説明

レンズ制御装置および撮像装置

【課題】手振れ補正の性能の劣化を抑えつつ、レンズを指定位置に移動させる際の整定時間を短くすることが容易となるレンズ制御装置を提供する。
【解決手段】振れ量を検出するセンサを有した撮像装置に設けられ、該撮像装置のレンズの位置を制御するレンズ制御装置であって、前記センサの検出結果に応じた第1信号、および、予め指定された前記レンズの位置を表す第2信号の何れかを、前記レンズの目標位置を表す目標位置信号に切替可能に設定する目標位置制御部と、カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタと、前記ローパスフィルタによるフィルタ処理済の前記目標位置信号に基づいて、前記目標位置へ近づくように前記レンズの位置を制御するサーボ制御部と、を備え、前記目標位置信号が第1信号と第2信号の何れであるかに応じて、前記カットオフ周波数が変更されるようにしたレンズ制御装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ制御装置、およびこれを用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手振れ補正機能を備えた撮像装置が提案されている。図5は、このような撮像装置に設けられたレンズ制御装置(レンズの位置を制御する装置)の構成を例示している。当該レンズ制御装置は、ローパスフィルタ114、加算部116、PID[P:Proportinal, I:Integral, D:Differential]フィルタ117、およびドライバ118を有している。
【0003】
ローパスフィルタ114は、レンズの目標位置を表す目標位置信号が入力され、この目標位置信号に対して低域通過のフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ114は、目標位置信号に含まれている高域ノイズを除去する役割を果す。
【0004】
なお目標位置信号は、ジャイロセンサ等の検出結果に基づき、手振れによる画像の滲みが抑制されるように生成される信号である。また加算部116は、レンズの現在位置を表す現在位置信号と、ローパスフィルタ114によるフィルタ処理済みの目標位置信号と、が入力され、これらの信号の差を出力する。
【0005】
またPIDフィルタ117は、加算部116の出力を受け、現在位置信号とフィルタ処理済みの目標位置信号の差が小さくなるように、ドライバ118への出力を行う。ドライバ118は、PIDフィルタ117の出力に応じ、レンズ駆動モータ(不図示)の制御を通じて、レンズの位置を調節する。これにより、現在位置信号とフィルタ処理済みの目標位置信号の差が小さくなるように、レンズの位置が制御されることになる。その結果、手振れ補正機能が発揮されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−329874号公報
【特許文献2】特開2011−095682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したレンズ制御装置において手振れ補正の性能を高める方策としては、PIDフィルタにてオープンループのゲインを高くしておくことの他、ローパスフィルタの特性を適切に設定しておくことが挙げられる。
【0008】
例えばローパスフィルタのカットオフ周波数が低過ぎると、フィルタ処理によって目標位置信号に位相の遅れが生じ、手振れ補正の性能が劣化してしまう。そのため、目標位置信号における必要帯域の位相を変化させないように、当該カットオフ周波数は、ある程度高い周波数に設定される必要がある。
【0009】
ところで上述したレンズ制御装置において、レンズを予め指定された指定位置(例えば、レンズの可動領域の中央)に移動させようとするときには、この指定位置を表す信号が目標位置信号に設定される。これにより、当該指定位置へ近づくようにレンズの位置を制御することが可能である。
【0010】
しかし、指定位置を表す信号が目標位置信号に設定されたとき、目標位置は非連続的に変化し、目標位置信号には急激な変化が生じる。そのため、ローパスフィルタのカットオフ周波数が高く設定されていると、高周波帯域に大きな成分をもった信号がPIDフィルタに入力される。
【0011】
その結果、レンズが大きくリンギングし、レンズが指定位置に安定するまでの時間(整定時間)が長くなってしまう。なお、この不具合を解消するためにローパスフィルタのカットオフ周波数を常時低く設定しておくと、先述した通り、手振れ補正の性能の劣化が問題となる。
【0012】
本発明は上述した問題に鑑み、手振れ補正の性能の劣化を抑えつつ、レンズを指定位置に移動させる際の整定時間を短くすることが容易となるレンズ制御装置、およびこれを備えた撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るレンズ制御装置は、振れ量を検出するセンサを有した撮像装置に設けられ、該撮像装置のレンズの位置を制御するレンズ制御装置であって、前記センサの検出結果に応じた第1信号、および、予め指定された前記レンズの位置を表す第2信号の何れかを、前記レンズの目標位置を表す目標位置信号に切替可能に設定する目標位置制御部と、カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタと、前記ローパスフィルタによるフィルタ処理済の前記目標位置信号に基づいて、前記目標位置へ近づくように前記レンズの位置を制御するサーボ制御部と、を備え、前記目標位置信号が第1信号と第2信号の何れであるかに応じて、前記カットオフ周波数が変更されるようにした構成とする。
【0014】
本構成によれば、手振れ補正の性能の劣化を抑えつつ、レンズを指定位置に移動させる際の整定時間を短くすることが容易となる。なおここでの撮像装置は、レンズを用いて被写体の撮像を行う装置であり、その具体的形態などは特に限定されない。
【0015】
また上記構成としてより具体的には、第2信号が前記目標位置信号に設定されたときは、第1信号が前記目標位置信号に設定されているときに比べ、前記カットオフ周波数が低く設定される構成としてもよい。
【0016】
また上記構成としてより具体的には、第1信号は、前記撮像装置の振れによる撮像画像の滲みを抑えるように算出された、前記レンズの位置を表す信号である構成としてもよい。なおここでの撮像画像は、撮像装置が撮像する被写体の画像のことである。
【0017】
また上記構成としてより具体的には、前記レンズの現在位置を表す現在位置信号を取得し、前記サーボ制御部は、前記現在位置信号と前記フィルタ処理済の目標位置信号との差が小さくなるように、前記レンズの位置を制御する構成としてもよい。
【0018】
また上記構成としてより具体的には、第2信号は、前記レンズの可動領域の中央を表す構成としてもよい。
【0019】
また、目標位置切替信号が入力される上記構成のレンズ制御装置において、前記目標位置切替信号が入力されていないときは、第1信号が前記目標位置信号に設定されるとともに、前記カットオフ周波数は所定の第1周波数に設定され、前記目標位置切替信号が入力されているときは、第2信号が前記目標位置信号に設定されるとともに、前記カットオフ周波数は第1周波数より低い第2周波数に設定される構成としてもよい。
【0020】
また上記構成としてより具体的には、前記撮像装置の起動時に、前記目標位置切替信号が入力される構成としてもよい。またイメージセンサの露光により撮像を行う前記撮像装置に設けられた、上記構成のレンズ制御装置において、前記露光の開始直前に、前記目標位置切替信号が入力される構成としてもよい。
【0021】
また上記構成としてより具体的には、前記レンズを駆動するレンズ駆動モータの制御を通じて、前記レンズの位置を制御する構成としてもよい。また上記構成としてより具体的には、前記センサはジャイロセンサである構成としてもよい。
【0022】
また本発明に係る撮像装置は、上記構成のレンズ制御装置を備えた構成とする。本構成によれば、上記構成に係るレンズ制御装置の利点を享受することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
上述した通り、本発明に係るレンズ制御装置によれば、手振れ補正の性能の劣化を抑えつつ、レンズを指定位置に移動させる際の整定時間を短くすることが容易となる。また本発明に係る撮像装置によれば、本発明に係るレンズ制御装置の利点を享受することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の構成図である。
【図2】レンズの現在位置および目標位置に関するグラフである。
【図3】レンズの現在位置および目標位置に関する別のグラフである。
【図4】レンズの可動範囲に関する説明図である。
【図5】従来のレンズ制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[撮像装置の構成等]
本発明の実施形態について、各図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る撮像装置のブロック図である。本実施形態の撮像装置9は、レンズユニット1、位置センサ2、レンズ駆動モータ3、振れ検出センサ4、主制御装置5、およびレンズ制御装置6などを有し、手振れ補正機能を備えたものとなっている。
【0026】
なお以下の説明では、一例として、撮像装置9はデジタルスチルカメラであるとする。また撮像装置9には、ユーザの操作に用いられるスイッチとして、電源のON/OFFを切替えるための電源ボタンや、写真撮影を行うためのシャッターボタンなどが設けられている。
【0027】
レンズユニット1は、手振れ補正用レンズであるレンズ1aを有しており、レンズ1aを用いて、被写体の光学像を撮像装置9内のイメージセンサ(CCD[Charge Coupled Device]やCMOS[Complementary Metal Oxide Semiconductor]など)に結像させる。撮像装置9は、レンズ1aを介してこのイメージセンサを露光させ、被写体を撮像することが可能となっている。なおレンズ1aは、レンズユニット1の固定部分に対して、バネ(弾性体)によって弾性的に支持された可動部材である。
【0028】
位置センサ2は、レンズ1aの位置(現在位置)を検出するセンサであり、例えばホールセンサやフォトリフレクタが適用される。位置センサ2は、レンズ1aの現在位置を表す現在位置信号を継続的に生成し、レンズ制御装置6へ送出する。この現在位置信号は、AD変換等の処理が施された上で、加算部17に入力されるようになっている。
【0029】
レンズ駆動モータ3は、例えばVCM[Voice Coil Motor]によって構成されており、レンズ制御装置6から出力されるモータ電流に応じた駆動力で、レンズ1aを駆動する。
【0030】
振れ検出センサ4は、撮像装置9における手振れの量(振れ量)を検出するセンサであり、例えばジャイロセンサ(角速度センサの一種)が適用される。振れ検出センサ4は、手振れの量を表す信号を継続的に生成し、レンズ制御装置6へ送出する。
【0031】
主制御装置5は、撮像装置9における各部を制御し、撮像装置9を適切に動作させる。なお主制御装置5は、レンズ制御装置6(より具体的には、レンズ目標位置切替制御部14とカットオフ周波数切替制御部16)に対して、適宜、レンズ1aの目標位置を切替えるための目標位置切替信号を出力するようになっている。目標位置切替信号の役割等については、後述する説明により明らかとなる。
【0032】
レンズ制御装置6は、振れ検出センサ信号処理部12、レンズ指定位置記録部13、レンズ目標位置切替制御部14、ローパスフィルタ15、カットオフ周波数切替制御部16、加算部17、PIDフィルタ18、およびドライバ部19などを備えている。レンズ制御装置6は、これらの各部を集積化した半導体装置として形成されている。
【0033】
振れ検出センサ信号処理部12は、振れ検出センサ4から手振れの量を表す信号を受取り、受取った信号に基づいて、手振れ(撮像装置9の振れ)による撮像画像の滲みが抑えられるようにレンズ1aの位置を算出する。この算出されたレンズ1aの位置(以下、便宜的に「算出位置P1」と称する)を表す情報は、レンズ目標位置切替制御部14へ送出される。
【0034】
レンズ指定位置記録部13は、レンズ1aの位置として予め指定された位置の情報が記録されている。なお本実施形態では、レンズ1aの可動領域の中央が、当該指定された位置となっている。但しこれは一例であって、指定される位置は当該可動領域の中央でなくても良く、適宜最適な位置が指定され得る。この指定されたレンズ1aの位置(以下、便宜的に「指定位置P2」と称する)を表す情報は、レンズ目標位置切替制御部14へ送出される。
【0035】
レンズ目標位置切替制御部14は、算出位置P1および指定位置P2の何れかを、レンズ1aの目標位置として切替可能に設定する役割を果す。すなわちレンズ目標位置切替制御部14は、算出位置P1の信号および指定位置P2の信号の何れかを、レンズ1aの目標位置を表す目標位置信号に切替可能に設定し、ローパスフィルタ15に向けて出力する。なお、レンズ目標位置切替制御部14の後段側に、目標位置の情報を保持するレジスタが設けられるようにしても良い。この場合、当該レジスタからローパスフィルタ15に向けて、目標位置信号が出力される。
【0036】
またレンズ目標位置切替制御部14は、主制御装置5から入力される目標位置切替信号に応じて、レンズ1aの目標位置を算出位置P1と指定位置P2の間で切替える。より具体的には、通常時(目標位置切替信号が入力されていないとき)は、算出位置P1が当該目標位置に設定され、目標位置切替信号が入力されているときは、指定位置P2が当該目標位置に設定される。
【0037】
ローパスフィルタ15は、目標位置信号に低域通過のフィルタ処理を施し、加算部17へ出力する。なおローパスフィルタ15は、カットオフ周波数が可変であるように形成されている。
【0038】
カットオフ周波数切替制御部16は、算出位置P1がレンズ1aの目標位置であるときには、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数を周波数Fc1に設定し、指定位置P2がレンズ1aの目標位置であるときには、当該カットオフ周波数を周波数Fc2に設定する。すなわちカットオフ周波数切替制御部16は、レンズ1aの目標位置が算出位置P1と指定位置P2の何れであるかによって、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数を切替える。
【0039】
本実施形態では、主制御装置5から入力される目標位置切替信号に基づいて、当該切替が行われる。すなわちカットオフ周波数切替制御部16は、目標位置切替信号が入力されていないときは、周波数Fc1を当該カットオフ周波数に設定し、目標位置切替信号が入力されているときは、周波数Fc2を当該カットオフ周波数に設定する。但しこの形態は一例であり、その他の形態が採用されても構わない。例えばカットオフ周波数切替制御部16は、レンズ目標位置切替制御部14から目標位置の切替を行った旨の通知を受け、この通知に基づいて、当該カットオフ周波数の切替を行うようにしても良い。
【0040】
なお周波数Fc1は、算出位置P1を表す信号(振れ検出センサ4の検出結果に応じた信号)に含まれる高周波成分のノイズを、適切に除去し得る値に設定されている。一方で周波数Fc2は、周波数Fc1よりも低い所定値(目標位置が非連続的に変化しても、レンズ1aのリンギングがより抑えられる値)に設定されている。
【0041】
加算部17は、目標位置信号の値と、位置センサ2から出力される現在位置信号の値との差を算出し、この算出の結果をPIDフィルタ18へ出力する。なお位置センサ2と加算部17の間に、位置センサ2の出力情報を保持するレジスタが設けられるようにしても良い。この場合、当該レジスタから加算部17に向けて、現在位置信号が出力される。
【0042】
PIDフィルタ18は、加算部17から受取る情報に基づき、目標位置信号の値と現在位置信号の値の差がゼロに近づくように出力信号を生成し、ドライバ部19へ出力する。
【0043】
ドライバ部19は、PIDフィルタ18の出力信号に応じたモータ電流を生成し、レンズ駆動モータ3に向けて出力する。これによりレンズ駆動モータ3は、現在位置が目標位置へ近づくように、レンズ1aを駆動することになる。
【0044】
なお加算部17、PIDフィルタ18、およびドライバ部19等からなる部分は、ローパスフィルタ15によるフィルタ処理済の目標位置信号に基づいて、目標位置へ近づくようにレンズ1aの位置を制御する部分に相当する。つまりこの部分は、現在位置信号と当該フィルタ処理済の目標位置信号との差が小さくなるように、レンズ1aの位置を制御する。
【0045】
なお、算出位置P1がレンズ1aの目標位置に設定されているときは、手振れによる撮像画像の滲みが抑えられるように、レンズ1aの位置が制御されることになる。すなわち、撮像装置9において手振れ補正機能が有効となる。一方、指定位置P2がレンズ1aの目標位置に設定されているときは、可動領域の中央に近づくように、レンズ1aの位置が制御されることになる。
【0046】
[撮像装置の動作等]
次に、撮像装置9が行う動作の一部について以下に説明する。主制御装置5は、ユーザにより電源ボタンが操作されると、撮像装置9の電源のON/OFFを切替える。なお電源ONの状態は、撮像装置9の通常の使用を想定した状態であり、撮像装置9が本来の機能を発揮するように各部へ電源が供給される状態である。一方、電源OFFの状態は、撮像装置9の不使用を想定した状態であり、撮像装置9の消費電力を抑えるため電源供給の全部または一部が停止される状態である。
【0047】
また主制御装置5は、ユーザによりシャッターボタンが押下されると、撮像装置9内のイメージセンサを露光させて被写体の撮像が行われるようにし、撮像画像を取得する。これにより、所望のタイミングでの写真撮影が可能となっている。なお主制御装置5は、被写体の撮像に先立ち、例えばシャッターボタンの半押しがなされたときに、被写体にピントを合わせる動作が実行されるようにする。
【0048】
また撮像装置9は、通常の動作時、算出位置P1がレンズ1aの目標位置に設定され、手振れ補正機能を発揮する。このとき、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数が周波数Fc1に設定されるため、手振れ補正性能の劣化(特に位相の遅れ)が抑えられる。
【0049】
ここで、算出位置P1が目標位置である状況での、レンズ1aの現在位置および目標位置のグラフを、図2に例示する。なお図2において、横軸は時間を、縦軸はレンズ1aの位置をそれぞれ表している。また実線はレンズ1aの現在位置を、破線はレンズ1aの目標位置をそれぞれ表している。なお点線は、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数が周波数Fc2(周波数Fc1より低い)であると仮定したときのレンズ1aの現在位置を、参考までに表している。
【0050】
図2のグラフに示すように、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数が周波数Fc1に設定されている場合は、当該カットオフ周波数が周波数Fc2である場合に比べ、レンズ1aの現在位置における目標位置からの位相の遅れが抑えられる。その結果、レンズ1aの現在位置は目標位置へより良好に追従することになり、高性能の手振れ補正機能が発揮される。
【0051】
一方で主制御装置5は、必要に応じて、レンズ1aを指定位置P2(可動領域の中央)にセットする動作を行う。より具体的には、まず主制御装置5は、目標位置切替信号をレンズ制御装置6に出力する。これにより、指定位置P2がレンズ1aの目標位置に設定されるため、レンズ1aは指定位置P2へ近づくことになる。
【0052】
なお指定位置P2がレンズ1aの目標位置に設定されるとき、当該目標位置は非連続的に変更されるため、レンズ1aのリンギングが生じ易くなる。しかしこのとき、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数は周波数Fc2に設定されるため、周波数Fc1に設定されたままの場合に比べて、レンズ1aのリンギングが抑えられる。
【0053】
ここで、目標位置が指定位置P2に設定された状況での、レンズ1aの現在位置および目標位置のグラフを、図3に例示する。なお図3において、横軸は時間を、縦軸はレンズ1aの位置をそれぞれ表している。また実線はレンズ1aの現在位置を、破線はレンズ1aの目標位置をそれぞれ表している。なお点線は、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数が周波数Fc1(周波数Fc2より高い)であると仮定したときのレンズ1aの現在位置を、参考までに表している。
【0054】
図3のグラフに示すように、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数が周波数Fc2に設定されている場合は、当該カットオフ周波数が周波数Fc1である場合に比べ、レンズ1aのリンギングは抑えられる。その結果、レンズ1aが指定位置P2に安定するまでの時間(整定時間)が短くなる。図3に示す例では、当該カットオフ周波数が周波数Fc1である場合の整定時間はT1であるのに対し、周波数Fc2である場合の整定時間はT2となっており、大幅に短縮されている。
【0055】
なお主制御装置5は、レンズ1aの位置が指定位置P2に安定するまで、目標位置切替信号の出力を継続する。そして主制御装置5は、レンズ1aの位置が指定位置P2に安定したことを検出(検波)したら、手振れ補正機能を有効とするため、目標位置切替信号の出力を停止する。これにより、レンズ1aの目標位置が指定位置P2から算出位置P1に切替えられるとともに、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数が周波数Fc2から周波数Fc1に切替えられ、高性能の手振れ補正機能が発揮されるようになる。
【0056】
また本実施形態では、以下の(1)および(2)に示す状況において、上述した通りの、レンズ1aを指定位置P2にセットする動作が行われる。
【0057】
(1)撮像装置の起動時
主制御装置5は、電源ボタンが操作されて撮像装置9が電源ONとなるとき(つまり起動時)に、レンズ1aを指定位置P2にセットする動作が行われるようにする。なおこの場合は、撮像装置9の起動時に、レンズ制御装置6に目標位置切替信号が入力されることになる。
【0058】
これにより起動時において、レンズ1aを可動領域の中央に移動させることが可能である。なお本実施形態では、レンズ1aが指定位置P2に安定するまでの整定時間は短くなっているため、その分、起動から手振れ補正機能を有効にするまでの待ち時間を、短くすることが可能となっている。
【0059】
(2)イメージセンサの露光開始の直前
撮像装置9では、写真撮影の際のピント合わせ時にも、手振れ補正機能を発揮することが可能である。但しピント合わせ時には、レンズ1aが可動領域の中央から外れた状態となる。この状態でシャッターボタンが押下されたとき、レンズ1aを可動領域の中央に移動させることなくイメージセンサの露光が開始されるようになっていると、レンズ1aの特定方向への可動範囲が小さくなっているため、露光時において十分な手振れ補正機能を発揮することが難しい。
【0060】
例えば露光開始時に、図4の(A)に示すようにレンズ1aが可動領域の左下寄りに位置していると、レンズ1aの左や下方向への可動範囲が狭く、十分な手振れ補正機能を発揮することが難しい。そのため露光開始時には、図4の(B)に示すようにレンズ1aが可動領域の中央に位置するようにし、レンズ1aの各方向への可動範囲を広げることにより、十分な手振れ補正機能が発揮されるようにすることが望ましい。
【0061】
そこで主制御装置5は、シャッターボタンが押下されたとき(つまりイメージセンサの露光の開始直前)に、レンズ1aを指定位置P2にセットする動作が行われるようにする。なおこの場合は、イメージセンサの露光の開始直前に、レンズ制御装置6に目標位置切替信号が入力されることになる。
【0062】
そして主制御装置5は、レンズ1aが指定位置P2に安定したことを検出し、目標位置切替信号の出力を停止した後(すなわち、再び手振れ補正機能を有効にした後)、直ちにイメージセンサの露光を開始させる。これにより、露光時においても十分な手振れ補正機能を発揮させることが可能となる。
【0063】
なお本実施形態では、レンズ1aが指定位置P2に安定するまでの整定時間は短くなっているため、その分、シャッターボタンが操作されてから露光開始までの時間(遅延時間)を、短くすることが可能となっている。
【0064】
[その他]
以上に説明した通り、レンズ制御装置6は、振れ検出センサ4を有した撮像装置9に設けられ、レンズ1aの位置を制御するものである。
【0065】
またレンズ制御装置6は、振れ検出センサ4の検出結果に応じた算出位置P1の信号、および、予め指定されたレンズ1aの位置を表す指定位置P2の信号の何れかを、レンズ1aの目標位置を表す目標位置信号に切替可能に設定するレンズ目標位置切替制御部14と、カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタ15と、ローパスフィルタ15によるフィルタ処理済の目標位置信号に基づいて、目標位置へ近づくようにレンズ1aの位置を制御する機能部(サーボ制御部)と、を備えている。
【0066】
そして更にローパスフィルタ15は、目標位置信号が算出位置P1の信号と指定位置P2の信号の何れであるかに応じて、カットオフ周波数が変更されるようになっている。そのためレンズ制御装置6によれば、撮像装置9における手振れ補正の性能の劣化を抑えつつ、レンズ1aを指定位置に移動させる際の整定時間を短くすることが容易となっている。
【0067】
また以上の説明では、本実施形態に係る撮像装置としてデジタルスチルカメラを想定したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。本発明は、例えばデジタルビデオカメラ、監視カメラ、および携帯電話向けのカメラモジュールなどにも、広く適用され得る。
【0068】
また、本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、手振れ補正機能を有する撮像装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 レンズユニット
1a レンズ
2 位置センサ
3 レンズ駆動モータ
4 振れ検出センサ
5 主制御装置
6 レンズ制御装置
9 撮像装置
12 振れ検出センサ信号処理部
13 レンズ指定位置記録部
14 レンズ目標位置切替制御部
15 ローパスフィルタ
16 カットオフ周波数切替制御部
17 加算部
18 PIDフィルタ
19 ドライバ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振れ量を検出するセンサを有した撮像装置に設けられ、該撮像装置のレンズの位置を制御するレンズ制御装置であって、
前記センサの検出結果に応じた第1信号、および、予め指定された前記レンズの位置を表す第2信号の何れかを、前記レンズの目標位置を表す目標位置信号に切替可能に設定する目標位置制御部と、
カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタによるフィルタ処理済の前記目標位置信号に基づいて、前記目標位置へ近づくように前記レンズの位置を制御するサーボ制御部と、
を備え、
前記目標位置信号が第1信号と第2信号の何れであるかに応じて、前記カットオフ周波数が変更されるようにしたことを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項2】
第2信号が前記目標位置信号に設定されたときは、第1信号が前記目標位置信号に設定されているときに比べ、前記カットオフ周波数が低く設定されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ制御装置。
【請求項3】
第1信号は、
前記撮像装置の振れによる撮像画像の滲みを抑えるように算出された、前記レンズの位置を表す信号であることを特徴とする請求項2に記載のレンズ制御装置。
【請求項4】
前記レンズの現在位置を表す現在位置信号を取得し、
前記サーボ制御部は、
前記現在位置信号と前記フィルタ処理済の目標位置信号との差が小さくなるように、前記レンズの位置を制御することを特徴とする請求項3に記載のレンズ制御装置。
【請求項5】
第2信号は、
前記レンズの可動領域の中央を表すことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のレンズ制御装置。
【請求項6】
目標位置切替信号が入力される、請求項1から請求項5の何れかに記載のレンズ制御装置であって、
前記目標位置切替信号が入力されていないときは、
第1信号が前記目標位置信号に設定されるとともに、前記カットオフ周波数は所定の第1周波数に設定され、
前記目標位置切替信号が入力されているときは、
第2信号が前記目標位置信号に設定されるとともに、前記カットオフ周波数は第1周波数より低い第2周波数に設定されることを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項7】
前記撮像装置の起動時に、前記目標位置切替信号が入力されることを特徴とする請求項6に記載のレンズ制御装置。
【請求項8】
イメージセンサの露光により撮像を行う前記撮像装置に設けられた、請求項6または請求項7に記載のレンズ制御装置であって、
前記露光の開始直前に、前記目標位置切替信号が入力されることを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項9】
前記レンズを駆動するレンズ駆動モータの制御を通じて、前記レンズの位置を制御することを特徴とする請求項1から請求項8の何れかに記載のレンズ制御装置。
【請求項10】
前記センサは、
ジャイロセンサであることを特徴とする請求項1から請求項9の何れかに記載のレンズ制御装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10の何れかに記載のレンズ制御装置を備えたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50515(P2013−50515A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187132(P2011−187132)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】