説明

レンズ駆動装置

【課題】マクロ位置付近でのフォーカス調整を容易化することができ、マクロ位置から無限遠位置までの全体に亘り安定したフォーカス調整を実現すること。
【解決手段】レンズ1を保持しマグネット3と一体化されたレンズ保持体2をスプリング8によってマクロ位置側へ付勢してレンズ1の初期位置をマクロ位置に設定する。また、可変抵抗器11の抵抗値をマクロ位置で最大(250Ω)とし、無限遠側へ近づくに従って徐々に小さくなり、無限遠位置において最小(0Ω)となるようにした。マクロ位置付近では可変抵抗器11の抵抗値が大きく、可変抵抗器11による抵抗値変化に対してコイル電流の変化幅を小さくし、微少距離のレンズ移動を可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの移動量を制御するレンズ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータと送りねじ伝動機構とを組み合わせ、ステッピングモータの回転角度に従って、レンズの直線移動量を決定するレンズ駆動装置がある。かかるレンズ駆動装置は複雑な伝動機構が必要になるので、携帯型小型カメラに用いるオートフォーカス用レンズ駆動装置には不向きであった。そこで、複雑な伝動機構を用いることなく、コイルに印加する電流値を可変抵抗によって変化させてレンズの移動量を制御するレンズ駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のレンズ駆動装置は、ヨークの外壁に取付けられるマグネットと、中央位置にレンズを備えるキャリアと、キャリアに装着されるコイルと、キャリアを支持する2個のスプリングとを備えた構成を有し、コイルに印加する電流値と2個スプリングの復元力の釣合いによってキャリアに装着されたレンズの移動量を制御する。
【0004】
図3はキャリアをスプリングで支持して、コイルに流れる電流を可変抵抗器によって変化させるレンズ駆動装置の模式図である。レンズ31が円筒状のキャリア32の中央部に収納され、キャリア32の外周面にマグネット33が固定され、マグネット33を囲むようにコイル34が配置されている。キャリア32の一端部は複数のスプリング35により支持されている。レンズ31の焦点位置にセンサ36が配置される。図4に示すように、可変抵抗器37の抵抗値を変化させることでコイル34に流れる電流値を制御し、コイル34に流れる電流値に応じた力でスプリング35の復元力に抗してレンズ31を押し下げてフォーカス動作させている。
【0005】
従来は、レンズ31の初期位置をスプリング35で押し付けて無限遠側に設定し、この時の可変抵抗器37の抵抗値を最大(例えば、250Ω)にしてコイル34に流れる電流値をゼロ又は極めて小さい値にしていた。フォーカス動作開始と共に可変抵抗器37の抵抗値を下げてコイル34の電流を増大してマクロ位置側へ移動させる。レンズ31位置がマクロ位置側へ移動するのに対応して可変抵抗器37の抵抗値が小さくなる。最終的にマクロ位置近傍では0Ω又は極めて小さい抵抗値になる。フォーカス動作では、センサ36からの出力画像のシャープネスが最大となる位置を合焦位置として検出している。
【特許文献1】特開2004−280031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カメラのフォーカス調節では無限遠側よりも被写界深度が浅くなるマクロ位置側において微妙な調整が要求されるが、従来のレンズ駆動装置は、レンズ31位置がマクロ位置に近づくほど可変抵抗器37の抵抗値が小さくなりマクロ位置付近でのフォーカス調整が一層困難になるといった問題があった。
【0007】
例えば、図4に例示するように、コイル34に印加する駆動電圧Vccが2.8V、コイル34の抵抗値が10Ω、可変抵抗器37の可変範囲が0Ω〜250Ωとした場合に、抵抗値変化に対してコイル電流値が無限遠位置とマクロ位置とでどの程度影響を受けるかについて検証する。
【0008】
先ず、可変抵抗器37の抵抗値を2Ωから3Ωに変化させた場合について計算する。可変抵抗器37の抵抗値=2Ωの場合はコイル電流値=233.33mAであり、抵抗値=3Ωの場合はコイル電流値=215.38mAであるので、1Ωの変化でコイル電流値は18mAも変化する。
【0009】
一方、可変抵抗器37の抵抗値を250Ωから245Ωに変化させた場合は、次のようになる。可変抵抗器37の抵抗値=250Ωの場合はコイル電流値=10.77mAであり、抵抗値=245Ωの場合はコイル電流値=10.81mAであるので、5Ωの変化に対してコイル電流値は0.04mAしか変化しない。
【0010】
被写界深度が浅いために微妙な調節が要求されるマクロ位置付近のフォーカス調節を、可変抵抗器37の0Ω付近の抵抗領域を用いたのでは、僅かな抵抗値変化に対してコイル電流が大きく変化することから、レンズ位置制御が非常に困難であった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、マクロ位置付近でのフォーカス調整を容易化することができ、マクロ位置から無限遠位置までの全体に亘り安定したフォーカス調整を実現可能なレンズ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレンズ駆動装置は、コイルと、レンズを保持したレンズ保持体と、前記レンズ保持体と一体となってレンズの光軸方向へ移動可能なマグネットと、前記コイルに流れる電流値を調整する可変抵抗器とを備え、前記コイルに通電して生じる電磁力により前記レンズをマクロ位置と無限遠位置との間で移動させるレンズ駆動装置であって、前記可変抵抗器が最大抵抗値側となる第一の抵抗値のときにレンズ位置が前記マクロ位置となり、当該可変抵抗器が最小抵抗値側となる第二の抵抗値のときにレンズ位置が前記無限遠位置となるようにしたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、前記レンズがマクロ位置付近にあるときは前記可変抵抗器の最大抵抗値付近で抵抗値を可変させて前記コイルに流れる電流を変化させるので、被写界深度の浅い領域においては抵抗値の変化幅に対して電流値の変化幅が非常に小さくなり、マクロ位置付近でのフォーカス調整が容易になる。
【0014】
また本発明のレンズ駆動装置は、マグネットと、レンズを保持したレンズ保持体と、前記レンズ保持体と一体となってレンズの光軸方向へ移動可能なコイルと、前記コイルに流れる電流値を調整する可変抵抗器とを備え、前記コイルに通電して生じる電磁力により前記レンズをマクロ位置と無限遠位置との間で移動させるレンズ駆動装置であって、前記可変抵抗器が最大抵抗値側となる第一の抵抗値のときにレンズ位置が前記マクロ位置となり、当該可変抵抗器が最小抵抗値側となる第二の抵抗値のときにレンズ位置が前記無限遠位置となるようにしたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、前記レンズがマクロ位置付近にあるときは前記可変抵抗器の最大抵抗値付近で抵抗値を可変させて前記コイルに流れる電流を変化させるので、被写界深度の浅い領域においては抵抗値の変化幅に対して電流値の変化幅が非常に小さくなり、マクロ位置付近でのフォーカス調整が容易になる。
【0016】
また本発明は、上記レンズ駆動装置において、前記レンズ保持体をマクロ位置方向へ直接又は中間部材を介して間接的に付勢する弾性部材を備え、初期状態でのレンズ位置をマクロ位置としたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、弾性部材がレンズ保持体をマクロ位置方向へ付勢するものとし、初期状態でのレンズ位置をマクロ位置としたので、初期状態のマクロ位置での電力消費を最小にすることができ省電力化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マクロ位置付近でのフォーカス調整を容易化することができ、マクロ位置から無限遠位置までの全体に亘り安定したフォーカス調整を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係るレンズ駆動装置の模式図である。レンズ1が円筒状をなすレンズ保持体2の中央部に保持されている。レンズ保持体2の外周面には、レンズ保持体2の外形と同一の内径を有する円筒状のマグネット3が固定されている。マグネット3の外周にはコイル4が巻回されている。レンズ保持体2及びマグネット3は一体化しており、コイル4に対して光軸方向へ相対移動可能に構成されている。レンズ1の下方には光軸上にCCD等で構成されたセンサ5が配置されている。センサ5が設置された基板6には、センサ5を収納するベース7が設けられている。一体化されているレンズ保持体2及びマグネット3の下面とベース7上面との間に複数のスプリング8が設けられている。例えば、一体化されているレンズ保持体2及びマグネット3の下面を3つのスプリング8で均等に3点支持するようにしている。一体化されているレンズ保持体2及びマグネット3はスプリング8によって図1中で上方となるマクロ位置側へ付勢されており、コイル4に電流が流れていない状態ではレンズ保持体2及びマグネット3の上面に設けられた当接面9に当接している。本実施の形態では、レンズ保持体2又はマグネット3の上面が当接面9に当接した状態でのレンズ1位置がマクロ位置となるように設定している。
【0020】
コイル4の一端は電圧Vccが印加され、他端は可変抵抗器11を介してグラウンドに接続されている。したがって、コイル4には印加電圧Vcc÷(可変抵抗器11の抵抗値+コイル4の抵抗値)で計算される電流が流れる。
【0021】
制御回路10は、センサ5から画像信号を取り込んで出力画像のシャープネスが最大となる位置を合焦位置として検出するフォーカス動作を実行する。制御回路10は合焦位置を検出する為に可変抵抗器11の抵抗値を変化させる。
【0022】
図2は、制御回路10が可変抵抗器11に設定する抵抗値とレンズ位置及び被写界深度との関係を示す図である。同図に示すように、一般のレンズ1は、マクロ位置においては被写界深度が最も浅く、無限遠側へ近づくに従って被写界深度が深くなる。従来は、マクロ位置付近において可変抵抗器の小さい抵抗値を用いてフォーカス調節していた為に電流値変化が大きく(レンズ移動距離が大)、レンズ位置調節が困難であった。
【0023】
本実施の形態では、可変抵抗器11の抵抗値をマクロ位置で最大とし、無限遠側へ近づくに従って徐々に小さくなり、無限遠位置において最小(0Ω)となるようにしている。例えば、可変抵抗器11が最も大きな抵抗値=250Ωの時にレンズ1がマクロ位置に配置され、可変抵抗器11が最も小さな抵抗値=0Ωの時にレンズ1が無限遠位置に配置されるように設定している。本実施の形態では、マクロ位置を初期状態に設定しているので、第一の抵抗値として消費電力を最大限低下させる観点から最大抵抗値=250Ωとしている。なお、レンズ位置がマクロ位置となる可変抵抗器11の第一の抵抗値は、上記したように可変抵抗器11の最大抵抗値=250Ωでも良いが、必ずしも最大抵抗値である必要はなくフォーカス調整が容易化される範囲で他の抵抗値であっても良い。また、レンズ位置が無限遠位置となる可変抵抗器11の第二の抵抗値は、上記したように可変抵抗器11の最小抵抗値=0Ωでも良いが、必ずしも最小抵抗値である必要はない。
【0024】
図4と同一条件となるように、コイル4に印加する駆動電圧Vccが2.8V、コイル4の抵抗値が10Ω、可変抵抗器11の可変範囲が0Ω〜250Ωとした場合に、本実施の形態では抵抗値変化に対してコイル電流値が無限遠位置とマクロ位置とでどの程度影響を受けるかについて検証する。
【0025】
マクロ位置において、可変抵抗器11の抵抗値を250Ωから245Ωに変化させた場合、可変抵抗器11の抵抗値=250Ωの場合はコイル電流値=10.77mAであり、抵抗値=245Ωの場合はコイル電流値=10.81mAであるので、5Ωの変化に対してコイル電流値は0.04mAしか変化しない。したがって、可変抵抗器11の抵抗値を5Ω変化させてもコイル電流値は0.04mAしか変化しないので、コイル電流値を微小量変化させる微妙なレンズ移動が可能になる。
【0026】
一方、無限遠位置において、可変抵抗器11の抵抗値を2Ωから3Ωに変化させた場合、可変抵抗器11の抵抗値=2Ωの場合はコイル電流値=233.33mAであり、抵抗値=3Ωの場合はコイル電流値=215.38mAであるので、1Ωの変化でコイル電流値は18mA変化する。したがって、可変抵抗器11の抵抗値を1Ω変化させただけでコイル電流値は18mAも変化するので、被写界深度の深い無限遠位置付近では抵抗値変化が小さくてもコイル電流値の変化幅を大きくでき、高速のレンズ移動が可能になる。
【0027】
次に、以上のように構成されたレンズ駆動装置の動作の一例について説明する。
フォーカス動作前の初期状態では、レンズ1を保持するレンズ保持体2及びマグネット3はスプリング8によって当接面9に押し付けられおり、レンズ1はマクロ位置に配置されている。
【0028】
フォーカス動作開始のトリガが制御回路10に与えられると、次のようなフォーカス動作を実行する。制御回路10からの指示で可変抵抗器11の抵抗値を250Ωから0Ω側に連続的又は段階的に下げていく。例えば、0Ω〜100Ωの間の任意の抵抗値まで下げる。コイル4に流れる電流が可変抵抗器11の抵抗値に応じて変化し、レンズ保持体2及びマグネット3に対してコイル電流値に応じたスプリング8を下方(無限遠側)へ押し下げる力が働く。これにより、レンズ1はマクロ位置から無限遠側へ移動する。
【0029】
このとき、制御回路10はセンサ5から出力画像を取り込んで各抵抗値(レンズ位置に相当)でのシャープネスを判定している。最もシャープネスが高い値を合焦位置と判定して可変抵抗器11の抵抗値を合焦位置に設定する。
【0030】
例えば、被写体がレンズ1に近接した場所にあれば、マクロ位置付近に合焦することになる。マクロ位置に近い場所では、可変抵抗器11の抵抗値が大きいので、抵抗値の変化量に対するコイル電流の変化幅が小さく、微少距離のレンズ移動が可能になり浅い被写界深度であっても容易に合焦させることができる。
【0031】
また、風景などのように被写体がレンズ1から十分に離れた場所にあれば、無限遠位置付近に合焦することになる。無限遠位置に近い場所では、可変抵抗器11の抵抗値が小さいので、抵抗値の変化量に対するコイル電流の変化幅が大きいが、被写界深度も深いので容易に合焦させることができる。
【0032】
このように本実施の形態によれば、スプリング8によってレンズ1の初期位置をマクロ位置に設定し、可変抵抗器11の抵抗値をマクロ位置で最大とし、無限遠側へ近づくに従って徐々に小さくなり、無限遠位置において最小(0Ω)となるようにしたので、マクロ位置付近では可変抵抗器11の抵抗値が大きく、微少距離のレンズ移動が可能になり浅い被写界深度であっても容易に合焦させることができる。
【0033】
なお、以上の説明では、レンズ1はレンズ保持体2及びマグネット3と一体化してコイル4に対して光軸方向に相対移動するようにしているが、レンズ1をマグネットと別体化すると共にレンズ1とコイルとを一体化し、レンズ1及びコイルの一体化構造体をマグネットに対して光軸方向に相対移動するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、コイルに印加する電流値を可変抵抗によって変化させてレンズの移動量を制御するレンズ駆動装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係るレンズ駆動装置の模式図
【図2】上記実施の形態における抵抗値とレンズ位置及び被写界深度との関係を示す図
【図3】従来のレンズ駆動装置の模式図
【図4】レンズ駆動装置におけるコイルと可変抵抗器を抜き出した回路図
【符号の説明】
【0036】
1…レンズ
2…レンズ保持体
3…マグネット
4…コイル
5…センサ
6…基板
7…ベース
8…スプリング
9…当接面
10…制御回路
11…可変抵抗器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、レンズを保持したレンズ保持体と、前記レンズ保持体と一体となってレンズの光軸方向へ移動可能なマグネットと、前記コイルに流れる電流値を調整する可変抵抗器とを備え、前記コイルに通電して生じる電磁力により前記レンズをマクロ位置と無限遠位置との間で移動させるレンズ駆動装置であって、
前記可変抵抗器が最大抵抗値側となる第一の抵抗値のときにレンズ位置が前記マクロ位置となり、当該可変抵抗器が最小抵抗値側となる第二の抵抗値のときにレンズ位置が前記無限遠位置となるようにしたことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
マグネットと、レンズを保持したレンズ保持体と、前記レンズ保持体と一体となってレンズの光軸方向へ移動可能なコイルと、前記コイルに流れる電流値を調整する可変抵抗器とを備え、前記コイルに通電して生じる電磁力により前記レンズをマクロ位置と無限遠位置との間で移動させるレンズ駆動装置であって、
前記可変抵抗器が最大抵抗値側となる第一の抵抗値のときにレンズ位置が前記マクロ位置となり、当該可変抵抗器が最小抵抗値側となる第二の抵抗値のときにレンズ位置が前記無限遠位置となるようにしたことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項3】
前記レンズ保持体をマクロ位置方向へ直接又は中間部材を介して間接的に付勢する弾性部材を備え、初期状態でのレンズ位置をマクロ位置としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレンズ駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−180960(P2008−180960A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14944(P2007−14944)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】