが、
g<0 …式(0−5)
でもよい。なぜなら、d+g>0 …式(0−6)
であれば、光学素子同士がぶつかることなく結像関係を維持できるからである。g<0というのはFFがレンズ(例えば306−1)の中に入ることを意味する。ただし、gが小さくなりすぎると、完全結像の条件がくずれてくるので、
−t<g<0 …式(0−7)
を満たすことが望ましい。用途によっては、
−3t<g<0 …式(0−8)
を満たせばよい。光学系によっては、
−10t<g<0 …式(0−9)
を満たせばよい場合もある。
【0027】
gの値を実長で示せば、−100mm<g<0 …式(0−10)
とするのが良い。gの値が式0−10の下限を下まわるとレンズの製作が困難になってくる。
【0028】
−10mm<g<0 …式(0−11)
とすればなお良い。
【0029】
式(1)は厳密に守られなくてもよい。負屈折率媒質301による像位置は負屈折率媒質301の屈折率の製造誤差、面精度の誤差等で式(1)からずれる場合もあるからである。
【0030】
0.8(WD+d)≦t≦1.2(WD+d) …式(2)
であればよい。
【0031】
製品によっては
0.5(WD+d)≦t≦1.5(WD+d) …式(3)
で許容される場合もある。
【0032】
以上説明した考え方は本願の他の実施形態にも同様に適用される。他の実施形態でも負屈折率媒質301の屈折率は例えば−1である。
【0033】
図3は、本発明の他の実施形態であり、負屈折率媒質301を用いた透過型の顕微鏡315を示している。図3では照明光学系316と対物レンズ306の近傍のみを拡大して図示してある。
【0034】
光源303の光はプリズム317に入り、全反射をする角度でプリズム317の標本314側の面318に入射する。標本314はこのためエバネッセント波で照明されることになる。標本314からの散乱光は負屈折率媒質301で屈折され、中間結像点FF近傍に完全結像される。そして、対物レンズ306により再結像されて観察される。
【0035】
式(0)、(0−1)、(0−3)、…、(0−11)、(1)、(2)、(3)はこの例でも同様にあてはまる。
【0036】
図3及び後述の図4、図5では、dの値はWDに比べて充分小さく、かつgの値も0に近い場合を描いてある。図1,3の光学系は、走査型の顕微鏡にも応用できる。
【0037】
図4は光ディスクの光学系320の実施形態である。光源321としての半導体レーザから出た光は半透鏡305,対物レンズ322,負屈折率媒質301を通って光ディスク323に結像し、書き込みが行なわれる。対物レンズ322のNAは1を越えており、対物レンズ322に非接触で微小スポット光によりエバネッセント光を含めてより高密度の書き込みができる。
【0038】
負屈折率媒質301の結像関係は図2の実施形態で矢印の逆の方向に光を進めたと考えればよい。光ディスク323からの信号の読み出しの場合には、光源321から出た光は光ディスク323で散乱、負屈折率媒質301,対物レンズ322,半透鏡305へと進み、フォトディテクタ324に入る。非接触で高NAでの読み出しが行なえる。
【0039】
なお、書き込み時の構成で図5に示すように光源321と対物レンズ322の間にフォトマスク325を配置し、光ディスク323をシリコンウエハー326で置き換え、フォトマスク325とシリコンウエハー326を光学的に共役にすればLSI製造用の投影露光装置(ステッパー等)ができる。NAが1を越え、エバネッセント波を用いることができるので高解像度で、かつ非接触で露光ができ都合がよい。
【0040】
図4、図5の実施形態でも式(0)、(0−1)、(0−3)、…(0−11)、(1)、(2)、(3)は成り立つ。
【0041】
図6は、従来提案されている密着型のリソグラフィーを示す図である。線幅20nm程度の透明なポリマーフォトマスク330に上方から照明光が当てられると、凸部331の下方にエバネッセント波が発生し、シリコンウエハー326上のフォトレジストを感光させる。そしてLSIの製造が行なわれる。ポリマーフォトマスク330は微細構造を有する部材である。しかし、ポリマーフォトマスク330とシリコンウエハー326は密着させねばならず、使用時にポリマーフォトマスク330の寿命が短かい、ポリマーフォトマスク330がこわれやすい等の問題があった。この問題はポリマーフォトマスクの代わりにクロムフォトマスクを用いても生じていた。
【0042】
そこでこの点に鑑みるに本発明によれば負屈折率媒質301を用いることにより非接触で高解像度のリソグラフィーを実現できる。
【0043】
図7は、その説明図であり、シリコンウエハー326とポリマーフォトマスク330の間に、ポリマーフォトマスク330に密着、あるいはごく接近させて負屈折率媒質301の平行平板を配置したものである。
【0044】
このようにすればポリマーフォトマスク330の凸部331の下方に発生したエバネッセント波は負屈折率媒質301で完全結像され、シリコンウエハー326上に像を作る。結像倍率は1倍である。このようにしてWDの大きい、高解像度のリソグラフィーが実現できる。
【0045】
凸部331と負屈折率媒質301の距離をdとすれば式(1)〜(3)を満たす。
【0046】
対物レンズ306,対物レンズ322,投影レンズ328についてであるが、これらの光学系の物体側又は光ディスク側又はシリコンウエハー326側のNAは1.0以上であることが望ましいが、1.0未満でも良い。例えば0.2以上、あるいはそれ以下でも良い。なぜなら負屈折率媒質301によってWDを伸す効果はあるからである。
【0047】
なお、負屈折率媒質301の形状についてであるが、図1,図2,図3,図4,図5の実施形態において、負屈折率媒質301の形状は平行平板でなくても良い。
【0048】
負屈折率媒質として、図8に示すように、負屈折率媒質で形成され、物体側に凹面を有するレンズ301−2を用いても良い。WDを伸ばす効果に加えて収差補正の効果等が得られる。図8において負屈折率媒質でできたレンズ301−2は片側が平面で、もう一方の面が凹の曲面であるが、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、メニスカス凸レンズ、メニスカス凹レンズ等の形状でも良い。
【0049】
負屈折率媒質でできたレンズ301−2の曲面の形状は、球面でも、非球面でも、自由曲面でも回転非対称面、拡張曲面等でも良い。
【0050】
以下、本発明に共通して言える内容を述べる。負屈折率媒質301の具体的な物質としてはフォトニック結晶が挙げられる。図9は、フォトニック結晶340の第1の具体例を示し、図10は、フォトニック結晶340の第2の具体例を示している。図9,図10に示すように、フォトニック結晶340はλ〜数分の1λ程度の周期的な構造を持つ物質で、リソグラフィー等によって作られる。材質はSiO2 ,アクリル、ポリカーボネート等の合成樹脂などの誘電体、GaAs等である。ここでλは使用する光の波長である。図中のX,Y,Z方向の繰返しの周期Sx ,Sy ,Sz の値がλ〜数分の1λ程度の値を持つ。フォトニック結晶のバンド端近傍で負屈折率を実現することができることが知られている(非特許文献3を参照のこと)。図のz方向を光学系の光軸とするのが良い。
【0051】
Sx ,Sy ,Sz は次式のいずれかを満すことが望ましい。
【0052】
λ/10<Sx <λ …式(5−1)
λ/10<Sy <λ …式(5−2)
λ/10<Sz <λ …式(5−3)
Sx ,Sy ,Sz の値が上限を越えても下限を下回ってもフォトニック結晶として機能しなくなる。
【0053】
用途によっては、
λ/30<Sx <4λ …式(5−4)
λ/30<Sy <4λ …式(5−5)
λ/30<Sz <4λ …式(5−6)
のいずれかを満せばよい。
【0054】
負屈折率媒質についてであるが、媒質の誘電率εが−1で、かつ、媒質の透磁率μが−1のとき、媒質の屈折率が−1になることが知られている。
【0055】
また、負屈折率媒質としては、負屈折を示す物質、近似的に負の屈折を示す物質、例えば銀、金、銅等の薄膜、特定の偏光方向について負屈折率、誘電率εがほぼ−1の物質の薄膜等を用いてもよい。
【0056】
また、負屈折率媒質のことを左手系材料(Left handed material)と呼ぶこともある。本願ではこれら負屈折率媒質、左手系材料、近似的に負の屈折を示す物質、特定の偏光方向について負屈折率を示す物質、誘電率εがほぼ−1の物質の薄膜等をすべて含めて負屈折を示す媒質と呼ぶことにする。完全結像を示す物質も負屈折を示す媒質に含まれる。また、誘電率εがほぼ−1の物質の薄膜の場合、
−1.2<ε<−0.8 …式5−7
を充たすとよい。用途によっては、
−1.6<ε<−0.5 …式5−8
でもよい。
【0057】
用いる光の波長としては主に単色光を用いた例を実施形態で述べたが、これに限らず連続スペクトルの光源、白色光源、複数の単色光の和、スーパールミッセントダイオード等の低コヒーレンス光源等を用いてもかまわない。
【0058】
波長としては空気中でも伝送可能なこと、光源が入手しやすいことから等から、0.1μm〜3μmを用いるのがよい。可視波長ならばさらに利用しやすいので良い。
【0059】
以下にWDについて詳述する。
【0060】
WDの値は
100nm≦WD≦20mm …式(7)
とするのが良い。
【0061】
式(7)の下限を下回ると作動距離が小さくなりすぎ、扱いにくい。式(7)の上限を上回ると負屈折率媒質が大きくなりすぎ、コスト、加工上、不利である。また光学装置としての寸法が大きくなりすぎる点も問題となってくる。
【0062】
製品によっては
20nm≦WD≦200mm …式(8)
でも許容できる。
【0063】
また
WD>d …式(8−1)
を満すことが望ましい。
【0064】
tの値が同じなら式(1)により、dの値は小さいほどWDを大きくできるからである。
【0065】
WD>0.1d …式(8−2)
でも製品によっては許容できる。
【0066】
dの値を小さくすることで、306,322,328等のレンズの大きさを小さくすることもできるので良い。
【0067】
また、dの値は解像度を良くするためには、
d≧0 …式(8−2−1)
を満たすことが望ましいが、用途によっては、
d<0 …式(8−2−2)
でもよい。
【0068】
また、WDの値は、光学装置の機械的構造を工夫すること等で、可変できるようにしておくことが望ましい。顕微鏡のステージ等はその一例である。
【0069】
また、負屈折率媒質301とレンズの最も負屈折率媒質301寄りの面(図2で言えば面311)とが接着されていてもよい。あるいは、負屈折率媒質301をレンズ(図3で言えば306−1)を基板として形成しても良い。これらの場合、dの値は近似的に0、あるいは0となる。
【0070】
あるいは、負屈折率媒質301を透明な平板上に形成し、この透明な平板が結像に用いるレンズの一部をなすように配置してもよい。配置する場所としては、結像レンズ系(図1で言えば対物レンズ306)の最前部(図1で言えばレンズ306−1の物体側)又は最後部(図5で言えば328のウエハー側)が良い。基板として用いるレンズ、あるいは平板は正の屈折率を有する材料で作れば低コストで製作できるので良い。以上のように、基板上に負屈折率媒質301を設ける場合でもWD、dの値は負屈折率媒質301の表面から計るものとする。
【0071】
また完全結像の条件、式(1)からのずれについてであるが、
WD+d−t=Δ …式(8−3)
とした時、|Δ|の値が大きいほど結像状態は悪くなる。
【0072】
|Δ|<λ …式(8−4)
であればある程度の結像状態の低下でおさえられる。
【0073】
実用的には製品によっては
|Δ|<10λ …式(8−5)
まで許容できる。
【0074】
また、負屈折率媒質301の屈折率をnとすると、n<0である。これまで述べた実施形態ではn=−1であった。負屈折率媒質301が平行平板の場合、理想的にはn=−1である。しかし実際には負屈折率媒質301の製作誤差、使用波長のズレなどでn=−1にできないこともあり、この時次式を満すことが望ましい。
【0075】
−1.1<n<−0.9 …式(9)
nの値が上記をはずれると、完全結像が成り立たなくなり、解像度が低下する。製品によっては
−1.5<n<−0.5 …式(10)
であれば良い。
【0076】
WDを大きく取るためだけなどの用途では
−3<n<−0.2 …式(11)
でも良い場合がある。
【0077】
負屈折率媒質に最も近いレンズ(図1、4、5で言えばそれぞれ306−1、322−1、328−1)の屈折率をNとすると、Nは大きいほど解像度が上がるので良い。
【0078】
N≧1.3 式(12)
とすれば、広い用途に利用できる。
【0079】
N≧1.7 式(13)
とすればなお良い。
【0080】
最後に、本実施形態で用いられた技術用語の定義を述べておく。
【0081】
光学装置とは、光学系あるいは光学素子を含む装置のことである。光学装置単体で機能しなくてもよい。つまり、装置の一部でもよい。
【0082】
光学装置には、撮像装置、観察装置、表示装置、照明装置、信号処理装置、光情報処理装置、投影装置、投影露光装置、等が含まれる。
【0083】
撮像装置の例としては、フィルムカメラ、デジタルカメラ、PDA用デジタルカメラ、ロボットの眼、レンズ交換式デジタル一眼レフカメラ、テレビカメラ、動画記録装置、電子動画記録装置、カムコーダ、VTRカメラ、携帯電話のデジタルカメラ、携帯電話のテレビカメラ、電子内視鏡、カプセル内視鏡、車載カメラ、人工衛星のカメラ、惑星探査機のカメラ、宇宙探査機のカメラ、監視装置のカメラ、各種センサーの眼、録音装置のデジタルカメラ、人工視覚、レーザ走査型顕微鏡、投影露光装置、ステッパー、アライナー、光プローブ型顕微鏡等がある。デジカメ、カード型デジカメ、テレビカメラ、VTRカメラ、動画記録カメラ、携帯電話のデジタルカメラ、携帯電話のテレビカメラ、車載カメラ、人工衛星のカメラ、惑星探査機のカメラ、宇宙探査機のカメラ、録音装置のデジタルカメラなどはいずれも電子撮像装置の一例である。
【0084】
観察装置の例としては、顕微鏡、望遠鏡、眼鏡、双眼鏡、ルーペ、ファイバースコープ、ファインダー、ビューファインダー、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工視覚等がある。
【0085】
表示装置の例としては、液晶ディスプレイ、ビューファインダー、ゲームマシン(ソニー社製プレイステーション)、ビデオプロジェクター、液晶プロジェクター、頭部装着型画像表示装置(head mounted display:HMD)、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、人工視覚等がある。
【0086】
ビデオプロジェクター、液晶プロジェクター、等は投影装置でもある。
【0087】
照明装置の例としては、カメラのストロボ、自動車のヘッドライト、内視鏡光源、顕微鏡光源等がある。
【0088】
信号処理装置の例としては、携帯電話、パソコン、ゲームマシン、光ディスクの読取・書込装置、光計算機の演算装置、光インターコネクション装置、光情報処理装置、光LSI、光コンピュータ、PDA等がある。
【0089】
情報発信装置とは、携帯電話、固定式の電話、ゲームマシン、テレビ、ラジカセ、ステレオ等のリモコンや、パソコン、パソコンのキーボード、マウス、タッチパネル等の何らかの情報を入力し、送信することができる装置を指す。
【0090】
撮像装置のついたテレビモニター、パソコンのモニター、ディスプレイも含むものとする。
【0091】
情報発信装置は、信号処理装置の中に含まれる。
【0092】
撮像素子は、例えばCCD、撮像管、固体撮像素子、写真フィルム等を指す。また、平行平面板はプリズムの1つに含まれるものとする。観察者の変化には、視度の変化を含むものとする。被写体の変化には、被写体となる物体距離の変化、物体の移動、物体の動き、振動、物体のぶれ等を含むものとする。撮像素子、ウエハー、光ディスク、銀塩フィルム、等は結像部材の例である。
【0093】
拡張曲面の定義は以下の通りである。
【0094】
球面、平面、回転対称非球面のほか、光軸に対して偏心した球面、平面、回転対称非球面、あるいは対称面を有する非球面、対称面を1つだけ有する非球面、対称面のない非球面、自由曲面、微分不可能な点、線を有する面等、いかなる形をしていても良い。反射面でも、屈折面でも、光になんらかの影響を与えうる面ならば良い。
【0095】
本発明では、これらを総称して拡張曲面と呼ぶことにする。
【0096】
結像光学系とは、撮像光学系、観察光学系、投影光学系、投影露光光学系、表示光学系、信号処理用光学系等を指す。
【0097】
撮像光学系の例としてはデジタルカメラの撮像用レンズがある。
【0098】
観察光学系の例としては顕微鏡光学系、望遠鏡光学系等がある。
【0099】
投影光学系の例としてはビデオプロジェクターの光学系、リソグラフィー用の光学系、光ディスクの読み出し、書き込み光学系、光ピックアップの光学系等がある。
【0100】
投影露光光学系の例としてはリソグラフィー用の光学系がある。
【0101】
表示光学系の例としてはビデオカメラのビューファインダーの光学系がある。
【0102】
信号処理光学系の例としては光ディスクの読み出し、書き込み光学系、光ピックアップの光学系がある。
【0103】
光学素子とはレンズ、非球面レンズ、鏡、ミラー、プリズム、自由曲面プリズム、回折光学素子(DOE)、不均質レンズ等を指すものとする。平行平板も光学素子のひとつである。
【0104】
(付記)
上記した具体的な実施形態から以下の構成を有する発明を抽出することが可能である。
【0105】
1 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とするレンズ。
【0106】
1−1 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とする片側が平面のレンズ。
【0107】
1−2 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とする両凹、または両凸のレンズ。
【0108】
1−3 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とするメニスカスレンズ。
【0109】
1−4 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とする非球面のレンズ。
【0110】
1−5 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とする回転非対称面のレンズ。
【0111】
1−6 負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とする拡張曲面を有するレンズ。
【0112】
1−7 屈折率が正の材料でできた光学素子を有し、前記光学素子を基板として前記光学素子上に形成された負屈折を示す媒質を有するレンズ。
【0113】
1−8 屈折率が正の材料でできた光学素子を有し、前記光学素子を基板として前記光学素子上に形成された負屈折を示す媒質を有する光学素子。
【0114】
1−9 透明な平板を有し、前記平板を基板として前記平板上に形成された負屈折を示す媒質を有する光学素子。
【0115】
1−10 屈折率が正の材料でできた透明な平板を有し、前記平板を基板として前記平板上に形成された負屈折を示す媒質を有する光学素子。
【0116】
2 負屈折を示す媒質で形成された光学素子を有することを特徴とする光学系。
【0117】
3 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有することを特徴とする光学系。
【0118】
3−1 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、正の屈折率の媒質で形成された光学素子とを有することを特徴とする光学系。
【0119】
4 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、結像光学系とを組み合わせて配置したことを特徴とする光学系。
【0120】
4−1 負屈折を示す媒質で形成された光学素子による結像関係と、結像光学系による結像関係との両方を含むことを特徴とする光学系。
【0121】
4−2 負屈折を示す媒質で形成された光学素子により物体の像を結像し、その像を結像光学系により再結像することを特徴とする光学系。
【0122】
4−3 結像光学系により物体の像を結像し、その像を負屈折を示す媒質で形成された光学素子により再結像することを特徴とする光学系。
【0123】
4−4 2乃至4−3のいずれかにおいて、物体が2次元あるいは3次元の形状を有することを特徴とする。
【0124】
4−5 前記負屈折を示す媒質を光が2回通過することを特徴とする2乃至4−4。
【0125】
4−6−1 負屈折を示す物質で形成された光学素子を有する結像光学系。
【0126】
4−6−2 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有する結像光学系。
【0127】
4−6−3 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、正の屈折率の媒質で形成された光学素子とを示す結像光学系。
【0128】
4−7−1 負屈折を示す媒質で形成された光学素子を有することを特徴とする撮像光学系。
【0129】
4−7−2 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有することを特徴とする撮像光学系。
【0130】
4−7−3 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、正の屈折率の媒質で形成された光学素子とを有することを特徴とする撮像光学系。
【0131】
4−8−1 負屈折を示す媒質で形成された光学素子を有することを特徴とする観察光学系。
【0132】
4−8−2 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有することを特徴とする観察光学系。
【0133】
4−8−3 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、正の屈折率の媒質で形成された光学素子とを有することを特徴とする観察光学系。
【0134】
4−9−1 負屈折を示す媒質で形成された光学素子を有することを特徴とする信号処理光学系。
【0135】
4−9−2 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有することを特徴とする信号処理光学系。
【0136】
4−9−3 負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、正の屈折率の媒質で形成された光学素子とを有することを特徴とする信号処理光学系。
【0137】
4−10 前記負屈折を示す媒質で形成された光学素子が平行平板であることを特徴とする2乃至4−9−3。
【0138】
4−11 2乃至4−10のいずれかにおいて、式(0−1)または式(0−5)を満たすことを特徴とする。
【0139】
4−12 2乃至4−11のいずれかにおいて、式(3)を満たすことを特徴とする。
【0140】
但し WDは、前記負屈折を示す媒質と物体または像面までの距離
dは、前記負屈折を示す媒質と光学系の中間結像点までの距離
tは、前記負屈折を示す媒質の厚さ
4−13 2乃至4−12のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質の屈折率がおよそ−1であることを特徴とする。
【0141】
4−14 2乃至4−12のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質の屈折率が式(11)を満たすことを特徴とする。
【0142】
4−15 2乃至4−14のいずれかにおいて、前記光学系の物体側あるいは像側あるいは中間結像のNAが0.2を超える値であることを特徴とする。
【0143】
4−16 2乃至4−14のいずれかにおいて、前記光学系の物体側あるいは像側あるいは中間結像のNAが1.0未満であることを特徴とする。
【0144】
4−17 2乃至4−14のいずれかにおいて、前記光学系の物体側あるいは像側あるいは中間結像のNAが1.0を超える値であることを特徴とする。
【0145】
4−18 2乃至4−17のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質と物体または像との距離が式(8)を満たすことを特徴とする。
【0146】
4−19 2乃至4−18のいずれかにおいて、式(8−2)を満たすことを特徴とする。
【0147】
4−20 2乃至4−19のいずれかにおいて、式(8−5)を満たすことを特徴とする。
【0148】
4−21 2乃至4−20のいずれかにおいて、負屈折を示す媒質で形成された光学素子の後方に結像光学系を配設したことを特徴とする。
【0149】
4−22 上記4−21の光学系を有することを特徴とする光学装置。
【0150】
4−23 上記4−21の光学系を有することを特徴とする顕微鏡。
【0151】
4−24 上記4−21の光学系を有することを特徴とする落射型顕微鏡。
【0152】
4−25 上記4−21の光学系を有することを特徴とする透過型顕微鏡。
【0153】
4−26 上記4−21の光学系を有することを特徴とする観察装置。
【0154】
4−27 上記4−21の光学系を有することを特徴とする撮像装置。
【0155】
4−28 2乃至4−21のいずれかにおいて、負屈折を示す媒質で形成された光学素子の前方に結像光学系を配設したことを特徴とする。
【0156】
4−29 上記4−28の光学系を有することを特徴とする光学装置。
【0157】
4−30 上記4−28の光学系を有することを特徴とする光ディスク装置。
【0158】
4−31 上記4−28の光学系を有することを特徴とする投影露光装置。
【0159】
4−32 上記4−28の光学系を有することを特徴とする投影装置。
【0160】
4−33 上記4−28の光学系を有することを特徴とする信号処理装置。
【0161】
4ー34 上記4−28の光学系を有することを特徴とする撮像装置。
【0162】
4−35 上記2乃至4−20の光学系を有することを特徴とする光学装置。
【0163】
5 光源と微細構造を有する部材と、負屈折を示す媒質で形成された光学素子とを順に配置し、前記微細構造の結像を行うことを特徴とする光学装置。
【0164】
5−1 光源とフォトマスクと負屈折を示す媒質で形成された光学素子とを順に配置し、ウエハーに露光を行うことを特徴とする露光装置。
【0165】
5−2 5乃至5−1のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質で形成された光学素子が平行平板であることを特徴とする。
【0166】
5−3 式(3)を満たすことを特徴とする5−2。
【0167】
但し WDは、前記負屈折を示す媒質と像面またはウエハーまでの距離
dは、前記負屈折を示す媒質と微細構造を有する部材またはフォトマスク
の距離
tは、前記負屈折を示す媒質の厚さ、である。
【0168】
5−4 5乃至5−3のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質の屈折率がおよそ−1であることを特徴とする。
【0169】
5−5 5乃至5−3のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質の屈折率が式(11)を満たすことを特徴とする。
【0170】
5−6 5乃至5−5のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質と像面との距離が式(8)を満たすことを特徴とする。
【0171】
5−7 5乃至5−6のいずれかにおいて、式(8−2)を満たすことを特徴とする。
【0172】
5−8 5乃至5−7のいずれかにおいて、式(8−5)を満たすことを特徴とする。
【0173】
5−9 1乃至5−8のいずれかにおいて、負屈折を示す媒質としてフォトニック結晶を用いたことを特徴とする。
【0174】
5−10 式(5−4)または式(5−5)または式(5−6)を満たすことを特徴とする5−9。
【0175】
5−11 1乃至5−10のいずれかにおいて、使用する光が単色光であることを特徴とする。
【0176】
5−12 1乃至5−9のいずれかにおいて、使用する光の波長が0.1μm以上3μm以下であることを特徴とする。
【0177】
5−13 1乃至5−12のいずれかにおいて、光源を有することを特徴とする。
【0178】
5−14 1乃至4−15あるいは4−17乃至5−13のいずれかにおいて、エバネッセント波を結像に用いることを特徴とする。
【0179】
5−15 2乃至5−14のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質と、物体あるいは結像部材までの距離が可変できることを特徴とする。
【0180】
5−16 1乃至5−15のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質は、負屈折率媒質であることを特徴とする。
【0181】
5−17 1乃至5−15のいずれかにおいて、前記負屈折を示す媒質は完全結像を示す媒質であることを特徴とする。
【0182】
5−18 2乃至4−35のいずれかにおいて、式(12)を満たすもの。
【0183】
6 上記4−21の光学系を有することを特徴とする走査型顕微鏡。
【0184】
6−1 2乃至4−35のいずれかにおいて、負の屈折を示す媒質で形成された光学素子は前記1乃至1−10のいずれかの構成を有する。
【0185】
6−2 前記5乃至5−6のいずれかにおいて、負の屈折を示す媒質で形成された光学素子は前記1−8乃至1−10のいずれかの構成を有する。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】本発明の一実施形態であり、負屈折率媒質301を用いた落射型顕微鏡302の例である。
【図2】図1の対物レンズ306近傍の拡大図を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態であり、負屈折率媒質301を用いた透過型の顕微鏡315を示す図である。
【図4】光ディスクの光学系320の実施形態である。
【図5】投影露光装置の光学系の実施形態である。
【図6】従来提案されている密着型のリソグラフィーを示す図である。
【図7】シリコンウエハー326とポリマーフォトマスク330の間に、ポリマーフォトマスク330に密着、あるいはごく接近させて負屈折率媒質301の平行平板を配置した図である。
【図8】負屈折率媒質でできたレンズ301−2を示す実施形態である。
【図9】フォトニック結晶340の一例を示す図である。
【図10】フォトニック結晶340の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0187】
301…負屈折率媒質、303…光源、304…照明レンズ、305…半透鏡、306…対物レンズ、306−1、306−2…レンズ、307…物体(標本)、308…接眼レンズ、309…眼、340…フォトニック結晶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負屈折を示す媒質で形成されたことを特徴とするレンズ。
【請求項2】
負屈折を示す媒質で形成された光学素子を有することを特徴とする光学系。
【請求項3】
負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、それ以外の光学素子とを有することを特徴とする光学系。
【請求項4】
負屈折を示す媒質で形成された光学素子と、結像光学系とを組み合わせて配置したことを特徴とする光学系。
【請求項5】
光源と微細構造を有する部材と、負屈折を示す媒質で形成された光学素子とを順に配置し、前記微細構造の結像を行うことを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−72237(P2006−72237A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258718(P2004−258718)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】