説明

レンズ駆動装置

【課題】コイルの巻幅が狭くなる場合でもレンズ保持部材の推力及びリニアリティを維持すること。
【解決手段】レンズ体が保持されるレンズ保持部材(5)と、レンズ保持部材(5)の光軸周りの外周面(68)との間に隙間を形成するように、レンズ保持部材(5)に取り付けられたコイル(59)と、コイル(59)の外側を囲う外周壁部(73)及びコイル(59)の内側の隙間において外周壁部(73)に対向する内壁部(74)を有するヨーク(7)と、ヨーク(7)と共にコイル(59)に作用する磁気回路を形成する磁石(6)とを備え、レンズ保持部材(5)の外周面(68)には、光軸方向において内壁部(74)の端部に対向するフランジ部(53)が形成されており、当該フランジ部(53)に内壁部(74)の端部が進入可能な逃げ部(55)を設ける構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ付きの携帯電話等に搭載される小型のレンズ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型のレンズ駆動装置として、レンズが保持されたレンズ保持部材を光軸方向に磁気駆動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のレンズ駆動装置では、コイルを装着したレンズ保持部材をベース部材に載置し、上方からヨークを被せることで構成される。レンズ保持部材は、内側にレンズユニットを固定する筒状部と筒状部の下部から外方に突出したフランジ部とを有している。レンジ保持部材には、フランジ部上において、筒状部の外周面に対して間隔を空けてコイルが取り付けられている。
【0003】
ヨークは、コイルの径方向外側を囲う外周壁部と、コイルの径方向内側を囲う内周壁部とを有しており、外周壁部及び内周壁部は、上壁部を介して断面視U字状に連結されている。ヨークの外周壁部の内面には、内周壁部及びコイルに対向するように磁石が固定されている。そして、レンズ駆動装置は、ヨークと磁石とによって磁気回路を形成し、コイルの通電によって生じる電磁力によりレンズ保持部材を光軸方向に移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−191130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電子機器の小型化に伴ってレンズ駆動装置の更なる薄型化が望まれており、今後、コイルの巻幅が狭くなることが想定される。このため、レンズ保持部材に適切な推進力を与えるためには、平行磁場内でコイルに電磁力を生じさせる必要がある。しかしながら、上記したレンズ駆動装置では、ヨークの内壁部とレンズ保持部材のフランジ部との干渉を考慮して、コイルの巻幅に合わせて内壁部の長さを十分に取ることができなかった。これにより、内壁部と磁石とによりコイルに対して均一に磁場を作用させることができず、レンズ保持部材の推力及びリニアリティの低下が問題となっていた。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、レンズ保持部材の推力及びリニアリティを維持することができるレンズ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレンズ駆動装置は、レンズ体が保持されるレンズ保持部材と、前記レンズ保持部材の光軸周りの外周面との間に隙間を形成するように、前記レンズ保持部材に取り付けられたコイルと、前記コイルの外側を囲う外壁部及び前記コイルの内側の前記隙間において前記外壁部に対向する内壁部を有するヨークと、前記ヨークと共に前記コイルに作用する磁気回路を形成する磁性部材とを備え、前記レンズ保持部材の外周面には、光軸方向において前記コイルの下方にフランジ部が形成されており、当該フランジ部には前記内壁部の端部が進入可能な逃げ部が設けられたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、レンズ保持部材のフランジ部に形成された逃げ部により、レンズ駆動装置の駆動時にヨークの内壁部とフランジ部との干渉が回避される。これにより、ヨークの内壁部を長く取ることができ、レンズ駆動装置の駆動時に光軸方向に沿ってコイルに対して均一に磁場を作用させることができる。よって、コイルの巻幅が狭い場合であってもレンズ保持部材の推力及びリニアリティを維持することができる。
【0009】
また本発明は、上記レンズ駆動装置において、前記逃げ部は、前記フランジ部を光軸方向に貫通して形成されている。この構成によれば、レンズ駆動装置の駆動時にヨークの内壁部を逃げ部に挿通させることができ、内壁部を更に長く形成することができる。
【0010】
また本発明は、上記レンズ駆動装置において、前記逃げ部は、前記レンズ保持部材に対する前記コイルの巻き付けを支持する治具の爪部が挿通可能に形成されている。この構成によれば、レンズ保持部材に対するコイルの巻き付け時においては、逃げ部を治具の爪部を挿通させる挿通孔として機能させることができる。これにより、逃げ部に挿通された爪部によってコイルを支持した状態で、コイルをレンズ保持部材に巻き付けることができ、コイルの巻きダレを防止できる。
【0011】
また本発明は、上記レンズ駆動装置において、撮像素子を実装した基板上において前記レンズ保持部材を支持するロアケースを備え、前記ロアケースの前記レンズ保持部材を支持する支持面には、前記レンズ体に対して撮像素子を露出させる開口部と、前記フランジ部の内側において前記開口部を囲う環状凸部とが形成されている。この構成によれば、異物が、コイルとレンズ保持部材の外周面との隙間を通り、更にフランジ部の逃げ部を介してレンズ駆動装置内に侵入する場合であっても、開口部の周囲に設けられた環状凸部によって開口部側への異物の侵入が防止される。よって、開口部内に位置する撮像素子の素子面に異物が入り込むことがない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レンズ保持部材の推力及びリニアリティを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るレンズ駆動装置の実施の全体斜視図である。
【図2】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の分解斜視図である。
【図3】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の内壁部と逃げ部との関係を説明する横断面図である。
【図4】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の内壁部と逃げ部との関係を説明する縦断面図である。
【図5】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の移動量と電流との関係を示す図である。
【図6】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の組み立て作業の前半の説明図である。
【図7】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の組み立て作業の後半の説明図である。
【図8】本実施の形態に係るレンズ駆動装置のコイルの巻き付け状態を示す図である。
【図9】本実施の形態に係るレンズ駆動装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下のレンズ駆動装置は一例であり、これに限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の全体斜視図である。図2は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の分解斜視図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、レンズ駆動装置1は、撮像素子としてのイメージセンサ(不図示)を実装した基板上に取り付けられており、イメージセンサに対してレンズ体(不図示)を光軸方向に駆動させて焦点距離を調整するものである。レンズ駆動装置1においては、外部端子3が取り付けられたロアケース2上に、下板バネ4を介してレンズ保持部材5が取り付けられている。レンズ保持部材5の周囲には、コイル59が巻回されており、このコイル59を覆うように磁石6付きのヨーク7がロアケース2に固定される。ヨーク7の上面には、上板バネ8を介してトップカバー9が取り付けられる。
【0017】
ロアケース2は、合成樹脂によって下面を開口した薄厚の箱状に形成されている。ロアケース2の上壁部の中央には、矩形状の開口部21が形成されており、この開口部21を介して基板上のイメージセンサを上方に露出させている。矩形状の開口部21の周囲には、ロアケース2の中央側への異物の進入を防止する環状凸部22が形成されている。ロアケース2の上壁部の4隅には、下板バネ4の位置決め用の位置決め凸部23と、下板バネ4の固定用の突起部24とが形成されている。位置決め凸部23及び突起部24により、ロアケース2上において下板バネ4が前後左右に位置決めされた状態で取り付けられる。
【0018】
また、ロアケース2には、導電性の金属プレート25がインサート成形されている。金属プレート25は、ロアケース2から部分的に露出されており、ヨーク7が電気的に接続される。ロアケース2の隣接する2隅周辺には、一対の外部端子3を取り付ける一対の取付孔26及び突起部27が形成されている。一対の外部端子3は、導電性の金属板の一部を折り曲げて形成されている。外部端子3は、折り曲げられた側板部を取付孔26に挿入し、平板部に形成された挿通孔31から突起部27を突出させた状態で、突起部27の熱カシメによりロアケース2に固定される。
【0019】
下板バネ4は、導電性のリン青銅等によって形成され、一対のバネ片41により構成されている。一対のバネ片41は、ロアケース2の環状凸部22に沿うように中央に開口を形成するように配置されている。各バネ片41は、径方向外側に位置する外側板部42と、径方向内側に位置する内側板部43と、外側板部42及び内側板部43を接続する蛇行形状のバネ板部44とを有している。外側板部42には、ロアケース2の突起部24に対応して挿通孔46が形成され、内側板部43には、レンズ保持部材5の突起部56(図6D参照)に対応して挿通孔45が形成されている。
【0020】
外側板部42は、挿通孔46からロアケース2の突起部24を突出させて、突起部24の熱カシメによりロアケース2に固定される。内側板部43は挿通孔45からレンズ保持部材5の突起部56を突出させて、突起部56の熱カシメによりレンズ保持部材5に固定される。このように、ロアケース2とレンズ保持部材5は、下板バネ4を介して連結される。また、各バネ片41のバネ板部44は、レンズ保持部材5に対してロアケース2側に向けて付勢力を作用させている。また、一対のバネ片41は、それぞれ一対の外部端子3に電気的に接合されると共に、コイル59の端部に電気的に接合されている。
【0021】
レンズ保持部材5は、合成樹脂により形成され、内周面に雌ねじ部51が形成された筒状部52と、筒状部52の下端側から径方向外側に突出したフランジ部53とを有している。筒状部52の内側には、外周面に雄ねじ部が形成されたレンズユニット(不図示)が装着される。筒状部52の外周面には、コイル59を内側から支持する4つのコイル支持部54が突出して形成されている。筒状部52に設けたコイル支持部54に、導線が巻回されることで八角形の筒状のコイル59が形成される。この場合、コイル59と筒状部52との間には、後述するヨーク7の内壁部74が介在する隙間が形成されている。
【0022】
フランジ部53には、ヨーク7の内壁部74に対応して切り欠かれた逃げ部55が形成されている。この逃げ部55により、レンズ保持部材5の上方への移動時に、ヨーク7の内壁部74の下端部とフランジ部53との干渉が防止される。レンズ保持部材5の下部には、下板バネ4の固定用の複数の突起部56と、コイル59の両端部が巻きつけられる一対の絡げピン57とが形成されている(図6D参照)。コイル59の一端部は、一方の絡げピン57に巻き付けられた状態で一方のバネ片41に接合され、コイル59の他端部は、他方の絡げピン57に巻き付けられた状態で他方のバネ片41に接合されている。また、レンズ保持部材5の下部には、ロアケース2に当接される4つの脚部58が形成されている。
【0023】
ヨーク7は、下面を開口した箱型であり、上壁部71にレンズ保持部材5の筒状部52を露出する窓部72が形成されている。また、ヨーク7には、上面視矩形状の外周壁部73(外壁部)の四隅に対して間隔を空けて対向する4つの内壁部74が形成されている。各内壁部74は、コイル59と筒状部52との隙間に挿通される。外周壁部73の内周面の四隅には、それぞれ磁石6(磁性部材)が取り付けられている。磁石6は、ヨーク7の角部に合わせて上面視台形状に形成され、内壁部74の壁面に対して平行な磁極面67を有している。ヨーク7の四隅においては、磁石6と内壁部74との間にコイル59が配置される。
【0024】
そして、ヨーク7と磁石6とにより磁気回路が形成され、コイル59が通電されることにより、レンズ保持部材5が光軸方向に駆動される。また、ヨーク7の下部は、ロアケース2の金属プレート25に接合される縁部75が形成されている。ヨーク7の上壁部71の四隅には、トップカバー9の取付用の挿通孔76が形成されている。
【0025】
上板バネ8は、リン青銅等によって形成され、ヨーク7の窓部72よりも小径な開口部81を有している。上板バネ8は、径方向外側に位置する外側板部82と、径方向内側に位置する内側板部83と、外側板部82及び内側板部83を接続するバネ板部84とを有している。外側板部82には、ヨーク7の挿通孔76に対応して切欠部85が形成されている。また、内側板部83は、筒状部52の上端面に接着剤により固定される。上板バネ8のバネ板部84は、レンズ保持部材5に対してロアケース2側に向けて付勢力を作用させている。
【0026】
トップカバー9は、合成樹脂により矩形枠状に形成されている。トップカバー9の四隅には、下面から突出する上板バネ8の固定用の突起部91が形成されている。トップカバー9は、上板バネ8の切欠部85及びヨーク7の挿通孔76に突起部91を挿通させた状態で、突起部91の熱カシメにより、上板バネ8及びヨーク7と一体化される。なお、レンズ駆動装置1の組み立て作業の詳細については後述する。
【0027】
ここで、図3及び図4を参照して、ヨークの内壁部とレンズ保持部材との位置関係について説明する。図3は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の内壁部と逃げ部との関係を説明する横断面図である。図4は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の内壁部と逃げ部との関係を説明する縦断面図である。なお、図4Aは、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の縦断面図であり、図4Bは、比較例に係るレンズ駆動装置の縦断面図である。また、比較例に係るレンズ駆動装置は、主に逃げ部を有さない点で本実施の形態に係るレンズ駆動装置と相違する。
【0028】
図3及び図4Aに示すように、ヨーク7は、レンズ保持部材5を囲うように上面視矩形状の外周壁部73を有しており、外周壁部73の四隅にはそれぞれ磁石6が取り付けられている。また、ヨーク7には、外周壁部73の四隅に設けられた磁石6に対して間隔を空けて対向するように内壁部74が形成されている。内壁部74及び外周壁部73は、上壁部71を介して断面視U字状に連結されている。この磁石6、上壁部71、外周壁部73及び内壁部74により、レンズ駆動装置1の四隅に磁気回路が形成される。
【0029】
また、ヨーク7の内壁部74は、レンズ保持部材5の筒状部52の外周面68とコイル59との隙間に挿通されている。この構成により、磁石6の磁極面67と内壁部74の内面77との間にコイル59が位置付けられ、コイル59の通電によってレンズ保持部材5が光軸方向に移動される。
【0030】
また、レンズ保持部材5のフランジ部53には、内壁部74に対応して逃げ部55が形成されている。逃げ部55は、光軸方向において内壁部74の下端部に対向する位置に形成され、内壁部74を挿通可能に形成されている。すなわち、コイル59内側に露出する逃げ部55は、内壁部74の幅寸法よりも長手方向の寸法が大きく形成されており、内壁部74の厚さ寸法よりも短手方向の寸法が大きく形成されている。
【0031】
このような構成により、レンズ保持部材5が上動した場合でも、内壁部74の下端部が逃げ部55内に進入することで、内壁部74の下端部がフランジ部53に当接することがない。本実施の形態では、内壁部74とフランジ部53との干渉を回避可能な構成とすることで、内壁部74を光軸方向に長く形成して、内壁部74と磁石6との間の平行磁場範囲Lを大きくしている。このため、レンズ保持部材5の駆動時に、コイル59に対して光軸方向に沿って均一に磁場を作用させ、レンズ保持部材5に十分な推力を発生させている。
【0032】
一方、図4Bに示すように、比較例に係るレンズ駆動装置101のフランジ部102には、内壁部103に対応して逃げ部が形成されていない。比較例に係るレンズ駆動装置101では、レンズ保持部材105の駆動時の内壁部103とフランジ部102との干渉を考慮して、内壁部103を光軸方向に短く形成している。このため、内壁部103と磁石106との間の平行磁場範囲Lが小さくなり、レンズ保持部材105の駆動時にコイル107に対して光軸方向に沿って均一に磁場を作用させることができない。特に、レンズ保持部材105の駆動開始時においては、コイル107の下部が磁石106と内壁部103との隙間から突出しており、コイル107に作用する磁場が弱く、レンズ保持部材105に十分な推力を発生させることができない。
【0033】
図5を参照して、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の移動量と電流との関係について説明する。図5は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の移動量と電流との関係を示す図である。なお、図5では、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の特性を実線に示し、比較例に係るレンズ駆動装置の特性を破線に示している。
【0034】
図5の実線に示すように、本実施の形態に係るレンズ駆動装置1では、コイル59が通電されると、始めの数[mA]は上板バネ8及び下板バネ4の付勢力によりレンズ保持部材5の移動が抑えられる。更に、コイル59が通電されるとレンズ保持部材5が移動を開始する。レンズ保持部材5の移動開始から移動停止までの間、内壁部74と磁石6との間の平行磁場範囲L内にコイル59が位置し続けるため、コイル59に対して均一な磁場が作用する。よって、コイル59に対する電流とレンズ保持部材5の移動量とのリニアリティが確保される。
【0035】
図5の破線に示すように、比較例に係るレンズ駆動装置101では、コイル107が通電されると、始めの数[mA]は上板バネ108及び下板バネ104の付勢力によりレンズ保持部材105の移動が抑えられる。更に、コイル107が通電されるとレンズ保持部材105が移動を開始するが、移動開始時には内壁部103と磁石106との間の平行磁場範囲L外にコイル107の一部が突出している。このため、コイル107に対して均一な磁場が作用せず、本実施の形態に係るレンズ駆動装置1と比較して、コイル107の電流に対してレンズ保持部材105の移動量が緩やかに変化する。よって、比較例に係るレンズ駆動装置101では、コイル107に対する電流とレンズ保持部材105の移動量とのリニアリティが確保できない。
【0036】
このように、本実施の形態に係るレンズ駆動装置1は、コイル59に対して均一に磁場を作用させることができるため、コイル59の巻幅が狭い場合であってもレンズ保持部材の推力及びリニアリティを維持することが可能となっている。ところで、フランジ部53は、レンズ駆動装置1外からのイメージセンサに対する異物の進入経路を複雑にする機能を有している。
【0037】
しかしながら、本実施の形態ではフランジ部53に逃げ部55が形成されているため、レンズ保持部材5とコイル59との隙間を通り、逃げ部55を介してフランジ部53の下方に異物が侵入する場合がある(図4A参照)。この場合であっても、ロアケース2の支持面28から突出した環状凸部22により、この環状凸部22の内側に侵入することが抑制される。よって、ロアケース2の支持面28に形成された開口部21を介して、イメージセンサ上に異物が入り込むことがない。
【0038】
次に、図6を参照して、レンズ駆動装置の組み立て作業について説明する。図6は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の組み立て作業の前半の説明図である。図7は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の組み立て作業の後半の説明図である。なお、以下の組み立て作業は、自動機によって自動で実施可能な作業である。
【0039】
図6Aに示すように、接着剤によってヨーク7の四隅の角部にそれぞれ磁石6が固定される。このとき、磁石6の磁極面は、ヨーク7の内壁部74の壁面に対して所定の間隔を空けて対向される(図4A参照)。次に、図6Bに示すように、ヨーク7の上面に上板バネ8が載置され、上方からトップカバー9が取り付けられる。このとき、トップカバー9の四隅の突起部91が、それぞれ上板バネ8の四隅の切欠部85及びヨーク7の四隅の挿通孔76に挿通される。そして、トップカバー9の各突起部91が熱カシメされることで、トップカバー9、上板バネ8及びヨーク7が一体化される。
【0040】
一方、図6Cに示すように、レンズ保持部材5の外周には、コイル59が巻きつけられる。このとき、レンズ保持部材5には、フランジ部53に形成された逃げ部55を介して巻きダレ防止用の治具95が取り付けられており、この治具95によってコイル59の巻きダレが防止される。すなわち、逃げ部55は、レンズ保持部材5に対するコイル59の巻き付け時においては、治具95の爪部96を挿通させる挿通孔として機能させている。コイル59は、隣り合うコイル支持部54間が爪部96によって支持された状態でレンズ保持部材5に巻き付けられる。
【0041】
治具95を用いて巻き付けられたコイル59は、図8Aに示すように、隣り合うコイル支持部54間においても巻きダレが生じない。一方、比較例に係るレンズ駆動装置101のように、フランジ部102に逃げ部が形成されていない場合には、治具95を使用したコイル107の巻き付けができない。よって、図8Bに示すように、隣り合うコイル支持部111間においてコイル107の巻きダレが生じる。このように、本実施の形態においては、治具95の爪部96によってコイル59の弛みを抑えて、コイル59をレンズ保持部材5に対して良好に巻き付けることが可能となっている。
【0042】
また、レンズ保持部材5に巻き付けられたコイル59の両端部は、一対の絡げピン57に巻き付けられる。この場合、コイル59の両端部は、レーザ等により絶縁被膜が除去された後に巻き付けられる。次に、図6Dに示すように、レンズ保持部材5の下部に一対のバネ片41が取り付けられる。このとき、レンズ保持部材5の突起部56が、それぞれ一対のバネ片41の挿通孔45に挿通される。そして、レンズ保持部材5の突起部56が熱カシメされることで、レンズ保持部材5と一対のバネ片41とが一体化される。
【0043】
また、絡げピン57に巻回されたコイル59の端部と一対のバネ片41の接合部62とがレーザ半田付けされる。このとき、接合部62近傍の切欠部63によって、接合部62における熱の逃げが抑えられ、少量の加熱で半田ペースト65が溶融される。また、接合部62近傍の切欠部63によって、半田ペースト65の拡散が抑えられ、コイル59と接合部62との間に良好な半田ブリッジが形成される。これにより、一対のバネ片41とコイル59の両端部とが電気的に接続される。
【0044】
また、図7Aに示すように、ロアケース2には、一対の外部端子3が取り付けられる。このとき、外部端子3は、側板部をロアケース2の取付孔26に挿通させると共に、挿通孔31からロアケース2の突起部27を突出させる。そして、ロアケース2の突起部27が熱カシメされることで、ロアケース2と一対の外部端子3とが一体化される。
【0045】
このようにして、組み立てられたロアケース2上には、図7Bに示すように、コイル59付きのレンズ保持部材5が載置され、一対のバネ片41を介してロアケース2とレンズ保持部材5が取り付けられる。このとき、一対のバネ片41の挿通孔46に、ロアケース2の突起部24が挿通され、突起部24が熱カシメされることで、ロアケース2とレンズ保持部材5とが一体化される。また、一対のバネ片41は、それぞれ外部端子3にレーザ溶接により接合される。これにより、一対の外部端子3とコイル59の両端部とが、一対のバネ片41を介してコイル59の両端部に電気的に接続される。
【0046】
ロアケース2とレンズ保持部材5とが一体化されると、図7Cに示すように、トップカバー9付きのヨーク7が上方から被せられる。このとき、ヨーク7の内壁部74が、レンズ保持部材5のコイル59と筒状部52との隙間に挿通される。これにより、ヨーク7の四隅において、磁石6と内壁部74との間にコイル59が介在されて磁気回路が形成される。また、ヨーク7の縁部75が、ロアケース2の金属プレート25上に載置され、レーザ溶接により金属プレート25に接合される。
【0047】
そして、図7Dに示すように、筒状部52の上端面と上板バネ8の内側板部83とに対して、ヨーク7の窓部72を介して接着剤が塗布される。これにより、ヨーク7及びトップカバー9とレンズ保持部材5とが、上板バネ8を介して連結される。このようにして、組み立てられたレンズ駆動装置1は、レンズ保持部材5の上下に設けられた板バネ4、8により、ロアケース2側に向けて付勢されている。そして、レンズ駆動装置1は、レンズ保持部材5の巻き付けられたコイル59が通電されることで、板バネ4、8の付勢力に抗してレンズ保持部材5が光軸方向に移動される。
【0048】
以下、図9を参照して、レンズ駆動装置の動作について説明する。図9は、本実施の形態に係るレンズ駆動装置の動作説明図である。
【0049】
図9に示すように、ヨーク7の外周壁部73の四隅に磁石6が固定され、磁石6の磁極面67に対向して内壁部74が位置されており、レンズ駆動装置1の四隅に磁気回路が形成される。磁石6と内壁部74との間には、レンズ保持部材5に巻き付けられたコイル59が介在されている。磁気回路は、磁石6の磁極面67に発生した磁束線がコイル59を通過して内壁部74に向うように形成されている。レンズ保持部材5は、上板バネ8及び下板バネ4により、ロアケース2側にプリテンションが作用されている。
【0050】
この初期状態で、コイル59が通電されると、コイル59に対して光軸方向に電磁力が発生する。このコイル59に発生した電磁力により、レンズ保持部材5が、上板バネ8及び下板バネ4の付勢力に抗して光軸方向に移動し、不図示のレンズ体とイメージセンサとの焦点距離が調整される。この場合、ヨーク7の内壁部74と磁石6の磁極面とが平行であるため、コイル59を通過する磁束線の量が多く、磁気回路をレンズ駆動装置1の四隅にしか形成していなくても十分な駆動力を発生させることが可能となる。
【0051】
また、レンズ保持部材5の移動開始から移動停止までの間、内壁部74と磁石6との間の平行磁場範囲L内をコイル59が移動する。したがって、レンズ保持部材5の移動中にコイル59に対して磁場が均一に作用するため、レンズ保持部材5の推力及びリニアリティを確保することが可能となっている。そして、コイル59に対する通電が停止されると、上板バネ8及び下板バネ4の復帰力により、レンズ保持部材5が初期位置に引き戻される。
【0052】
以上のように、本実施の形態に係るレンズ駆動装置1によれば、レンズ保持部材5のフランジ部53に形成された逃げ部55により、レンズ保持部材5の駆動時にヨーク7の内壁部74とフランジ部53との干渉が回避される。このため、ヨーク7の内壁部74を長く取ることができ、レンズ保持部材5の駆動時に光軸方向に沿ってコイル59に対して均一に磁場を作用させることができる。よって、コイル59の巻幅が狭い場合であってもレンズ保持部材5の推力及びリニアリティを維持することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0054】
例えば、本実施の形態において、フランジ部を貫通形成して逃げ部を形成したが、この構成に限定されない。逃げ部は、内壁部の端部が侵入可能な構成、すなわち内壁部とフランジ部との干渉を回避できる構成であればよく、例えば、フランジ部に形成された凹部でもよい。
【0055】
また、本実施の形態において、逃げ部が、治具の爪部を挿通させる挿通孔として機能する構成としたが、この構成に限定されない。逃げ部は、内壁部とフランジ部との干渉を回避する機能のみを有していてもよい。
【0056】
また、本実施の形態においては、磁性部材として磁石を例示して説明したが、この構成に限定されない。磁性部材は、ヨークと共に磁気回路を形成すれば、どのようなものでもよい。また、本実施の形態においては、ヨークの外周壁部に磁石を取り付ける構成としたが、この構成に限定されない。磁石は、ヨークの内壁部との間に平行磁場を形成すればよく、例えば、ロアケースに支持される構成でもよい。
【0057】
また、本実施の形態において、自動機によりレンズ駆動装置を組み立てる構成としたが、この構成に限定されない。手動によりレンズ駆動装置を組み立てる構成としてもよいし、自動機と手動とを組み合わせてレンズ駆動装置を組み立てる構成としてもよい。
【0058】
また、本実施の形態において、上記した組み立て順序に限定されるものではない。例えば、絡げピンにコイルの端部を巻き付けた後に、コイルの端部の絶縁被膜を剥がしてもよい。また、本付勢部材をレンズ保持部材に固定する前に、コイルの端部を付勢部材に接合してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 レンズ駆動装置
2 ロアケース
3 外部端子
4 下板バネ
5 レンズ保持部材
6 磁石(磁性部材)
7 ヨーク
8 上板バネ
9 トップカバー
21 開口部
22 環状凸部
28 支持面
52 筒状部
53 フランジ部
54 コイル支持部
55 逃げ部
59 コイル
67 磁極面
68 外周面
71 上壁部
73 外周壁部(外壁部)
74 内壁部
95 治具
96 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ体が保持されるレンズ保持部材と、
前記レンズ保持部材の光軸周りの外周面との間に隙間を形成するように、前記レンズ保持部材に取り付けられたコイルと、
前記コイルの外側を囲う外壁部及び前記コイルの内側の前記隙間において前記外壁部に対向する内壁部を有するヨークと、
前記ヨークと共に前記コイルに作用する磁気回路を形成する磁性部材とを備え、
前記レンズ保持部材の外周面には、光軸方向において前記コイルの下方にフランジ部が形成されており、当該フランジ部には前記内壁部の端部が進入可能な逃げ部が設けられたことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
前記逃げ部は、前記フランジ部を光軸方向に貫通して形成されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ駆動装置。
【請求項3】
前記逃げ部は、前記レンズ保持部材に対する前記コイルの巻き付けを支持する治具の爪部が挿通可能に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のレンズ駆動装置。
【請求項4】
撮像素子を実装した基板上において前記レンズ保持部材を支持するロアケースを備え、
前記ロアケースの前記レンズ保持部材を支持する支持面には、前記レンズ体に対して撮像素子を露出させる開口部と、前記フランジ部の内側において前記開口部を囲う環状凸部とが形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のレンズ駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−242648(P2012−242648A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113376(P2011−113376)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】