説明

レンズ鏡筒の防滴構造

【課題】独立して相対的に回動可能な複数の駆動系環状部材の一つを回転操作したときに適度な操作感を感じることができると共に他の駆動系環状部材が引き連れられて回転することがなく、しかも製造が容易なレンズ鏡筒の防滴構造を提供する。
【解決手段】互いに同軸をなしながら相対回転可能な複数の環状部材を有し、該複数の環状部材は、独立して相対回動可能な複数の駆動系環状部材と、これらの駆動系環状部材が相対回転する環状部材とを具備するレンズ鏡筒において、径方向内外に重複して位置する駆動系環状部材の光軸方向端部近傍に、前記駆動系環状部材間の環状の隙間を塞ぐシーリング部材を設け、前記各駆動系環状部材と相対回転する前記環状部材との隙間を塞ぐシーリング部材を設け、前記駆動系環状部材の一方が回転させられたときに他方の駆動系環状部材を回転させようとするシーリング部材の摩擦抵抗よりも、前記他方の駆動系環状部材と相対回転する環状部材間のシーリング部材による摩擦抵抗の方が大きくなるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒の環状部材間の防滴構造に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ鏡筒は一般的に、互いに同心をなし光軸に沿って相対回転可能あるいは光軸回りに相対移動可能な複数の環状部材を具備している。これら環状部材の一つをズーム操作環あるいはマニュアルフォーカス環とし、このズーム操作環あるいはマニュアルフォーカス環の手動による回転操作により他の環状部材を光軸に沿って進退させる場合に、隣り合う(径方向に重なり合う)環状部材間に意図的に摩擦抵抗を発生させることにより、ズーム操作環あるいはマニュアルフォーカス環の手動操作時に撮影者が適度な抵抗感を感じられるようにすることが従来より行われている。
このような抵抗感を出すための手段の一例として、一方の面全体に細かな毛が植毛された環状の合成皮革の他方の面を環状部材の外周面または内周面に固着し、合成皮革の一方の面(植毛面)を隣り合う他の環状部材の内周面または外周面に摺動可能に接触させることが行われていた。
【0003】
しかし、このように合成皮革を利用した場合は、撮影者が適度な抵抗感を感じられるようにはなるものの、隣り合う環状部材の隙間からレンズ鏡筒内に水滴や埃等が侵入するのを防止する(防滴効果を発揮する)のが難しくなる。
【0004】
防滴効果を発揮しつつズーム操作環あるいはマニュアルフォーカス環の手動操作時に撮影者が抵抗感を感じられるようにしたレンズ鏡筒としては例えば特許文献1、2に開示されたものがある。
特許文献1のレンズ鏡筒では、前側外装環の外周面の後端部と、前側外装環の直後に位置し前側外装環に対して光軸回りに相対回転可能(光軸方向への相対移動は不能)なマニュアルリングの内周面の前端部との間にプラスチックシートや塩化ビニルシートからなる環状のワッシャを挿入し、かつマニュアルリングの後端部の外周面と、マニュアルリングの直後に位置する後側外装環の内周面の前端部との間にプラスチックシートや塩化ビニルシートからなる環状のワッシャを挿入している。さらに、前側外装環の外周面の後端部とマニュアルリングの内周面の前端部の間にワッシャの直後に位置する態様で撥水材を充填し、かつマニュアルリングの外周面の後端部と後側外装環の内周面の前端部の間にワッシャの直前に位置する態様で撥水材を充填している。
【0005】
このような構造の特許文献1のレンズ鏡筒では、ワッシャ及び前後の撥水材が防滴効果を発揮するので、レンズ鏡筒外部の水滴や埃がレンズ鏡筒内に侵入するのが防止される。さらに、前側外装環とマニュアルリングの間にワッシャが挟まれ、かつマニュアルリングと後側外装環の間にワッシャが挟まれているので、撮影者がマニュアルリングを回転操作したときに撮影者は抵抗感を感じることができる。
【0006】
特許文献2に記載のレンズ鏡筒では、フォーカス操作環の光軸方向端面に同心円状の溝部が設けられ、さらに該溝部には粘性を有するグリス(撥水材または油脂)が充填され、また外装環の該フォーカス操作環と向きあう光軸方向端面に該フォーカス操作環に設けられた溝部に緩挿される同心円状の凸円環部が設けられている。
【0007】
特許文献2ではこのような構造により、外装環とフォーカス操作環の間はグリスで遮閉され、外部からの水滴や塵等の進入を防ぐことを可能としており、また粘性によりグリスの種類を選択することでフォーカス操作環の作動トルク(抵抗感)を変更することも可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−227534号公報
【特許文献2】特開2003-202481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のレンズ鏡筒は、比較的硬質の材料であるプラスチックシートや塩化ビニルシートを利用して環状のワッシャを成形しているので、合成皮革を利用した場合のような抵抗感を出すのが難しい。特に、環状部材が光軸方向へスライドしながら光軸回りに回転する場合は、環状部材が光軸方向へスライドのみする場合や光軸回りに回転のみする場合に比べて、合成皮革を利用したときのような抵抗感を出すのが一層難しい。さらに、ワッシャをプラスチックシートや塩化ビニルシートによって成形しているので、ワッシャの表面に微小な凹凸が存在すると、この凹凸の影響によりマニュアルリングの回転操作が不円滑になるおそれがある。このようにワッシャは設計形状通りに精度良く成形する必要があるが、プラスチックシートや塩化ビニルシートによってワッシャを精度良く成形するのは容易でない。
【0010】
特許文献2のレンズ鏡筒は、外装環とフォーカス操作環の光軸方向端面に形成した凸円環部、溝部に充填したグリスとによって防滴しているので、外装環及びフォーカス操作環の径が同一でなければ適用できなかった。
【0011】
さらに特許文献2は、二本の鏡筒で遮光部材を挟み込む圧力の強さによって抵抗(作動トルク)が変化するとともに防滴効果が変化する構造なので、抵抗を小さくするために圧力を弱くすると防滴効果が小さくなり過ぎ、逆に圧力を高くして防滴効果を大きくすると抵抗が大きくなり過ぎてしまい、防滴性能と抵抗感の調整が困難という問題があった。
【0012】
本発明は、独立して相対的に回動可能な複数の駆動系環状部材の一つを回転操作したときに適度な操作感を感じることができると共に他の駆動系環状部材が引き連れられて回転することがなく、しかも製造が容易なレンズ鏡筒の防滴構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決する本発明は、互いに同軸をなしながら相対回転可能な複数の環状部材を有し、該複数の環状部材は、独立して相対回動可能な複数の駆動系環状部材と、これらの駆動系環状部材が相対回転する環状部材とを具備するレンズ鏡筒において、径方向内外に重複して位置する駆動系環状部材の光軸方向端部近傍に、前記駆動系環状部材間の環状の隙間を塞ぐシーリング部材を設け、前記各駆動系環状部材と相対回転する前記環状部材との隙間を塞ぐシーリング部材を設け、前記駆動系環状部材の一方が回転させられたときに他方の駆動系環状部材を回転させようとするシーリング部材の摩擦抵抗よりも、前記他方の駆動系環状部材と相対回転する環状部材間のシーリング部材による摩擦抵抗の方が大きくなるように形成したことに特徴を有する。
【0014】
より実際的には、前記独立して相対回転する二つの駆動系環状部材の間に前記シーリング部材が設けられ、前記各駆動系環状部材と相対回転する環状部材との間にそれぞれシーリング部材が設けられていて、前記駆動系環状間のシーリング部材の摩擦力は、相対回転する環状部材間のシーリング部材の摩擦力よりも小さく設定される。
【0015】
前記駆動系環状部材の内側の駆動系環状部材には、シーリング部材よりも軸方向外側位置に前記シーリング部材に沿った排水溝を設けることが好ましい。前記排水溝は、より好ましくは、前記内側の駆動系環状部材外周面に突設した二本の堤部の間に形成する。前記外側の駆動系環状部材には、上記排水溝の上方まで張り出して前記排水溝を覆う庇部分を設けることが好ましい。排水溝を設けることにより水滴等がシーリング部材まで達し難くなり、シーリング部材による摩擦抵抗を調整する自由度が高くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、独立して相対的に回動可能な複数の駆動系環状部材の一つを回転操作したときに他方の駆動系環状部材が引き連れられて回転することが無いレンズ鏡筒の防滴構造が得られる。シーリング部材による防滴効果への依存度が低いので、シーリング部材による回転抵抗の調整が容易になり、複数の駆動系環状部材を容易に独立して回転するように設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用したズームレンズ鏡筒の実施形態を、光軸を通る面で縦断した断面図である。
【図2】同ズームレンズ鏡筒の至近距離に焦点調節した状態を、光軸を通る面で縦断して光軸より上半分を示した断面図である。
【図3】同ズームレンズ鏡筒のテレ端、ワイド端ズーミング状態を、光軸を通る面で縦断して、光軸より上半分、下半部を示した断面図である。
【図4】同ズームレンズ鏡筒の防滴構造を拡大して示す断面図である。
【図5】同ズームレンズ鏡筒の防滴構造を光軸より上半分を拡大して示す断面図である。
【図6】同ズームレンズ鏡筒の防滴構造を光軸より上半分を拡大して示す断面図である。
【図7】図1の切断線VII-VIIに沿って横断して同ズームレンズ鏡筒の防滴排水溝の形状を示す、横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明を適用したズームレンズ鏡筒の実施形態を、光軸を通る面で縦断した断面図である。
【0019】
レンズ鏡筒10は、2つのレンズ群L1、L2を具備するレンズ交換式ズームレンズ鏡筒である。各レンズ群L1、L2の光軸Oを中心とする筒状体である第1固定環11の後端部には、図示を省略したカメラボディのマウント部に着脱可能なマウント部12が設けられている。さらに、第1固定環11の内周側には第1固定環11と同心をなす筒状体である第2固定環13が配設されていて、第2固定環13の後端部は第1固定環11の後部壁の前面に固定されている。
【0020】
第1固定環11及び第2固定環13の前端部には、第1固定環11及び第2固定環13と同心をなす筒状体であるズーム操作環15が光軸O回りに回転可能(光軸O方向のスライドは不能)に設けられている。ズーム操作環15の前端部にはズーム操作環17が一体に回転するように連結されている。これらのズーム操作環15、17の外周面にグリップ環16が固着されている。これらのズーム操作環15、17は、複数の駆動系環状部材の一つを構成している。第1固定環11は、駆動系環状部材としてのズーム操作環15、17が相対回転する環状部材を構成している。
【0021】
第1固定環11の前端部の外周面には、第1固定環11と同心をなす筒状体であるフォーカス環19の後端部が、光軸O方向の移動が規制された状態で光軸O回りに回転可能に設けられている。フォーカス環19の後端部はズーム操作環15、17の内周側に位置している。なお、図示しないが、フォーカス環19の内周面の後端部にはギヤが形成されていて、このギヤは第2固定環13の外周面の前端部近傍に回転可能に支持された出力ギヤが噛合している。この出力ギヤは、レンズ鏡筒10がカメラボディに装着されると、カメラボディに内蔵されたギヤ機構を介してカメラボディに内蔵したフォーカス用モータと接続される。このフォーカス環19は、複数の駆動系環状部材の一つを構成していて、ズーム操作環15、17に対して径方向内側に位置する内側の駆動系環状部材となっている。
【0022】
第2固定環13の外周側には、第2固定環13と同心をなす筒状体であるカム環21が配設されている。このカム環21は、第2固定環13に対して、光軸O移動はしないで光軸O回りを自在に回転するように支持され、さらにズーム連動レバー18を介してズーム操作環15と接続されている。従ってズーム操作環15が回転すると、カム環21は、光軸O方向には移動しないで光軸O回りを回転する。
【0023】
第2固定環13は、カム環21内周側に位置する2群支持枠23を支持している。2群支持枠23はバリエータレンズ群である第2レンズ群L2を支持する部材であり、第2固定環13に形成された直進案内溝によって直進案内され、カム環21の内周面に形成されたカム溝にカム接続されている。従って、ズーム操作環15を介してカム環21が回転すると、2群支持枠23は、光軸O回りには回転せずに、カム環21のカム溝のリードに従った速度で光軸Oに沿って進退移動する。
【0024】
カム環21の先端部外周面には、カム環21と同心をなす筒状体である直進環25が嵌合している。この直進環25は、詳細は説明しないが、第2固定環13に回転しないで光軸Oに沿って進退自在に支持されかつカム環21との間のカム機構によってカム環21が回転すると回転しないで光軸Oに沿って進退動するように接続されている。
【0025】
直進環25とフォーカス環19との間には、これらと同心をなす筒状体である回転繰出し環27が配置されている。回転繰出し環27は、詳細は説明しないが、直進環25とカム機構により接続され、フォーカス環19とは光軸O方向には進退自在に、かつ光軸O回りには一体回動するように接続されている。従って回転繰出し環27は、カム環21が回転すると、カム環21との間のカム機構によって光軸Oに沿って進退動する直進環25と一緒に、回転しないで進退動する。一方、フォーカス環19が回転すると、回転繰出し環27はフォーカス環19と一体に回転しながら、直進環25との間のカム機構によって光軸Oに沿って進退動する。なお、回転繰出し環27は、駆動系回転部材が相対回転する環状部材を構成している。
【0026】
第2固定環13の前端部内には、第1レンズ群L1を支持する筒状体である1群支持枠29の後端部が、回転しないで光軸O方向に直進移動自在に接続されている。第1レンズ群L1、コンペンセータレンズ及びフォーカシングレンズとして機能する。この1群支持枠29は、その先端部の外周において、回転繰出し環27に対して相対回転自在にかつ光軸O方向には一緒に移動するように接続されている。従って、フォーカス環19が回転操作されると、回転繰出し環27が回転しながら進退動し、この進退動により1群支持枠29が第1レンズ群L1を支持して、回転しないで光軸Oに沿って進退動する。一方、ズーム操作環15が回転操作されると、1群支持枠29は回転を規制された状態で、直進環25及び回転繰出し環27により第2固定鏡筒13及びフォーカス環19に対して光軸O方向に進退動する。フォーカス環19を回転させて回転繰出し環27、1群支持枠29及び第1レンズ群L1を最も前進させた様子を、図2に示した。
【0027】
ここで、カム環21が回転して直進環25が進退動するときに回転繰出し環27は回転せずに進退動し、フォーカス環19が回転するときに回転繰出し環27は回転しながら進退動するように形成されている。
【0028】
なお、カム環21が回動すると、カム環21と2群支持枠23との間のカム機構のリードにより、2群支持枠23が第2レンズ群L2を保持して第2固定環13の直進ガイド溝に沿って回転しないで光軸Oに沿って進退動すると共に、1群支持枠29が第1レンズ群L1を保持して、直進環25とカム環21との間のカム機構により回転しないで進退動して、ズーミングされる(図3(A)、(B))。
【0029】
次に、回転繰出し環27と1群支持枠29の間、前部ズーム操作環17とフォーカス環19の間、及び後部ズーム操作環15と第1固定環11との間に設けた防滴構造について、さらに図4乃至図7を参照して説明する。
【0030】
図4は、回転繰出し環27及び1群支持枠29の間の防滴構造を拡大して示す断面図である。回転繰出し環27の前部内周面と1群支持枠29の外周面との間に、シーリング部材であるラシャ31が接着されている。ラシャ31は環状に形成されていて、1群支持枠29の外周面に接着し、回転繰出し環27には摺接自在に接触させてあるが、逆でもよい。又、シーリング部材は、一方の面全体に細かな毛が植毛された環状の合成皮革など、ラシャに限定されない。
【0031】
1群支持枠29の外周面には、ラシャ31よりも鏡筒外方側、ここではラシャ31の前端面から僅かに離反した位置に、堤部29b、29cで規制された排水溝29aが形成されている。堤部29b、29c、つまり排水溝29aは1群支持枠29全周に亘って形成されている。この堤部29b、29cは、前方(外側)の堤部29bの方が高く形成されている。
【0032】
回転繰出し環27の前端部には、排水溝29aを覆う庇部27aが形成されている。庇部27aは、後方の堤部29cの外周面を越えて、排水溝29aを覆い、前方の堤部29bとの間に僅かな隙間を残す位置まで延びている。さらにこの庇部27aには、排水溝29aと対向する面に、先端部に向かって排水溝29aの底との間隔又は隙間が広がる方向に傾斜したテーパ部27a1が形成されている。
【0033】
このような庇部27aを有する排水溝29aがラシャ31の外側に設けられているので、レンズ鏡筒に降りかかった水滴は、先ず、庇部27aと堤部29bとの隙間から排水溝29aに浸入するが、排水溝29aに浸入した水滴は、排水溝29aに沿って重力方向下方に流れ、下方の庇部27aと堤部29bとの隙間から排水溝29a外に落ちる。つまり、カメラを正位置に構えた状態で水滴が降りかかると、水滴は排水溝19aを伝わってレンズ鏡筒外に落ちる。さらにこの実施形態では、下方の庇部27aはテーパ部27a1が排水溝29aとの隙間に向かって下がる方向に傾斜しているので、排水能力が高くなる。
【0034】
図5は、前部のズーム環17とフォーカス環19との間の防滴構造を示す拡大断面図である。前部のズーム環17の前端部内周面とフォーカス環19の外周面との間に、シーリング部材であるラシャ33が接着されている。ラシャ33は、フォーカス環19の外周面に接着し、前部のズーム環17の内周面には摺接自在に接触させてあるが、逆でもよい。
【0035】
フォーカス環19の外周面には、ラシャ33よりも前部のズーム環17の鏡筒外方側、ここではラシャ33の前端面から僅かに離反した位置に、堤部19b、19cで規制された排水溝19aが形成されている。堤部19b、19c、つまり排水溝19aはフォーカス環19全周に亘って形成されている。この堤部19b、19cは、前方の堤部19bの方が高く形成されている。
前部ズーム環17の前端部には、排水溝19aを覆う庇部17aが形成されている。庇部17aは、後方の堤部19cの外周面を越えて、排水溝19aを覆い、さらに前方の堤部19bの上面とのに僅かな隙間を残す位置まで延びている。
【0036】
このような庇部17aを有する排水溝19aがラシャ33の外側に設けられているので、レンズ鏡筒に降りかかった水滴は、先ず、庇部17aと堤部19bとの隙間から排水溝19aに浸入するが、排水溝19aに浸入した水滴は、排水溝19aに沿って重力方向下方に流れ、下方の庇部17aと堤部19bとの隙間から排水溝19a外に落ちる。つまり、カメラを正位置に構えた状態で水滴が降りかかると、水滴は排水溝19aを伝わってレンズ鏡筒外に落ちる。
【0037】
なお、フォーカス環19の前端部と回転繰出し環27との間は、シーリング部材としてのラシャ37によって防滴されている。ラシャ37は外周面がフォーカス環19の内周面に接着され、内周面が回転繰出し環27に摺接自在に接触している。
【0038】
図6は、後部のズーム操作環15と第1固定環11との間の防滴構造を示す拡大断面図である。後部のズーム操作環15の後端部内周面と第1固定環11の外周面との間に、シーリング部材であるラシャ35が接着されている。ラシャ35は、第1固定環11の外周面に接着し、後部のズーム操作環15の内周面には摺接自在に接触させてあるが、逆でもよい。
【0039】
第1固定環11の外周面には、ラシャ35よりも後部のズーム操作環15の鏡筒外方側、ここではラシャ35の後端面から僅かに離反した位置に、堤部11b、11cで規制された排水溝11aが形成されている。堤部11b、11c、つまり排水溝11aは第1固定環11全周に亘って形成されている。この堤部11b、11cは、前方の堤部11bの方が高く形成されている。また、後方の堤部11cは、第1固定環11の外周面によって形成されている。
【0040】
後部のズーム操作環15の後端部には、排水溝11aを覆う庇部15aが形成されている。庇部15aは、前方の堤部11bの外周面を越えて、排水溝11aを覆い、後方の堤部11cとのに僅かな隙間を残す位置まで延びている。さらにこの庇部15aには、排水溝11aと対向する面が先端部に向かって排水溝11aの底との間隔又は隙間が広がる方向に傾斜したテーパ部15a1が形成されている。
【0041】
このような庇部15aを有する排水溝11aがラシャ35よりも鏡筒外側に設けられているので、レンズ鏡筒に降りかかった水滴は、先ず、庇部15aと堤部11cとの隙間から排水溝11aに浸入するが、排水溝11aに浸入した水滴は、排水溝11aに沿って重力方向下方に流れ、下方の庇部15aと堤部11cとの隙間から排水溝11a外に落ちる。つまり、カメラを正位置に構えた状態で水滴が降りかかると、水滴は排水溝11aを伝わって最下部からレンズ鏡筒外に落ちる。ここで、排水溝11aは下方に従って浅くなり、かつ下方では庇部15aのテーパ部15a1が排水溝11a外に落下する方向に傾斜している(隙間が広がっている)ので、水滴はテーパ部15a1に沿って排水溝11a外に流れ出易くなり、排水能力が高くなる。
【0042】
さらにこの排水溝11aは、レンズを正位置に置いた状態で、上部の方が深く、下部の方が浅くなるように形成されている(図7)。このように排水溝11aの深さを変化させることで、正位位置に構えた状態でレンズ鏡筒に降りかかった水滴は、上部の排水溝11aから浸入し、下部の排水溝11aからレンズ鏡筒外に抜け落ち易くなる。
【0043】
以上の通り実施形態の防滴構造によれば、相対回転する鏡筒間をシールするシーリング部材であるラシャ31、33、35よりも鏡筒外側位置に排水溝29a、11a、19aを設けたので、水滴は先ず排水溝29a、11a、19aに入り、排水溝29a、11a、19aに沿って流れてレンズ鏡筒外に出るので、シーリング部材のみによるよりも防滴防水効果が高くなる。
排水溝29a、11a、19aを覆う庇部27a、17a、15aを設けた防滴構造によれば、水滴は庇部27a、17a、15aに遮られて排水溝29a、11a、19aに入り難く、庇部27a、17a、15aの外面を伝わってレンズ鏡筒外に流れ落ちるので、さらに防滴防水効果が高くなる。
排水溝19aの深さを、正位置において上方ほど深く、下方ほど浅く形成した防滴構造によれば、排水溝19aに入った水滴が排水溝19aに沿って重力下方に流れると、下流領域では底が浅くなっているので容易に排水溝19aから溢れ、レンズ鏡筒外に滴下し、より防滴防水効果が高くなる。
【0044】
庇部は、排水溝を完全に覆う形状(庇部17a)でも、排水溝をほぼ覆う形状(庇部27a、15a)のいずれでもよい。
庇部27a、15aにテーパ部27a1、15a1を形成したが、他の庇部17aにも同様のテーパ部を設けることが好ましい。
排水溝は、2本以上設けてもよい。
【0045】
以上、本発明の防滴構造について2群ズームレンズ鏡筒に適用した実施形態を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、他のレンズ鏡筒に適用可能である。
【0046】
次に、ズーム操作環15及びフォーカス操作環19が回動操作されたときの動作について、図2及び図3を参照して説明する。
【0047】
「フォーカシング」
フォーカス操作環19が回動操作されると、その回転は、回転繰出し環27に伝達され、回転繰出し環27が回転する。回転繰出し環27は、直進案内された直進環25とのヘリコイド接続されているので、回転しながら進退動する。回転繰出し環27の進退動により、1群支持枠29、第1レンズ群L1が一体として、回転しないで光軸Oに沿って進退動する(図2)。
【0048】
ここで、フォーカス操作環19と前部のズーム操作環17との間はラシャ33で防滴されている。従ってフォーカス操作環19回転力は、ラシャ33間の摩擦抵抗を介してズーム操作環15、17を回転させるように作用(回転トルクが発生)する。そこでこの実施系形態では、フォーカス環19、ズーム操作環15間のラシャ33の摩擦抵抗(最大静止摩擦力、滑り摩擦力による回転トルク)よりも、ズーム操作環17、第1固定環11間のラシャ35の摩擦抵抗最大静止摩擦量、滑り摩擦力による回転トルク)の方を大きく設定してある。この摩擦抵抗、回転トルクの差により、フォーカス操作環19が回転しても、ズーム操作環15、17が引き連れられて回転することが無い。
【0049】
「ズーミング」
ズーム操作環15、17が回転操作されると、その回転はカム環21に伝達され、カム環21が回転する。カム環21が回転すると、カム環21とカム機構により接続された直進環25が回転しないで進退動する。直進環25とヘリコイド接続された回転繰出し環27が回転しないで直進環25と一体に進退動する。従って回転繰出し環27と一緒に、1群支持枠29及び第1レンズ群L1が進退動する。
【0050】
ここで、前部のズーム操作環17とフォーカス操作環19との間はラシャ33により防滴されている。従ってズーム操作環17の回転力は、ラシャ33間の摩擦抵抗を介してフォーカス操作環19を回転させるように作用する。そこでこの実施形態では、フォーカス環19、ズーム操作環15間のラシャ33の摩擦抵抗(最大静止摩擦力及び滑り摩擦力による回転トルク)よりも、フォーカス環19、回転繰出し環27間のラシャ37の摩擦抵抗(最大静止摩擦量及び滑り摩擦力による回転トルク)の方を大きく設定してある。この摩擦抵抗(回転トルク)の差により、ズーム操作環15、17が回転しても、フォーカス操作環19が引き連れられて回転することが無い。
【0051】
以上の通り本実施形態のズームレンズ鏡筒によれば、互いに独立して相対回転操作されるフォーカス環19とズーム環15、17との間を防滴するラシャ33による摩擦抵抗を、フォーカス環19と回転繰出し環27との間を防滴するラシャ37による摩擦抵抗及びズーム環15、17と第1固定環11との間を防滴するラシャ35による摩擦抵抗よりも小さく設定したので、フォーカス環19、ズーム操作環15、17の一方が回転操作されても、他方が引き連れられて回転することが無い。
【0052】
さらに本実施形態では、前部のズーム操作環17とフォーカス操作環19の防滴構造としてラシャ33に加えて排水溝19a、堤部19b、19c及び庇部17aを設けてあるので、ラシャ33による摩擦抵抗が小さくなるように調整することが容易である。ラシャ33による摩擦抵抗が小さくなるようにラシャ33が前部のズーム操作環17に接触する圧力を小さくしても、排水溝19a、堤部19b、19c及び庇部17aにより十分な防滴効果が保持される。
【0053】
又、本実施形態において、各排水溝11a、19a、29aの深さを異ならせてもよい。排水溝11a、19a、29aの深さを異ならせることにより防滴能力を異ならせることができるので、防滴能力を高めてシーリング部材の摩擦抵抗を小さくするなどのトルク調整が可能になる。排水溝の数を異ならせることでも同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0054】
10 レンズ鏡筒
11 第1固定環(環状部材)
11a 排水溝
11b 堤部
11c 堤部
12 マウント部
13 第2固定環
15 ズーム操作環(駆動系環状部材)
15a 庇部
17 前部のズーム操作環(駆動系環状部材)
17a 庇部
19 フォーカス環(駆動系環状部材)
19a 排水溝
19b 堤部
19c 堤部
23 2群支持枠
25 直進環
27 回転繰出し環(環状部材)
27a 庇部
29 1群支持枠
29a 排水溝
29b 堤部
29c 堤部
31 ラシャ(シーリング部材)
33 ラシャ(シーリング部材)
35 ラシャ(シーリング部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸をなしながら相対回転可能な複数の環状部材を有し、該複数の環状部材は、独立して相対回動可能な複数の駆動系環状部材と、これらの駆動系環状部材が相対回転する環状部材とを具備するレンズ鏡筒において、
径方向内外に重複して位置する駆動系環状部材の光軸方向端部近傍に、前記駆動系環状部材間の環状の隙間を塞ぐシーリング部材を設け、
前記各駆動系環状部材と相対回転する前記環状部材との隙間を塞ぐシーリング部材を設け、
前記駆動系環状部材の一方が回転させられたときに他方の駆動系環状部材を回転させようとするシーリング部材の摩擦抵抗よりも、前記他方の駆動系環状部材と相対回転する環状部材間のシーリング部材による摩擦抵抗の方が大きくなるように形成したこと、を特徴とするレンズ鏡筒の防滴構造。
【請求項2】
請求項1記載のレンズ鏡筒の防滴構造において、前記独立して相対回転する二つの駆動系環状部材の間に前記シーリング部材が設けられ、前記各駆動系環状部材と相対回転する環状部材との間にそれぞれシーリング部材が設けられていて、前記駆動系環状間のシーリング部材の摩擦力は、相対回転する環状部材間のシーリング部材の摩擦力よりも小さく設定されているレンズ鏡筒の防滴構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のレンズ鏡筒の防滴構造において、前記駆動系環状部材の内側の駆動系環状部材には、シーリング部材よりも軸方向外側位置に前記シーリング部材に沿った排水溝が設けられているレンズ鏡筒の防滴構造。
【請求項4】
請求項3記載のレンズ鏡筒の防滴構造において、前記排水溝は、前記内側の駆動系環状部材外周面に突設した二本の堤部の間に形成されているレンズ鏡筒の防滴構造。
【請求項5】
請求項3又は4記載のレンズ鏡筒の防滴構造において、前記外側の駆動系環状部材には、上記排水溝の上方まで張り出して前記排水溝を覆う庇部分を備えているレンズ鏡筒の防滴構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−197452(P2010−197452A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39075(P2009−39075)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】