説明

レンチウイルスベクターによる遺伝子導入鳥類作製法及びそれによって得られる遺伝子導入鳥類

本発明は、外皮タンパクがVSV−Gを含むレンチウイルスベクター、該レンチウイルスベクターを鳥類宿主に感染させることよりなる組み換え鳥類宿主とその作製法、該レンチウイルスベクターを感染させることよりなるトランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫を提供する。また、外皮タンパクがVSV−Gを含むレンチウイルスベクターを鳥類受精卵初期胚に感染させ、およびその胚を孵化させることを含むG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法、並びに、上記の方法で作製したG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫を提供する。本発明は、外皮タンパクをVSV−G化したレンチウイルスベクターを鳥類初期胚に感染させることにより作製されたトランスジェニック鳥類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチウイルスベクターによって外来性遺伝子を鳥類培養細胞に導入する方法に関する。また本発明は、レンチウイルスベクターによって外来性遺伝子を受精卵初期胚に導入することによるトランスジェニックキメラ鳥類の作製法ならびに該作製法により得られるG0トランスジェニックキメラ鳥類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年数多くの品目が上市されている抗体医薬品は、現在動物細胞リアクターしか生産手段がないため、価格が高くなることがその普及を妨げている要因である。医薬品として使用されるモノクローナル抗体のように複雑な構造を持ち、その安定性、活性発現に糖鎖が必要なタンパク質の安価な生産手段として、トランスジェニック技術を応用した動物工場が注目を浴びている。
【0003】
ウシ、ヤギ、ヒツジ等哺乳類の乳汁に生理活性物質を安価に産生させる試みが実用に近づいているが、これらの動物はトランスジェニックを作製し、目的物が生産されるようになるまでの時間が1〜2年と長いという欠点がある。
【0004】
一方性成熟までの期間が短く、効率的なタンパク生産動物である家禽鳥類の卵に生理活性物質を産生させる鳥類トランスジェニックは、動物工場として有望であるが、鳥類体細胞に外来遺伝子を導入した安定なトランスジェニックを作製するには独特の困難があり、実用化には至っていない(特許文献1参照)。
【0005】
トランスジェニック鳥類作製が困難である理由のひとつは、その受精卵を1細胞期に取得し、人工的に培養するのが至難なことである。Perryは、鶏の卵割前細胞を手術的に取得し、体外で培養するシステムを確立したが(非特許文献1参照)、この方法によっても鳥類細胞の前核が卵黄に被われて識別不可能なため、核移植によるトランスジェニック作製は不可能である。
【0006】
そのため鳥類受精卵への外来遺伝子導入は、リポフェクション、エレクトロポレーション等による細胞質への遺伝子注入に限られており、導入遺伝子を意図的に染色体に組み込むことができなかった。
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ね、遺伝子治療にも応用されている安全な自己複製能欠失型レトロウイルスベクターを使用し、効率的に目的遺伝子を導入するトランスジェニック鳥類の作製法を見出した(特許文献2参照)。これにより、安全かつ効率的に複数の導入遺伝子コピー数をもつトランスジェニック鳥類の作製が可能となった。またこの手法によれば、導入遺伝子は高い効率で次世代に伝達されることもわかり、物質生産システムとしての遺伝子導入鳥類の利用が実用に近づいた。
また、レトロウイルスにより導入された遺伝子の不活性化は、導入時期に依存するという新規な知見を生かした、タンパク発現方法も見出した。
【0008】
レトロウイルスベクターによる遺伝子導入法は、高い導入効率で染色体DNAへ外来遺伝子を導入し、トランスジェニック鳥類を作製する現在唯一の方法である。しかし、レトロウイルスベクターで導入された外来遺伝子は、メチル化されることにより不活性化され(サイレンシングと呼ばれる現象)、目的とするタンパク質が発現しないことが問題だった。
【0009】
このサイレンシングは、生体による防御システムと考えられるが、動物工場としてのトランスジェニック作製には障害となる。
Vermaらが開発したレンチウイルスベクターは、神経系のように分化して増殖を停止した細胞にも遺伝子導入でき、かつ導入遺伝子の不活性化を伴わないことが知られているが、サイレンシングにも耐性である(非特許文献2参照)。
【0010】
Pfeiferらは、このレンチウイルスベクターを使ってトランスジェニックマウスを作製することに成功し、その体細胞で導入タンパクが発現することを報告している(非特許文献3参照)。
【0011】
このレンチウイルスベクターを、トランスジェニック鳥類作製に応用しようとの試みが報告されているが、レンチウイルスは、通常鳥類細胞には感染しない。
【0012】
【特許文献1】WO 03/014344 A2 VIRAGEN INCORPORATED(2001)
【特許文献2】特開2002−176880号公報
【非特許文献1】Perry、M.M(1988)Nature,331
【非特許文献2】Verma,I.Mら(2000)Nat.Rev.Genet.1,91
【非特許文献3】Pfeifer,Aら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.99,2140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先に述べたような、導入遺伝子不活性化のメカニズムを解明していくことによるトランスジェニック鳥類実用化の検討とともに、レトロウイルスの種類によってはサイレンシングが起こりにくいとの知見から、鳥類への有効な遺伝子導入法の開発も試みてきた。レトロウイルスの一種であるレンチウイルス類を使ったベクターの応用はその試みのひとつである。
【0014】
しかし、レンチウイルスはそのままでは鳥類細胞に感染しないため、これをトランスジェニック鳥類作製に応用するには、鳥類細胞へ感染するレンチウイルスベクターの開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
先に述べたようにレンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターの一種であるが、モロニー・ミューリン・ロイケミア・ウイルス(MoMLV)に由来するような、一般的なレトロウイルスベクターとは異なる性質を有している。
【0016】
レトロウイルスベクターは通常増殖期の細胞にしか感染せず、分化した静止期の細胞に遺伝子を導入することはできなかった。しかしレンチウイルスに由来する新しいベクターは、増殖細胞のみならず神経細胞のような静止期の細胞にも感染できるため、その応用範囲が広い。また、一般的なレトロウイルスベクターで問題となる導入遺伝子の不活性化(サイレンシング)が起きないことも知られている。
【0017】
レンチウイルスが鳥類細胞に感染した例は報告されておらず、レンチウイルスベクターをトランスジェニック鳥類作製に応用するには、ベクターを鳥類細胞に感染させる工夫が必要である。
【0018】
本発明者らは検討を重ね、外皮タンパクをVSV−G化したレンチウイルスベクターがニワトリ培養細胞に外来遺伝子を導入できることを見出し、本発明に至った。
【0019】
すなわち、本発明の第一の発明は、VSV−G化したレンチウイルスベクターを鳥類受精卵初期胚に感染させることによるトランスジェニック鳥類及びその子孫の作製法であり、また本発明の第二の発明は、該作製法において作られたレンチウイルスベクター、組み換え鳥類宿主及びトランスジェニック鳥類である。
【0020】
具体的には、本発明は、外皮タンパクがVSV−Gを含むレンチウイルスベクター、該レンチウイルスベクターを鳥類宿主に感染させることよりなる組み換え鳥類宿主とその作製法、該レンチウイルスベクターを感染させることよりなるトランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫、外皮タンパクがVSV−Gを含むレンチウイルスベクターを鳥類受精卵初期胚に感染させ、およびその胚を孵化させることを含むG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法、並びに、上記の方法で作製したG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫である。
【0021】
先に述べたPfeiferらは、受精卵を酸性タイロード液で処理し、透明帯を除去することにより、レンチウイルスをマウス受精卵に感染させているが、本発明者らによるVSV−G化したレンチウイルスは、無処理の鳥類細胞に感染できる。この細胞前処理の簡便な感染性レンチウイルスベクターも、本発明の1つである。
【0022】
レンチウイルスベクターをトランスジェニック鳥類作製に応用する際の利点のひとつは、生殖系列への遺伝子導入による完全体子孫(G1)作製の可能性の高さであり、もうひとつはサイレンシング回避による導入遺伝子に由来するタンパク生産量の増大である。
【0023】
本発明は、このようにタンパク生産に有利なトランスジェニック鳥類の作製法を開示する。また該作製法による遺伝子導入鳥類を開示する。
この方法により作製されたトランスジェニック鳥類は、タンパク質の生産に利用できるほか、鳥類の品種改良等にも有効である。
【0024】
以下に本発明を詳述する。
本発明で使用されるレンチウイルスベクターとしては、HIV(Human immunodeficiency virus)、BIV(Bovine immunodeficiency virus)由来レンチウイルスベクター等が挙げられる。本発明で使用するレンチウイルスベクターとしては、HIV由来のものが好ましく、HIV−1由来のものがより好ましい。
【0025】
安全性を考慮し、遺伝子導入ベクターとして用いられるウイルスは、ウイルス粒子の複製に必要な遺伝子を分割してプラスミドとして後から加えることにより、ウイルスを発現すると共に、複製に必要な制御遺伝子を除いて自己複製能を欠失させたウイルスであることが好ましい。
【0026】
本発明においては、鳥類宿主にこのウイルスベクターを感染可能とするため、外皮タンパクを人工的にVSV−G(水疱性口内炎ウイルス由来)シュードタイプとしたウイルスベクターを用いる。VSV−Gの受容体は膜成分であるリン脂質であり、これは鳥類細胞膜にも共通に存在することから、通常は鳥類宿主に感染しないレンチウイルスを感染可能とすることができる。
上記鳥類宿主としては、鳥類受精卵初期胚、鳥類宿主細胞等が挙げられる。
【0027】
パッケージング細胞またはヘルパーウイルス等を利用することにより調製されたシュードタイプのウイルスベクターは、好ましくは通常のマイクロインジェクション法(Bosselman,R.Aら(1989)Science 243、533)により、鳥類受精卵初期胚へ、また、血管内、心臓内を介して鳥類宿主細胞へ導入される。遺伝子導入法としてはこの他にもリポフェクションやエレクトロポレーション法等が考えられる。
鳥類宿主細胞としては、例えば、繊維芽細胞、多能性幹細胞、始原生殖細胞等が挙げられる。
上述のベクターを鳥類宿主に感染させることよりなる、組み換え鳥類宿主及びその作製法も、本発明の1つである。
【0028】
本発明に用いるレンチウイルスベクターは、異種遺伝子を含むものが好ましい。
本発明によりレンチウイルスベクターを用いて鳥類に導入される異種遺伝子は特に限定されないが、マーカー遺伝子や目的タンパク質を発現するための構造遺伝子、これらの遺伝子発現をコントロールするプロモーター遺伝子、分泌シグナル遺伝子等により構成される。上記異種遺伝子としては、構造遺伝子を含むものが好ましく、さらにマーカー遺伝子を含むものがより好ましい。
【0029】
上記マーカー遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、LacZ(β−ガラクトシダーゼ遺伝子)、例えばGFP(グリーン・フルオレッセント・プロテイン)等の蛍光タンパク質をコードした遺伝子が挙げられる。本発明に用いるレンチウイルスベクターは、GFP遺伝子及び/又はLacZが組み込まれているものが好ましい。
【0030】
上記目的タンパク質を発現するための構造遺伝子としては特に限定されず、ヒトモノクローナル抗体などの遺伝子産業上有用な抗体、酵素等をコードした遺伝子、1本鎖抗体をコードした遺伝子などが挙げられる。また、その他の有用生理活性物質の遺伝子を用いることもできる。特に、卵中での蓄積がよいことから、ヒトIgGクラスの定常領域をもつ抗体の遺伝子や、ヒトIgG1、ウズラIgG2、ニワトリIgG2やマウスIgG2のサブクラスの定常領域をもつ抗体の遺伝子など外来性抗体の構造遺伝子が好ましい。
また好ましい上記目的タンパク質を発現するための構造遺伝子としては、キメラ抗体の構造遺伝子が挙げられる。キメラ抗体とは、2種以上の異なる遺伝形質から構成される抗体のことをいう。
【0031】
従来マウスハイブリドーマによって作製された医療用抗体は、マウス由来であるため、ヒト体内に投与されると免疫系による拒絶反応が引き起こされるという問題があった。上記キメラ抗体としては、例えば、抗ヒトCD2抗体、抗CD20受容体抗体、抗TNF抗体など当該欠点を改良し、拒絶反応をなくしたキメラ抗体が挙げられ、すでに医薬品として上市されているものもある。
【0032】
本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類において、鳥類に導入される遺伝子として、これらヒトモノクローナル抗体遺伝子、キメラ抗体遺伝子を使用することにより、従来生産が困難だった抗体医薬品を安価に大量生産することができる。
【0033】
上記プロモーター遺伝子としては、構成的なプロモーターが挙げられる。抗体遺伝子が構成的なプロモーターにより制御されている場合、抗体遺伝子発現が安定してよいので好ましい。より好ましい構成的なプロモーターとして、ニワトリβアクチンプロモーターが挙げられる。
【0034】
本発明により作製されるG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫は、レンチウイルスベクターによって外来抗体遺伝子等が導入された場合、導入遺伝子に由来するタンパク質を、血中、卵白中あるいは卵黄中に生産することができる。これらのタンパク質は鳥類細胞により糖鎖の修飾を受けるため、活性、安定性のうえで有利である。
【0035】
本発明で使用する鳥類としては特に限定されず、例えばニワトリ、七面鳥、カモ、ダチョウ、ウズラなど、食肉、採卵目的で家畜化されている家禽鳥類や愛玩用鳥類を挙げることができる。なかでもニワトリやウズラは入手が容易で、産卵種としても多産である点が好ましく、より好ましくはニワトリである。
【0036】
次に本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法について説明する。
本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法は、外皮タンパクがVSV−Gを含むレンチウイルスベクターを鳥類受精卵初期胚に感染させ、およびその胚を孵化させることを含むものである。
当該作製法の1つとして、鳥類受精卵放卵直後の胚盤葉期(ステージX)の初期胚へ複製能欠失型レンチウイルスベクターを感染させ、その胚を孵化させる作製法が挙げられる。また、鳥類受精卵を孵卵し、放卵直後の胚盤葉期を除くそれ以降の初期胚へ複製能欠失型レンチウイルスベクターを感染させ、その胚を孵化させる作製法も可能である。また鳥類受精卵を孵卵し、孵卵開始から24時間以降の初期胚へ複製能欠失型レンチウイルスベクターを感染させ、その胚を孵化させる作製法も、本発明の作製法の1つとして挙げられる。
より好ましくは、上記初期胚に形成される心臓内または血管内へ、複製能欠失型レンチウイルスベクターをマイクロインジェクションする方法である。
【0037】
本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法では、放卵直後(ステージX)の受精卵に複製能欠失型レンチウイルスベクターをマイクロインジェクションすることが好ましい。
放卵後の受精卵の初期発生についてニワトリを例にとると、まず輸卵管内で受精した卵は、受精後約1.5時間で卵割を開始する。細胞質がつながったまま盤割が始まった卵は、1日かけて体外に放出される間に分裂し、約6万個の細胞からなる胚盤葉と呼ばれる胚になる(胚盤葉期)。この胚盤葉は、卵黄中央部の直径3〜4mmの白いリングとして観察される。この胚は、上層と下層に分裂し、割腔を形成する。放卵は胚盤葉下層が形成されるころに起こり、原条が形成され、胚盤葉は上、中、下の三重構造を取り、三胚葉が形成される。その後、胚の形成、成長を経て、排卵から22日目に孵化する。胚盤葉期は、ステージXとも呼ばれ、この時期の細胞の一部から生殖細胞が生じることから、従来は遺伝子導入の対象としてこの時期の受精卵を使用している。
【0038】
本発明では、異種遺伝子を胚に導入するための時期は、特に限定されず、ステージX以前、ステージX、またはステージX以降でもよい。サイレンシングが起こりにくい観点から、好ましくはステージX以降、より好ましくは孵卵開始より48時間目以降、もっとも好ましくは孵卵開始後55時間目に、異種遺伝子を胚に導入する。
本発明においては放卵直後、胚盤葉期の受精卵を孵化条件、例えばニワトリならば37.7〜37.8℃、湿度50〜70%程度の孵化に適した環境条件においた時間を0時間とし、経時的にマイクロインジェクションを行った。ウズラでは孵卵開始から36時間後、ニワトリでは孵卵開始後50時間頃から、卵黄上に血管系の形成が観察され、心臓に分化する器官の脈動が観察できた。
【0039】
上述の遺伝子を導入した受精卵の孵化には、本発明者らが開発した人工卵殻による方法(Kamihira,M.ら(1998)Develop.Growth Differ.,40,449)等が応用できる。
【0040】
本発明の作製法において使用するレンチウイルスベクター、導入する遺伝子、遺伝子導入鳥類としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
なお本発明の作製法において、「レンチウイルスに由来しない遺伝子」としては、マーカー遺伝子、構造遺伝子、プロモーター遺伝子、分泌シグナル遺伝子が挙げられる。
【0041】
本発明の作製法においては、レンチウイルスベクターの感染時期が、胚盤葉期であることが好ましい。またレンチウイルスウイルスベクターの感染時期が、胚盤葉期を除くそれ以降の時期であることが好ましく、その場合レンチウイルスベクターの感染個所が、初期心臓内あるいは血管内であることが好ましい。
本発明の作製法においては、レンチウイルスベクターの感染法がマイクロインジェクション法であることが好ましい。
【0042】
本発明の作製法では、好ましくは1×10cfu/mL以上、より好ましくは1×10cfu/mL以上のタイターを持つレンチウイルスベクターを、インジェクション、好ましくはマイクロインジェクションすることが、遺伝子を効率よく導入できる点で好ましい。
本発明において、ウイルスタイターの測定は、X−Gal染色法又は蛍光タンパク検出法により行う。
【0043】
本発明の作製法で、受精卵に遺伝子を導入された鳥類は、その体細胞にモザイク状に導入遺伝子をもったトランスジェニック鳥類として成長する。この一世代目の遺伝子導入鳥類を、G0トランスジェニックキメラ鳥類と呼ぶ。
このような本発明の作製法によって得られるG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫も、本発明の1つである。
【0044】
本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類の子孫は、自体公知の育種技術にしたがって生産することができる。関連技術は当分野で周知であり、それらは雑種形成、同系交配、戻し交雑、多系統交配、種間雑種形成等を含むが、これらに限定されない。具体的には、G0トランスジェニックキメラ鳥類と非トランスジェニック鳥類、あるいはG0トランスジェニックキメラ鳥類同士を交配させて誕生する二世代目、三世代目は、これらが導入遺伝子を染色体にもつ生殖細胞から発生した場合、全身の体細胞に導入遺伝子を含有する個体として成長する。G0トランスジェニックキメラ鳥類個体から導入遺伝子を受け継ぐ子孫を、代々G1〜G2〜G3トランスジェニック鳥類と称する。
【0045】
本発明によるG0トランスジェニックキメラ鳥類を同種の非トランスジェニック鳥類あるいは配偶型G0トランスジェニックキメラ鳥類と交配させることにより、導入遺伝子を子孫に伝播させることができるとともに、全身の体細胞に導入遺伝子をもつ完全なトランスジェニック鳥類を作製できる。完全なトランスジェニック鳥類は、導入遺伝子をもつ体細胞の割合が多いことから、G0トランスジェニックキメラ鳥類に比べ、導入遺伝子に由来する組換えタンパク質の産生量が増加することが期待できる。更に、安定的に導入遺伝子を伝播するトランスジェニック鳥類の系統を確立することで、タンパク産生システムとしての品質の安定化が可能である。
【発明の効果】
【0046】
本発明の、外皮をVSV−G化したレンチウイルスベクター感染による鳥類受精卵初期胚を孵化することにより、G0トランスジェニックキメラ鳥類を作製することができる。
また本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法は、生理活性タンパク質、例えば医療用抗体の遺伝子を導入し、血中、卵中に抗体を効率的に発現することができる鳥類の作製を可能にする。更に本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫を用いたタンパク質生産法は、例えば医療用抗体を産生するG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫を作製し、抗体を鳥類の血清、卵中から回収、精製することからなる、効率よい抗体生産を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
β−ガラクトシダーゼ発現ベクターコンストラクトpLenti6/CMV−lacZの調製
pLenti6/CMV−lacZベクターコンストラクトは以下のようにして作製した。
まず、以下のようにしてpLenti6/TOPO−GFPを作製した。GFPを増幅させるためのプライマー5‘−CACCATGAGCAAGGGC−3’(配列番号1)と5‘−TCACTTGTACAGCTCGTCCA−3’(配列番号2)を化学合成した。鋳型としてpGreen Lantern(GIBCO社製)を用いてPCRを行いGFP断片を増幅した。この増幅した溶液をpLenti6/V5 Directional TOPO Cloning Kit(インビトロジェン社製)のマニュアルに従いpLenti6/V5−D−TOPOベクターにサブクローニングし、pLenti6/TOPO−GFPを作製した。
【0048】
また、以下のようにしてpLNΔAβを作製した。
1.プラスミドpLXRN(クロンテック社製)からラウス・ザルコーマ・ウイルス(RSV)プロモーター断片を制限酵素XhoI及びHindIIIによって切り出し、プラスミドpBluescriptIISK(+)(ストラタジーン社製)のXhoI、HindIIIサイトへ挿入し、プラスミドpBlue/RSVを作製した。
2.プラスミドpCMVβ(クロンテック社製)からβ−ガラクトシダーゼ(β−Gal)遺伝子断片を制限酵素NotIによって切り出し、プラスミドpZeoSV2(+)(インビトロジェン社製)のNotIサイトへ挿入した。T7プロモーターと同方向にβ−Gal遺伝子が挿入された構造のプラスミドをpZeo/lacZとした。
3.pBlue/RSVからRSVプロモーター断片を制限酵素XhoI及びPstIによって切り出した。pZeo/lacZからβ−Gal遺伝子断片を制限酵素PstI及びXhoIによって切り出した。制限酵素XhoIによって処理したプラスミドpLNHX(クロンテック社製)のベクター断片に上記切り出した2断片を連結し、プラスミドpLNRβを作製した。
4.pLNHXから一連のモロニー・ミューリン・ザルコーマ・ウイルス(MoMuSV)5’−ロング・ターミナル・リピート(LTR)、ウイルス・パッケージング・シグナル及びネオマイシン耐性(Neo)遺伝子を含む断片を、制限酵素SacII及びXhoIによって切り出し、制限酵素SacII及びXhoIによって処理したpLXRNのベクター断片に連結し、プラスミドpLXLを作製した。
5.pZeo/lacZからβ−Gal遺伝子断片を制限酵素HindIII及びXhoIによって切り出し、制限酵素HindIII及びXhoIによって処理したpLXLのベクター断片に連結し、プラスミドpLZLを作製した。
【0049】
6.2つの化学合成オリゴヌクレオチド5’−cggtctagaggaattcagtggttcg−3’(配列番号3)及び5’−ccaggatccgacgttgtaaaacgacg−3’(配列番号4、下線部はBamHI制限酵素サイト)をプライマーとするPCR(94℃/15秒→55℃/30秒→72℃/1分30秒:35サイクル;KOD−Plus−DNAポリメラーゼ(東洋紡社製))により、プラスミドpMiwZ(Suemori et al.,1990,Cell Diff.Dev.29:181−185)からRSVプロモーターとニワトリβアクチン(Act)プロモーターのハイブリッドプロモータ(Miwプロモーター)の5’領域断片を増幅後、制限酵素BamHI及びMunIによって切り出し、プラスミドpGREEN LANTERN−1(ギブコBRL社製)のBamHI、MunIサイトへ挿入し、プラスミドpGmiw5’を作製した。
7.pMiwZからMiwプロモーター5’側中央領域断片を制限酵素MunI及びClaIによって切り出し、pGmiw5’のMunI、ClaIサイトへ挿入し、プラスミドpGmiw5’−2を作製した。
8.pGmiw5’−2からMiwプロモーター5’領域及び5’側中央領域を含む断片を制限酵素BamHI及びEcoRIによって切り出し、pBluescriptIISK(+)のBamHI、EcoRIサイトへ挿入し、プラスミドpBlue/Miw5’を作製した。
9.2つの化学合成オリゴヌクレオチド5’−ccaaagcttgccgcagccattgcctttt−3’(配列番号5、下線部はHindIII制限酵素サイト)及び5’−atacctaggggctggctgcggaggaac−3’(配列番号6、下線部はBlnI制限酵素サイト)をプライマーとするPCR(98℃/15秒→60℃/30秒→72℃/30秒:35サイクル)によりpMiwZからMiwプロモーター3’領域断片を増幅後、制限酵素HindIII及びBlnIによって切り出し、制限酵素HindIII及びBlnIによって処理したpLXLのベクター断片に連結し、プラスミドpLMiw3’を作製した。
【0050】
10.pMiwZからMiwプロモーター3’側中央領域断片を制限酵素EcoRI及びMboIIによって切り出した。pLMiw3’からMiwプロモーター3’領域断片を制限酵素MboII及びKpnIによって切り出した。pBlue/Miw5’のEcoRI、KpnIサイトへ上記切り出した2断片を挿入し、プラスミドpBlue/Miwを作製した。
11.pBlue/MiwからMiwプロモーター全長を含む断片を制限酵素BamHI及びBlnIによって切り出し、制限酵素BamHI及びBlnIによって処理したpLXLのベクター断片に連結し、プラスミドpLMLを作製した。
12.pLMLからActプロモーター断片を制限酵素SmaI及びXbaIで切り出し、pBluescriptIISK(+)のEcoRV、XbaIサイトへ挿入し、プラスミドpBlue/Actを作製した。
13.pLMLからMiwプロモーター断片を制限酵素HindIII及びBglIIによって切り出し、制限酵素HindIII及びBamHIによって処理したpLZLのベクター断片に連結し、プラスミドpLMβLを作製した。
14.pBlue/ActからActプロモーター断片を制限酵素SalI及びBlnIによって切り出した。pLMβLからβ−Gal遺伝子断片を制限酵素BlnI及びBglIIによって切り出した。制限酵素XhoI及びBglIIによって処理したpLNRβのベクター断片に上記切り出した2断片を連結し、プラスミドpLNAβを作製した。
15.2つの化学合成オリゴヌクレオチド5’−tttagctagctgcagctcagtgcatgcac−3’(配列番号7、下線部はNheI制限酵素サイト)及び5’−ataatctagaaacgcagcgactcccgc−3’(配列番号8、下線部はXbaI制限酵素サイト)をプライマーとするPCR(98℃/15秒→60℃/30秒→68℃/2分:30サイクル)によりpMiwZからイントロン欠失アクチン(ΔAct)プロモーター断片を増幅後、制限酵素XhoI(XhoI制限酵素サイトは増幅断片中に存在)及びXbaIによってΔActプロモーターの一部を含む断片を切り出した。ΔActプロモーターの残りの部分とβ−Gal遺伝子を含む断片をpLNAβから制限酵素BlnI及びBglIIによって切り出した。制限酵素XbaI及びBglIIによって処理したpLNAβのベクター断片に上記切り出した2断片を連結し、プラスミドpLNΔAβを作製した。
pLNΔAβをSpeI、XhoIで切断したlacZ遺伝子をpLenti6/TOPO−GFPのSpeI、XhoIサイトにつないでpLenti6/CMV−lacZを作製した。
図1にpLenti6/CMV−lacZの構造を示す。
【実施例2】
【0051】
β−ガラクトシダーゼ発現複製能欠失レンチウイルスベクターの調製
レンチウイルスベクターを調製するため、パッケージング細胞293FT(インビトロジェン社製)を直径100mmの培養ディッシュに5×10細胞植え、培養した。翌日90%コンフルエントになったところで培地を新鮮な抗生物質の入っていないDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)に交換し、欠損しているベクター構成要素を4種のプラスミド(培養ディッシュ1枚当たりViraPower Packaging Mixより個別に調製したgag/polをコードしたpLP1を6.5μg、RevをコードしたpLP2を2.5μg、pLP/VSV−G外皮タンパク質であるVSV−Gを3.5μgと実施例1で調製したpLenti6/CMV−lacZを10μg)をリポフェクション法で導入した。遺伝子導入した翌日に培地を交換し、トランスフェクションの48時間後、ウイルス粒子を含む培養上清を回収し、0.45μm酢酸セルロースフィルター(アドバンテック社製)を通して夾雑物を除去した。この培養上清を25,000rpm、4℃で1.5時間遠心を行い、ウイルスを沈殿させた。上清を除き、ウイルス粒子を含む沈殿物に50μlのTNE(50mM Tris−HCI(pH7.8)、130mM NaCl、1mM EDTA)を加え、4℃で一晩放置後、よく懸濁してウイルス溶液を回収した。得られた溶液にポリブレン(シグマ社製)を8μg/mLとなるように加えウイルス液とした。
このようにして得られた高タイターウイルスベクターは、3.7×10cfu/mLであった。
【0052】
ウイルスタイターの測定は、以下のように行った。測定の前日にHeLa細胞(ヒト由来上皮様細胞株、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより入手)を直径24wellのディッシュに1.5×10細胞植え培養した。10から10倍に希釈したウイルス溶液を各ディッシュに1mL加え、48時間後に細胞をPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)にて2回洗浄した後、固定液(50%グルタルアルデヒド(東京化成工業社製)をPBSにて200倍希釈したもの)を細胞が浸るぐらい入れ4℃で10分放置した。その後固定液を抜きPBSで3回洗浄後X−Gal染色液(5mM KFe(CN)、5mM KFe(CN)、2mM MgCl、1mg/mL 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド(宝酒造社製))を加え37℃で3時間以上染色した後、青く染まっている細胞の割合を測定し、以下の計算式によりタイターを決定した。
ウイルスタイター=細胞数×希釈率×発現割合(cfu/mL)
【実施例3】
【0053】
ニワトリ、ウズラ繊維芽細胞の調製
ニワトリ繊維芽細胞(CEF)、ウズラ繊維芽細胞(QEF)は、以下のように調製した。
ニワトリ、ウズラ受精卵を孵卵器(昭和フランキ社製P−008型)内で5日間孵卵した(37.9℃、湿度65%)。胚を卵殻から取り出し、培養ディッシュに移して滅菌した0.1Mリン酸バッファー(pH7.4)にて洗浄し、頭部、羽、足、内臓をハサミで取り除いた。遠心管に胚組織を移し、0.25%トリプシン溶液(シグマ社製)2mLを加えて、ピペッティングを繰り返し、細胞を破砕、懸濁した。懸濁液を37℃で10分間インキュベートしたのち、ダルベッコ変法イーグル培地(インビトロジェン社製)を入れて反応を止め、1000rpm、5分間遠心して細胞を分離した。上清を捨て、再度ダルベッコ変法イーグル培地を加え、培養ディッシュに播種した。培養は37℃、5%CO環境で行った。
【実施例4】
【0054】
細胞種によるレンチウイルスベクター力価の違い
実施例2で調製したレンチウイルスベクターを培養細胞に導入し、発現したウイルス粒子のタイターを調べることにより細胞種によるレンチウイルスベクター感染力を調べた。
【0055】
細胞はHeLa(アメリカン・タイプ・カルチャーより入手)、NIH3T3(NIHswissマウス由来繊維芽細胞様細胞株、アメリカン・タイプ・カルチャーより入手)、実施例3で調製したCEF、QEFを1.5×10個播種し(ダルベッコ変法イーグル培地)、翌日ウイルスを含む培地に交換し、2日間培養し、上清中のウイルスタイターを実施例2の方法で検定した。
【0056】
同様にして、実施例2で作製したβ−ガラクトシダーゼ発現レンチウイルスを各細胞種に感染し、発現するβ−ガラクトシダーゼの活性を測定し、細胞種によるレンチウイルス感染性の指標とした。
【0057】
β−ガラクトシダーゼ活性測定は、以下のようにして行った。
培養細胞を0.25%トリプシン溶液(シグマ社製)処理し、1500rpmで10分間遠心して細胞を集めた。ペレットを0.1Mリン酸バッファー(pH7.5)にて洗浄し、0.8mLの反応バッファー(10mM KCl、1mM MgCl、0.1% Triton X−100(和光純薬工業製)、5mM 2−メルカプトエタノール(和光純薬工業製)、2mM リン酸バッファー(pH7.5))を加えて超音波破砕し、細胞液を得た。
0.6mLの細胞液を、37℃で8時間インキュベートし、あらかじめ暖めておいた4mg/mLのo−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)(シグマ社製)を0.1Mリン酸バッファー(pH7.5)に溶解した液0.1mLを添加した。反応後0.3mLの1M NaCO(和光純薬工業製)を加え、吸光度計にて420nmの波長強度を計測した。
β−ガラクトシダーゼの活性はONPGunitで表した(1unit:1μmolのo−ニトロフェノールが1分間に生成されるときの活性)。3回実験を行い、その平均値をβ−ガラクトシダーゼ活性とした。
β−ガラクトシダーゼを発現するレンチウイルスベクターを各細胞種に感染させ、生ずるウイルス粒子の力価を定量することで、細胞種によるレンチウイルス感染力を比較した。
【0058】
結果を表1に示す。表1において、Relative titerは、HeLaに感染したときのウイルスタイターを100とした時の、各細胞のタイターを示す。
【0059】
【表1】

【0060】
高いレンチウイルス感染性が確認されているヒト由来HeLa細胞と比較した相対的感染力を調べたところ、外皮タンパクをVSV−G化したレンチウイルスは、ニワトリ由来繊維芽細胞に対し、HeLaの約30%の感染力を示した。
【0061】
β−ガラクトシダーゼ発現レンチウイルスベクターを、様々なウイルス量で各細胞種に感染させ、導入された遺伝子に由来する酵素活性を調べた。これはレンチウイルス感染力と、遺伝子導入能力の指標である。結果を図2に示す。
VSV−G化レンチウイルスベクターは、ニワトリ繊維芽細胞に対し、HeLaの約1/2のβ−ガラクトシダーゼ活性を示した。
【0062】
レンチウイルスベクターが、鳥類細胞に感染した例は報告されていないが、外皮をVSV−G化することにより、HeLaと比較して1/2〜1/3の感染力で遺伝子を導入できることが確認された。
【実施例5】
【0063】
抗プリオンscFvFcとグリーン・フルオレッセン・プロテイン(GFP)発現ベクターコンストラクトpLenti/cDf−ΔAsPE−Wの調製
抗プリオンscFvFcとGFP発現ベクターコンストラクトpLenti/cDf−ΔAsPE−Wは以下のようにして作製した。我々が以前作製したコンストラクトpMSCV/GΔAscFv−Fc(WO2004/016081)より、NheIで切断しscFvFc領域を切り出し、pBluescriptKS(−)(ストラタジーン社製)のXbaIサイトに挿入してpBlue−scFvFcを作製した。このpBlue−scFvFcより、XbaI、NotIで切断しscFvFc領域を切り出し、pMSCV/GΔAscFv−Fcよりアクチンプロモーター領域をNotI、NheIで切り出しこの2断片をpBluescriptKS(−)のNotIサイトに同時に挿入し、pBlue−Pact−scFvFcを作製した。先述したpLenti6/TOPO−GFPよりGFP領域をSpeI、XbaIで切り出しpBluescriptKS(−)のSpeI、XbaIサイトに挿入してpBlueGFPを作製した。pMSCVpuro(クロンテック社製)よりPGKプロモーター領域をXhoI、PstIで切り出しpBlueGFPのXhoI、PstIサイトに挿入してpBlue−Ppgk−GFPを作製した。このpBlue−Ppgk−GFPからPGKプロモーター領域とGFPをXhoIで切り出し、再びpBluescriptKS(−)のXhoIサイトに挿入しpBlueXPpg−GFPを作製した。pBlueXPpg−GFPからPGKプロモーター領域とGFPをClaI、KpnIで切り出しpLenti6/TOPO−GFPのClaI、KpnIサイトに挿入しpLenti−PpgkGFPを作製した。GFPをエンハンスドGFP(EGFP)に代えるため、pIRES2−EGFP(クロンテック社製)をテンプレートとし、プライマーEGFPdirect(BamHI)5’−ATTGGATCCACACGATGATAATATGGCCAC−3’(配列番号9;下線はBamHIサイト)とプライマーEGFPreverse(KpnI)5’−ATTGGTACCAGGCCGCTTTACTTGTACAG−3’(配列番号10;下線はKpnIサイト)を用いてPCRによりEGFPを増幅した。増幅したPCR産物をBamHI、KpnIで切断しpLenti−PpgkGFPのBamHI、KpnIサイトに挿入し、pLenti−PpgkEGFPを作製した。pBlue−Pact−scFvFcよりアクチンプロモーターとscFvFc領域をClaIで切り出し、pLenti−PpgkEGFPのClaIサイトに挿入してpLenti−PactscFvFc−PpgkEGFPを作製した。central DNA flap(cDf)配列を挿入するためにpLP1(インビトロジェン社製)を鋳型としてプライマーcDfdirect 5’−ACGTCTAGAAGACAGCAGTACAAATGGCAGTATT−3’(配列番号11;下線はXbaIサイト)とプライマーcDfreverse 5’−AAGTCTAGACCAAACTGGATCTCTGCTGTCC−3’(配列番号12;下線はXbaIサイト)を用いてPCRによりcDfを増幅した。増幅したPCR産物をXbaIで切断し、pLenti/cDf−ΔAsPEを作製した。最後にWoodchuck Hepatitis Virus Posttranscriptional regulatory element(WPRE)をPCRで増幅するためにプライマーWPRE(direct KpnI)5’−ACCGGTACCAATCAACCTCTGGATTACAAA−3’(配列番号13;下線はKpnIサイト)とプライマーWPRE(reverse KpnI)5’−ATAGGTACCCAGGCGGGGAGGC−3’(配列番号14;下線はKpnIサイト)を用いて増幅した。この増幅した産物をKpnIで切断し、pLenti/cDf−ΔAsPEのKpnIサイトに挿入してpLenti/cDf−ΔAsPE−Wを作製した(図3)。
【実施例6】
【0064】
scFvFcおよびGFP発現G0トランスジェニックキメラニワトリの作製
まず、ウイルスベクターを実施例2記載の方法で調製した。調製したマーカーがGFPのウイルスベクターでのタイター測定は以下のように行った。測定の前日にHeLa細胞を直径24wellのディッシュに1.5×10細胞植え培養した。10から10倍に希釈したウイルス溶液を各ディッシュに1ml加え、48時間後に培地をPBSに代え蛍光顕微鏡によりGFP遺伝子を発現している細胞の割合を測定し、以下の計算式によりタイターを決定した。
ウイルスタイター=細胞数×希釈率×発現割合(cfu/ml)
このようにして調製したウイルスのタイターは2.2×10cfu/mlから7.7×10cfu/mlであった。
このウイルス溶液を特開2002−176880記載の方法により産卵直後のニワトリ胚に導入した。また、ウイルスベクターを導入したニワトリ胚の培養は特開2002−176880記載の方法により培養し孵化させてscFvFcおよびGFP遺伝子発現G0トランスジェニックキメラニワトリを作製した。
【実施例7】
【0065】
ELISA法による血清中のscFvFc濃度の測定
実施例6により作製されたG0トランスジェニックキメラニワトリを20〜40日飼育して雛を成長させた後、翼下静脈より採血を行い血液サンプルを得た。得られた血液を37℃で1時間インキュベートした後15,000rpmで5分遠心分離を行い上清を血清とした。PBSで希釈した抗Fc抗体(コスモバイオ社製)をELISAプレートに100μg/well入れ4℃で一晩静置した。PBS−0.05%Tween20溶液を200μlで各wellを3回洗浄した後、PBS−0.05%Tween20溶液−2%スキムミルクを150μl/well入れた。室温で2時間放置後、PBS−0.05%Tween20溶液を200μlで各wellを3回洗浄し、採取した血清サンプルを100μl入れ、室温で2時間放置した。その後、PBS−0.05%Tween20溶液を200μlで各wellを3回洗浄し、PBS−0.05%Tween20溶液で希釈したPeroxide(POD)標識抗ヒトFc抗体(コスモバイオ社製)を100μl/well入れ、室温で1時間放置した。PBS−0.05%Tween20溶液でwellを4回洗浄し、発色液(10mgのo−フェニレンジアミン(片山化学工業製)を1mlのメタノールに溶解し蒸留水で100mlとしたものに10μlの過酸化水素水(和光純薬工業製)を加えて調製した)100μlをwellに加えた。30分から1時間後、8M濃硫酸50μlをwellに添加して反応を止め、490nmの蛍光強度をプレートリーダーで測定し、標準検量線から濃度を計算した。この標準検量線の作製は、標準Fc(コスモバイオ社製)を用いて行った。
これにより測定した血清中のscFvFc濃度は表2に示した。
【0066】
【表2】

【0067】
このように外皮をVSV−G化したレンチウイルスベクターによって、ニワトリ受精卵初期胚に遺伝子を導入することにより、目的タンパクを発現するG0トランスジェニックキメラニワトリの作製が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の、外皮をVSV−G化したレンチウイルスベクター感染による鳥類受精卵初期胚を孵化することにより、G0トランスジェニックキメラ鳥類を作製することができる。
また本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法は、生理活性タンパク質、例えば医療用抗体の遺伝子を導入し、血中、卵中に抗体を効率的に発現することができる鳥類の作製を可能にする。更に本発明のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫を用いたタンパク質生産法は、例えば医療用抗体を産生するG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫を作製し、抗体を鳥類の血清、卵中から回収、精製することからなる、効率よい抗体生産を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】後述の実施例1で調製したβ−ガラクトシダーゼ発現ベクターコンストラクトpLenti6/CMV−lacZの構造を示す。Blasticidineはブラスチシジン耐性遺伝子を、Ampicilineはアンピシリン耐性遺伝子を示す。Ψはパッケージングシグナル配列を示す。CMVProはCMVプロモーター遺伝子を示す。LacZはβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子を示す。5‘LTR及び3’LTRΔU3はそれぞれCMVのロングターミナルリピート配列を示す。
【図2】細胞種によるβ−ガラクトシダーゼ活性を示す。横軸は、タイターが1.7±0.3×10cfu/mLのウイルスの添加液量を示す。縦軸はUnitで表されるβ−ガラクトシダーゼ活性を示す。Mockは対照を表す。
【図3】抗プリオンscFvFcとグリーン・フルオレッセン・プロテイン(GFP)発現ベクターコンストラクトpLenti/cDf−ΔAsPE−Wの構造を示す。blaはブラスチシジン耐性遺伝子を示す。Ψはパッケージングシグナル配列を示す。pactはニワトリβアクチンプロモーター遺伝子を示す。scFv−Fcは1本鎖抗体構造遺伝子を示す。EGFPはグルーン・フルオレッセン・プロテイン(GFP)構造遺伝子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皮タンパクがVSV−Gを含む、レンチウイルスベクター。
【請求項2】
複製能欠失型である、請求項1記載のベクター。
【請求項3】
さらに、異種遺伝子を含む、請求項1または2記載のベクター。
【請求項4】
該異種遺伝子が構造遺伝子を含む、請求項3記載のベクター。
【請求項5】
該異種遺伝子がさらにマーカー遺伝子を含む、請求項4記載のベクター。
【請求項6】
請求項1ないし3いずれか1項記載のベクターを鳥類宿主に感染させることよりなる、組み換え鳥類宿主。
【請求項7】
該ベクターが構造遺伝子を含む、請求項6記載の組み換え鳥類宿主。
【請求項8】
該鳥類宿主が受精卵初期胚である、請求項6または7記載の組み換え鳥類宿主。
【請求項9】
請求項1ないし3いずれか1項記載のベクターを感染させることよりなる、トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫。
【請求項10】
該ベクターが構造遺伝子を含む、請求項9記載のトランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫。
【請求項11】
請求項1ないし4いずれか1項記載のベクターを鳥類宿主に感染させることを含む、組み換え鳥類宿主の作製法。
【請求項12】
該鳥類宿主が、受精卵初期胚である、請求項11記載の作製法。
【請求項13】
外皮タンパクがVSV−Gを含むレンチウイルスベクターを鳥類受精卵初期胚に感染させ、およびその胚を孵化させることを含むG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項14】
レンチウイルスベクターが複製能欠失型である請求項13記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項15】
レンチウイルスベクターがHIV−1由来である請求項13または14記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項16】
レンチウイルスベクターにGFP遺伝子及び/又はLacZが組み込まれている請求項13〜15いずれか1項記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項17】
レンチウイルスベクターの感染時期が、胚盤葉期を除くそれ以降の時期である請求項13〜16のいずれか1項記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項18】
レンチウイルスベクターの感染個所が、初期胚心臓内あるいは血管内である請求項17記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項19】
レンチウイルスベクターの感染法がマイクロインジェクション法である請求項13〜18のいずれか1項記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項20】
鳥類がニワトリである請求項13〜19のいずれか1項記載のG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項21】
1×10cfu/mL以上のタイターをもつレンチウイルスベクターをインジェクションすることを特徴とする請求項13〜20のいずれか1項記載のG0トランスジェニック鳥類及びその子孫の作製法。
【請求項22】
請求項13〜21のいずれか1項記載の作製法で作製したG0トランスジェニックキメラ鳥類及びその子孫。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/021769
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513480(P2005−513480)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012388
【国際出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(598091860)財団法人名古屋産業科学研究所 (23)
【Fターム(参考)】